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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術17巻1号

1989年01月発行

雑誌目次

病気のはなし

肝硬変

著者: 中野博 ,   榎木登

ページ範囲:P.10 - P.14

サマリー
 肝硬変は慢性肝疾患の終末像であり,死に至る,予後不良の病変である.その原因としてわが国ではB型,非A非B型の肝炎ウイルスによるものが大部分であるが,アルコール多飲によるものも約20%を占めている.肝硬変の肝臓では肝内に大量の結合線維が沈着し,その結果,肝細胞障害と血流の障害を起こす.このため肝硬変では①肝細胞の機能不全,②門脈圧の亢進,および③肝内,肝外の血管のシャント(バイパス)の形成がみられる.肝硬変の症状はすべてこの三つの病変に基づくもので,腹部消化器,血液,内分泌,神経系などにわたる多彩な症状を呈する.診断には血清アルブミン,コリンエステラーゼ,プロトロンビン,lCGなどの検査がもっとも重要であるが,X線,超音波エコー,CTも補助診断としての意義は高い.死因は肝不全,食道静脈瘤破裂,肝癌が三大要因である.

技術講座 生化学

血中ポリアミンの測定法

著者: 眞重文子

ページ範囲:P.25 - P.30

サマリー
 新しい腫瘍マーカーとして,尿中ポリアミンとともに血中ポリアミンの測定に大きな期待が寄せられている.この二つのポリアミンは,お互いの間の相関関係は少なく,治療に対する反応や術後の変動パターンが異なる.そのため,二つのポリアミンを同時に測定することによって,癌の診断,治療効果の判定,再発の発見にいっそう正確な情報を与えることができる.最近,酵素法による簡易で敏速な血中ポリアミン測定法が考案され,血中ポリアミンが容易に測定できるようになった。本稿では,血中ポリアミンの測定法のうち,特に酵素法および高速液体クロマトグラフィーについて概説する.

輸血

Type and Screen

著者: 神田靖男 ,   馬場真澄

ページ範囲:P.31 - P.36

サマリー
 人にはそれぞれ固有の血液型がある.同時に血漿中(血清)には,一定の法則のもとに通常だれでも持っている抗体(主として抗A,抗B)と,法則に従わず,まれに別の抗体を持っていることがある,この抗体は一般的に不規則性抗体と呼ばれている.この抗体は輸血や妊娠などの免疫感作の結果産生される免疫抗体(IgG型)と,免疫感作を伴わない自然抗体(主にIgM型)に区別される.さらに特殊な例として,自己の赤血球と反応する自己抗体がある.また,輸血に際して行う検査には,患者(受血者)と供血者の血液を直接反応させて適合か否かを試験管で行う交差試験がある.しかしながら,使用する供血者血液の被凝集性に"ムラ"があり,同じ条件で検査を行っても反応性の統一は難しい.そこで前もって比較的被凝集性の保持された赤血球(多くは市販品)を用いて患者,または供血者の血液型と抗体検査を何種類かの検査方法を組み合わせて行い,実際に血液が必要になったとき,簡単な交差試験を行った後,血液を供給する"Type and Screen"(以下,T & S)がある.
 そこでT & Sの方法と実際の効果について記述した.

細菌

プラスミドの検出と解析法

著者: 和地正明 ,   松橋通生

ページ範囲:P.37 - P.41

サマリー
 細菌の薬剤耐性などの遺伝子を運んでいるプラスミドは,細胞質内で自己複製する比較的低分子の環状DNAである.プラスミドは理論上すべての細菌に存在しうるが,そのうち薬剤耐性の獲得に関与するものをR因子と呼ぶ.このR因子は同種または近縁種の細菌の細胞から細胞へ,場合によっては種や属を超えて伝播することがあるので,化学療法上重要な問題である.一方,プラスミド中の複製に関与する部分にマーカーとしての薬剤耐性遺伝子をつなげたものがプラスミドベクターと呼ばれ,最近の遺伝子組換え技術に欠くことのできない武器となっている.ここでは薬剤耐性遺伝子を含むプラスミドの検定のため,比較的簡単に行えるプラスミドの抽出と検出法を,主として大腸菌の遺伝子組換え実験の知見をもとにして述べてみたい.

病理

硬組織の非脱灰研磨標本作製法—レジン包埋法

著者: 茅野照雄

ページ範囲:P.43 - P.48

サマリー
 日常の病理検査では,硬組織を含む検体は脱灰標本とされる.脱灰すると組織の石灰塩が除かれるために,これでは無機成分の変化(石灰化や脱灰の程度や様相など)を観察することはできない.硬組織は石灰化しているからこそ硬組織なのであるから,その形態学的検索に当たっては脱灰操作を加えていない状態を観察する必要がある.例えば,代謝性骨疾患などの病態の理解は,非脱灰研磨標本による骨の形態計測の成果に負うところが多い.脱灰した硬組織標本でさえ敬遠されがちな感があるが,脱灰しない状態の硬組織の検索が病理検査部門に要請される機会も多くなってきている.そこで本稿では,初心者を対象とした硬組織の非脱灰研磨標本の作りかたを紹介する.

生理

小児の心電図検査

著者: 二俣秀夫

ページ範囲:P.49 - P.53

サマリー
 小児の心電図検査における要点,注意点について概説した.乳幼児では検査に必要な安静状態が得にくいので,被検児と検査者および母親が協力しながら,迅速かつ正確な心電図を記録する努力と工夫が必要である.
 運動負荷心電図検査では,マスター2階段テスト,トレッドミル負荷テスト,跳躍負荷テストについて述べたが,いずれも検査に対して理解が得にくい,興味が持続しない,などのために,幼児後期以後でないと満足に実施できない.乳幼児でも確実に施行可能な検査法の確立が望まれる.
 正常小児の心電図は,年齢によって著明に変化する.その特徴を把握しておくことは,正確な検査を行うためにきわめて重要である.

検査法の基礎理論

von Willebrand因子マルチマーの解析

著者: 高橋芳右

ページ範囲:P.15 - P.19

サマリー
 von Willebrand因子(vWf)は血管内皮下組織への血小板粘着に必要な高分子量糖蛋白質であり,正常血漿中では分子量500000〜約20×106の広範囲に不連続に分布するマルチマーから成る.vWfは血小板膜GPIb,GPIIb/llla,コラゲンに結合するが,その機能発現は主にマルチマー構造により規定され,高分子マルチマーがもっとも活性が高く,低分子マルチマーは活性が低い.そのためvWfの量的減少または高分子マルチマーの欠乏により一次止血障害をきたす.vWfマルチマー解析はvon Willebrand病の病型診断のみならず,後天性vWf異常の解析に重要である.一般にSDS-アガロースゲル電気泳動法に続いて酵素抗体法またはオートラジオグラフィーを施行し,解析する.

ヘマトキシリン・エオジン染色

著者: 渡辺恒彦

ページ範囲:P.20 - P.24

サマリー
 ①ヘマトキシリン・エオジン染色の現在における問題 点を探った.
 ②ヘマトキシリンによる核染色の理論を,ごく常識的 レベルで解説した.
 ③現行ヘマトキシリン染色液の処方を掲げ,その実用 上の特徴を述べた.
 ④エオジン染色液の処方と染色上の注意について述 べた.
 ⑤固定の重要性の再認識を促した.

ラボクイズ

〈問題〉超音波(4)

ページ範囲:P.54 - P.54

第16巻12月号の解答と解説

ページ範囲:P.55 - P.55

マスターしよう検査技術

コントロール尿の自家調製法と使いかた

著者: 五十嵐すみ子 ,   島崎道広

ページ範囲:P.57 - P.62

 今日,一般尿検査は患者および健康診査のスクリーニング検査として広く実施されており,そのほとんどが試験紙を用いている.しかし,尿試験紙はその感度,特異度,呈色調とカラーチャートとの関係がメーカー別,ロット別に異なる例が多い.尿試験紙の精度管理法を筆者らは提唱し1,2),その問題点を指摘してきた3,4).またわれわれは,コンロール尿を作製し使用してきたが,溶解液としてプール尿を用いて作製していたので簡便さに欠けていたためか,その普及が困難であった.そこで尿試験紙の呈色度とカラーチャートとの一致,再現性,ロット間差,感度低下などをチェックするために,新しいコントロール尿を作製し使用している5〜9).市販のコントロール尿は蛋白,糖,潜血の呈色濃度が(++)〜(+++)に調整してあるものが多い.試験紙の感度低下により(+)が(-)になったのか(±)になったのかを見るためのチェックには役だちにくい.われわれの作製したコントロール尿は,試験紙の反応が(+)を示す濃度になるように作ったものである.コントロール尿は表2に示すように,実際の尿で作ったプール尿と比較すると比重,浸透圧が低いために糖と潜血の反応が強くなってしまうので,成分量を調節して作ったものである.今回は,プール尿を用いた各種標準液の調製法,各種試験紙の検定方法を併せて解説する.

検査ファイル 項目

アミラーゼ—BG5P基質法による測定

著者: 牧瀬淳子

ページ範囲:P.64 - P.65

 α-アミラーゼ活性測定法の中で,色素オリゴ糖を基質とする方法が日常検査法として普及している1,2).この方法はkinetic assayが可能で,自動分析装置へ適用しやすいなどの特長を有している一方,理想的な試薬組成で測定条件を設定するには,いくつかの問題点があった3)
 最近,オリゴ糖の非還元末端を修飾する基質を用いた方法が報告されているが4〜6),特にマルトペンタオースの非還元末端にベンジル基を,還元末端に4-ニトロフェノール(4NP)を修飾した基質,4-ニトロフェニル6-o-ベンジル-α-マルトペンタオシド(BG5P)を用いた方法が注目されている.

コアグラーゼ陰性ブドウ球菌

著者: 黒坂公生

ページ範囲:P.66 - P.67

 コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(以下,CNS)は1957年に出された第7版の"Bergey's Manual of Determinative Bacteriology"では,Staphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌)という名前のもとに一括されて,非病原菌とみなされていた.その後,分類学に菌の生物学的性状よりも,染色体DNAの異同のほうが信頼性の高い分類法であるとの考えが取り入れられるようになった.そして1974年に出された第8版の"Bergey's Manual"では,CNSがS. epidermidisとS. saprophyticus(腐生ブドウ球菌)の二つに分けられるようになった.
 さらに1986年に出された"Bergey's Manual of Systematic Bacteriology"1)では,ブドウ球菌は表1のように19菌種に分けられるようになった.これらのうちヒトに寄生する菌種は,CNSについてはS. epidermidisをはじめとする11菌種である.これら11菌種は,一方では皮膚や粘膜に常在菌として多数生息している.他方,白血病患者や異物を挿入した個体において,日和見感染菌として病原性を発揮する.その多くは,S. epidermidisによるものであるが,S. saprophyticusが若い女性の急性膀胱炎の原因菌として注目されている.

試薬

発色性合成基質

著者: 鈴木節子

ページ範囲:P.68 - P.69

[1]発色性合成基質とは
 1972年にスウェーデンのカロリンスカ研究所のBlombäck夫妻がボフォーズ社といっしょに新しい発色性合成基質を発表した1)のが最初である.Blombäckらはちょうどそのころ,フィブリノゲンがトロンビンによりフィブリンモノマーに転換される際に分離されるフィブリノペプチドA(FPA)のアミノ酸構造を研究しており,ヒトの場合,N末端がアラニン(Ala)に始まり,C末端がArgに終わる16個のアミノ酸の小さなペプチドであることがわかっていた.BlombäckらはFPAの種々の動物のアミノ酸配列を研究していくうちに,C末端から1番目のアルギニン(Arg)と2番目のバリン(Bal)と9番目のフェニルアラニン(Phe)が各動物とも共通していることに着目し,トロンビンはこれらのアミノ酸を認識して作用を発現することを見いだした.そして,このPhe,Bal,Argの三つのアミノ酸にベンゾイル基を付けてペプチダーゼの作用を防ぎ,さらにArgにパラニトロアニリン(PNA)という色素を縮合させたペプチドを合成した.案の定トロンビンはこのペプチドのArgのC末端を水解し,PNAを遊離した.また,トロンビンに対して比較的特異性の高い基質として発表し,この基質にsubstrateのSをとり,S-2160という名前をつけた.その後,さらに特異性の高い基質が合成され,現在に至っている.
 このようにして合成されたペプチド基質はTAMeや他のペプチド基質と違い,酵素によって遊離した物質自身が発色するか,または発色原物質を遊離させるので,発色性合成基質(chromogenic substrate)と呼ばれている.現在,合成基質は数十種以上にも及び,日常検査に汎用されるようになった.項目も多く,またプロテインC(PC),組織プラスミノゲンアクチベータ(tPA)およびプラスミノゲンアクチベータインヒビター(pAI)など,特殊な凝固線溶関連マーカーの測定にも適用されている.

用語

抗セントロメア抗体

著者: 奥村伸生 ,   亀子光明

ページ範囲:P.70 - P.71

[1]抗セントロメア抗体とは
 抗セントロメア抗体(anticentromere antibody;ACA)は,1980年Moroi1)らにより報告された抗核抗体の一つである.従来用いられてきたマウスやラットの肝・腎切片などの核を抗原とする間接蛍光抗体(IFA)法による抗核抗体検査では,homogeneous(均質),speckled(斑紋),shaggy(辺縁),nucleolar(核小体)型の4型に分類されていた.ところが,ヒトの培養腫瘍細胞の核を抗原として用いるようになって発見されたACAは,静止期の細胞核では培養細胞の染色体数を超えない数の特異な斑紋(図1-A)を示し,discrete speckled(dis. sp.;散在性斑紋)型と呼ばれている.一方,分裂期の細胞においては,染色体の動きに応じた染色像が認められる(図1-A,長・短矢印).
 ACAは染色体塗抹標本上での検討において,各染色体のセントロメア(動原体)またはキネトコアといわれる部分に存在する一対のほぼ円形の抗原と反応することから名づけられた(図1-B,図2).抗核抗体検査での静止期,分裂期細胞の蛍光染色パターンおよび染色体塗抹標本での染色像から,ACAと反応する抗原は染色体が存在しない静止期の細胞核中にも存在しており,染色体が形成される分裂期においてはそれぞれ2個に複製され染色体セントロメア部分に一対となって付着していると思われる2).この抗原は電顕による観察では三層構造をとり,染色体性マイクロチューブ(紡錘糸など)の形成に関与していると考えられている2).Moroiら1)は各種酵素処理や吸収操作により,ACAの対応抗原はセントロメア部分のDNA(またはクロマチン)に固着する非ヒストン性の蛋白質であろうと推測している.一方,EarnshawとRothfield3)はニトロセルロース膜にWestern blottingした,SDS-PAGEで分離したHela細胞の非ピストン性染色体骨格成分とACA陽性患者血清を反応させることにより,ACAは分子量17000,80000,140000の3種類の蛋白質を抗原とすることを明らかにしている.

検査技師のための新英語講座 English for Medical Technologists・13

第18回IAMLT学会総会(その1)

著者: 今井宣子 ,  

ページ範囲:P.72 - P.73

先輩技師:第18回国際医学検査学会総会に行ってきました.
英文編集者:どこであったのですか?

ハウ・ツー・ルチーン化・1

装置の基礎特性の確認

著者: 大久保滋夫 ,   大久保昭行

ページ範囲:P.74 - P.77

 自動分析装置は日常臨床検査の要をなしている.そして,その活用がポイントになることはいうまでもなく,そのために各検査室は多くの努力をしている.しかし,成果を上げるには技能を必要とする.そこで,自動化学分析装置を例に,そのルチーン化のための効果的な検討の方法について,装置,検量,測定系,結果の評価,マネージメントなどを現場の各メンバーによって6回のシリーズで実践的にまとめた.

ザ・トレーニング

心エコー図検査の進めかた

著者: 遠田栄一 ,   毛利昌史

ページ範囲:P.78 - P.81

はじめに
 現在,心エコー図法にはカラードップラ法をはじめ多くの手法があるため,日常検査でどの方法をどのように用いたらいいかとまどうことがある.そこで今回は,心エコー図法の各種手法の種類とその特徴について症例を呈示しながら述べることにする.

国家試験対策室

血清学

著者: 井上茂樹

ページ範囲:P.82 - P.85

例題
該当するものを選びなさい.
〔基礎編〕
1.完全抗原でないものはどれか.
 a.赤血球 b.細菌 c.アルブミン d.リン脂質 e.グルコース
2.蛋白抗原を投与したとき,抗体の産生しにくい経路はどれか.
 a.皮内注射 b.皮下注射 c.筋肉内投与 d.経口投与 e.血管内投与

けんさアラカルト

臨床検査技師の専門分野とローテーション

著者: 平子隆夫

ページ範囲:P.42 - P.42

 ローテーションについて述べる前に,検査部の中の部門について先に述べる.
 検査部業務は,大きく分類すると生体検査部門と検体検査部門の2部門になり,さらに前者は心電図,心音図,呼吸機能,脳波,筋電図,超音波検査部門などに区分され,後者は尿・便・髄液などの一般検査,血液,RIA・EIAを含む臨床化学,免疫血清,微生物,病理・細胞診検査部門などに区分される(病院によっては,内視鏡検査部門を検査部の一部門としている).

学園だより

宮城県総合衛生学院臨床検査学科

著者: 鈴木末子

ページ範囲:P.56 - P.56

■沿革
 宮城県総合衛生学院臨床検査学科の母体は1960(昭和35)年,宮城県衛生検査技師養成所として宮城県衛生研究所内に開所し,第1回生10名が入学した.'65年10月宮城県衛生検査技師学校に名称変更,'72年4月宮城県総合衛生センター内の公害技術センター5階への移転,'74年3月の第13回生の卒業をもって発展的解消を遂げた.
 '74年4月,宮城県衛生検査技師学校,宮城県公衆衛生看護学校('54年創立)の統合と看護学科の新設で,3学科を含む宮城県総合衛生学院(現学院長・西郡光昭)が仙台市幸町に誕生したのである.

けんさ質問箱

X-R管理図はどんな内容を管理しているのか

著者: 五十嵐富三男 ,   Y生

ページ範囲:P.90 - P.93

問 臨床検査領域で用いているX-R管理図法は,どのような性質のバラツキを管理しているのですか.またXの管理限界をXの±2SDでとれば,どんなデータが出ていてもそれなりに全体の95%が入ってしまいますが,それでよろしいのでしょうか.(大阪・Y生)
答 1.X-R管理図法がどうして必要になったか
 発端となったものは,1947年にBerk-Sunderman1)が発表した各病院間の検査データの実態調査結果であった.日常検査7項目について同一試料による一斉分析を試みたところ,参加した施設が代表的施設(n=60)であったにもかかわらず各検査室のデータのバラツキは予想以上に大きく,7項目すべてに合格した施設はただの1か所もないという驚くべき実態であった.この検査データのバラツキを改善するために1950年LeveyとJennings2)はすでに生産工場で工程管理に利用されていた統計学的品質管理法(statistical quality control method)を臨床化学検査に導入した.Leveyらによって紹介されたX-R管理図法は検査データのバラツキが各病院間のみならず,各検査室内においても発生することを実証した.

SegとLymの割合の逆転

著者: 山口潜 ,   T子

ページ範囲:P.93 - P.93

問 血液像を読んでいて,分葉核好中球(Seg)とリンパ球(Lym)の割合が逆転することがしばしばあります.この場合のありうる症例,および健康人ではどの程度の割合でこのようなことが起こるのかについてお教えください.(東京都・T子)
答 1.撹拌の問題 現在,血液像(白血球百分比)を算定するための標本は,EDTAなどの抗凝固剤を添加して非凝固性とした静脈血(採血後ある程度の時間を経過したもの)を撹拌した後,その一滴を採ってガラス板上に塗抹したものを染色し,顕微鏡的に目算により,または自動的に百分比を算出している.

HBs抗原,抗体とも陽性の症例

著者: 蒲池正次 ,   S生

ページ範囲:P.94 - P.96

問 当検査室ではHBs抗原・抗体の検査をRPHA法・PHA法(ミドリ十字)にて行っています.その際,時にHBs抗原・抗体ともに陽性の検体がありますが,これは臨床的にどのように考えればよいのでしょうか.(広島県・S生)
答 肝炎ウイルスの起因ウイルスにはA型肝炎ウイルス,B型肝炎ウイルスが知られているほかに,近年,未知のウイルスとして非A非B型肝炎ウイルスがクローズアップされている.A型肝炎あるいはB型肝炎はその全貌がほぼ明らかになり,経口的に感染する流行性肝炎はA型肝炎ウイルス(HAV)によるA型肝炎であって潜伏期も比較的短く,急性肝炎のみで,慢性化することはないが,まれに遷延化する例が認められる.現在では衛生環境の改善とともに減少し,散発性あるいは小集団発生的にみられるにすぎない.

ワンポイントアドバイス

尿外観観察の重要性

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.36 - P.36

 尿検査でもっともたいせつなことは,尿が正しく採られたかどうかである.すなわち,適正検体か否かのチェックは検査以前の問題として,もっとも重要である.しかし,これを判断することは難しく,現実には見逃されていることが多い.
 さて,尿の色調などの外観観察の重要性はすでに述べた(臨床検査,31,239〜247,1987)が,尿色調の観察もまた検体の適正さを知るのに役だつ.

コーヒーブレイク

LDHアイソザイムによる心筋梗塞の診断とLDH欠損症

著者:

ページ範囲:P.41 - P.41

 中年の肥満の男性が、食事療法と運動を勧められて、ジョギングを始めたところ、運動中に前胸部痛が出現したため、虚血性心疾患を心配して受診することはよくあることである。
 急激な運動の翌日に、血液検査が行われればCPK、GOTなどはまず上昇している。医師が心筋梗塞を疑って、CPK、LDHなどのアイソザイム検査が行われる場合がある。上昇した酵素の由来臓器は、この場合はもちろん骨格筋である。CPK活性は上昇の主体はMM分画である。しかし骨格筋中にもCPK-MB分画が1%以上含まれているので、MB活性の上昇も見られる。MB活性の上昇を見て心筋梗塞と誤診する可能性があるので、この場合に診断的価値のある特異性の高い検査はLDHアイソザイム検査である。LDH1≧LDH2ならば心筋梗塞と診断される。

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第1回臨床工学技士国家試験 問題と解答

ページ範囲:P.97 - P.116

第1回臨床工学技士国家試験 講評

著者: 池田研二 ,   川崎忠行

ページ範囲:P.117 - P.119

[午前の部]問題1〜48(医学概論,臨床医学総論)
 今回初めて行われた臨床工学技士国家試験は,対象とする臨床工学技士に臨床,特に治療の場での患者の生命維持に直接関与する機器・装置の操作・運用をまかせるためのものであり,これまでにない大きな責任を工学系出身者が課せられることになる.したがって,これらの機器・装置に関連する工学技術に対しては,当然ながら,それらが生命を左右するものとして患者に直接接続される以上,患者の存在を通して臨床工学技士は医学的知識をある程度身につけ,臨床の場での医師の指示を的確に理解し,特に緊急事態においても医用機器,装置の操作を通して適切な処置に協力できる必要がある.
 現代の医用機器・装置は日進月歩で,工学技術の側でも学ぶべき知識はどんどん増えており,臨床工学技士を目指す者がこれら膨大な知識を十分に消化すること自体,たいへんと思われるが,その責任の重大さを考えれば,さらに医学知識や考えかたをかなりの程度まで身につけておくことが要求されることもまた理解できよう.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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