臨床検査 70巻 1号 (2026年1月発行)

今月の特集 医師に学ぶ臨床推論

電子版ISSN:1882-1367
印刷版ISSN:0485-1420
印刷版発行年月:2026年1月
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巻頭
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 本誌『臨床検査』が70巻を迎えるにあたり,創刊当初から本誌に関わってこられた編集委員の先生方,そして常に現場で診療と研究の最前線を担ってこられた全国の臨床検査技師,医師,研究者の皆さまに,心よりの敬意と感謝を申し上げたい.

 1957年,戦後の混乱がようやく落ち着きを見せ,わが国が科学と技術によって再び立ち上がろうとしていた時代に,本誌は産声を上げた.試験管と顕微鏡,手作業の比重が大きかったその時代に,「正確で信頼できるデータが診療の根幹を支える」という理念を掲げ,創刊号が発行された.

今月の特集 医師に学ぶ臨床推論

70巻1号 , 2026年1月 , pp.7
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 医療は全ての局面が“どう考えどう行動するか”で,特に診断に至るまでは,多くの情報から“推理”していくことの積み重ねです.この推理過程を“臨床推論”として,さまざまな医療分野で学習することが一般的になりつつあります.臨床検査分野では,まさにRCPCがそれに当たります.それでは,臨床検査以前に得られる情報から医師はどのように推理を展開しているのでしょうか.それを学ぶのが本特集の前半です.医療面接,身体診察,胸部X線検査について教育的な観点で解説いただきました.また,ごく基本的な検体検査,生理検査を総合診療医がどのように活用していくかもここで学びます.医師が検査をオーダーする背景を理解するヒントが得られると期待します.後半では,検体検査のそれぞれにおける臨床推論を,医師である臨床検査専門医の視点で解説いただきました.いつもと少し違う趣の教本として多くの方に読み込んでいただけたら幸いです.

総論:総合診療専門医による診療における医療情報からの臨床推論

医療面接から

70巻1号 , 2026年1月 , pp.8-13
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Point

●医療面接は,質の高い情報収集を通じて病態仮説を立て検証し,診断・治療を導く臨床推論の基盤である.

●問診を通じて“病歴の映像化”をすることで症状経過や患者背景を具体化し,適切な鑑別疾患の想起と,過不足のない検査オーダーに結び付けることができる.

●臨床推論では,認知バイアスと呼ばれる思考の偏りを排除することが重要であり,代表的なものにはアンカリングバイアス,利用可能性バイアス,確証バイアスなどがある.

●臨床推論における思考過程は,言語化されたプロセスとして可視化することで再現性をもって活用できるようになり,これを診断戦略と呼ぶ.

身体診察から

70巻1号 , 2026年1月 , pp.14-18
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Point

●身体診察は仮説主導型と所見主導型の両輪で検査前確率を定め,検査を選択する.

●診察所見は感度・特異度,尤度比(LR)で検証可能であり,診断精度と検査の適正化を高める.

●身体診察と臨床検査との決定的な違いは,“手あて”にある.

基本的検体検査所見から

70巻1号 , 2026年1月 , pp.20-25
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Point

●基本的検体検査所見は,診断推論の基盤となる重要な患者情報である.

●柔軟な思考力により,限られた検査データからも患者背景や臨床状況を的確に理解できる.

●経験と振り返りを重ねることで疾患シナリオ(illness script)が深まり,各情報が連結して疾患の本質を明確化できる.

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Point

●医療情報としての生理検査:理学所見と比較して客観性・定量性に優れる.

●心電図と呼吸機能検査:想定された所見が得られなかった場合の考え方が重要である.

●腹部超音波検査:スクリーニング検査として有用であり,偶発所見における考え方が重要である.

胸部X線所見から

70巻1号 , 2026年1月 , pp.31-37
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Point

●胸部X線写真は一覧性に優れ,肺の大きさや左右差などを一目で把握できるが,読影法を系統的に学ぶ機会は少ない.

●肺の大きさや横隔膜の位置から慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺線維症などの疾患を推定でき,ほかの所見と組み合わせて診断を進める.

●無気肺や胸水,気胸などはX線写真で典型的な所見を示し,気管や横隔膜の偏位から病態を見分けることが可能である.

●シルエットサインやエアブロンコグラムの有無は陰影の性質を判断する手掛かりとなり,CTと併用して診断精度を高める.

各論:臨床検査専門医による検体検査からの臨床推論

末梢血算

70巻1号 , 2026年1月 , pp.38-46
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Point

●シリンジ採血はヘモグロビン(Hb)偽高値・偽低値となりうる.

●輸液の混入は,生化学(血糖や電解質)だけでなく,ベースラインからの急激な平均赤血球体積(MCV)の変化も疑う.

●貧血の鑑別には銅欠乏も考慮する.

尿検査

70巻1号 , 2026年1月 , pp.48-53
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Point

●尿検査は非侵襲的に行われ,特に腎・尿路系の病態については血液では分からない情報を得ることができる.

●尿検査の目的はスクリーニングであることも,特定の病態を把握するためであることもある.

●尿タンパクの有無と(狭義の)腎機能は必ずしも関連しないので,尿タンパクが出ていないから腎機能に問題がないとはいえない.

生化学検査(酵素系)

70巻1号 , 2026年1月 , pp.54-58
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Point

●ルーティン検査項目のなかで,酵素系の生化学検査は重要な位置を占める.

●逸脱酵素は細胞障害が起こっている状況において,細胞内の酵素が細胞外に漏出し血液中で検出される酵素をいう.ルーティン検査で扱われるのはAST,ALT,LD,CK,AMYである.

●障害される臓器の種類により,逸脱酵素の上昇パターンが異なる.

●酵素やそのアイソザイムにより血液中の半減期が異なり,これも逸脱酵素の上昇パターンに大きな影響を与える.

●まず臓器特異性の高い逸脱酵素に注目し,次に複数の逸脱酵素を組み合わせて解読することにより病態の理解を目指す.

●誘導酵素は機械的刺激などにより産生亢進され上昇する酵素で,ルーティン検査で扱われるのはALPおよびγ-GTである.

生化学検査(脂質・糖)

70巻1号 , 2026年1月 , pp.60-65
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Point

●脂質異常症は原発性か続発性か,家族性か否かを鑑別することを心掛ける.

●糖尿病の診断に至る以前の耐糖能障害の拾い上げが重要である.

●糖尿病,脂質異常症に関連する合併症も併せて評価する.

●糖尿病,脂質異常症では動脈硬化症の評価は必須である.

●脂質・糖代謝関連検査結果を適切に評価し,生活習慣の改善に結び付ける.

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Point

●血清総タンパク(TP)・血清アルブミン(Alb)低値は,栄養障害や肝・腎疾患を示唆することから,タンパク分画検査を併用して病態を絞り込む必要がある.

●アルブミン(Alb)/グロブリン(Glob)比(A/G比)やタンパク分画異常に注目することで,慢性疾患や免疫異常を疑い,免疫電気泳動などの精査を展開する必要がある.

●C反応性タンパク(CRP)高値は急性炎症や感染症の指標となることから,他のタンパク分画と併用し,鑑別診断を進めていく必要がある.

●高感度CRP(hs-CRP)は,微細な炎症を検出でき,心血管疾患リスクの評価に有用であるとともに,通常のCRPでは捉えられない慢性炎症や生活習慣病の兆候を把握可能である.

生化学検査(腎機能・電解質)

70巻1号 , 2026年1月 , pp.71-77
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Point

●血清クレアチニン(Cr)検査を用いた糸球体濾過量(GFR)評価には,推算糸球体濾過量,推算クレアチニン(Cr)クリアランス,クレアチニン(Cr)クリアランスが,さらに結果の表示法には標準化と実測があり,その目的に応じて使い分ける.

●電解質異常を認めた場合は,まず腎機能(糸球体・尿細管)低下に伴う電解質異常かどうかを鑑別する.

●尿細管機能異常による電解質異常は,尿細管に作用する薬剤の理解につながる.

微生物学的検査

70巻1号 , 2026年1月 , pp.78-82
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Point

●微生物学的検査は病名推論より病原体推論に有用で,臨床像との統合解釈が重要である.

●Gram染色は最初の臨床推論に直結し,検体の質・菌量・染色性の読み取りが核心となる.

●無菌検体培養や血液培養の結果は臨床仮説の再検証を促す重要な契機となる.

●核酸増幅検査は事前の臨床推論が不可欠で,適応選択と解釈の慎重な判断が求められる.

バイオバンク活動の実際とJIS Q 20387の適用・3

バイオバンクの沿革

70巻1号 , 2026年1月 , pp.84-89
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はじめに

 「バイオバンク」とは「生体試料と付随する情報の利用を目的とする収集・保管」をいい,必ずしもヒトについてだけでなく,広く生物の試料情報についての収集・保管を示す用語ではあるが,今日では,医学生物学研究,とりわけ,ゲノム・オミックスを扱う研究ではなくてはならない機能を指す用語である.今回は,生物としてのヒトあるいはヒトの疾患(研究)についてのバイオバンク・バイオバンキング(バイオバンク活動)についてである.ここでは,バイオバンク総論としてバイオバンクの沿革を振り返り,世界のバイオバンクの発展や日本での状況を述べ,代表例としてUKバイオバンク(UK Biobank:UKB)と,国内で最も古く,かつ最大規模の「バイオバンク・ジャパン(Biobank Japan:BBJ)」のこれまでの活動と今後の方向性について述べる.

目次

70巻1号 , 2026年1月 , pp.2-3

次号予告

70巻1号 , 2026年1月 , pp.93

あとがき

70巻1号 , 2026年1月 , pp.96
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 日本人2名のノーベル賞受賞という明るいニュースからまもないタイミングで,記念すべき70巻1号に掲載されるこの「あとがき」を書いています.

 坂口志文先生は,仔マウスの胸腺を除去すると自己免疫疾患が発症してしまうという先行研究をヒントに,“自己免疫を抑制するT細胞が存在する”という画期的な仮説を立てて研究を重ねた結果,制御性T細胞の発見に至り,生理学・医学賞を受賞しました.記者会見によればその道のりは決して平たんではなく,成果の予兆が感じられず幾度か研究の継続を迷う場面もあったとのことです.それでも諦めずに正しく悩み続けてたどり着いた偉大な発見だったとうかがえます.