The legacy of the Tokyo 2020 Paralympics Games and the present of parasport
2021年に開催された東京大会を契機にパラスポーツの認知度は医療分野だけでなく社会のなかでも高まり,また,パラアスリート強化育成だけでなく,パラスポーツの普及やインクルーシブな社会の実現にむけて意識が高まる契機となった.東京大会から5年余りが過ぎ,今年はミラノ・コルティナ冬季大会が開催される.パラスポーツは今どのように展開し,何に取り組んでいるのか,第一線でパラスポーツ支援にかかわっている先生方にご寄稿をいただいた.トップアスリートへの医科学支援,競技団体からの視点,地域や社会からの視点など多面的な内容となっており,パラスポーツの今を立体的に感じていただける特集となっている.
1.パラアスリートの医学的支援の今
上出杏里氏
上出先生からはパラリンピックなどの国際総合競技大会におけるパラアスリートへの医科学支援の体制や実際について解説をいただいた.複数回の帯同医経験をもつ著者ならではの視点が盛り込まれ,支援の実際とそのなかでの医師の役割を知ることができる.また,医科学支援の重要なテーマである女性アスリートへの支援や,高い競技レベルだけでなく裾野の拡大というパラスポーツが直面する課題についても概説していただいた.
2.冬季パラスポーツ競技の今―ミラノ・コルティナ大会を前に
小林章郎氏
小林先生は長きにわたり冬季競技の帯同医を務めた視点から,ミラノ・コルティナ冬季パラリンピックへの展望,主な競技について概説をしていただいた.特に冬季競技を理解するうえで重要となるクラス分けについても詳細な解説をいただき,さらに代表的な疾患についての留意事項も挙げていただいた.冬季パラリンピック開催の時期でもあり,これを機に冬季競技の認知度が向上することが期待される.
3.車いすバスケットボールの新しい挑戦
―キーワードは「育成」
橘 香織氏
橘先生からは車いすバスケットボールが東京大会以降に取り組んだ裾野の拡大と強化のプロセスをご紹介いただいた.パラスポーツのなかでも認知度の高い競技であっても競技者の減少と取り組んでいる実態や,健常者を含めた国内競技運営など工夫がなされ,今後の国際大会を見据えた育成と強化が戦略的に計画されている点は,他の競技や地域においても参考になる.
4.パラ水泳の強化と普及の今
本山幸子氏
本山先生にはパラ水泳の展開についてご寄稿いただいた.特にFTEMというコンセプトにもとづいて競技の段階を踏んで目標と取り組みを整理し,選手を育成していく取り組みを,パラ水泳においてどのように具体化しているのかについて解説をいただいた.水泳においても競技者の減少は課題になっており,少子化や医療環境の変化から日本のパラスポーツにおいて今後も続く課題と思われる.その意味においてもパラ水泳において実践されている裾野の拡大から選手発掘・強化のプロセスは今後のモデルとなるものであろう.
5.知的障害領域のパラスポーツの今
沼部博直氏
身体障害だけでなく,知的障害についても沼部先生からご寄稿をいただいた.知的障害のパラアスリートが参加する大会について,スペシャルオリンピックスやVirtusなどがその経緯とともに紹介されている.知的障害の位置づけについても理解が深まる内容となっており,特にダウン症患者のスポーツ参加についての最近の動向や注意点にも触れられている.パラスポーツ参加者のなかで知的障害者は裾野も全体の人数も多く,今後かかわる指導者もさらに増加することが期待される.
6.地域でのパラスポーツ実践の今―大阪の事例から
野々村和子氏ら
野々村先生と江尻先生からは地域スポーツセンターの視点から東京大会以降の取り組みについてご紹介いただいた.特に重度障害者に焦点をあてた地域スポーツイベントの開催や,そのなかでのボッチャ競技の役割,また継続的なかかわりなどが紹介されており,各競技団体が感じている今後の裾野の拡大についての地域目線での解決策を示唆する内容となっている.
7. パラリンピックの歴史的意義とレガシーからみる日本の障害者雇用政策の進展
池部純政氏
最後に池部先生からはパラスポーツを通じた社会参加や障害者雇用の経緯と課題について論じていただいた.東京大会を契機に企業契約をするパラアスリートが増加した印象はあるものの,その比率は低くセカンドキャリアなどの課題も指摘されている.また東京大会のレガシーとしてパラスポーツの認知度向上というプラスの面だけでないことにも触れていただき,認識が改まる思いである.「量」から「質」へ,という言葉は障害者雇用だけでなく,パラスポーツに関連する多くの場面で今後の留意点になると感じさせる.