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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術21巻12号

1993年11月発行

雑誌目次

病気のはなし

クリプトコッカス症

著者: 前崎繁文 ,   田中研一 ,   河野茂

ページ範囲:P.960 - P.966

サマリー
 クリプトコッカス症は酵母状真菌であるCryptococcus neoformansの感染によって発症する深在性真菌症である.C.neoformansは2変種,5血清型が存在し,生育環境や病原性に違いがある.クリプトコッカス症の診断は真菌学的に局所から菌を分離するか,ないしは病理学的に菌の存在を認めることによって診断される.本症における血清学的診断法は,感度,特異性ともに優れ,極めて有効な補助診断法である.臨床的には無症状にて胸部X線の異常で発見される例が多く,胸部X線では空洞を有することが特徴である.治療としては抗真菌剤の投与が行われるが,基礎疾患を有する患者に発症する続発性の症例では予後不良となることも経験され,抗真菌剤の併用療法が試みられている.

検査法の基礎

リンパ球混合培養法

著者: 岩戸康治 ,   土肥博雄

ページ範囲:P.967 - P.971

サマリー
 リンパ球混合培養(mixed lymphocyte culture reaction;MLC)法は臓器移植,特に骨髄移植や生体腎移植における組織適合性や移植片対宿主反応を予知し,的確なドナーの選択に必須の検査である.検査法自体は比較的簡便であるが,結果の解釈に当たってはMLCの原理を理解することが必要である.

ROC分析の理論と方法

著者: 辻一郎 ,   久道茂

ページ範囲:P.973 - P.978

サマリー
 臨床検査法の診断技術評価を行う方法の1つとして最近注目を集めている受信者動作特性(receiver-operating characteristic;ROC)分析について紹介する.ROC分析とは,複数の検査法について感度と特異度を同時に検討することにより,各検査法の精度を比較検討するものである.ここでは,その理論的背景の解説に加えて,筆者らが実際に行った研究をもとにその具体的方法について手順を追って述べる.併せて,ROC分析のもう1つの意義である最適なカットオフ値の決定法についても紹介する.

技術講座 生化学

パソコンによる臨床化学成分の加齢変化の求めかた

著者: 西田敏信

ページ範囲:P.979 - P.985

サマリー
 多数の健常者データとその分布型が明らかであれば,正常値設定法の1つであるパラメトリック法で正常値を設定することは容易である.このパラメトリック法の1つに反復切断補正法があり,臨床化学検査19項目,男女0歳から80歳までの正常値を一括して計算することができる.
 ここでは,健常者集団から求めた平均値および95%信頼区間を正常値とみなし,性・年齢ごとに層別化した各小母集団から求める方法について述べる.性・年齢別正常値のうち最も信頼性の高い平均値に注目し,臨床検査値の,この平均値の年齢による変化を加齢変化としてとらえた.

生理

脳神経外科疾患の脳波のとりかた

著者: 佐々木達也 ,   板倉毅 ,   児玉南海雄

ページ範囲:P.987 - P.995

サマリー
 脳神経外科領域では脳腫瘍,脳血管障害,頭部外傷,てんかんなど多くの疾患が脳波検査の対象となる.本稿では脳波の記録手技および注意点を中心に以下の項目について具体的に述べていくこととする.
 ①検査前の準備,②電極の位置と装着法,③脳波誘導法,④モンタージュ,⑤アーチファクト,⑥基礎波形,⑦各種賦活法(開閉眼,過呼吸,閃光刺激,睡眠,薬物賦活法),⑧脳波記録の実際,⑨緊急検査,術中記録,⑩2次元脳電図,パワースペクトル,⑪異常脳波(脳腫瘍,脳血管障害,外傷,モヤモヤ病,てんかん,脳死).

血液

骨髄像の読みかた—[2]血液細胞の構造と特性から

著者: 八幡義人

ページ範囲:P.996 - P.1001

サマリー
 骨髄における各血液細胞を“読む”場合には,まず最初に,生体細胞の持っている機能と細胞形態(特に細胞質内の超微構造)との相関を一般的によく理解しておくことが大切である.各生体細胞は,その持っている機能上の特性をその構造によく反映しているからである.各血液細胞もこの原則に従っており,したがって,その鑑別のためには持っている機能特性のゆえに表現されてくる形態学的特徴を読み取る必要がある.

一般

日臨技「尿沈渣検査法」による上皮細胞の見かた

著者: 八木靖二

ページ範囲:P.1002 - P.1005

サマリー
 1991年,日臨技(日本臨床衛生検査技師会)より尿沈渣標準法についてのテキスト「尿沈渣検査法」が発刊された.この「尿沈渣検査法」には,標本作製法,各種成分の分類法,記載法,および臨床的意義について提示されており,精密度,正確性の高い尿沈渣鏡検法を確立するために,極めて有用である.特に上皮系の分類法(表1)は,細胞学的分類法に基づいてまとめられており,腎・尿路系疾患の診断および治療に適切な情報を提供することはもちろん,尿沈渣鏡検の段階で悪性細胞のスクリーニングが各施設においても可能になることを期待する.

マスターしよう検査技術

マイクロウェーブを利用した病理組織標本の作りかた

著者: 五十嵐久喜 ,   加茂隆春 ,   太田勲 ,   椙村春彦 ,   喜納勇

ページ範囲:P.1011 - P.1016

 マイクロウェーブ(MW)照射による生物試料固定が1970年にMayers1)によって報告されて以来,今日まで数多くの研究が行われてきている2〜3).MW固定とは2,450MHzの電磁波によって分子運動を活発化させ,それに伴い,組織の蛋白を熱凝固させる方法である.この固定の最大の利点は,形態および抗原性の保持に優れる一方,光顕ならびに電顕標本の固定時間が大幅に短縮となったことであり,したがって,日常病理診断業務の迅速化に役立つものと思われる.最近では,MWを使った染色法や,加熱処理で抗原性の回復を図る4)など応用範囲も広い.現在,医科学専用機(BIO-RAD社,日新EM社,.エイコー社など)が市販されているが,本稿では,一般家庭用電子レンジを利用した,光顕および電顕標本の固定,免疫組織化学における抗原性の賦活化などについて解説する.

生体のメカニズム 脂質代謝・11

コレステロール代謝とHMG-CoA reductase inhibitorの作用機序

著者: 桂川敬太 ,   寺本民生

ページ範囲:P.1017 - P.1021

はじめに
 コレステロールはリポ蛋白質や細胞膜の重要構成成分である.また,各種ステロイドホルモンや胆汁酸の前駆物質としての役割を有し,生体にとって極めて重要な物質である.その生合成は図1)に示したように,アセチルCoAを基点として3-hydroxy-3-methylglutaryl(HMG)-CoA還元酵素を律速酵素とする20以上の酵素反応により形成される.人体には約100〜150gのコレステロールが含有されており,その約80%は,生合成に依存し,残る20%は食事由来と考えられている.血中ではコレステロールはリポ蛋白として存在し,30%が遊離型,残る70%はエステル型として運搬され,各種臓器において上記のように利用されている.このようにコレステロールは生体にとって必要不可欠であるが,過剰に存在すると虚血性心疾患などの動脈硬化性病変を引き起こす.本稿では生体内コレステロール代謝について述べ,またコレステロールを低下させる薬物として注目されているHMG-CoA還元酵素(HMG-CoA reductase inhibitor)についてその作用機構を中心に述べたい.

検査データを考える

アーチファクトと鑑別しにくいホルター心電図の症例[2]

著者: 土井智 ,   佐藤光子 ,   松木寮子 ,   群山八郎 ,   蝦名弘子

ページ範囲:P.1024 - P.1028

 前号では,アーチファクトによるホルター心電図所見を提示した.今回は,さらに鑑別の難しい例として,体位変換による心電図変化および真性の異常所見について述べることとする.

講座 英語論文を読む・35

アンギオテンシン変換酵素阻害剤の正常血圧Ⅱ型糖尿病患者の血中クレアチニンと蛋白尿に対する長期安定化作用

著者: 弘田明成

ページ範囲:P.1022 - P.1023

 ■目的:微量アルブミン尿症とⅡ型糖尿を伴う患者の蛋白尿と腎機能の低下速度に対するアンギオテンシン変換酵素附害剤の長期効果を評価するため.
 ■設計:無作為抽出,二重盲,偽薬管理を用いた実験.すべての患者で5年間の追跡を行った.

検査ファイル

細胞接着物質

著者: 櫻川信男

ページ範囲:P.1029 - P.1029

 血液が1,000mm2(100g)にも達する全身血管内を流動できることは血栓止血学的諸要因を産生して抗凝固性を帯びる血管内皮細胞による.内皮細胞はそれから分泌される細胞外基質様物質で密着接合しつつ一定の間隙をもって血管透過性を示し,また白血球の遊走や移動を可能にする.これらを細胞接着物質と称し,フィブロネクチン,トロンボスポンジン,ビトロネクチン,ラミニンなどが含まれる.

アンバウンドビリルビン

著者: 中村肇

ページ範囲:P.1030 - P.1030

[1]新生児高ビリルビン血症と核黄疸
 新生児期には,生後数日間黄疸が出現し,自然に消退する生理的黄疸と呼ばれるものから,ビリルビンの持つ細胞毒性により重篤な神経学的後障害,すなわち核黄疸を引き起こす病的黄疸まである.核黄疸の症状は非特異的なものであるので,血清中のビリルビン濃度の測定が臨床的に不可欠である.

Clostridium difficile toxin A

著者: 吉田勝彦 ,   中村良子

ページ範囲:P.1031 - P.1031

はじめに
 Clostridium difficileは,抗生剤性偽膜性大腸炎(バンコマイシン適応疾患)の起因菌として知られているが,近年は院内感染源としても問題となっている.多くの無症候性保菌者が存在するので,診断には毒素toxin Aの検出が必須である.ここでは現在,迅速簡便法として用いられているラテックス凝集法をはじめとしたtoxin Aの検出法について紹介する.

尿ビリルビン

著者: 稲垣清剛

ページ範囲:P.1032 - P.1032

はじめに
 尿中には多種多様な物質が含まれ,体外に排泄されている.その量的変化は体の状態を反映しており,迅速・簡便な試験紙による分析も盛んに行われている.その中の1つにビリルビンが挙げられる.

ラボクイズ

問題:尿沈渣

ページ範囲:P.1008 - P.1008

10月号の解答と解説

ページ範囲:P.1009 - P.1009

明日の検査技師に望む

明日の臨床検査

著者: 川越裕也

ページ範囲:P.972 - P.972

 臨床検査は,①一般臨床検査,②研究検査,③予防医学検査に分けられる.この3者について今後問題になる点を拾い上げてみたい.

けんさアラカルト

国際臨床化学連盟(IFCC)の活動—[1]IFCCの歴史と現状

著者: 奥田潤

ページ範囲:P.1010 - P.1010

 国際社会の中で極めて重要な一員となった日本で,各種の国際学会が多く開かれるようになった.一方,東西ドイツの統一,ECの統合など目まぐるしい国際社会の変化が起きている.
 その意味で,日本臨床化学会の親組織でもあるIFCC(International Federation of Clinical Chemistry;国際臨床化学連盟)に対し,われわれはどのように対処していったらよいであろうか,今後さらに積極的な対応が必要となると考える.

トピックス

サイログロブリンと抗サイログロブリン抗体

著者: 近藤洋一

ページ範囲:P.1034 - P.1035

 サイログロブリン(thyroglobulin;Tg)は甲状腺特有の蛋白質であって,甲状腺ホルモンはこの蛋白質分子上で合成され,必要になるまで,この蛋白質分子中にポリペプチド鎖のアミノ酸残基として保持されている.いわば,Tgは甲状腺ホルモンの母分子であり,プレ甲状腺ホルモンと呼ばれる場合すらある1)

迷走神経刺激によるてんかんの治療

著者: 朝倉哲彦 ,   中村克巳

ページ範囲:P.1035 - P.1036

 てんかん外科治療は,外科の伝統的な発想から,過剰な発射を示す組織を切除する,あるいは過剰な発射の伝播を遮断するという術式を生み出した.つまり,I)切除外科として,①焦点切除術,②脳葉切除術,③大脳半球切除術,II)遮断外科として,①皮質切離術(multiple subpial transection;MST),②定位脳手術,③交連切載術が挙げられる.
 しかし,てんかん発作の発現には興奮系と抑制系の絡み合いが関与している以上,ここで抑制系の補強という考えが生まれても当然である.薬理学的にも企図されているところであるが,外科的には特定の抑制系を刺激することになる.そこで以前から抑制系の賦活による方法も行われていた.小脳歯状核—赤核—視床—大脳皮質運動野を結ぶ経路に障害が起こると企図振戦をみることが知られている.この系を刺激・強化すれば異常運動の制御が可能になるであろう.Cooper1)は小脳半球上に慢性電極を植え込み,これを刺激して発作をコントロールしようとしたのである。しかし往年のことであり,刺激部位・刺激装置の不備,症例の選択が不十分,などから期待されたほどの成果は得られなかった.

抗TSH受容体抗体

著者: 江口勝美 ,   石川直文 ,   長瀧重信

ページ範囲:P.1036 - P.1038

はじめに
 自己免疫疾患は自己の体構成成分に対する自己抗体(液性抗体)と感作リンパ球(細胞性免疫)によって引き起こされる.自己抗体には細胞抗原(細胞核,細胞質,細胞膜)と,細胞以外の抗原(変性IgG,コラーゲンなど)と反応する抗体に分けることができる.
 ある種の自己免疫性甲状腺疾患患者血清には甲状腺濾胞細胞膜上の甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone;TSH)受容体に対する抗体が検出され,これは抗TSH受容体抗体(TSH receptor antibody;TRAb)と総称される.本抗体は甲状腺濾胞細胞のTSH受容体と結合して,甲状腺ホルモン産生を刺激したり,TSHがTSH受容体に結合するのを阻害してホルモン産生をブロックしたりする.本稿ではこの抗TSH受容体抗体について述べる.

伝染性軟属腫ウイルスの最近の知見

著者: 中村純 ,   吉田まり子 ,   村木優子 ,   宇野文夫 ,   山田雅夫 ,   新居志郎

ページ範囲:P.1038 - P.1039

はじめに
 1979年天然痘の根絶が宣言され,ポックスウイルス科に属するウイルスでヒトを自然宿主とするものは事実上伝染性軟属腫(伝染性軟疣)ウイルス(molluscum contagiosum virus;MCV. molluscum=蝸牛,軟体動物)のみとなった.このウイルスは一般には“みずいぼ”と呼ばれる皮膚疾患を引き起こすことが知られているが,かつての天然痘と比べると病気自体の恐しさは問題にならない.近年,後天性免疫不全症候群(AIDS)患者での日和見感染症の1つとして注目されるようになった.このウイルスはヒトパピローマウイルスなどと同様に,現在まだ試験管内(培養細胞)での培養,増殖が不可能であり,このため治療に関連する分子生物学的知見にもはなはだ乏しい.今回このウイルスについてウイルス学的に判明していることの概略について述べてみたい.

けんさ質問箱

Q B型肝炎の母児感染

著者: 飯野四郎 ,  

ページ範囲:P.1040 - P.1041

 当院ではHBs抗原(+)の妊婦では,出生時臍帯血においてHBs抗原・抗体,e抗原・抗体の検査をしています.今回,e抗原(+)の母から生まれた子供で,4項目を追跡した結果,表のようになりました.
 子供は,s抗体(+)になるまでe抗原(+)であるにもかかわらず,s抗原(-)です.このほかの例でも,e抗原(+)の母から生まれた子供では,臍帯血で検査するとすべてs抗原(-)でe抗原(+)です.

Q 立位心電図の検査

著者: 池田こずえ ,   R.M.

ページ範囲:P.1041 - P.1042

 立位心電図について,検査の目的,意義,陽性の判断基準,心電図変化の生理的メカニズムなど,詳しくご教示ください.また,陽性時に,II・III・aVFのT波がnegativeになりますが,この部位にだけ特異的に変化が現れる原因や,その神経循環無力症(neurocirculatory asthenia;NCA)との関連などについてもお願いします.

Q 膿尿の沈渣渣の鏡検

著者: 宿谷賢一 ,   古谷信滋 ,   中原一彦 ,   K.A.

ページ範囲:P.1042 - P.1043

 膿尿の沈渣の鏡検で,細胞成分が顆粒化してしまい,鑑別不能なことがあるのですが,これは膀胱の中での貯留時間の長さが影響しているのでしょうか.あるいは検査手技になんらかの問題があるのでしょうか.膿尿での検尿の注意点など併せてご教示ください.

今月の表紙

婦人科:絨毛性疾患

著者: 星利良 ,   都竹正文 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.1033 - P.1033

 絨毛とは胎盤を形成している組織の1つであり,胎児性外胚葉由来の絨毛上皮細胞(トロホブラスト;trophoblast)より成る.
 正常の絨毛組織は,上皮細胞層(栄養穿層)と基質とから成り,その中に毛細血管を有する.絨毛上皮細胞は,外層の合胞体層を形成するシンシチウム型トロボブラスト(syncytiotrophoblast)と内層のラングハンス層を形成するラングハンス型トロホブラスト(cytotrophoblast)より成っている.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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