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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術19巻2号

1991年02月発行

雑誌目次

病気のはなし

先天性心疾患

著者: 門間和夫

ページ範囲:P.102 - P.108

サマリー
 先天性心疾患は出生100人に1人生じる.先天性心疾患は心臓の奇形であり,自然に治る軽症から,生後間もなく死亡する重症まで病状はさまざまである.主な病型は心室中隔欠損,心房中隔欠損,動脈管開存,肺動脈狭窄,ファロー四徴症,大血管転位症などである.先天性疾患は心臓の雑音,チアノーゼ,呼吸困難などで発見される.検査では胸部X線写真,心電図,心エコー図,心臓カテーテル検査,心臓血管造影法が重要である.

検査法の基礎

フェロカイネティクス

著者: 溝口秀昭

ページ範囲:P.109 - P.114

サマリー
 フェロカイネティクスは,身体全体の赤血球産生能を調べる検査である.つまり,放射性鉄(59Fe)を静注し,血漿から消失する速さを測定する.その速さは骨髄の赤芽球の総量に比例するので,全造血を測定することになる.その後,59Feは網赤血球中のヘモグロビンとして血中に出て来るので,その程度を測定する.それは有効造血を測定することになる.このうち特に意義のあるのは,全造血の測定が可能となる点である.したがって,本検査は主に骨髄での赤血球産生が低下した再生不良性貧血や骨髄異形成症候群の診断には欠かすべからざる検査となる.さらに体外計測を加えれば,骨髄線維症の髄外造血の診断にも有用となる.

細菌分類学の基礎(1)

著者: 藪内英子

ページ範囲:P.115 - P.118

サマリー
 細菌分類学は単なる分類(classification)の学問であると考えられがちであるが,実際には最新の科学情報と手技を取り入れた複数の分野から成る.実用面では菌名の変更を煩わしく思ったり,感染症の診断に患者血清の抗体価上昇の有無を過大に評価する傾向もある.学会発表や論文での菌名の誤り,不当な省略名,命名上の基準株と単なる標準株との混同など,医学分野で細菌を扱う人が細菌分類学の基礎になじんでいないと痛感させられることがしばしばある,分離菌株の同定は臨床細菌検査の業務の中で,薬剤感受性試験と並んで必須の重要事である.この同定作業を完遂しその成果を発表するとき,細菌分類学の基礎知識の有無がその労作の評価を左右することさえある.分類学と検査法とは無縁であると思うのは誤りである.

技術講座 生化学

イオン化カルシウムの測定

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.119 - P.124

サマリー
 血液中の電解質はいずれもイオンの状態で生理活性を示す.このうち臨床的に最も注目されているのが,イオン化カルシウム(Ca2+)である.この濃度を非希釈方式のイオン電極法で容易に測定できるようになった.しかし目的に合ったデータを出すためには,血液ガスの測定と同じ扱いで採血し,試料を取り扱う必要がある.一方,酸塩基平衡の障害を伴わない緊急検査以外では,好気的に取り扱った試料でも同時に測定したpHから,pH補正イオン化カルシウム値を算出することでデータの活用が図られる.試料の取り扱いとデータへの影響因子を理解することにより大いに臨床に貢献できる.

免疫

クリオグロブリンとクリオフィブリノーゲンの臨床検査

著者: 尾形正裕 ,   𠮷田浩

ページ範囲:P.125 - P.129

サマリー
 寒冷沈殿性を示す血漿蛋白のうち,寒冷暴露時に起こる生体の異常反応を呈する背景の一つとして,クリオグロブリンが血中に検出される際の臨床的意義,その臨床検査の流れと注意点について詳述した.クリオフィブリノーゲンについては,必ずしも臨床検査としての明確な位置づけがなされていない現状を踏まえて,凝固亢進状態を把握するマーカーの一つである可溶性フィブリン単体複合体を,その寒冷沈殿性から検出するものとして概説した.

微生物

ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)感染のDNA診断

著者: 高田道夫 ,   鈴木正明

ページ範囲:P.131 - P.136

サマリー
 ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)は分離培養ができないため,血清型(serotype)としてではなく遺伝子型(genotype)として分類されている.すなわち,HPVの同定は,検体からウイルス遺伝子をクローニングした後に,分子生物学的技法により既知の遺伝子型と比較するのが原理となっている.HPVは少なくとも現在まで63型に分類されている.このウイルスのDNA診断に使われる手法は①Southern blot法,②dot blot法,③in situ hybridization法,④PCR法が生なものである.①はHPVの型別の際に用いる.感度,特異性はよいが,測定操作が煩雑で操作に長時間を要する.②は測定操作が簡易であり,操作時間も短く,多量検体の処理が可能であるが,ウイルス属内の特異性を判定するのが困難である.③は検索組織像を損なうことなく,感染細胞の形態的特徴,さらに細胞組織中でのDNAの局在を知ることができる.④はDNA断片がhybridizationで検出できないくらい微量しか含まれていないような場合でも,検出可能なレベルまで増幅できるが,コンタミネーションに弱い欠点もある.

糞便を試料としない寄生虫検査

著者: 立花保行 ,   坂本信

ページ範囲:P.137 - P.141

サマリー
 一般に寄生虫というと,腸管に寄生する寄生虫を考えるぐらいに,腸管に寄生する寄生虫の種類は多い.
 しかし,寄生虫の中には種々の組織,体腔,体液を寄生部位とするものも多い.後者の寄生虫の感染による寄生虫病の診断には,まず下に記すような種々の検体について,虫体を検出する努力をしなければならない.①血液,②胆汁・十二指腸液,③喀痰,④気管支洗浄液,⑤腟内分泌液,⑥胃粘膜,⑦直腸粘膜,⑧肝臓内膿瘍液,⑨皮膚・皮下組織,⑩脳脊髄液,⑪筋組織.
 抗原が入手できれば,通常の検査室ででも実施可能な,免疫診断の一つである寒天ゲル内沈降反応の術式についても述べた.

生理

循環器領域における超音波検査の進めかた—[2]先天性心疾患

著者: 重田裕司

ページ範囲:P.145 - P.149

サマリー
 先天性心疾患は単純な心内奇形から複雑な心内奇形まで多彩であるが,解剖学的な原則に忠実であれば,後天的な心疾患よりも病態を容易に判断することができる.たとえ複雑な心内奇形であっても,そのほとんどは心房中隔と心室中隔の異常の組み合わせであり,あとは大血管とその接合部の異常である.心断層エコー図はそれら解剖学的異常を簡単かつ明瞭に種々の方向から観察・評価することができる.本稿では,先天性心疾患の超音波検査を実施するに当たり,その基本的な考えかた—①心臓原器,②心臓各部の形態的な特徴,③心室の負荷,④心室中隔の解剖と異常について,心断層エコー図の特徴的所見を基に記載した.

マスターしよう検査技術

particle smear法骨髄穿刺標本作製法

著者: 原田契一

ページ範囲:P.153 - P.158

 はじめに
 最近,米国に渡航することが容易になったけれども,日本の医師や検査技師で米国の病院の臨床検査室を見学される方はめったにないのではないだろうか.読者がもしその機会を得られるならば,おそらく最初に気づかれることは,骨髄標本の違いであろう.そして米国式の標本がなぜ日本で普及していないのかと不思議に思われるに違いない.答えは簡単であって,日本の検査の雑誌にそれが紹介されたことがなかったからである.このたび『検査と技術』で米国式の骨髄標本の作製法が初めて紹介されることには,大きな意義があると思う.

検査ファイル

項目●ハプトグロビン

著者: 佐藤祐二

ページ範囲:P.162 - P.163

 ハプトグロビン(haptoglobin;Hp)は1938年Polonovskiらによって発見された糖蛋白であり,血清電気泳動ではα2分画に含まれ,その遺伝子座は16番染色体長腕上に存在する.Hpは主に肝実質細胞で生合成されるが,細網内皮系組織(脾,リンパ節,胸腺)でも生合成される.
 Hpは血中で遊離ヘモグロビン(Hb)と等モルで結合してHp-Hb複合体を形成し,細網内皮系で短時間に処理されるため,Hpの測定は血中に出現した遊離Hbの指標となり,各種溶血性貧血の診断に利用される(赤血球10mlの溶血により血中Hp濃度は約100mg/dl減少する).遊離Hbは血中で分解を受けて容易に尿中に出現し,尿細管上皮細胞に再吸収され尿細管障害の原因となる.Hpは遊離Hbと高分子の複合体を形成することにより遊離Hbの尿中排泄を阻止し,尿細管障害および鉄の尿中への喪失を防止している.

項目●尿中ヘモジデリン

著者: 入江章子

ページ範囲:P.164 - P.165

はじめに
 ヘモジデリンは生体内色素の一つで,ヘモグロビンに由来する鉄を含む黄褐色の誘導体である.ヘモジデリンは酸には溶けるが,アルカリには不溶で,鉄と蛋白以外に多糖体も含んでいることが明らかになり,過ヨウ素酸-シッフ(periodic acid Schiff;PAS)反応も陽性である.ヘモジデリンの鉄含有量はフェリチンよりも高く,37%にも達するといわれている.フェリチン蛋白質の殻が一部消化され重合したものと考えられるが,物理化学的な意味では均一な物質ではない.
 ここでは,尿中ヘモジデリンの病態を把握するために,赤血球の崩壊過程と遊離したヘモグロビンの代謝,そして腎におけるヘモグロビン処理とヘモジデリンの生成を簡単に述べ,尿中ヘモジデリンの検出法を紹介する.

機器●BACTEC 460 TBシステム

著者: 大川三郎 ,   宮坂強

ページ範囲:P.166 - P.167

はじめに
 1969年,DelandとWagnerは,結核菌が培地中の14Cをラベルした基質を脱カルボキシル化する際,遊離する14CO2を測定して細菌の代謝を自動検出する技術を開発した1).この技術は血液培養,細菌の発育に対する抗生物質の影響の測定,基質の代謝能からNeisseria sp. の同定,アミノグリコシド系抗生物質の血清中濃度の分析試験にも応用された.さらにCummingsらは1975年に,同じ原理が結核菌の検出にも応用できることを報告した2).Middlebrookはこの技術をさらに改良して,抗酸菌の発育に特異的な14Cをラベルした基質を含む7H12培地を紹介した.彼はこのラジオメトリックの培地に使うと,臨床検体からの抗酸菌の初代分離に要する時間を大幅に短縮できることを報告している3)
 これらの研究を基に抗酸菌検査の自動化機器として,BACTEC 460TBシステムがBecton-Dickinsonによって開発された.欧米において広く普及し,抗酸菌症の迅速診断に成果を挙げているのが現状である.そこで今回,BACTEC 460TBシステム,特に検査法を中心に概略を紹介する.

用語●CRM(認証標準物質)

著者: 川瀬晃

ページ範囲:P.168 - P.169

 測定とは「基準として用いる量と比較して,目的とする量を数値または符号を用いて表す行為である」と定義されている.
 化学分析における測定の場合,重量分析では目的成分を安定な単体または一定の組成をもつ安定な化合物として分離し,その質量を測定することによって試料の組成を求める方法である.ここで,基準となるものは分銅である.質量はその基準となる量の源をたどれば,キログラム原器に到達する.これを「キログラム原器にトレーサブルである」という.したがって,これから導かれる値は国際的に整合のとれた,信頼できる値として認められる.

トピックス

granulocyte-colony stimulating factor(G-CSF)

著者: 岡部哲郎

ページ範囲:P.172 - P.173

 赤血球,白血球,血小板などの血液細胞は,多能性造血幹細胞と呼ばれる共通の細胞から増殖分化を経て生ずる.この増殖分化の過程はin vitroにおいてシャーレ内で再現できる.骨髄の細胞を寒天培地などの半固形培地で培養することにより,1個の幹細胞が分裂増殖して種々の血球系細胞のコロニーを形成する.コロニーの形成にはそれぞれの血球系に対応する特異的な増殖因子が必要とされる.

HTLV-I関連疾患/コラーゲン角膜シールド

著者: 山口一成 ,   西村要子 ,   馬嶋慶直 ,   広川仁則

ページ範囲:P.173 - P.175

 ヒトTリンパ好性ウイルスⅠ型(HTLV-I)が1980年に成人T細胞白血病(ATL)患者から分離され,その原因ウイルスと認知されたことは周知の事実であろう.その後,HTLV-IがATLのみならず,ある種の神経疾患(HAM/TSP)にも深くかかわっていることが明らかになり,HTLV-Iキャリアに起こる種々の病態にも広く目が向けられるようになった.
 われわれはすでに慢性肺疾患,肺日和見感染,難治性皮膚真菌症,他臓器の悪性腫瘍,M蛋白血症,腎不全,糞線虫症などにHTLV-I感染の頻度が有意に高いことを報告してきた.その他,HAM/TSP以外に,最近ではHTLV-I関連気管支肺症(HAB),HTLV-I関連関節症などのHTLV-I関連疾患の提唱がなされている.疾患概念が一定のレベルまで確立したATL,HAM/TSPを除くHTLV-Iキャリアにみられる種々の病態をHTLV-I関連疾患と呼称し,解明が進んでいるところである.

LH,FSH,PRLの新国際標準品

著者: 青野敏博

ページ範囲:P.175 - P.175

 血中の黄体化ホルモン(luteinizing hormone;LH)と卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone;FSH)の測定は排卵障害の診断上,不可欠である.LHとFSHのRIAの標準品としては長らく閉経後婦人尿性ゴナドトロピン(2nd IRP-HMG)が用いられてきた.しかし血中のホルモンと尿中のそれは蛋白化学上も一部異なっており,血中ホルモンを測定する際には下垂体性のゴナドトロピンを標準品として用いることが望ましく,事実,諸外国の測定キットはWHOの提供している下垂体性標準品に切り替えがほぼ完了していた.
 わが国のLHおよびFSHの測定キットにつき大きなシェアを持っている第一ラジオアイソトープ研究所では,ラジオイムノアッセイ(RIA)法からイムノラジオメトリック(IRMA)法に替えるのを機会にLHの標準品を1st IRP-LH(68/40)に,FSHの標準品を2ndIRP-HPG(78/549)へといずれもWHOの下垂体性標準品に切り替えた.新キットは1988年7月に発売し,しばらくの移行期間を経て,1989年1月からは新しいキットのみを供給している.

ラボクイズ

[問題]寄生虫

ページ範囲:P.150 - P.150

1月号の解答と解説

ページ範囲:P.151 - P.151

検査データを考える

劇症肝炎の予後と肝機能異常

著者: 関山和彦 ,   与芝真

ページ範囲:P.176 - P.179

劇症肝炎
 劇症肝炎とは,わが国では1981年の第12回犬山シンポジウムにおいて表1に示すように定義され,現在,広く用いられている.国内の発生頻度としては年間100例前後の報告があり,生存率は約20%と予後不良な疾患である.成因はわが国では95%近くまでがウイルス性で,非A非B型が50%以上を占め,それらのほとんどがC型で亜急性型であり,その生存率は10%以下と予後は極めて不良である1)
 当院では過去5年間に30例の劇症肝炎の治療を経験し,既報の強力な人工肝補助療法とインターフェロン療法により20例,67%の高い救命率を得ている.特に最近の2年間では20例中15例,75%もの高い救命率を達成している2,3)

生体のメカニズム・2

T細胞の分化と機能

著者: 伊藤忠一

ページ範囲:P.159 - P.161

はじめに
 T細胞は抗体産生細胞に分化するB細胞とともに免疫応答で主役を演ずる細胞である.したがって,T細胞分化の過程を理解することは,免疫機構の成り立ちを知るうえで基本的に重要であるばかりでなく,免疫不全症,自己免疫疾患あるいはリンパ増殖性疾患などの病態解析にも必須である.
 T細胞はほかの血液細胞と同様,多能造血幹細胞(pluripotential stem cell)に由来する.この幹細胞を産生する臓器は胎生期にあっては卵黄嚢と肝であり,胎生後から生後にあっては脾および骨髄である.この多能造血幹細胞は分化のかなり早い時期に顆粒球系,リンパ球系,赤血球系および巨核球系幹細胞に分かれる.これらのうちリンパ球系幹細胞はさらに2系統に分かれて分化を続ける.すなわち,T細胞へ分化すべくプログラムを内蔵したT系幹細胞(pro T細胞,Tcell progenitor,prothymocyteなどとも呼ばれている)とB系幹細胞の2系統である.T系幹細胞はやがて胸腺に移住し,そこで胸腺基質細胞やそれらの分泌する一連の胸腺ホルモンの影響下で教育を受けて成熟T細胞まで分化を遂げ,リンパ組織など全身に広く配分される.しかし,全身に分布されるTリンパ球の数は総胸腺リンパ球のうちの数%にすぎず,残りはある段階で死滅してしまうらしい.せっかく分化増殖したリンパ球の大部分がなぜ死滅してしまうのか,その生物学的意味はまだ正確にわかっていない.

講座 英語論文を読む・2

Screening for Thyroid Disease

著者: 弘田明成

ページ範囲:P.170 - P.171

 早期診断の戦略(方法)としては,スクリーニングとケースファインディング(患者の掘り起こし)の2通りに分けることができる.スクリーニングでは,病気の初期徴候を見つけるために一般大衆に検査や診察を受けさせるように勧める.甲状腺疾患の疫学調査におけるスクリーニングでは,特定の地理的区域内で抽出した住民を受診させるようにする必要がある.このような調査方法は,疑ってもみなかった疾患の広がりや広範囲スクリーニングの潜在的有用性を明らかにすることができるが,実際上の問題として,決して効率のいいスクリーニングではない.なぜならば,患者に定期検診や多種目スクリーニングを受けさせようとしても,今までに定期検診を避けてきたようなハイリスク患者はおそらく参加しないだろうからである.
 スクリーニングと違ってケースファインディングの場合では,目指す疾患とは関係のない理由で医師を受診した患者を対象にしている.一般には,医師はほかの目的のために採血した検体を甲状腺機能のスクリーニングに用いることができる.ケースファインディングはほかのどの方法よりも人口の多くを網羅することができる.なぜならば,たとえ定期的に治療を受けていない人や,スクリーニングを勧めても参加しないような人たちであっても,たいていの成人はいつかの時点で一度は医師にかかるからである.

明日の検査技師に望む

対立から協調へ

著者: 丹羽正治

ページ範囲:P.130 - P.130

取り囲む光と陰
 すでによくご存じのように,最近の臨床検査の発展はまさに日進月歩で,それが年々と加速されている.この実態は関係学会,講習会,展示や出版物などに反映され,また臨床検査の主要な活動分野である医療の場にも現れ,検査に対する臨床側の需要はますます高度化,多様化されている.さらに検査の対象分野も拡大され,保健・産業医学などの方面にも及んでいる.これらから判断すると,臨床検査の前途は洋々としており,それらの多彩な分野の発展には各種の検査から得られた,鋭敏で客観性,定量性のあるデータが不可欠な要素となっていると理解できる.
 このように臨床検査自体を囲む一般情勢は明るいが,最近,心ある検査技師から,前途に対する危機感を訴えられることがあり,確かにそれは,検査に関係する者が一緒になって乗り越えるべき当面の重大問題と筆者も受け止めている.具体的には,最近の検査技術,特にその自動化の急速な発展で使用機器はいつかブラックボックス化され,それを使っている間にいつか主体性が奪われ,技師としての仕事の楽しみや自信がしだいに喪失され,また現実的な問題として,医療費抑制の流れの下で採算性が追求され,その発想の下で検体検査の外注化がすでに実施され,その傾向がますます増強されることへの不安である.

けんさアラカルト

迅速検出と迅速診断

著者: 本田一陽

ページ範囲:P.142 - P.143

 《迅速診断》は古くは病理(組織)診断の領域で通常の検査スケジュールとは別の緊急検査として扱われ,かつその判定が専門医によって行われるときに使われてきた.最近ではNMR,CTなどの画像診断の分野でも使われている.また《迅速検査》は検体採取,搬送,測定手技,報告など検査過程のすべてを含むシステムとしての迅速性をイメージして使われる.
 臨床診断には病因診断と病態診断があるが,《検出》は前者における病原因子の解析に使われる.例えば体内薬物について,法医学領域では毒物,薬物の検出(致死を目的とする)といい,TDM(therapeutic drugmonitoring)領域では薬物の分析(治療を目的とする)というように使い分けられる.

けんさ質問箱

Q LISS-クームス法の疑陽性について

著者: 山口晃 ,   I.S.

ページ範囲:P.180 - P.181

 LISS-クームス法で主試験,自己対照とも陽性(2+)となり,アルブミン-クームス法では陰性でした.緊急の場合,LISS-クームス法を行っていますが,このような場合,アルブミン-クームス法でやり直しをすると時間がかかります.LISS-クームス法で疑陽性になる原因,またその対策をお教えください.また直接クームス試験陽性における薬剤の関与の機序もお教えください.なお,この患者は不規則性抗体,赤血球解離試験とも陰性でした.

Q 正中神経,尺骨神経の運動神経伝導速度の測定法

著者: 原山尋実 ,   H.Y.

ページ範囲:P.181 - P.183

 手首,肘,肩を挟んで行う正中神経,尺骨神経の運動神経伝導速度の測定法および正常値についてお教えください.神経の走りかたについてもお願いします.

Q Salmonellaの血清型について

著者: 小川祐司 ,   山中喜代治 ,  

ページ範囲:P.183 - P.184

 Salmonellaの分類において「choleraesuisの名称が血清型にも存在することから,種名にentericaが新たに提唱された」(本誌Vol.17,No.13,p.1599)とありますが,これについて詳しくお教えください.

Q β-ラクタマーゼの検査は必ず実施しなければならないのか

著者: 菅野治重 ,   M.I.

ページ範囲:P.184 - P.185

 例えばβ-ラクタマーゼを産生していた場合,すべてのペニシリン系,セフェム系抗菌薬の感受性試験を(-)と報告していいのでしょうか.

今月の表紙

剖検脳のマクロ・モルフォメトリー

著者: 深沢仁

ページ範囲:P.124 - P.124

 近年,磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging;MRI)をはじめ生前の画像診断技術が目覚ましく発達し,神経系の形態学的診断にも大きな変革がもたらされた.しかし,そのことは,剖検脳のマクロの検索が不要になることを意味するものではない.われわれ病理医の検査対象となる脳は,剖検・固定・薄切などの操作によって必然的に生体内とは異なった形になっている.したがって,脳切片そのものについての定量的な記載は,生前の画像診断と病理組織所見とを比較するうえでも極めて重要である.われわれは摘出・固定された脳において,その肉眼所見から,なるべく多くの診断的価値のある情報を得ようとして,種々の試みを行ってきた.例えばここに見られるように,割面上の主な構造物の輪郭線を色分けし,おのおのの長さとその囲む面積のデータから,大脳皮質の体積や表面積を計算で求めることも,その一つである.
 通常,大脳の前額断または水平断で,定間隔(約10mm)の平行割面を作り,写真撮影を行い,各割面上の諸構造の輪郭線を,単純閉曲線の集合として,ディジタイザーを通してコンピューターに入力する.すべての割面で,各曲線の長さとその囲む面積を計算し,台形則とステレオロジーの原理を応用して,立体としての諸量を算出する(脳と神経,38,487〜494,1986).

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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