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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術19巻4号

1991年04月発行

雑誌目次

病気のはなし

大腸癌

著者: 多田正大 ,   清水誠治 ,   大塚弘友 ,   磯彰格 ,   岡村雅子 ,   中澤敦子 ,   川井啓市

ページ範囲:P.310 - P.315

サマリー
 日本人に増加している大腸癌の早期診断法をめぐって,最近の話題は免疫便潜血検査によるスクリーニングであり,画像診断のうえからは電子内視鏡検査と超音波内視鏡検査などの新しい方法の開発であろう.免疫便潜血検査によってDukes Bの段階の大腸癌はほぼ確実にスクリーニングでき,集団検診に応用されつつある.また発見された早期大腸癌は各種の内視鏡的治療法によって非観血的に治療できる.こと大腸癌に関して,医学の進歩はすばらしい恩恵を私たちに与えてくれている.

検査法の基礎

Western blotting法

著者: 西村要子

ページ範囲:P.317 - P.321

サマリー
 Western blottingとは,蛋白質をゲル中にスラブ電気泳動したものをニトロセルロース膜に写し取り(ブロッティング),膜上で抗原抗体反応を起こさせ,染色されて出現したバンドを解析する方法である.近年,種々のウイルス抗体検査が開発され,スクリーニングとして行われているPA法やEIA法での不一致により,判定保留となる場合がある.この確認法としてWestern blotting法が注目されてきた.本稿では,2種のレトロウイルス抗体(抗HTLV-Iおよび抗HIV)についてその特徴,バンドの読みについて述べた.

生体計測に使用するトランスデューサ

著者: 嶋津秀昭

ページ範囲:P.323 - P.328

サマリー
 生体計測に使用されているトランスデューサの中から,圧力計測用トランスデューサとしてストレインゲージ,変位計測用としてポテンショメータ,差動トランス,CdS,ホール素子,温度検出用としてサーミスタ,熱電対などについて解説した.トランスデューサは検出器および変換器としてほとんどすべての計測機器に使用されているが,特に生体計測では測定の原理を十分に理解することが必要である.

技術講座 免疫

ELISA法による抗カルジオリピン抗体の検査法

著者: 川田勉

ページ範囲:P.329 - P.333

サマリー
 抗カルジオリピン抗体やループス型循環抗凝血素は陰性荷電したリン脂質と反応する抗リン脂質抗体であり,これらの抗体を保有する全身性エリテマトーデス患者に習慣性流産,動・静脈血栓症,血小板減少症など特異的な臨床症状が出現することが注目されている.このような臨床症状のある患者は,抗リン脂質抗体症候群と呼ばれており,抗カルジオリピン抗体の測定はこの診断に最も重要な検査である.
 本稿では抗カルジオリピン抗体の国際標準法であるHarrisらの原法と,最近開発されたMELISA法の測定手順を比較し,実際の臨床検体を用いて得られた結果をループス型循環抗凝血素と合わせて示した.

血液

血液寄生虫の検査

著者: 鈴木了司

ページ範囲:P.334 - P.338

サマリー
 血液の検査で形態学的に診断できる寄生虫には,マラリア,トリパノソーマ,フィラリアなどがある.マラリアの検査では,虫体の有無を調べるためには厚層塗抹法を用いるが,慣れないと鑑別しにくいことがある.虫種の同定には薄層塗抹法を用いるが,血液中の原虫数が少ない場合にはかなりの枚数を検査することが必要である.感染赤血球が膨大していると三日熱マラリア原虫,帯状体が検出されたら四日熱マラリア原虫,バナナ型の生殖母体を認めたら熱帯熱マラリア原虫を疑ってよい.熱帯熱マラリアでは重篤な経過の場合が多いので,早急な検査と治療が要求される.

微生物

DNAプローブによる抗酸菌の同定

著者: 阿部千代治

ページ範囲:P.339 - P.343

サマリー
 抗酸菌は増殖の遅い菌で,一連の臨床細菌学的検査に数週間を要する.これまで抗酸菌症の迅速な診断,その後の正確な治療のために,迅速かつ簡便な同定法の早期の開発が望まれていた.近年の分子生物学的手法の発展により,従来の検査法では欠けていたこれらの点が少しずつ解決されるようになってきた.本稿ではMycobacterium tuberculosis complexおよびMycobacterium avium complex特異DNAプローブを用いた患者分離株の鑑別を中心に,抗酸菌のDNAによる同定法について紹介した.

生理

循環器領域における超音波検査の進めかた—[4]心臓弁膜症

著者: 遠田栄一 ,   種村正

ページ範囲:P.345 - P.349

サマリー
 心臓弁膜症の診断における超音波検査の役割は極めて大きい.特にドップラ法の登場で,従来の形態,動態診断に加えて心腔内の血流情報や圧情報も得られるようになったため,冠動脈病変を除外できる弁膜症においては心臓カテーテル検査を省略し,手術を施行しうるほどになってきている.しかし,超音波検査は検者の習熟度によって記録に大きな差が生じ(例えば弁口面積や血流表示範囲など),臨床上しばしば問題となることがある.このため,検者は本法の能力を最大限引き出せるよう基本的な操作や原理,各種手法の得失を理解しておくと同時に,弁膜症に対する知識の習得によりいっそう努力する必要がある.

一般

便潜血反応—精度管理の実際

著者: 中村美枝子 ,   武田勇

ページ範囲:P.351 - P.355

サマリー
 現在,便潜血反応には,従来からの化学法とヒトヘモグロビンに特異性の高い免疫法の二つの方法が主になっている.各方法ともキット化が数多くなされている.われわれにとって検体数の多寡,病院業務か健診業務か,提出時間,コストの問題などの点からおのおのの施設に最も適した方法を選択し,いかに正確に結果を提出するかが重要となっている.そこで,より精度の高い検査をするための基礎的検討について技術的立場からみた問題点・注意点を提示した.

マスターしよう検査技術

迅速診断用凍結切片の作製法

著者: 西見博之

ページ範囲:P.359 - P.364

はじめに
 病理検査で,凍結切片による迅速診断は術式の決定などに重要な役割を占めている.当院においても悪性腫瘍のリンパ節への転移の有無,組織型の決定など,診断,確認のため週に平均10件の依頼があり,かなりの数を実施している.
 迅速診断の歴史も,炭酸ガスで凍結させ,ザルトリウス型ミクロトームで薄切した時代から,クリオスタットの使用へと変遷した.しかし,ザルトリウス型ミクロトームでは,切片が厚く(10μm以上)なってしまい,良好な標本作製に苦慮した.またクリオスタット庫内での凍結では,脂肪組織や脂肪の多く含まれた組織など,凍結までの時間がかかりすぎる欠点がある.これらのことを考え,組織凍結時間をいかに短縮するかが問題となり,液体窒素の使用を開始した.標本作製から病理医による報告までに30分以上も費やしていたが,液体窒素の使用により,検体受け付けから10分で報告可能になった.

検査ファイル

項目●グアニジノ化合物—メチルグアニジンとグアニジノ酢酸

著者: 石崎允

ページ範囲:P.369 - P.371

はじめに
 グアニジノ化合物に関する研究では,その測定機器のみならず測定法,特に酵素的測定法が世界に先がけて開発され,非常に注目を浴びている.中でもメチルグアニジン(MG)とグアニジノ酢酸(GAA)が酵素法で測定できるようになり,大量の検体処理が可能となった.
 MGはuremic toxinsの一つであるが,その産生機構が青柳らにより解明され,クレアチニンを前駆体としてFenton反応によるヒドロキシルラジカルや炎症細胞からの活性酸素により産生されることが判明した.したがって,MGの産生能を測定することにより,尿毒症の種々の病態が活性酸素によりもたらされていることが証明されつつある.今後,慢性腎不全の治療,特に長期透析患者の維持管理の指標としても応用可能である.

項目●人工ペースメーカー心電図

著者: 笠貫宏

ページ範囲:P.372 - P.375

 近年の臨床不整脈治療の進歩において,心臓ペースメーカー療法の進歩は著しい.人工ペースメーカーとはカテーテル電極を心内膜あるいは心外膜に接触・装着させ,それを介して人工的な電気的刺激を与え,心臓を収縮させるものである.
 近年,植え込み後体外から,種々の設定条件(ペーシングレート,パルス幅,振幅,感度,不応期など)を変更しうるマルチプログラマブルペースメーカーとなり,さらに心房収縮を利用し心房—心室同期性を維持しうる生理的ペースメーカー,生体の需要に応じてペーシングレートが自動的に変化するレート応答型ペースメーカー,発作性上室性頻拍を感知して自動的にペーシングし停止させる抗頻拍ペースメーカーが開発され,普及している.

機器●Counting Immunoassay

著者: 浅沼康一

ページ範囲:P.376 - P.377

はじめに
 臨床検査において数多くの体液成分がRIA法,EIA法,化学発光法および比濁法を用いて測定されている.これらの中には,RIを用いるための使用制限,安全管理を要するものがあり,また操作性および迅速性についても種々論議されている.
 最近,EIA法と同様にノンアイソトピックな測定法として,従来のラテックス凝集法に粒子計数技術を応用し,ラテックス粒子を直接カウントして解析するCounting Immunoassay(以下,CIA法)が開発され,日常検査に普及しつつある.

用語●Tリンパ球抗原レセプター

著者: 多田隈卓史

ページ範囲:P.378 - P.379

 自己と非自己の識別は主としてTリンパ球(T細胞)によってなされているが,その認識は当然ながら,抗原特異的レセプターを介して行われており,その解明が急がれていた.さらに,T細胞による抗原認識の特徴として,必ず自己主要組織適合性複合体(major histocompatibility complex;MHC)産物の存在を必要とする(MHC拘束性)が,T細胞レセプター(TcR)はこのMHC産物と外来抗原(異物)をいかにして一緒に認識しうるかという点でも,非常に興味が持たれていた.
 TcRは抗体と同じ遺伝子を共通に使用しているのではという考えに基づく検索は次々と失敗に終わったが,T細胞で発現されている遺伝子群からB細胞で発現されている遺伝子群を差し引くという新しい方法(サブトラクション法)の開発により,TcRの遺伝子が同定され,レセプターの構造解析やその果たす役割などについて大きな進歩がもたらされている.

トピックス

腫瘍性骨軟化症

著者: 正木尚彦 ,   藤原研司

ページ範囲:P.385 - P.387

 腫瘍性骨軟化症(oncogenic osteomalacia)とは,成人および小児にみられる散発性・後天性の骨軟化症・クル病のうち,その原因が腫瘍によるもので,かつ,その切除によりビタミンD・リン代謝異常,骨病変が改善するものを指す.現在までに約60例の報告があり,原因腫瘍は骨もしくは軟部組織の中胚葉由来の良性腫瘍が大部分であるが,まれに前立腺癌などの悪性腫瘍もみられる.筆者らも肝硬変合併原発性肝癌での1症例を経験している1)

パルボウイルスと造血障害

著者: 小澤敬也

ページ範囲:P.387 - P.388

■B19パルボウイルス感染による貧血
 B19パルボウイルスは1975年に輸血用血液中に偶然に発見された一本鎖のDNAウイルス(5.6kb)で,ヒトに病気を起こすDNAウイルスの中では最も小さなものの一つとして知られている.B19パルボウイルスの感染により,小児では伝染性紅斑,成人ではウイルス性の多発性関節炎が出現する.溶血性貧血の患者に感染すると急性赤芽球癆(acute PRCA)を生じ,免疫不全状態にある患者では慢性骨髄不全を引き起こすことがある.また,妊婦の感染例では胎児水腫が起こり,流産の原因の一つとなっている.成人の半数近くがウイルス抗体陽性といわれており,不顕性感染が多いものと思われる.
 B19ウイルスの感染による造血障害は,抗体価の上昇によってウイルスが排除されるまでの一時的なものである.赤血球寿命の極端に短縮している溶血性貧血の患者では赤血球系造血が一時的に停止しただけで急激に貧血が進行し,生命が脅かされることもある.また,溶血性貧血ではウイルスの標的細胞である赤芽球系細胞が過形成であるため,体内で産生されるウイルス量も多くなり,造血系への影響がより強く現れるものと考えられる.骨髄所見としては,急性期には赤芽球の著減と巨大前赤芽球(giant pronormoblast)の出現が特徴的であり,回復期には著しい赤芽球過形成像が認められる.

発作性夜間血色素尿症における補体インヒビターの欠損

著者: 木下タロウ

ページ範囲:P.388 - P.389

 発作性夜間血色素尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria;PNH)は,補体による溶血と血色素尿を主徴とする溶血性貧血である.PNH患者の赤血球の中には,補体の溶血作用に対する抵抗性が低下している異常な集団があり,自己補体により破壊される.補体に触れている正常な自己細胞表面には,補体の傷害作用から細胞を保護する補体インヒビターが存在している.そのため,たとえ細胞表面で補体の活性化が起こっても傷害されない.しかし,PNH患者の異常赤血球は,ハム試験や砂糖水試験のように強制的に補体を活性化させると溶血を起こす.最近,数年の研究で補体抵抗性の低下した赤血球では,自己細胞を保護している補体インヒビターのうちの三つが欠損していることが明らかになった.おそらく,生体内でもPNHの異常赤血球は感染,その他に伴う補体の活性化が細胞膜表面に及んだときにその進行性を阻止することができずに溶血すると考えられる.
 PNH患者の異常赤血球で欠損している補体インヒビターは,decay-accelerating factor(DAF),homologous restriction factorあるいはC8 binding protein(HRF/C8bp),そしてCD59の三つである.

ヒトプロテアソーム

著者: 田村具博

ページ範囲:P.389 - P.390

はじめに
 プロテアソームは同一分子内に複数の触媒活性部位を持つ多機能プロテアーゼ複合体であり,細胞内のエネルギー依存性蛋白質分解系を形成する主要酵素である.この酵素は細胞内で巨大な分子集合体を形成し,核と細胞質を自由に往来しながら,多様な生理機能の発現に関与する可能性が示唆されている.筆者らは,ヒトプロテアソームの遺伝子(cDNA)や特異抗体を用いて各種疾患における本酵素の発現状態を解析しているので,その一部を紹介したい.なお,プロテアソームのより詳しい内容については総説を参照されたい1,2)

ラボクイズ

[問題]血液

ページ範囲:P.356 - P.356

3月号の解答と解説

ページ範囲:P.357 - P.357

検査データを考える

補体の異常

著者: 大井洋之 ,   山田明

ページ範囲:P.365 - P.368

はじめに
 補体系は,免疫学的機序が関与するさまざまな疾患の発症や進展にかかわりを持っている.補体の値を活性や蛋白濃度として測定することは,その時点における生体の免疫反応をはじめ疾患の活動性を知りうることになり,臨床上,有意義なものである.
 補体の活性化経路には二つの経路がある(図1).補体の検査としては,全体の補体活性を表しているCH50,二つの経路の分岐点になるC3,および第一経路(classical pathway)の指標になるC4の3項目の測定が主として行われている.CH50の測定には試験管法1)のほかに,マイクロプレートを用いたマイクロタイター法,EA含有寒天平板法などがある.C3,C4の蛋白量の定量には,一元免疫拡散法(SRID)2)やロケット法が用いられるのが普通である.最近ではレーザーネフェロメトリーによっても測定されている.他の補体成分も同様の方法によって測定することができる.

生体のメカニズム・4

マクロファージの役割

著者: 高須賀直美 ,   赤川清子

ページ範囲:P.382 - P.384

はじめに
 「造血幹細胞由来の貪食能と運動性を持つ粘着性の単核細胞」というのが,マクロファージの定義とされている1).マクロファージは生体のあらゆる組織に広く存在しており,それらは単球(血液中),クッパー細胞(肝),ミクログリア(脳),腹腔マクロファージ(腹腔),肺胞マクロファージ(肺),破骨細胞(骨)などと呼びかたが異なることからもわかるように,ひと口に「マクロファージ」といっても,得られる組織により,形態はおろかその機能までも異なっている.それゆえ,マクロファージの生体における役割も,感染抵抗性,抗癌など生体防御にかかわるものから脂質代謝,骨代謝,組織修復など恒常性の維持にかかわるものまで多岐にわたっている(図1).ここではマクロファージの主な機能を簡単に説明し,それが生体にとってどのような意味を持つものなのかを概観したい.

講座 英語論文を読む・4

D型(デルタ)肝炎

著者: 弘田明成

ページ範囲:P.380 - P.381

 1977年にイタリアのトリノでRizzettoらによってデルタ抗原が発見されて以来,D型肝炎ウイルス(HDV)は世界中の研究と興味の的となった.デルタ抗原は初めはイタリアの慢性HBs抗原のキャリアの肝生検検体の免疫蛍光染色上の説明しにくい現象と思われていたが,今ではそれが特異的で重要なウイルスのヌクレオカプシド抗原であることが明らかとなった.デルタ肝炎ウイルスは“欠陥”RNAウイルスであって,B型肝炎ウイルスが提供する“ヘルパー作用”,すなわちHBs抗原の存在下でしか増殖することができない.このため,デルタ肝炎は血清中にHBs抗原を有する患者でしか発生しない.急性デルタ肝炎は“同時感染”,すなわちB型肝炎と同時に発症する場合と,“重感染”すなわち慢性B型肝炎患者ないしHBs抗原のキャリア状態に重複して発症する場合がある.いずれの場合であっても,デルタ肝炎はしばしば重篤となり,急性期に比較的高い死亡率を起こしたり,しばしば慢性化して肝硬変に進行したりする.デルタ肝炎は同時に変わった流行のしかたが見られ,ある限定された地域内で長期にわたる大流行をすることが一般的である.HDVは発見されてから10年のうちにそれが数々の急性および慢性肝疾患の重要な原因となっていることが明らかとなった.デルタ肝炎の予防や治療の方法は今,開発されつつあるところである.

明日の検査技師に望む

診療支援サービスに徹せよ

著者: 松原藤継

ページ範囲:P.322 - P.322

 私は昭和36年医学部病理学教室から附属病院検査部に移り,以来30年間検査技師の方々と一緒に仕事をしてきた.昭和47年からは教授,部長として検査部の管理運営に当たり,日常検査の充実は勿論のこと,研究,教育にも力を注いできた.一国立大学中検における経験から,感じるところを述べさせていただく.

けんさアラカルト

コンピュータと臨床検査技師

著者: 臼井敏明

ページ範囲:P.316 - P.316

 電子工学と情報処理技術の進歩により,コンピュータ技術は急激に発達し,病院の検査室においても小型から大型まで各種のコンピュータが導入されている.確かに,その導入によって情報処理に関する部分は著しく効率化され,伝票の仕上がりも美しくなった.その効果が過大視され,検査室の中でもコンピュータの扱えない者は人でないかのように言われる時代になりつつある.しかし,私は検査技師がコンピュータ技術を習得しなければいけないという意見に対しては反対である.その一つは,コンピュータは情報処理装置であり,基本的には情報生産にはなんら関与しない点にある.第二点はハードウェア,ソフトウェアを含めてコンピュータ技術は非常に高度の発展を遂げ,素人の半端な知識ではどうにもならない代物であり,本質的にはコンピュータの専門家に任すべきである.最近ではパソコンが広く利用できることもあって,簡単なプログラムができることによりコンピュータの専門家になったような錯覚に陥ることがあるが,これを検査の領域と比較すると,尿のペーパーテストを二,三項目覚えただけで検査技師になったつもりでいるのと同じ水準である.
 コンピュータは実に広範な情報処理機能を持った装置であり,使用目的により実に多様な利用が可能であるが,検査室においては大きく分けて3種類の利用方法が考えられる.一つは検査情報処理における検査システム化であり,第二は個人的な実験研究における計算処理に使われる.

けんさ質問箱

Q 好中球分離法と好中球遊走能試験

著者: 北川誠一 ,   T.U.

ページ範囲:P.391 - P.392

 ヒト末梢血からの好中球分離法および好中球遊走能試験の反応原理,手技,測定結果の読みかた(意義)につ いてお教えください.また,遊走を促進させる物質についてもお教えください.

Q 化膿性菌の培養方法

著者: 長沢光章 ,   M.T.

ページ範囲:P.392 - P.393

 臨床的に化膿性菌が疑われるのですが,培養してもなかなか菌が発育してきません.嫌気性菌も含めてよい培養方法をお教えください.

Q 抗酸菌分離培地“工藤PD培地”での培地融解の原因とその対策

著者: 森伴雄 ,   S.N.

ページ範囲:P.393 - P.395

 抗酸菌の培養検査に“工藤PD培地”(日本ビー・シー・ジー)を使用していますが,培地融解が約1%の頻度で発生します.この現象はある特定の患者の喀痰で繰り返しみられ,私の経験した5例のうち4例からPseudomonas aernginosaが,1例からStaphylococcus aureusが検出されました.なお,前処理法は,普通の喀痰の場合には検査材料と4%水酸化ナトリウム(NaOH)液とが1:1の割合に,極端に膿性で粘稠度が高い喀痰では1:3の割合に加え,30分間放置後に駒込ピペットで2滴(O.1ml)ずつ培地に滴下し,培養8週間後に最終判定しています.この培地融解の原因とその対策について教えてください.

Q A群レンサ球菌抗原の抗生剤投与後の残存性

著者: 目黒英典 ,   H.O.

ページ範囲:P.395 - P.396

 咽頭粘液中のA群レンサ球菌抗原の迅速診断用キット(栄研化学のセロダイレクト・ストレプトA)を使用していますが,抗生剤(主にペニシリン系)投与後に,培養法では陰性なのに,同キットでは1〜2か月たっても陰性化せず,経過フォローの混乱,治療上の問題をきたす例を数多く経験しています.同キットの使用上の注意点,培養法との併用の際の注意点も含め,解決法をお教えください.

今月の表紙

骨髄間質の立体再構築像

著者: 渡辺陽之輔 ,   山崎一人 ,   榎本康弘

ページ範囲:P.344 - P.344

 骨髄を光顕で見ると,いろいろな成熟段階にある血液細胞(造血細胞)で充満しており,その中に大きな静脈(静脈洞)が流れている.東京や大阪の下町の航空写真で,密集した民家の中を枝分かれした墨田川や淀川が悠々と流れているような風景である.もう少し倍率を上げると,密集した造血細胞の中に樹枝上の突起を出した細胞(細網細胞)が散在していて,ちょうど町中を走る道路のように民家(造血細胞)を小さなブロックに分けているように見える.普通の光顕や電顕では平面的な映像しか得られないので,このように航空写真的な像になってしまうが,これらの構造物は実際に骨髄の中では立体的に広がっている.
 造血細胞の集団(造血実質)の中では各種の血液細胞が造られ,成熟して,最終的に静脈洞の壁を通過して血液中に流れ出す.上述の川や道路に相当する部分はひっくるめて骨髄間質と呼ばれている.以前は骨髄間質の機能は単に造血実質の支持だけと考えられていたが,最近,間質の細胞が積極的に造血をコントロールすることがわかってきて,その立体構造の解明が急がれるようになった.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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