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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術20巻2号

1992年02月発行

雑誌目次

病気のはなし

糖尿病

著者: 井藤英喜

ページ範囲:P.100 - P.107

サマリー
 1991年9月28日の新聞各紙は,日本には約500万人の糖尿病患者が存在すると推定されるという厚生省研究班の見解を報道した.糖尿病は,網膜症,腎症といった細小血管障害,虚血性心疾患,脳血管障害,閉塞性動脈硬化症といった種々の血管障害のみならず神経障害,白内障など種々の合併症を多発する.糖尿病における糖・蛋白・脂質代謝異常はこれらの合併症発症の基盤となる.したがって糖尿病の診療は,これらの代謝異常を検査により認識し,是正しつつ合併症の発症・進展を予防する医療といえる.糖尿病の診療の進歩は検査法の充実,進歩によるところが大きい.

検査法の基礎

サイトメガロウイルスの検査

著者: 清水義信

ページ範囲:P.109 - P.114

サマリー
 サイトメガロウイルス(CMV)の検査は感染患者の唾液,尿の脱落細胞中に細胞質内封入体を有する巨細胞を検出するか,感染患者から排泄されるCMVを感受性のある組織培養細胞に接種して,CMVの増殖に伴う細胞変性効果を指標としてウイルス分離し,抗CMV抗体による中和試験でウイルス同定を行うか,または感染患者血清中に抗CMV抗体価の上昇を確認する血清診断法がある.近年,遺伝子工学の技法がウイルス病の検査にも応用され,CMVのDNAに相補性のある合成DNA断片の結合によるin situ hybridization法またはDNAポリメラーゼを用いてCMVの一部DNA領域を増幅して検出するpolymerase chain reaction法がある.

補体の活性と制御

著者: 藤田禎三

ページ範囲:P.115 - P.120

サマリー
 補体系は,抗原抗体反応に引き続き,あるいは,単独で,生体防御に働く約30種類の血清蛋白と膜蛋白からなる反応系であり,感染防御において抗体とともに主要な役割を果たしている.その生物活性は,①生体に侵入した細菌・ウイルスなどに結合した補体成分C4b,C3bは,補体レセプターを介した食細胞の貪食作用を増強すること(オプソニン効果),②補体活性化で生じた補体フラグメントC3a,C5aは,炎症のメディエーターの働きをすること,③補体後半成分のC5b-C9は膜障害複合体として,細胞障害活性を表すことなどを挙げることができる.補体系には,種々の制御因子が存在し,液相での無制限な活性化や消費を防ぎ,反応を異物表面に集約させるだけでなく,自己補体による自己細胞の障害を防御している.

技術講座 生化学

前立腺性酸性ホスファターゼ(PAP)の測定(EIA法)

著者: 山内昭正

ページ範囲:P.121 - P.128

サマリー
 前立腺癌の腫瘍マーカーの一つである前立腺由来酸ホスファターゼ(PAP)について,どのようなものか,測定の原理,その測定法の一つであるEIA法について述べた.キットをもとに,測定手順と注意点などを中心に,図示しながらわかりやすいようにした.
 最後にその臨床的な意義などについても少し述べた.

微生物

喀痰の塗抹検査

著者: 柳瀬賢次 ,   中村美加栄 ,   滝沢茂夫

ページ範囲:P.129 - P.134

サマリー
 呼吸器感染症治療の成否は起炎菌診断にかかっているといっても過言ではない.喀痰の分離培養は最も普及している非侵襲的起炎菌診断法であるが,口腔内常在菌の汚染を受けやすいため,起炎性のない菌が分離されたり起炎菌が分離されないことが少なくない.喀痰のグラム染色は,こうした問題を解決するうえで重要な方法であり,分離培養と同時に施行することで,高い起炎菌判明率が得られる.

病理

骨・硬組織の標本作製法と免疫組織化学

著者: 永井教之 ,   長塚仁 ,   石割裕三

ページ範囲:P.135 - P.141

サマリー
 骨・歯牙・硬組織を含む組織の標本作製技術は一般的病理標本の場合と基本的に異なるものではないが,免疫組織学的検索の場合には,固定はもちろんのこと,抗原の種類,脱灰液の種類,脱灰期間,酵素処理の選択によって陽性所見に大きな差があることに注目する必要がある.したがって,各自の検査室において前もって十分に検討しておく必要があろう.

一般

尿中ウイルス感染細胞の見かた

著者: 岩信造 ,   由谷親夫

ページ範囲:P.143 - P.147

サマリー
 尿細胞診材料中に出現するヘルペスウイルス,サイトメガロウイルス,ヒトパピローマウイルス,ヒトポリオーマウイルスの感染細胞のパパニコロウ染色所見について述べた.
 パパニコロウ染色所見からウイルス疾患の推定がある程度可能であり,ウイルス感染細胞の有無の情報が臨床への診断や治療に役立つことが多い.また,各種ウイルス疾患の確認のための酵素抗体法,in situ hybridization法,一部,電顕所見についても述べた.ウイルス感染細胞の特徴所見を熟知することが悪性細胞との鑑別にもなり,さらに,一般検査における尿沈渣の超生体染色にも有用である.

マスターしよう検査技術

抗グロブリン試験

著者: 佐藤千秋 ,   鈴木雅之 ,   渋谷温

ページ範囲:P.151 - P.156

はじめに
 抗グロブリン試験は,主に各種のヒト血液細胞や体細胞に結合の免疫グロブリンまたは補体成分の検出に用いられる.本稿では,すでに生体内で赤血球膜に免疫グロブリンや補体成分が結合しているか否かを検査する直接抗グロブリン試験と,被検者血清中にヒト赤血球膜に結合する免疫グロブリンがあるか否かについて検査する間接抗グロブリン試験の実際について述べる.この試験には特別な器具を必要とせず,関連試薬(表1)の多くも市販品として入手できるが,実施に際しては,①採血条件,②検体保存条件,③血球洗浄条件,④クームス血清の管理,⑤データの管理,に注意が必要である.

生体のメカニズム ホルモン・2

視床下部の役割

著者: 芝崎保

ページ範囲:P.157 - P.160

 視床下部は循環器系や消化器系の機能をつかさどる自律神経や摂食調節などの中枢であり,またバソプレシンや,下垂体ホルモンの合成分泌の調節に関与する種々の視床下部ペプチドの産出の場でもある.
 1950年代の中頃,Harrisは視床下部には下垂体前葉ホルモンの分泌を調節する因子が存在するという仮説を提唱し,それはGuilleminらおよびSaffranらによる視床下部抽出物中におけるCRHの発見により証明された.表に現在まで明らかにされている下垂体前葉細胞に作用する視床下部ペプチドを示すが,これら向下垂体視床下部ペプチドは視床下部諸核の神経細胞で合成されてから,それらの神経線維を介して下垂体茎部を下降し,neurovascular unitより下垂体門脈系に移行し下垂体前葉に到達する(図1).本稿ではページ数の制約上,主に副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone;CRH)と成長ホルモン放出ホルモン(growth hormone-releasing hormone;GHRH)について概説する.

検査データを考える

心室性期外収縮

著者: 鈴木典夫 ,   高橋まり子 ,   結城ゆかり

ページ範囲:P.161 - P.167

概念
 心室性期外収縮(ventricular extrasystole)は心室性早期収縮(ventricular premature beat,vent. prem. systole,vent. prem. contraction,略してVPCまたはPVC)とも称される.これは心拍(beat)すなわち心臓の収縮(systole,contraction)が基本調律よりも早期(premature)に,正常調律とは起源を異にして心室から発生して(心室性ventricular)起こる不整脈である.
 これは不整脈の中でも頻度が高く,洞性頻脈,洞性徐脈,洞性不整脈に次いで日常しばしばみられる.臨床的意義は症例ごとに異なり,ほとんど無視してよい例も少なくないが,他方,心室頻拍(vent. tachycardia)や心室細動(vent. fibrillation)のような重篤な不整脈に移行しやすく,警告的不整脈(warning arrhythmia)として緊急治療を必要とする例もあるので,臨床的重要性を症例ごとに判断しなければならない.

講座 英語論文を読む・14

前立腺癌のスクリーニング検査としての血清中前立腺特異的抗原の測定

著者: 弘田明成

ページ範囲:P.168 - P.169

 背景:前立腺特異抗原(PSA)は前立腺表皮細胞によって特異的に分泌され,その血中濃度は癌を含めた前立腺疾患において上昇する.われわれは前立腺癌の検出および病期分類におけるPSA測定の有用性を検討した.
 方法:50歳以上の健常男性1,653名の血中前立腺特異抗原を測定した.血中PSA値が4μg/l以上のものはさらに直腸診と超音波検査を受けた.直腸診,超音波診断ないしこの両方で異常が認められた場合にはさらに超音波下での前立腺針生検を行った.ここで得られた結果は,症状的に異常があったためないし直腸診で異常を認めたために超音波下生検を行った50歳以上の男性300症例の連続して検討した結果と比較した.

検査ファイル

リチウムイオノフォア—血液中のリチウム測定

著者: 中野泰介

ページ範囲:P.170 - P.170

はじめに
 躁病の治療薬として炭酸リチウムが経口投与される.その際血液中のリチウムイオン(Li)濃度をモニターしつつ投与することが望まれる.従来,この薬物モニターは炎光光度法により行われていたが,より簡便な方法が求められていた.それがリチウムイオノフォアの開発により,これを用いたイオン電極法によって実現可能となった.ここでは国産初の装置NAKL-133(東亜電波工業(株))を例に,Li電極の概略を述べる.

エンドセリン

著者: 菅野一男 ,   平田結喜緒

ページ範囲:P.171 - P.171

はじめに
 1988年,柳沢らによりブタ大動脈内皮細胞の培養液中より強力な血管収縮性ペプチドが単離同定され,エンドセリン(ET)と命名された.その後,ヒトET遺伝子には3種類のイソフォーム(ET-1,ET-2,ET-3)が存在することが判明した(図).これまでに高感度で特異的ET-1のラジオイムノアッセイ(RIA)やエンザイムイムノアッセイ(EIA)が開発されており,血漿,尿,髄液中にET-1様免疫活性が存在することが知られている.ET-1は局所ホルモンとしてさまざまな生理作用を持つ可能性が示唆されている.

GVHR

著者: 南雲文夫

ページ範囲:P.172 - P.172

 GVHR(graft versus host reaction)とは,移植片対宿主反応のことで,この病態をGVHD(graft versushost disease)と呼び,臓器移植,特に骨髄移植後に発症することが知られている.近年,手術後における術後紅皮症とされていたものがGVHDによるものと解明され,輸血後GVHDとして注目されている.その発症メカニズムは,移植された臓器(移植片:graft)中のリンパ球が患者(宿主:host)内に生着し,移植片のリンパ球側からみれば,宿主は非自己であるため宿主の組織を攻撃することにある.輸血も血液という臓器の移植である.GVHDは移植後の拒絶反応の逆の反応といえる.
 骨髄移植後と輸血後GVHDの比較を表に示す.前者は,慢性GVHDが多く,治療可能であり,軽度なGVHDは白血病細胞を排除するので予後が良いとされている.後者は急性経過をたどり死亡率が極めて高いことが特徴である.

タイプ1プラスミノーゲンアクチベータインヒビター(PAI-1)

著者: 中野一司 ,   丸山征郎

ページ範囲:P.173 - P.173

[1]PAI-1-線溶系における位置付け
 線溶系は,プラスミノーゲンがプラスミンに活性化され,このプラスミンが止血血栓のフィブリンを溶解するプロセスである.しかし最近,プラスミンは単に血栓溶解のみでなく,発生,ウイルス感染の成立,炎症,組織の破壊と再生,血管新生,細胞の移動,癌の転移と浸潤など,種々の生体反応にかかわることが判明しつつある1)(図).
 ここではこのうち臨床上最も重要な線溶系におけるPAIの役割について述べる.

ラボクイズ

問題/血清酵素活性

ページ範囲:P.148 - P.148

1月号の解答と解説

ページ範囲:P.149 - P.149

明日の検査技師に望む

創造的科学者・研究者としての技師

著者: 宮井潔

ページ範囲:P.108 - P.108

 明日の臨床検査技師に何を望むか,人それぞれの考えかたがあるとは思うが,私は一言“創造的”な科学者・研究者になっていただきたい,そして明日といわず,今日からでもそれを目指してほしいと思うのである.
 いうまでもなく臨床検査には,新しく優れた技術や評価法の開発・研究が必須である.では現在,誰がその研究を行っているのだろうか.もっぱら検査の現場になじみの少ない他分野の“研究者”によって作られた検査法で現場が振り回されているといっても過言ではない.そうではなく検査の現場を熟知している検査技師によってこそ,はじめて真に優れた検査法の開発・研究が可能となるはずである.

けんさアラカルト

ミトコンドリア染色と肝疾患

著者: 海上雅光

ページ範囲:P.142 - P.142

 Bianchiらの報告1)以来,光学顕微鏡で認められるgiant mitochondria(光顕的GM)は,そのまま電子顕微鏡的にも巨大なミトコンドリアに相当するものとされ,現在に至っている.教科書的にも,特殊染色を施すことによって光学顕微鏡的にGMが認識されると記載されている2).しかしInagakiら3)はこれに対して,光顕的GMは電子顕微鏡的にはミトコンドリアではなく,crystalloid bodyであると報告し,ここに至ってその異同が問題となってきた.したがって本稿では,タイトルにある「ミトコンドリア染色」とは「いわゆる光顕的GMを同定するのに用いられる特殊染色」としての意味であることを断っておきたい.光顕的GMはHE染色でも判別可能であるがかなり見にくく,他の物質との鑑別が難しい.したがって,次に述べる種々の特殊染色によって同定されることが多い.染色法としては,Masson Trichrome染色(MT染色,写真1),Chromotrope aniline blue染色(CAB染色,写真2)4),Azan染色,Luxol fast blue染色,PTAH染色,Altmann染色2),などが挙げられる.いずれも染め上がりが良好であれば,光顕的GMは円形,楕円形,葉巻型,などの形で明瞭に認められる.肝組織のルチン染色法の1つとして使用されるときは,その他の情報量も多いMT染色,CAB染色などが推奨される.

トピックス

加齢のアルコール代謝に及ぼす影響

著者: 奥野府夫

ページ範囲:P.174 - P.175

 加齢とともに諸臓器は萎縮・縮小し,重量は低下し機能も低下する.肝はアルコールを含む各種薬物の代謝の場であるので,肝も加齢によって代謝機能が低下し,投与された薬物の血中からの消失は遅延し薬理効果が十分でなかったり,逆に血中濃度が高く保たれ効果が増強したりする.
 通常アルコールといえば2つの炭素を持った分子量46のエチルアルコールのことで,常温で水にも油にもよく溶ける薬物である.経口的に摂取されたアルコールは消化されることなく胃で20%,上部小腸で残りの80%が吸収される.胃腸からの吸収は胃内に食物,特に油物が入っていると遅く,“空きっ腹の一杯はよくまわる”と俗にいわれているように空腹状態では最も速い.消化管から吸収されたアルコールは門脈血に溶けて肝臓に運ばれ,一部は肝臓で代謝され,残りは心臓を通って大循環を通じて全身にいきわたる.前述したようにアルコールは水にも油にもよく溶けるので,全身諸臓器にほぼ等しく分布し,その濃度もほぼ等しい.まさに「酒は五臓六腋にしみわたる」のである.ほとんどの薬物は肝細胞中のミクロゾーム分画にある薬物代謝酵素系で代謝されるのに対して,同じ薬物でもアルコールは少し異なり,その大部分はサイトゾール分画と呼ばれる可溶性分画中にあるアルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase;ADH)という酵素によって酸化され,通常,ミクロゾーム中のアルコール代謝(MEOSという)の関与は大きくない.

血液型関連試薬の国際標準化

著者: 松田利夫

ページ範囲:P.175 - P.176

 国際輸血学会(ISBT)と国際血液標準化委員会(ICSH)は合同で,1984年に不規則抗体検出のための酵素法に関する研究班,1986年に抗ヒトグロブリン試薬に関する研究班を組織した.これらの検査法は非常に複雑な性質があるため,検査室間でかなりの変動が出てしまう.そこで,研究班で国際標準品の調製と検査法の国際標準化に関する検討を進めてきた.1989年には米国食品医薬品局(FDA)もこの研究班に加わった.
 標準品として,1986年にISBT/ICSH国際標準抗ヒトグロブリン試薬が1),1989年に不規則抗体検出用標準酵素(パパイン)2)とこれらの試薬の検定用として1国際単位標準抗Dが選定された.検査法としては,酵素法は一段法ではなく二段法を行うべきであること.さらに,用いる酵素は蛋白質分解酵素活性を測定することにより濃度を標準化すべきであることを決定している.日本では,一般にプロメリンを0.5%(w/v)に調製し,検査に用いている.しかし,市販のブロメリンは製造元やロットにより酵素活性や精製度が大きく異なっている3).また,製品によってはかなりの量の不溶性沈殿物が残るものがあることから,重量%による濃度では反応に差が生ずることは当然なことと思われる.しかし,いまだ酵素活性測定の国際標準法は決まっていない.

37チャンネルの脳磁図測定装置

著者: 金子裕

ページ範囲:P.176 - P.177

 magnetoencephalography(MEG;脳磁図と訳されることが多い)は神経細胞に由来する微弱な磁界を測定し,脳機能を非侵襲的に診断しようという検査法で,脳波(electroencephalography;EEG)に極めて近い検査法であるが,EEGは電気抵抗の高い頭蓋骨によって歪められて頭皮を流れる細胞外の容積電流による電位差を測定する.これに対し,MEGは主に細胞内のイオン電流の作る磁界を頭蓋骨などによって歪められることなく測定するため,電流源の3次元的局在が容易に推定できる1)
 脳の形態学的変化はCTスキャン・MRIの登場によって容易にとらえられるようになっている.これに対し,脳機能の検査法としては,これまで脳波・PETなどがあったが,PETはミリ秒単位で進行する脳の情報処理過程を追跡する時間分解能を持たず,脳波は前述のように深さも含めた空間局在能を持たない.MEGは優れた空間分解能と時間分解能とを併せ持ち,脳波・PETの欠点を埋める検査法として,しかも,非侵襲的であり放射線すら用いない検査法として,大脳の高次機能に関心を持つ研究者・臨床家から注目と期待を集めている.

血管内エコー法

著者: 森内正人 ,   斉藤頴 ,   鎌田智彦 ,   本江純子

ページ範囲:P.177 - P.179

 血管内エコー法は高周波超音波カテーテルを血管内に挿入して,血管の内側から血管の形態や内部構造を診断しようとする新たな方法で,動脈硬化などの血管病変の診断に有力な手段となるものと期待されている.この血管内エコー法を用いると血管の横断面がBモードで描出され,血管壁のみならず血管の壁内構造の情報も得ることができ,病理組織所見と極めて類似した所見を生体で見ることができる(図1,2)1,2)
 これまでに生体における動脈硬化病変を評価する方法として主に血管造影法が用いられているが,この方法では血管のシルエットが描出されるだけで病変を正確に評価することはできない.また最近開発された血管内視鏡でも血管をより詳細に観察できるようになったが,視野の確保には血液を排除する必要があり,また得られる情報はあくまで血管表面に限られている.これに対し血管内エコー法は,血液は超音波にとってむしろ良好な媒体であり,極めて簡便に血管の形態はもとより狭窄度や石灰化の有無など動脈硬化の程度を正確に把握できる.

けんさ質問箱

Q 血液像検体の保存法

著者: 相賀静子 ,  

ページ範囲:P.180 - P.180

 末梢血の血液像の検体が,時間外に来たために冷蔵庫に保存されている場合があります.このときは鏡検をしても血球が崩壊していることが多く,正確なデータが出ません.検査室に人がいる時間帯なら塗抹標本も作っておけるのですが,検査技師以外の人にもしてもらえる簡単な保存法があったら教えてください.

Q 小円形細胞の分類

著者: 今井宣子 ,  

ページ範囲:P.181 - P.182

 小円形細胞は分類上どこへ入れたらいいのでしょうか.また,扁平上皮も移行上皮も深層からの細胞は丸い形をしていますが,それらとの区別のしかたと尿細管上皮の見分けかたを教えてください.

Q 細網肉腫はいま

著者: 河原栄 ,  

ページ範囲:P.182 - P.183

 以前は細網肉腫と診断されていたものは,現在どのような分類になっているのでしょうか.表面マーカー,特殊染色,生化学検査の結果など,臨床所見も併せてお願いします.

Q ヒゼンダニの皮膚からの採取法

著者: 宮本健司 ,  

ページ範囲:P.183 - P.184

 疥癬の原因になるヒゼンダニの皮膚からの採取法をお教えください.またダニの卵の形状はどのようなものでしょうか.

今月の表紙

肝細胞癌と肝硬変

著者: 諸傑 ,   町並陸生

ページ範囲:P.107 - P.107

 図左上は分化型の肝細胞癌で,細胞密度はやや高く,腺管様構造もみられる.図右上は,図左上と同じ部位を画像解析装置による計測のため肝癌細胞の核を緑色に変換したもので,この部分の核面積平均値は約44.843μm2である.残念ながら本計測では類洞内皮の核も拾ってしまったので,肝細胞癌の核面積の平均値が実際より低く出てしまった.一方,図左下は同一標本の非癌部の肝硬変組織で,図右下は図右上と同様に組織計測のため核を緑色に変換したもので,核面積平均値は61.250μm2である.腫瘍総論上は,癌細胞の核のほうが,正常細胞の核よりも大きいと考えるのが常識であるが,実際に組織計測を行ってみると,本症例のように,正常細胞の核のほうが癌細胞の核より大きいことが明確になり,組織計測を行うことは意味のあることと考えられる.一方,核の密度は計測を行うまでもなく,一見して肝細胞癌のほうが高い.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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