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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術19巻8号

1991年07月発行

雑誌目次

病気のはなし

糸球体腎炎

著者: 湯村和子 ,   二瓶宏 ,   堀田茂 ,   川島真由子

ページ範囲:P.596 - P.602

サマリー
 糸球体腎炎は,病気の進行状態から急性・急速進行性・慢性に臨床的に分類される腎糸球体を中心とした炎症であり,特に腎臓内科領域においては尿蛋白・血尿の出現が特徴的である.従来,成因として種々の免疫複合体の関与する病態に基づくと考えられているが,詳細は不明な点が多い.
 現在,腎生検により,特に臨床経過が長期に及ぶ慢性(糸球体)腎炎の病理組織学的分類が集大成されつつあり,個々の腎炎の成因についても研究されてきている.腎炎で,尿蛋白,血尿がなぜ出現するかに関しては,未解決ではあるが,慢性腎炎の組織型による臨床検査上の特徴が少しずつわかってきており,尿蛋白・血尿の出現や治療についても論じた.

検査法の基礎

検査室におけるMRSA院内感染予防対策

著者: 浅野裕子 ,   石郷潮美 ,   入山純司 ,   水口一衛

ページ範囲:P.603 - P.609

サマリー
 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)は,難治性の院内感染原因菌として急激な増加傾向を示しており,根本的な感染防止対策の必要性が急務となっている.これに対して院内感染対策委員会は,感染対策マニュアルの作成と同時にその実施に努める必要がある.この組織の構成メンバーとして細菌検査室は重要な役割を担っており,その内容は院内全体および病棟単位の分離状況,薬剤感受性の動向,患者個々の分離菌の変遷などの報告,そして,環境検査として,感染源,感染経路の検索を含めた病院内での分布調査の実施と結果の検討などが挙げられる.本稿では疫学的方法を踏まえて,MRSAによる院内感染の発生要因を考察し,検査室側の院内感染対策について記述した.

技術講座 生理

消化器領域における超音波検査の進めかた—[2]肝の区域分類法

著者: 岩下淨明 ,   松江寛人

ページ範囲:P.611 - P.616

サマリー
 肝の超音波診断は,CT,MRI,血管造影と同様に存在診断のみでは不十分であり,どの亜区域に腫瘍が存在し,それが門脈などの脈管とどのように関係しているかを,正確に診断することが極めて重要である.このような超音波診断は手術などの治療法の決定に重要な情報をもたらす.肝の全区域を検査するためには門脈分枝に沿った走査が適当であり,そのための検査法である肝の区域の解剖に基づいた6つの走査法について,その基本的技術を概説した.

マスターしよう検査技術

PORETEC法(フィルター)による液状検体の集細胞塗抹標本作製法

著者: 平田守男 ,   古田則行

ページ範囲:P.621 - P.626

はじめに
 液状検体から塗抹標本を作製する際に最も留意することは,ひとつは,固定染色過程における細胞の剥離遊出であり,もうひとつは,微量検体,細胞成分が少ない検体に対する集細胞法の応用である.一般的に集細胞効果が最も高いのはフィルター濾過法であるが,従来からの方法は,手技の煩雑さ,フィルターの穴(pore)が検鏡の際に非常に妨げになること,などから実際に用いられることが少ないのが現状である.今回開発されたPORETECはそれらの欠点を解消したもので,操作は簡単,集細胞力はさらに高く,0.5mlぐらいの微量検体にも適応ができ,ギムザ染色,PAS染色など特殊染色も可能である.
 以下にその手法を述べるが,まず順序として一般的手法(図1)を示す.

検査ファイル

項目●病理組織における中間径線維

著者: 杉原志朗

ページ範囲:P.627 - P.629

[1]中間径線維の概略
 細胞を構成する線維性の蛋白にはその直径により3種類が認められ,ミクロフィラメント,中間径線維,微細管が知られている.これらの蛋白は細胞の骨格を形成する役割があるので,細胞骨格(cytoskeleton)と呼ばれている.そのなかでもミクロフィラメントと微細管の中間の太さで,直径が10nmのものを中間径線維(intermediate filamert;IF)と呼んでいる.
 5種類のIFが知られている.これらは細胞組織特異性を示し,悪性腫瘍の組織由来を知るうえで有用な腫瘍のマーカーとなり,免疫組織化学的検索によりしばしば用いられている.病理学的応用という面では,IFが最も注目を集めている細胞構成蛋白である.

項目●ミエリン塩基性蛋白

著者: 山田正仁

ページ範囲:P.630 - P.631

[1]ミエリン塩基性蛋白とは?
 中枢神経系の髄鞘(ミエリン鞘)は,70%の脂質と30%の蛋白から構成されている.ミエリン塩基性蛋白(myelin basic protein;MBP)は,中枢神経系の髄鞘の主要な蛋白であり,髄鞘蛋白全体の約30%を占める.MBPは,また末梢神経系のミエリンにも見いだされる1)
 MBPは,pH11付近に等電点を有する極めて塩基性の強いミエリン蛋白であり,動物に免疫したときに実験的アレルギー性脳脊髄炎を引き起こす物質として知られている.

機器●MRI装置

著者: 田中邦雄 ,   栗城真也

ページ範囲:P.632 - P.634

[1]目的
 最近,X線CTに次ぐ新しい画像診断技術としてMRI(magnetic resonance imaging)装置が目覚ましい進歩,普及を遂げている.その基本原理は,有機化学などの分野で構造解析手段として広く利用されてきた核磁気共鳴法(nuclear magnetic resonance;NMR)である.本法では生体内に自然に存在する原子核(主に生体水分中のプロトン;1H)の分布や存在状態を反映する共鳴信号を用いるので,単に形態学的情報だけでなく,各種臓器,組織の生理,生化学的状態を反映する機能的情報を画像化する点で,これまでの画像診断技術にはない多くの可能性を有する.

用語●アイソザイムとアイソフォーム

著者: 長裕子

ページ範囲:P.635 - P.637

はじめに
 アイソフォーム(isoform)という用語が検査の分野で使われ始めたのは,クレアチンキナーゼ(CK)からであろう.CKは2つのサブユニット(M,B)からなる2量体でCK-BB,CK-MB,CK-MMの3種のアイソザイムがあるが,さらに電気泳動の条件を変えることにより,CK-MMは3つに,CK-MBは2つに分画され,この分画されたバンドをアイソフォームと呼んでいる.

トピックス

メバロン酸と家族性高コレステロール血症

著者: 大久保実

ページ範囲:P.649 - P.651

はじめに
 コレステロールは1784年に胆石から初めて分離されて以来,常に衆目を集め,コレステロールの構造解析に寄与したWieland,Windausら,立体異性体の検討を行ったBarton,Hasselはノーベル化学賞を,生合成経路を解明したBloch,Lynen,細胞レベルでの代謝経路を明快に示したGoldstein,Brownは医学生理学賞を授賞するなどコレステロールをめぐる15人の研究者がノーベル賞授賞者となった1).コレステロールは食事から摂取するほかに,生体内で新たに合成されていることは,意外に知られていない.

酸化型グルタチオンと睡眠

著者: 井上昌次郎 ,   本多和樹 ,   菰田泰夫

ページ範囲:P.651 - P.652

 私たちは,1970年代の初期から一貫して,睡眠は脳内に出現するなんらかの生理活性物質によってコントロールされているとする,いわゆる睡眠液性調節説の立場から研究を続けてきた.つまり,「内因性睡眠物質」を単離し,構造解析し,同定し,生理機能を明らかにすることによって,睡眠の謎に迫ろうと考えたのである.
 そこで私たちは,長時間のあいだ眠らずにいたラットの脳幹から,睡眠物質を取り出すことにした.断眠によって睡眠欲求が増加するため,睡眠中枢の存在する脳幹内で,活性物質の濃度が高まると考えたからである.そのためまず,多数のラットを同時に断眠させる装置を考案した,これを用いて,24時間にわたって不眠状態においたラット約5,000頭の脳を準備し,脳幹抽出物を作製した1,2).

悪性リンパ腫と遺伝子

著者: 浅野重之 ,   若狭治毅

ページ範囲:P.652 - P.654

 悪性リンパ腫はT,Bリンパ球の表現型解析により腫瘍細胞の起源,分化段階がより明確になってきた.また,特異な染色体異常が悪性リンパ腫の組織型にある程度対応することもわかってきた.最近では免疫グロブリン(Ig)遺伝子やT細胞抗原受容体(TCR)遺伝子の再構成を中心とした遺伝子型解析が導入され,悪性リンパ腫の診断,治療,予後を決定するうえで有用なものとなってきた.ここでは誌面の都合上,遺伝子型解析の研究の手始めとなったバーキットリンパ腫(Burkitt lymphoma;BL)の特異的染色体変異と癌関連遺伝子について解説し,他のリンパ腫についても代表例を挙げ,最近の悪性リンパ腫と遺伝子の関係について簡単に説明する.
 BLの多くでは第8染色体と第14染色体間の相互転座で,そのほかは第2および第22染色体と第8染色体との間に相互転座がみられている.t(8;14)(q 24;q 32),t(2;8)(p 12;q 24),t(8;22)(q 24:q 11).このようにBLにおける染色体転座はすべて第8染色体が関係し,切断部位(8 q 24)は同一であり,転座する相手側の染色体領域はIgH遺伝子座(14 q 32),L鎖κ遺伝子座(2 p 12),あるいはL鎖λ遺伝子座(22 q 11)である(表).第14染色体では中心側よりCH-VHの順序に並び,転座によりVH領域は第8染色体のq 24に移動する.

アンチセンス遺伝子

著者: 鎌野寛 ,   入野昭三

ページ範囲:P.654 - P.655

はじめに
 アンチセンス遺伝子とは,メッセンジャーRNA(mRNA)と相補的な塩基配列を持つDNAやRNAのことであり,mRNAに相補的に結合し二本鎖を形成することにより,遺伝子発現を調節することができる遺伝子のことである.これに対してセンス遺伝子というのは,mRNAと同じ塩基配列を持つDNAやRNAのことである.目的とする遺伝子の機能を解明するための1つの手段として,現在,アンチセンス遺伝子を使用する種々の試みがなされている1〜4)

ラボクイズ

[問題]脳波

ページ範囲:P.618 - P.618

6月号の解答と解説

ページ範囲:P.619 - P.619

検査データを考える

呼吸機能検査の異常

著者: 宮里逸郎 ,   東條尚子 ,   須賀龍治

ページ範囲:P.638 - P.641

はじめに
 呼吸機能検査データは検者の手技の熟練度はもとより,被検者の理解や努力および疾患の臨床的特徴などが検査上問題になることが多い.ここでは一応,被検者の最大限の努力は得られたという前提のもとで,慢性閉塞性肺疾患の代表として慢性肺気腫を,拘束性肺疾患の典型として肺線維症を取り上げ,その呼吸機能検査の異常について,検査上の問題点および病態生理的解釈について述べる.

生体のメカニズム・7

HLAの役割と疾患

著者: 吉住秀之 ,   笹月健彦

ページ範囲:P.645 - P.647

 生体の免疫系が自己と非自己を区別し,非自己を排除するときに,その標識となっているのが主要組織適合抗原複合体(major histocompatibility complex;MHC)と呼ばれる一群の抗原系である.ヒトの場合,これらの抗原は白血球の血液型として発見された歴史的経緯があるため,HLA(human leukocyte antigen)と呼ばれている.本稿ではHLAの構造と機能を概説し,自己免疫疾患の疾患感受性にいかにかかわっているかを概説する.

講座 英語論文を読む・7

クリティカルケア検査室の構成と業務に対する戦略

著者: 弘田明成

ページ範囲:P.642 - P.643

 クリティカルケア検査(本論文では即時検査と同一用語として扱うが)の主目的は,医学的危機に対応するための緊急検査データを提供することである.多くの200床以下の病院とほとんどすべての200床以上の病院では,中央(一般)検査室に付随してクリティカルケア検査室を備えている.ほとんどの研修病院では,緊急検査による検査件数は一般検査のそれよりも速いペースで増えている.このことにより臨床上すばやい分析結果報告時間(TAT)の必要性を満たすため,そして検体輸送に伴う諸問題を回避するために(独立した)付随検査室に対する需要が生じた.
 この総論ではクリティカルケア検査業務の増加の理由,そのことによって生じる検査業務上の混乱や,効率的なクリティカルケア検査サービスの確保や検分のしかたなどについて考察している.中央検査室とまったく同様に,クリティカルケア検査の質の良さには検査項目の選定,検体の輸送,結果の配布とともにデータ解析に対する配慮なども含まれる.以上の諸因子に対する適切な注意がクリティカルケア検査室の責務である.これらの分野のいずれに失敗してもクリティカルケア検査の患者治療に対する貢献度を低めてしまうものである.

明日の検査技師に望む

時代の転換に即して自己の変革を

著者: 阿部裕

ページ範囲:P.610 - P.610

 今日,技術の長足の進歩により,医療を取り巻く社会情勢は大きな変革の波に洗われているといっても,過言ではないと思います.そこで,われわれの周辺の医療がどのような波にぶつかって来たか,歴史を少し振り返ったうえでわれわれが心がけなければならない“心”と“技”の問題を考えてみることにしましょう.

けんさ質問箱

Q 尿沈渣から検出された原虫

著者: 鈴木正伸 ,   Y.I.

ページ範囲:P.656 - P.657

 45歳,女性の新鮮尿の沈渣から図のような虫体が見つかりました.この虫は1匹として視野をさえぎるような激しい運動をするものはなく,定位置でおよそ30分ごそごそと動いていました.この虫体は何でしょうか.なお,pH6.0,ウロビリノーゲン(+),蛋白(±),糖(-),潜血(±),細菌(+),虫数13/全視野でした.

Q 腹部エコーにおける脾下面のfree spaceの鑑別

著者: 鈴木憲子 ,   Y.F.

ページ範囲:P.657 - P.659

 腹部エコーの検査において脾臓下面に描出されるfree spaceが胸水か腹水か,その鑑別のしかたをお教えください.

Q 骨髄置換性貧血の判定のしかた

著者: 浦部晶夫 ,  

ページ範囲:P.659 - P.660

 ある患者(乳癌と思われる)に骨シンチグラム検査を行って陽性と出た.血液像を調べたところ,悪性腫瘍のための骨髄浸潤による正球性貧血(MCV89〜99fl,MCH29〜35pg,MCHC31%)と判断され,発生機序的には骨髄置換性貧血が考えられました.この骨髄置換性貧血の判定のしかたについてお教えください.

Q 顆粒リンパ球増多症の判定基準

著者: 押味和夫 ,   M.M.

ページ範囲:P.660 - P.661

 ここ数年注目されている顆粒リンパ球増多症について,その判定基準およびルーチン検査での記載方法をお教えください.

けんさアラカルト

21世紀の臨床検査を考える(夢のまた夢)

著者: 宮原道明

ページ範囲:P.617 - P.617

4年制大学の設立と医学検査技師
 青い空に白い波が砕け,緑広がるこの丘陵に4年制の医療技術大学が設立されたのは21世紀に入って間もない春のことであった.講義棟および研究棟に続き付属病院が,そして両者の中間に中央研究所が接続している.このラボは地区の中核的な役割を持っているので,屋上にはヘリポートがあり,各地との連絡に当たっている.さらに,WHO認定の研修施設として世界中の「医学検査技師」が研修している.また一方で,ここの技師は開発途上国を中心に一定期間世界各地への派遣も義務づけられている.そういえば,技師の呼称は医学検査技師と呼ばれるようになったが,これは業務範囲が著しく拡大し,患者との接触が深まったからである.

今月の表紙

肺の三次元画像解析

著者: 岡輝明

ページ範囲:P.648 - P.648

 肺の最も重要な機能の1つはガス交換である.ガス交換がきちんと行われるためには,肺胞が広がっていることが必要である.したがって,肺が虚脱する状態はすべて病的であるといって差し支えない.
 肺は気密性の高い胸腔に収まっており,胸腔内が陰圧であることによって,肺胞が物理的に広げられている.また,正常肺では,肺胞II型細胞から界面活性作用のあるサーファクタントが分泌され,肺が虚脱しないようにコントロールされている.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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