「今こそ」の胃がん検診マニュアル
この度日本消化器がん検診学会(以下,学会)から『胃がん検診のための胃X線検査マニュアル2025改訂第3版』が発刊された.2024年に『対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル2024改訂第2版』(南江堂)を発刊し,内視鏡検診のさらなる普及拡大に向けた今後の胃がん検診の方向性を示したばかりなのに,これまで2回の改訂を重ねてきたX線検診の「ガイドライン」をあえて「マニュアル」と変えてまで発刊した理由について即座に思いつかず,「今さら何を」というのが率直な感想だった.その疑念じみた感想は,「本マニュアルの位置づけと改訂のポイント」の項で解消された.学会の胃がん検診専門技師認定制度に協力体制を組んできたNPO法人日本消化器がん検診精度管理評価機構(以下,NPO精管構)が解散することになったため,学会とNPO精管構の間にあった標準的撮影法の若干の相違を解消・整理し,学会の基準に一本化するというのが本書の眼目と述べられている.
眼目を知った上で通読すると「ガイドライン」を「マニュアル」に変えた理由もよくわかる.撮影法の項では,撮影体位の順序を並べただけでなく,それぞれの撮影体位で狙うべき標的部位,さらにはその体位で注意すべき事項まで丁寧に説明している(補足説明の「ゲップをこらえるよう促す」には思わずニンマリ).この体位ごとの標的部位については画像を使って説明しているが,斜位をとったときの小彎線と前後壁の位置関係を表したイラストがよくできている.このイラストは宮城県対がん協会の職員が作成したものとのことで,評者も読影でちょっと迷ったときなどに頼りにしている.
本マニュアルに「前壁撮影のコツと注意点」という項目があるが,この「コツ」という用語がさりげなく使われていることからして,本書は「ガイドライン」ではなく懇切丁寧な「マニュアル」ということが納得できる.こういう現場主義の丁寧な記述を見てふと思い出したのが,恩師である久道茂先生(東北大名誉教授,元宮城県対がん協会会長)が1978(昭和53)年に書かれた『胃集団検診の実際』(金原出版)というまさにX線検診の元祖マニュアル本である.「読影の順序」の項ではロールフィルム(当時はアナログフィルムで6枚撮り)を右方向に流していく際の目の動きを線でなぞったイラストが示されていた.もともと「コツ」というのはその道の大家(Meister)が子弟に伝授すべき技能で,胃X線検査の撮影技術や読影技術の「コツ」に関しても,各地におられた大家が伝授してきたものである.胃X線検査が日常臨床の第一線の座から退いてからというもの,その大家の数も減ってきたが,本マニュアルは大家が伝授してきた「コツ」を懇切丁寧に教えてくれる「今こそ」必要な絶好の指南書ということができる.
本マニュアルでは,偶発症や医療被ばくなどの不利益の問題,安全管理対策,精度管理対策などがん検診にまつわる事項についても漏れなく解説していること,またこれまでのガイドラインではかなりのページを割いていた症例アトラスを潔く省いたことなど大いに好感が持てた次第である.

●A4変型/頁88/2025年
定価:3,850円
(本体3,500円+税10%)
[ISBN978-4-260-05691-5]
医学書院 刊