本邦は急速な高齢化に伴い,認知症患者数が増加の一途をたどっています.現在,国内の認知症患者は約700万人と推定され,さらなる増加が予想されています.また,認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)が治療対象となり,潜在的な患者数はさらに増大することが見込まれます.MCIは治療介入の重要なターゲットであり,早期発見と適切な治療が今後の課題となっています.このような背景のなか,認知症診療における早期診断の重要性はこれまで以上に高まっています.
特にアルツハイマー病においては,抗アミロイドβ 抗体薬の登場が診療の転換点となりました.この新薬の上市により,病初期段階での診断の精度向上が求められており,病態理解や適切な治療方針の選択がこれまで以上に重要となっています.脳画像診断や髄液・血液検査の技術的進歩は,早期発見・診断に大きく貢献しており,こうした技術を駆使するための専門的知識と経験が必要とされます.
脳神経外科医は,脳血管障害,脳腫瘍,頭部外傷などに対する診療を通じ,脳画像診断や脳の構造的理解,さらには脳血管障害の治療において優れた専門性を有しています.こうした能力は,認知症診療においても極めて有用であり,特に抗アミロイド抗体薬の副作用である,アミロイド関連画像異常の診断,治療において重要な役割を果たします.
そこで本特集では,認知症診療に必要な基礎知識を再確認し,脳血管障害,脳腫瘍,頭部外傷といった,脳神経外科の専門性から導かれる認知症に関する新たな知見やアプローチを紹介します.これによって,脳神経外科医が認知症診療に興味をもち,新たな診療領域への挑戦の契機となることを期待しています.
医療の進展とともに,多様化する患者ニーズに応えるため,認知症診療の重要性を認識し,積極的に関わることは大変意義深いものです.本特集が,本邦の認知症診療における脳神経外科医の新たな可能性を切り拓く一助となることを願っています.
中根 一
帝京大学医学部附属溝口病院脳神経外科