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BRAIN and NERVE 78巻3号 (2026年3月発行)
書評
「臨床医のためのライフハック—「診療・研究・教育」がガラッと変わる時間術」—中島 啓【著】
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山本 健人 1
1京都大学医学部附属病院消化管外科
pp.284 , 発行年月 2026年3月

 この書評を書くにあたり,最初に断っておきたいことがある。
 タイトルにある「ライフハック」という,一見ありきたりなワーディングに決して騙されてはいけない。よく見るライフハック本とは一線を画し,仕事の時短術や生活の知恵,裏技のような単なるテクニック集とは程遠い高みにある。本書の正体は,著者の圧倒的なインプットに裏付けられた,究極のナラティブレビューである。書店の話題書コーナーでよく見かけるビジネス書や自己啓発本の「医師向けバージョン」だと侮ってはいけない。
 「ナラティブレビュー」と書いたのは,それが医師にとって,一つの発信の形態を表すなじみ深い言葉だと思うからである。というのも本書では,キャリア論や学習法,発信,教育,組織論と多岐にわたるテーマにおいて,全39冊もの書籍が紹介され,それらを出典として引用しながら,医師に必要な知識が体系的に整理されている。著者はおそらくこの数十倍の書籍を読んでいるはずで,中でも選りすぐりの作品を選び,大事なエッセンスを抽出して展開しているのだろう。この本を読むことそのものが,各分野のオピニオンリーダーの脳内を「時短」的にのぞき見て,血肉にできるという点で紛れもない「ハック」である。
 むろん本書は単なるレビューにとどまらず,39歳の若さでリーダーとなった著者の豊富な経験で絶妙に味付けされているために,唯一無二の作品となっている。誇張抜きに,「この類の」(とあえて書く)作品の中では,群を抜いて後輩に勧めたい書籍である。
 また私が感じた本書の優れた点は,著者の豊かな人柄,多様性を重んじる寛大さが随所に表れていることである。一般的に「ハック」をうたうビジネス書は,ともすると著者の強い思想や揺るぎない信念が読者に「圧」となって迫るものが多い。この種の本は得てして相性があり,「刺さる人には刺さる」一方,読者を選ぶ作品が多いと感じる。またその「圧」は一時的には読者の心を動かすのだが,その実,特段の行動変容につながらないケースも少なくない。
 ところが本書は,「人によって合う合わないがあると思います」として読者に寄り添い,持論から導いた「ハック」を決して読者に押し付けない姿勢を貫いている。読者は,著者から与えられる豊富な情報から自分に合うものを選び取り,自身の人生を自分仕様に豊かにすればよい。そういう著者の優しさが心地よいのである。
 なお本書は,医療界ではなじみの薄い用語を多種多様に紹介してくれる。バッチ処理,MECE,VUCA,グロースマインドセット。「知らない」と思った人は,必ず本書を読んだほうがいい。「言われてみればそうだ」と思えるような,日頃出合う困難やその解決策,うまく言語化しづらい感情や事象にも実は「名前がついている」と知り,そのタームを使えるだけでも思考は断然はかどるからである。私自身,「名付け」は問題解決の効率性を高めるツールだと日々感じているが,それが本書を読めばよく実感できると思う。
 特に若手の医師は,キャリアの早いうちに本書を読み,人生設計に活かしてほしい。その上で引用元の書籍を読み,さらに関心を広げるのがお勧めである。

 


A5・200頁
2025年12月
定価:3,850円
(本体3,500円+税10%)
[ISBN978-4-260-06243-5]
医学書院刊

BRAIN AND NERVE 78巻3号 2026年3月 pp.207-210
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