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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術19巻13号

1991年12月発行

雑誌目次

病気のはなし

壊死性リンパ節炎

著者: 浅野重之

ページ範囲:P.1096 - P.1101

サマリー
 本症は,若年女子に罹患しやすく,発熱,頸部リンパ節腫脹および白血球減少を特徴とする.末梢血液リンパ球CD4:CD8比の低値,血清GOT,GPT,LDH,CRPや赤沈などが異常値を示し,ウイルス抗体価の上昇例もみられる.病巣には好中球がみられず,変性リンパ球を貪食したマクロファージ,組織球および大型芽球様細胞が混在して認められる.免疫組織学的には,活動期にCD8細胞がCD4細胞に比し優位を占め,回復するにつれCD4綱胞が増加してくる.
 病因はいまだ不明であるが,ウイルス,トキソプラズマなどが挙げられる,鑑別疾患には悪性リンパ腫,伝染性単核球症,SLE,エルシニア症,トキソプラズマ症などがあるが,諸検査により本症は独立疾患であることが明白である.

検査法の基礎

HBs抗原サブタイプ

著者: 小林万利子

ページ範囲:P.1103 - P.1107

サマリー
 HBs抗原サブタイプは,HBs抗原粒子上の共通抗原Re,aおよび抗原決定基であるd,y,w,rのいわゆるmutually exclusiveな関係から,基本的にはadr,adw,ayr,aywに分類されている1,2).このHBs抗原サブタイプにより世界の民族起源,民族移動などのエコロジーが考えられるほかに感染経路が推察されていたが,近年ELISA法による検出感度が向上し,adwr,adyrなどといった従来の4種以外のサブタイプも存在することが判明し,e抗原陰性化率および臨床学的に重要な意味を持つこととなった.今回は,この臨床的意義につきまとめてみた.

超音波ドプラ法

著者: 永江学

ページ範囲:P.1108 - P.1112

サマリー
 超音波ドプラ法は,日本で創始された方法であり,またカラードプラ装置も世界に先駆けて日本で開発された装置である.
 現在ドプラ検査の主流は循環器領域であるが,今後はその他の領域においてもルーチン検査として行われるようになってくる検査である.そのためには原理を理解することが必要である.今回は原理および各領域におけるドプラ法の現状について報告する.

技術講座 生化学

血中ケトン体の測定

著者: 平野哲夫

ページ範囲:P.1113 - P.1117

サマリー
 血中ケトン体測定は主に糖尿病を中心とした検査として知られている.近年,動脈血中のケトン体比が肝機能診断に応用されるようになってきた.この動脈血中ケトン体比は肝のミトコンドリアの機能を反映することが知られており,糖尿病診断におけるケトン体測定と結果の解釈が異なる.ここでは臨床目的に応じたケトン体測定について,検査室サイドで知っておくと役に立つ事柄や注意点について整理した.

免疫

抗糸粒体抗体

著者: 野口英郷 ,   楠悦子 ,   水越和則

ページ範囲:P.1119 - P.1126

サマリー
 間接蛍光抗体法(IFA)で検出される抗糸粒体抗体(AMA)は原発性胆汁性肝硬変(PBC)で高頻度にその血清中に検出され,しかも高力価を示す症例が多く,PBCでは診断的役割を果たす.その他にも特発性肝硬変,慢性活動性肝炎,自己免疫性肝炎などでAMAは検出されることがある.この顕在性のPBCは症候性PBC(s-PBC)ともいわれる.また,AMAは健常人でもごくまれには検出される.さらに,AMA検索の普及につれて自覚症状を欠く無症候性PBC(a-PBC)の存在が明らかになった.それゆえ,AMAの検索はPBC患者の早期発見にも大いに寄与している.
 AMAには亜型が存在し,とりわけAMA-M2はPBCに特異性が高い.さらに免疫転写法(IB)によれば,AMA-M9はM2をしのぐ早期PBCの診断マーカーといえる.現在の検査上,ルーチン化しているのはM2だけである.

微生物

リステリア菌の検査法

著者: 寺尾通徳

ページ範囲:P.1127 - P.1131

サマリー
 近年,ヨーロッパ,北米などの諸外国では食品を介して大規模なヒトのリステリア症(listeriosis)の集団発生が認められ,foodborne infection(食品媒介性感染)として注目されている.
 本稿ではリステリア菌の検査法の要点およびわが国におけるヒトリステリア症の概要について述べた.

一般

胸水・腹水中の細胞の見かた

著者: 稲垣清剛

ページ範囲:P.1132 - P.1140

サマリー
 胸・腹水中の細胞同定はその液が滲出性か濾出性,あるいは悪性腫瘍が関係しているのかを知るうえで欠くことのできない検査である.標本を作るうえでの検体処理は採取後速やかに行うことが大切で,性状がバラエティーに富む胸・腹水では塗抹方法もなおざりにできない.染色方法はメイ-ギムザ染色かライト-ギムザ染色が最も適している.出現細胞の中には類似の形態を示すものもあり,その鑑別には注意する必要がある.特に悪性細胞の出現率は高く,良性細胞との分別を的確にしなければならない.また,一般検査では悪性細胞は異型細胞として報告することが望ましく,一方では異型細胞は可能な限り悪性細胞のみにするよう心がけることが重要である.

管理

病院臨床検査室におけるTQCの手法

著者: 三村幸一 ,   松岡瑛

ページ範囲:P.1141 - P.1145

サマリー
 全国の検体検査について,病院の臨床検査室と衛生検査所とが量的に二分しているといわれるが,衛生検査は昭和61年4月に改正された「臨床検査技師・衛生検査技師等に関する法律」の省令の適用を受け,行政面から検査精度の確保がなされている.
 一方,病院の臨床検査室における精度管理は,それぞれの施設に任されているが,コントロールサーベイの結果から施設間差が問題になっている.したがって各施設がTQCを基盤とした内部精度管理を充実させることによってその改善を図る必要がある.そこで本稿では,TQCを具現化する際の手法を総論的に述べる.

マスターしよう検査技術

急速凍結・ディープエッチング法

著者: 泉山七生貴

ページ範囲:P.1149 - P.1155

はじめに
 急速凍結・ディープエッチング法は,なんら化学処理を加えずに組織や細胞の超微形態を観察するために開発された急速凍結割断法である1).凍結という言葉から迅速病理診断法である凍結切片法を連想するが,それとは目的を異にする.また,先に開発された同様な凍結割断法であるフリーズフラクチャー法は,生体膜の疎水性内面の研究に大きな役割を果たしてきた.このディープエッチング法においては,通常の超薄切片法やネガティブ染色法による電顕観察では不明であった組織,細胞内の小器官や細胞骨格などの高分子構造の超微形態が三次元的に次々と明らかにされつつある2〜5).病理診断など臨床への応用はまだほとんどなされていないが,データの蓄積や方法の改良が進めば,その迅速性を生かし分子生物学的な臨床診断に日常的に用いられるときがくるであろう.

検査ファイル

項目●抗ds-DNA抗体と抗ss-DNA抗体

著者: 高野愼

ページ範囲:P.1156 - P.1158

 抗DNA抗体は二本鎖DNA(ds-DNA)に対する抗体と,一本鎖DNA(ss-DNA)に対する抗体に分けられるが,抗ds-DNA抗体の大多数はds-DNA,ss-DNAいずれとも反応する.抗ds-DNA抗体はDNAの高次構造やデオキシリボース・リン酸骨格部分を認識し,抗ss-DNA抗体はDNA塩基配列を認識しているといわれている1).しかし抗DNA抗体には多様な交差反応性が知られており,本抗体の厳密な抗原認識部位に関してはいまだ不明な点が多い.
 抗DNA抗体の測定法には抗ds-DNA抗体のみの検出を目的に開発された方法と,ds-DNA,ss-DNAをそれぞれ抗原として用いることにより抗ds-DNA抗体,抗ss-DNA抗体を測定する方法がある.多数の検査法があるが,主なものでは前者にはCrithidia lucilliaeを用いた蛍光抗体法が2),また後者には硫酸アンモニウム(硫安)沈降法(Farr法),固相酵素免疫測定法(ELISA),受身血球凝集反応(PHA)などがある.抗ds-DNA抗体を測定する際には一本鎖部分を含まないds-DNAを抗原として用いることが重要である.このds-DNA調整はss-DNAに特異的なS1ヌクレアーゼ処理によりds-DNA中のss-DNA部分を削除した後,BNDC(benzonylated naphthoylated DEAE)カラムクロマトグラフィーにより行われることが多い.

項目●膵の描出法

著者: 丹生谷徹

ページ範囲:P.1159 - P.1161

はじめに
 超音波断層法は軟部組織の描出に優れているが,膵は消化管の背側にあり,その解剖学的位置関係から描出の困難な臓器のひとつである.したがって術者の走査技術によっては診断に値する明瞭な画像が得られない場合がある.
 ここでは超音波断層法による膵描出の走査手技について述べる.

用語●biological response modiflers(BRM)

著者: 曽根三郎

ページ範囲:P.1162 - P.1163

[1]BRMとは何か
 腫瘍免疫学研究の進展で,生体内での癌抵抗性機構(図)の詳細が明らかになるにつれ,その強化を図ることによる制癌の試みがなされるようなった1)
 1970年代の初め,結核菌製剤を用いての悪性腫瘍治療が有効であるとの報告がなされて,その後,種々の細菌製剤ならびに植物性製剤,さらに合成性化学物質の開発へと進展し,癌に対する免疫療法あるいは免疫刺激療法の名のもとに,臨床効果が検討された.免疫療法の作用には宿主の抗癌エフェクター機構の強化と担癌宿主内で作動している免疫抑制機構の解除が中心であったが,それらの治療による延命効果は,当初期待したほどでないことが判明した.一方,癌の進展および退縮には癌抵抗性を担う免疫機構だけでなく,生体内の他のいろいろな細胞性ならびに液性因子が複雑に関与していることが明らかにされた.そこで,1983年に米国BRM小委員会により,宿主介在性の癌治療を免疫療法剤と限定せず,宿主の癌細胞に対する生物学的応答力を修飾させることによって,癌と宿主間の関係を変え治療的利益をもたらすような薬物または試みをbiological response modifiers(BRM)と定義した2)

用語●picture archiving and communication system(PACS)

著者: 工藤俊彦

ページ範囲:P.1164 - P.1165

[1]概念
 近年,医学・医療と医用工学技術の発達に伴い医療施設において発生する医用画像の数は膨大になっている.これらの医用画像はX線フィルム,スチール写真,VTR等々,さまざまな媒体に記録・保存されている.これらの膨大な医用画像をどのように保管するか,医療施設にとって深刻な問題となっている.また画像の検索が非常に困難となっており,実質的に紛失に等しい状態になっている.大量に発生する画像を保管管理し,効率的に検索するシステムとして,picture archiving and communication system(PACS)の概念が提唱された.
 PACSとは,院内に高速光ループLANなどによるネットワークを構築し,画像を院内各所にオンラインで迅速に伝送するシステムである.画像情報はディジタル情報として扱われ,画像の診断はCRTで行われる.また画像情報を光ディスクなどの磁気媒体に保管管理することにより保管スペースが削減され,貸し出しによる画像の散逸,紛失が防止される.画像情報は電算機によって管理され,検索は迅速に行われる.

トピックス

医療におけるテクノロジー・アセスメント

著者: 池田俊也 ,   池上直己

ページ範囲:P.1177 - P.1178

はじめに
 近年の医療技術の進歩はめざましく,毎年,数多くの新技術が開発され,われわれ医療従事者に紹介されてきている.臨床検査の領域においても,最新の手法,機器が次々と導入されている.そうした新技術が既存のものに比べて,より有効,正確,迅速,簡便,非侵襲的,そして安価といった利点ばかりであるならば申し分ないが,これらの目標は相反する場合がしばしばある.鳴り物入りで登場した新技術が種々の問題点のために普及するには至らなかったり,あるいは普及したものの医療費高騰の要因として批判の的になっている場合もある.それどころか,後になってかえって有害であることが明らかになったものも知られている.そのような状況の中で,開発されたばかりの新技術をその普及前に事前評価すること,あるいはすでに普及し定着している技術の再評価を行うことの必要性が認識されてきている.
 医療におけるテクノロジー・アセスメント(medical technology assessment;MTA)は,こうした必要性に応えるための手法である.すなわち,医療技術をその安全性や有効性などの医学的視点はもとより,経済的,社会的側面などから多角的,総合的,包括的に評価する行為であり,その対象は,最新の検査技術はもちろん,医療従事者により用いられる手技,医薬品,機器,方法および制度のすべてに及ぶ1〜4)

ヒトT細胞白血病ウイルスの電顕観察

著者: 大朏祐治

ページ範囲:P.1178 - P.1180

 現在までに,ヒト腫瘍との因果関係が明らかにされている,あるいは明らかにされつつあるウイルスとしては,成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia;ATL)におけるヒトT細胞白血病ウイルス(human T-lymphotropic virus type Ⅰ;HTLV-Ⅰ),肝癌とB型・C型肝炎ウイルス,バーキットリンパ腫のEpstein-Barrウイルス,子宮頸癌におけるヒト乳頭腫ウイルスの4つが挙げられる.本稿では,ATLを惹起するHTLV-Ⅰの微細構造について現在までに得られている知見について述べる.
 HTLV-Ⅰは1980年米国1)と日本2)で相前後して発見されたヒト由来のRNA型ウイルスで,前者は菌状息肉症(mycosis fungoides),後者はATLから分離されたものであり,両者は形態的にも免疫学的にも,分子生物学的にも同一のものとされ,現在では,HTLV-Ⅰと呼称されている.従来,マウス・ラット・モルモット・ネコ・ブタ・サルなどさまざまな動物由来の白血病ウイルスが知られていたが,これらはいずれもC型ウイルス粒子と呼ばれるウイルス被膜と中心の核様体を有する基本型を示している.HTLV-Ⅰが重要な意味を持つのは,形態的にはこれら動物由来のC型粒子に属するものであったからである.

Chlamydia trachomatisの母子感染

著者: 中田博一

ページ範囲:P.1180 - P.1182

1.クラミジアについて
 Chlamydiaは細胞がないと生活できない偏性細胞寄生菌である.かつてはウイルスの一種と考えられていたが,現在はライフサイクルがウイルスとは本質的に異なるため1),グラム陰性球菌に分類されている.Chlamydia属は,性感染,母子感染の原因菌となるChlamydia trachomatis,オーム病の原因菌であるChlamydia psittaci,1990年新しい種として承認されたヒトからヒトへ伝播し小児・成人に気道感染症をきたすChlamydia pneumoniae(TWAR株)の3つの種からなる.このうち今回は,Chlamydia trachomatisによる母子感染について解説する.

ラボクイズ

[問題]細胞診

ページ範囲:P.1146 - P.1146

11月号の解答と解説

ページ範囲:P.1147 - P.1147

検査データを考える

血小板減少

著者: 垣下榮三

ページ範囲:P.1166 - P.1170

はじめに
 止血機構には血管,血小板,凝固因子,線溶系因子の4つの要因が関係し,すべて健全に作動して初めて止血機構は保持されている.特に血小板は止血の初期反応に中心的役割を演じているため,血小板の減少や機能障害では一次止血が障害されて出血時間の延長をみるとともに,臨床的には皮膚,粘膜下出血斑が特徴的となる.いずれにしても出血性素因をみたときまずスクリーニング検査で行うものの1つが,血小板数を測定することであり出血時間をみることである.ここでは血小板数の減少をみたときの解析について代表的な例を挙げて解説する.
 血小板数の正常範囲は15万〜40万/μlで,その減少を認めたときまず測定の問題を除かなければならない,次いでその病態として血小板の産生低下,破壊の亢進,体内での分布異常または喪失によりもたらされたものか,またこれらが先天性かを検討していく.この血小板減少症をみたときの解析の一例を末梢血と骨髄の所見から行う方法を図1に示す1)

生体のメカニズム・12

悪性腫瘍と免疫機構

著者: 浅川英男 ,   山口稽子

ページ範囲:P.1171 - P.1173

はじめに
 極めてまれではあるが,癌の自然治癒が報告されたことが発端となって,生体には癌に対して生体防御機構があるのではないかと考えられるようになった.しかし癌細胞といえども,もとは1個の正常細胞から発生したものであって,なんらかのきっかけで癌に変わる.生体は,もし癌細胞を異物と認めれば排除に乗り出し,正常に戻ろうとする働きを持っている.その正常に戻ろうとする働きは近年生体の持つ免疫能に基づくものとして考えられてきている.以下それらの点について述べてみたい.

講座 英語論文を読む・12

身体活動とインスリン非依存性糖尿病の発症頻度の減少

著者: 弘田明成

ページ範囲:P.1174 - P.1176

 20歳以上のアメリカ人の1千万人から1千2百万人がインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)にかかっている.この病気はインスリン抵抗性の増大とインスリンの分泌障害が特徴であり,さらに冠動脈性心疾患,末梢血管障害,腎不全および失明などの諸疾患の危険性を増大させる複雑な病態である.NIDDMの最も強い惹起因子は肥満と糖尿病の家族歴である.
 適切な食事療法と減量とともに,運動はNIDDMの管理に有効であると提唱されている.身体活動が糖尿病の予防に有効かどうかは知られていないが,いくつかの間接的な証拠は,身体活動の増加には予防的効果があるという考えを支持している.第一に,身体的に活動的な社会では非活動的な社会よりNIDDMが低率であり,そして,社会が身体的に非活動的になればなるほどNIDDMの発生頻度が増加する.第二に,身体活動により,インスリンに対する感受性が改善され,また,定期的に持続性運動をすることにより体重減少が促進され,耐糖能が改善される.第三に,さまざまな横断的研究において,身体活動の増加がNIDDMの発症率と反比例していることを示している.身体活動とNIDDMの発症との関係を理解することをより複雑にしているのは,高いレベルの身体活動は往々にしてとりわけ肥満といったような糖尿病のさまざまな危険因子の減少を伴っていることである.

明日の検査技師に望む

望ましい検査技師像

著者: 伊藤忠一

ページ範囲:P.1102 - P.1102

 本欄も回を重ね,望まれる明日の検査技師に対する抽象的イメージについては言い尽くされた感じがする.そこでやや低次元との謗りを免れえないかもしれないが,望まれる検査技師の二,三の具体的イメージについて私見を述べさせていただくことにする.もちろん,検査技師としての基本的知識と技術のうえに立ってのことであることはいうまでもない.

けんさアラカルト

国立大学における病理解剖

著者: 田口孝爾

ページ範囲:P.1118 - P.1118

 病理解剖(剖検)が臓器病理学の発展に中心的役割を演じ,それが近代病理学の出発点となった歴史的事実からみても,剖検は単に病理学のみならず,臨床医学の教育にとっても必須であることは今後も続くであろう.
 また,剖検が,全臓器の病理学的検索を通じて医療を反省し,明日の診療の向上に役だてるという重責を担っている以上,大学と一般病院とで,剖検のもっている重要性や意義はまったく同じであろうし,剖検の目的も,方法も大同小異であろう.ただ,大学が一般病院と異なる点は,教育機関であるために医学教育の一環としての病理学を学ぶ学生をはじめ,病理医の育成と同時に臨床医の養成に剖検を役だたせねばならないという点である.

けんさ質問箱

Q ウエルシュ菌の病原性と検査方法

著者: 安達桂子 ,   N.T.

ページ範囲:P.1183 - P.1184

 2年前,ウエルシュ菌による食中毒を起こした患者の検体(便)から,現在もまだウエルシュ菌が検出されています.この菌の病原性と検査方法をお教えください.

Q 脳死判定の脳波判読の手順とポイント

著者: 石井みゆき ,   T.G.

ページ範囲:P.1184 - P.1187

 先日,医師から脳死判定のための脳波検査の依頼があり,判読に際して協力を求められました.脳死判定の際の脳波の判読の手順とポイント,適切なモンタージュ,病棟で脳波をとる場合の注意点などについてお教えください.なお,先日は図の8素子を用い,基準電極と縦の双極でとりました.電極は皿電極でした.

Q 白血球数測定における精度管理

著者: 山田輝雄 ,   T.H.

ページ範囲:P.1187 - P.1189

 白血球数の測定(Sysmex,東亜医用電子)において,コントロール試料は置かず,前日の検体を翌日測定して,これをコントロール試料としています.また,外注の検査が多いのですが,月に1回くらい,外注に対する検体を院内で測定してチェックするようにしています.精度管理はその程度でよいのでしょうか.

今月の表紙

肝腺腫様過形成内での肝内胆管

著者: 中沼安二

ページ範囲:P.1148 - P.1148

 肝内胆管は肝臓を構成する組織成分の1つであり,門脈,動脈とともにグリソン鞘(以下,グ鞘)内に見いだされる.肝細胞で産生された胆汁を肝外胆管(総肝管〜総胆管)へと排泄する導管としての働きが最も重要である.肝内胆管は肝門部を中心に扇状に肝内へと分布し,太さに応じ,肝内大型胆管(肝門部結合織内に存在し,肉眼的に同定が可能で,左右肝管から3次分枝までを含む),隔壁胆管(肝内大型胆管の分枝で大体100μmまでの太さの胆管),小葉間胆管(100μm以下の太さの胆管),細胆管(肝実質に接して存在し,病的肝で著しく増生する)に分類される.隔壁胆管,小葉間胆管と細胆管は顕微鏡下で初めて同定される.肝内胆管系には,解剖学的区分やレベルに対応して,腫瘍を含む多数の固有の疾患あるいは病変が見いだされる.
 肝内胆管は,肝動脈枝や門脈枝に伴走して肝内で分布しているので,胆管系の固有の病変以外に,他の肝疾患(脈管性,肝細胞性,腫瘍性)でも肝内胆管系に種々の病変が波及することが多く,種々の病変が肝内胆管にみられる.これらの中で,いくつかの肝腫瘤性病変は特徴的な血行支配を受けており,これに関連して胆管の分布も異なっている.つまり,既存の胆管成分がみられるか否か,あるいはどのような形態の胆管成分が存在するかが,病変の成り立ちの解析や病理診断に大いに役立つ.また腫瘍内での胆汁産生と排泄がどのように行われているのかに関しても興味ある点である.

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「検査と技術」第19巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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