腎細胞癌は多種多様な分子背景を有する複雑な疾患であり,2004年のWHO分類で12種類に分類されていた組織型が,2012年には16種類となり,2022年には21種類以上が定義されるに至っています.新たに追加された亜型には,その診断のために特殊抗体を用いる免疫染色やFISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)法を含めた複雑なアッセイ法を必要とするものが多く,さらには世界有数の腎癌専門病理医の高度な診断技術をもってしても分類不能型と診断せざるを得ない症例が存在します.
また,同じ淡明細胞型腎細胞癌であっても,VHL遺伝子に加えて変異の起きているクロマチン再構成遺伝子がBAP1であるかPBRM1であるか,あるいはCDKN2A変異の有無によっても,腫瘍の悪性度が大きく異なることがわかっており,これらの変異プロファイリングは薬剤選択における指標となる可能性が示唆されています.一方で,実臨床ではゲノムパネル検査において鍵となるドライバー遺伝子変異が同定されない場合も多く,上述の複雑な病理診断や既存のゲノムパネル検査を補助する新規の診断モダリティーの開発は,現在の腎癌診療における最大のアンメットメディカルニーズの1つと言えます.
本特集では,腎癌薬物療法の最適化をテーマに,腎細胞癌の多様な分子背景,薬剤選択における考え方,治療効果を予測するためのバイオマーカー,腫瘍減量手術の役割,高齢者における薬物療法,免疫療法の将来展望,術後の補助療法といった幅広いトピックを取り上げております.腎癌診療に携わる多くの先生方にとって,本特集が日常診療の一助となることを願っております.
横浜市立大学 泌尿器科学
蓮見壽史