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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術14巻5号

1986年04月発行

雑誌目次

形態学的検査と技術 血液と病理

カラーグラフ

ページ範囲:P.383 - P.386

 形態学的検査においては,形では区別できなくても,その抗原性,産生物質,そこに起きる変化などを指標として,色として可視的にとらえることができる.以下に,写真でその実例をお届けする.

血液

[1]血液形態学的検査の動向

著者: 三輪史朗

ページ範囲:P.388 - P.389

はじめに
 血液形態学的検査は,古くから患者の診療上,諸臨床検査の中で医師からの要請の大きな検査であった.諸種の貧血,赤血球増加症,白血病,無顆粒球症,伝染性単核細胞症などの診断に不可欠であり,また細菌感染での白血球増加(好中球増加,核左方移動)は診断の手助けとして大いに役だつことに,今も変わりはない.しかし,検査法は日進月歩であり,古い検査法で残されているものもある反面,種々の新しい検査法が開発利用されている昨今である.その詳細は本特集号のそれぞれの執筆者によって述べられるので,ここでは大づかみに血液形態学的検査の動向について述べよう.

[2]一般血液形態学的検査

[A]普通染色

著者: 秋山淑子

ページ範囲:P.390 - P.393

 一枚の末梢血液塗抹・染色標本から,赤血球の大きさ,形,色調,白血球の概数,百分率,形態異常,血小板の概数,形態の異常などたくさんの情報を得ることができる.しかしながら,信頼できる情報を得るには,上手に塗抹され,良好に染色された標本を作ることが前提条件となる.
 本稿では塗抹標本の作製を含めて良い標本を作るための普通染色について述べてみる.

[B]末梢血液像の見かた

著者: 相賀静子

ページ範囲:P.394 - P.397

はじめに
 血液像は一滴の血液から作られる.その一枚の血液像にはたくさんの情報が秘められている.検査の中で古くから実施されているが新しい疾患に対しても,この一枚の末梢血液像から確定診断ができるといっても過言ではない.それには検査する私たちのきめ細かな見かた,新しい検査とのかかわりを,常に考えながら観察してゆくことが大切である.普通染色による末梢血液像について述べる.

[C]骨髄像の見かた

著者: 亀井喜恵子

ページ範囲:P.398 - P.406

I.正常および異常
 はじめに
 血液の病的変化については末梢血液の諸検査から大方の様子を知ることができるが,造血過程における未熟細胞の様子や造血の程度を知ることは不可能である.造血臓器の一つである骨髄の一部を採取し検査することにより,いっそうの確実性が得られる.骨髄検査は血液検査の中でも重要な検査で,血液疾患の確定診断やその治療経過の観察・予後の判定などの目的で実施される.さらに,癌やその他の悪性腫瘍の骨髄転移の有無などの観察にも実施される.
 骨髄穿刺液から確実な情報を得るためには正確な細胞分類を行うことが重要であり,そのために必要な知識や観察するうえでの注意点について述べる.

[D]自動白血球分類装置による方法

1)パターン認識による方法

著者: 高宮脩

ページ範囲:P.407 - P.411

はじめに
 パターン認識法による血球分類装置は,細胞診標本の自動スクリーニング装置の研究応用からPrewittとMendelsohn(1966年),Ingram(1970年),Yang(1972年)らにより開発されたが,いずれも実用化までには至らなかった.
 1970年代以降,それまで進歩開発を遂げてきたIC技術,光電変換技術,高速コンピューターなどの周辺技術の発達と相まって実用化が可能となり,1974年頃からヘマトラック(Geometric Data社),ラーク(Corning社)が発売され,その後,Diff 3(Parkin Elmer社),ADC-500(Abbott社)が相次いで発売された.さらに,わが国でも1977年Microx(立石ライフサイエンス研究所),日立806(日立製作所)が市販されるに至った.表1に各社の血球分類装置の比較表を示す.その後,ラーク,ADC-500,Diff3は発売中止となったが,ヘマトラック,Microx,日立806は処理能力のスピードアップ,データ記憶容量の増大などの改良が加えられ,グレードアップした機種が発売されている.

2)主に血球酵素反応による分類

著者: 菅沼清

ページ範囲:P.411 - P.414

はじめに
 近年,細胞化学ならびに血球特殊染色技術の進歩に伴って,テクニコン社はそれを連続流れ分析技法と結合させた,全自動白血球分類装置Hemalog Dを開発した.本装置から得られるX-Yヒストグラムは,血球の酵素学的活性度と,血球の大きさによる白血球像であり,このパターンは疾患により異なるため,臨床的意義が高く,かつ迅速に処理できることから,広く用いられている.

3)主に血球サイズによる分類

著者: 岩田弘

ページ範囲:P.414 - P.417

 血球分類の自動化は,血球パターン認識方式1,2)と血球細胞化学反応方式3)の二つの方式によるものが進められている.これらの血球自動分類装置はいずれも血球分類機能の精度が向上しており,日常検査として十分に役だっているが,血球を塗抹染色,あるいは酵素反応を行うという操作が必要で,作業上煩雑さがあることは否めない.
 これに対し最近,血球のサイズ(容積)を利用した分類装置が開発され利用されつつある4,5).血球サイズによる分類方式は,血球計数の測定を行うと同時に各血球のサイズによるヒストグラムを作成することによって分類するもので,分類可能な白血球の種類はリンパ球,単核球,顆粒球の3種類である.この方法は,塗抹標本作製とか色素や基質によって染色を行うなどの煩雑さはまったく必要としないため操作は簡単で測定時間も短く,スクリーニング検査に適した装置である.現在使用されている代表的な機種は,コールターカウンターSP IV,V,VIタイプ(Coulter社),シスメックスE-4000,E-5000タイプ(東亜医用電子)などがある.

[3]特殊血液形態学的検査 [A]特殊染色法

1)ペルオキシダーゼ染色

著者: 西村敏治

ページ範囲:P.418 - P.421

はじめに
 ペルオキシダーゼ(peroxidase;POD)は,水素受容体として過酸化水素が存在するが,その過酸化水素の酸素を活性化して水素供与体(基質)の酸化を触媒する酵素である.

2)脂肪染色

著者: 佐藤忠良 ,   細野せい子 ,   佐々木さき子 ,   鈴木是光

ページ範囲:P.421 - P.424

はじめに
 一般脂質染色を目的とした脂質色素には,ズダンⅢ,ズダンⅣ,ズダンブラックB(SBB)などがある.SBBは1934年Lisonによって優れた脂質色素として導入され,1939年にSheehanが初めて血球に応用した1).その後SheehanとStorayら2)によって固定および染色法が改良され,最も安定した脂質染色として現在広く利用されるに至っている.
 特に白血病細胞などの同定に際しては,血球細胞内脂質に鋭敏に反応し明瞭な黒褐色の陽性顆粒として検出されることから,ペルオキシダーゼ反応と同様に診断価値の高い染色法とされている.また両者の染色所見には相関が認められている3)

3)PAS染色

著者: 佐藤正枝 ,   大場操児

ページ範囲:P.425 - P.427

目的
 PAS(periodic acid Schiff)反応はMcManus(1946年)1),Hotchkiss(1948年)2)により粘液質の組織化学証明法として報告され,1949年にwislocki3)により多糖類の証明法として血液学の分野に導入された.以来,わが国でも種々の検討がなされている.
 血球に証明される多糖類のほとんどはグリコゲンで,臨床的には主として急性白血病の病型診断と赤白血病の補助診断として用いられている.

4)エステラーゼ染色

著者: 丹羽欣正

ページ範囲:P.427 - P.431

 エステラーゼは脂肪族エステルや芳香族エステルなどを加水分解する酵素で,非特異性エステラーゼと特異性エステラーゼ(リパーゼ,アセチルコリンエステラーゼなど)に大別され,その組織化学的証明法として金属塩法,インドキシル法,アゾ色素法が開発されてきた.このうち,血液学的に応用しうるのはアゾ色素法のみで,α-ナフトール系エステルにより証明される非特異性エステラーゼ(単球中に多く存在する)と,ナフトールAS-Dクロロアセテート(酢酸)により証明される特異性エステラーゼ(好中球中に多く存在する)である.

5)アルカリホスファターゼ染色法

著者: 野本恵子

ページ範囲:P.431 - P.434

はじめに
 白血球のアルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase;Al-p)活性は主に成熟好中球に認められ,各種疾患や病態での活性が検討されてきた.特に慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia;CML)で本酵素活性が極めて低く,末梢血液像の類似する類白血病反応では高値を示すことから,その鑑別診断に不可欠とされている.また,急性白血病の病型分類の補助手段,あるいは治療効果や予後の判定にも用いられている.
 このAl-pの活性評価方法には金属塩法1)とアゾ色素法2,3)の2種の染色法があるが,簡便さ,再現性,鋭敏で鮮明な染色性などの点でアゾ色素法が優れている.アゾ色素法は,欧米で用いられているKaplow法2)とわが国の朝長法3)に代表される.最近,国際血液標準委員会(International Committee for Standardization in Haematology;ICSH)でKaplow法と朝長法が推奨法として決定された4).わが国では,この2法について過去に比較検討され,その結果,ナフトールAS-MXホスフェートを基質とし,ジアゾニウム塩にFast Blue RRを使用する朝長法が鋭敏さの点でより優れているため,標準的方法として広く普及しており,以下,朝長法について紹介する.

6)β-グルクロニダーゼ染色

著者: 木村寿之

ページ範囲:P.434 - P.438

はじめに
 β-グルクロニダーゼ(以下,β-GL)は哺乳動物のあらゆる組織や体液に存在するライソゾーム酵素の一つであり,血液中に存在するものは白血球に由来するものであると考えられており,臓器では肝,腎,脾,内分泌腺に活性が高く諸々の吸収,消化,分泌や粘液多糖体の分解生成などに関与し,特にヒトの体内ではステロイドホルモンの合成・分解に関係している.至適pHは,臓器により多少異なるが4〜5と酸性側にある.
 一般的に他のライソゾーム酵素同様,正常では不活性状態にあり,病態時(細胞の変性,崩壊時)などに活性化される.肝の転移性肝癌,ウイルス性肝炎,肝の中毒性壊死などで上昇し,腎尿細管細胞,尿路の上皮のライソゾームから尿中に排泄されることも多い.また子宮頸部癌患者の腟液に多く見られる.

7)鉄染色

著者: 磯川実

ページ範囲:P.438 - P.441

はじめに
 血液塗抹標本で鉄染色を行ったのはGrünberg(1941年)が最初である.彼は末梢赤血球内に可染鉄顆粒が存在することを報告し,これをジデロサイト(siderocyte,鉄赤血球)と名づけた.その後,DacieおよびDoniach(1947年),McFadzean(1949年〉らにより骨髄中ヘモグロビン生成赤芽球内にもベルリン青で染色される鉄顆粒が証明され,Kaplanら(1954年)により鉄芽球(sideroblast)と名づけられた.鉄芽球の変動,特にその増加がヘム合成障害,鉄代謝異常に起因する一連の疾患の病態解析に有用であることが明らかになるに従い,鉄芽球の検索はジデロサイトに比べより重視されるようになった.Bowman(1961年)は鉄芽球の中で鉄顆粒が核周にリング状に配列するものを環状鉄芽球(ringed sideroblast)と名づけ,血液疾患およびその他の疾患と関連づけて検討した.
 現在では,環状鉄芽球はその成因がほぼ解明され,鉄染色は骨髄内における環状鉄芽球の増加を特徴とする鉄芽球性貧血の診断に不可欠なものとなっている.

8)酸ホスファターゼ染色

著者: 榊尚男

ページ範囲:P.441 - P.444

はじめに
 血球中の酸ホスファターゼ酵素の細胞化学的証明法は古くから試みられ,1939年Gomori1)に始まり,Rabinovitch2,3)らによって血液学の領域に導入された.証明法には大別して金属塩法とアゾ色素法の2法があるが,光学顕微鏡レベルでは一般に特異性,染色顆粒の鮮明さ,再現性,手技の簡便さなどに優れるアゾ色素法が用いられている.
 本法は今までに多くの研究者によって改良が加えられ,現在数多くの優れた方法がある.しかし用いる試薬の違いにより鋭敏性,陽性顆粒の発色など染色態度に差異があり,諸種血液疾患鑑別に際し方法の統一が望まれていた.1978年パリにおいて第1回国際血液標準化委員会(International Committee for Standardization in Haematology;ICSH)の細胞化学専門委員会(Expert Panel of Cytochemistry,委員長:新潟大学第1内科・柴田昭教授)が開かれて細胞化学的特殊染色法の標準化について討議され,①ペルオキシダーゼ,②アルカリホスファターゼ,③酸ホスファターゼ,④非特異的エステラーゼ,⑤ナフトールAS-Dクロロアセテート・エステラーゼの5種類についての標準化の方向づけがなされた.以来,カナダ会議,岐阜会議と慎重かつ活発な討議,検討が重ねられ,1982年標準化法が決定,1985年に血液学領域における細胞化学の国際標準法が発表された4)

[B]超生体染色

著者: 安達真二

ページ範囲:P.445 - P.447

 超生体染色は細胞を生きた状態で観察する方法である.Coghillがヤーヌス緑,中性赤の両色素併用法を開発して以来,Simpson,Sabinらにより発達した.日本では木村1)の詳細な報告がある.
 現在,超生体染色に利用されている色素を以下に挙げる.( )内は色素を利用した染色法である.

[C]位相差顕微鏡による血球観察

著者: 大須賀武雄

ページ範囲:P.448 - P.451

はじめに
 位相差顕微鏡を用いれば,固定,染色をしないで,検体自身の屈折率の差で生きている血液細胞の細胞構造と運動が観察できる.

[D]蛍光顕微鏡による血球観察

著者: 中原一彦

ページ範囲:P.452 - P.455

はじめに
 従来から,白血病,悪性リンパ腫などの血液疾患の診断は主として形態学によるところが大きく,今でも主流を成すのはあくまで形態学的診断である.しかし,形態学のみでは診断に困難を感ずることがたびたびあり,われわれ血液を専門とする者の頭を悩ませるところである.そこで登場したのが特殊染色であり,また,この項で述べる蛍光抗体法である.
 近年の免疫学の進歩は目覚ましいものがあり,実際の臨床の場でも,その恩恵をこうむることができるようになった.

[E]透過型電子顕微鏡による血球観察

著者: 榎本康弘

ページ範囲:P.456 - P.460

 血液形態学に電子顕微鏡が導入されたことにより,光顕レベルでよりはるかに詳細な情報が得られるようになり,各種血液細胞の同定および成熟度の正確な判定が可能になった.また巨核球系細胞の芽球にあっては,電子顕微鏡を用いることによって初めて正確な同定ができるようになった.一方,Andersonのin siteによる血液細胞の固定法の考案により,超薄切片法は安易になった.さらに血液細胞では不可欠なペルオキシダーゼ反応の電顕レベルでの応用は,通常の方法で観察するよりも骨髄性細胞の同定を安易とし,また巨核球の同定や赤芽球のヘモグロビンの合成能を見るうえでも役にたつ.本法を用いての血液細胞の電顕観察上の諸特徴を,一括して表1〜4に示した.
 この章では,血液細胞は一般の組織の細胞と異なった状態にあるため固定法と電顕ペルオキシダーゼ反応法の記載のみにとどめた.固定以後の操作は他の技術書を参考にされたい.なお,各種血液細胞の鑑別に当たっての解説では紙数の都合上,簡略化した表現を用いた.詳細は文献を参考にされたい.

[F]走査型電子顕微鏡による血球観察

著者: 丹下剛

ページ範囲:P.461 - P.464

はじめに
 走査型電子顕微鏡(走査電顕)がもつ最も大きい特長は物体の表面像を立体的に把握できることにあり,その点,細胞表面像を観察しやすい血球は走査電顕に適している.
 正常の赤血球,白血球,血小板はそれぞれ固有の立体像を示すし,異常な血球としては貧血の患者の赤血球の多彩な特徴的な形態像がよく知られている.異常な白血球としては白血病患者の末梢血に出現する芽球がある.この白血病細胞の形態分類は塗抹標本でなされているが,FAB分類に対応する芽球の走査電顕像の観察が白血病の分類と治療効果の判定に役だつと思われる.さらには,免疫反応のT,Bリンパ球とマクロファージの相互の接触状態,あるいはマクロファージの貪食や好中球の食菌現象の立体観察を臨床検査に応用できるかもしれない.

[G]染色体検査

著者: 井上信男

ページ範囲:P.465 - P.471

はじめに
 染色体検査が先天異常,精薄,流死産および白血病をはじめとする種々の癌などの疾患の診断に極めて重要な役割をなしていることは,周知のとおりである1).また,染色体分析が研究段階から臨床検査へと普及し定着し,一定の時を経てきている.一方,関連の専門成書の刊行2〜6),雑誌特集号の発行7,8)および検査法の総説・技術解説9〜15)などが相次いで発表されている.
 本稿では,ルーチン検査を中心に実践的な方法を解説する.

[4]造血能と免疫学的検査

[A]血球の分離法

著者: 戸川敦

ページ範囲:P.472 - P.475

はじめに
 血球の機能や性状を調べようとするとき,血球の分離が必要である.ここでは主に,ヒト末梢血中のリンパ球や単球の分離法について述べる.

[B]幹細胞の分化と異常に関する検査

1)赤血球系幹細胞(CFU-E)

著者: 三砂將裕 ,   千葉省三

ページ範囲:P.476 - P.478

はじめに
 1971年,Stephensonらはマウス胎児肝細胞をエリスロポエチン(erythropoietin;Epo)とともに半固形培地(血漿凝塊)に埋め込んで培養することにより赤芽球のコロニーを作製することに初めて成功した1).その後1974年,Iscoveらは血漿凝塊の代わりにメチルセルロースを用いるより簡便な方法を報告した2).これらの方法で形成される赤芽球コロニーは1個の赤血球系幹細胞(erythroid colony forming unit;CFU-E)に由来するものであることが証明されており3),このコロニーの数や性質を調べることによりCFU-Eの量的ならびに質的変動を検索することができ,各種血液疾患の病態が幹細胞レベルから検討されている.
 ここでは,メチルセルロース法を詳説し,CFU-Eからみた各種血液疾患の病態についても概説する.

2)顆粒球・マクロファージコロニー形成細胞(CFU-GM)

著者: 浅野茂隆 ,   白藤尚毅

ページ範囲:P.479 - P.483

CFU-GMとは
 顆粒球マクロファージコロニー形成細胞(granulomacrophage colony forming unit:CFU-GM)とは,in vitroコロニー形成法において,コロニー刺激因子(colony-stimulating factors:CSFs)の存在下で分化増殖し,顆粒球(G)や単球マクロファージ(M)から成る細胞集塊(コロニー)を形成する造血細胞のことをいう2).この細胞は,骨髄芽球や単芽球よりさらに幼若な細胞であり,形態学的には中型のリンパ芽球様細胞群に属するとされる.また,すべての血球の母細胞で自己複製能を有する多能性造血幹細胞とも異なることが明らかにされている.すなわち,CFU-GMは多能性造血幹細胞から派生し,GかMのいずれかへの分化の方向が決定づけられた,GM系に共通した前駆細胞と考えられている.本細胞がG,Mのいずれの方向に分化するかは,CSFのサブクラス(GM-CSF,G-CSF,M-CSF)2,3)によって決定される.しかし,それぞれのCSFに対する標的細胞として,CFU-GM以外のunipotentialな前駆細胞(CFU-GおよびCFU-M)の存在も想定されている(図1).現状ではこれらCFUを相互に明確に区別することは難しいので,CFU-GやCFU-Mを含めてCFU-GMと総称することが多い.

3)巨核球系前駆細胞(CFU-Meg)

著者: 杉本正邦 ,   若林芳久 ,   村田弥恵子

ページ範囲:P.483 - P.486

はじめに
 正常ヒトの末梢血液中には赤血球,顆粒球,単球,リンパ球,血小板が認められるが,これらはいずれも成熟した血液細胞である.
 近年in vivoおよびin vitroでの,マウスやヒトの造血細胞の研究が著しく発展し,多能性造血幹細胞(各種の血液細胞に分化しうる能力をもった造血幹細胞)を含む,各種の造血幹細胞の培養が可能となり,マウス,ヒトの各血液細胞の分化・増殖の過程がしだいに明らかになってきた.その結果,すべての血液細胞は,なんらかの因子(例えばエリスロポエチン)の作用により,すべての血球成分に共通な多能性造血幹細胞から分化・増殖してくると考えられている1)

[C]細胞性免疫に関する検査

1)リンパ球のロゼット形成試験

著者: 野本幸雄

ページ範囲:P.487 - P.490

はじめに
 リンパ球は機能の面から細胞性免疫に関与するT細胞と,液性免疫に関与するB細胞に大別され,さらにT細胞は主としてヘルパーとサプレッサーのサブセットに分類される.これらのリンパ球は,マーカーとなる各種レセプター,膜抗原,免疫グロブリンなどを膜表面に発現させている(表).
 T細胞とB細胞を測定するマーカーとして,胸腺細胞以後に分化したヒトT細胞がもつヒツジ赤血球に対するレセプターや,末梢B細胞がもつ細胞表面免疫グロブリンや補体に対するレセプターなどが挙げられる.これらのマーカーを利用した方法の中で,赤血球とのロゼット形成による方法は操作が簡単であり,信頼性も高いため広く利用されている.

2)モノクローナル抗体によるリンパ球の分類—T細胞,B細胞

著者: 山田輝雄 ,   安田英之

ページ範囲:P.490 - P.494

はじめに
 従来,リンパ系細胞の免疫機能的分類は,主として細胞膜表面に存在するヒツジ赤血球に対するレセプターおよび免疫グロブリンの証明によって,T・Bリンパ球の二つのサブポピュレーションに分類されることによって行われてきた.1975年KöhlerとMilsteinにより細胞融合法が確立され,その応用によって各種のモノクローナル抗体(monoclonal antibody;以下MoAb)が作製されるようになって以来,それまで検出できなかった微量の膜表面抗原の検出が可能となり,T・B二つのサブポピュレーションはさらに細かいサブセットに分類することが可能になった.
 周知のように,リンパ系細胞の表面抗原のほとんどは膜表面上に固定化されているものではなく,個体発生ならびに分化成熟と関連して消長する分化抗原であることから,その帰属を証明するためには数種類のMoAbを必要とする。そのため,近年ではフローサイトメトリーによる自動解析法が広く普及してきているが非常に高価な装置であることから,どこの施設でも簡単に導入できるというわけではない.したがって,MoAb法を日常検査に取り入れる第一ステップとして,特に高価な装置を必要としない蛍光抗体間接法や,光学顕微鏡で観察できる酵素抗体法,あるいは担体を用いたロゼット形成法などが比較的導入しやすいと考えられる.

2)モノクローナル抗体によるリンパ球の分類—NK細胞,LGL,LAK細胞

著者: 押味和夫

ページ範囲:P.494 - P.496

NK細胞とLGL
 1.機能・形態
 Natural killer(NK)細胞とは,キラーT細胞とは異なり,抗原による感作なしで種々の標的細胞を傷害することのできるリンパ球であり,腫瘍の発生や転移の抑制,ウイルス感染細胞の破壊などの働きをしているものと考えられている1).もともと試験管内で細胞傷害活性を見る検査法で機能的に存在が推定された細胞で,後になって形態学的にLarge granular lymphocyte(LGL)に相当することがわかった.LGLは図1に示すように中型〜大型の胞体の豊かな,胞体にアズール顆粒を有するリンパ球である.LGLのうち少なくとも70%の細胞はNK活性を有し,逆にNK活性を有する細胞はすべてLGLの形態を有している.LGLは末梢血中のリンパ球の約15%を占める.
 NK細胞による細胞傷害活性を測定する方法について述べる.エフェクター細胞としては,ヘパリン加末梢血からFicoll-Conray法により分離した単核細胞(リンパ球と単球が含まれる)のような,LGLを含む細胞を用いる.標的細胞としては放射性クロム(Na251CrO4)で標識したNK感受性培養細胞株を用いる.慢性骨髄性白血病患者の急性転化時の芽球から樹立されたK562という細胞株が最もよい.一定数のエフェクター細胞と標的細胞を混合し,37℃で4〜6時間培養した後,上清中に放出された51Cr量を測定することにより間接的に傷害標的細胞の割合を算定する2)
 LGLを末梢血から分離するための方法としては,Percol1を用いた不連続密度勾配遠心法と,モノクローナル抗体を用いる方法がある.Percoll液を用いる方法を記す2)

3)フローサイトメトリーによる分類

著者: 神保聖一

ページ範囲:P.496 - P.500

 近年,細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体(以下,MoAbと略す)が数多く開発される中で,フローサイトメーター(flow cytometer:以下,FCMと略す)との組み合わせによりリンパ球などの解析を行うフローサイトメトリー(flow cytometry)が,従来の研究領域のみにとどまらず,広く日常検査に導入されるようになってきた.
 フローサイトメトリーとは,細胞を浮遊液の状態にし,高速で流体中を通過させる際,各細胞から得られる光学的・電気的信号を検出部で感知することにより,その生物学的特徴を識別する手法である.FCMとはそのために開発された装置の総称であり,従来は細胞を解析後,その中から目的とする細胞群を取り出すセルソーターとしての機能が注目されていた1〜3).そのため,初期の頃の機種は,装置自体の操作が複雑であり,また末梢血中のリンパ球を解析するような場合,あらかじめ試料として単核球を回収し調製する必要があるなど,日常検査に導入するには簡便性といった点で問題があった.

[5]その他の検査法

[A]LE細胞現象

著者: 大竹順子

ページ範囲:P.501 - P.504

 1948年,HargravesがSLE患者の骨髄細胞の中に均一無構造な封入体をもつ細胞を報告した.これがLE細胞(lupus erythematosus cell)の報告の始まりである.通常,LE細胞は生体内では認められない.生体内には細胞膜に傷害を受けた細胞が存在しないからである.LE細胞が出現するためには次の4条件が必要である.
 (1)血清中にLE因子が存在すること (2)補体活性があること(貧作用時に必要) (3)細胞膜の傷害された細胞が存在すること (4)LE体を貧食する細胞の存在すること(通常は好中球であるが単球,好酸球のこともある) 以下,LE細胞検出法の手技について記す.

[B]NBT還元試験

著者: 後藤清

ページ範囲:P.505 - P.507

目 的
 ニトロブルー・テトラゾリウム還元試験(NBT還元試験)は,1967年Baehnerらが慢性肉芽腫症患者の好中球にはNBT還元能力が欠けていることを報告し,以来Parkらによって手技が簡便かつ微量化され,好中球機能検査法の一つとして広く用いられるようになった.その後,多くの研究によってNBT還元試験の臨床的意義が報告され,特に細菌感染症とウイルス感染症の鑑別診断の補助として有用であることなどがわかってきた.

[C]貪食試験

著者: 東克己

ページ範囲:P.508 - P.511

はじめに
 貪食試験には大きく分類して二つの検査目的がある.一つは形態学的検査において不明細胞が出現した際の細胞鑑別のために行うもので,細胞化学的方面の検索と並行して機能的方面から検索する方法として用いられている.他の一つは,白血球,特に好中球の機能不全症の補助的診断として必須検査の一つである.
 生体内での白血球の役割が異物に対する防衛であり,好中球の遊走,異物への吸着,取り込み,殺菌,消化という過程で好中球は浄化作用を完結するとともに自解し,炎症反応の引き金となるものであり,それぞれの過程における定量的検索は必須のものである.
 また貪食過程における機能不全としては,免疫グロブリン,特にIgG低下のために取り込み障害の示唆されているimpotent neutrophil syndrome1),またIgGのFc部分が蛋白質分解酵素によって切断されたもので異物に結合せずに白血球に直接結合すると考えられているtuftsinの欠損による取り込み障害のtuftsin欠損症2),そして白血球の収縮蛋白の一つであるアクチンの障害が示唆される好中球アクチン機能不全症3)が報告されている.

[D]リゾチーム活性試験

著者: 永野貞明

ページ範囲:P.512 - P.515

はじめに
 1922年,A. Flemingは細菌を溶かしコロニーを透明にする物質を偶然鼻汁中から見いだし,これにリゾチーム(lysozyme)の名を与えた1).リゾチームは特定のGram陽性球菌の細胞壁多糖類のうちN-アセチルグルコサミンとN-アセチルムラミン酸のβ-1,4-結合を加水分解することから,体内における感染防御に深く関連する溶菌酵素と考えられ,涙液,唾液,血清,尿などの体液や,多くの組織に広く存在が認められている.
 リゾチームと白血病との関連が注目されたのは,1966年Ossermanら2)が単球性白血病を併発した骨髄腫患者の血清,尿から大量のリゾチームを同定したことに始まる.その後多くの追試の結果,リゾチームが単球性白血病でしばしば著増することが確認され,臨床化学的マーカーとして測定の意義が高く評価されるようになった.白血病の分類は従来から主に細胞形態や特定の特殊染色所見などを基に行われてきたが,各種の形態検査所見を併せて見ても分類の困難な症例も多く,白血病の補助診断的な目的から血中の酵素測定の有用性が最近注目されつつある.

病理 [1]免疫染色法

[A]総論

著者: 高橋清之

ページ範囲:P.518 - P.523

はじめに
 近年,形態学の分野において画期的な技術の進展をもたらし,病理検査などの質的変革をもたらしたものとして,電子顕微鏡と免疫染色法の二つが挙げられる.このうち免疫染色法はここ数年間に急速に広まりつつあり,日常の病理検査法の一つとして扱われるようになってきている.このように免疫染色法を広く普及させた要因として次の4点が挙げられる.
 (1)免疫染色法は極めて鋭敏で特異性が高いため,特定物質の検出,細胞や組織の同定などに関し信頼性の高い結果が得られる.

[B]蛍光抗体法

著者: 吉田治義

ページ範囲:P.524 - P.527

はじめに
 標識抗体を用いて組織,細胞あるいは微生物内に分布する特定の構成成分ないしは病原性物質を抗原として検出することは,抗原抗体反応の特異性ゆえに,免疫学,病理学,内分泌学,細菌学などの広い分野で行われている重要な解析手段の一つである.抗体の標識法としては,蛍光抗体法,酵素抗体法,アイソトープ標識抗体法などがあり,また電顕的観察のためにフェリチン抗体法,プロテインAゴールド法などが開発されている.ここでは免疫組織学の発展の端緒を開き,現在なおその再現性および分析能のために日常広く行われている蛍光抗体法1)について述べたい.

[C]酵素抗体法(間接法,PAP法,ABC法)—病理検査室でのルーチン化に当たっての注意点を中心に

著者: 西野武夫 ,   川井健司 ,   堤寛

ページ範囲:P.529 - P.535

はじめに
 簡便で,かつ再現性,特異性に優れた免疫組織化学の手法は,各施設で病理組織検査に導入され,日々の診断業務に役だてられつつある.
 酵素抗体法は,蛍光抗体法と異なり蛍光顕微鏡などの特殊な器具を必要としないこと,核染色を行うことによって抗原物質の局在と組織像との関係が観察できること,さらに永久標本として標本を保存できること,およびこれらにより判断の客観化が期待できることなど,優れた特長がある.しかも,多種の一次抗体と同時に,質の良い標識二次抗体,ペルオキシダーゼ-抗ペルオキシダーゼ(PAP)キット,アビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体(ABC)キット品などが市販され,誰にでも容易に染色できるようになっている.しかし,酵素抗体法に用いる抗体の性質や,組織内抗原の性状,染色結果の判定などに十分な注意を払わなければ,正確な抗原局在の追究はできない.

[2]腎の検査法

[A]通常特殊染色法

著者: 吉村忍

ページ範囲:P.536 - P.540

はじめに
 腎臓の染色手技を学ぼうとする場合,個々の染色法に対する注意点を知ることは当然だが,基本的な構造や病理学的形態変化を的確にとらえておかなければ良好な標本を作製することは不可能である.本稿では腎臓の基本的構造と病理ならびに通常用いられている染色法に関する注意点や,近年いろいろと行われている改良点について述べる.

[B]免疫学的検査法

著者: 笠原健弘

ページ範囲:P.541 - P.544

はじめに
 1951年,Iversen,Brumらによる経皮的腎生検の成功により,腎疾患の病理組織学的検査は急速な発展を遂げてきた.従来の光学顕微鏡や電子顕微鏡観察に加え,1961年Mellos,Ortegaらによる蛍光抗体法を用いた腎糸球体内の免疫グロブリン(以下,Igと略)の沈着証明は,その後腎糸球体疾患の研究に大きな影響を与えた.
 今日,腎尿路系疾患の中で糸球体腎炎は,免疫学的機序が原因とされる代表的な疾患として知られている.中でもIgA腎症は,蛍光抗体法を用いてIgA沈着を証明することにより,初めて病理診断が確定する疾患である.このように,日常病理検査においても腎糸球体疾患の確定診断には,蛍光抗体法を含めた免疫組織化学検査が必要不可欠なものとなっている.ここでは腎生検組織を用いた免疫組織化学検査の手技を中心に,検体の取り扱いや注意点について解説する.

[3]造血・リンパ組織の検査法

[A]パラフィン標本での特殊染色

著者: 青木潤 ,   小浦康則 ,   山本津由子 ,   前田雄司 ,   佐々木なおみ ,   難波紘二

ページ範囲:P.545 - P.550

はじめに
 骨髄,リンパ節の組織検査は病理検査の中でもかなり特殊で,一般に敬遠される傾向がある.しかし検体の扱いに一定の注意を守り,適切な特殊染色の組み合わせを選択すると,ほとんどの場合正しい診断を下すことができる.また,骨髄穿刺,骨髄生検,リンパ節生検ともに患者に苦痛を与える検査であるから,検体を正しく採取し正しい取り扱いを行うことにより,その後の特殊染色などの検査の可能性は大きく広がり,不必要な再検や診断の遅延を最小限にとどめられる.
 本稿では,主としてパラフィン切片を用いた骨髄,リンパ節の特殊染色について述べるが,利用できる特殊染色の種類は検体をどう処理するかによって大きく制限されるので,まずこれらについて簡単に述べる.

[B]モノクローナル抗体による検査法

著者: 鈴木裕 ,   草刈悟

ページ範囲:P.551 - P.556

はじめに
 リンパ球は複雑な免疫反応機構の中心を成す細胞であり,発生的にT細胞およびB細胞の2大系列に分けられる.T細胞およびB細胞各系列の細胞は,おのおのに特徴的な表面形質(マーカー)を有しており,それらを検索することによってT細胞やそのサブセット(subset),B細胞の同定が可能である.これらのリンパ球表面形質には,リンパ球の分化段階によって発現・消長を示す分化抗原およびリンパ球型抗原(HLA抗原)がある.いずれも単クローン性抗体(monoclonalantibody:以下MoAb)を用いて,リンパ球細胞膜抗原として検出できるようになり,リンパ球の免疫反応における機能解析や臨床面にも幅広く使用されている.
 一方,腫瘍細胞はその発生母細胞の形質や機能を多少とも保持しており,悪性リンパ腫もまたその表面形質は正常リンパ球のそれとほぼ対応していることが判明していることから,従来の形態学的所見に膜抗原の検索所見を加味・総合した基準によって診断および分類が行われるようになってきた.

[4]下垂体の検査法—従来法と免疫学的染色法

著者: 鬼頭花枝

ページ範囲:P.557 - P.561

 下垂体構成内分泌細胞は従来法の鑑別染色では,Pagetらのアルデヒド・チオニン-PAS-オレンジG染色が慣用され,この染色によりオレンジ色に染まる酸好性細胞α(成長ホルモン,growth hormone:GH)とε(乳腺刺激ホルモン,prolactin:PRL),PAS好性紫青色に染まる塩基好性細胞β(甲状腺刺激ホルモン,thyrotropic hormone:TSH),副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone;ACTH)とメラニン細胞刺激ホルモン(melanocyte-stimulating hormone:MSH),チオニン青色で顆粒状に染まる塩基好性細胞σ(卵胞刺激ホルモン,follicle-stimulating hormone;FSH)と黄体形成ホルモン(luteinizing hormone;LH)および色素嫌性細胞と三大別される.

[5]甲状腺,副甲状腺の検査法

著者: 加藤良平 ,   冨地信和 ,   矢川寛一

ページ範囲:P.562 - P.566

はじめに
 甲状腺は左右両葉とその間の峡部から成り,通常H形ないし馬蹄形を呈する内分泌臓器である.甲状腺からは甲状腺ホルモンすなわちサイロキシン(thyroxin;T4),トリヨードサイロニン(triiodothyronin;T3),あるいはカルチトニン(calcitonin)が分泌される.一方,副甲状腺は平均重量120〜140mgの小さな内分泌臓器で甲状腺の後方に上下2個ずつ存在し,パラソルモン(parathormone;PTH)と呼ばれるポリペプチドホルモンが分泌される.これらのホルモンは臓器の機能状態により変動することから,甲状腺ないしは副甲状腺疾患を理解するうえで,その病態がホルモンの生成,分泌,代謝と密接に関連していることを考慮せねばならない.
 甲状腺あるいは副甲状腺の日常の病理組織検査には,現在でもヘマトキシリン・エオジン(HE)染色と一部の特殊染色が中心であるが,近年の免疫組織化学の進歩により組織内ホルモンの証明が可能となり,光顕レベルでの形態像と機能との関連をより容易に把握しうるようになった.そこで本稿では,免疫染色法を中心に甲状腺,副甲状腺ホルモンの組織内証明法とその意義について簡単に述べてみたい.

[6]膵内分泌細胞の検査法

[A]通常特殊染色法

著者: 川島徹

ページ範囲:P.567 - P.571

はじめに
 膵臓は外分泌腺と内分泌腺を有する小葉構造の臓器で,大部分が外分泌腺で占められているが,一部明るい細胞集団を認める.この細胞集団が内分泌細胞でランゲルハンス(Langerhans)島と呼ばれたり,膵島,膵ラ島といわれたりしている.
 膵ラ島の細胞顆粒染色法としては,1915年頃Heidenhainのアザン染色に始まり現在まで数多くの染色法が生み出され,改良が加えられている.現在,膵ラ島細胞は,特殊染色により,A細胞,B細胞,D細胞の3種類に分けられている.

[B]免疫学的染色法

著者: 川島徹

ページ範囲:P.572 - P.576

はじめに
 膵ラ島細胞顆粒は特殊染色によりA細胞,B細胞,D細胞に分類されたが,近年,内分泌学,免疫学の進歩によりインスリンをはじめとする数種のペプチドホルモンが同定され,生化学検査のみならず免疫組織化学検査に取り入れられ,免疫蛍光抗体法,免疫酵素抗体法などにより組織レベルでの証明が実施されている(「カラーグラフ」写真13を参照).
 正常成人膵のホルモン産生細胞については,1977年ローザンヌで開催された消化管ホルモン分泌国際シンポジウムで詳細な分類がなされ,現在以下の5種類が認められている.

[7]消化管・消化器の検査法—消化器病理における免疫組織化学の応用と実際

著者: 井藤久雄 ,   田原栄一

ページ範囲:P.577 - P.583

はじめに
 近年における免疫組織化学の進歩は,モノクローナル抗体を含む種々の良質な抗体の入手が容易となったことと相まって,病理組織学の分野に大きな影響を及ぼした.消化器病理の領域もその例外ではなく,各種抗原物質の局在を明らかにすることにより,これまでの組織形態学的知見を超えた新たな展開が広がった.これにより,各種消化器疾患の病因論を含む研究的側面のみならず,個々の病変のより詳細な検討が可能となり,免疫組織化学はすでに必須の染色手段であると断定しても過言ではない.
 他方,現状においては個々の抗原物質ないしそれを認識する抗体の基礎的検討においては未解決の問題も多く残されているが,それにより免疫組織化学的検索の有用性が損なわれることはない.そこで本稿では消化器疾患の病理組織診断において,パラフィン包埋ブロックを用いて実施される免疫組織化学について概説するが,ここで取り上げた抗体の大部分はいずれも市販されており,入手可能なものである.

[8]軟部組織の検査法

著者: 向井万起男

ページ範囲:P.584 - P.595

I.中間型フィラメント
 細胞質内には細胞内小器官,限界膜といった構造のほかに,線維状の成分が存在することが知られている.電顕的および生化学的検索によって,これらの成分の解析が急速に進んでいる.現在では,大別して3種のものが知られている.すなわち,microfilaments,microtubules,intermediate filaments(中間型フィラメント)(図1)であり,これらをまとめてcytoskeleton(細胞骨格)という名称が幅広く使われるようになっている.
 病理学的応用という面では,細胞骨格の中で現在最も注目を集めているのが中間型フィラメントである.このフィラメントは,直径10nmの細胞質内線維(直径6nmのアクチンと直径13nmのミオシンとの中間ということで,この名がある)で,現在,生化学的および免疫学的に異なる5種のものが知られている1).これらは細胞・組織特異性を示し,腫瘍診断,細胞分化の判断のマーカーとなりうるというわけで脚光を浴びているわけである1,2).すなわち,電顕的に直径約10nmのフィラメントとして細胞質内に認められるものが,細胞,組織によってその抗原性が異なるというわけである.ということになれば,誰しも予想できるように,腫瘍の鑑別診断のマーカーとして活用しようという考えが生まれ,現在,まさに流行しているといったところである.

[9]心筋の検査法—虚血性心疾患の診断法を中心として

著者: 石山昱夫 ,   高津光洋

ページ範囲:P.596 - P.601

はじめに
 冠不全に基づく急死例を剖検ならびに組織学的検査によって確定することは,予想外に難しいものである.臨床的にみれば,あれだけ劇的な急死をしたのだから,相当にひどい変化があると予想していたにもかかわらず,剖検してみたらほとんど変化が見られないという例が,法医解剖や行政解剖の場合によく経験される.これは,病変が起こってから死亡するまでの間の時間が短いために,形態学的に把握できるまでに組織が変化していないからである.
 例えば,図1に記したのは,WHOがそれまでの心筋梗塞例について検討し,心筋梗塞発生から形態学的変化の進行度を経時的にまとめたものであるが,これからみても,発生後半日くらいは頼りになるべきものがないというのが実感である.しかし,心筋梗塞が発生してから,WHOの基準に合った梗塞像が把握できるようになる1日くらいの生存例においては,すでに臨床的に分析が進行しいるわけであるから,死因としては問題がないことが多い.死因が不明であるから剖検するという法医解剖や行政解剖の場合には,このような臨床データがあるわけではなく,しかも,まったく超急性に虚血性心病変で死亡してしまったものでは,WHOの分析とは別の方法で証明するしか方法はないわけである.これに対して生化学的方法なども試みられているが,今までに絶対的と考えられるものはないというのが現状である.一方,組織化学的に心筋梗塞を分析してみようという方法も試みられ,さらに,近年ミオグロビンの染色を酵素抗体法によって行うことにより比較的新鮮な(発生後1〜2時間)梗塞例についてもその病巣の範囲を記録するということも可能となっているのである.これらをまず紹介し,次いで今までの染色法とそれらとの対比を行ってみることとして,このような基準に基づいて従来の染色法を詳細に観察すると,それなりの変化が見られるものであることが理解されれば幸いである.

【10】神経系の検査法

[A]グリア染色(Holzer,PTAH,GFAP)

著者: 海津怜子

ページ範囲:P.602 - P.605

はじめに
 神経系の特殊染色に対しては従来,種々の固定法が行われてきた.グリア線維およびアストログリアの染色法であるHolzer法,PTAH(phosphotungstic acidhematoxylin:リンタングステン酸ヘマトキシリン)法も例外ではないが,ここでは一般的なホルマリン固定,パラフィン切片を使用した場合の実際的染色方法について述べる.また,近来盛んになってきたGFAP(glial acidic fibrillary protein:グリア線維性酸性蛋白)免疫染色法についても記載し,従来の染色法と比較検討した.

[B]NSE染色

著者: 新井信隆 ,   岩谷幸子 ,   笠原淑子 ,   三杉和章

ページ範囲:P.606 - P.609

はじめに
 神経組織特異蛋白として現在までに多くのものが見いだされている.代表的なものとしてS-100蛋白,neuron-specific enolase(以下,NSE),glial fibrillaryacidic protein(GFAP),myelin basic protein(MBP)などのミエリン特異抗原,neurofilament蛋白などが広く知られている.そのうち,NSEは1966年,Mooreらによって発見された14-3-2蛋白と同一のものと考えられており,主に神経細胞に分布するものと理解されていた.値981年,Tapiaら1)が神経内分泌腫瘍にNSE陽性を示してから臨床応用が活発に行われるようになってきた.
 そもそも解糖酵素であるエノラーゼには,α,β,γの3種のサブタイプが存在することが知られている.このうちαは全身の臓器に広く分布し,βは心筋,骨格筋に,γは神経組織に分布している.これらサブユニットは通常,αα,ββ,γγ,αβ,αγの形で存在していることが現在までに示されてきた.ヒト脳では,αα,αγ,γγの分布が示され,それぞれnon-neuronalenolase(NNE),hybrid form enolase,neuron-specific enolase(NSE)と呼ばれており,NNEはヒト脳では主にグリア細胞に,また,NSEは中枢神経系の神経細胞の胞体,軸索,シナプスおよび交感神経節細胞,neuroendocrine systemに分布している.分子量はおのおののサブユニットが約40,000〜50,000daltonである2,3)

【11】前立腺の検査法

著者: 矢谷隆一 ,   白石泰三

ページ範囲:P.610 - P.614

はじめに
 前立腺疾患には炎症,肥大症,癌などがあるが,臨床上最も重要な疾患は肥大症と癌である.これら両者の鑑別は特に重要で,諸検査法を用いて診断される,検査法としては,直腸内触診,膀胱鏡検査,放射線学的検査,生化学的検査(血清酸ホスファターゼ,血清乳酸脱水素酵素,尿中ヒドロキシプロリンおよび血清シアル酸)および病理学的検査がある.ここでは病理形態学的検査法としての生検組織診と吸引生検細胞診について述べる.

【12】胎盤・生殖器系の検査法

[A]hCG,SP1,hPL

著者: 相馬広明 ,   山辺志都子 ,   佐山尚子

ページ範囲:P.615 - P.619

はじめに
 産婦人科領域において重要なヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin;hCG),妊娠性特殊蛋白SP1(pregnancy specific β1-glycoprotein;SP1),ヒト胎盤ラクトーゲン(human placental lactogen:hPL)の3種の胎盤蛋白を取り上げ,その測定方法について解説したい.
 測定方法の各原理については,一キットごとに説明し,原理が同じであれば測定方法にも大きな違いはないので,それを参照されたい(表1,2).

[B]アルカリホスファターゼ,フェリチン

著者: 岡輝明 ,   森亘 ,   浅川英男 ,   飯野四郎

ページ範囲:P.620 - P.625

アルカリホスファターゼ
 1,はじめに
 アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase:Al-p)はモノリン酸エステルを基質とする酵素で,細菌から哺乳類全般に存在しているが,その生理的機能については現在なお不明の点が多い.ヒトでは諸臓器,組織にわたって広く分布し,特に小腸,胎盤,腎臓などに強い活性が認められる.胆汁,尿,乳汁などの分泌物中にはおのおのの臓器由来のAl-pが含まれ,一方,血清中にもAl-p活性が認められ,従来から臨床的に骨疾患や肝胆道疾患の診断に利用されている.このため血清Al-p値の測定は日常臨床検査の主要な項目の一つとなっている.
 血清Al-pの異常を示す疾患は多いが,表1にその代表的なものを掲げた.産婦人科領域に関しては,胎盤にAl-p活性が高いことを反映して,妊娠後期に血清総Al-p値の上昇することが知られている.この現象を利用して,胎児・胎盤機能検査の一つとして血清Al-p測定が行われている.

[C]癌胎児蛋白(AFP,CEA,BFP)

著者: 秦順一

ページ範囲:P.626 - P.630

 ここに挙げるα-フェトロプロテイン(α-fetoprotein;AFP)癌胎児抗原(carcinoembryonic antigens:CEA),塩基性胎児蛋白(basic fetoprotein:BFP)は一括して癌胎児蛋白と総称されているもので,腫瘍マーカーとして最も代表的なものである.また臓器に特異的なものもあるので,免疫染色による悪性腫瘍の原発部位の診断に特に有用である.したがって,これらに対する免疫組織化学的所見を評価する場合には,抗原ならびに抗体の性格をよく理解して行うことが極めて重要である.
 このような点にかんがみ,本項では抗原の性格などを含めて概説したい.

【13】レクチンの組織化学

著者: 渡辺信

ページ範囲:P.631 - P.636

はじめに
 レクチンは,植物,特にマメに多く含まれる蛋白質で,特定の単糖またはオリゴ糖と特異的に結合するものである.植物以外にも,カタツムリ,カブトガニなどでも見つかっており,生体の組織中にも微量ながら存在する可能性がある,このレクチンの本来の意義はいまだ十分に解明されていないが,おそらく特定の糖成分を多量に集めるのがその目的であろう,とも言われている1)
 このレクチンの歴史は1900年代の初めに,Landsteinerらによって動物の赤血球を凝集する凝集素として注目されたことに始まり,さらにはヒトの血液型にも特異的に反応する凝集素であることが明らかとなり,同時にそれが,従来のウナギ血清などに含まれる自然抗体または特異抗体と違って,単糖ないしはオリゴ糖を加えることによりその結合性が阻止されることが明らかとなった.

【14】細胞診での特殊染色

[A]細胞の鑑別

著者: 藤原登美子

ページ範囲:P.637 - P.642

はじめに
 細胞診で細胞を観察するためには,検体の採取,塗抹,固定,染色という過程を経なければならない.鏡検に当たっては,そのすべての過程が適正に取り扱われた良い標本により,初めて細胞鑑別が可能となる.
 一般に特殊染色は,細胞の分化に伴う機能および代謝状態をより的確に判定するための手段として用いられる.したがって特殊染色を行う前に一般染色で十分な形態把握を行い,どのような特殊染色を行うべきかを決定しなければならない.同時に特殊染色の必要が予想される症例では,塗抹未染標本(乾燥および湿固定の2種類)をできるだけ多く作製しておくべきである.すべての採取標本を湿固定,一般染色に付してしまうことは厳に慎まねばならない.

[B]微生物抗原の検出

著者: 椎名義雄

ページ範囲:P.643 - P.647

はじめに
 ホルモン細胞診から発展した現在の細胞診断学は,癌の早期発見はもとより,表に示すような原虫,真菌,クラミジア,ウイルスなどの微生物による感染症の診断にも寄与している.その診断学的根拠はトリコモナスや真菌のようにそれらの形態学的特徴によるものと,クラミジアやウイルスのように感染によって起こる細胞学的変化によるものとに分けられる(図1).しかし,Papanicolaou標本では真菌類の同定ができないことや,Chlamydia trachomatis(トラコーマ・クラミジア)では診断の指標となる細胞質内封入体が粘液空胞や菌塊とその形態が極めて類似しており,確定診断の困難なケースに会うことが問題である.
 本項では特に,婦人科領域細胞診で最近性行為感染症(sexually transmitted disease:STD)の一つとして注目を浴びているクラミジア感染を中心に免疫組織化学的方法を導入してこの問題に挑み,その診断の手順および技術的解説を加えたい.

わだい

エリスロポエチン—その歴史的背景と展望

著者: 千葉省三

ページ範囲:P.393 - P.393

 エリスロポエチン(erythropoietin;Epo)は,生体における赤血球の生成を調節するホルモン性物質として,近年,その作用の特異性が確立された物質である.
 このEpoを中心とした赤血球生成に関する研究は,1906年フランスのCarnotとDefrandreの実験に始まる.すなわち,彼らは瀉血貧血したウサギの血漿を他の正常なウサギに注射したところ,被注射ウサギの赤血球数が有意に増加することを認め,貧血動物の血中には赤血球を増加させる物質が含まれると考えて,これに"hemopoietine"の名を与えた.

骨髄巨核球性白血病の診断基準

著者: 亀井喜恵子

ページ範囲:P.397 - P.397

 骨髄巨核球性白血病は1931年にVon Borosによって第1報が報告されて以来,多くの症例が報告されてきた。にもかかわらず,一疾患名としての独立には疑問が呈されてきた.その大きな理由としては,骨髄巨核芽球についての有力な同定法が確立されていなかったことといわれる.1972年にBreton-Goriusにより画期的な血小板ペルオキシダーゼ検出方法が考案され,以来,次々と新しい同定法が考案・発表され,それらを利用することにより骨髄巨核球性白血病が独立した疾患としてここ数年来注目されている.
 1985年秋,J. M. Bennettらにより骨髄巨核球性白血病(M7)の診断基準が発表されたので,その概略を簡単に紹介する.

巨核芽球の同定

著者: 榎本康弘

ページ範囲:P.406 - P.406

 血液細胞の電顕的検索を10年近く行っているが,ここ数年はもっぱら各種白血病やその他の血液疾患において巨核球系幼若細胞(巨核芽球)の出現があるか否かを検索している.光顕的に巨核芽球を同定することは困難であるが,同定の補助に細胞化学を用いるとペルオキシダーゼ(PO)反応が陰性で,α-ナフチルアセテート・エステラーゼ,酸ホスファターゼないしβ-グルクロニダーゼ反応が細胞の一部に限局して明瞭に陽性となって,巨核芽球の出現が予測される.
 電顕的には,Breton-Goriusらによって特異性が指摘された血小板にあるペルオキシダーゼ(PPO)が巨核芽球でも陽性を呈し,これを証明しないと芽球の同定はできない.しかし,巨核球系細胞ではこのPPOのほかに血小板特殊顆粒,血小板分離膜などの形成が見られるが,PPO以外はある程度の成熟がないと形成されない.通常の電顕で未分化な芽球としか同定できない細胞にPPOが証明されれば,巨核芽球といえる,この酵素は不安定なため,グルタールアルデヒド(GA)固定法では失活するといわれている.しかし,自験例のGA固定(リン酸緩衝液)の症例でも固定条件のよいときには成熟巨核球,血小板に陽性反応を得ているが,巨核芽球では陰性であった.

中央検査部と血液検査

著者: 戸川敦

ページ範囲:P.475 - P.475

 私が大学を卒業して病院実習を始めた頃,病室と並んで小さな検査室が各病棟に一つずつあり,そこで血算や尿検査などができるようになっていました.入院した新患の病歴をとり,診察し,血算や尿,血液検査などいわゆる入院一式検査を終わる頃には,たいてい夜9時を回っていたものです.その後,検査の中央化が進んで,マスとして検体を取り扱う機器が導入され,精度管理などもしっかりできるようになりました.それが現在の中央検査室(部)の姿だと思います.
 しかし,国民総生産量に対する医療費の高騰が論じられるようになった昨今,医療費節約のため中央検査室をいくらでも拡大して病院内のニーズにこたえるというわけにはいかなくなりました.実際,1日1検体しか来ないような検査のために器具,試薬,人員をそろえておくのは不合理ですし,また大型機器の導入によりわずか数時間の稼働であとは機械を遊ばせておくというのは無駄の最たるものです.こうしたことが,少数の検体でもマスとして取り扱えるようにした民間検査センター隆盛の原因ではないでしょうか.

LAKとIL-2を併用した抗腫瘍療法

著者: 押味和夫

ページ範囲:P.504 - P.504

 昨年12月5日発行の"NewEngland Journal of Medicine"で,米国National Cancer InstituteのRosenbergらのグループは,LAKとIL-2を併用した抗腫瘍療法で著効を示す症例がみられたことを発表した.このニュースは日本でも新聞やテレビで取り上げられ,注目されたことは記憶に新しい.この治療法について簡単に述べる.
 LAKとはインターロイキン-2(interleukin-2:IL-2)によって活性化されたリンパ球(lymphokine-activated killer)のことで,このキラー細胞は試験管内で腫瘍細胞を効率的に障害する.しかしLAKを患者に投与しただけでは抗腫瘍効果は認められなかった.また,IL-2を単独投与しても効果はほとんど認められなかった.そこで彼らは動物実験の成績に基づいて,LAKとIL-2を併用することにより,生体内に注入されたLAKを外部から投与したIL-2でさらに増殖・活性化すれば抗腫瘍効果が現われるであろうと予測した.予測は見事に適中して,化学療法剤が無効になった25人の進行癌の患者のうち,1人が完全寛解,10人が部分寛解を示した.

骨髄巨核球のはなし

著者: 若林芳久

ページ範囲:P.507 - P.507

 骨髄中にその存在が形態学的に認められる巨核球系細胞としては,巨核芽球,前巨核球,巨核球の三つの分化段階の細胞が知られている.巨核球系細胞の他の血液細胞に見られない特徴として,巨核芽球は核の分裂を伴わない染色体の分裂(endomitosis)を呈することである.細胞の染色体が4,8,16,32などの倍数性(ploidy)を示すことからnuclear numberのNをとって4N,8N,16N,32Nと呼ばれる.
 このようにendomitosisを起こしつつ成熟する.そして前巨核球にまで成熟すると,その大部分は32Nの細胞となる,このような特殊な成熟様式を示す巨核球も当然,その産生は骨髄の多能性造血幹細胞に由来するが,巨核球系前駆細胞として同定可能なものは巨核球コロニー形成細胞(megakaryocyte colony-forming units:Meg-CFU)と呼ばれる2Nの染色体を有する細胞である.Meg-CFUに巨核球コロニー刺激因子(Meg-CSF)が作用すると,巨核球系細胞への分化が起きる.

子供の腫瘍

著者: 三杉和章

ページ範囲:P.515 - P.515

 癌というと普通,成人の病気と考えがちであるが,悪性腫瘍は小児でも主要な死因の一つになっている.小児期で最も頻度の高い悪性腫瘍は急性白血病で,約40%を占める.次が脳腫瘍で,髄芽腫,膠芽腫,神経膠腫などが主である(約20%).さらに,これに関連したものとして目の網膜芽腫がある.胸腹部の腫瘍では神経芽腫,悪性リンパ腫,肝芽腫,腎芽種などが主で,成人に多い胃癌,肺癌などは極めてまれで年長児に少数報告されているにすぎない.良性腫瘍では血管腫,奇形腫が多く,ほかに肝の間葉性過誤腫や腎の先天性mesoblastic nephromaなどが知られている.このように小児の腫瘍はその種類や発生頻度が成人とは非常に異なっているばかりでなく,治療に対する反応でも異なる点が多い.
 小児の腫瘍の特徴としては○○芽腫と呼ばれるものが多く,組織学的には胎生期組織に類似する所見,内・外・中胚葉成分の混在,異形成像の共存などが認められることなどで,発生異常との関連が示唆される所見を見ることが多い.実際,特殊な先天奇形の症例に腫瘍の発生が多いことが知られており,片側肥大症や無紅彩症あるいは泌尿器系奇形と腎芽腫,Beckwith-Wiedmann症候群(巨舌症,臍帯ヘルニヤなどの異常を示す巨大児)に副腎皮質癌,肝芽腫や腎芽腫が発生しやすいことなどが有名である.発生学においても分子生物学的な研究が進み,分化・発育に関与する遺伝子の発現の機構がしだいに解明されているようである.小児腫瘍はこれらに発生遺伝子の発現の異常と考えることもできると思われる.

ヒト胃癌における癌遺伝子産物と細胞増殖因子

著者: 田原栄一

ページ範囲:P.523 - P.523

 近年,癌遺伝子産物と,細胞増殖因子,その受容体あるいは細胞内情報伝達系との関係が明らかにされ,ヒト消化管における悪性腫瘍の発生・増殖の解明にも少しずつ光が当たるようになってきた.例えば,細胞膜に存在し,ペプチドホルモンなどのセカンド・メッセンジャーであるcAMPを調節するG蛋白と類似し,GDP,GTP結合能とGTPase活性を持つras遺伝子産物であるp21蛋白は,細胞増殖に関与すると考えられ,活性化したc-Ha-rasあるいはc-Ki-rasが,膀胱癌,結腸癌,肺癌などに見いだされている.活性化された場合には,GTPase活性の消失,ホスファジル4,5リン酸の減少,ジアシルグリセロールの増加などが認められる.
 最近,Ha-ras p 21蛋白が,ヒト結腸癌に高頻度に発現し,かつそれは癌の深達度と相関するという1).筆者らもヒト胃癌におけるHa-ras p21免疫活性の発現は,早期癌(11.1%)より進行癌(43.8%)に頻発し,また癌表層部より深部で強く,しかもras p 21を有する胃癌は高い転移率(85.2%)を示すことを認めている2).そのうえ,Stage III+IVの胃癌患者でras p21陽性のものは,陰性のものに比べて有意に予後不良である.さらに,ヒトEGF(epidermalgrowth factor)の胃癌における出現も,ras p21と同じく,癌の浸潤度と予後とに密接に相関している3}.しかし,EGF受容体と結合し,EGFと相同性のあるTGFα(transforming growth factor)は,胃癌の初期から出現する.これらの知見は,Ha専ras遺伝子の活性化およびEGF遺伝子の発現が胃癌の浸潤・転移および予後に重要な役割を演じていることを示唆している.

走査電子顕微鏡のはなし

著者: 丹下剛

ページ範囲:P.527 - P.527

 走査電顕をふだん使用している経験者の一人として思うことは,走査電顕にもいろいろ難しい理論があり,その一つ一つの操作に習熟するには相当の時間と努力を必要とするが,実際にはある程度システムの整ったラボラトリーや検査室では検体の採取に始まり写真を手にするまでの操作は,比較的簡単に行うことができることであります,したがって,もしも走査電顕を手がけたい人は,一度そのような検査室に足を運んで,その感触を自分の目で確かめるとよいでしょう.おそらく,透過電顕のエポン包埋と超薄切の過程がない分だけ操作が楽です.
 これまで,走査電顕は生体の各部の微細構造の追求に使われており,感覚器,神経,筋肉の立体構造にはじまり,粘膜表面や血球形態など観察対象は極めて広い.一度アトラスを見ると,そのパノラマ的立体感からアイザック・アシモフのミクロの決死隊に展開されたあのイメージを想起することでしょう.

フローサイトメトリーの使用経験

著者: 中原一彦

ページ範囲:P.528 - P.528

 元来,人類には夢がある。木の葉のようにすいすいと水の上を動きたい,鳥のように自由に空を飛ぶことができたら,と昔の人々は考えた.それが,今現実となって船や飛行機の開発につながっている.われわれも,蛍光染色された細胞を蛍光顕微鏡でカウントしながら,もっと早く,誰もが簡単に算定できる器械が発明されないものだろうか,とよく思ったものである.同じ思いが,フローサイトメトリーを開発した人々にもあったに違いない.その夢が実現し,フローサイトメトリーとなって現われた.
 フローサイトメトリーがまだなかったときには,細胞を染色し終わって,さてこれからカウントとなるとそれからがひと苦労であった.特に検体数が多かったり,また細胞数の少ないもの,蛍光強度の弱いものとなると,それこそ悲劇的であった.細胞を探してあちらこちらと視野を動かしているうちに光に当たって蛍光がますます薄くなり,いっそう判定に困ったり,検索が夜明け近くにも及び,睡魔が瞬間的に襲い接眼レンズに眼を何度もぶつけながら検鏡したものであった.それも今では懐かしい思い出となっている.

わが国の婦人のクラミジア感染状況

著者: 椎名義雄

ページ範囲:P.556 - P.556

 "クラミジア",ちょっと聞き慣れないが,可愛い少女のような名前である.このクラミジアの正式名はChlamydia trachomatisといい,今日わが国ではみられなくなったが,ヒトに結膜炎症状を起こすトラコーマの原因菌でもある.また,これは男性の非リン菌性尿道炎患者の尿道分泌物やそのsexual partnerの頸管分泌物から高率に分離されたことから,STD(sexually transmitted disease),つまり性交によって感染する病気の一つとして世間を騒がせている.女性における本症の臨床症状は男性の場合と異なり,一般にないか,あっても極めて乏しく,本症が正しく診断・治療されるケースはほとんどないといっても過言ではない.そのため,わが国の婦人におけるクラミジアの汚染状況はいまだ明らかでなく,最近になってやっと診断法や治療法に関する研究が見られるようになった.
 われわれは最近,米国で開発された直接塗抹蛍光抗体法(MicroTrakTM法)を用いて婦人の頸管分泌物中よりクラミジアの検出を試みた.子宮癌検診者を対象とした調査では検索した者の2.2〜2.5%(平均2.3%)に罹患者を認めた.Micro Trak法陽性者の年齢分布は30歳までが5.6%,31〜40歳が3.0%,41〜50歳が2.6%,51〜60歳が1.2%であり,加齢とともに陽性率は減少した.また,産婦人科外来に訪れた患者を対象にした調査では約4.2%が陽性を示した.陽性者の年齢分布は20歳までが9.4%と最も高値を示し,その後は子宮癌検診者の成績とほぼ同様であった.

病院での病理検査と特殊染色

著者: 岡輝明

ページ範囲:P.561 - P.561

 病院の病理検査室での業務は,大別して剖検,生検,細胞診の3部門から成る.近年の生化学・免疫学の進歩に伴う検査法の改良や精度の向上,あるいは各種画像診断法の発達には目覚ましいものがあり,患者病態の把握がより正確となってきた.しかし,それでもなお剖検によって初めてわかる病態も多く,一方,治療法の変化などによって病像の変貌の著しい疾患もあり,病理解剖の必然性や意義はいささかも低下していない.また,現在でも確定診断における病理組織検査の果たす役割は大きく,生検検体数は年々増加の傾向にある.これらの意味で,日常の病理検査に携わる検査技師や病理医の責任は重大といわざるをえず,より正確で迅速な病理診断のための努力が要求されている.
 組織診断を下すうえで最も基本的で重要な染色法は,やはりヘマトキシリン・エオジン(HE)染色で,今のところHE染色に代わるものはないといえよう.しかし,必要に応じて各種の特殊染色が威力を発揮することはいうまでもなく,PAS,アルシアンブルー,アザン-Mallory,エラスティカ-vanGieson,Giemsa,Grocott,Grimelius法,鍍銀法,PAM,鉄染色,Gram染色,結核菌染色,アミロイド染色,ASD-クロロアセテート・エステラーゼ染色などは日常的に頻用されている.中でもPAS,銀,エラスティカ-vanGiesonなどは,HEとともに必須のものであろう.

軟部腫瘍と癌の鑑別診断

著者: 向井万起男

ページ範囲:P.566 - P.566

 軟部腫瘍は良性のものにしろ,悪性のものにしろ,多彩な組織像を呈するものが多く,鑑別診断に苦労することがしばしばある.治療法の選択と関連して,良性か悪性か,悪性のものであればそのタイプは何か,といったぐあいである.こうした鑑別の中で重要なものの一つに,軟部腫瘍と癌の鑑別がある.この鑑別を誤ると,治療方針を大きく誤り,ひいては患者の予後に与える影響は極めて大きなものとなる.
 一見,軟部腫瘍と癌の鑑別が問題となることなどめったにないように思われがちであるが,とんでもないことである.このような例に遭遇することはむしろ多く,また,いいかえれば,軟部腫瘍の診断に際しては,まず癌でないことを確認することから始めなければならない.

Human papilloma virus感染の細胞診

著者: 椎名義雄

ページ範囲:P.571 - P.571

 子宮頸癌は古くから処女(尼僧)に比べて既婚婦人に多く,特に多産・早婚・性交開始年齢が早いほど,またsexual partnerが多いほど発生頻度の高いことが知られている.さらに,前妻が子宮頸癌であった男性と結婚した女性に子宮頸癌の頻度が高いというKessler博士の報告からも,子宮頸癌はなんらかの物質がセックスにより男性から女性に伝播して起こることが考えられている.その主役として,現在最も注目されているのがHuman papilloma virus(HPV)である.
 HPVはPapovavirus群に属するDNA型ウイルスで,ヒト(女性性器では腟前庭,陰唇,尿道口,子宮腟部など)に"いぼ(尖圭コンジローマ)"を形成するウイルスである.細胞診でこのHPV感染を診断することはKossらが名づけたkoilocytotic atypiaといわれる細胞の出現により可能である.

なぜ今、悪性リンパ腫か?

著者: 難波紘二

ページ範囲:P.583 - P.583

 最近,悪性リンパ腫が大きな注目を浴びているが,その理由として次のようなことが考えられると思われる.
 第一に,この疾患は近年しだいに増加しつつある,ということである.かつては,大学病院のような大きな施設でも年間に数えるほどの症例しか見られなかったが,最近では年間に40例近くが一施設で診療されることも,それほどまれではない.もちろん患者の大施設への集中ということもあろうが,人口構成の老齢化,生活様式の西欧化といった変化がこれに寄与していると考えられる.筆者はかつて,日本人の悪性リンパ腫罹病率を年間人口10万人当たり5人と推定したが,最近では米国白人の12人という方向へしだいに近づいているのではないかと思う.

レクチン染色の教訓

著者: 渡辺信

ページ範囲:P.601 - P.601

 研究室でレクチンの染色をしているとき,非特異的染色が強く出ることがある,原因はいろいろあるが,特に注意したいのはレクチンの鮮度(購入後の日数と使用頻度)とその保存状態である.
 数年前に同じレクチンをロットを替えて使ってみたことがある.レクチンの染色を始めて間もない頃だったので,ロットの差をあまり考えずに使っていた.染色性の違いが出たときにはたいへん驚いた.保存方法に問題がある可能性もあるので,その解決法として,4℃で保存するか,分注して-20℃で保存するか考えたあげく,両方の方法で保存してみることにした.大部分のレクチンは-20℃の保存で染色性はほぼ安定したが,中にかえって悪くなるものがあり,失敗.次に4℃で保存したものをフィルターを通して変性,凝集したレクチンを除くことにした.最初はうまくいったが,二度三度と繰り返すうちに染まらなくなった.

酵素抗体法のはなし

著者: 堤寛

ページ範囲:P.609 - P.609

 私たちはふだん,病理診断にも研究にも,ペルオキシダーゼ標識抗体法(酵素抗体法間接法ないし直接法)を用いており,PAP法やABC法はほとんど行っていない.私たちがPAP法やABC法を用いない理由の一つには,当院三階の当病理学教室と同じ三階フロアに,酵素抗体法の考案者であるほかならぬポール中根教授が,細胞生物学教室を構えていらっしゃることが挙げられる.ただし,もっと大きな理由は,①PAP法やABC法が3ステップを要するのに比して,酵素抗体法間接法では2ステップですみ,時間的な節約ができるためルーチン化に好適であること,②経験上,PAP法やABC法と間接法で感度の違いをまったくといってよいほど感じないこと(つまり,他法で陽性なら間接法でも陽性で,間接法で陰性なら他法でも陰性!),③凍結切片を用いた電顕レベルでの抗原局在観察には標識抗体法,特に直接法が最も適していること,などなのである.
 ルーチンの病理診断業務に関していえば,東海大学病院病理診断科では,常時100種以上のマーカーがオーダーでき,免疫染色は週3回程度行われている.抗体類は,適宜希釈後にディープフリーザーとディスポーザブルアンプルによる"品質管理"が行われている.もし,これだけの抗体を大きな風体のキット品を用いて管理しようとしたら,検査室中が冷蔵庫だらけになってしまうであろう(例えば,DAKO社製PAPキットの冷蔵庫占拠率は驚異的でさえある!).‘The simpler, the better’が私たちのモットーである.

卵巣癌経過モニターのためのCA125

著者: 相馬広明

ページ範囲:P.630 - P.630

 婦人科の悪性腫瘍のうちで,卵巣癌はよい腫瘍マーカーがないため進行度や症状経過を判定するのが難しかった.そのため卵巣癌細胞によって表現される循環血中の有力な抗原が見いだされ,それが卵巣癌患者血中に増量してみられれば,診断上の手がかりとなる.
 Bastら(1981,1983)は,上皮性卵巣癌患者血清中に,CA125という癌抗原が82%にも増量することを見いだした.ネズミのモノクローナル抗体OC125が,非粘液性上皮性卵巣癌に存在する抗原(CA125)と反応することから,ラジオイムノアッセイ(RIA)法を用いて,血清中CA125を検出することに成功した,測定方法はCA125RIA kit(Entocor Inc., Malvern, PA,米国)により被検血清を定量する.

前立腺癌の地理病理学

著者: 矢谷隆一 ,   白石泰三

ページ範囲:P.642 - P.642

 前立腺癌の死亡率は各国あるいは人種で差があるが,それを大きく分けると3群に分けられる.第一は死亡率の高いアフリカあるいは黒人型,第二はそれよりやや低い値を示す欧米あるいは白人型,第三は死亡率の低いアジアあるいは黄色人種型である.
 一般的に,欧米では前立腺癌の死亡率が高いので関心が深いが,日本の死亡率は欧米の約1/10であり,胃癌や肺癌などに比べると関心が薄い.しかし近年,日本人の死亡率は増加しており,将来さらに高くなる可能性がある.この日本人における増加の原因については,ハワイへ移住した日系人の前立腺癌死亡率は,白人と日本人との中間値を示すことや,日本人例を県別にみると,東京における死亡率が高いことから,生活様式の欧米化と関連づけて考えられている.生活様式の欧米化とは,具体的には脂肪摂取量と関係が深い.高脂肪食は前立腺中のホルモン量を変化させ,これが前立腺癌の発生や増殖に関与する可能性が指摘されている.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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