本研究は,オミクロン株BA.2およびBA.5感染例15万超を解析し,ワクチン接種歴と症状の関連を検討した。BA.5感染ではBA.2より全身症状が多く,3回以上のワクチン接種者では全身症状が減少し,上気道症状が増加した。高齢者では全身症状が重症化の予測因子であり,症状に基づくリスク評価が重要である。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)において,オミクロン株の台頭により臨床症状の特徴は大きく変化している。特に,ワクチン接種や既往感染による免疫獲得に伴い,症状の出現様式や重症化リスクが従来株とは異なることが指摘されている1-3)。2022年には日本国内でオミクロン株亜系統BA.2およびBA.5が流行したが,本研究ではこれら2亜系統のCOVID-19症例を対象に,症状の頻度と分布,およびワクチン接種歴など宿主免疫状態との関連を検討した4)。
■COVID-19有症状患者データの解析
札幌市のWeb報告システムに自己登録されたCOVID-19有症状患者データ(2022年4-9月)計157, 861例を解析した。対象は検査で陽性と確認された有症状者および同居家族内感染に伴う発症例である。症状やワクチン接種歴,感染歴などの情報を基に症状頻度および重症化リスクとの関連を解析した。解析対象のオミクロン感染者で最も頻度が高かった症状は咳嗽(62. 7%)で,次いで咽頭痛(60. 7%),鼻汁(44. 3%),発熱(38. 8%)が報告された(図1)。オミクロン株では上気道症状が全身症状よりも一般的で,従来株流行期と比べ症状出現パターンが変化したことが示唆される2)。また,BA.5感染例はBA.2感染例より症状全体の出現頻度が高く,特に発熱や倦怠感など全身症状の出現頻度が有意に高かった。実際,BA.5感染ではBA.2感染に比べ発熱のオッズ比(OR)が約2. 18と倍増していた。
図1 BA.2およびBA.5流行期におけるCOVID-19感染者が報告した各症状の頻度
■ワクチン接種回数と症状の関係
ワクチン接種回数と症状の関係では,接種歴が症状プロファイルに大きく影響していた。接種歴に基づき症例を“3回以上接種”と“2回以下接種”に二分して比較すると,3回以上接種群では発熱,食欲低下,倦怠感,筋肉痛,下痢といった全身症状の頻度が有意に低下していた。例えば発熱の発現ORは3回以上接種群で0. 50と,2回以下接種群に比し約半分であった。一方,3回以上接種群では咳嗽,咽頭痛,鼻汁など上気道症状の頻度が有意に高かった(咽頭痛のOR1. 33,鼻汁のOR1. 84)(図2)。なお,COVID-19既感染者でも同様の傾向が認められた。重症化との関連では年齢による差異もみられた。高齢者(65歳以上)は若年層より症状出現が少なかったが,いったん症状を呈した高齢患者ではその症状の種類が重症化の予測因子となった。具体的には,高齢者で呼吸困難(重症化OR約3. 0)や発熱(同約2. 9)など全身症状がみられる場合に重症化リスクが有意に上昇し,一方で咽頭痛や鼻汁など上気道症状のみの場合には重症化リスクが低下した(咽頭痛の重症化OR0. 39など)。また,ワクチン接種および既感染による免疫獲得は重症化予防に寄与し,ブースター接種群では重症化症例の割合が低かった。本研究はオミクロン期における症状プロファイルの変化と宿主免疫状態の影響を示した最新の知見であり,今後の臨床および公衆衛生上の指針として重要である。
■おわりに
BA.5亜系統はBA.2よりも症状が重く,ワクチン追加接種や既感染による免疫は全身症状の発現を抑え重症化を予防する一方で,上気道症状の比率を高めることが明らかになった。これらの結果はブースター接種によりCOVID-19の臨床像がより“かぜ様”になる可能性を示し,ワクチンは重症化だけでなく症状の質にも影響を与えることを示唆している。更に高齢患者では症状の種類が重症化リスクを左右する可能性が示されたことから,例えば上気道症状のみの場合は経過観察としつつ,呼吸困難や高熱など全身症状を認める場合には早期の医療介入を検討するなど,症状に基づくリスク層別化が有用と考えられる。これらの知見は,オミクロン流行下で患者の免疫状態と症状プロファイルを踏まえた対応の重要性を示唆するものである。