BRAIN and NERVE 77巻 10号 (2025年10月発行)

特集 脳神経内科と睡眠医学

電子版ISSN:1344-8129
印刷版ISSN:1881-6096
印刷版発行年月:2025年10月
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特集 脳神経内科と睡眠医学

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1045
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睡眠は脳の健康と機能に密接に関わっており,近年では睡眠障害と神経疾患の双方向的な関係性が明らかになってきた。レム睡眠を制御する神経回路をはじめ,認知症や脳血管障害,自己免疫性脳炎など,睡眠と神経疾患の接点は多岐にわたる。本特集では,こうした最新の知見を紹介し,診断・評価法から治療戦略まで臨床に役立つ情報を網羅する。日本では睡眠医学を専門とする脳神経内科医はまだ少ないが,本特集がその重要性を再認識する契機となり,診療の幅を広げる一助となることを期待したい。

【鼎談】睡眠医学の診療と教育

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1047-1052
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睡眠医学の重要性と脳神経内科との関連

下畑 近年,睡眠医学の重要性がますます高まっています。しかし,脳神経内科の立場からみると,実臨床において専門的なアプローチが必ずしも十分ではないという現状も感じています。本日は「睡眠医学の診療と教育」をテーマとして,現状を整理し,今後の課題について議論したいと思います。まず,鈴木先生に睡眠医学の現状とその重要性について伺います。

鈴木 脳神経内科医の間では睡眠医学に関する啓発が十分ではないというのが現状です。関心は高いものの,知識が不十分であるという声も多く聞かれます。神経疾患では多くのケースで睡眠障害が合併するため,睡眠障害の種類や治療の知識は患者さんのQOLに大きく関わります。したがって,脳神経内科においても睡眠医学は極めて重要だと考えています。

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レム睡眠は「活発な脳」と「動かない身体」を特徴とし,その制御破綻はナルコレプシーやレム睡眠行動障害などの疾患に関与する。本論では,まずレム睡眠の基本について解説したのち,扁桃体のドーパミン信号によるレム睡眠開始機構と,延髄の抑制性経路による筋アトニア発生のメカニズムを紹介し,これらの回路の統合的理解が睡眠関連疾患の病態解明と将来の治療戦略に貢献する可能性を論じる。

睡眠と脳脊髄液

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1059-1064
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脳老廃物の除去機構であるグリンパティックシステムの発見を契機に,アルツハイマー病を含む神経疾患と睡眠との関係に注目が集まっている。最近の研究から,グリンパティックシステムの作動機序が解明されたが,老廃物の除去機構がどの程度加齢や疾患発症において寄与するのか,また予防・早期治療介入の可能性など,未知な部分が多い。

知っておくべき睡眠関連疾患の評価法

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1065-1070
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睡眠関連疾患の診療で用いられる自己記入式ツールや睡眠関連検査について概説した。実際の現場では,患者の主訴に対して考えられる要因を複数ピックアップしたうえで,最適な評価法を選択する。それぞれの評価法には長所と短所があり,それらを踏まえて結果を解釈する必要がある。特に簡便とされる評価法ほど睡眠生理全般や検査機器特性の知識がリテラシーとして求められる。

認知症と睡眠—双方向的関係について

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1071-1077
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睡眠覚醒は脳内の多くの睡眠系/覚醒系神経核群および生物時計(視交叉上核)により調節されている。認知症ではこれら神経核群やその投射路が集中する脳幹,視床下部,視床などに器質障害が生じるため,重篤な夜間不眠,過眠,不規則な睡眠・覚醒時間パターンが認められる。数多くのコホート研究が,睡眠の質の低下や過眠などの睡眠変化が認知症の発症に先行する早期徴候,発症リスク要因である可能性を強く示している。これまで,睡眠変化が認知症リスクを高める神経病理は不明であったが,グリンパティックシステムの発見とAβクリアランスとの関連についての研究の進展によりミッシングリンクも解明されつつある。

自己免疫性脳炎と睡眠障害

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1079-1085
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自己免疫性脳炎では多彩な睡眠障害が生じる。抗NMDAR脳炎では急性期には不眠症を,回復期には過眠症やconfusional arousalを認める。抗LGI1脳炎や抗CASPR2脳炎で生じるMorvan症候群では,各睡眠段階の区別が曖昧となり,status dissociatusやagrypnia excitataを呈する。IgLON5抗体関連疾患では睡眠時パラソムニアのほか,睡眠時無呼吸や吸気性喘鳴をきたし突然死に至る例もある。視神経脊髄炎スペクトラム障害や抗Ma2脳炎では視床下部病変によりナルコレプシーを呈することがあり,オレキシン欠乏の関与が示唆されている。

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閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と脳血管障害(CVD)は双方向的な関係にある。OSAは脳卒中の独立した危険因子であり,メタ解析では脳卒中発症リスクを2.24倍高めることが示されている。一方,脳卒中後のOSA有病率は50〜70%と極めて高く,機能予後と生命予後を悪化させる。持続的陽圧呼吸療法(CPAP)は脳卒中急性期の神経症状改善に有効だが,脳卒中予防効果は限定的である。急性期脳卒中患者の特殊性からOSAが見逃されることがあるが,今後,脳神経内科医と睡眠呼吸専門医の連携強化により,系統的評価体制の確立が必要である。

多系統萎縮症と睡眠関連呼吸障害

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1095-1099
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多系統萎縮症(MSA)は,パーキンソン症状,小脳症状など多系統に障害する孤発性進行性神経変性疾患である。閉塞性や中枢性睡眠時無呼吸,睡眠関連低換気や喘鳴を生じ,経時的に病型の変遷や重症度の変化をきたす。また,突然死を生じる原因とも考えられ,その合併の評価や治療がMSA管理のうえで重要である。しかし確立した治療法はなく,患者ごとに,持続陽圧呼吸療法(CPAP)や気管切開などの治療が試みられている。

*本論文中に掲載されている二次元コード部分をクリックすると,関連する動画を視聴することができます(公開期間:2028年10月31日まで公開)。

神経疾患と特発性レム睡眠行動異常症

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1101-1104
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特発性レム睡眠行動異常症(iRBD)は,α-シヌクレイノパチーの前駆状態であり,約70%が10年以内にパーキンソン病やレビー小体型認知症へ進展する。近年,DaT-SPECTや脳脊髄液中α-シヌクレイン,アミロイドβ42,機能的MRIなどのバイオマーカーがフェノコンバージョン予測に有望とされ,早期診断と治療介入の鍵を握る。

レム睡眠行動障害以外の睡眠時随伴症

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1105-1110
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睡眠時随伴症は睡眠中の望ましくない身体現象で,ノンレム関連睡眠時随伴症,レム関連睡眠時随伴症,その他の睡眠時随伴症に大別される。ノンレム関連睡眠時随伴症には錯乱性覚醒,睡眠時遊行症,睡眠時驚愕症,睡眠関連摂食障害がある。レム関連睡眠時随伴症にはレム睡眠行動障害以外に反復性孤発性睡眠麻痺,悪夢障害がある。その他の睡眠時随伴症は頭内爆発音症候群,睡眠関連幻覚,睡眠時遺尿症がある。詳細な問診と睡眠ポリグラフ検査で診断を行う。

レストレスレッグス症候群

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1111-1115
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レストレスレッグス症候群(RLS)は,下肢の不快感と運動衝動を特徴とする感覚運動障害で,睡眠障害の原因となる。欧米と比してアジアでは有病率が低いが,それでも頻度が高く,脳内鉄代謝異常やドパミン機能障害がその病態に関与する。治療は,鉄補充,生活指導,薬物療法(ドパミン作動薬,α2δリガンド)を基本としaugmentationへの対応も重要である。本論では,2024年に公表された日本神経治療学会の診療ガイドラインに基づき,RLSの疫学,診断,病態,治療戦略について概説する。

ナルコレプシーの病態機序

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1117-1120
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ナルコレプシーとは日中の著しい眠気を主症状とする疾患であり,随伴症状として情動脱力発作,入眠時幻覚,睡眠麻痺,夜間睡眠の分断がある。ナルコレプシーはタイプ1・タイプ2に分類される。タイプ1はオレキシン神経細胞の消失によって引き起こされるが,タイプ2の病態生理は明らかになっていない。根治療法は存在せず対症療法のみが行われている。近年オレキシン受容体作動薬の開発が進んでおり,治験段階にある。

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ナルコレプシーはオレキシン系障害により日中の過度の眠気(EDS),情動脱力発作,睡眠麻痺や入眠時幻覚をきたす代表的な中枢性過眠症である。症候性ナルコレプシーでは関連する神経疾患や脳病変により,持続するEDSおよびレム睡眠関連症状を呈する。神経免疫疾患をはじめとした神経疾患による視床下部病変は症候性ナルコレプシーをきたす。本論では神経疾患に関連した症候性ナルコレプシーおよびEDSに関して解説する。

総説
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超高齢社会において,認知症,中でもその約3分の2を占めるアルツハイマー型認知症の対策は社会的・経済的観点からも重要な課題である。患者からのアミロイドβ単離から40年,アミロイドカスケード仮説の提唱から30年が経過し,同仮説に基づいた抗体薬が出現したことにより,アルツハイマー病治療の新時代が到来した。本論では,アルツハイマー病に対する抗アミロイドβ抗体治療におけるアミロイドプラーク除去の意義を概説する。

連載 日本人が貢献した認知症研究の足跡・7

地域に根ざした認知症研究

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1137-1140
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はじめに

 東北大学教授 目黒謙一先生は,長年にわたり認知症医療の発展に貢献され,病気療養中の2023年秋に逝去された。目黒先生の偉大なご功績に深く敬意を表し,心から哀悼の意を表する。喪失感は大きく,いまだに時間が止まっているように感じている。

 目黒先生に初めてお会いしたのは,1998年春,山鳥重教授の東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学講座の研究室であった。当時,目黒先生は助手をされており,私は大学院生だった。それから約25年半にわたり,目黒先生のご指導を受けながら研究・臨床・教育活動を行ってきた。

 目黒先生は,2005年11月に東北大学大学院医学系研究科に設置された高齢者高次脳医学寄附講座教授に就任され,以来,18年近く研究室を統括された。2014年4月に同サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター(CYRIC)高齢者高次脳医学寄附研究部門教授,2019年4月に同未来科学技術共同研究センター(NICHe)高齢者高次脳医学研究プロジェクト教授を歴任された。「高齢者高次脳医学(Geriatric Behavioral Neurology)」は,目黒先生が考案された名称である。研究室の開設時からの目標は,「脳科学に基づく地域における認知症対策」であり,目黒先生はこの目標を実践されてきた。

 目黒先生は,数多くの優れた研究業績を積み重ねてこられた。また著書も多く,論理的な文章の随所に,認知症の地域医療への情熱が感じられる1-8)。目黒先生は,宮城県大崎市田尻地区の保健医療福祉の統合型施設,スキップセンターで所長を務められ,認知症医療学の実践と認知症対策の組織改革についてのご経験を著書にまとめられた5)。また,東日本大震災の復興支援活動を行い,その活動を著書にまとめられた6)。また,大学院講義としてInternational Post-Graduate Program in Human Security(Health Resilience in Aging Society)をご担当され,講義内容を教科書として出版された7)

 目黒先生は国際的な研究活動も多く,フランス国立衛生医学研究所・CYCERON(PETセンター),ブラジル・サンパウロ大学医学部神経内科,米国・ワシントン大学アルツハイマー病研究センター神経内科に留学された。ブラジルでは,ブラジル在住の日本人移民高齢者を対象に医療協力調査として認知症調査を実施した4,9,10)。目黒先生は,臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating:CDR)を開発したJohn C. Morrisワシントン大学教授と親交があり,CDRワークシートの日本語訳を作成する許可を得て,CDR解説の書籍を出版された1,3)(Fig. 1)。目黒先生は軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)の概念について,地域調査では狭義の健忘型MCI11)に該当する高齢者は少ないことを指摘し,認知症の予後予測には健常と認知症の境界領域であるCDR 0.5の評価が有用であることを示唆された1,12)

 また,台湾やアジアの認知症研究グループと長年の親交があり,日本台湾認知症研究会を日本と台湾で定期的に開催し,共同研究やアジア認知症学会(Asian Society Against Dementia:ASAD)の活動を行い,台湾からの留学生の研究を指導された。コロナ禍の2021年11月に仙台で開催された第15回アジア認知症学会国際学術大会(The 15th International Congress of the Asian Society Against Dementia)では,目黒先生が大会長となり,高齢者高次脳医学の研究室が主催事務局となった8)

 本論では,「地域に根ざした認知症研究」をテーマに,地域調査による認知症対策,心理社会的介入の試み,認知症のQOLの新たな概念について,目黒先生の数多くの研究成果の中から,その一部を紹介する。

連載 原著・過去の論文から学ぶ・17

AIと脳の比較研究のさきがけ

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1141-1144
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Zipser D, Andersen RA: A back-propagation programmed network that simulates response properties of a subset of posterior parietal neurons. Nature 331: 679-684, 1988

 私が医学部の学生だった1980年代は「第二次AIブーム」と呼ばれる時代だった。当時の東京大学医学部では小脳の伊藤正男先生,工学部では神経回路網の甘利俊一先生が教鞭を執られていた。そのような恵まれた環境の中で,私はいつか脳の高次機能を人工神経回路の数理モデルで腑に落ちるように説明したいと願うようになり,医学部を卒業すると,そのまま大学院に進学した。

 私が大学院2年のとき,1988年に出版されたのがZipser and Andersenの論文1)である。私は,僭越にも「やられた」と思い,研究室のセミナーでその内容を紹介した。ひと言でいうと,3層の人工神経回路の中間層のニューロンの受容野と,サルの頭頂葉のニューロンの受容野特性を比較した論文である。

書評
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 本書は,従来の身体診察の教科書とは一線を画す,“身体診察の決定版”とも呼ぶべき渾身の一冊である。各臓器別(循環器系,呼吸器系,筋骨格系,神経系など)に分類された診察手技について,診療に必要な基本的な方法が正確かつ極めて丁寧に記載されているのはもちろんのこと,さらに,臨床的には有用と耳にしたことはあっても,これまで実際の診察方法について十分に記述されてこなかったような,ややマニアックな手技に関しても,明瞭なカラー写真や図解を交えて詳細かつ実践的に解説されている。身体診察に関する書籍は数多く存在するが,ここまで系統的かつ網羅的に,そして現場の臨床家の目線に立って記述されたものは極めてまれである。

 本書のもう一つの大きな魅力は,Web上からアクセス可能な多数の動画が用意されている点である。重要な診察手技については,紙面での理解を補完するように,実際の動作を視覚的に確認できる動画が付属しており,学習効果を飛躍的に高めている。中には音声解説付きの動画もあり,まるで熟練の臨床医がそばで直接指導してくれているかのような臨場感と安心感の中で学ぶことができる。

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 精神疾患について,「発達メガネ」や「トラウマメガネ」をかけて,「生活のなかで困っていること」への「反応性と考える」。そうした「素朴な心因論」に基づき,「ねぎらうことの大切さ」を心掛けて「やわらかく治す」。そのような精神科診療を,数多くの症例に基づいて身近に学べる本である。

 「何かの出来事が原因のように見えても「(中略)」本質的には脳の失調,脳に主な原因がある」と若いころに教えられた世代にとっては,精神疾患の見方に根本転換を求められることになる。しかしそれは古き心因論の復権ではなく,精神医学の進歩を踏まえたより精緻な心因論である。そこでのキーワードは,発達症とトラウマの相互作用「発達⇄トラウマ」である。

目次

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1043

欧文目次

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1044

次号予告

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1151

あとがき

77巻10号 , 2025年10月 , pp.1152
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 私は数年前に,パリ市内のロダン美術館に行ったことがある。元々は,18世紀に建てられたロココ様式の美しい館だったが,20世紀初めにはアパルトマンとなり,オーギュスト・ロダンが気に入って晩年のアトリエ兼住居とした。フランス政府がその地所を買い上げるときに,ロダンが自分の作品と美術コレクションを遺贈することで,国立の美術館として生まれ変わった。ゴッホの代表作である《タンギー爺さん》も,その代表的なコレクションだ。

 数々の見事なブロンズ像や塑像の中で,今なお忘れられない作品がある。《大聖堂 La Cathédrale》と名づけられた高さ60cmほどの石灰石の彫像だ。一見するとアルブレヒト・デューラーの《祈る手》を大きくしたように見える。しかし,手のひらの間が妙に空いており,手首より下が交差している。気づけば,どちらの手も右手なのだ。二人の右手どうしが交錯して,ちょうど触れ合う瞬間を活写したようでもある。