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循環器ジャーナル 74巻1号 (2026年1月発行)
特集
循環器診断の新時代を築くAI
序文
循環器診断の新時代を築くAI
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小寺 聡 1
1東京大学循環器内科
pp.4-5 , 発行年月 2026年1月

 近年,人工知能(AI)技術の進展は目覚ましく,循環器診療の現場にも不可逆的な変化をもたらしつつある.胸部X線画像や心電図の自動解析,ウェアラブルデバイスによる不整脈検出,さらには問診や診療記録作成を支援する生成系AIなど,AIはもはや研究室の中の技術ではなく,臨床判断の前提条件になり始めている.循環器診療は多様なモダリティと大量の情報を扱う領域であり,AIとの親和性が高い一方で,その導入の遅れは診療の質そのものに直結しかねない段階に入っている.
 本特集「循環器診断の新時代を築くAI」は,こうした問題意識のもとに企画した.筆者自身,研究開発の現場だけでなく,実臨床や医療機器承認(PMDA)を見据えたAI開発に関わる中で,「AIは使えるか否か」ではなく,「どのように使わなければならないか」が問われる時代に入ったことを強く実感している.技術は急速に進歩している一方で,現場の理解や運用は必ずしも追いついていない.この乖離を埋めることこそ,今,循環器領域に求められている課題である.
 第Ⅰ章では,循環器診療とAIの出会いを振り返り,機械学習や深層学習,大規模言語モデルといった基盤技術が診断支援にどのような変化をもたらしてきたのかを整理する.特にAIに馴染みのない若手医師にも理解しやすいよう,概念と臨床応用を丁寧につなぐ構成とした.
 第Ⅱ章では,心電図,冠動脈CT,冠動脈造影,心エコーといった循環器診療の中核を成す検査領域におけるAIの実臨床応用を紹介する.PMDA承認を見据えた取り組みや,実装に至るまでの試行錯誤は,AIが研究成果にとどまらず,医療機器として社会に受け入れられる段階に入ったことを示している.
 第Ⅲ章では,生成系AIの実践的活用,導入時の技術的・組織的課題,さらには倫理的・社会的課題を取り上げる.AIは万能ではなく,誤りや限界を内包する技術である.だからこそ,最終的な判断責任を負うのは常に医師であり,その前提を揺るがすものであってはならない.
 第Ⅳ章では,AIエージェントや大規模マルチモーダルモデルといった,循環器診療の未来を形作る技術に焦点を当てる.AIは医師を代替する存在ではなく,診療の質を高めるための「拡張された知能」である.本特集が,AIを恐れず,しかし無批判に受け入れることもなく,循環器医としてどのように向き合うべきかを考える一助となることを願っている.
 多忙な中でご執筆をお引き受けいただいた先生方に深く感謝申し上げるとともに,本特集が読者諸氏の日常診療と将来の選択に,確かな視座を提供することを期待したい.


東京大学循環器内科 小寺 聡

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