耳鳴に克つ
POINT
●耳鳴診療を得意とする耳鼻咽喉科医は少なく,約3割が苦手意識を持っている。
●耳鳴が治るとは耳鳴を克服することであり,治療の目標を医師と患者の共通認識とすることが大切である。
●耳鳴はムンテラで治すことができる(教育的カウンセリング)。
●耳鳴は補聴器で治すことができる(補聴器を使った音響療法)。
耳鳴の疫学と診断
POINT
●耳鳴の有病率は10〜15%である。
●難聴は耳鳴のリスク因子となる。
●耳鳴の重症度が高いほど,精神疾患の合併率が増加する。
●耳鳴の診断,重症度分類は,治療方針決定のために重要である。
脳の可塑性と耳鳴
POINT
●耳鳴の発端は末梢聴覚系の障害:蝸牛や聴神経の損傷により聴覚入力が減少し,聴覚中枢で脱抑制が生じ,異常な自発活動が誘発される。
●聴覚中枢および非聴覚領域の可塑的変化:一次聴覚野のトノトピー再編成に加え,扁桃体・海馬・前頭前野など非聴覚領域が関与し,耳鳴の知覚と苦痛が増幅される。
●脳ネットワークと神経振動の異常:default mode network(DMN)やattention networkの機能的結合の異常,α波減少やγ波増加などのリズム異常が耳鳴の持続・強化に関与する。
●治療への応用と将来展望:TRTや補聴器,認知行動療法,脳刺激療法などが脳の可塑性変化を標的とした治療法として有効であり,今後は個別化医療の発展が期待される。
耳鳴への薬物療法
POINT
●耳鳴を根本的に消失させる薬物治療は存在しない。
●TRT(tinnitus retraining therapy)の補助療法としてのベンゾジアゼピン系抗不安薬であるクロナゼパム0.25mgは短期的には55%の改善率を示した。
●クロナゼパムは保険適用外であるが,耳鳴苦痛度が高く睡眠障害・不安を認める症例に対する選択肢の1つとして考えてよいと思われる。
●使用にあたってはベンゾジアゼピン系抗不安薬の依存形成に十分注意する必要がある。
●聴覚異常感症に対する片頭痛予防薬や向精神薬の有効性についての報告がみられる。
難聴を伴う耳鳴への対応
POINT
●難聴を伴う慢性耳鳴には,音響療法として補聴器を活用したTRT(教育的カウンセリング+音響療法)の実践が必要である。
●慢性耳鳴患者に対しては,その苦痛や不安・疑問に十分に対応していくことが治療の基盤となることを忘れてはならない。
●教育的カウンセリングと補聴器を活用した聴覚リハビリテーションを継続することにより,治療効果が期待できる。
無難聴性耳鳴への対応
POINT
●多彩な疾患・病態の鑑別を必要とする。
●拍動性耳鳴では中枢血管系疾患の除外を優先する。
●7周波数以外に閾値障害の可能性がある。
●経過観察中に閾値障害が顕在化する例がある。
●無難聴性耳鳴は暫定診断であることを念頭に置いて診療する。
●治療の構成は一般の耳鳴治療に準じる。
拍動性耳鳴への対応
POINT
●拍動性耳鳴は音源が第三者にも聞くことができる他覚的な耳鳴である。
●音源が頭蓋内病変やグロームス腫瘍などの放置しては危険な疾患のこともあり,適切な検査を行う必要がある。
●診断にはCT,MRI以外にMRAを含めた画像診断を行うことが重要である。
●診断・治療の際には他科との連携が重要となる場合も少なくない。
小児における耳鳴への対応
POINT
●小児期の耳鳴は学習・情緒・社会性に影響しうる重要な問題であるため,適切な対応が求められる。
●小児の耳鳴は成人と同程度あるいはそれ以上に頻度が高い可能性がある。
●臨床的な耳鳴の評価は,心理的健康状態や学業などに関連する小児に特化した質問紙を使用することが望ましい。
●小児の耳鳴はカウンセリングや行動認知療法などで改善する例が多いと報告されている。
漢方医学からみた耳鳴への対応
POINT
●耳鳴は多因子性であり,漢方医学では全身状態や体質に基づく弁証論治が重要である。
●他分野(西洋医学,鍼灸,心理学など)との違いや連携可能性を意識する。
●患者一人ひとりの個別性・全身性アプローチの意義を強調する。
●西洋医学単独で難治の症例にも,統合医療の一環として漢方は補完的役割を果たす。
鍼灸師からみた耳鳴への対応—頸部や咬筋の筋触診から刺鍼部位の選定まで
POINT
●耳鳴患者の鍼灸臨床において,頸部や咬筋の触診にて圧痛や筋緊張を確認することが重要である。
●耳鳴に対する鍼灸治療の目的は,内耳への血流改善,自律神経;主に交感神経系の興奮の抑制,肩こり・頸部痛などの不定愁訴の軽減が目的である。
●鍼灸の治療部位は,頸肩部や咬筋部と手足の末梢部である。
●頸部の刺鍼により椎骨動脈周囲循環や椎骨動脈の血流に変化を与え,内耳の血流を促進させる。
公認心理師からみた耳鳴への対応
POINT
●公認心理師の耳鳴への対応には,心理アセスメント,心理カウンセリングや心理療法がある。
●心理アセスメントには,発症の背景要因,患者の置かれているライフステージや生活環境も含めた生物・心理・社会モデルからの理解が重要である。
●耳鳴患者の治療動機付けを見極め,それに沿った介入が重要である。
●耳鳴の心理療法などによる心理的介入では,患者自身の耳鳴に対する自己効力感を高めるための工夫により治療効果が期待できる。
再発性多発軟骨炎の1例
はじめに
再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis:RP)は全身の軟骨やプロテオグリカンを多量に含む組織が再発性かつ進行的に侵され,多彩な症状を呈するまれな慢性炎症性疾患であり1),本邦での指定難病にも登録されている2)。初発症状としては耳介軟骨炎が最も多く,そのほか気道,眼球,関節などにも生じる3)。頭頸部領域に症状を生じることが多いため,耳鼻咽喉科に最初に受診されることも少なくない。その発生頻度は低く症状も多彩であり,特異的な検査所見も存在しないため診断に苦慮する例もみられる。また,治療も確立されたものはなく,膠原病内科を中心に経験的な治療が行われているのが現状である。今回われわれは膠原病内科と連携して迅速に治療を開始しえたRPの症例を経験したため報告する。
経口的に摘出した舌骨分離腫の1例
はじめに
舌骨分離腫は舌に異所性に発生する骨性病変で,比較的まれな疾患である。本邦では54例の報告がされているにすぎない1)。英文論文の検索では100例の報告をみない2)。
舌骨分離腫は外来で局所麻酔下に摘出できることが多いが,発生部位により,絞扼反射を惹起し外来摘出が困難な場合がある。
今回,舌分界溝に発生した骨分離腫の治療を経験したため,文献的考察を加えて報告する。
聴覚障害者就労・就労継続支援に関するリモート指導手順書(試行版)の作成
はじめに
聴覚障害者の就労上の問題点として,4割近くが転職を経験しており,さらに転職経験者は2〜3回と複数回転職を繰り返していることが報告されている1)。転職の要因として,職場内での情報保障の不足や相互のコミュニケーション不足などが推察される。近年では,新生児聴覚スクリーニングによる難聴の早期発見やその後の補聴器や人工内耳による早期介入など,難聴児への療育や教育体制が比較的整備されているが,就労した聴覚障害者への支援体制については,環境整備が進んでいないのが現状である。さらに,別の調査では,企業側の7割近くが身体障害者の雇用上の課題があるとしており,企業側も支援を必要としている状況が明らかとなっている2)。
こうした現状を受けて,令和2年(2020年)度から3年間にわたり,日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)研究において「聴覚障害者の社会参加を促進するための手法に関する研究」(代表:九州大学耳鼻咽喉科 中川尚志教授)を実施した。研究開発計画の1つである「聴覚障害者の就労支援・就労継続支援」の研究では,聴覚障害者の職場環境の調査や整備を目的に,実際の現場での使用を想定した『聴覚障害者 就労・就労継続支援に関するチェックリスト(試行版)』を作成した。その作成過程で,聴覚障害者と職場の関係者,耳鼻咽喉科医師,産業医,言語聴覚士,認定補聴器技能者をオンラインで接続して,多職種連携ウェブ会議を試行的に実施した。このウェブ会議のなかでは,就労した当事者の具体的な困り感として,床面でハイヒールの音が響く,特に高音が人工内耳に入ってくると聞き取りに困難が出現する,などが明らかとなった3)。このように,当事者が抱える就労上の問題点が多くあるにもかかわらず,個々のケースに対応するのみで,対策については定まったマニュアルがないのが現状である。
上顎洞内に迷入した歯根に対し,Endoscopic Modified Medial Maxillectomyを行い摘出した1例
はじめに
上顎洞の下壁は,歯槽突起の底を形成しており,時に根尖端が上顎洞に露出することがある1)。歯科治療に関係する異物としては,上顎歯の抜歯時に歯根が上顎洞内に迷入する場合が最も多く2),特に第1大臼歯は圧倒的に多いと報告されている3)。近年施行されるようになったEndoscopic Modified Medial Maxillectomy(EMMM)は,上顎洞に対する術式であり,下鼻甲介や上顎洞内側壁,鼻涙管といった鼻腔形態を温存しつつ,上顎洞後壁や外側壁,前壁にもアプローチが可能であり,従来の内視鏡下鼻副鼻腔手術(Endoscopic Sinus Surgery:ESS)よりも広範囲の部位を処置できる4)。今回われわれは,上顎洞内に迷入した歯根に対し,EMMMを行い摘出した1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。
頸部多房性胸腺囊胞の1例
はじめに
頸部囊胞性腫瘤は日常診療において比較的よくみられるが,その鑑別は感染や良性疾患から悪性疾患まで多岐にわたる。しかし,身体所見や画像診断,術前の病理組織学的検索のみでは診断に至らないこともまれではない。今回われわれは,頸部囊胞性腫瘤に対して側頸囊胞やリンパ管囊腫を疑い手術を施行したが,手術病理にて頸部多房性胸腺囊胞(multilocular thymic cyst:MTC)と診断された症例を経験したため報告する。
原発性副甲状腺機能亢進症に対する手術治療の検討
はじめに
原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:PHPT)は,有病率が0.1%以上と推定される比較的頻度の高い内分泌疾患である。PHPTの原因疾患の多くは副甲状腺腫であり,副甲状腺癌は約1%とまれである1〜3)。副甲状腺癌は播種の危険性があるため,細胞診は原則禁忌とされ,悪性が疑われても術前に副甲状腺癌を診断することはしばしば困難である。今回,副甲状腺腫および副甲状腺癌の臨床的特徴を明らかにするとともに,当科におけるPHPT手術治療の効果について検討を行ったので報告する。
あとがき
早いもので,もう2025年の年の瀬ですね。皆さまにとって,どのような年でいらしたでしょうか。
医療業界にとっては,大学病院・公立病院や中小規模の病院を中心とした赤字病院の大幅拡大が話題になりました。報道などで報じられる額をみる限りでは,すぐには想像しがたい額の赤字が報道されていました。病院の存続が危ぶまれる事態ですが,「大学病院機能強化推進事業」という大学病院の経営基盤の充実を目的とした補正予算など,いくつかの病院支援策が講じられるようです。しかし根本的に,医療の「持続可能性」自体が問われている状況で,将来をしっかりと見据えた対策がとても重要だと思われます。