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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術15巻2号

1987年02月発行

雑誌目次

病気のはなし

ライ症候群

著者: 荒木清 ,   松尾宣武

ページ範囲:P.122 - P.127

ライ症候群とは
 ライ症候群は,1963年シドニーアレキサンドラ小児病院の病理学者Reyeらが"encephalopathy and fatty degeneration of the viscera"と題して初めて報告した,急速に進行する脳炎様症状と,肝を中心とする内臓への脂肪沈着を特徴とする臨床病理学的疾患単位である1).小児期を通じて見られ,小児の重篤な代謝系神経疾患として比較的多いものの一つとされている.病因に関しては多くの議論があるが,今なお明らかにされていない.

技術講座 生化学

無機リンの測定法

著者: 伏見了

ページ範囲:P.137 - P.140

 リンは成人で約500g含有し,その80%がカルシウムとともに骨を形成している(hydroxyapatite,Ca3(PO42・Ca(OH)2).リンは生体内有機化合物の代謝に重要であり,骨の形成をはじめATPに代表される高エネルギーリン酸化合物を作ってエネルギーの放出や蓄積を行っている.さらに,核酸およびリン脂質などの代謝にも関与し,また細胞内外における〔H〕濃度の維持(酸塩基平衡)にも役だっている.
 血清中にリンは無機リン酸,リン脂質および有機リン酸エステルなどの形で存在しているが,臨床診断学上重要なのは無機リンで,その割合はHPO42-(約80%),H2PO4-(約20%)である.副甲状腺機能低下症,腎不全およびビタミンD過剰症などで無機リンは増加し,副甲状腺機能亢進症,クル病および骨軟化症などで減少する.

細菌

RSウイルスの検査法

著者: 目黒英典

ページ範囲:P.141 - P.145

 RSウイルス(respiratory syncytial virus;RSV)は小児の冬カゼの最も重要な病因である.しかし,その診断法では,補体結合反応(CF)による抗体検査が認可されているだけである.CFは有意の抗体上昇が認められれば診断的意義は高いが,残念ながら幼弱乳児のRSV感染症では抗体の上昇しない例が多く,利用価値は低い.したがって,より診断的価値の高い検査法をルチーン化し,健康保険の適応を得ることが望まれる.
 本稿では,RSVの検査のスタンダードであるウイルス分離法とプラーク減少法による中和試験を中心に述べ,新しい迅速抗原検出法を紹介する.

輸血

輸血検査の自動化

著者: 加藤俊明 ,   前田良一 ,   関口定美

ページ範囲:P.146 - P.152

 血液型判定の自動化は,1960年代前半ごろから試みられ,McNeilら(1963)1),Sturgeonら(1963)2)によってABO式血液型,Sturgeonら(1965)3)によってRh式血液型判定のそれぞれ自動化が報告されている.その後,多くの研究者によって自動血液型判定装置の開発が進められ,現在ではABO式・Rh式血液型のみならず,不規則性抗体スクリーニング,梅毒抗体,また一部の機種は,HBs抗原・抗体ATLA抗体などを自動的に同時に検査することが可能となった.
 国内にはフランス・ロシュのグルパマチック,アメリカのテクニコン,国産のオリンパスの3社の自動血液型判定装置があり,血液センター,病院輸血部に十数台が導入されている.これらの装置は検体のサンプリングから結果の出力,さらにホストコンピュータへのデータ転送までを一貫して管理する.

生理

アーチファクトと対応法—心電図

著者: 司茂幸英

ページ範囲:P.153 - P.158

 心電図におけるアーチファクトは心電図に混入し,歪みを生じさせるすべての雑音をいい,その本質は,心電図信号が交流,分極電圧や各種生体電気現象に比べて微弱であることによる.また,心電図測定時・記録整理時のミスなどにより診断に不都合が生じた場合も広義のアーチファクトと考えられ,臨床的にはより重要である.

一般

便潜血試験

著者: 三宅一徳

ページ範囲:P.159 - P.163

 消化管出血は消化管を中心とした多種多様な疾患によって引き起こされ,特に消化管悪性腫瘍では唯一の症状である場合もあり,臨床的にもその重要性は高い.一般に50 ml以上の出血の場合は新鮮血便あるいはタール便として肉眼的にも認められるが,少量の出血の場合はヘモグロビンは腸管内で分解してヘマチンとなり,さらにヘマトポルフィリンとなるため,肉眼的には確認できないことが多い.いわゆる潜出血をきたす疾患は,図1に示すようにきわめて広範囲に存在する.
 1864年Van Deenがグアヤック法を提唱して以来,便潜血反応はこれらの出血を伴う消化管病変の検索手段として広く一般的に行われてきた.しかし,便潜血反応は検査法上の制約が多く,消化管画像診断と内視鏡の進歩によりその臨床的意義が低下していると指摘されてきた.一方,食生活の欧米化に伴い,わが国でも大腸悪性腫瘍の増加が問題となり,効果的なスクリーニング法としての便潜血反応が再評価され,さらに最近便中のヒトヘモグロビンを検出する免疫学的検査法の開発もあり,便潜血反応は新しい時代を迎えようとしている.図1は,PTCR時の冠動脈造影の写真である.閉塞した右冠動脈がUrokinase 96万単位の冠動脈内投与で再開通している.

検査法の基礎理論 なぜこうなるの?

アミラーゼ

著者: 上田智 ,   木村丹

ページ範囲:P.129 - P.132

 アミラーゼは,デンプン,デキストリン,グリコゲンなどの多糖類を加水分解して,二糖類であるマルトース(麦芽糖)を作る酵素である.
 血中にデンプンを分解するdiastase(アミラーゼ)が存在することがMagendie(1846)により報告され,1908年にはWohlgemuthにより新しいアミラーゼ活性測定法が開発され,このヨードデンプン法による血中・尿中アミラーゼ測定法は,特異性と感度の点から画期的な測定法と評価された.さらにWohlgemuthにより動物実験で膵管結紮による血中アミラーゼの上昇が証明されて,膵疾患と本酵素との関連性が明らかになり,Wohlgemuth法によるアミラーゼ測定法が広く世界的に応用されるようになった.

溶レン菌感染症の血清学的検査の意義

著者: 藤川敏

ページ範囲:P.133 - P.136

 発熱,発疹,関節炎,浮腫などの症例を診察すると,私たち臨床医は必ずといってよいほど赤沈,CRP,血算などとともにASOを測定する.もちろん,その疾患がレンサ球菌感染が原因となっているかどうかを診断する目的でである.リウマチ熱,急性糸球体腎炎などA群レンサ球菌感染に起因する疾患は,感染後3〜4週に発病する.したがって,これらの疾患の症状,症候が出現するころには患者から細菌が培養されることは少なく,血清反応による診断が必要なのである.
 A群レンサ球菌は多くの抗原を保有する.菌体抗原として多糖体,ペプチドグリカン,M,T,R蛋白などがある.M,T,R蛋白は菌型判定に測定されているが,臨床的に患者血清で測定されることはない.抗ペプチドグリカン抗体は研究的に測定されている.抗多糖体抗体は臨床的にも応用されている.一般臨床に測定されているものは菌体外酵素に対する抗体でASO,ASK,ADN-Bなどであり,したがって本稿では主にこれらの抗体についての検査の意義を解説したい(図).

ラボクイズ

癌性心嚢タンポナーデに出現した非癌細胞の反応型

ページ範囲:P.164 - P.164

マスターしよう基本操作

赤血球浮遊液の作りかた

著者: 瀬戸幸子

ページ範囲:P.167 - P.173

 免疫学的血清検査法において,赤血球を使って検査する方法は,現在ラテックス法などにとって代わられて少なくなってきているが,まだかなりの種類の検査法がある.赤血球を生のまま使う検査としては,寒冷凝集反応,マイコプラズマ補体結合反応,50%溶血法による補体価の測定,Middlebrook-Dubos反応,緒方法,ASO(マイクロタイター法),血液型検査,直接・間接抗グロブリン試験,Donath-Landsteiner,ウイルスの血清検査の一部などがある.固定した赤血球を用いて行う検査としては,RAHA,Paul-Bunnell反応,妊娠反応,HBs抗原・抗体検査などがある.また赤血球の種類としては,ウサギ,ヒツジ,ニワトリ,アヒル,ガチョウ,ヒトなど,いろいろな動物の赤血球が検査に使われている.赤血球を検査に使う場合は,ほとんどが抗凝固剤で採血された市販品のものを使っていると思われるが,一部ヒトの赤血球の場合は血餅を使う場合もある.
 赤血球はできるだけ新しいものを使うのが原則であるが,それだからといって毎日採血するわけにはいかない.なるべく長期保存がきく保存液などが入った抗凝固剤で採血したものを使い(例えば,Alsever液,ACD液,CPD液など),使用期限内に使用し,期限が近くなり赤血球が弱って溶血を起こしやすくなったものは,使わないほうがよいと思われる.洗浄が悪いと,残っていた蛋白質などが作用して抑制反応が起こり真の値が出なくなるので,慣れないうちは3回洗浄と書いてあったら4回洗浄して,1,2回数を増やしていねいに洗うとよい.

検査ファイル 項目

アンモニア

著者: 森田寛二

ページ範囲:P.174 - P.175

 血中アンモニアの測定は,重症肝障害による昏睡鑑別や尿素サイクル系諸酵素欠損児のスクリーニングなど臨床的に重要な意義をもち,その測定には緊急性を要する.通常の血中濃度は数十μg/dlと低値であり,検査法の選択や測定に当たっては十分な注意が必要である.

肺機能検査法

著者: 井上洋西

ページ範囲:P.176 - P.177

1.スパイログラム
 1)最大出入り可能な肺内のガス量(肺活量;VC),および最大吸気位から強制呼出時に1秒間で呼出可能なガス量を求める.肺へのガスの出入量はスパイログラムの空気の出入量から求める.
 2)まず,ノーズクリップで鼻からのガスの出入りを遮断し,マウスピースを通じてスパイロメーター内の空気を呼吸する.ベルの上下に応じて接続したペンが降昇し,時間軸に対して肺気量の変化を記録する.VCは最大吸気位(TLC)から最大呼気位(RV)まで呼出したガス量である.1秒量(FEV1.0)は最大吸気位から,強制呼気により1秒間に呼出しえた肺内ガス量である.一方,FEV1.0の肺活量に対する比(FEV1.0/VC×100,%)を1秒率と呼ぶ.

試薬

凝固検査のコントロール血漿

著者: 安室洋子

ページ範囲:P.178 - P.179

 われわれが現在,日常検査として行っている凝固検査の測定値の表現方法には秒数,正常対照との秒数比,%などがあり,生化学的検査値などに比べると相対的な表現が多い.凝固因子定量や合成基質を用いた活性値の測定および抑制因子の測定のような酵素学的測定でも,正常人血漿に存在する活性量を100%とした相対的数値で表すことが多い.また,凝固因子抗原量は本来,蛋白質重量として表せるが,これも同様である.このように正常人コントロール血漿が検査結果にかかわる重要性はきわめて大きく,用いる正常血漿によって被検血漿の検査結果を高値または低値にシフトさせることにもなる.
 このコントロール血漿としての条件は,各種の凝固因子を十分に含み,かつ十分な凝固活性を有することが必要である.通常は,各施設で作製した健常人プール血漿を使用するか,または市販の凍結乾燥血漿を用いるかすることになる.

用語

RAMとROM

著者: 清水芳雄

ページ範囲:P.180 - P.181

 私たちは日常生活の中で,脳に記憶されている過去の経験を基に理解し,判断し,行動している.コンピュータもまったく同様で,記憶されている命令やデータを基に計算や判断などを行っている.
 最近のコンピュータは賢くなって,ユーザが電源をONにすると「あなたはこれからどんな仕事をしようとするのですか」と聞いてさえくる.15年前のコンピュータはこうはいかなかった.電源ON後に,ユーザーがキーボードからコンピュータを動作状態にするための命令を,機械語という形で入力する操作を必要とした.今日,それが自動化されたのは,人間が手で打ち込んでいた命令をコンピュータにあらかじめ記憶させておき,電源ONと同時にその命令の実行をスタートさせるからである.電源がOFFになっても,機械的振動が加わっても,コンピュータが暴走しても,絶対に消されることのない記憶素子が存在するようになって,初めてこうしたことが可能となった.これがROM(read only memory)といわれる記憶素子である.

Letter from Abroad 海外で活躍する日本の検査技師

貧しい子たちの百万ドルの笑顔—フィリピン5

著者: 海浪武志

ページ範囲:P.182 - P.183

 今回が最終回になるので,過去4回にわたって述べ,そして,これから述べる事がらから,発展途上国への理解を深め,また大言壮語になるけれど,技師としてよりも人間として,他人の痛みがわかる人が一人でも多く出てくれることを,みずからの浅学非才をも省みずペンを執った者として,強く願ってやまない.
 不本意ながら,内容によっては日本のODA(政府開発援助)の実施機関へ配慮せざるをえない事情があったことを付記しておきたい.

ひとくち英会話 English Conversation in Your Laboratory

〔検査機械展示場にて(1)〕

著者: 𠮷野二男 ,   常田正

ページ範囲:P.184 - P.185

技師:この機械は何をするものでか.
展示物説明係:血色素計です.この機械でヘモグロビンを非常に簡単に測定することができます.吸光分析法がこの機械の原理なのです.

ザ・トレーニング

選択培地に発育しない細菌1—Salmonella,ShigellaおよびVibrioについて

著者: 坂崎利一

ページ範囲:P.187 - P.190

問題1 選択培地とはどのような培地か.
〈解説〉
 いろいろの菌の混在する検体から,ある特定の菌を分離するために,その菌には無害で,他の菌には有害な物質を加え,目的の菌だけが発育するように工夫した培地を選択培地という.腸管,上部気道,外部性器のような本来多種類の菌が正常フローラとして存在する部位からの検体や,食品,土壌,水などの環境検体からの特定病原菌の検出は,単に臨床医学のみならず,公衆衛生,食品衛生上重要で,それらの手段として各種の選択培地が考案され,大きく役立っている.

検査技師のためのME講座 計測器・9

全自動血液ガス分析装置

著者: 下村弘治 ,   水野映二

ページ範囲:P.191 - P.195

 数多くある検査項目の中で,患者の生命に直接影響し,緊急性をもつものがあるが,血液ガスの測定はその中の一つであるといえよう.分析データを正しく出すためには,①採血から測定に入る前までの段階,②ガス分析装置による分析,③結果報告,の各段階における作業が正しく実行されなければいけない.ここでは②の血液ガス分析装置についてのその測定原理,測定機構,メンテナンス,精度管理などを解説し,日常分析に少しでも役だてていただくことを望むものである.

トピックス

Common variable immunodeficiency

著者: 佐伯修

ページ範囲:P.199 - P.199

 Common variable immunodeficiency(CVI)とは,種々の感染症に罹患しやすく,低ガンマグロブリン血症を示し,既知の免疫不全症に含まれない疾病に対してつけられた疾患名である.現在のところ,適当な日本語名はないが,一般的には「分類不能型免疫不全症」という名で呼ばれている.この不可解な日本語名に示されているようにその病態は一様でなく,種々雑多な免疫不全症がこの中に含まれており,この病気を理解するのをいっそう困難にしている.ここでは,簡単に,診断基準およびその病態について紹介する.

検査を築いた人びと

斜位の検査法をはじめた眼科医 アルブレヒト・フォン・グレーフェ

著者: 深瀬泰旦

ページ範囲:P.128 - P.128

 小・中学生を中心に,ファミコンが爆発的に普及している.近ごろでは,幼稚園の年少組のコドモでさえ,テレビゲームに興じている時間が長くなったという.このようなコドモたちの中には,2時間も連続して遊んでいると,"眼位の異常"が起こることがある,という記事が,1986年9月の『毎日新聞』に載っていた.
 患者の一眼にプリズムを着装し,前方においた,中央に黒点のある垂直線を両眼で見せて,その焦点の位置によって,"眼位の異常",すなわち斜位(潜伏斜視)の診断を下すことができる.これがグレーフェが考案した斜位の検査法である.

私たちの本棚

古き良き時代・沖縄—沖縄物語—古波蔵保好 著

著者: 仲間勝彦

ページ範囲:P.166 - P.166

 古き良き時代を懐古するのは,人生の年輪を重ねた証拠であろう.私は若いから,古き良き時代が何たるかをまだ知らない.
 ある沖縄歴史学が古琉球民について,こう書いている.「周辺の陸地から遠く隔離された孤島であった関係で,外敵侵入の心配はなく,その上に自然景観が美しく気持ち良い所であったので,心は至ってのんびりで温和で親切で,従って島の人々は血族集落的な社会を成して楽しい生活を営んでいた.」

けんさアラカルト

私のブルースライドの作りかた

著者: 狩野賢二

ページ範囲:P.200 - P.200

 スライドは発表内容をわかりやすくするために用いるが,年に一度か二度しか作らないので,作るたびに戸惑い,ともすれば逆効果を与えかねない見苦しいスライドになることもある.そこで,ブルースライドの作りかたについてまとめてみた.

りんりんダイヤル

毒素原性大腸菌の血清学的スクリーニングについて

著者: 本田武司 ,   辻孝雄

ページ範囲:P.201 - P.201

問 毒素原性大腸菌のエンテロトキシン検出のための試験は,広義の病原性大腸菌の中からどのくらいの範囲の菌に的を絞って行うのが最も完全で,かつ最少の仕事量となるものでしょうか.お教えください.(静岡 S生)
答 ご存じのように,腸管感染原因菌となりうる大腸菌は病原大腸菌(広義)と総称され,この中にはご質問にある毒素原性大腸菌(ETEC)のほかに,侵入性大腸菌(EIEC),病原性大腸菌(狭義),腸管出血性大腸菌の4種があります(表1).

コーヒーブレイク

腹を割って話し合う

著者: Y.U.

ページ範囲:P.136 - P.136

 外見からは,世界にはさまざまな人種が存在している.また,主要組織適合因子も人種間では差がある.ところが,一度胸腔や腹腔を開いて見ると,皮膚の色や外見には関係なく,内臓は同じ色をし,同じ場所にあり,血管も同じように走っているのに驚く.
 内臓を見ることができなかったときには,病気についてもいろいろのことがいえ,誰もが勝手な学説を唱えることができた.しかし,目の当たりに,形態学的に病気を見ることができるようになってからは,あまり勝手なことが言えなくなった.

ME図記号に強くなろう

30操作記号(1)

著者: 小野哲章

ページ範囲:P.158 - P.158

 ツマミ調整用のパネル図記号である.
 ①スライド式のボリュウム等で,出力等を直線的に調整するツマミにつけるもので,太いほうが大きく(出力や感度)なる方向を示す.

エトランゼ

福沢諭吉の英語力

著者: 常田正

ページ範囲:P.185 - P.185

 幕末の写真集をひも解くと,必ず福沢諭吉の写真が載っている.その中の一枚にサンフランシスコの写真館で14,5歳のアメリカの娘さんと一緒に撮った写真がある.諭吉はちょんまげに着流しのまま刀も持っていない.諭吉はこの写真をたいへん自慢してひとに見せびらかしたそうだが,それというのも咸臨丸で洋行したサムライ達はサンフランシスコで記念写真を撮ったが,諭吉のほかには誰ひとりアメリカ娘と一緒に写真を撮ったものなどはいなかった.
 この写真は諭吉が英語を話せた証拠としてひとに見せびらかし,自慢したものである.「娘さん,私と一緒に写真をとってください」と英語で彼は言えたのである.あなたなら何と言いますか.それともほかのサムライたちと同じように,男は黙ってひとりでカメラの前に立ちますか.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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