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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術10巻3号

1982年03月発行

雑誌目次

病気のはなし

原発性免疫不全症候群

著者: 土屋滋

ページ範囲:P.208 - P.214

原発性免疫不全症候群とは
 我々の住む生物界には無数と言ってよいほどの微生物が存在し,この中にはある種のウイルスや細菌のように,生体に感染を起こすと強い病原性を発揮するような微生物も少なくない.したがって特異的であれ非特異的であれ,これら病原微生物に対する防御機構が生体には必要とされ,事実円口類以上の脊椎動物のすべてにこの防御機構が存在していることが証明されている.
 生体の免疫能とは,病原微生物に対する防御機構を含め,自己の体を形成する組成以外の細胞成分あるいは化学物質に対し,それを非自己と認識し,特異的・非特異的とを問わず何らかの形で非自己の成分に対する排除反応を引き起こす能力であると理解しておく.最も高等な脊椎動物に位置するヒトでは,やはり免疫能を担当する機構が高度に発達し,複雑な調節機構を有するネットワークを形成し外界の微生物の侵襲より身を守り,一個体として生物界に生存可能な条件が満たされていると言える.自己免疫疾患や悪性腫瘍の発症は,このような複雑な免疫調節機構の破綻が原因であると考えることもできる.一方これから話題にしていく原発性免疫不全症候群とは,先天的に免疫能を担当する機構の一部あるいはすべてに欠陥が生じたときに発症する,外界の病原微生物に対する免疫反応の欠落による易感染性を主徴とした疾患群である.

技術講座 生化学

血清蛋白分画

著者: 山岸安子

ページ範囲:P.231 - P.236

 ヒトの血清中にはアルブミンをはじめ免疫グロブリンや補体成分,α1,α2,β分画に泳動されるグロブリンなど,現在までに明らかにされている蛋白成分は80種類にも及ぶと言われている.これらの蛋白成分を分画する方法には大きく分けて表1に示したような方法があるが,これらの方法はいずれも血清蛋白の性状を利用したものである.すなわち,蛋白質の有機溶媒や,強酸,強アルカリ溶液,熱に対する沈殿性などを利用した沈殿法や,電解質溶液における表面荷電から分析する電気泳動法,分子の大きさや重さから分析するゲル濾過法や超遠心分析法などがある.また,これらの方法に抗原抗体反応を利用した免疫化学的分析法など方法の種類も多い.
 しかし,日常臨床検査法として最も用いられている方法は,セルロースアセテート電気泳動法や免疫電気泳動法であり,これらの分画により血清蛋白成分に異常が認められた場合に,いろいろな分画方法を利用して検索が進められ,臨床診断の一助となり,治療,経過観察,予後判定の診断に応用される.したがって,血清蛋白に異常があるか否かスクリーニングするセルロースアセテート電気泳動法は重要な日常検査法であり,また,この方法によって得られる5〜6分画値の成績は,ほかの酵素活性測定など単項目の測定から得られる成績より臨床的意義は大きく,この分画法をマスターすることは重要である.ここでは,セルロースアセテート電気泳動法について技術解説する.

検査法の基礎理論 なぜこうなるの?

白血球の顆粒—好酸球と好塩基球

著者: 木村郁郎 ,   谷崎勝郎

ページ範囲:P.215 - P.220

 好酸球,好塩基球はいずれも血液細胞であり,生理的条件下では主として末梢血液中に存在する.なんらかの病的条件が出現したとき,反応局所への両細胞の遊走や末梢血液中の両細胞の数的変動が観察される.好酸球,好塩基球が関与する病的条件や疾患はかなりの数にのぼるが,なかでもアレルギー性疾患における検討が最も盛んに行われている.アレルギー性疾患では,末梢血液中の両細胞の数的変動や反応局所への遊走状態等のin vivoの観察以外に,in vitroでの両細胞顆粒から遊離される物質の測定や形態的変化の観察も行われている.本項では,まず好酸球,好塩基球の観察方法について比較検討し,ついでin vitroでの実験方法についても簡単に述べてみたい.

分離分析シリーズ・2

クロマトグラフィーの基礎理論—ガス,高速液体クロマトグラフィー

著者: 等々力徹 ,   松本宏治郎

ページ範囲:P.221 - P.225

 クロマトグラフィーの利用は,約80年前ロシアの植物学者Tswettが,イヌリンや炭酸カルシウムを用いて植物色素を分離したのが最初とされている.溶媒抽出法の洗練された手技と考えられるクロマトグラフィーは,多成分混合系より各成分を分離定量できる画期的な方法であり,複雑な混合系である生体成分の分析への応用も多岐にわたる.本稿では,カラムを用いたガスクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーについて,その基礎的な理論を解説し,二,三の応用例を紹介する.

選択培地の機構・1

腸内細菌

著者: 横沢光博

ページ範囲:P.226 - P.230

 多くの菌種が混在している臨床材料から,特定の菌種を純培養として分離するということはたいへんなことである.特に糞便などでは,やたらに大腸菌,その他の常在菌が発育して目的とする菌種を探すのにたいへんな手間がかかる.そこで特定の菌種のみを増殖させて,他の菌種は例え存在していても集落をつくれないように巧みに工夫した特別な培地がある.その組成は目的とする菌種の特殊な生化学的性質を利用して集落を特徴づけるか,他の菌の増殖を阻害するような物質を加えて,目的とする菌種の増殖をはかるようにした培地で,我々はこのような培地を選択分離培地と称して日常臨床細菌検査に頻繁に利用している.このような選択分離培地をいろいろ組み合わせることによって,ルーチン検査を能率よくすすめることができる.しかし,選択分離培地の種類は多く,その組成はいろいろな物質が処方されていて複雑である.
 選択分離培地を使用する場合に,まず選択分離培地に含まれている培地成分の必要性と,その相互作用を理解し,機構を知ることができれば,使用上どのような点に注意しなければならないかということが自然と明らかになり,市販培地を使う場合の参考となるので重要なことである,機構の異なる3種の培地,SS寒天培地,XLD寒天培地,亜硫酸ビスマス寒天培地について解説する.

最近の検査技術

簡易同定キットによる細菌の同定

著者: 吉崎悦郎 ,   坂崎利一

ページ範囲:P.240 - P.244

 日和見感染が主体を占める現在の感染症では,患者の疾病と原因菌の種類とは無関係で,個々の患者の診断及び治療には原因菌の詳細な同定は不要である,臨床細菌検査室で菌種の同定を必要とするのは,(1)伝染病及び特殊な感染症 (2)菌血症,敗血症及び髄膜炎 (3)院内感染が疑われる場合とその疫学調査 (4)感染の再発が反復性のものか,再感染によるものかを診断する場合 (5)薬剤感受性に関するデータの収集で,特に(3),(4)については菌種をさらに生物型,血清型またはファージ型にまで細分する必要がある.
 これらの同定には通常自製された試験管入鑑別培地が用いられてきたが,最近のような複雑化した細菌の分類学においては,同定に要するテストの種類は数限りなく,臨床細菌検査室で限られた経費と技術者の能力では,よほど特徴的な性状を持つ菌種でなければ分離菌を正確に同定することはできない.この点で,近年開発された数値同定法を導入し,それに必要な各種テストをキット化した"簡易同定キット"は,臨床細菌検査における菌種の同定をきわめて容易にし,かつ正確度を高めた.

マスターしよう基本操作A

血清補体価の測定法

著者: 稲井眞彌 ,   赤垣洋二 ,   安田玲子

ページ範囲:P.249 - P.256

1.補体価測定法の原理
 血清補休価の測定は補体の全成分(C1〜9)の活性と,各種の補体系制御因子の活性を全体として把握する方法である.補体価はヒツジ赤血球(E)と,対応する抗体(A:ヘモリジン)とを反応させて作った感作ヒツジ赤血球(EA)を用い,補体の溶血活性で表わす.補体の溶血活性測定には,反応系に加えたEAの50%を溶血させるのに必要な補体量を求める50%溶血法が用いられる.
 補体価の測定法はMayerの方法が基準となっている.その原法では全量7.5mlの至適濃度のCa2+,Mg2+を含むpH7.4,イオン強度0.147のゲラチンベロナール緩衝液中で,5×108個のEAの50%を37℃,60分間に溶血させる補体量を1単位(1CH 50)と規定されている.このような条件で血清1.0ml中に含まれる補体量を測定し,血清CH 50値とする.

マスターしよう基本操作B

pHメータの使い方

著者: 大澤久男 ,   𠮷野二男

ページ範囲:P.257 - P.264

 ガラス電極を使用するpH(ピーエチ)メータは,体液(血液,尿,細胞液など)のpH測定,工業排水の水質管理,さらには,分析化学における中和滴定の終点の検出手段として使用されるなど,その用途は広範にわたっている.そこでpH測定方法1)が同一基盤のうえに立ち,できれば国際的にも一致した方法1)となるよう検討され,昭和32年にpH測定方法の日木工業規格1)(JIS)が制定された.その後,昭和53年に全面的に改正されたJISが最も新しい規格である(264ページ参照).
 本稿では,ガラス電極,比較電極および温度補償電極を一体とした複合電極2)を使用したpH測定操作を述べる,特に,pHメータは,国の検定を受ける義務があり,計量法施行令等の一部改正(昭和50年)によると,検出部(ガラス電極)は1年,指示部は3年と決められている.ガラス霊極は,破損するまで使用するのではなくて,規定に従って検定を受け,正しく計器を取り扱っていただきたい.

知っておきたい検査機器

嫌気チャンバー—フォーマ社嫌気培養装置モデル1024

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.265 - P.269

 嫌気チャンバーは嫌気的条件を維持している気密ボックス内で,細菌の培養手技を行ったり,ボックス内に内蔵している孵卵器内で嫌気培養ができるように設計されている機械である.最近では従来からの嫌気ジャーを用いる方法に加え,嫌気チャンバーを導入する施設が目立ってきた.この理由としては嫌気培養の検査件数が増加したこと,クロストリジウム ディフシールのような厳しい嫌気条件下でないと,培養が困難な菌種の検査が依頼されたりすることによると思われる.嫌気チャンバーは多くのメーカーで製造されているが,ここでは世界で初めて嫌気培養を総合システムとして開発したアメリカのフォーマ社製嫌気性培養装置モデル1024につき解説してみたい.

おかしな検査データ

X-R管理図が発見したエステル型コレステロール用硫酸の異常

著者: 伊沢江利子 ,   大場操児

ページ範囲:P.270 - P.272

 今日,エステル型コレステロールの酵素測定法は多く利用されているが,Zak-Henly変法は,ステップ操作が多いにもかかわらず測定時に安定した結果が得られ,管理しやすい検査法の一つと考えている.
 本院のX-R管理図方式は,管理用検体として自家製プール血清,モニトロールI,IIの3種類を用い,それらの測定値に,標準液の吸光度も精度管理法の一つとして管理図表に記入している.

トピックス

細胞の核質成分の抗原分析の進歩と抗核抗体

著者: 岩田進

ページ範囲:P.238 - P.239

 抗核抗体検査においてよく問題にされることに,使用する細胞核の種類により染色パターンが異なったり,同じ核材でも血清希釈倍数が異なると染色パターンが変化することがある.また同一患者血清でも核材によって陽性になったり陰性になったりする場合が時に存在することがある.これらの問題は,細胞核の成分の違い(処理上の差もあるが)と,患者血清中に存在する抗体の特異性の組み合わせで起こると考えられている.細胞は通常細胞質と核成分からなり,核成分はクロマチン成分,核質成分及び核小体成分とからなる.
 クロマチン成分にはDNA,DNP,ヒストンなどの成分が含まれることが知られているが,核質は最近研究が進み,非常に多くの抗原分析がなされてきている.現在報告されているものの中で臨床的意義があるとされているものだけでも10〜12種に及んでいる.核質成分は,酸性核蛋白抗原とかENA(Extractable Nuclear Antigens;可溶性核抗原)で一括して論ぜられてきたが,細かい抗原分析が進み,臨床診断に用いられるようになってきた.すなわち,Sm抗原,Ku,Jo-1,SS-A,SS-B,Scl-1,Og,Ki,Mi,PM-1,RANA,Su,Ne,RNPなどが報告されている.

院内感染シンポジウムより

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.239 - P.239

 昨年10月,札幌にて第28回日本臨床病理学会総会が開催されたが,その中で院内感染のシンポジウムが行われた.院内感染という用語は臨床細菌学に携わっている人々にとっては,そう目新しいものではない.院内感染の問題がこのように長年にわたって学会シンポジウムに取り上げられる理由は,医療の発達に伴い,増加の一途をたどるcompromised hostに対して,この問題が重要であることによる.
 患者の検体を総合的に扱う検査室では,院内感染の監視が可能である.小林は細菌検査のデータより次のような場合には院内感染の可能性があり,検査室として臨床側に通告するとともに,進んで院内感染防止に協力すべきであると述べている.

我らのシンボル

3H精神—Veritas vos Liberabi 東京文化医学技術専門学校

ページ範囲:P.245 - P.245

 本校は永年にわたる女子教育の伝統を持つ東京文化学園を母体としており,昭和27年医学の進歩と医療技術の革新,さらには医療分野での女性の進出を予見し,検査技師を養成する専門の学校として創設されました.
 この母体である東京文化学園は創立者森本厚吉と,初代校長新渡戸稲造によって建てられた教育精神を基とし,以来五十数年の今日に至るまでこの精神が脈々と受けつがれてきました.その精神というのは"3H精神"と呼ばれており,Head,Heart,Handの頭文字を指しています.すなわち高い理想に向かって学問の真理を探究する"寛き心"を持ち,学び得た知識を活用できる"働く頭"をつくり,体得した技術を生かす"勤しむ双手"を持つ,新時代を担うにふさわしい女性を育成することを目的として努力をするということです.森本,新渡戸両師はともにクラーク博士の愛弟子であり若人の教育,特に新しい女性教育に理想をもやされてこの学園を始められました.この学園創設当時に建てられた教育精神は正に検査技師の教育理念そのものであるが,福岡良男校長は,検査技師にはもう一つ大切な"H"がある.技師にはヒューマニズムが大切であるからこのHを加えて4H精神で行こう,と言われています.

自慢の職場

基礎系学科と検査部が一体となった体制—虎の門病院検査部

著者: 江部充

ページ範囲:P.246 - P.247

1.検査部の歴史
 虎の門病院は昭和33年の開設ですから,もうかれこれ24年になります.その間の急速な医療の変遷の中でいろいろな困難な問題にぶつかり,あるものは解決し,あるものは未解決のまま,牡蠣殻を船体に一杯着けた巨船のごとくpatientorientedの旗印を掲げて一生懸命荒波の中を進んでおります.
 この病院の出発当初は検査部は一本でした.島峰徹郎先生(現東大教授・病理学)が部長で化学,病理,細菌,生理,血液,血清(輸血を含む)の6室があり,検査士(当院では検査技師と言わない)が20名足らずでした.当時としては450床の病院でこれだけの数の人たちが専属していたことは驚くべきことで,まさに自慢の職場と言えたでしょう.その後,川崎に出来た分院250床,外来約2,000人/日から出される検査に対応すべく,現在は図2に示したように生理,病理・細菌,臨床化学,血液・血清,内分泌の5部に分けられ,5人の部長のもとに総勢196表1)名が働いております.

検査を築いた人びと

X線透視法を開発した ウォルターBキャノン

著者: 酒井シヅ

ページ範囲:P.248 - P.248

 X線透視法の発明で,診断はより正確になり,医学の進歩に大きく貢献したことは改めて言うまでもない.この方法を考案し,実用化の道を開いたのが,キャノンである.

コーヒーブレイク

"リバイバル" or "ナウ"

著者:

ページ範囲:P.220 - P.220

 ある銀行の調査によると新しい素材に押されて忘れ去られつつあったものが,最近ブームに近いくらい見直されているものがあるという.
 例えば,衣料品の天然繊維,食料品の豆乳や焼酎,照明といえば螢光灯が通り相場で,白熱電球などは借住いか建設現場の飯場くらいと思っていたが,最近は各種照明に白熱電球がモテモテなのだという.その他漢方薬の人気が増し年間300億円以上もの売上げがあるのだという.これらはいずれも昔なつかしい商品でリバイバルブーム到来かと思われる.しかしこれにはそれなりの理由があり,天然繊維の場合,ファッション性を増し,着くずれを少なくし,焼酎は味をよくして,若者向きに入れ物などにも工夫をした.白熱電球は寿命を倍に増し,白熱電球の持つ物の色合をそこねないなどのPRを重ねたという.

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略語シリーズ

ページ範囲:P.230 - P.230

LPL lipoprotein-lipase;リポ蛋白リパーゼ.蛋白に結合した中性脂肪を加水分解する酵素.
LH Iuteineizing hormone;黄体形成ホルモン.間質細胞刺激ホルモンinterstitical cell stimulating hormone(ICSH)とも言われる.下垂体前葉から分泌され,排卵を起こさせ,黄体形成を起こさせる.また,男性では睾丸間質細胞を刺激して男性ホルモンを分泌させる.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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