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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術13巻12号

1985年12月発行

雑誌目次

病気のはなし

原発性糸球体腎炎

著者: 重松秀一

ページ範囲:P.1014 - P.1019

 「肝腎かなめ」という言葉があるように腎は身体にとって極めて大切なものであり,正常人では余裕をもたせて一対用意され体液の浄化に主役を演じている.この任務を果たすために腎内の濾過器である糸球体には多量の血液が流れ込んでいる.糸球体にはしたがって,炎症をはじめとしていろいろな障害が起こりうる.体の他の臓器に障害があり,糸球体にも併せて障害の起こる場合もあるが,糸球体だけに炎症がみられる場合には本テーマである原発性糸球体腎炎(原発性腎炎)という言葉が使われる.
 腎炎とはどんな症状を呈するものなのだろうか.表1のように腎炎はいくつかの症候群としてとらえられる.病気の程度の軽いもの,進行が早くて死に至る危険性の高いもの,進行は遅いけれどもだんだんと腎臓の機能が悪くなるものなどさまざまである.

技術講座 血液

血液凝固検査9—凝固インヒビターの測定(3)—プロテインC

著者: 鈴木宏治

ページ範囲:P.1037 - P.1042

 一般に血管内での血液凝固反応は血管の損傷部位に限られた反応であり,そこ以外での凝固反応は,血流による凝固因子の希釈や,また血液中の凝固インヒビターによって阻止される.血管内では不要な凝固反応は,このように制御され,血液の流動性は維持されているが,しかし凝固の制御系に異常が生じたとき血管内は凝固反応が著しく亢進した状態(hypercoagulability)になる.播種性血管内凝固症(DIC)などは,典型的な後天性の凝固制御系の異常例である.
 最近,凝固インヒビターの先天性の欠損症により,止血異常をきたす症例が数多く報告されている.アンチトロンビンIII(AT III)欠損症,プロテインC欠損症,プロテインS欠損症などがそれである.これらの因子は,いずれも止血機構上非常に重要な凝固インヒビターであり,止血異常をきたす疾患の診断において必須の検査項目になりつつある.

生理

アナログデータの読み方3—心エコー図と心機図

著者: 島田英世

ページ範囲:P.1043 - P.1047

 循環器領域における検査法として,心エコー図法と心機図法は,心電図法と並び最も基本的な検査法であり,日常臨床の場で広く用いられている.
 アナログデータという観点からみた場合,直視的なイメージにより臨床的な診断を下すことができるのは,心エコー図法である.特に,断層心エコー図法が登場してからは心臓内の構築状態を立体的に観察できるようになり,その診断的価値は倍加したといえよう.一方,心機図法は,むしろ計測値による診断的情報,すなわちデジタル診断法としての価値があるものと考えられる.
 このような観点から,本稿においては,心臓のイメージ診断法としての心エコー図法と,それを補う情報としての心機図法とについて解説を加えようと思う.

輸血

緊急輸血の際の検査

著者: 竹内直子

ページ範囲:P.1048 - P.1052

 検査室で輸血用の血液を用意するのは,次のような場合がある.

病理

臓器別染色3—骨髄・リンパ節

著者: 舟橋正範 ,   社本幹博

ページ範囲:P.1053 - P.1057

骨髄
 骨髄穿刺液から得られる塗抹標本中には,赤芽球系,顆粒球系,単球系,巨核球系,リンパ球系の各細胞と形質細胞,細網細胞,マクロファージなどが見られる.これらの細胞の観察には,May-Grünwald-Giemsa染色,Wright-Giemsa染色が多く用いられている.しかし,限られた標本(材料)で目的に応じ能率よく特殊検査(染色)を行わなければならない.
 以下に主な染色法について紹介する.

検査法の基礎理論 なぜこうなるの?

ラテックス近赤外比濁法

著者: 庭野明子 ,   中甫

ページ範囲:P.1021 - P.1026

 臨床検査における微量成分の定量には,従来からradioimmunoassay法(RIA),enzyme immunoassay法(EIA)などが用いられている.しかし,RIAは検出感度が高い反面,放射性同位元素(RI)を使用することから数々の制約がある.これに対してRIを用いないEIA1)が開発されたが,操作性,所要時間,正確度などに問題が残されている.
 ラテックス凝集反応は,ラテックス粒子を担体とし,抗体(または抗原)を結合させ,それらに対応する抗原(または抗体)との凝集の有無から抗原(または抗体)を検出しようとするものであり,1956年SingerとPlotz2)がリウマチ因子の検出に応用したのが始まりである.その後,妊娠反応,線維素分解産物(FDP)などにも応用されたが,これらはガラス板上で行われ,凝集の有無を肉眼的に判定するため,非常に高い感度を持ちながら一般に(+)か(-)かを判定する定性的なものであり,定量的に用いても凝集終末点の段階的検出のため,半定量にすぎなかった.

細菌の生物学的性状・2

著者: 島田俊雄

ページ範囲:P.1027 - P.1030

マロン酸利用テスト
 多くの細菌は炭素原として有機酸を利用することができるが,それらが利用できる有機酸の種類は菌種または菌株によって異なる.細菌の有機酸の利用性は,その分子量と分子構造に関係し,細胞壁および細胞膜を通過しえない分子量や分子構造のものは利用することはできない.有機酸の分子構造によって菌が有機酸を選択する性質はきわめて微妙で,同一の分子構造をもつ有機酸でも立体異性のものは利用できないことがしばしばある.したがって,有機酸の利用性は菌の分類や同定の手段として用いられる.普通,菌の同定に用いられる有機酸は,マロン酸,クエン酸,酢酸および酒石酸である.それらの有機酸の利用性のテストには原則として蛋白成分を含まない合成培地が用いられる.

フェニルケトン尿症の検査法

著者: 周山逸人 ,   一色玄

ページ範囲:P.1031 - P.1035

 フェニルケトン尿症(以下,PKU)はフェニルアラニン(以下,Phe)をチロシン(以下,Tyr)に転換するフェニルアラニン水酸化酵素の先天的欠損によって起こる疾患であり,常染色体性劣性遺伝型式をとる.体内にはPheが蓄積し,尿中にはPheのほか,Phe誘導体が大量に排泄される(図1)1).臨床的には精神薄弱,痙攣などの中枢神経障害,赤毛,色白などのメラニン色素欠乏,また体液中のフェニル酢酸の増加によるネズミ様体臭,尿臭が特徴である.
 本症は脳障害をきたす以前に発見し,低Phe食で治療することにより諸症状を予防することができるため,我が国においては1977年(昭和52年)10月からGuthrie法2)を用いる新生児マススクリーニングが開始された.このような新生児マススクリーニングが実施されることによりもたらされた新知見の一つは,PKU以外の高フェニルアラニン血症の存在である.Guthrieは,PKU 2に対し約1の割合で高フェニルアラニン血症が発見されると述べている1〜2).この高フェニルアラニン血症は,普通食下での血中Phe濃度が持続して4mg/dl以上のものと定義されているが,単一の疾患単位ではない.この疾患群に含まれる諸疾患とPKUとの鑑別診断3)は治療上,不可欠のものである.
 以下,PKUの病態と高フェニルアラニン血症との鑑別についての概略を述べる.

ラボ・クイズ

肝腫大し肝機能に異常を示さぬ寄生虫性疾患

ページ範囲:P.1058 - P.1058

マスターしよう基本操作

医用電気機器の漏れ電流の測り方

著者: 小野哲章

ページ範囲:P.1061 - P.1068

 ME機器を安全に使用するには,次の4条件,①安全な機器を導入する,②設備を整備する,③正しい使用法を身につける,④定期的に安全性をチェックする,が必要である.
 ①,②の条件は管理者の責任であるが,現在ある機器を現在の設備で安全に使うのは現場の責任であり,この意味で③,④は使用者が心がけなければならない問題である.

基礎実習講座

尿検査試験紙の管理と使用上の注意点

著者: 五十嵐すみ子 ,   福原信介

ページ範囲:P.1069 - P.1072

 尿検査試験紙法は簡便な検査法として広く用いられ,今や尿検査は試験紙法で行うもの,という概念が成立してしまっている観がある.しかし,尿検査試験紙(試験紙)を使用する場合に精度管理を実施していないことが多い.すべての臨床検査試薬,機器には常に完壁なものを求めるのは,現在のところは困難なことが多い.検査を担当する立場の者は常に細かい心配りをしながら,精密さ,正確さの保たれた成績を提出するために工夫,努力を重ねている.それが精度管理の手法であり,使用試薬,機器の状態を客観的にチェックして,異常変化がないことを確認しながら日常の検査業務を行っている.
 試験紙は,その形態的特徴のために種々の制約を受け,各検査項目別に貼付してある試薬は互いに干渉し合うことがある.簡便でありながら注意深く使用しないと問題点が多い.また最近普及してきている反応を機械で読み取らせる方法は判定の再現性が良好といわれているが,試験紙がベースになっているので,肉眼比色と同様な問題がある.どんな機械でも使用年数がたってくれば故障箇所が出現し,我々の経験では,尿検体は血清検体より腐蝕性が高くトラブルの原因になるので,試験紙と機械の精度管理が必要になってくる.
 ここでは肉眼判定用手法について筆者が日常的に実施している試験紙の精度管理法のみを紹介し,使用上の注意点を述べる.

肉水ブイヨン,肉水寒天の作り方

著者: 跡部ヒサエ

ページ範囲:P.1073 - P.1076

 微生物学の基本的な二つの操作である分離(単離)と増殖は,人工的な環境下すなわち培地を用いた培養という操作により得られる.したがって培地は,微生物を取り扱うものにとって欠くことのできない重要な道具である.細菌の培養技術の進歩によって,現在は多数の種類の乾燥培地(粉末培地)あるいは生培地が開発されており,初心者であっても培地の作製で失敗することは少なくなった.それはたいへん好ましいことであるが,反面,培地の基礎知識や性能を理解する努力が欠けてくることにもなりかねない.
 さて,本題の「肉水ブイヨンと肉水寒天の作り方」という課題であるが,この古典的な培地は,生肉からのエキス抽出に長時間を要し,手技の煩雑のために,今日ではおそらく特殊な研究室を除いては作られることがないと思われる.しかし,各々素材を組み合わせて作る本培地は,培地の構成と知識を理解する基本となるものであるから,学生時代の復習のつもりでしばらくお付き合いいただきたい.

トピックス

過換気症候群

著者: 谷本普一

ページ範囲:P.1078 - P.1079

概念
 過換気症候群(hyperventilation syndrome)とは,不安,興奮,恐怖,緊張など精神的要因により,発作性に過換気(過呼吸)が起こり,動脈血中のCO2が過剰に呼吸中に放出される結果,動脈血CO2分圧の低下とそれに伴う呼吸性アルカロージスが生じ,呼吸,循環,筋,神経系の異常をきたす機能的疾患である.過換気症候群のほか,過剰換気症候群,過呼吸症候群などとも呼ばれている.
 本症候群の今日的意義は,定型的な急性発作を示す疾患としての表現よりも,不定愁訴を呈する日常生活者の中に,消長しながら潜在的に存在する病態としての意義であろう.ストレスの多い現代社会では,本症候群はさらに増加する可能性がある.

ひとくち英会話 English Conversation in Your Laboratory

Visiting a hospital laboratory (1)

著者: 𠮷野二男 ,   常田正

ページ範囲:P.1080 - P.1081

サトー:はじめまして.日本から来たサトーです.
技師:はじめまして.私が当検査室の主任のハリソンです.

ザ・トレーニング

阻害剤の阻害型式およびKiの求め方

著者: 青木芳和

ページ範囲:P.1084 - P.1086

 臨床検査の分野において酵素は病態の診断および経過の観察に利用されているだけではなく,近年になって酵素法の試薬としてグルコース,コレステロールをはじめとする多くの血清成分の測定に用いられている.一方治療を受けている患者の血清や尿には,しばしば酵素活性に影響を及ぼす物質が存在することが知られている.このような観点から今回,阻害型式および阻害定数(Ki)の求め方に焦点を合わせてトレーニングを試みた.

検査技師のためのME講座 エレクトロニクス入門・9

ダイオード・トランジスタ回路の図式解法

著者: 田頭功

ページ範囲:P.1087 - P.1089

 抵抗・コイル・コンデンサの回路素子において,それぞれの素子に流れる電流とそれらの端子電圧との間には比例関係が成り立ちます.このような素子は,線形回路素子あるいは単に線形素子と呼ばれます.オームの法則は,このような線形素子にのみ適用されます.
 電流と電圧の関係が比例しないような回路素子は,非線形素子と呼ぼれ,オームの法則を用いることができません.

検査を築いた人びと

—脳腫瘍の診断に脳動脈撮影を取り入れた—エガス・モーニス

著者: 深瀬泰旦

ページ範囲:P.1020 - P.1020

 1949年モーニスは,ノーベル生理学・医学賞を受賞した.その受賞理由は,残念ながらこれから話題にしようとする脳血管撮影の業績ではなく,もう一つの大きな業績である「精神病に対する前頭葉ロボトミーによる治療」に基づくものである.
 エガス・モーニスは1874年11月29日に,ポルトガルのアヴァンサに生まれた.本名はアントニオ・デ・アブレー・フリーレというが,12世紀のムーア人に対するポルトガルのレジスタンスの英雄エガス・モーニスにちなんで,彼の祖父が洗礼に際して名づけた.のち政治問題に関心をもった学生として,これをペンネームに用い,今では本名よりも有名になってしまった.

私たちの本棚

闘病と愛の記録—腎臓病・ネフローゼとの闘い—加藤 昌・雅子著

著者: 坂本ひろみ

ページ範囲:P.1036 - P.1036

 この本は私の教え子のご両親が出版した本です.その教え子—加藤さんが卒業してだいぶたってから読ませていただいたので,彼女のご両親がこういう経験をされていたとは在学中には全く知りませんでした.この本には,ネフローゼにかかった父親ととりまく人々との交流や病気の記録が書かれています.
 私たち検査技師は職業柄,一般の人以上に病気に対してかかわりを持っていますが,では実際にネフローゼがどんな病気なのかを知っている人は少ないのではないでしょうか.私も知らない一人だったのです.

けんさアラカルト

検査伝票の工夫

著者: 久野豊 ,   川畑貞美

ページ範囲:P.1082 - P.1083

他部門との関係での工夫
 現在,病院で使用されている検査伝票は,多種多様であり,各施設の規模や特徴に応じていろいろな工夫がなされている.当院も,昨年(1984年)の5月に開院し,それに伴い病院の特徴を生かした,使いやすい検査伝票の作製を心掛けたので紹介する.
 まず,検査伝票を作製するにあたり大切なことは,医師,看護婦,医事課事務員との連絡を密にとらなければならないことである.臨床検査が多種多様に増大している現在では,検査伝票は35〜50種類もあり,検査を依頼する医師の労力やその成績の読みやすさ,また検査点数を計算する医事課事務員の労力をも考慮し,より簡便なものにしなければならない.さらに採血業務を担当する臨床検査技師および看護婦にとっては,種々な採血容器に貼付する検体ラベルへの患者氏名,日付,依頼科名記入などの繁雑さも考えなければならない.

りんりんダイヤル

淋菌検査の検体の輸送

著者: 紺泰枝

ページ範囲:P.1091 - P.1091

 問 淋菌検査の検体を他施設へ輸送するのに,どのような方法があるのでしょうか.輸送用の採取容器で市販品をご紹介ください.

コーヒーブレイク

職場における人間関係

著者:

ページ範囲:P.1026 - P.1026

 「智に働けば角が立つ.情に棹させば流される.意地を通せば窮屈だ.とかく人の世は住み難い.」(草枕)夏目漱石が,いみじくも述べていることは,今の世にもすっかりあてはまる.住み難さが高ずると引っ越したくなるといって,いつも逃避するわけに行かない.生活して行かねばならない.
 職場における不和の原因も,ほとんどがこの人間関係にある.表面上は,忙しいとか給料が少ないとか言って,一身上の都合で辞めると言っているけれども,その根底には人間関係に問題がある.安易に職場を去って,再就職できるような時代にはそれでよいけれども,次第に就職難になってきている今は,我慢しなくてならない.

ME図記号に強くなろう

16センサ(1)光センサ

著者: 小野哲章

ページ範囲:P.1030 - P.1030

 熱,光,力などの物理量を検出する素子をセンサ(sensor)と呼び,センサを用いて(生体)物理現象を電気現象に変換するものを変換器(transducer)と呼ぶが,両者は区別せずに使われることが多い.光のセンサとしては,光導電効果(CdSなど),光起電効果(光電池など,本欄第12回参照),光電子放出効果(光電管など,本欄第8回参照)を利用したものがある.
 ①光導電セル:光が当たると電気抵抗が下がる素子で,硫化カドミウム(CdS),セレン化カドミウム(CdSe)などがある.指先光電脈波計などに使われる.aが正式であるが,bもよく使われる.

エトランゼ

英語にも方言がいろいろ

著者: 常田正

ページ範囲:P.1081 - P.1081

 実際に使われている英語がさっぱりわからない理由のひとつに,方言差があります.日本の学校では,このことをあまり教えてくれません.
 米語ではwaterが「ワラ」,butterが「バラ」,thirtyが「トリー」,operatorが「アパレロ」のように聞こえます.ハワイの人たちは"What's the matter withyou?"を「ワッスマラユー」と発音します.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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