臨床研究の実践知が随所に盛り込まれた
「実務で使える教科書」
『臨床研究の教科書』第3版の刊行を心よりお祝い申し上げます.著者の川村孝先生とは,京大医学部の教授の一員として長年ご一緒させていただきました.その中で,常に幅広い知識と鋭い洞察を持って議論に臨まれる先生の姿勢に,私は深い敬意を抱いてまいりました.また,学位審査などを通じても,先生が研究方法論や臨床現場の課題に精通されていることを幾度となく実感してきました.そのような先生が丹念に執筆を続けられ,本書が第3版まで改訂を重ねて刊行されることは,まさに日本の臨床研究教育における大きな財産であり,私自身もこの書評を執筆する機会を頂けたことを大変光栄に存じます.
本書の大きな特徴は,単なる方法論の解説にとどまらず,著者ご自身が積み上げてこられた臨床研究の実践知が随所に盛り込まれている点です.序章では「なぜ臨床研究が必要か」「足らないエビデンスは自分でつくる」といった力強いメッセージが示され,読者が研究を行う動機づけを得られるよう工夫されています.加えて,第1部から第5部にかけて,研究計画の立案,運営,データ解析,成果の公表に至るまで,臨床研究の全過程を一貫して解説している構成は,まさに「実務で使える教科書」と呼ぶにふさわしい内容です.特に,統計解析やビッグデータの活用,倫理的配慮,研究計画書作成の具体的指針などが明確に整理されており,若手研究者にとって羅針盤となるだけでなく,経験豊富な研究者にとっても常に立ち返ることのできる信頼すべき基盤となっています.
今回の第3版では,近年の研究環境の変化に対応するため,傾向スコアやinstrumental variableといった解析手法の発展や,ネットワーク・メタアナリシスの整理,さらに費用対効果分析の章が拡充されています.研究デザインの基礎から実際の臨床研究の実例,さらにはトレーニング方法に至るまで,研究者が直面するあらゆる疑問に応える構成となっており,これから臨床研究を志す医師・大学院生にとって,まさに必携の一冊であると確信します.
とりわけ若手研究者にとって心強いのは,本書が「研究は身近な疑問から出発できる」という姿勢を貫いていることです.現場で遭遇する臨床上の課題をそのまま研究テーマとして発展させる手法が,平易かつ具体的に示されています.これは,研究に大規模な設備や特別な環境が必ずしも必要ではなく,日常診療の中からも国際的に通用する成果が生み出せることを教えてくれるものです.臨床と研究の両立に悩む若い医師たちにとって,本書は大きな励ましとなるはずです.
本書が,多くの研究者に臨床研究の魅力と意義を伝え,次世代の研究者が新しいエビデンスを切り拓く原動力となることを心から願っております.

●B5/頁280/2025年
定価:4,950円
(本体4,500円+税10%)
[ISBN978-4-260-06154-4]
医学書院 刊