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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術16巻7号

1988年06月発行

雑誌目次

免疫化学検査法 Ⅰ 免疫化学検査の基礎

3・免疫化学検査の精度管理

著者: 細萱茂実 ,   内藤勝人 ,   野田美穂子 ,   久米章司

ページ範囲:P.623 - P.628

はじめに
 臨床検査の目的は臨床上有用な客観的データを提供することであり,その際データの信頼性を保証することはもっとも重要で基本的なことといえる.免疫反応を利用した検査法は一般の臨床化学検査法などと比較して多くの種類の測定法があり,また得られるデータも定性的な値から定量値に至るまでさまざまである.したがって,データの信頼性を維持し向上させることが目的である精度管理を考える場合,データのもつ性質をよく理解しそれぞれの測定法に合った適切な方法を用いることが必要である.そこで,まず臨床検査データの分類と定量値がもつ測定誤差について一般的に述べ,次に検量線が非線形であるという点において多くの臨床化学分析と異なる免疫化学検査法の誤差変動とその管理法について,従来から報告されてきた手法を整理するとともに問題点を中心に考察を加えた.

2・抗原抗体反応の応用

1)ラジオイムノアッセイ(RIA)

著者: 宮地幸隆 ,   入江実

ページ範囲:P.580 - P.585

はじめに
 1950年代後半にBersonとYalow1)により開発されたラジオイムノアッセイ(Radioimmunoassay;RIA)は,微量物質の測定にはきわめて優れており,操作も比較的簡便なことから,広汎に用いられている.本稿ではRIAの確立,評価および新しい方法について解説する.

2)エンザイムイムノアッセイ(EIA)

著者: 石川榮治

ページ範囲:P.586 - P.592

はじめに
 エンザイムイムノアッセイ(enzyme immunoassay;EIA)は抗原抗体反応を酵素標識の助けにより定量的に追跡して,抗原あるいは抗体を測定する方法の総称である.
 イムノアッセイに用いられる他の標識,例えば放射性同位元素(ラジオアイソトープ),蛍光物質,発光物質,赤血球,ラテックスなどと比べて,酵素は標識としていくつかの利点をもっている.放射性同位元素が人体に有害であり,不安定なため長期保存できないのに対し,酵素は人体に対する危険性はなく,安定であるため長期の保存が可能である.したがって,酵素はだれでも,どこでも容易に使うことができる.放射活性,蛍光,発光などに比べて,酵素活性はより容易に抗原抗体反応に連動させて調節することができるので,簡便で迅速なイムノアッセイの開発が容易である.酵素反応を長時間にわたって行うことにより反応産物を蓄積して,つまり増幅して酵素を検出することができるので,放射性同位元素,蛍光物質,発光物質などに比べてより高感度で検出できる.したがって,ラジオイムノアッセイ(RIA),その他のイムノアッセイより感度の高いイムノアッセイが可能となる.

3)免疫比濁法

著者: 伊藤忠一

ページ範囲:P.593 - P.598

はじめに
 液相において生成される抗原抗体複合物(immunecomplexes;IC)を定量的に解析する方法の嚆矢はHeidelbergerとKendallによる定量沈降反応である1).本法は分離したICについてmicro-Kjeldahl法によって窒素を定量するという,精密ではあるが煩雑な方法であった.その後3年たって,Libby2)はICの生成を光学的に定量解析する方法を発表した.この方法は定量沈降反応に比較して分析に要する時間を劇的に短縮させた実用的な方法であったにもかかわらず,最近まで日常検査法として採用されることはなかった.この方法を実施するに十分な性能を備えた光学的装置の開発が進んでいなかったためと考えられる.
 この方法が日常検査法として見直されるようになったのは,臨床化学検査の自動化が進行し,同種あるいは類似の分析装置にこの原理を応用すれば化学検査と同様に抗原抗体反応を自動的かつ定量的に分析することが可能であるという認識の生じたせいであろう.免疫血清検査に対する需要の増大がそれに拍車をかけた.このような認識を生じせしめた背景としていくつかの先人的な研究を紹介する必要があろう.その一つは,非イオン性重合体の添加による抗原抗体反応の増強である3).Hellsing4)の一連の研究により,液相の抗原抗体反応系に非イオン性重合体を添加することにより反応は著しく促進され,当量域が抗原濃度の高いほうにシフトし,かつ反応時間も短縮されることが系統的に明らかにされた.その二つは,Killingsworthら5),Ritchie6)による実用化装置の考案である.彼らはフロー・システムによるフルオロネフェロメーターを用いて血漿蛋白成分の自動的定量法に成功した.いわゆるAIPシステムである.

4)ネフェロメトリー

著者: 大竹皓子

ページ範囲:P.599 - P.605

はじめに
 光散乱現象をもとにして,定性分析または定量分析を行う方法は,古くから免疫学,微生物学,分析化学などの分野で利用されてきた.具体例としては,免疫沈降反応による抗原の定量,懸濁液中の粒子の濃度の定量,Zimmプロットによる高分子成分の分子量の測定などが挙げられる.光散乱現象を用いた定量分析法には大別すると,タービディメトリー(turbidimetry:比濁法)とネフェロメトリー(nephelometry;比朧法)とがある.前者は,溶液または懸濁液中を光が通過したときに,吸収と散乱によって減衰した透過光を,フォトメーターによって検出して試料中の目的物質の濃度を測定する方法である.後者のネフェロメトリーは,光が小粒子の懸濁液中を通過するとき全方向に散乱されるが,この散乱された光をある角度方向の検出器によってとらえ,その強度から試料物質の濃度を測定するものである.
 ネフェロメトリーは,原理的に比濁法に比べて比較的低濃度の試料を感度よく測定できることから,近年は,血清特異蛋白質の免疫学的定量法,イムノネフェロメトリー(immunonephelometry;免疫比朧法)として広く普及している.

5)ラテックス凝集比濁法

著者: 櫻林郁之介 ,   石井周一

ページ範囲:P.607 - P.613

はじめに
 ラテックス凝集比濁法は,希薄溶液においてラテックスに抗体(または抗原)を結合させ,抗原抗体反応を起こさせてその生成物による濁度を吸光度としてとらえ,測定する方法である.従来の溶液内抗原抗体反応に比較すると,光の散乱をより顕著にとらえることができ,したがって,より高感度の測定が可能であるので,試料中の微量成分の測定に適しており,この原理を応用した測定系が次々と開発されている.現在,白色光を用いる方法および近赤外光を用いる方法が実用化されている.このほか,いわゆる免疫比濁法ではないが,ラテックス粒子を用いてその粒度分布から測定する方法や積分球濁度方式による方法なども開発されているので,この項で述べることにする.

6)蛍光・発光イムノアッセイ

著者: 辻章夫 ,   前田昌子

ページ範囲:P.614 - P.622

原理
 蛍光・発光イムノアッセイは,標識物質として蛍光または化学発光性化合物を用い,抗原抗体反応後,結合型(B)と遊離型(F)を分離して,または分離せず均一系でその活性を蛍光または化学発光反応により測定する非放射性イムノアッセイである.蛍光・化学発光の原理を模式的に図1に示す.
 蛍光は基底状態の分子が光の照射によりその分子に特有の波長の光(励起光)を吸収して励起状態となり,基底状態に戻る際に光(蛍光)を放出する現象である.一方,化学・生物発光は,発光物質が化学反応(主として酸化反応)または生物化学反応(主として酵素反応)によりエネルギーの高い励起状態の中間体を生成し,次いでそれが基底状態に戻る際に光を放出する現象である.また,励起状態の中間体から放出されるエネルギーにより,共存する発蛍光性分子が励起されて光を発する.

Ⅱ 測定法の実際 1・血漿蛋白

④CRP

著者: 笠原和恵

ページ範囲:P.652 - P.654

 CRP(C-reactive protein;C反応性蛋白)は,炎症や組織の壊死などの病態で著しく増加し,その変動域は1,000〜10,000倍に及ぶことから,長い間沈降反応(毛細管混合法)により半定量値が求められてきた.近年,測定技術・測定器機の開発によって微量抗原検出法(non-isotopic)が確立し,CRPも定量化の方向にあるが,いずれの方法もすべての検体のCRP値を1回で測定できないのが隘路である.しかし,抗原過剰のチェック機構,あるいは自動再希釈,再測定を行う器機も登場した.近時,健常人血清CRPの動態や尿,髄液CRP値も注目を集めるようになった.以下,測定法の長短を中心に紹介する.

⑤α1-アンチトリプシン

著者: 三宅和彦 ,   伊藤善志通

ページ範囲:P.655 - P.657

α1-アンチトリプシンとは
 α1-アンチトリプシン(α1-AT)は,血中に存在する主要なプロテアーゼインヒビターである.α1-ATはトリプシンのみならずキモトリプシン,エラスターゼ,カテプシン,プラスミン,トロンビン,カリクレイン,ウロキナーゼ,コラゲナーゼ,レニンなど種々のセリンプロテアーゼを阻害するため,α1-プロテアーゼインヒビターとも呼ばれている.
 α1-ATは分子量51,000で,394個のアミノ酸から成るsingle polypeptide chainの糖蛋白である.N末端から46,83,247番のアスパラギン残基に複合型のオリゴ糖鎖が結合している.糖部分は分子量の12.5%である.プロテアーゼとの反応部位は358番のメチオニン残基である.S-S結合はなく,232番にシステイン残基が1個あるのみである.

⑥α1-マイクログロブリン

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.658 - P.660

 α1-マイクログロブリン(α1-m)は,特異な物理化学的性質(荷電の不均一性,IgAや褐色物質などの結合性など)を有する低分子糖蛋白質である.現在までに明らかにされているα1-m測定の臨床的意義は,血清・尿をサンプルとして,肝実質細胞障害度の検定,ことに肝切除手術後の肝予備機能,予後の判定および腎糸球体,尿細管障害の局在診断にあり,治療・予後の判定に比較的新しい,特異性の高い指針としてわが国を中心に西欧諸国などで臨床的応用が図られてきている.1975年Ekströmらにより分離精製が行われて以来,基礎研究のたゆまない積み重ねの中から,最終的に臨床応用のゴールともいうべき検査領域にも種々の測定法が導入され,現在表1に示すような測定法が検査キットとして市販され入手可能な時代を迎えるに至った1,2)
 本稿では,検査室で現在入手可能な測定キットを中心に話を進め,サンプルの取り扱いかた,測定原理,測定法の概要と操作上の注意点について概説する.

⑦β2-マイクログロブリン

著者: 榎本博光

ページ範囲:P.661 - P.663

 現在,β2-マイクログロブリン(β2-microglobulin;β2-m)の測定は腎疾患,自己免疫性疾患,悪性腫瘍など種々の疾患の診断,経過観察および予後判定などに広く応用されている1).最近では,HIV感染者の予後診断にも応用できることが報告され2),臨床上ますます重要な検査となっている.β2-mの測定法としてはすでに多数のキットが市販されており,操作法などの詳細は各キットの説明書やほかに報告されている3).ここでは代表的な測定法についてその測定操作の概略を述べることとし,測定法の種類とその特徴および検体の取り扱いと測定に及ぼす影響を中心に述べる.

⑧ハプトグロビン

著者: 荒木俊光

ページ範囲:P.664 - P.666

はじめに
 ハプトグロビン(haptoglobin;Hp)は,1938年にPolonovskiら1)によりヘモグロビン(Hb)に血清を添加するとペルオキシダーゼ活性が増強されることから発見された蛋白で,電気泳動法による易動度の違いによりHp1-1,Hp2-1,Hp2-2の3種類の血清型(遺伝子型)に分けられる.Hpはヘモグロビンの腎排泄に深い関係があり,溶血性疾患などで容易にHb-Hp複合体を形成し,血液中から減少・消失する.また,肝産生の蛋白であるため肝硬変症などのときに減少を示す.一方,Hpは急性相反応物質の一つとして,炎症や癌・悪性腫瘍のときには増加を示し,特に新生児のAPRスコアには欠かせない蛋白となっている.
 本稿ではHpの性状とその検出法を,免疫化学的測定法を中心に文献的考察を加えて概説する.

⑨トランスフェリン,セルロプラスミン

著者: 牧野義彰

ページ範囲:P.667 - P.669

トランスフェリン
 構造と生理的機能
 トランスフェリン(TF)はβ-グロブリン分画に属する血漿蛋白で,主に肝臓で合成され,血中に分泌される.血清中では鉄と結合して生体内の種々の組織へ鉄を輸送する役割をもち,生体内の鉄の代謝に関与している.また細胞の増殖因子としても知られている.この蛋白は分子量が約80,000のsingle peptideであり,peptide鎖の中央よりC末端側に2本の糖鎖を有する糖蛋白質である.PeptideのN末端とC末端付近にはおのおの1原子の鉄と結合するsiteがあり,この部分に鉄が結合するか否かによって血清中には次の4種類のTFが存在する1).すなわち,鉄が両方のsiteに結合したものをdiferric TF(Fe2-TF),N-site,C-siteのいずれかに結合したものをA-site monoferric TF(Fe-A-TF),B-site monoferric TF(Fe-B-TF),両siteにまったく鉄が結合していないものをapo TF(Apo-TF)と分類している.これらの四つのタイプのTFは正常の血清中に存在し,疾患によってその割合が変化するという報告がある.それらは6M尿素ポリアクリルアミド電気泳動の後に交叉免疫電気泳動を行うと分離できる2)
 TFは血清中に正常では200〜280mg/dl含まれている.前述のようにこれらのTFには鉄結合数により四つのタイプがあるために,血清中のTFには鉄が完全に飽和されていないことになる.鉄が完全に飽和されたときの鉄の量を総鉄結合能(total iron bindingcapacity;TIBC)という.このTIBC値は血清中のTF値と相関するものである.これに対して血清鉄はTFに実際に結合している鉄の量を示すもので,この値が鉄結合能(binding iron;BI)を示すものである.総鉄結合能から鉄結合能を差し引いたものは潜在性鉄結合能(unsaturated iron binding capacity;UIBC)という.鉄結合能は正常が30%程度で維持されており,この値が腸管からの鉄の吸収にも関与しているとも考えられている.

⑩フェリチン

著者: 新津洋司郎 ,   後藤義朗

ページ範囲:P.670 - P.672

 フェリチンは主に肝,脾に存在する鉄貯蔵蛋白である.血清フェリチンはそれらの鉄貯蔵量を反映する指標としてばかりでなく,悪性腫瘍患者の血清で高値をとるので,腫瘍マーカーとしても注目されている1)

②免疫グロブリン

a) IgG,-A,-M

著者: 山岸安子

ページ範囲:P.634 - P.637

 免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM)の測定はヒトの免疫機能を知るうえに重要な臨床検査である.
 測定法は,従来の一元放射状免疫拡散法(singleradial immunodiffusion法;SRID法)から免疫化学的自動分析法へと進められ,現在では溶液内沈降反応を応用したTIA法(turbidimetry:比濁法),ネフェロメトリー(nephelometry:比朧法)などが主に用いられている.また,微量測定法としてラテックス免疫比濁法もある.ここでは,日常検査で広く用いられている主な測定法のみを取り上げ,測定原理,方法,測定法の特徴などについて触れる.

b) IgD

著者: 荒川正明 ,   櫻林郁之介

ページ範囲:P.638 - P.640

IgDとは
 IgDは1965年,第4番目の免疫グロブリンとして,Roweら1)によって発見された.さらに,IgDがリンパ球の中のB細胞膜表面に多く存在していることがわかり,免疫応答における役割が注目されている.血清中に存在するIgDについては,IgD型骨髄腫およびその類縁疾患で著明に増加すること以外には不明な点が多い.血清IgDの正常値についても,非常に幅広い分布を示し,現在用いられている測定法の検出限界以下の血清もあり,いわゆる平均値として正常値を表すにとどまっているのが現状である.
 われわれもIgDに関しては種々の検討を加えているが,ここでは,現在一般的に行われているIgDの測定法に加え,正常値に関する最近の知見も含めて,IgDについて述べてみたい.

c) IgE

著者: 森晶夫 ,   宮本昭正

ページ範囲:P.641 - P.644

IgEとは
 IgEは血中濃度0.0003mg/mlと,血中にはきわめて微量に存在する免疫グロブリンである.1966年石坂らにより,I型アレルギーを引き起こすレアギン活性を担う物質が,新しい免疫グロブリンクラスに属する抗体であることが発見され,1967年Johanssonにより報告された非定型的骨髄腫蛋白と同一のものであることがわかり,1968年WHOによりIgEと命名された.
 沈降定数8S,分子量約20万,H鎖(ε鎖)はγ,α,μ鎖より大きく,五つのドメインを有する.IgEは,気道・消化管粘膜,リンパ節などで作られ,肥胖細胞,好塩基球の細胞膜上に存在し(同種組織親和性を有する),外来抗原と反応して脱顆粒を引き起こす.

③補体

a) C3,C4,C5

著者: 上田一仁 ,   稲井真弥

ページ範囲:P.645 - P.648

 免疫学的機序が関与する疾患や補体系蛋白に欠損や異常が認められる疾患の診断や経過の観察のために,補体価の測定に加えて,補体系蛋白の定量が行われる.現在その測定には種々の方法が用いられているが,ここでは広く普及している一元免疫拡散法,免疫比朧法および免疫比濁法を中心に解説する.

b) C1q

著者: 巴山顕次

ページ範囲:P.649 - P.651

 補体は動物の新鮮血清中に存在する古典経路(classical pathway)の補体成分C1〜C9,第2経路(alternative pathway)のB因子,D因子,プロパージン,補体の制御因子のC1インヒビター,C3 bINA,C4b結合蛋白,βIHなどの蛋白質によって構成されている.補体の活性化には,抗原抗体複合体に補体成分のC1,C4,C2,C3,C5,C6,C7,C8,C9の順序で活性化されるclassical pathwayと,細菌の細胞壁などに補体成分のC3,B因子,D因子,C5,C6,C7,C8,C9の順序で活性化されるalternative pathwayがある.これらの二つの反応経路の活性化は,C5bにC6,C7,C8,C9が作用してできたC5b-9複合体は細胞膜を破壊して細胞溶解を起こす.また,この過程で種々の炎症惹起因子を生じる.
 補体第1成分(C1)は,C1q,C1r,C1sの三つの亜成分がCaイオンにより結合している,分子量740,000の高分子である.C1qは抗原抗体複合体の抗体のFc部分に結合し,亜成分のC1r,C1sおよび補体成分のC4〜C9の順序によるclassical pathwayによって活性化される最初の段階に結合する必要な成分で,3種類のポリプペチド鎖から成る,分子量41,000の糖蛋白質である.そして,C1qの血中濃度は慢性関節リウマチ,強皮症などで高く,全身性エリテマトーデス,混合性結合組織病などで低く,病状の経過,臨床診断に活用されている.

2・腫瘍マーカー

①腫瘍の免疫学的診断

著者: 河合忠

ページ範囲:P.673 - P.676

癌診断へのアプローチ
 ある病巣が癌であるか否かを診断する場合,多くは病理組織学的所見によらなければならない.しかし,つねに病理組織学的に癌と診断しうるとは限らない.病巣が生検によって適切に採取しえない場合もあるし,また,たとえ病巣が採取しえても,癌と紛らわしい良性病変と鑑別することが病理組織学的に困難な場合もある.
 しかし,癌ほど早期診断(再発も含めて)が重要な意味をもっている疾患はない,それゆえ,古くから尿や血液を使って癌を早期に診断しようとする努力がなされてきた.しかし,現在のところ,癌に特異的な生化学的・免疫学的検査が実用化されていないし,ある一つの癌をとってみても100パーセント診断しうる検査はない.しかし,近年,さまざまな測定法,とりわけ免疫測定法の進歩によって,かなり臨床的に役だつものが開発されている.

②AFP

著者: 遠藤康夫

ページ範囲:P.677 - P.679

 α-フェトプロテイン(AFP)は分子量が約70,000の糖蛋白で,約4%の糖を含んでいる.森永ら1)によると,AFPは590個のアミノ酸から成り,N末端から232番目のアミノ酸(アスパラギン)の位置に1本のアスパラギン糖鎖を有している.
 AFPの産生は生理的には,胎生期にヨークザックおよび胎児肝で行われている.そのほか,わずかであるか胎児消化管でも行われている.出生後はAFP産生は停止しているが,病的状態で再び産生が開始され血中に増加してくるようになる.その代表的な疾患がヨークザック腫瘍と肝細胞癌であり,ほかに胃癌,膵癌(特に肝転移例)の際もまれではあるが血中AFP高値の例がみられる.良性疾患では,肝炎,肝硬変の際に軽度血中AFP増加のみられることがあるが,著しい増加は一般にみられない.ほかに胆道閉鎖症,チロジン血症などの先天性疾患の場合にも血中AFPは増加する.

③CEA

著者: 藤野雅之 ,   内藤勝人

ページ範囲:P.680 - P.683

はじめに
 癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen;CEA)は1965年Goldら1)によりヒト結腸癌組織の抽出液中から発見され,ヒトの消化器癌と胎児消化管に共通して特異的な抗原物質(癌胎児性抗原)として報告された.その後,消化器以外の癌や一部の良性疾患でも血中に増量すること,さらには健常成人組織中にも存在することが明らかとなり,当初期待された消化器癌特異性や早期診断的利用価値は認められなくなった.しかし,多くの悪性疾患で血中値は著しく増加し,また外科手術の経過観察や再発の発見および各種治療効果の判定などにおける臨床的有用性はその評価が定着しており,CEAは現在もっとも重要な腫瘍関連マーカーの一つであるといえる.
 一方,CEAの定量法としてはThomsonら2)によりラジオイムノアッセイ(RIA)が,Hammarströmら3)によりエンザイムイムノアッセイ(EIA)が開発され,最近ではモノクローナル抗体を使用した測定キットも開発されている.ただし,現状においては,測定法により得られる値が異なりそれらの測定値間に互換性がないことなど,測定系にかかわる問題点も存在する.しかし,CEAの抗原構造も細部にわたり徐々に解明されつつあり,CEA特異モノクローナル抗体を用いた測定系の開発に加えて,EIAの全自動分析装置やラテックス凝集反応を応用した測定法は急速に進展しつつある.

④CA 19-9

著者: 越智幸男

ページ範囲:P.684 - P.687

はじめに
 CA 19-9は,現在CEAと同様に臨床的にもっとも汎用されている腫瘍マーカーである.Koprowskiら1)(1979年〉により,ヒト結腸癌培養細胞(SW 1116)でマウスが免疫され,CA 19-9に対するモノクローナル抗体(MoAb)が作られた.このMoAbが消化器癌特異的であることから,ラジオイムノアッセイ(RIA)法が確立されている.ここでは,測定法の実際と臨床的意義および抗原の糖鎖構造について概説する.

⑤CA 125

著者: 有吉寛 ,   桑原正喜

ページ範囲:P.688 - P.690

はじめに
 腫瘍マーカーが臨床的に有効に使用されるためには,その物質の腫瘍特異性や感受性が高いことのほかに,簡便で信頼性の高い測定系が容易に入手可能であることが重要な条件である.Bastら1,2)の見いだしたCA 125にはRIA法とEIA法の測定キットが商品化されているが,われわれの経験3〜5)や他の文献的報告6)から,それらは十分臨床に使用できるものと判断している.したがって本稿では,CA 125の測定法としてRIA法とEIA法につきその技術的な面を中心として解説したい.

⑥SCC抗原

著者: 加藤紘 ,   林公一

ページ範囲:P.691 - P.693

はじめに
 近年モノクローナル抗体を利用して次々に新しい腫瘍マーカーが発見されているが,扁平上皮癌に対する腫瘍マーカーはいまだ数少ない.TA-4は扁平上皮癌に対して開発された数少ない腫瘍マーカーの一つである1).従来,TA-4の測定用キットとしてSCC抗原RIAキット(ダイナボット社)が広く利用されてきたが,1987年10月からモノクローナル抗体を利用した新しい測定キット(SCCリアビーズキット;ダイナボット社)が発売された.ここでは特にSCCリアビーズキットを中心に測定の実際について述べる.

⑦PAP,γ-セミノプロテイン

著者: 山内昭正

ページ範囲:P.694 - P.696

はじめに
 腫瘍マーカーとして知られているものは最近ではかなりの数に上るが,そのうちでも早くから前立腺癌のマーカーとして酸ホスファターゼ(acid phosphatase;ACP)が知られている.
 1936年GutmanらがACPが前立腺癌患者では高値であると報告してから,注目を集めた.ACPは前立腺組織中に多量に含まれているとはいえ,血小板,赤血球などいろいろな組織にも含まれている.その後,前立腺由来のACP(prostatic acid phosphatase;PAP)を分けて測定する方向で基質の選択や抑制物質を見つけることにより特異的測定法が発展してきた.しかし,酵素学的に測定しようとする方法enzymeassayは,感度や特異性の点で十分とはいえない.免疫学的な測定法が開発され,使用されるようになった.また,PAP以外の前立腺癌の腫瘍マーカーとして,血中のγ-セミノプロテイン(γ-seminoprotein;γ-Sm)や前立腺特異抗原(PA)などの測定も行われるようになってきた.

⑧TPA

著者: 銭谷幹男

ページ範囲:P.697 - P.699

TPAとは
 組織ポリペプチド抗原(tissue polypeptide antigen;TPA)とは,種々の消化器癌,肺癌,性殖器癌,腎癌などの多数のヒト癌組織ホモジネートから抽出分離された,抗原性を有する複合蛋白体である1).このTPAは,ヒト癌組織,胎盤およびHeLa細胞などの樹立化細胞株の培養上清中に検出でき,また組織学的にも上皮性悪性腫瘍組織および胎盤の栄養膜細胞層の細胞膜および細胞質内小胞体に存在することが明らかとなっている.この抗原蛋白は現在,亜分画を有することが知られている.その結果,抗原性を有する分画はSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分子量は約43,000のB1分画と命名されている単鎖ペプチド(single chainpeptide)であり,糖および脂質は含有せず,アミノ酸としてグルタミン酸,ロイシン,アスパラギン酸および痕跡程度のシステインを含有することが明らかにされている.
 励起波長288nmで蛍光(350nm)を発するという特徴を有し,等電点は4.4〜4.6,pH3.5以下で安定可溶性を示し,pH7.0では絶対過量の蛋白存在下で可溶化状態で活性を維持するとされている2,7).また,TPAはCEA,AFP,IAPなどの腫瘍マーカーと同様に免疫抑制活性を有し,TPAに対する抗体は癌組織細胞およびHeLa細胞などの株化癌細胞で吸収される癌細胞に対してのみの細胞障害性を示す.最近,TPAのアミノ酸配列も一部明らかにされ,TPAと細胞の中間フィラメントであるサイトケラチンとの類似性が指摘されており,この面からの検討も進められている8)

⑨エラスターゼ1

著者: 中島公雄 ,   馬場純子

ページ範囲:P.700 - P.701

エラスターゼ1とは
 エラスターゼは,結合組織の弾性線維エラスチンを特異的に加水分解する膵外分泌蛋白分解酵素である.ヒトの膵臓には2種類のエラスターゼ,すなわちエラスターゼ1とエラスターゼ2がある.この二つのエラスターゼは,免疫学的にも物理化学的にも異なった性質をもっている.
 血中のエラスターゼの測定にはまず酵素学的な測定法が試みられたが,酵素活性阻害物質が流血中に高濃度に存在することなどにより成功するに至らなかった.しかし,1974年Feinsteinらによってヒトの膵からエラスターゼ1が高純度に精製され,さらに1978年大山ら1)によってラジオイムノアッセイ(RIA)法が開発された.その後,この方法を用いた血中エラスターゼ1測定用RIAキットが市販され,急性膵炎,慢性膵炎の診断あるいは経過観察に利用されている.また,エラスターゼ1は厳密には腫瘍マーカーとはいえないが,膵臓症例では随伴性膵炎を反映して異常高値を示す成績から,広義の腫瘍マーカーとして臨床的意義が注目されている.

⑩NSE

著者: 野本剛史

ページ範囲:P.702 - P.704

 エノラーゼ(2-phospho-D-glycerate hydrolyaseまたはphosphopyruvate hydratase:EC4,2,1,11)は細胞質に存在する,分子量約9万で,2-phosphoglyceric acid ⇄ phosphoenol pyruvic acjd+H2Oの反応を触媒する解糖系の酵素であり,3種のサブユニットα,β,γから成る二量体構造の可溶性蛋白質である.現在αα,αβ,ββ,αγ,γγの5種のアイソザイムが確認されている.このアイソザイムのうちγサブユニットを有するαγ,γγアイソザイムは神経および神経内分泌細胞に特異的に存在することから,神経特異エノラーゼ(neuron specific enolase;NSE)と称されている.
 1965年および1968年Mooreらにより発見された2種の神経特異的蛋白S100および14-3-2のうちの14-3-2を1977年MarangosらがNSEと命名した.その後1979年NSEのラジオイムノアッセイ(RIA)が初めて確立され,1984年Påhlmanらによりさらに高感度のRIAが開発されて,近年NSEについて多くの研究がなされるに至っている.

3・アポ(リポ)蛋白

①アポ(リポ)蛋白の代謝

著者: 武内望

ページ範囲:P.706 - P.710

 血清リポ蛋白は,電気泳動あるいは比重の差によって幾種類かの成分に分類できる.電気泳動では原点から陽極に向かってカイロミクロン(CM),β-リポ蛋白,プレβ-リポ蛋白,α-リポ蛋白の順に4種類に分けられる.ただし,腸管から吸収された食餌性脂肪の運搬を行うCMは代謝が速いため健常人では食後にのみ検出され,空腹時血清にはほとんど認められない.
 比重による分類は,超遠心で一般の血清蛋白より軽いリポ蛋白を浮上させ,各リポ蛋白の比重の差により分離する方法である.比重の軽い順にCM,超低比重(VLDL;プレβに対応),中間比重(IDL;プレβとβの中間に位置する),低比重(LDL;βリポに対応),高比重(HDL:αリポに対応),および超高比重(VHDL)リポ蛋白に分けられ(図1),さらに,これらの画分は比重のわずかな差によりいくつかの亜画分に分類しうる.またゲル濾過法を適用した高速液体クロマト法では比重の軽いリポ蛋白粒子はサイズが大きいため,上記のリポ蛋白の順序で溶出される.

②アポ(リポ)蛋白

著者: 長裕子

ページ範囲:P.711 - P.713

はじめに
 アポ(リポ)蛋白のうちアポA-I,アポA-II,アポB,アポC-II,アポC-III,アポEの6種が保険の適用項目になって以来,アポ蛋白も日常検査として測定されつつある.アポ蛋白の免疫化学的測定法には,ラジオイムノアッセイ法,免疫電気泳動法(ロケット法),酵素免疫測定法,一元免疫拡散法,免疫比濁法などがあるが,市販されているキットは主に一元免疫拡散法(SRID法)による方法である.そこで本稿ではSRID法によるアポ蛋白の測定を中心に記述する.

4・ウイルス感染症

①ウイルス検査

著者: 沼崎義夫

ページ範囲:P.714 - P.717

はじめに
 ウイルスの血清診断は単に抗体を測定するのではなく,"現疾患の病原ウイルスが産生した抗体である"ことを証明することである.
 ウイルス感染症は①子宮内感染(先天性疾患),②急性感染(一般のウイルス感染症),③潜伏(慢性)感染(HBV,HTLV-I,HIV),④回帰感染(ヘルペスウイルス)に分けられるが,③HBV,HTLV-I,HIVは別項に記されるので,ここでは①,②,④のウイルスについて,血清診断の条件(限界)と検査に当たっての注意事項を記す1〜4)

②HBV

著者: 矢倉廣

ページ範囲:P.718 - P.720

 HBVはDane粒子とも呼ばれ直径42nmの球状粒子で,内部にcore粒子,外殻にHBs抗原を有する二重構造である.core粒子の表面にはHBc抗原が,その内部にはHBV-DNA,DNAポリメラーゼ,プロテインキナーゼなどが存在する.これらHBV関連抗原(HBs,HBe,HBc)に対応する抗体が互いに関連性をもって存在するので,種々の方法を用いて抗原-抗体を測定しその動態を知ることが,HBV感染症における病態把握に有用である.
 この稿では各抗原および抗体の主な測定法について述べるとともに,関連ある測定法間での成績の比較も加えたいと思う.

③HTLV-I

著者: 吉原なみ子

ページ範囲:P.721 - P.723

わが国のHTLV-I検査の状況
 わが国のATLの研究は,熊本大学の高月清教授1)が1977年にATLの疾患を発見し,そのウイルスを京都大学ウイルス研究所の日沼頼夫教授ら2)が間接蛍光抗体法(indirect fluorescence antibody assay;IFA)で発見し,日本,特に九州,四国など南西地方に多い疾患であることを証明したことから飛躍的に発展した.
 ATLはわが国に200〜300万人のキャリアが存在するといわれ,AIDSに比べて高頻度であり,輸血からの感染3)があるため,1986年11月から全国の赤十字血液センターの献血血液はすべてクリーニングを行い,ATLA抗体陰性血液を供給している.現在,信頼できる検査法としてIFAとWestern blottingが用いられている.しかし,これらの方法は培養の設備や検査に多少の熟練を必要とするので,輸血のスクリーニングなど時間に制約のある場合には不向きである.検査法も日本で開発され,キット化され発売されている.

④HIV(HTLV-III/LAV)

著者: 高橋浩文

ページ範囲:P.724 - P.727

 HIV感染症においては,図1に示すごとく,感染2〜8週後から血中に抗体の出現を見る.初感染症状を除くと,抗体の出現は臨床症状の出現に先んずることが多く,また臨床症状自体必ずしもHIV感染症に特異的ではなく,他のウイルス性疾患や悪性リンパ腫をはじめとする悪性疾患と紛らわしいため,本疾患の診断上欠くことのできぬ検査となっている.
 参考までに臨床症状とHIV感染症の分類を表1に示す.現在,スクリーニングとして用いられている抗体検査法は,EIA(ELISA;enzyme-linked immunosorbent assay)1,2),および日本で開発された粒子凝集法3)であり,確認試験として蛍光抗体法(IFA)4)およびWestern blotting法5)が用いられている.さらには,確認用EIAとしてウイルスのエンベロープ蛋白(gp120)に対する抗体,コア蛋白(p24)に対する抗体を別々に測定するキットも入手可能で,臨床症状の進行とともに抗p24抗体が消退することが報告されている.

5・ウイルス以外の感染症

①非ウイルス感染症の診断

著者: 疋田博之

ページ範囲:P.728 - P.731

はじめに
 ヒトの感染症を考えると,大きくウイルス感染と非ウイルス感染とに分けられる.非ウイルスということになると,細菌以外にマイコプラズマ,リケッチア,スピロヘータ,トキソプラズマなどの原虫,カンジダなどの真菌となるが,ここでは主に細菌について述べる.さらに細菌感染をみた場合,臓器により異なった症状を呈することになり,一方,臓器特異性のものから各臓器に感染するものがある.
 細菌感染を考えると,確実に容易に早期に原因菌がわかることは臨床的にみて非常に有用であるが,実際に推定診断のもとに抗生剤が投与され,塗抹,培養などの細菌検査で検出され難い.そこで間接的な方法として血清中の各種抗体の検索が有用で現在いろいろな方法が施行されつつある.

②ASO

著者: 亀子光明 ,   金井正光

ページ範囲:P.732 - P.735

ASO価とは
 溶血性レンサ球菌(以下,溶レン菌)には現在21菌種が認められており,血清学的にI,Jを除くA群からV群の20群に分類される1).このうちA群溶レン菌(化膿レンサ球菌;Streptococcus pyogenes)は化膿性疾患の病原体として大きな意義をもつほか,この菌の感染が先行する非化膿性続発症であるリウマチ熱や糸球体腎炎などの原因となる.臨床的に,溶レン菌感染症を裏づける代表的な血清学的検出法としては,ASO価(抗ストレプトリジンO)測定が,日常検査にもっとも広く用いられている.この測定は,A群溶レン菌の菌体外毒素(溶血毒素)であるストレプトリジンO(SLO)に対する抗体の有無によりA群溶レン菌の感染を判別するものである.溶レン菌感染後のASO価の変動を図12)に,各疾患におけるASO価の異常値を表1に示した.

③トキソプラズマ

著者: 矢野明彦 ,   亀子光明

ページ範囲:P.736 - P.737

 トキソプラズマ症は,トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)の経口的(後天性)あるいは感染母体からの経胎盤的(先天性)感染によって起きる.先天性トキソプラズマ症の四大徴候は網脈絡膜炎,脳水腫,脳内石灰化像,精神・運動障害であり,後天性トキソプラズマ症では発熱,リンパ節炎,網脈絡膜炎,肺炎,脳炎などである.後天性トキソプラズマ症においては,感染後,約2週間目に抗体産生がみられるようになる.

④マイコプラズマ

著者: 巴山顕次

ページ範囲:P.738 - P.740

 ヒトの呼吸器感染症の中で,上気道炎,気管支炎,肺炎を惹起させる病原体はMycoplasma pneumoniaeである.M. pneumoniaeの流行は1979〜80年,84〜85年であり,4〜5年の周期で地域的に流行が認められた.厚生省感染症サーベイランスの昭和60年度の異型肺炎の年間報告数は30,116人である.そして,この年の異型肺炎患者の罹患年齢は5〜9歳がもっとも多く43.7%,1〜4歳36.4%,10〜14歳12.0%,15歳以上5.7%,1歳未満2.2%の順になっている1)

⑤STD

著者: 松永欣也

ページ範囲:P.741 - P.743

 性行為の多様化に伴い,従来の性病予防法に規定されていた性病(venereal diseases;VD)の淋疾,梅毒,軟性下疳,性病性リンパ肉芽腫症だけでなく,多種の微生物によって疾患が惹起されることがわかってきた.そこで性行為およびこれに類似する行為によって伝染する可能性のある疾患を性行為感染症(sexuallytransmitted diseases;STD)と呼ばれるようになってきた.普通,表のような疾患が挙げられる.このように細菌,ウイルスから寄生虫までと幅広い病原体なので,そのすべての検査法が確立しているわけではない.ここでは他項での病原体の検査法と重複しない免疫血清学的検査法を挙げる.

6・自己抗体

①自己免疫疾患と自己抗体

著者: 東條毅

ページ範囲:P.744 - P.747

自己免疫疾患とは何か
 免疫学の基本的な原則として,生体は自己の構成成分に対して抗体を作ることはない,と長く信じられてきた.これはEhrlichの実験(1901年)以後,多くの人によって確かめられたことであった.すなわち,彼はヤギに,他のヤギの赤血球を注射して抗赤血球抗体を作った.しかし,ヤギにそのヤギ自身の赤血球をどんなに注射しても,抗体を産生させることはできなかったのである.
 しかし他方では,これと矛盾するような事実もほぼ同じころに気づかれていた.すなわち,自己の構成成分に対して産生される抗体―自己抗体の存在である.臨床免疫学の歴史を振り返ると,最初に注目された自己抗体はDonathとLandsteinerによって発見された特殊な抗赤血球自己抗体である.特発性寒冷ヘモグロビン尿症では,低温で患者の抗体が自己赤血球と反応して溶血現象を起こす.1904年のこの発見以後,種々の自己抗体に対する臨床検査が開発された.この結果,多くの自己抗体が見いだされてきた.これによって,自己抗体に対する理解も深まった.この結果,自己免疫疾患とは何かがしだいに明確になってきた.

②免疫複合物

著者: 手嶋秀毅

ページ範囲:P.748 - P.750

免疫複合物とは
 免疫複合物(immune complex:以下IC)の検出のためにいろいろの方法が考案され,現在では40種以上があるとされる.しかし臨床に応用されているものは実践的な利点から,その中からいくつかの方法が選択されている.ちなみに,測定法を原理で分類すると次のようになる.①物理化学的方法(ポリエチレングリコールなどでICを沈殿,分離させる),②補体を利用する方法(C1q,C3,コングルチニンなどでICを付着させる),③リウマチ因子(RF)を利用する方法(RFがヒトのアグリゲートグロブリンやICと結合することを利用する.RFが125I標識アグリゲートグロブリンに結合するのをICが阻止する比率をみる),④細胞を利用するもの(Raji細胞,ヒト赤血球,血小板などの補体レセプターやFcレセプターを介して,ICを付着したり,血球の凝集反応を見たりする)などがある.
 この中で臨床に多く利用されるものは,近年ではC1q固相ラジオイムノアッセイ(C1q solid phaseradioimmunoassay;C1q-SPRIA)あるいはエンザイムイムノアッセイ(EIA)であり,ほかにもC1qを用いた方法が多くあるが,単にC1q法といえば本法を意味するようになった(以前はC1qバインディングアッセイであった).以下,本法の測定法とその臨床結果について述べるが,ほかにICに付着しているC3を媒介とした測定法としてRaji細胞やコングルチニン,抗C3抗体を用いた方法の原理の説明を加えた.

③リウマチ因子

著者: 岩田進

ページ範囲:P.751 - P.754

はじめに
 1930年代は,慢性関節リウマチ(RA)患者の血清が溶レン菌を凝集させることから,RAの原因は溶レン菌と考えられていた.その後,ブドウ球菌,肺炎球菌などによって凝集が見られ,この考えは改められた.1939年になってWaalerがRA患者血清がウサギ抗体で感作したヒツジ赤血球を凝集することを発見,Roseによりこの性質を利用した検査法(Waaler-Rose反応)が確立され,リウマチ疾患の補助診断として使われるようになった.その後Hellerらは,Roseの方法に改良を加え,あらかじめ被検血清中から正常凝集素を吸収することでより特異性を高める方法を発表した.また感作血球の凝集はウサギγ-グロブリンのほかにヒトのγ-グロブリンでも起こることも明らかにした.こうして凝集促進因子と呼ばれていたものは,ヒトγ-グロブリンに対する自己抗体と判明し,リウマチ因子(rheumatoid factor;RF)とされた1).したがって,現在まで多くの検査方法が開発されたが,すべてRFがヒトまたはウサジIgGと反応する性質を利用している(表1).
 これらの方法ではIgMに属するRFを検出してきたが,RFがすべての免疫グロブリンクラスに存在することがわかるにつれ2,3),中でもIgG-RFがRAの活動期と関連がある4)とされることから,免疫グロブリンのクラス別のRF検出法も盛んに検討されるようになった.一方,従来からの定性検査や半定量的検査から最近では自動機器を使った定量法の導入も盛んで,近い将来RFの定量値における臨床的意義も明らかにされてくるものと期待される.

④抗核抗体

著者: 遠井初子

ページ範囲:P.755 - P.757

 自己抗体の一つである抗核抗体(antinuclear antibody;ANA)は対応抗原により,①抗DNA抗体,②抗ヒストン抗体,③抗DNP抗体,④抗ENA抗体(非ヒストン核蛋白に対する抗体),⑤抗核小体抗体,⑥その他の核抗原に対する抗体に分類される.

7・凝固・線溶因子

①凝固・線溶のしくみ

著者: 磯部淳一

ページ範囲:P.758 - P.762

はじめに
 近年では血漿蛋白質の分離精製技術の進歩により,血液凝固線溶因子およびそれらの阻止因子が実証され,性質ならびに分子構造が分子生物学の面から解明されつつある.加えて免疫学的手法が積極的に導入された結果,各因子の構造と機能の関係がしだいに明らかにされてきた.
 本領域の研究検査法は古典的な生物学的手技のほか,合成基質による生化学的方法によっていたが,最近ではLaurell法,交叉免疫電気泳動法,RIA,EIA,ラテックス凝集法,免疫比濁法などの免疫学的測定法が駆使されるようになり,ことにRIA,ラテックス凝集法,免疫比濁法は日常検査としても広く行われるようになってきた.

②フィブリノゲン

著者: 東克己

ページ範囲:P.763 - P.765

フィブリノゲンとは
 血漿フィブリノゲン(fibrinogen;Fbg)は止血・血栓の病態把握に欠くべからざるパラメーターであり,また種々の炎症や悪性腫瘍における補助的診断や予後の判定にきわめて重要な情報を提供してくれることは周知のとおりである.このFbgは数多くの化学的性状を有するため,その定量法も相当多岐にわたる方法が考えられてきた.大きく分類すると生物学的活性を利用した凝血学的方法,物理化学的性状を利用した比濁法,抗原性を利用した免疫学的方法などがある.
 本稿では免疫学的測定法を中心に他方との比較や測定上の注意を述べる.

③フィブリン分解産物(FDP)

著者: 東克己

ページ範囲:P.766 - P.768

 現在,凝固線溶系の異常,特に播種性血管内凝固症(disseminated intravascular coagulopathy;DIC)の診断および治療観察に種々の検査が日常検査として取り入れられているが,中でもフィブリン分解産物(fibrin/fibrinogen degradation products;FDP)測定は必須の検査の一つになっている.
 この検査は,血中において病的にプラスミン活性が亢進した結果を反映するフィブリンあるいはフィブリノゲンの分解産物を特異的に測定し,臨床像を全体的に把握しようとする補助診断の一つとして用いられている.またFDP測定は一般的には十数年前より臨床検査に導入され,それほど古い検査ではないが臨床的有用性が高く,測定法もいろいろ開発されている.

④プラスミノゲン

著者: 本射滋己

ページ範囲:P.769 - P.771

 プラスミノゲン(PLG)は,線維素溶解現象(線溶)を引き起こすプラスミンの酵素前駆物質として血中に存在する,分子量80,000〜87,000の蛋白質で,肝にて産生される.したがって,PLGの測定は線溶能の動態を知るうえで必須の検査である.さらに最近では,PLGの減少および先天的欠損,あるいはPLG分子構造異常に伴う血栓症も報告されている1)ことから,免疫学的測定法は重要である.
 現在,一般的に実施されている定量法は,発色性合成基質を用いる方法と免疫学的測定法であるが,さらにPLGの蛋白構造異常を分析する方法があり,表に示す各種の測定方法が実施されている.

⑤α2-プラスミンインヒビター

著者: 本射滋己

ページ範囲:P.772 - P.774

 α2-プラスミンインヒビター(α2PI)は,1976年,青木ら1)によってα2-グロブリン分画から単離された,分子量67,000の糖蛋白質であり,肝臓で産生される.生理的にはプラスミンに対し即効的な阻害作用を示すことにより,線溶系の調節をつかさどっている.したがって,α2PIの測定は線溶系の動態を把握する場合,あるいは血栓症の原因精査において必須な検査である.
 α2PIに対しては一般的には発色性合成基質を用いた測定方法がスクリーニング検査として広く実施されているが,最近,α2PIの先天的欠損症2)およびα2PIの分子構造異常3)に伴う出血性素因ならびに血栓症の報告もあるため,α2PIの蛋白量としての定量および蛋白分析は重要となっている.最近ではモノクローナル抗体の開発も著しく,血中遊離のα2PI量およびα2PIプラスミン複合体の定量化など,微量でしかも生体内における生理作用の詳細が客観的に評価できるようになっている4)

⑥アンチトロンビンⅢ

著者: 櫻川信男

ページ範囲:P.775 - P.777

 止血反応でのフィブリン形成は重要であるが,必要以上にその形成をみると血管腔は閉塞されて循環障害を起こす.この凝固反応を調整するものが阻害因子であり,アンチトロンビンⅢがもっとも重要である.
 本稿ではアンチトロンビンⅢの測定法を中心にして述べる.

⑦β-トロンボグロブリン

著者: 山本美保子

ページ範囲:P.778 - P.779

β-TGとは
 β-トロンボグロブリン(β-TG)は血小板のα顆粒の中にある特異蛋白で,分子量36,000である.その役割についてはまだあまり明らかではないが,血小板の放出反応時にセロトニン,血小板第4因子(PF4)などとともに血中に放出され血小板の活性化を示す指標となる.すなわち,血管内で血小板破壊の病態―各種の血栓性疾患,DIC時,血小板減少性紫斑病など―が存在するときに,血漿中のβ-TG量に変動をきたすことがわかっている.
 β-TGは通常,ラジオイムノアッセイ(RIA)法で測定する.これは,125I放射性同位元素で標識した純化β-TGと非標識β-TG(患者血漿中)とが抗β-TG抗体に対し競合して結合反応することを利用し,β-TG標準品より標準曲線を作成し末知の量を算出するものである.なお125Iは半減期42日間で,γ線を放射する同位元素であり,蛋白質のアミノ酸,タイロシン基に酸化によって導入することができる.

⑧第Ⅷ因子

著者: 吉岡章

ページ範囲:P.780 - P.782

第Ⅷ因子とは
 第Ⅷ因子(F.Ⅷ)は伴性劣性遺伝性の血友病Aにおいて先天性に量的,質的欠陥を示す血液凝固因子である.その構造は2,332個のアミノ酸から成る,分子量330kD(キロダルトン)の1本鎖糖蛋白である.F.ⅧはX染色体支配下におそらく肝臓で産生され,その生物学的機能として活性化第IX因子(F.IXa)/リン脂質/Ca2+と複合体を形成し,第X因子を活性化させる凝固機能(第Ⅷ因子凝固活性;F.Ⅷ:C)を有している.また,F.Ⅷ蛋白は免疫学的手法に基づく定量が可能で,第Ⅷ因子抗原(F.Ⅷ:Ag;かつてⅧCAgと呼ばれた)と呼称される.
 このF.Ⅷは正常血漿中では常染色体支配下に産生されるvon Willebrand因子(vWF)と非共有結合下に複合体を形成しており,第Ⅷ因子/von Willebrand因子複合体(F.Ⅷ/vWF)と呼ばれている.

⑨プロテインC,プロテインS

著者: 鈴木宏治

ページ範囲:P.783 - P.786

 血液凝固反応で生成された第Xa因子やトロンビンなどのセリンプロテアーゼは,セリンプロテアーゼインヒビターのアンチトロンビンIIIで阻害される.一方,血液中には,第Xa因子やトロンビンの生成それ自体を阻害する反応系が存在する.プロテインCおよびプロテインSによる凝固制御系である.

8・ホルモン A 下垂体ホルモン

①総論

著者: 中井義勝

ページ範囲:P.791 - P.794

下垂体の構造
 下垂体はトルコ鞍内に位置する重さ約0.5gの小器官で,下垂体茎によって視床下部の正中隆起につながっている.下垂体は発生学的に異なる前葉と後葉から成っている.中間葉はヒトでは胎生期を除いて明らかでない.
 視床下部と前葉との間には神経繊維の連絡はなく,両者の間には下垂体門脈と呼ばれる特殊な血管系が存在する.すなわち,上下垂体動脈は正中隆起でいったん毛細血管を形成した後,下垂体門脈となり,下垂体前葉に達する.ここで再び毛細管となり,次いで静脈へ移行する.この血管系を介して,後に述べる下垂体ホルモン放出促進因子および放出抑制因子が下垂体前葉へ運ばれ,下垂体前葉ホルモンの分泌調節に関与している.下垂体前葉細胞は通常の染色法では,色素嫌性細胞,好酸性細胞,好塩基性細胞より成っている.電子顕微鏡,あるいは免疫組織化学による研究では,個々のホルモンを分泌する細胞が同定されている.

②LH,FSH

著者: 青野敏博

ページ範囲:P.795 - P.797

 女性の卵巣機能,男性の精巣機能は,脳下垂体前葉から分泌される性腺刺激ホルモン(ゴナドトロンピン)によって支配されている.したがって,性機能障害の診断に当たっては,ゴナドトロンピンの黄体化ホルモン(luteinizing hormone;LH)と卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone:FSH)の測定が不可欠である.本稿ではLHとFSHのラジオイムノアッセイ(RIA)の方法,測定上のコツ,正常範囲などについて解説する.

③GH

著者: 井上和子

ページ範囲:P.798 - P.799

 血中ヒト成長ホルモン(以下,hGH)値は1962年以来,主としてラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定されてきた.しかし,近年になりより高感度のimmunoradiometric assay(IRMA)が開発され,従来知ることができなかったhGHの動態が解明されるようになった.1982年になりYoshitakeらはさらに高感度のエンザイムイムノアッセイ(EIA)を開発し1),現在ではhGH分泌低下症の血中hGHのみでなく,尿中hGH値の動態も知ることが可能となった.

④ACTH

著者: 須田俊宏

ページ範囲:P.800 - P.801

 血中ACTHのRIAは,低濃度,不安定さなどのため必ずしも容易ではない1).RIAには,抽出法と無抽出で行う直接法とがある.直接法は簡便であるがRIAでの非特異的干渉物質の問題があり,最近では煩雑ではあるが抽出法が再び見直されている.そこで,筆者らが行っている血中ACTHの測定法について述べる.

⑤TSH

著者: 宮恵子 ,   亀山和人

ページ範囲:P.802 - P.804

TSHとは
 甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone;TSH,thyrotropin)は,下垂体前葉のthyrotrophという好塩基性細胞から分泌される,分子量約28,300の糖蛋白で,αとβの二つのサブユニットから成る.TSH-αのアミノ酸残基数は89で,その配列はLH,FSH,hCGと同じである.TSH-βはアミノ酸残基数112で,TSHに特異的な配列を示す.
 TSHは視床下部.下垂体-甲状腺系の一員として機能しており,TSHの分泌は視床下部のthyrotropin-releasing hormone(TRH)により促進され,甲状腺ホルモンにより抑制される.TSHは甲状腺濾胞上皮細胞の受容体に結合して,甲状腺のヨード摂取,甲状腺ホルモンの合成と分泌,甲状腺濾胞細胞の増殖を促進する.

⑥プロラクチン

著者: 三宅侃 ,   青野敏博 ,   谷澤修

ページ範囲:P.805 - P.807

はじめに
 プロラクチンは系統発生学的にみると,きわめて古いホルモンで,主として哺乳動物の乳腺発育や乳汁分泌作用をもっているが,これ以外に種々の動物の浸透圧調節作用,糖質代謝作用,成長促進作用などの生物作用を有していることが知られている.1937年Whiteらによってヒツジ下垂体からプロラクチンが単離されたのに始まり,他の動物のものも得られた.ヒトのプロラクチンの一次構造は1977年ShomeおよびParlowにより明らかにされ,198個のアミノ酸から成るポリペチドで,分子量は約22,000であることが示された.
 測定法には①生物学的方法,②ラジオレセプター測定法,③免疫学的測定法があるが,前二者は研究に用いられ,③が一般に用いられているので,これについて概説する.

B 甲状腺ホルモン

①総論

著者: 西川光重 ,   稲田満夫

ページ範囲:P.808 - P.811

はじめに
 甲状腺ホルモンはヨード化アミノ酸であり,図1に示すサイロニンを基本構造として,3,5,3′,5′位のいくつかにヨードが結合している.そして,その位置と数により物理化学的および生物学的性質が異なる.
 正常ヒト血中に存在するサイロニン誘導体には表1に示すものがある1,2).以下,これらの合成・代謝について述べ,次いでその測定の臨床応用を概説する.

②T3,T4

著者: 酒井倫子 ,   金井正光

ページ範囲:P.812 - P.814

 T3,T4の測定は,従来の蛋白結合ヨード(PBI)法,ブタノール抽出性ヨード(BEI)法を経て,1960年代には蛋白競合結合(competitive protein binding analysis;CPBA)法が行われ,1970年代に入ってRIAによるT3(Brownら1)),T4(Chopraら2))が開発され,実用化されてきた.また,最近では,bound(B)とfree(F)の分離法に改良が加えられ,簡便で精度のよいRIA法が多く開発されている.一方,1975年にUllmanら3)によりhomogeneous enzyme immunoassayが報告されてから,nonRIAによる測定系が目覚ましく発展し,それらを応用した自動化器機も実用化されつつある.
 以下に,RIA法を中心とし,最近のnonRIA法の動向を含めて紹介する.

③遊離T4,遊離T3

著者: 酒井倫子 ,   金井正光

ページ範囲:P.815 - P.817

 血中の大部分のT3,T4は結合蛋白(TBP)と結合しており,生体内で直接代謝に関与する遊離型はT3の0.2%,T4の0.02%にすぎない,また,その測定値は,結合蛋白異常でも臨床症状をよく反映し,甲状腺機能の指標として重要である.
 遊離T4の測定は従来,平衡透析法1),ゲル濾過法2),限外濾過法3)などで行われてきたが,方法が煩雑であるため,一般化は困難であった.1980年代に入ってから,さまざまな原理のRIAが開発され,検討がなされてきたが4,5),最近は抗T4抗体と強い親和性を持つがTBGとは結合しないT4誘導体を標識物質として用いた競合反応法が主流を占めている.遊離T3についても同様の測定法が開発されている.また,同様の原理を応用したnon RIA測定法も開発されつつある.

④サイログロブリン

著者: 加藤亮二 ,   野口志郎

ページ範囲:P.818 - P.821

サイログロブリンとは
 ヒト甲状腺は気管上部,甲状軟骨の下部に付着する内分泌腺であり,重量15〜20gの峡部を中心とする,左右両葉から成る扁平組織である.この甲状腺は図1に示すように,濾胞構造をもち,さまざまの大きさの類球形を示す.濾胞構造は表層を形成する濾胞上皮細胞と濾胞腔から成り,サイログロブリン(thyroglobulin:Tg)はこの濾胞上皮細胞で合成され濾胞腔にコロイドとして貯蔵される.Tgは正常甲状腺で組織1g中50〜100mg含有し,等電点4.5で,アミノ酸5,500個と300個と単糖から成る分子量67万(沈降係数19S)のヨウ素化糖蛋白質である.また,このTgは甲状腺ホルモン(サイロキシン;T4,トリヨードサイロニン:T3)の合成の場となり,さらに甲状腺ホルモンやヨウ素アミノ酸をTgのペプチドに組み入れ貯蔵する構造をもっている.甲状腺内でのTgの合成機序はTg遺伝子が濾胞上皮細胞の核内で転写されて,m-RNAにより小胞体とポリゾームを形成する.ここで翻訳されペプチドの合成,重合が行われる.生じたTg分子はGolgi装置を通って濾胞腔に運搬され,その過程において糖鎖の付加とヨウ素化を受けるといわれている.
 従来,甲状腺濾胞内に貯蔵されていたTgは,濾胞内にたまり体循環液中に流出しないと考えられていた.また,なんらかの理由によりTgが流血中に流出した場合に自己免疫疾患(橋本病など)が起こると考えられていたが,1961年Hjort1)らにより正常者血中にTgが存在することが証明されて以来,これらの考えかたも否定されるようになってきた.最近Tg測定の高感度法が行われるようになり,多くの甲状腺疾患で血中Tgが増加していることが明らかにされ,特にVan Herle2)らは,甲状腺分化癌で転移を伴うものにTgが高値を示す例が多いと報告し,Tgの測定意義が注目を浴びた.現状のTg測定法はラジオイムノアッセイ(RIA)3,4)およびエンザイムイムノアッセイ(EIA)5,6)により行われている.これらの測定が開発される以前の方法は血球凝集阻止反応,免疫電気泳動法あるいは沈降反応が行われていたが,感度が十分でなくTg測定の意義が不明とされていた.

C カルシトニン

①総論

著者: 三木隆己 ,   森井浩世

ページ範囲:P.822 - P.823

 Calcitoninは文字どおりcalci(calcium),tonin(tone)のごとくカルシウム低下作用のあるホルモンで,甲状腺C細胞より分泌される.主な作用は骨吸収を抑制することにより,血清カルシウムの増加を抑制し,食後の高カルシウム血症を防ぐことである.この作用は副甲状腺ホルモンと拮抗し,血清カルシウムを狭い範囲内に保持する.また,リンの排泄増加作用,血清リン低下作用,ビタミンDの活性化作用もある.これらの作用は下等脊椎動物においてもっとも強く,その存在がヒトにとってどれほど意義があるか疑問をもつ研究者もいる.例えば,カルシトニンの主要産生臓器である甲状腺を全摘出しても,甲状腺ホルモンのみ補充するだけで血清カルシウムや骨代謝にはほとんど変化を認めず,一方,甲状腺髄様癌では血清カルシトニン濃度が著明に増加するにもかかわらず,カルシウムや骨代謝に変化を認めない1).甲状腺切除患者ではなんらかの代償機構が存在するとか,甲状腺髄様癌患者ではDown regulationのようなカルシトニンに対する組織の抵抗性が存在する,あるいは種々のタイプのカルシトニンが存在する可能性も考えられる.
 他方,血清カルシトニン濃度は高齢者,特に女性では減少し,またカルシウム負荷に対するカルシトニン分泌予備力が低下し2),骨塩量が減少する.その減少がカルシトニンの投与により改善し,症例によっては骨塩量が増加し,さらに,甲状腺切除によりカルシトニン欠乏状態にすると骨減少症が生じることも報告され,カルシトニンの骨塩量維持における重要性を指摘する報告もある3)

②カルシトニン

著者: 三木隆己 ,   森井浩世

ページ範囲:P.824 - P.826

測定法
 カルシトニンの測定法にはバイオアッセイとラジオイムノアッセイ(RIA)がある.前者はラットの血清カルシウム低下作用,あるいは骨吸収抑制効果により測定されていたが感度が悪く,一般臨床検査で多数症例を測定するには時間を要し,実際的ではなかった.1962年Coppらにより甲状腺内の血清カルシウム低下物質の存在を示唆する報告があった後,1960年代末になって甲状腺髄様癌組織より純粋なカルシトニンが抽出され,RIAによる測定が可能となった.1980年代になってからは本格的に臨床分野に拡大し,現在は研究室も含め,ほとんどの施設でRIA法により血清カルシトニン濃度の測定がなされている.

D 副甲状腺ホルモン

①総論

著者: 屋形稔 ,   中村二郎

ページ範囲:P.828 - P.831

血中カルシウム濃度の調節機構
 副甲状腺は,甲状腺の背面に近接して存在する褐色の組織で,卵型をしている.四つの小さな腺から成り,総重量は0.05〜0.3gである.副甲状腺は,副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)を分泌して血中のイオン化カルシウムの濃度をコントロールしている.カルシウムの吸収や排泄,骨への蓄積の量に大きな変動があっても血中の濃度がきわめて狭い範囲に保たれるのは,PTHに加えて,活性型ビタミンDとカルシトニンの相互作用による.副甲状腺疾患の病像や検査成績は,血中カルシウムレベルの異常を中心に検討されることが多い.そこで,血中カルシウムレベルの調節機構について述べる.
 一般に,PTHと活性型ビタミンDは,血中カルシウムレベルを上昇させる作用をもち,カルシトニンは低下させる作用がある.PTHとカルシトニンの分泌は,血中カルシウムによりネガティブ・フィードバック・コントロールを受ける(図1).すなわち,血中カルシウムレベルが低下するとPTHレベルが上昇し,カルシトニンレベルは低下する.血中カルシウムレベルが上昇するとPTHが低下し,カルシトニンは上昇する.活性型ビタミンDは最終的に腎で合成されるが,PTHや血中カルシウム,およびリンによって合成速度が調節されている.カルシトニンによる調節の可能性も考えられるが,不明な点が多い.

②PTH

著者: 藤田祥司

ページ範囲:P.832 - P.833

構造と存在様式
 副甲状腺から分泌されるPTHは,84個のアミノ酸から成る分子量約9,500のペプチドホルモンである.PTHのN末端部分とC末端部分は疎水結合による球状構造をとっており,中央部分はこの二つの球状構造を結ぶLinker-Regionとしての役割を担っている1)
 現在,わが国で入手できる血中PTH測定用キットを表1に示した.これらの測定キットの特徴を理解するうえで重要なのが,血中に存在するPTHの構造上の多様性(heterogeneity)の問題である.Canterburyらによると,未梢血中には分子量9,500のintact PTH以外に,分子量約7,500および分子量約4,500のPTH分解産物が存在するという2).分子量約7,500のペプチドは生物活性を有さず,PTH-C末端特異抗体と反応するが,PTH-N末端特異抗体と反応しないことから,intact PTHよりN末端部分が切れた分子と考えられる.一方,分子量約4,500の分子はPTH-N末端特異抗体とのみ反応したことから,PTH-N末端断片と考えられる.このように未梢血中には種々のPTH分子断片が存在しており,血中半減期の違いから通常,血中には生物活性を有するintact PTHやPTH-N末端に比較し生物活性を有さないフラグメントのほうが高濃度に存在する.そのためPTHの測定を実施する際には,使用抗体の特異性をつねに頭に入れておかなければならない.また,使用抗体が異なれば,検出されるフラグメントに違いが生じるので,異なるキットを用いた場合,その測定値は一致しないのが普通である(図1).

E 副腎皮質ホルモン

①総論—副腎皮質とステロイドホルモン

著者: 木野内喬 ,   清水直容

ページ範囲:P.834 - P.838

 副腎皮質は,睾丸や卵巣などと同様に,ステロイドホルモンを合成・分泌している.それらのステロイドホルモンは,いずれも生体の代謝調節に不可欠なもので,その過剰もしくは欠乏によって重篤な障害が惹起される.そこで,本稿では,副腎皮質ホルモンの合成・分泌,代謝,生理作用,測定法,ならびに分泌異常などについて概説する.

②アルドステロン

著者: 木野内喬 ,   清水直容

ページ範囲:P.839 - P.841

 アルドステロンは副腎皮質球状層から分泌されるもっとも強力な鉱質コルチコイドで,主として腎の遠位尿細管に作用し,ナトリウムの再吸収とカリウムならびに水素イオンの分泌を促進させることによって,生体内の電解質バランスの維持に重要な役割を果たしている.したがって,本ホルモンを測定することによって,原発性ならびに続発性アルドステロン症の診断や,カリウム代謝異常あるいは高血圧を呈する疾患の原因解明に有力な手がかりを与える.しかし,アルドステロンの分泌量は1日50〜150μg程度ときわめて微量なので,血中濃度も低く,従来の化学的方法やアイソトープ誘導体法(dobule isotope derivative method)は大量のサンプルと複雑な操作を必要とし,必ずしも実用的ではなかった.しかし,免疫化学検査法の一つであるラジオイムノアッセイ(RIA)が導入されてから1,2),アルドステロンの測定を,通常の検査室でもルーチンに行うことが可能となった.そこで,本稿ではRIAによる血中アルドステロン濃度の測定法を中心に概説する.

③コルチゾール

著者: 木野内喬 ,   清水直容

ページ範囲:P.842 - P.844

 コルチゾールは副腎皮質束状層および一部網状層において合成される代表的な糖質コルチコイドの一つで,その分泌は主として下垂体前葉ホルモンであるACTHによって調節されている.したがって,コルチゾールの血中濃度および尿中排泄量の測定は,各種副腎皮質疾患の診断はもとより,視床下部-下垂体-副腎皮質系の機能の検索にもきわめて有用である.
 コルチゾールの分泌量は,その代謝産物である17-OHCSもしくは17-KGSの尿中排泄量を化学的に測定することにより推測されてきた.一方,血中コルチゾール濃度の測定は,古くはもっぱら化学的方法によっていたが,感度,特異性,精度,簡便さのいずれの点においても満足できるものではなかった.その後1963年,Murphyら1)によって,コルチコステロイド結合蛋白(CBG)を利用したcompetitive protein binding assay(CPBA)が開発されて初めて,コルチゾールの微量定量法が確立されたといえる.しかし,CBGは特異性に乏しく,結合能も低いため,CPBA法によるコルチゾールの測定には煩雑な操作を必要とした.次いでCBGの代わりに,コルチゾールに対する抗体を用いたbinding assayすなわちラジオイムノアッセイ(RIA)が登場することによって,その測定がきわめて容易になった.

F 性腺ホルモン

①総論

著者: 中井利昭 ,   山田律爾

ページ範囲:P.845 - P.848

性腺ホルモンの種類とその作用
 性腺ホルモンは,よく知られたことであるが,男性では主として睾丸から,女性では主として卵巣から分泌される(残りの一部は副腎から分泌される).これらの睾丸や卵巣は,いずれも下垂体前葉から分泌される性腺刺激ホルモンである卵胞刺激ホルモン(FSH)および黄体化ホルモン(LH)によって調節を受けている.さらにFSH,LH分泌は,その上位の視床下部で産生される性腺刺激ホルモン放出因子(LH-RH)によって支配されている.逆にLH-RH分泌やFSH,LH分泌は,卵巣または睾丸からの性腺ホルモンによって分泌抑制を受けている.したがって,視床下部-下垂体-睾丸系あるいは視床下部-下垂体-卵巣系は,いずれも一つの関連をもったサークルとなって睾丸機能や卵巣機能の恒常性を保っていることになる.以上,LH-RH,FSH,LH,性腺ホルモンは互いにフィードバック機序によってその分泌が調節されていることを図1にまとめて示すが,これらの関連を十分に理解していないと性腺ホルモンを正しく理解することができない.
 男性ホルモン(アンドロゲン)はC19ステロイドの総称であり,この中にはテストステロン,アンドロステンジオン,デヒドロエピアンドロステロン(DHEA),デヒドロエピアンドロステロン・サルフェート(DHEA-S)などがある。表1に各男性ホルモンの作用力価を示したが,テストステロンが生物学的にもっとも強力な男性ホルモンであるので,従来から男性ホルモンというとテストステロンが測定されてきた.ただし,このテストステロンは,血中に分泌され標的細胞に到達するとその細胞内へ取り込まれ,大部分が5α-還元酵素の作用を受け,C-4,C-5の二重結合に水素が添加され,ジヒドロテストステロン(DHT)となる.このジヒドロテストステロンが真の作用型男性ホルモンであるが,血中テストステロンとほぼ平行した変動を生ずるので,実際の診療上では血中テストステロン測定が行われている.なお,テストステロンは女性でも分泌され,女性では副腎由来15%,卵巣由来25%,デヒドロエピアンドロステロンやアンドロステンジオンより脂肪組織や肝などの末梢で転換されるもの60%である.当然のことながら,男性ではテストステロンの大部分は睾丸から分泌される.

②hCG,hCG-β

著者: 伊藤節子

ページ範囲:P.849 - P.852

はじめに
 ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin;hCG)の測定は,妊娠の診断とその経過観察,絨毛性疾患の予後管理,治療効果の判定などにきわめて重要な役割を果たしている.hCGは分子量約38,000の糖蛋白で,α-とβ-サブユニット(hCG-α,hCG-β)から構成されている.hCGはhLHのアミノ酸配列と相似しているが,唯一の相違点はhCG-βのC末端側のアミノ酸23個がhCGにのみ存在することである.このようにhCGとhLHは免疫学的活性が類似していることから,高感度にhCGの測定をするために,hLHと交差の少ないhCG-βに特異的なcarboxyl terminal peptide(CTP)に対する抗体を使った測定系が開発されている.一方,特異性の高い測定法として,hCG-α,hCG-βそれぞれに対応する単クローン性抗体を用いた測定系が開発されており,hCG-βと交差することなくhCGの測定が可能となっている.
 hCG-βの測定は,睾丸腫瘍の一つである精上皮腫の診断と経過観察に重要であり,一部の悪性腫瘍の予後管理や治療効果の判定にも用いられている.

③エストロゲン

著者: 石原理 ,   桑原慶紀

ページ範囲:P.853 - P.855

測定法
1.血中エストロゲン
 エストロゲンの測定はBrownらによる尿中エストロゲンの化学的測定法に始まるが,血中エストロゲン測定には感度が不十分で,ラジオイムノアッセイ(RIA)の開発により初めて定量が可能となった.最近では,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やエンザイムイムノアッセイ(EIA)を用いたエストロゲン測定も試みられているが,非妊時のエストロゲン測定には,まだ実用化の段階に至っていない.ここでは臨床的にもっとも重要な血中エストラジオールのRIAによる測定を中心に述べる.

④テストステロン

著者: 山田律爾 ,   中井利昭

ページ範囲:P.856 - P.857

 テストステロンは,男性では主として睾丸から生成され,一部副腎からも生成される.女性では主に副腎由来であるが,性腺でも一部生成される.テストステロンの測定は,睾丸機能不全や性分化異常疾患の診断上有用であり,そのほか睾丸間質細胞腫など睾丸腫瘍でも用いて有用であり,男性患者について施行されることが多い.しかし,先天性副腎酵素欠損症のうち3β-OH-デヒドロゲナーゼ欠損症,17α-ヒドロキシラーゼ欠損症では異常低値を呈し,21-ヒドロキシラーゼ欠損症,11β-ヒドロキシラーゼ欠損症では異常高値を呈するので,この場合は男性でも女性でも診断上その測定が有用である.テストステロンはその標的器官である前立腺,精嚢細胞内へ取り込まれると,ジヒドロテストステロン(DHT)に転換されるが,このDHTはテストステロンより1.5〜3倍生物活性が強く,また中枢へのネガティブ・フィードバック作用もより強力である.しかし,実際の臨床上ではDHTとパラレルに変動するテストステロンの測定法を用いている.
 テストステロンの測定には,以前は蛍光法,ガスクロマトグラフィー法,ダブルアイソトープ法などが用いられ,1960年代後半にはcompetitive protein binding assay法が開発された.しかし,いずれの方法も操作の煩雑さや感度-特異性の問題点などいくつかの欠点があった.1970年になりようやくFuruyamaら1)によって血中テストステロンのラジオイムノアッセイ(RIA)法が確立された.ただし,最初に用いられたアッセイでは3H-テストステロンを用いたため,液体シンチレーションカウンターを必要としたが,最近は125Iで標識する方法がキット化され,一段と測定が普及してきた.

⑤hPL

著者: 玉田太朗

ページ範囲:P.858 - P.859

hPLとは
 hPL(ヒト胎盤ラクトーゲン)はhuman(ヒト)placental(胎盤の)lactogen(乳汁分泌促進ホルモン)の略語である.これは糖質や脂質を含まない蛋白ホルモンで,1961年にわが国で伊藤らにより発見された.191個のアミノ酸から成り,分子量は22,000で,二つのS-S結合を持っている.その構造は,下垂体から分泌される成長ホルモン(growth hormone:GH)およびプロラクチンによく似ており,生理作用もこの両方の作用(すなわち成長促進と乳汁分泌促進)があるので,一時,胎盤性成長ホルモン・プロラクチン(placental growth hormone-prolacetin)と呼ばれたこともある.現在では,正式にはhCSと略すが,これはhuman(ヒト),chorionic(絨毛性),somato(身体の),-mammo(乳腺の),-tropin(刺激ホルモン)の頭文字を取ったものである.

G 膵・消化管ホルモン

①総論

著者: 石森章 ,   小泉文明

ページ範囲:P.860 - P.864

消化管ホルモンとは
 消化管ホルモン(gut hormone)は別名,胃腸膵ホルモン(gastroenteropancreatic hormone;GEP)とも呼ばれており,内分泌学の中でも比較的新しい分野と考えられている.しかし実際にはその歴史は古く,1902年にBaylissとStarlingがセクレチン説を提唱したことが内分泌学の出発点となっていることをみても,古くて新しい分野ということができる.すなわち,ホルモン第1号という記念すべき地位を占めながら種々の理由によりその後の研究展開が停滞したため,後発の下垂体・副腎系をはじめとする他のホルモンの後塵を拝することとなったが,1964年にGregoryとTracyにより,ガストリンの化学構造が決定されたのを契機として,急速にその実体解明が進んでいる.
 今日では,多種類の消化管ホルモンが消化液の分泌,消化管の運動をはじめ,各種消化管の生理機能の調節に重要な役割を演じ,また種々の消化器疾患の際に病態生理学的に特徴的な変化を示すことが判明しつつある.さらに最近では,かなりの種類が脳などの神経系にも分布し,神経伝達物質としての役割が考えられており,消化管ホルモンはいわゆる脳-腸ホルモン(brain-gut peptide)として新たな展開が期待される.

②インスリン

著者: 上野芳人

ページ範囲:P.865 - P.867

インスリンとは
 インスリンは膵β細胞から分泌され,糖代謝の調節に重要な役割を果たすホルモンである.したがって血中インスリンの測定は,糖尿病などの糖代謝障害の診断および病態の把握,二次性糖尿病との鑑別,インスリノーマをはじめとする低血糖症の診断と鑑別に欠かすことのできないものである.
 インスリンはBersonとYalow1)によるラジオイムノアッセイ(RIA)によって初めて測定されたホルモンであり,以後,RIA法による測定が一般に広く用いられている.一方,放射性物質を用いずに酵素を標識物とする酵素免疫測定法(EIA)が開発されたが,これは特殊な測定機器を必要とせず,放射線障害の危険性がないという点ではRIA法に比して優れており,今後さらに普及するものと考えられる.インスリンの測定法は生物学的測定法(bioassay),免疫学的測定法(immunoassay),受容体を利用したラジオレセプターアッセイ(radioreceptor assay)に大きく分けられる.本稿では操作が簡便で感度が高く微量測定の可能なRIA法ならびにEIA法について記述する.

③C-ペプチド

著者: 上野芳人

ページ範囲:P.868 - P.870

C-ペプチドとは
 インスリンとC-ペプチドは,膵β細胞内でプロインスリンの分解により生じ,膵β細胞内の分泌顆粒内に貯蔵される.このインスリンとC-ペプチドは,血中のブドウ糖値の上昇などの刺激に応じて等モル比で血中に分泌される.したがって,C-ペプチドを測定することは,膵β細胞機能および内因性インスリンの分泌状態を知るうえでよい指標となる.特にインスリン治療中の患者のインスリン分泌能を知るうえで有用である.また尿中C-ペプチド一日排泄量の測定も,IDDMとNIDDMとの鑑別の一指標として有用である.

④グルカゴン

著者: 大星千鶴子 ,   弘田明成 ,   島健二

ページ範囲:P.871 - P.873

グルカゴンとは
 グルカゴンは,29個のアミノ酸から成る,分子量3,485の直鎖のポリペプチドである.グルカゴンの測定には,かつては生物学的方法が用いられていたが,感度,精度とも不十分なうえ,その手技の煩雑さなどのため一般に普及するには至らなかった.近年,Ungerら1)によるグルカゴンのRIAが開発されて以来,測定法は急速に進歩を遂げ,現在特殊な場合を除き,すべてRIAによる測定がなされている.グルカゴンの測定には,免疫学的測定法一般にまつわる問題点と,グルカゴンの測定法そのものに特異的なそれとがある.今日ではそれらの多くが解決され,キット化により容易に測定が可能となったが,なお未解決の問題点も多い.
 本稿では,グルカゴンの測定法の実際とともに,それに関する問題点について述べたい.

⑤ガストリン

著者: 亀山仁一 ,   鈴木晃 ,   塚本長

ページ範囲:P.874 - P.875

ガストリンとは
 合成ガストリンであるテトラガストリンやペンタガストリンは,4あるいは6γ/kgというごく少量で強力な胃酸分泌亢進作用を有している.ヒトの血中でもガストリンは100pg/ml程度のごく微量しか存在しない消化管ホルモンであるので,その測定は非常に困難であった.しかし,ラジオイムノアッセイ(RIA)法によるキットが販売されるようになってから非常に容易になった.現在,わが国ではダイナボット社からガストリン・リアキット®II1),ミドリ十字社からガストリン・I-125キット(CISキット)2)が販売されている.どちらも短時間で簡便に測定でき,臨床的にも,胃・十二指腸潰瘍の治療法の選択や効果の判定,Zollinger-Ellison症候群の鑑別診断3,4)などに広く用いられている.今回はRIAを用いた測定法について,その原理,測定方法などを略述してみたい.

H その他

①レニン—血漿レニン活性を中心として

著者: 小平司

ページ範囲:P.877 - P.879

レニンとは
 レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系は,生理的に血圧やNaの調節を受け持っている系であるとともに,カリクレイン-キニン系ともかかわりを持つ系でもある.腎臓の傍糸球体細胞から分泌されるレニンは分子量約40,000で,弱酸性の至適pHを持つ蛋白質分解酵素の一つであり,肝臓で生成されてα2-グロブリン分画中に存在するレニン基質(アンジオテンシノーゲン)に作用して,10個のアミノ酸から成るアンジオテンシンI(Ang I)を産生する.レニンの基質特異性は高くLeu-Leuの間しか加水分解できない.Ang Iはアンジオテンシン変換酵素(ACE)の作用でアミノ酸2個を切断してアンジオテンシンII(Ang II)に変化する.さらにAng IIはアミノペプチダーゼにより,末端のアミノ酸が一つ切断されてアンジオテンシンIII(Ang III)となる(図1).
 レニン,Ang Iはどちらもそれ自体は昇圧作用を持たないが,Ang IIとIIIが末梢静脈中に強い収縮作用を起こして著しい昇圧作用を示し,また副腎皮質に作用してアルドステロンの分泌を増加させる.このアルドステロンの分泌増加は腎尿細管からのNaの貯留を促す.さらにAng IIIはアンジオテンシナーゼにより分解されて,不活性物質となる.

②アンジオテンシンⅠ,Ⅱ

著者: 鈴木洋通

ページ範囲:P.880 - P.882

レニン-アンジオテンシン系
 レニン-アンジオテンシン系は,血圧調節のみならず水・電解質代謝にも深く関与していることが知られている.この系では,肝臓で産生されるレニン基質が,腎臓で作られるレニンによりアンジオテンシンIになり,さらに肺に豊富にあるアンジオテンシンⅡ変換酵素により生物活性をもつアンジオテンシンⅡになる.一般にこの系を評価する際には,血漿レニン活性(PRA)がその指標として用いられてきた.臨床においては,PRAの測定のみで十分とする考えかたもあるが,他方では生物活性を有するアンジオテンシンⅡを直接測定しようという試みがなされている.
 本稿ではアンジオテンシンIおよび現在筆者が行っているいくつかのアンジオテンシンⅡの測定について述べる.

③エンケファリン

著者: 中井利昭

ページ範囲:P.883 - P.883

エンケファリンとは
 最近オピオイド・ペプチドが,鎮痛作用や精神作用などモルヒネ様活性を示す活性ペプチドとして注目を浴びている.このオピオイド・ペプチドの中で,メチオニンエンケファリン,ロイシンエンケファリンは副腎髄質内のカテコールアミン顆粒内に存在し,カテコールアミンとともに血中に分泌され,神経伝達物質としての作用(カテコールアミン放出の調節など)を発揮している.褐色細胞腫の症例でその腫瘍組織中1)にオピオイド・ペプチドが多量に含有されているとの報告もすでに見られ,今後オピオイド・ペプチドの測定は,キットが市販されるようになったことも考えると,疾患の病態解析や診断に用いられるようになると思う.
 以下,簡単にその測定操作,問題点などを筆者のデータを主体として解説する.

④エリスロポエチン

著者: 加納康彦 ,   阿久津美百生

ページ範囲:P.884 - P.886

エリスロポエチンとは
 エリスロポエチン(EPO)は赤血球の産生を調節している,分子量35,000の糖蛋白である.80年前すでにその存在が指摘されていたが,ヒトのEPOの純化は1977年になって初めて成功し1),さらに1985年EPO遺伝子のクローニングに成功した2,3)
 EPOは主に腎臓で,一部は肝臓で産生されていると考えられているが,詳しいことはまだわかっていない.
 赤血球は図1に示すように多能性幹細胞(CFU. S)から前期赤芽球系前駆細胞(BFU・E),さらに後期赤芽球系前駆細胞(CFU-E)へと分化する4)
 CFU-SからBFU. Eへの分化にはburst promoting factor(BPF)が働くが,これは最近インターロイキン3(IL. 3)と同一物質であることが判明した.EPOはこれより成熟したCFU-Eのレベルで赤血球の分化に働き,前赤芽球,赤芽球を経て赤血球へと誘導すると考えられている.

9・血中薬物

①血中薬物濃度測定の意義

著者: 海老原昭夫

ページ範囲:P.887 - P.889

はじめに
 血中薬物濃度は,医師が患者のコンプライアンス(処方順守)を確認するためや薬物中毒の診断あるいは経過観察のために測定することがある.しかし最近では,薬物治療を行ううえでその適正な投与量や投与間隔を見いだす目的で行われることが多くなった.この方法は血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring;TDM)と呼ばれ,世界的に広く普及してきた.なぜこれが普及してきたかという理由については,第一に近年ラジオイムノアッセイやクロマトグラフィーなどの微量化学分析法が著しく進歩したこと,第二に,これを簡単に測定する器機が普及したこと,第三に,これが薬物治療の向上に役だつことが明らかになってきたこと,第四に,健康保険によってこの薬物測定が点数に加えることができるようになったこと,などが挙げられる.

②抗てんかん薬

著者: 西原カズヨ

ページ範囲:P.890 - P.893

測定法の概要
 てんかんの治療において血中薬物濃度モニタリングに用いられている免疫測定法は,表に示したように多くの方法があり,それらを利用した多くの測定キットが市販されている.これらの中でラジオイムノアッセイ(RIA)は,放射性物質を扱うために測定場所が限られてしまうことなどから臨床上はほとんど用いられず,現在ではnon-isotopic immunoassay(非放射性免疫測定法)が繁用されている.この非放射性免疫測定法は,抗原抗体(免疫)反応だけの結果を利用するもの(表中のNIAとFPIA)と,その後に酵素反応を起こさせてその結果を利用するものとに分けられる.抗てんかん薬の血清中濃度測定でもっとも普及している方法は表中のFPIAであるが,「抗生物質」の項にその詳細は述べられており,その原理,方法などはほとんど同じであるので,本項ではネフェロメトリックイムノアッセイ,ホモジニアスエンザイムイムノアッセイおよび基質標識蛍光イムノアッセイについて記す.

③循環器疾患薬

著者: 西原カズヨ

ページ範囲:P.894 - P.897

測定法の概要
 循環器疾患薬の血中濃度測定に利用されている免疫測定法は,表に示したように多くの方法がある.特にジゴキシン,ジギトキシンは,濃度が低いために測定には種々のくふうがなされており,測定原理は他の薬物キットと同じであっても実際の測定では前処理操作などが必要である.循環器疾患薬の測定に広く利用されている免疫測定法は,表中に示したFPIAであるが,原理などは同じであるので「抗生物質」の項を参照されたい.しかし,ジゴキシンおよびジギトキシンの測定法では前処理が必要であるので,その操作法についてのみ記す.表中のHTEIAではB/F分離操作に興味深いものがあるが,実際の測定ではやや手間がかかるので省略する.そこで,本項ではすでに「抗てんかん薬」の項で記した測定法以外の方法(表中のACMIA,RPIA,ARIS)について紹介する.

④抗生物質

著者: 中原保裕 ,   倉品修平 ,   伊佐野京子

ページ範囲:P.898 - P.900

アミノグリコシド系抗生物質の血中濃度測定の意義
 1.対象薬物
 臨床の場で感染症の治療や予防のために用いられる抗生剤の中で,血中薬物濃度測定の対象となっている薬物は,アミノグリコシド系抗生物質(AGs)で,主な医薬品名は表1に示したとおりである.
 2.血中薬物濃度測定の必要性
 AGsの血中濃度と薬効や毒性発現との間には高い相関性があることが示されて以来,個々の患者に対して治療に有効な血中濃度を保つことができるような薬物の投与量,投与時間を設定することの重要性が認識され,その手段として,臨床の場で迅速に薬物の血中濃度測定が可能なシステムの開発が進んだ.

10・細胞性免疫

①細胞性免疫検査の現状

著者: 河野均也

ページ範囲:P.902 - P.904

 免疫学が近代的な学問としての体系を整えてから,ほぼ1世紀が過ぎようとしている.最初はPasteurの炭疽病や狂犬病ワクチンの開発,あるいはBehring-北里の抗毒素療法など,もっぱら感染症に対する予防と治療を目的とした,いわゆる血清学が中心をなすものであった.しかしながら,免疫反応にはツベルクリン反応のように,陽性者の血清を輸注しても完成されず,陽性者から採取した生きたリンパ球を輸注することによって初めて陰性者を陽転させる反応のあることも,以前から知られていた.現在では,あらゆる免疫現象に細胞が関与していることが明らかにされているが,細胞性免疫(cell-mediated immunity;細胞介在性免疫)といえば,リンパ球のうちT細胞が関与する免疫反応のことを指すのが一般的であり,B細胞系細胞が抗原の刺激に応じて産生する免疫グロブリンが主役を演ずる体液性免疫と区別して考えられている.しかし,今世紀半ばから盛んに行われるようになった免疫機構の解明のための動物実験の結果,体液性免疫機構には鳥類ではFabricius嚢が,細胞性免疫機構には胸腺が働きを示すことや,体液性免疫と細胞性免疫とはそれぞれ独立して機能を営んでいるのではなく,マクロファージや補体などの働きとともに,相互に緊密な作用を営むことによって初めて完全な免疫機能を発揮するものであることも明らかにされてきた.また,免疫機構の解明のための動物実験およびそのために続々と開発された検査手技は,そのまま人間の免疫異常の検索に応用されるようになり,思いがけない病態の発症まで免疫機構の異常としてとらえられる時代となった.
 細胞性免疫に働くT細胞の活性としては①免疫応答の調節,②細胞障害,および③生物活性因子(リンホカイン)の産生の三つの範疇に分けて考えられているが,KohlerとMilsteinの開発したモノクローナル抗体の応用は,免疫現象に働くさまざまな細胞を機能別に分画することを可能にし,きわめて詳細な免疫機構の異常をもとらえることができるようになってきた.

②HLA抗原

著者: 赤座達也

ページ範囲:P.905 - P.907

HLA抗原とは
 HLA抗原はヒトの第6染色体上の主要組織適合遺伝子領域の産物で,HLA-A,B,CのクラスI抗原と,HLA-DR,DQ,DPのクラスII抗原に分けられる.HLA抗原は非常に種類が多く,現在WHOにより命名されている抗原だけでも,クラスIで80種,クラスIIで25種あり1),その多様性がHLAの理解と検査を困難なものとしている.HLA抗原の検査は血小板輸血や,臓器移植における患者と提供者の適合性の決定,親子鑑定,いくつかの疾患の診断および習慣性流産夫婦間の適合度の検定などで行われる.どのクラスのHLA抗原を検査するのかは目的によって異なる.臓器移植ではクラスII抗原がより重要とされているが,血小板輸血ではクラスI抗原だけでよい.また疾患と連鎖している抗原のクラスは,疾患によって異なっているので対象によって決める.
 NIH法として標準化されているLymphocyte Cytotoxicity Test(LCT)はTerasakiらにより1964年に開発された,微量の血清で多数の検体を扱える優れた方法である2).LCTはHLAタイピングや,HLA抗体のスクリーニング,クロスマッチにも用いられているが,さらに反応感度を上げたAHG-LCT法が開発されている3)

③フローサイトメトリー

著者: 高橋英則 ,   吉田象二

ページ範囲:P.908 - P.911

はじめに
 近年,リンパ球をはじめとする単細胞の膜表面抗原の解析手段は格段に進歩している.これらの進歩を支えているものとしては,細胞工学的手段によって次々と世に送り出されるモノクローナル抗体の開発と,フローサイトメトリーの開発が挙げられる.この両者の組み合わせによってレセプター分子を含む種々の細胞表面抗原の微細な解析に画期的な威力を発揮し,免疫不全症,自己免疫疾患,白血病,腫瘍,移植などの疾患で重要な情報を提供している.今日ではフローサイトメトリーによるリンパ球の分類法は,従来のヒツジ赤血球を用いるロゼット法や表面免疫グロブリンの検出による方法にとって代わり,臨床検査に取り入れられている.
 本稿ではフローサイトメトリーを用いたリンパ球表面抗原の解析法について,主としてその原理,方法論を中心に概説する.なお細胞の分化,働き,臨床応用についてはほかに優れた総説があるので,それらを参照していただきたい.

資料

免疫化学検査に使われる測定機器

著者: 大沢進

ページ範囲:P.912 - P.915

 抗原抗体反応を利用した測定用機器は,過去5年ほどの間に急速な進歩を遂げた.従来のRIA用や用手法によるEIAのみがその主な方法であったにもかかわらず,試薬や自動化機器の開発により,多種多様の原理と機器を組み合わせた自動機器が市販されるに至った.まさに測定方法の多様化を迎えたと思われる.しかし,多様化が進むにつれ,その選択も容易ではなくなった.また,免疫学的測定法は生化学検査,血清検査,血液検査などの領域にオーバラップし,その境界線も薄れて,大型の自動機器で同時に測定することさえ行われており,従来の検査室の運用形態にも影響を与え始めている.
 測定方法を大別すると表1のとおりである.目的物質の濃度が高い成分(免疫グロブリンなど)は比濁法が主流を占め,従来の専用分析機の測定から汎用の生化学自動分析装置へ移りつつある.これは汎用機器メーカーが免疫学的測定も可能とするため,プロゾーン検出や多点検量線機能などを新たに加えたことなどが考えられる.また,試薬メーカーでは検体を無希釈で測定できる試薬の開発も挙げられる.

免疫化学検査 わだい

ラテックス粒子

著者: 日方幹雄

ページ範囲:P.606 - P.606

 ラテックス粒子の医療への応用は,1956年Singerら1)が行ったリウマチ因子の検出に始まる.現在,診断用ラテックスの中心は,ポリスチレンラテックスである.しかし,最近は製造技術の進歩により特定の官能基の導入,高比重化,着色,磁性の付与も可能になり,多彩な機能を持ったラテックス粒子が利用できるようになっている2)

免疫化学検査における単位

著者: 亀子光明

ページ範囲:P.651 - P.651

 免疫化学検査で用いられる主な単位記号を表に示した.各種の測定系における測定値は,これらの単位記号を組み合わせて表現される.図に代表的な定量法の測定範囲と分析項目の濃度分布を示した.また一般的に用いられる測定値は以下のとおりである.
 内分泌学的検査(ホルモン関係):pg/ml,ng/ml,μg/ml,μU/ml,mIU/ml,ng/dl,μg/dl(尿:μg/day,mg/day).

モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の反応性の違い

著者: 宮西節子

ページ範囲:P.705 - P.705

 1975年KöhlerとMilsteinは細胞融合技術を用い,抗体を産生しながら増殖し続けるB細胞ハイブリドーマを作製した.以来,臨床検査領域や研究一般に,すべて革命といえるほどの著明な変化をもたらした.過去に困難であった微量物質の測定が可能となり,新しい知見が次々と得られている.
 ハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体はポリクローナル抗体とは異なった種々の特徴を有するが,主に免疫化学的な面から双方の抗体の反応性の違いを簡潔に述べたい.

RIA検査後の処理方法

著者: 高橋和男

ページ範囲:P.740 - P.740

 試薬,使用器具で特別な処理を必要とするのは,RIで標識された試薬とRIの付着した試験管,ビーズ,紙,ガラスおよびプラスチック容器である.
 このRI廃棄物の処理および廃棄の基準は放射線障害防止法,同施行令および同施行規則,ならびに科学技術庁告示により厳しく規制されている.病院など医療機関については,医療法および同施行規則があるが,趣旨は同じである.法令に従い廃棄物を処理する場合は①自己施設で廃棄する,②廃棄業者へ委託する,の二つの方法がある.RIA検査で生ずる廃棄物は液体廃棄物および固体廃棄物に分けられる.このうち液体廃棄物は①の方法で希釈・廃棄できるが,固体廃棄物は廃棄業者へ引渡し,廃棄を委託するのがよい.現在,放射線障害防止法の規定により許可を受けた廃棄業者のうち外部の廃棄物を受託する業者は,日本原子力研究所と日本アイソトープ協会(以後,協会と略す)の2機関となるが,医療法施行規則により,厚生大臣の認定を受けて廃棄物の廃棄を受託できる業者は協会に限られている.

成績管理の実際

著者: 溝口香代子

ページ範囲:P.787 - P.787

 免疫化学反応の検出はラジオイムノアッセイ(RIA)においては放射能の計測であり,エンザイムイムノアッセイ(EIA)や各種凝集反応を用いたものでは測光(蛍光)分析であるが,抗原抗体反応を利用しているために一般的な化学反応の理論がそのまま使用できない.根本的な相違点は①検量線が非線形である(直線でない)ことと,②抗原抗体反応固有の変動要因が化学反応系に比べて測定系内に多く存在することである.そのため免疫化学検査の成績管理は,化学検査における精度・成績管理の方法に若干のくふうを加えたものが必要になる.一度に大量の検査をこなし,分析と管理を別途に行っている検査センターなどでは,コンピューターを駆使してさまざまの管理方法を実施しているが1〜3),ここでは化学検査における精度管理方法に検量線の扱いや各種変動要因のチェック方法などを加えて,ごく一般的に検査室で実施できる成績管理の実際をまとめてみた.

CK-MBの測定—コダックエクタケムスライドによる成績から

著者: 平井智子

ページ範囲:P.788 - P.789

 クレアチンキナーゼ(CK:EC:2.7.3.2)のアイソザイムであるCK-MBは,心筋梗塞の診断に用いられる.
 CKは二つのサブユニットから成る二量体で,M(muscle type)とB(brain type)から成る,サブユニットは分子量41,000,アミノ酸360から成るペプチド鎖である.これら二つのサブユニットの組み合わせにより,CKアイソザイムには,CK-MM(muscle type),CK-MB(myocardial type),CK-BB(brain type)がある.これらは,主にヒト組織のそれぞれに多く存在することからこのように呼ばれる.

クライオグロブリンの測定系への干渉

著者: 橋本寿美子

ページ範囲:P.790 - P.790

 血清検体を37℃以上に加温するかまたは37℃以下に冷却した場合に,凝固,ゲル化,沈殿形成などの肉眼的変化を示す蛋白を総称してthermoproteinと呼ぶ.クライオグロブリンの温度変化は一般的に可逆的であり,37℃以下に冷却した場合に白濁沈殿やゲル化を起こし,37℃に加温することによって再溶解する.
 クライオグロブリンが白濁やゲル化などの性状変化を起こす温度は個々の症例によって大きく異なるが,通常の臨床検査業務が行われる温度条件下でも性状変化を示すクライオグロブリンの存在することは,それほどまれなことではなく,これらの検体は種々の測定系に干渉作用を示し,誤った測定結果を与えることがある.Cryoprecipitateを形成し始める温度は沈殿物量と密接な関係があり,沈殿物量はそのタイプに依存するところ3,4)が大きい.

RI標識試薬の取り扱いかた

著者: 高橋和男

ページ範囲:P.826 - P.826

 In vitro RIの検査試薬は法律上,医薬品(薬事法第2条第1項に規定される)とされ,原子力基本法第3条第5号に規定した放射線を放出するものとなっている.このうち臨床検査で取り扱う可能性の高い核種は125Iである.また,臨床検査で日常RIの標識を行うことはほとんどないので,ここでは標識された試薬(市販のキット類)の取り扱いかたを述べることにする.

光と波長

著者: 関口光夫

ページ範囲:P.827 - P.827

 電荷を持った粒子が振動すると,電界や磁界は周期的に変化する.振動数が非常に速いと,電界や磁界の振動は波となって空間に放射される.この波を電磁波という.電磁波スペクトルの領域は波を発生させる方法や検出方法によって大別することができるが,さらに波長によっても分類することができる.すなわち,波長によって電波と呼んだり,光とかX線と呼んだりする.電磁波の領域を波長,放射系を基に分類すると表に示すように,波長の短いほうからγ線,X線,紫外線,可視光線,赤外線,電波の六つに大別される.いずれの電磁波も医療に汎用されており,深い関係にあることはいうまでもない.中でも臨床化学分析や免疫化学的な分析手段として使用されている電磁波は,紫外線,可視光線,赤外線である.
 電磁波のスペクトル領域を区別するための指標としては波長,振動数,エネルギーなどがあり,中でも波長を用いて表現されることが多い.波長(λ)およびエネルギー(E)は光速度(C),振動数(ν),プランク定数(h)が関与した次の(1),(2)の関係式で表される.

緊急検査としての免疫化学検査—供給は需要を生む

著者: 溝口香代子

ページ範囲:P.841 - P.841

一般に緊急検査の対象となっているものは化学および血液検査の項目で,免疫化学検査に該当する項目はごく少ないようである.しかし,最近は免疫化学検査への自動化の導入によって,緊急検査として臨床からの要望に応えられるようになってきた.少し古いが,昭和60年度私立医大の資料では次のような項目が緊急検査の対象として挙げられている.ただし,免疫化学的方法を用いているかどうかは不明である.(〔 〕内の数字は全45施設中の実施施設数である.)
 HBs-Ag〔5〕,梅毒〔2〕,抗体スクリーニング〔2〕,HBs-Ab〔1〕,CRP〔1〕,薬物(フェノバルビタール,フェニトイン,ジゴキシン,テオフィリン)〔1〕

将来導入の見込まれる臨床検査

著者: 富田仁

ページ範囲:P.876 - P.876

 ■心房性ナトリウム利尿ホルモン(atrial natriuretic peptide;ANP)──ANPは,心房中に存在する新しいホルモンとして発見され,心房から分泌されて血液中を循環し,Na利尿作用と血管平滑筋弛緩作用を介して体液バランスの調節に重要な働きをしていることがわかり,心不全,腎不全,高血圧症,浮腫性疾患などの種々の病態が解明されている.健康人血漿中には,200〜400pg/ml存在するといわれ,α,β,γのタイプもしだいに明らかになってきているので,今後,上記疾患にはANPは必須の検査となる.

SRID法の日常検査での注意点

著者: 宇津晶子

ページ範囲:P.901 - P.901

 SRID法は,定量的免疫拡散法の一つとして,Faheyら1),Manciniら2)によって確立された方法で,その原理は拡散と抗原抗体反応の組み合わせである.したがって,測定結果に影響を及ぼす因子としては,抗原濃度と抗体濃度の適合比,拡散していく抗原物質の分子量などが挙げられる.また,日常検査では主として血清や血漿を用いるため,測定したい物質に対する他の血漿成分の干渉などにも注意する必要がある.そこで,日常検査で遭遇する可能性がある例を挙げてみることにする.

ハイブリダイゼーション

著者: 小林信之

ページ範囲:P.911 - P.911

 近年,サザン(Southern)ハイブリダイゼーション,ノーザン(Northern)ハイブリダイゼーションなどという,いわゆる「……ハイブリダイゼーション法」という言葉を目にする機会が増えてきている.ハイブリダイゼーション(hybridyzation)とは本来,「異種の交配」という意味であるが,分子生物学では特に,DNA-DNAまたはDNA-RNAの間でその塩基配列の相補性を利用して対合させることを意味して用いている.
 一本鎖のDNAまたはRNAは,一定の条件下では,それぞれを構成している塩基配列の相補性の高さに応じてハイブリダイズして二本鎖を形成するという性質がある.しかも,二本鎖の形成は,相補性が高いほど強く,かつ速やかに行われる.この性質を利用して,特定のDNA(遺伝子)を探し出したり,複数の遺伝子間で相同性を調べたりするのに利用されているのがここでいう「……ハイブリダイゼーション法」と呼ばれている技術である.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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