特集 腎癌という王都を落とせ—本丸奪還に挑む
印刷版ISSN:0385-2393
印刷版発行年月:2026年3月
腎細胞癌は多種多様な分子背景を有する複雑な疾患であり,2004年のWHO分類で12種類に分類されていた組織型が,2012年には16種類となり,2022年には21種類以上が定義されるに至っています.新たに追加された亜型には,その診断のために特殊抗体を用いる免疫染色やFISH(蛍光
また,同じ淡明細胞型腎細胞癌であっても,
Point
◆進行性腎細胞癌治療は免疫複合療法の登場により長期生存が実現しつつある.
◆遺伝子発現に基づく分子サブタイプ解析が治療反応性の理解を深めている.
◆今後は分子層別化に基づく個別化治療と精密医療の実現が期待される.
Point
◆進行性腎細胞癌に対する免疫チェックポイント阻害薬は標準治療となったが,臨床応用可能なバイオマーカーは確立されていない.
◆腫瘍内不均一性の克服に向け,単一細胞解析や空間トランスクリプトームなどの先端技術が導入されている.
◆新規バイオマーカーとしてTLS,HERV,腸内細菌叢,さらにctDNAやKIM-1などの末梢血バイオマーカーが注目される.
Point
◆COSMIC-313試験のサブ解析により,がん免疫を抑えるマクロファージが豊富な症例では,IO/IOへのカボザンチニブ上乗せによるOSの改善が示唆された.
◆Single-cell RNA-seqを用いた腫瘍微小環境の理解が進み,免疫抑制性マクロファージと腫瘍進展や転移,治療耐性との関連が注目されている.
Point
◆ベルズチファンの開発には基礎研究から臨床開発まで30年にわたる成果の積み重ねが不可欠であった.
◆LITESPARK-005試験で,ベルズチファンは淡明細胞型腎細胞癌のlate lineにおける臨床効果を証明した.
◆現在実施中の臨床試験において,さらに早いラインでのベルズチファンの効果に期待が持たれている.
Point
◆VHL病に伴う遺伝性淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)は,VHLが不活化することでHIF2αが蓄積し発がんに至る点で,孤発性ccRCCと同様である.
◆VHL病に伴う遺伝性ccRCCは同一患者内においても独立したクローンであり,免疫微小環境も腫瘍間不均一性が大きい.
◆HIF2α阻害薬はVHL病に伴う遺伝性ccRCCにおいて49%の奏効率を示し,腫瘍縮小効果を示す有効な治療法と考えられる.
Point
◆ベルズチファンの登場は,VHL関連腫瘍に対して初めて全身治療を可能とした.
◆VHL診療にあたり,ベルズチファンを適切な時期に使用することで,各臓器機能の維持が期待できる.
◆遺伝性腫瘍症候群の1つとして,ベルズチファンの使用時期の判断を含め,今後他科との連携がよりいっそう重要になる.
Point
◆フマル酸ヒドラターゼ(FH)の欠損による細胞内の代謝の変化はHIF-VEGF経路の活性化をはじめとした多彩な腫瘍化機構を獲得する.
◆FH欠損性腎細胞癌の薬剤選択には現段階でコンセンサスはない.複数のmolecular subtypeが存在する可能性があり,有効なアプローチも異なるはずである.
Point
◆TFE3再構成腎細胞癌は,融合TFE3により多様な転写制御異常を呈する非淡明細胞型腎癌である.
◆免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤の奏効率は低いが,ICI+チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)併用が高い奏効を示す.
◆希少がんである本疾患の病態解明と治療法確立には,多施設共同研究が不可欠である.
Point
◆透析腎癌の遺伝子異常はいまだ不明である.また,進行例に対する全身治療に関するエビデンスも限られている.
◆近年,透析腎癌の網羅的遺伝子解析研究が報告されており,徐々にその発生や進展に関わる遺伝子異常が明らかになってきている.
◆多数検体・症例を用いた腫瘍免疫微小環境を含めた包括的な遺伝子解析研究および全身治療に関する臨床研究が急務である.
Point
◆腎癌は組織型や悪性度などの多様性がきわめて高く,症例ごとに予後や最適な治療方針が異なる.
◆その多様性ゆえに,正確な組織診断や分子病態の把握が困難な場合も少なくない.
◆こうした課題に対し,遺伝子発現の症例横断的な比較が腎癌の分子層別化に有用であった.このような解析ツールの活用が精密医療の実現に寄与すると考えられる.
Point
◆腫瘍減量腎摘除術(CN)は“過去の遺物”ではなく,免疫チェックポイント阻害薬時代においても進化する全身療法と共存可能な治療戦略である.
◆Deferred CNは,全身療法反応例における免疫活性の最大化と不要な手術回避を両立する新たな治療概念である.
◆今後は分子層別化と免疫動態解析により,CNの最適な適応とタイミングを個別化する時代が到来するであろう.
Point
◆転移を有さない腎癌の標準治療は外科的切除であるが,20〜30%の症例において術後に転移・再発を来す.
◆腎癌術後再発のリスク因子として,臨床病期,CRPをはじめとする血清マーカー,gradeおよび腫瘍壊死などの病理組織学的因子,主要な遺伝子バリアントに代表される分子生物学的因子が知られている.
◆KEYNOTE-564試験により,再発リスクの高い腎細胞癌に対してペムブロリズマブによる術後補助療法が新たな治療選択肢となったが,そのリスク・ベネフィットのバランスを最適化するため,さらなる再発リスクの層別化が求められる.
◆淡明細胞型腎細胞癌において,腎実質浸潤進展は根治術後再発リスクと強く関連する.
Point
◆高齢者では暦年齢ではなくCGA・G8による生物学的年齢評価が治療選択のためには重要である.
◆免疫チェックポイント阻害薬(IO)-IO/IO-チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)併用療法は高齢者でも有効性・安全性はおおむね維持され,減量や中断により継続が可能である.
◆QOLと毒性管理を重視し,過剰治療と過小治療を回避する多職種連携が鍵となる.
2022年6月某日,ある女性患者さんが尿道バルーンカテーテルのカフが抜けず難渋していると電話で訴えてきた.この患者さんは,脊髄障害による完全対麻痺で清潔間欠自己導尿に加え就寝・外出時などに便宜的に自己でバルーンカテーテルを留置・抜去していた.そのため外来受診時には間欠留置用に通常のバルーンカテーテルも定期的に処方されていた.カルテ記載では2022年初頭より患者より「バルーンのカフがうまく抜けない」との訴えがあり,その時点では手技的問題と推定し外来看護師が扱いの指導を何度か行っていた.
訴え当日は,電話で「インフレーションバルブにシリンジを接合したまま経過をみる」ことを指示した.幸い数時間後に「なんとか抜けました」との連絡があったが,原因究明目的に次回受診時に当該カテーテルを持参いただくようにお願いした.
2025年度,42の国立大学病院のうち33病院が赤字経営で,損益は合わせて400億円を超えることが見込まれているようです.物価高騰や人件費の増加などによるこの病院経営の著しい悪化に伴い,昨年末に2026年度2.41%,2027年度3.77%の診療報酬本体引き上げが行われることが発表されました.
一方近年,主に“外資系”会社が開発した高額な医薬品や医療機器などによる医療費の増大も大きな問題となっています.2023年に調査された製薬企業の国籍別医薬品数を見てみると,医薬品世界売上高上位100品目のうち,日本企業が製造する医薬品はわずか8品目にすぎません.今回の診療報酬改定では,薬価については0.86%の引き下げが行われるようですが,逆に製薬企業の収益が低下し,もともと研究開発費が外資系に比べ少ないわが国の製薬企業の国際競争力が,さらに弱体化することが懸念されます.日本の製薬企業にはさらなる奮起を期待したいところです.