EOI(essences of the issue)
変形性膝関節症における最新の診療ガイドラインに基づく治療のエビデンスと実践的指針を整理した.手術療法,薬物療法,装具療法,保存療法に加え,人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:TKA),人工膝関節単顆置換術(unicompartmental knee arthroplasty:UKA)の術前・術後入院・術後外来,骨切り・半月板縫合の術後入院における理学療法の役割とQOL向上への工夫,さらには患者教育やホームプログラムを含む包括的アプローチを提示し,臨床現場での実践に直結する情報を網羅している.さらに,多職種連携や患者立脚型アウトカムの重要性も強調されている.本特集の内容をぜひ,臨床に活用し,日々の理学療法の実践に役立てていただきたい.
変形性膝関節症とは何か
Point
●変形性膝関節症とは関節軟骨変性だけでなく膝関節全体に影響を及ぼす疾患である.
●変形性膝関節症は心血管障害や腎障害,糖尿病などの死亡リスクを上げ,肥満がこの傾向を増強させる.
●X線像と症状との乖離がある場合,治療法決定のために軟骨・半月板・滑膜・骨髄病変をmagnetic resonance imaging(MRI)などで評価しなければならない場合がある.
変形性膝関節症に対する手術療法
Point
●変形性膝関節症(osteoarthritis:OA)に対する手術療法として,膝周囲骨切り術(around knee osteotomy:AKO)や人工膝関節置換術[人工膝関節単顆置換術(Unicompartmental Knee Arthroplasty:UKA),人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:TKA)]が病期や膝関節機能,患者年齢,身体活動性などを参考に選択される.
●AKO,UKA/TKAいずれも手術適応を誤らなければ良好な術後成績が報告されている.
●周術期の合併症対策やリハビリテーションが非常に重要である.
変形性膝関節症に対する薬物療法
Point
●変形性膝関節症における病態を理解し,病態に沿って薬剤を選択する
●副作用および併存疾患のリスクを考慮して薬剤を選択する
●理学療法などの非薬物療法と併用することが重要である
変形性膝関節症に対する装具療法
Point
●変形性膝関節症に用いられる装具にはさまざまな種類があり,国内外のガイドラインで効果や推奨度が報告されている
●外側楔状型足底板(ラテラルウェッジインソール)は内側半月板の逸脱を減少させることで変形性膝関節症の症状を軽減させる効果がある
●装具療法を行ううえではエビデンスに基づき,変形性膝関節症の重症度や症状に応じて装具の選択を行うことが重要である
変形性膝関節症に対する理学療法—保存療法
Point
●変形性膝関節症の保存療法は,運動療法,患者教育,自己管理プログラムを柱とし,個別性を重視する必要がある.
●重症度や障害像に応じた目標設定と,関節機能の改善,歩行改善,心理社会的要因評価を含む包括的アプローチが有効である.
●病態理解と現実的目標の共有が治療満足度の向上につながる.
変形性膝関節症に対する理学療法—TKA,UKA術前外来
Point
●人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:TKA),人工膝関節単顆置換術(unicompartmental knee arthroplasty:UKA)後の疼痛や膝関節機能の改善,歩行・ADLの改善のために,術前の外来理学療法の役割は大きい
●筋力強化と柔軟性の改善を目的とした術前運動が推奨されるとともに,患者の不安や悩みを軽減するために術前教育も必要である
●術後の歩行能力改善のために,術前から積極的に歩行能力改善を目的とした理学療法を実施する
変形性膝関節症に対する理学療法—TKA術後入院
Point
●術後急性期の理学療法では,退院に向けたADL動作の獲得とともに,創傷治癒を円滑に進行させることが求められる
●遷延性疼痛に移行させないためには,術後急性期の適切な疼痛管理や運動負荷の調整が重要である
●術前から外来期まで一貫した視点で入院期を捉えることにより,患者教育やアドヒアランス形成がいっそう効果的となる
変形性膝関節症に対する理学療法—TKA術後外来の運動連鎖とアドヒアランスに着目した包括的理学療法
Point
●人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:TKA)後の理学療法は,「入院期間の短縮」と満足度に関連する「治療目標の個別化」という二つの大きな課題に直面しており,包括的理学療法の構築が必要である
●ガイドラインや科学的知見を利用して,医療の質を確保した包括的理学療法戦略の立案が重要である
●身体全体の運動連鎖と心理・社会的背景を考慮することで,質の高い理学療法の提供に貢献できる可能性がある
*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年1月31日).
変形性膝関節症に対する理学療法—膝周囲骨切り術後入院
Point
●術前後の計画的な患者教育は疼痛軽減と心理的安心感を高める
●入院中の膝関節屈曲可動域確保と疼痛管理は,術後長期の満足度向上に直結する
●疼痛予防と歩行能力向上のため,下肢アライメント制御を含む動作指導が重要である
変形性膝関節症に対する理学療法—鏡視下半月板縫合術後入院
Point
●半月板損傷(内側半月板後根損傷)は変形性膝関節症発症リスクを高める
●半月板縫合術後の理学療法は「半月板の機能再獲得」がポイントとなる
●負荷をかける方法に一定のルールを設けることが重要である
理学療法—次の60年へ向かって
2026年,「理学療法ジャーナル」は60巻を迎えることができました.理学療法士が日本に誕生した翌年より理学療法士の皆様とともに歩み続けて,60年が経ったことになります.60巻を記念して,編集委員による座談会を開催しました.座談会では理学療法の発展をいっそう加速させるための思いが熱く語られました.(2025年9月5日収録)
発症初期—筋萎縮性側索硬化症患者の一例
はじめに
難病とは,発病機序が明確でなく,治療法が確立していない希少な疾患群である.神経難病に分類される疾病は国内で88種類存在し,いずれも症状や進行,予後が多岐にわたる.このうち,筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は進行性の運動ニューロン疾患であり,早期から身体機能,呼吸,嚥下,発語などの複数の機能に影響を及ぼす.
本稿では,ALSの発症初期に焦点を当て,理学療法士が果たすべき役割について患者・家族支援の視点から臨床的示唆を解説する.
進行期—筋萎縮性側索硬化症患者を通して
はじめに
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は,進行性かつ多機能障害を伴う神経難病であり,病期の進行に伴って必要とされる支援内容も大きく変化する.本稿では,前稿(本号84頁)で報告された発症初期からの症例を引き継ぎ,気管切開下人工換気(tracheostomy invasive ventilation:TIV)下,経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)導入後の進行期に焦点を当て,理学療法士としてのかかわりと多職種による協働的支援の実際を述べる.
終末期—筋萎縮性側索硬化症患者の倫理的課題
はじめに
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は,上位・下位運動ニューロンの進行性変性を基盤とし,四肢・体幹・球筋および呼吸筋の筋力低下を特徴とする神経変性疾患である1).その自然経過は不可逆的であり,進行とともに呼吸不全を呈することから,従来は「呼吸筋麻痺=死」と理解されてきた2).しかし,近年は人工呼吸器や経管栄養技術の発展により,呼吸不全や嚥下障害を越えた長期の療養生活を送る患者が増加している2).このような変化は「終末期」の捉え方をいっそう複雑化させ,理学療法を含む包括的なケアの意義を再考する契機となっている.
本稿では,ALSの終末期における理学療法の位置づけを整理し,人工呼吸器装着後の療養課題,リスク管理,さらには緩和ケアにおける理学療法士の役割について論じる.
Time of Wonder—理学療法ジャーナル60巻によせて
月日が過ぎるのはなんと早いことか.東京都立大学をリタイアし縁あって杜の都の仙台青葉学院大学に着任してすでに3年が経とうとしている.1980年に理学療法士として長野県鹿教湯病院で臨床業務を開始した筆者は,初めて担当した重度半側空間無視症例の理学療法に難渋し無力感に苛まれ,先輩の教えを請い文献を読みまくり何とか過ごしてきた.1982年に聖マリアンナ医科大学病院の三好邦達先生(当時,整形外科主任教授・リハビリテーション部長)の指導のもと大学病院での目まぐるしい勤務に就いた.1993年に筑波大学の修士課程を修了した筆者の指導教員であった福屋靖子先生から声をかけていただき,「理学療法ジャーナル」誌(以下,本誌)の編集委員となった.ご存じのように1967年から22年にわたって刊行された「理学療法と作業療法」誌を受け継いで発刊された本誌は日本を代表するジャーナルであり,筆者のような若輩が上田敏先生,奈良勲先生をはじめとする綺羅星のごとき編集委員会の一員になることは大変光栄なことであった.筆者の一番思い出深い企画は,気鋭の女性理学療法士に執筆をお願いした連載「甃のうへ」で,これは三好達治の詩から転用したものであり,そのなかの「をみなごしめやかに語らひあゆみ(中略)わが身の影をあゆまする甃のうへ」に着想を得たものである.この孤高を感じさせる美しい詩の振る舞いにふさわしい活躍をされている女性理学療法士にフォーカスしようとしたものであり,好評を博したと聞いている.さらに大学病院での(自分の)臨床疑問を解き明かすことを目標に,「特集記事」,「解説」などの執筆者に託して企画編集を毎回やっとの思いで担当し30年が過ぎた.
Time of Wonderは福音館書店から発刊されている『すばらしいとき』という絵本の原題である.早春から夏の終わりまでを小さな島で過ごすみずみずしい喜びが描かれた誌的表現が美しい絵本で,読まれた方も多いと思う.幼かった子どもたちのために購入したが,『三匹のやぎのがらがらどん』のほうがお気に入りだったため親(筆者)がずっと大切にしてきた.Wonderを「すばらしい」と翻訳するセンスのよさ,何かに関心を抱いて不思議に思うことができることこそがすばらしいのだと,大人になってようやくわかる.
変形性膝関節症の超音波画像評価
症例
診断名:両側変形性膝関節症 年齢:65歳 性別:女性
現病歴:数年前から階段の昇り降りで右膝に痛みがあった.1か月ほど前から歩行時にも痛みが出るようになり,階段の昇り降りでも左膝の痛みを自覚したため,当院を受診し,X線撮影にて上記診断となった.初診時に関節穿刺を行い,ヒアルロン酸注射を実施し,歩行時痛が改善し,理学療法開始となった.リハビリテーションを継続しているが,階段昇降時の痛みが改善せず困っている.
*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年1月31日).
医療現場におけるアップデート 回復期 ②
COVID-19流行期を経てアップデートされた内容
COVID-19は,現在も理学療法士が働く医療現場にさまざまな影響を与えている.流行の長期化とともに,医療現場では「持続可能な業務体制」や「職員の働き方」に対する意識が高まっている.山下ら1)は,理学療法士の働きやすさの阻害因子として,「業務時間内で業務が終わらない」,「休暇がとりづらい風潮」,「管理者のマネジメント能力の欠如」などを報告した.働き方の意識が変化した近年において,働きやすい環境の構築は,人員不足が予見される地方の病院では特に重要である.
富山県リハビリテーション病院・こども支援センター(以下,当院)は,ほとんどの日で理学療法士が業務時間内に業務を終え,適宜有給休暇を取得している状況にあり,リハビリテーション部長と各科科長から示された方向性を参考にしながら,各自が組織の改善に向けた活動やキャリアアップに向けた取り組みを行っている.これらはCOVID-19流行期を経て改善されてきた要素であり,時代に合った業務の標準化と適正化のアップデートが日々行われている.
運動療法を安全・効果的に行うための循環生理学
高齢患者の特徴は?
循環器疾患などの慢性疾患を有する高齢患者に共通する症状として「運動耐容能の低下」が挙げられる.運動耐容能を規定する酸素搬送系には,肺・血管・心臓・骨格筋があり,これまで運動耐容能の低下は肺での酸素取り込み能の低下や末梢循環不全などの酸素供給側の原因と考えられてきたが,最近では高齢者などでは骨格筋の酸素利用能の低下も重要な要因となっている.したがって骨格筋を介入標的とする理学療法では,骨格筋を含めた酸素搬送系の特徴を理解する必要がある.
ResearchRabbitTM, Connected Papers
新しい文献検索ツール
現在,文献検索は,これまでの本連載で述べてきたさまざまな文献データベースに検索語(キーワード)を入力するか,図書館などで学術雑誌を読む,あるいは手元にある文献の末尾にある引用文献を探すことが標準となっている.一方で,近年,ある1つの文献と関連する複数の文献とのつながり(ネットワーク)を視覚化できる新しい文献検索のウェブツールが誕生した.その代表がResearchRabbitTMやConnected Papersである.
情報収集においては,文献そのものに書かれている内容も重要であるが,その文献の引用文献,またその文献を引用している(被引用)文献といった文献同士のつながりも,その研究分野の動向などを知るうえで欠かせない.しかし,引用・被引用文献をすべて確認することは時間もかかるうえに,全体像がイメージしづらい場合がある.これを解決するのが,本稿で紹介するウェブツールである.ウェブツールにおいて瞬時にネットワーク図を生成することで関連研究を俯瞰的に把握でき,新たな発見にも役立つ.
重度脳性麻痺
脳性麻痺患者の能力・環境の評価と目標設定
重度脳性麻痺患者では,家族が乳児期から行っている,抱き上げる,座らせるなどの「育児」がそのまま「介助」になり,起居動作を経験するタイミングが遅くなることがあります.患者は年齢とともに身長・体重が増加し,自力で身体を動かすことが難しくなってくることに加え,関節可動域制限や身体変形が生じる可能性が高いため1〜3),できるだけ早く起居動作を練習し,獲得したほうがよいと考えます.
脳性麻痺患者のなかで,起居動作へのアプローチを要するのは,粗大運動能力分類システム(Gross Motor Function Classification System:GMFCS)レベルⅣ〜Ⅴに分類される児です.GMFCSレベルⅣの患者は,寝返り,座位への起き上がり動作は獲得できることが多いものの,座位からの立ち上がり動作は,手すりや台などの環境設定や介助方法の影響を受け,心身機能・構造,年齢によって自立度が異なります.また,GMFCSレベルⅤの脳性麻痺患者は,寝返りや起き上がりに多くの介助を要し,座位からの立ち上がりは困難です.
*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年1月31日).
編集後記
本誌は今年,創刊60年目という節目を迎えました.10年前に創刊50周年を記念して掲載した座談会では,「あのとき語られた10年後の現実とこれから」というテーマのもと,理学療法の未来について語られました.あれから10年,臨床や研究の現場は大きく変化し,理学療法の役割もより多様化しています.本誌の企画や特集を通して,その変化と現状を振り返るとともに,これからの理学療法の方向性について,編集委員皆で理学療法に対する思いを語り合いました.10年の歩みを振り返りつつ,私たちが強く感じるのは,理学療法は学問として,技術としてまだ発展途上の段階であり,成長できるポテンシャルが無限にあるということです.本誌を手に取ってくださる読者の皆さまとともに,知識と技術を深化させ,よりよい臨床を追求していきたい.その思いこそが,座談会や編集の原動力となっています.
60巻最初の特集では,1, 2号続けて変形性関節症をテーマに最新の診療ガイドラインに基づく実践的指針やエビデンスを整理しています.また,Close-upでは神経難病における終末期支援や多職種連携の重要性をあらためて確認し,連載「臨床理学療法に活かす生理学」では,身体機能や適応メカニズムを生理学の視点から再整理し,臨床判断の質を高めるヒントを提供しています.巻頭連載では,変形性膝関節症の超音波画像評価,その他,「COVID-19パンデミック後の変革」,「文献収集と管理」,「臨床実習サブノート」など情報が満載となっております.