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臨床検査 70巻1号 (2026年1月発行)
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「臨床検査」誌70巻を迎えるにあたって 閲覧可
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栁原 克紀
pp.4-5 , 発行年月 2026年1月

 本誌『臨床検査』が70巻を迎えるにあたり,創刊当初から本誌に関わってこられた編集委員の先生方,そして常に現場で診療と研究の最前線を担ってこられた全国の臨床検査技師,医師,研究者の皆さまに,心よりの敬意と感謝を申し上げたい.
 1957年,戦後の混乱がようやく落ち着きを見せ,わが国が科学と技術によって再び立ち上がろうとしていた時代に,本誌は産声を上げた.試験管と顕微鏡,手作業の比重が大きかったその時代に,「正確で信頼できるデータが診療の根幹を支える」という理念を掲げ,創刊号が発行された.
 東京大学内科学教授をお務めになり,わが国の医学の発展に多大な貢献された冲中重雄先生は本誌の創刊によせて,下記のような寄稿をされている.「今度,『臨床検査』と云う月刊雑誌が発行されることになつた.数年前までは僅か一部の大病院だけで臨床検査を中央化しているに過ぎなかつたが,最近では日本中でかなり多数の病院が此設備を持つようになつて来ている.それと共に,臨床検査室で働く人々も次第に増して来つつあり,此の種の技術家の教育の普及が要望されるに至つている.臨床検査室,これは内容から云うと臨床検査であるが,機構の上から見ると中央化した臨床検査と云う可きものであり,臨床の各教室で患者の診断,治療の上で必要な検査を,専門の学者,技術者がその高度の知識,技術を以て正確に,しかも迅速に諸検査を行い,その結果を臨床家に役立たせるわけである.」(一部抜粋,原文のまま)

創刊号(1957年発行)

 まさに,臨床検査の展望をご指摘されており,本分野の発展を予見していることがすばらしい.
 当時は自動分析装置もなく,試薬の多くは自家調製,検査報告も手書きであった.それでも,患者1人1人の診療を支えるデータを得るため,臨床検査技師たちは夜を徹して試行錯誤を重ねたという.臨床検査という言葉に,いまだ確固たる社会的認知がなかった時代に,創刊を支えた人々の情熱と志は,今日の私たちの原点であり続けている.
 長い年月を経て,検査の現場は驚くほどの変貌を遂げた.分析機器の自動化,高度化,さらにはAIや分子生物学的手法の導入によって,臨床検査は「支援部門」から「診療の中枢」へと進化を遂げつつある.
 しかし,いかに技術が進歩しようとも,私たちが忘れてはならないのは,「検査値の背後にいるのは生身の人間である」という事実だ.データは数字の羅列ではなく,1人の患者の生命の息づかいを映すものである.その意味を正しく読み取り,医療全体の文脈のなかで位置付けるための感性と倫理こそ,臨床検査の本質である.そしてそれは,創刊以来,本誌が一貫して伝えてきた精神でもある.
 科学の進歩は目覚ましいが,技術が万能である時代ほど,人間の判断が問われる.AIが異常値を示しても,それが意味する臨床的な重みを読み解くのは,私たち人間である.検査の専門職としての誇りと責任をもち,チーム医療のなかで主体的に貢献する姿勢が,これからの時代に求められるだろう.
 本誌が果たすべき役割もまた変化している.単なる学術情報の提供だけでなく,臨床検査をめぐる教育,倫理,制度,そして国際的な連携までも含めた広い視野から,議論と発信の場であり続けなければならない.創刊当時の編集委員が,手書きの原稿を持ち寄り,活版印刷のインクの匂いのなかで議論を交わしたように,私たちもまた新たな時代にふさわしい「対話」を続けていく必要がある.
 1957年に生まれた本誌は,戦後復興,高度経済成長,医療制度の整備,そして21世紀のデジタル革命と,幾多の社会変動を共に歩んできた.70年の歴史は,単に冊数を重ねたということではない.それは臨床検査という学問と職域が,日本の医療のなかで確かな位置を築き上げてきた証である.これまで本誌を支えてくださった全ての方々に,深く感謝申し上げるとともに,次の80巻へと続く道を共に歩む決意を新たにしたい.臨床検査の未来が,人間へのまなざしを失うことなく,豊かな医療文化の一翼を担い続けることを願ってやまない.

2025年11月

『臨床検査』編集主幹 栁原克紀

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