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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術18巻4号

1990年04月発行

雑誌目次

病気のはなし

原発性副甲状腺機能亢進症

著者: 清水多恵子

ページ範囲:P.318 - P.323

サマリー
 原発性副甲状腺機能亢進症は,副甲状腺の1腺腫(まれに癌)あるいは多発性内分泌腺腫症に合併する4腺の過形成から副甲状腺ホルモン(PTH〔1〜84〕)が過剰に分泌される疾患である.過剰に分泌されたPTHが骨からカルシウムを吸収すること,および腎で活性型ビタミンDを過剰に作り出し,そのビタミンDが腸からのカルシウムの吸収を増大させること,この二作用により血清カルシウムが上昇する.十数年前は,尿路結石や線維性嚢胞性骨炎の症状によって来院し,医師がこの疾患を疑って血清カルシウムを検査することによって診断を進めていた.その後,血清カルシウムを自動分析法でルーチンに測定するようになり,高カルシウム血症の人をスクリーニングすることを通じて,結石などを有しない原発性副甲状腺機能亢進症が多数発見されるようになった.約2,000〜5,000人に1人の罹患率と考えられている.PTHの測定もmidportion PTH(44〜68)あるいはintact PTH(1〜84)を測定するようになり,正常とこの疾患,高カルシウム血症をきたす悪性腫瘍との鑑別が少数例を除いて可能となった.エコーやCTの解像力がよくなったことにより画像診断で副甲状腺腺腫の部位が術前にはっきりわかるようになった.治療は腺腫の摘除である.

検査法の基礎

常在菌と病原菌—[1]上気道

著者: 松本哲哉 ,   山口惠三

ページ範囲:P.325 - P.329

サマリー
 上気道は呼吸によって外界と接する部位であり,呼吸器系における最初の感染防御の場でもある.上気道炎は健常人でも年に数回は罹患するありふれた疾患であるにもかかわらず,詳しい解明はまだ十分にはなされていないが,その起因病原体の90%以上はウイルスとされている.細菌感染としては,特に小児科領域において,糸球体腎炎などの続発症との関連からStreptococcus pyogenesが重視され,その迅速診断キットも市販されている.上気道には常在菌叢が存在するので,病原菌を決定することは必ずしも容易ではなく,菌側および患者側の因子を十分に考慮したうえで総合的に判断されなければならない.

生体の物理量計測—[2]体内ガス

著者: 外間政哲

ページ範囲:P.330 - P.333

サマリー
 体内ガスで重要なのは,血液ガスと呼気ガスの組成である.血液ガスとは血液中に存在する気体のことで,酸素(O2),窒素(N2),炭酸ガス(CO2)の三者のほか,微量ではあるが,アルゴン(A),一酸化炭素(CO)などがある.その中で,生命維持のための呼吸現象の究極の姿を表しているのが,O2とCO2である.血液相のO2とCO2を規定しているのがO2摂取量(Vo2)とCO2排泄量(Vco2)であり,これらは呼気ガスの分析により得られるが,本稿では,その理論式について解説した.さらに,呼吸現象の病的状態の程度を把握するために臨床上重視されて用いられる肺胞気・動脈血酸素分圧較差(A-aDo2)についても述べた.

技術講座 生化学

β2-マイクログロブリンの測定

著者: 眞重文子 ,   大久保昭行

ページ範囲:P.334 - P.340

サマリー
 β2-マイクログロブリン(β2M)は,分子量11,800 Daの,糖を含まない単鎖のポリペプチドで,主要組織適合抗原のクラスI蛋白質の構成成分である.リンパ球をはじめ体内のほとんどの有核細胞で合成され,血液,髄液,尿などの各種の体液に微量に存在する.β2Mは腎糸球体で容易に濾過された後,近位尿細管で再吸収され異化される.尿中のβ2Mは,尿細管に障害があると尿中に多量に排泄される.血清β2Mは食事や筋肉量などの影響を受けないためGFRのよい指標となる.しかし,腎疾患のほかに,悪性腫瘍,自己免疫疾患などでも上昇する.近年,β2Mの生体内での役割が解明されるにつれて,β2Mの測定はますます重要になっている.

細菌

表在性真菌症の検査法

著者: 松崎統

ページ範囲:P.341 - P.346

サマリー
 真菌検査は真菌症の診断のため不可欠のものである.表在性真菌症においては,特に直接検査が重要である.検査手技についてはそれぞれ図示した.同定については多くを述べる紙幅もないので,主要菌のいくつかを簡単に記した.

病理

DNAプローブによる病理診断—B型肝炎ウイルスを中心として

著者: 安井英明 ,   大竹啓子 ,   北川知行

ページ範囲:P.347 - P.352

サマリー
 DNAプローブを用いた診断法の実際として,B型肝炎ウイルス(HBV)感染症を例にとり,Southern blot法について概説し,その病理診断への応用例を示した.
 また,目的とするDNAを数十万倍にも増幅させる方法として最近注目を集めているpolymerase chain reaction法(PCR法)について,その原理を概説した.さらに,実際の方法について,組織標本の検索に主眼を置いて述べた.

生理

脳波モンタージュの使いかた

著者: 一條貞雄

ページ範囲:P.353 - P.358

サマリー
 脳波1素子を記録するということは,2か所の電位差を記録することになるが,その際,ある部位の脳波を耳朶などに基準電極を置いて記録する方法が基準電極導出法のように呼ばれ,また部位間の電位差を前後あるいは左右に連続して導出する方法が双極導出法と呼ばれる.そして,これら基準電極導出法や双極導出法などの組み合わせを脳波モンタージュという.このモンタージュは,頭部各部位の脳波全体が同時記録できるのが理想であるが,電極部位が約20か所であるのに対して,脳波計の素子数はふつう12〜16素子程度なので,何種類かのモンタージュを合わせて使うことになり,どのような種類のモンタージュを選択するかが重要である.

一般

糞便中キモトリプシン活性の測定法

著者: 鈴木仁 ,   北田増和 ,   渡辺伸一郎 ,   竹内正

ページ範囲:P.359 - P.363

サマリー
 糞便中キモトリプシン活性(FCA)の測定法とその意義について述べた.健常人46例のFCAは42.4±30.7(Mean±1SD)U/gで,正常下限値は12U/gと設定した.各種疾患別のFCAは,慢性膵炎I群および膵癌では平均値で健常人に比して有意な低値を示した.またFCAは,パンクレオザイミン・セクレチンテストの判定因子である最高重炭酸塩濃度,総アミラーゼ排出量および液量と有意な相関性を示した.膵外分泌機能障害の程度が中等度から高度例でFCAの著しい低下が認められた.以上からFCAは簡便で精度もよく,膵外分泌機能障害のスクリーニングテストとして有用であると考える.

マスターしよう検査技術

顕微鏡の正しい取り扱いかた

著者: 伊沢正雄 ,   小泉清

ページ範囲:P.369 - P.377

 顕微鏡の能力を十分に発揮させ,正しく取り扱うためには,顕微鏡の構成原理や機能(働き)を知ることが不可欠である.
 現在の一般的な顕微鏡は,着せ替え人形のように,各種のユニットを付け替えることによって,それぞれの目的や観察方法に応じた仕立てができるようになっている.これをシステム顕微鏡という.

トピックス

バナジウムと腎不全

著者: 塚本雄介

ページ範囲:P.396 - P.397

 バナジウムは原子番号23の元素で,元素記号はVである.そういっても,医療分野の人たちにはあまりなじみの深い元素ではないだろう.
 この元素が脚光を浴び始めたのは,近年になってからである.というのは,Vは半導体やセラミクスの材料として,また化学触媒としてあらゆるハイテク産業には欠かすことのできない希少金属となっているからである.希少金属といっても地球上では21番目に多い金属だが,鉱脈となるとアフリカなどに限られてくる.このため,この元素の価値は最近にわかに上昇している.ところがこのVが,実は生体反応の調節に極めて密接な関係があることが最近になって次々に明らかになってきたのである.その最初のきっかけは,1975年,Cantleyらが実験に用いたアデノシン三リン酸(ATP)に(Na+K)-ATPaseの阻害物質が混入していることを突き止めたことにある1).そして,その正体がVであった.

ラジオイムノディテクション

著者: 遠藤啓吾 ,   渡辺祐司

ページ範囲:P.397 - P.398

 モノクローナル抗体はすでに,検査室でも病理診断やイムノアッセイに幅広く用いられている.さらにinvitro検査のみならずin vivoでも,放射性同位元素(アイソトープ;RI)で標識したモノクローナル抗体を患者に投与すれば,対応する抗原と特異的に結合するため,モノクローナル抗体の分布を通じて癌の画像診断を行うことができる.このような手法はラジオイムノディテクション(radioimmunodetection),イムノシンチグラフィー(immunoscintigraphy)と呼ばれ,すでに悪性腫瘍,心筋梗塞などの画像診断に利用されている.投与されたモノクローナル抗体は抗原を発現した細胞と特異的に結合するのに対し,抗原のない正常細胞とは結合しないため,シンチグラフィーを撮像することによって腫瘍の存在部位のみならず,腫瘍の質的診断,組織診断も可能となると考えられる.
 これまで肺癌,胃癌,大腸癌,肝癌,婦人科腫瘍,脳腫瘍などあらゆる腫瘍に対して,数多くのモノクローナル抗体が作られており,理論上すべての悪性腫瘍に対してラジオイムノディテクションによる画像診断を行うことができる.しかし現在は主として大腸癌,悪性黒色腫,卵巣癌,悪性リンパ腫などを対象に臨床応用されている段階で,良性疾患でも心筋梗塞,心筋炎や血栓症などでモノクローナル抗体を利用した画像診断が試みられている.

血小板由来成長因子(PDGF)

著者: 相馬良直

ページ範囲:P.398 - P.399

 血小板由来成長因子(PDGF;platelet-derived growth factor)は線維芽細胞,平滑筋細胞,グリア細胞など間葉系の細胞に対し,強い活性を持つ細胞成長因子である.その名のとおり血小板中に大量に存在し,血小板凝集に伴い放出される.したがって,血小板凝集を伴うような生理的・病理的現象において重要な役割を果たしていると考えられている.
 血小板中にはPDGFのほかにさまざまな生理活性物質が存在するが,PDGFはその総称ではなく単一の分子種である.その主な生物学的作用は,細胞増殖刺激活性と正の走化性活性である.線維芽細胞はPDGFの存在下で増殖が刺激される一方,PDGFが高濃度に存在する方向に向けて遊走する.これらの活性が発揮されるためには数ng/mlの濃度で十分であり,極めて強力な細胞成長因子である.

クロラムフェニコール(CP)耐性チフス菌

著者: 山口剛

ページ範囲:P.399 - P.400

 戦前から戦後にかけて猛威をふるった腸チフス・パラチフス(腸・パラチフス)は,クロラムフェニコール(CP)の登場によって激減した疾病の一つである.腸チフス患者,保菌者は1980年以降200〜300人であったが,1988年は110人に,パラチフスは1985年以降100人を割り,1988年には33人に減少した.
 最近,腸・パラチフスで特に注目されている点は,輸入例の増加と耐性菌の問題である.1988年の輸入例は腸チフス33例(30%),パラチフス19例(58%)である.主な感染地はインド,インドネシア,タイ,中国,パキスタンとなっている.

脳血管攣縮とEDCF

著者: 倉橋和義

ページ範囲:P.400 - P.401

 筆者らは,脳動脈が,末梢動脈と異なり内皮細胞依存性の収縮を示すことを見いだし,その内皮細胞由来動脈収縮物質(EDCF)の薬理学的性質を明らかにしてきた.本稿では,特に,脳動脈内皮細胞収縮の性質,ならびにこの収縮に連関するCa2+チャンネルの性質について記述し,脳動脈攣縮発現機序の解明ならびに同攣縮治療薬開発の一助としたい.

ラボクイズ

<問題>細胞診

ページ範囲:P.366 - P.366

3月号の解答と解説

ページ範囲:P.367 - P.367

検査ファイル

〈項目〉血中・尿中トロンボモジュリン

著者: 田原千枝子

ページ範囲:P.380 - P.381

 トロンボモジュリンは血管内皮の細胞膜を構成する糖蛋白で,血管が持つ強い抗血栓作用の一面を担う物質として,最近注目を浴びている.
 トロンボモジュリンはトロンビンと高い親和性を持ち,両者は1対1の複合体を形成するが,トロンボモジュリンと結合したトロンビンはフィブリノゲンに対する凝固活性を失うと同時に,ビタミンK依存性凝固因子であるプロテインCを活性化するようになる.トロンビンは単独でもプロテインCを活性化するが,トロンボモジュリンと複合体を形成したトロンビンは2,000倍も強いプロテインC活性化作用を表すようになる.活性化プロテインCは活性化凝固第V,第VIII因子を分解して失活化させ,凝固系のインヒビターとみなされる.

〈項目〉脱灰標本の類骨染色

著者: 佐々木佳郎 ,   吉田力

ページ範囲:P.382 - P.383

はじめに
 膠原線維と糖蛋白から成る有機成分の結合が類骨で,リン酸カルシウムを主とした無機成分の結晶が類骨上に付着したものが骨である.骨と類骨の組成上の相違は,無機成分の有無のみにあると考えられる.
 骨組織を十分に脱灰することは,無機成分を除去して類骨のみを残すことを意味する.したがって,脱灰骨組織における骨と類骨の染め分けは,理論上極めて困難な問題を基本的に抱えるものであるといえる.これらの悪条件の中で,類骨のみを選択的に染める方法がいくつか工夫されてきた.ここでは,脱灰標本における類骨染色法としては,なお多くの問題を抱えている点を強調しつつ,該当すると考えられる代表的な三つの方法論を以下に簡単に紹介・解説する.

〈用語〉アイソレーション・アンプ(絶縁形増幅器)

著者: 田頭功

ページ範囲:P.384 - P.385

はじめに
 近年,医療検査・治療の現場では非常に多くの数と種類の医用電子機器が使用されるようになり,また,その機能・操作の点においても相当に複雑になっている.それぞれの機器の使用目的からは高機能性が求められるのは当然であるが,これらの機器が同時に使用されるときの相互の干渉性,患者に対する安全性の認識は医用機器の設計者はもちろんのこと,医療の現場におけるこれらの機器の使用者は,その重要性を十分に認識し,これらの技術的知識を高めなければならない.
 患者に直接電気的に接触して使用される医用電子計測装置の中でも心電計は,特に他の電子機器と併用される機会が多い.このような計測装置の技術的安全対策としては,アイソレーション・アンプ(絶縁形増幅器)注)を用いる方法が非常に有効である.

〈用語〉DNA診断

著者: 斉藤伊三雄 ,   上田國寛

ページ範囲:P.386 - P.387

 分子生物学の進歩は,現在までに数多くの疾患の根本的な原因に遺伝子異常があることを明らかにしてきた.また,遺伝子操作技術の革新は,臨床検査室でのDNA操作を実現可能なものとしている.こうした進歩を背景にDNA診断が究極の診断法として登場してきた.

検査データを考える

貧血

著者: 内田立身

ページ範囲:P.393 - P.395

貧血の診断
 臨床検査上,貧血の診断は赤血球数,ヘモグロビン濃度,ヘマトクリット値に基づいてなされる.一般にはWHOの基準(男性13.0g/dl未満,女性12.0g/dl未満)がよく用いられる.筆者らは最近の調査で,鉄欠乏のない(トランスフェリン飽和率16%以上,血清フェリチン12ng/ml以上)健常人男女でヘモグロビン値をみると,男子12.8〜16.8g/dl,女子12.1〜15.7g/dlとなり,WHOの基準を当てはめて問題はないと考えられる1)
 貧血は臨床的に無症状で軽度のものから,重篤なものに至るまで種々のものがある.また,外来診療でしばしば経験されるものと,診断・治療上重要ではあるが,比較的珍しいものに大別できる(表1).

検査技師のための新英語講座・28

再び略語について(その4)

著者: 今井宣子 ,  

ページ範囲:P.378 - P.379

先輩技師:なぜ,執筆者は略語に関してこんなおかしな間違いをするんでしょうか?
 英文編集者:私はこう思います.執筆者は急いで書いています.だから,略語のチェックは後でするつもりでいます.しかし,書き終わってから,チェックのための見直しをしていません.チェックというのは,例えば略語を何回使ったかなどのチェックのことです.また,特に日本では,流行の略語を実際の単語だと思っている人もいるようです.RNAとDNAだけについては,私もそんな風な感じがします.だから,私にはそういう人たちの気持ちが理解できます.でも,それは間違っています.

検査報告拝見 一般血液検査

昭和大学藤が丘病院

著者: 寺田秀夫 ,   堀内伸純

ページ範囲:P.364 - P.365

 どんな病気でも,どんな診療科でも,初診時に必ず行う検査が血液検査である.したがって臨床検査の中で検体数が最も多く,また非常に多忙な部門が血液検査室である.血球数の異常や塗抹標本上の血球形態の異常の発見から,各種の貧血,肺炎や虫垂炎などの感染症,急性白血病をはじめとする造血器悪性腫瘍や癌の骨髄転移などが診断され,その他前景に出ていないと思われる疾患が発見される場合が珍しくない.正確に血球数を算定し,1枚の美しく仕上がった末梢血の塗抹標本をていねいに観察することは最も大切な血液検査の基本である.それとともに血液検査技師は検査手技に習熟するのみでなく,異常所見の持つ病態的意義を十分に認識していなければならない.それには臨床血液学の勉強を常に怠らず,医師と対等にディスカッションできるようになってほしい.
 正しく採血し(静脈血では2分以上ゴムバンドで締めていると血液成分が変化する),EDTA-2 K添加真空採血管に注入した血液は抗凝固剤が完全に溶解するまでよく混和することが大切である.

ザ・トレーニング

非定型抗酸菌の同定

著者: 束村道雄

ページ範囲:P.388 - P.392

はじめに
 日本の抗酸菌同定の水準は,欧米主要国のレベルよりもかなり低いといわざるをえない.筆者は,月1回くらいの割合で,外国から同定依頼を受けるが,それらの株は外国の研究機関でいちおう同定が行われており,送付されるのは希有の菌種の確認のためである.しかも,彼らの同定は,たいていの場合,当たっており,われわれの役目は同定の追認であることが多い.それに反して,わが国の場合,比較的珍しい菌種の場合,たいていは見当外れのことが多い.間違いの原因は,日本で市販されている簡易同定セットの成績の読み違いにある.これらの同定セットは,Mycobacteriumavium-Mycobacterium in tracellulare complex(MAIcomplex),Mycobacterium kansasii,Mycobacteriumfortuitumくらいの同定がせいぜいで,珍しい菌種の同定には,もっと複雑な検査が必要であることを忘れてはならない.もっとも,簡易同定セットでも,ある程度の習熟をすれば,多くの菌種の同定が可能であるが,そこまで抗酸菌を扱い慣れた人がいないということであろう.
 本稿では,どこに間違いが起こりやすいかを,われわれの経験から述べて,正確な同定に至る道順を考えてみたい.

明日の検査技師に望む

社会的ニーズに対応する変革

著者: 茂手木皓喜

ページ範囲:P.368 - P.368

 明日の臨床検査技師に望むに当たって,現在の臨床検査領域への社会のニーズに対応する変革について述べてみたい.
 まず,運営形態や運営そのもの,組織の変革である.従来から進められていた中央化の効果は評価されるが,最近の医療形態に応じて非中央化,個別化,分散化などの多様化が推進されつつあることである.そして,これを支援するのが,コンピューターネットワークの発展である.

けんさアラカルト

人間ドックにおける臨床検査の役割

著者: 小池繁夫

ページ範囲:P.324 - P.324

 ある日の午後の外来のことである.「ドックの検査で,便の潜血(免疫学的方法)が陽性で再検査を受けたのですが,その結果を聞きにまいりました」と中年の婦人が来診された.カルテを繰ってみると,オルトトルイジン法,グアヤック法,さらに人血のみに反応する免疫学テストのいずれもが陰性で,もちろん消化器系統の疾患もなく痔疾も認められないので,「ご心配はいりません」と答えた.それから陽性に出た理由について可能性を挙げて説明すると,その患者の表情がにわかに明るくなり,「実は家庭医学の本などを読んでみると,どうしても直腸癌のことが頭を離れず,家の中の大整理をして,遺言も作って,今日は入院覚悟でまいりましたが,おかげさまで,すっかり家中の整理ができましてありがとうございました」と丁重にお礼を言われて,瞬間ほろにがい感じとともに,臨床検査結果の意義の重大さをあらためて実感した.
 もし,この場合,本当に直腸癌であったとすると,その患者のその後の人生は一変してしまうに違いない.また,かりに,なお免疫学的方法を含めてなんらかの潜血反応が陽性で,しかも現在の医学的技術をもって精査をして異常がないと出た場合には,さらに長くフォローしなければならないし,その場合,患者の心の問題はなんにも解決せずに宙ぶらりんのままで精神衛生上あまり芳しいものとはいえない.人間ドックは不安を作るところではない.

けんさ質問箱

Q 開放性病巣からの細菌検査材料の取り扱い

著者: 三澤成毅 ,   M子

ページ範囲:P.402 - P.403

 細菌検査材料の取り扱いについてお尋ねいたします.開放性病巣から検査材料を採取する場合,化膿巣をイソジンで消毒し,滅菌ガーゼをいったんその部位に当て,そのガーゼを検査材料として使用することは,問題ないでしょうか.やはり,化膿巣の周囲だけを消毒して,化膿巣は消毒しないほうがよいでしょうか.

Q 精液検査で血液の微小な塊

著者: 稲垣清剛 ,   H生

ページ範囲:P.403 - P.404

 精液検査において,たまに血液の微小な塊を見つけることがありますが,これはどのように解釈したらよいのでしょうか.ちなみに,尿潜血用の試験紙では「+1」でした.正常人でも赤血球が見られること(潜血反応陽性)があるのでしょうか.

Q M-蛋白血症の血中クレアチニンか測定できないのはなぜか

著者: 真々田賢司 ,   大澤進 ,   Y生

ページ範囲:P.404 - P.406

 M-蛋白血症の人の血中クレアチニンが,特に除蛋白を行わないJaffé法(直接法)で測定できない理由についてお教えください.

ワンポイントアドバイス

生理検査…患者への対応のコツ—(4)医療事故への対策

著者: 澤﨑憲夫

ページ範囲:P.346 - P.346

 生理検査での患者対応のコツについて種々述べてきましたが,生理検査は患者を直接検査する検査であるため,医療事故につながる可能性があります.そこで今回は,事故を起こさせないようにするための対策や対応策について述べます.
 問題のある検査は,患者の身体に負荷のかかる肺機能検査やマスター2階段心電図検査など簡単で手軽な検査で通常よく行われている検査です.肺機能検査では,患者さんが努力しすぎて発作が誘発されたり,酸欠状態になったりした場合の対応や処置について考えておかなければなりません.また負荷心電図検査では,階段での転倒や発作などに気をつけていなければなりません.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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