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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術10巻2号

1982年02月発行

雑誌目次

病気のはなし

末端肥大症

著者: 水野治

ページ範囲:P.118 - P.123

 末端肥大症(以下,本症と略す)は下垂体前葉から分泌される成長ホルモン(以下,GHと略す)の過剰により起こる病態で,骨端線の閉鎖以後に発症する.下垂体病変は腺腫である.骨端線閉鎖以前にGH過剰をきたせば下垂体性巨人症となる.
 本症は特徴的な徴候を示すため古くから注目され,Marie(1886)がほかの変形疾患から独立して記載したのが最初であると言われている.Cushing(1912)は下垂体の摘除により本症の症状が改善されることを実証した.Glickら(1962)のGHのラジオイムノアッセイ確立後,本症の血中GHが測定され,本症ではGHが異常に高く,本症の原因がGH過剰分泌によるものであることが示された.種々のGH刺激試験が開発されるに至り,本症では血中GHが高値であるばかりでなく,種々の刺激試験に対するGHの反応性が正常人と異なることが明らかとなった.その結果,本症の病態,診断,治療に大きな進展がみられるようになった.我が国では昭和48年,厚生省特定疾患下垂体機能障害調査研究班(以下,下垂体研究班と略す)が結成され,本症についてもその実態調査,病因,診断,治療などに成果が得られつつある.以下にこの調査結果1,2)を中心として本症について述べる.

技術講座 細菌

サルモネラの分離と同定

著者: 坂井千三 ,   高橋正樹

ページ範囲:P.142 - P.147

 サルモネラ(Salmonella)はある特定の性状を示す一群の細菌の属名である.本菌感染症は,感染像の違いから,チフス性疾患と急性胃腸炎(食中毒)とに大別される.チフス性疾患の原因菌となるのは,チフス菌(S.typhi),パラチフスA菌(S.ParatyPhi A),パラチフスB菌(S.ParatyphiB)及びS.sendaiなどであり,その他の大部分のサルモネラは急性胃腸炎を起こす.
 前者のチフス性疾患起因菌のうち,チフス菌とパラチフスA菌及びB菌は,法定伝染病の原因菌であるから,いずれの検査室でも必ず血清型まで確実に検査する必要がある.しかし,後者の急性胃腸炎の原因となるサルモネラの血清型は極めて多彩であるので,サルモネラか否かの確認と,さらに必要に応じて血清型まで検査を進めればよい.

血液

血液検査のための採血法

著者: 亀井喜恵子

ページ範囲:P.148 - P.154

 採血は生体内を循環している血液の少量を生体外にとり出し病態をうかがうための重要な操作である.したがって採血は検査目的に応じた正しい採取法(採取部位,採血時間,採血後の検体処理など)のもとに行われなければならない.
 血液検査のための採血はほかの生化学や血清検査のための採血とはやや異なる.大きな特徴は全血中の成分または血漿中の成分を測定するものが多いため,血液の凝血作用を阻止するということが検体採取の場合,最も重要な点となる.今回は採血の仕方,抗凝固剤の種類と使用方法,採血部位による血液検査成績の相違などについて述べる.

血清

血小板抗体検出法

著者: 安永幸二郎

ページ範囲:P.155 - P.159

従来からの血小板抗体検査法
 血小板抗体の検出にこれまで用いられてきたのは,血小板凝集試験,血小板抗グロブリン消費試験,血小板補体結合試験,血小板セロトニン放出試験,セロトニン摂取(阻止)試験などである.

病理 病理検査症例の電子計算機による整理・1

電子計算機化の前に考えておくこと

著者: 馬場謙介 ,   上家あけみ ,   小原光祥 ,   深川京子 ,   荻島寿子 ,   田久浩志

ページ範囲:P.160 - P.163

 病理検査症例を電子計算化すると便利であることが分かっていながら,一昔前までは,実際にこれをやろうとすると未知の部分が多く,かなりめんどうで,また費用もかかるものであった.ところが,最近の諸技術のめざましい進歩によって,一つの病理検査室の病理診断等の情報の整理をまるまる受け持てる電子計算機が,50〜100万円程度で購入できるまでになってきた.機械が安価になるとともに,電子計算機を利用する技術も,より身近かなものになってきた.さらに,病理診断等の情報を整理するのに必要な(言うならば,電子計算機化以前の)事柄が,明確になってきたために,以前とは比べものにならないほど,電子計算機化が容易になってきた.この時点で,自力で,病理診断の整理の電子計算機化を進めようとする病理検査技師諸氏に,その手引きをするのは当を得ていると考えられる.本号では,電子計算機化以前の事柄について述べ,自ら電子計算機化する方法についての手引きは後にゆずることにする.

検査法の基礎理論 なぜこうなるの? 分離分析シリーズ・2

クロマトグラフィー—薄層,カラム

著者: 久保博昭

ページ範囲:P.124 - P.130

 クロマトグラフィー(chromatography)は,最初に着色物質の分離に用いられた方法で,名称はギリシア語のchroma(色)とgraphos(記録)に由来したものである.現在は無色の物質の分離にも用いられている分離分析手段である.
 クロマトグラフィーの原理は,固定相と呼ばれている大きな表面積を持つ物質と,これに接して流れる移動相と呼ばれる物質との間に試料の混合物を分布させ,この両相への試料物質の親和性の差を利用して各成分に分離していく方法である.またクロマトグラフィーを行う装置をクロマトグラフ(chromatograph)と呼び,分離した結果を記録したものをクロマトグラム(chromatogram)と呼ぶ.

免疫学的染色の理論

著者: 川生明 ,   佐藤秀子

ページ範囲:P.131 - P.136

免疫学的染色の一般的な原理
 一般に抗原抗体反応は特異性の点で優れ,感度もきわめて良いことから,臨床検査の分野でも特定の物質を検出したり,定量するのに利用されていることは周知である.その場合,対象となる物質に対してそれと反応し,結合する抗体を用意して一定の条件の下で抗原抗体反応を行うわけであるが,普通,抗原物質が可溶性の状態であるのが多いのに対し,免疫学的染色(または免疫染色)は,一般の染色の対象でもある組織切片や塗抹細胞内に不溶化された状態で存在する物質を検出するという点に特徴がある.つまり目的物を染め出すのに免疫反応を利用し,その目的物が組織や細胞内に含まれていることから,この方法を免疫染色,免疫組織・細胞化学的染色と呼ばれている.
 反応の方法としてまず証明しようとする物質(抗原)を,検体である組織切片あるいは細胞塗抹標本上にかけ,一定条件下で反応させる.そうすると検体内抗原と抗体との間に特異的な結合反応が起こる.余分の抗体はその後洗浄することによって除去することができ,抗原と特異的に結合した抗体のみが残っていることになる.ところが抗体グロブリンそのものは目で見ることが出来ないので,抗体に可視物質(標識物質)を目じるしとして付けることが必要となるわけである.これが標識抗体である.免疫染色はこの標識抗体を用いるので,別名標識抗体法とも呼ばれる.

PHAとR-PHA

著者: 山田昇 ,   辻好克 ,   大鳥居昌美

ページ範囲:P.137 - P.141

 血清反応の分野において,HA(Hemagglutination)は,赤血球(ヒトまたは動物)の凝集現象を指標として実施する検査の総称で,臨床検査に広く親しまれた呼び名である.
 HA検査は,
 (1)血液型に関連した検査にみられるように赤血球そのものが持っている特異的な直接血球凝集反応
 (2)赤血球を単なる粒子と見なし,この表面に特定の抗原を吸着させ,これと抗体とを混合して凝集の有無を観察する反応とに大別することが出来る.ここでは,後者について,日常検査の上で理解しておくべき大切と思われる点について解説を試みたい.また,理解を深めるためにできるだけ,前者の反応とも対比しながら話を進めたい.

マスターしよう基本操作A

プロトロンビン時間測定法

著者: 秋山淑子

ページ範囲:P.171 - P.178

 プロトロンビンは組織トロンボプラスチン,Ca2+,第V因子,第X因子,第Ⅶ因子によってトロンビンに活性化され,フィブリノゲンに作用してフィブリンを形成する.一般にプロトロンビン時間とは,これらの因子の関与する外因性凝固因子を測定するQuick一段法をいい,プロトロンビンのみを単独で測る方法ではない.この検査で,これらの因子が正常濃度にある場合はフィブリン形成は10〜15秒でおこる.フィブリン形成が遅延する場合は一つあるいはそれ以上の因子活性が正常濃度以下であることを意味し,肝機能検査の一つとして,また抗凝血薬治療時のコントロールとして用いられている.
 検体数の多い施設では機械化が進んでいるが,大部分の施設ではまだ用手法が用いられているので,ここでは用手法による測定の手技について述べる.

マスターしよう基本操作B

光学顕微鏡の取り扱い

著者: 田崎博之 ,   篠田宏

ページ範囲:P.179 - P.186

 光学顕微鏡とは,光線を用いて標本を拡大し観察する装置であり,臨床検査部門においては,検査材料の形態学的検査に用いられ,細菌検査,病理学,血液学部門において不可欠なものとなっている.それゆえに,使用頻度も多くその構造,操作については熟知しておくことがたいせつである.今回はオリンパスBHT-121を対象に基本的な操作法を説明する.

知っておきたい検査機器

重心動揺計

著者: 大久保仁

ページ範囲:P.187 - P.192

原 理
 重心動揺計とは,言葉のごとく身体長軸の垂線重心が,身体が倒れないために足蹠接床面内で細かく調節移動するさまを,二次元座標としてとらえ,記録する装置のことである.
 この重心点移動が足蹠接床面から外に移動すれば,歩行などの運動や転倒などの現象が起こる.この移動を検査するためには,非常に長い検査台を必要とし,歩行やかけ足,その他の運動に伴う身体重心動揺をも姿態の変化に対応した二次元重心動揺としてとらえることができる.しかし,この動的運動をとらえるべく装置を作るとすればこのような計測装置は,理論的には作り得ても,実際には二次元座標を得る精度面で非常に高価なものとなるため,一般には使用されていない.

おかしな検査データ 検査事故における原因解析の進め方,考え方・2

チモール混濁試験でQC血清が3SDをオーバーした

著者: 畑義治 ,   天川勉

ページ範囲:P.193 - P.195

 前回では「解析の進め方,考え方・1」の基本的な手順につき述べ,〔例1〕として「検体の安定性によるCRKの検査事故」について報告1)した.
 今回は〔例2〕として,「試薬の自動分注器によるチモール混濁試験の検査事故」について報告する.本例は前回同様,第4回ISQC(1981年)に発表2)したものである.

最近の検査技術

抗DNase-B抗体検出法

著者: 疋田博之

ページ範囲:P.196 - P.200

 臨床医にとって溶血性連鎖球菌(溶連菌)の感染の有無は,治療及び予後判定の上で大きな問題となる.
 1903年溶血輪がSchottmullerにより見いだされ1935年Lancefieldにより各群さらに各型に連鎖球菌は整理されてきた.1932年Toddにより,抗ストレプトリジンO(ASO)が証明されて以来,血清学的な検索が行われるようになってきた.

トピックス

ポリアミン定量法と癌の診断

著者: 中根清司

ページ範囲:P.165 - P.166

 検査室内でジアミンとかポリアミンという言葉にはあまり接したことがないかと思う.しかし最近の医学雑誌にはこれらの論文が数多く報告されている.それは,1971年Russellらが癌患者の尿中ポリアミンを測定したところ尿中に異常に高い(正常の5〜10倍濃度)ポリアミンを検出したことから始まる.以後,ポリアミンは癌の診断方法として,また,制癌剤の効果の指標として注目されている.
 ポリアミンは低分子量の非蛋白性窒素化合物で,3個以上のアミンを有するものと定義されており,スペルミジン〔Spdと略す,H2N(CH23NH(CH24NH2〕とスペルミン〔Spと略す,H2N(CH23NH(CH24NH(CH23NH2〕及びこれらの生合成の前駆体であるジアミンのプトレッシン〔Putと略す,H2N(CH24NH2〕と,さらにジアミンであるカタベリン〔Cadと略す,H2N(CH25NH2〕を代表的なポリアミンと称している.

我らのシンボル

リエールの葉に赤の十字—日本臨床病理同学院

著者: 緒方富雄

ページ範囲:P.167 - P.167

 日本臨床病理病理同学院は1975年の創立で,まだ若い.しかしその活動をさかのぼると,日本臨床病理学会につながっていて,学会の発展に伴って,その兄弟機構として誕生したのである.すなわち臨床病理学領域で5年以上専門家として従事し,将来もその道をあゆむ心構えの人たちが,さらにつづけて勉強する便宜を提供する組織である.同学院はその名のように,高い程度の"同学の士"の組織,すなわちCollegiumである.
 この同学院が創立され,わたくしがその院長に推されたとき,わたくしは外国のこの種の組織にならって,わが同学院も紋章を持ちたいと考えた.それで自分で西洋の紋章の様式に従って創作した.それがこの同学院章である.

自慢の職場

一市三町の基幹を担う総合自治体病院—旭中央病院検査室

著者: 吉田象二

ページ範囲:P.168 - P.169

1.我が病院
 旭中央病院は,九十九里海岸の東端に位置する.千葉県旭市,千潟町,海上町,飯岡町の一市三町よりなる国保自治体立総合病院で,昭和28年に開設された.病床数113床で開院したが,8期にわたる増築によって,現在救急医療センター,地区がんセンターを含む670床(昭和57年4月には778床に増床)の総合病院として,県下東総地区の基幹病院の役割をはたしている.また厚生省臨床研修指定病院,日本内科学会認定内科専門医教育病院,日本脳神経外科学会認定脳神経外科専門医教育病院,産婦人科優生保護法指定医師教育病院,日本外科学会認定医修練施設であり,多くの大学医学部の卒後研修を引き受けている.また,近年臨床検査技師の臨床実習も引き受けるようになった.敷地面積90,500m2,建物面積50,325m2,診療科目19,一日の平均外来患者数は約1,300名である.
 地域住民が誰でも,何時でも,安心して医療を受けられ,病気の予防に,健康の保持増進につとめられる体制の確立を目標にして,全職員が一丸となって医療業務に携わっている.

検査を築いた人びと

顕微鏡を実用化した アントニオ・ファン・レーウェンフック

著者: 酒井シヅ

ページ範囲:P.170 - P.170

 顕微鏡によってミクロの世界が開けたことが,医学の体質を変え,飛躍的発展をもたらしたことは改めて言うまでもなく周知されている.レーウェンフックは顕鏡微で微生物を発見して,その扉を開いた人である.

コーヒーブレイク

アナログ人間とディジタル人間

著者:

ページ範囲:P.147 - P.147

 検査室では,ヒトの性格判断によく血液型が持ち出されるようである."今度入った○○さん,B型じゃないかしら?"とか,何かコトが起こると"O型だもの(やりそうなことだ,さすが!など)"と血液型に帰結した話題が出る.もちろん邪気のない話ばかりであるが,結構,当を得ているから面白い.血液型による性格判断の本もたくさん出版されているが,あながちそれらによる先入観念とも思えない独特の判断基準があるようである.試みに化学検査室59名の血液型分布を調べてみた.その結果は日本人の分布とは異なり,O型がもっとも多く(33.9%),次いでA型(30.5%),B型(23.7%),AB型(11.9%)の順となった.何年か前にも調査したことがあったが,その時はB型がもっとも多く,AB型はもっと少なかったように記憶している.検査室の仕事はO型やB型の人が志向するのが面白い傾向だと思う.
 また最近,脳の右葉と左葉の話を聞いた.右葉は主に言語中枢など論理的なもの――ディジタル的な機能――を支配し,反対に左葉は映像感覚とか感性とかのアナログ的な機能を支配するという.常々,人間にはアナログ型の人間とディジタル型の人間があるのではないかと思っていたので,大いに思いあたることがあった.血液型のように科学的に証明は出来ないが,例えば方向音痴とか顔音痴(このような言葉があるかどうかわからないが…)の人間は,パターン認識などのアナログ的機能が劣るように思われるので,検査の仕事でいえば病理や血液の形態,尿沈渣などは不得手ではなかろうか.何かの機会に各検査室の人たちにアンケート調査をしてみたいと思っている.

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略語シリーズ

ページ範囲:P.195 - P.195

HLA human leucocyte antigen;ヒト白血球抗原(ヒト同種組職適合抗原).WHOによりHLA抗原と命名され,HLA-A,HLA-B,HLA-C,HLA-D,HLA-DRの5型に大分類されている.いずれもヒト6番目の染色体にある.
NBT test nitroblue tetrazolium test;ニトロブルー・テトラゾリウム還元能試験.好中球機能検査の一つで,黄色のNBT色素は好中球の食食能により取り込まれ,殺菌に関係する酵素の活性度に応じて還元され,黒紫色のホルマザンとなり原形質に沈着する.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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