循環器治療はこの数十年で飛躍的な進歩を遂げ,薬物療法も例外ではありません.近年の分子標的薬や生物学的製剤の登場,さらにはSGLT2阻害薬に代表される多機能薬剤の登場により,私たちの処方戦略はより複雑かつ精緻なものとなりました.エビデンスに裏打ちされたガイドラインの更新は日進月歩であり,これを臨床の現場に即した形でどう活かすかが,今まさに問われています.一方で,多様な患者背景,合併症,加齢に伴う身体的・社会的課題などを前に,医師の“さじ加減”や“処方哲学”が改めて見直されています.
こうした背景のもと,本特集では「令和時代の循環器薬の使い方―処方の意図と治療戦略」と題し,各専門領域の第一線で活躍される先生方にご執筆をお願いしました.虚血性心疾患,不整脈,心不全・心筋症,腫瘍循環器,そして高齢社会や補完代替医療(CAM)としての漢方薬まで,全5章・20テーマにわたり,多様な観点から現代の薬物療法を総覧します.
注目すべきは,従来は周縁的とされていたテーマの積極的な取り上げです.例えば,がん治療に伴う心毒性,免疫チェックポイント阻害薬による心筋炎,在宅医療におけるカテコラミン使用,そして浮腫に対する漢方薬など,多くの読者にとって新鮮かつ示唆に富む内容が並んでいます.さらに,DOACや抗不整脈薬といった使用頻度の高い薬剤についても,最新の知見とともに具体的な使い方の「実際」が提示されており,日常診療に直結する知識が詰まっています.
本特集が,日々の診療における薬物選択の一助となり,読者の皆様の「臨床力」の向上に資することを願ってやみません.単にエビデンスに従うだけでなく,その背景にある病態理解や患者像を踏まえた処方こそが,私たち臨床医に求められる姿勢です.処方という行為が,科学と経験,標準と個別性を統合する“医の芸術”であることを,あらためて実感いただければ幸いです.
最後に,ご多忙のなかご執筆くださった先生方に深く感謝申し上げるとともに,本特集が読者の皆様の診療現場に豊かな示唆をもたらすことを祈念いたします.
聖マリアンナ医科大学薬理学 木田圭亮