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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術21巻3号

1993年03月発行

雑誌目次

病気のはなし

乳癌

著者: 松山孝子 ,   岩瀬拓士 ,   吉本賢隆 ,   渡辺進 ,   霞富士雄

ページ範囲:P.184 - P.189

サマリー
 わが国の乳癌罹患率が増加している.乳癌は,他と比べて予後の良い癌であるが,再発率,死亡率は減少しておらず,侮れない疾患である.
 乳癌の早期診断は,再発率,死亡率を減少させるためのみならず,quality of lifeの向上,すなわち美容面をも考慮した乳癌の縮小手術を行うために重要である.最近,わが国でも乳房温存療法が取り入れられ,今まで以上に正確な癌の広がりの診断が必要とされてきている.一方,乳腺腫瘍の良・悪性診断を目的とする不必要な生検を避けるため,より正確な触診,および諸検査による質的診断が要求されている.早期発見と正確な診断が乳癌治療成績の向上に必要と考えられる.

検査法の基礎

血清酵素検査データのみかた

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.191 - P.196

 血清酵素活性のデータが臨床診断に用いられるようになったのは1914年,イヌ膵管結紮によって,血中,尿中のジアスターゼ(アミラーゼ)活性が上昇することが見いだされてからである.
 血清酵素レベルからの診断には,血清中の酵素活性が何に由来するか,そのレベルは何によって定められるのか,を十分理解しないと評価することは困難である.単に,どの病態で血中の酵素活性が変動するかを理解するだけでなく,変動の要因を理解していることが検査室で酵素活性の評価をするうえで重要である.また,測定する酵素は何を知るために測定されるかも重要なことであり,本稿ではこれらを順に解説することとする.

技術講座 病理

脱灰標本による類骨染色

著者: 吉木周作

ページ範囲:P.197 - P.201

サマリー
 骨組織に特殊な前処理を施すことにより,脱灰切片上でも類骨を明瞭に染色あるいは識別できるよう考案された吉木法とトリップ・マッケイ法を紹介した.
 脱灰前の骨組織小片を,前者は塩化シアヌル液で,後者は硝酸銀で処理することにより,ギ酸脱灰,H・E染色切片上で類骨を識別することができる.これらの方法は脱灰切片を用いるので,薄切が容易であるばかりでなく,染色も普通のH・E染色でよく,わずかの注意を怠らなければ特別な設備機器や技術を必要としないまことに有用な方法である.

マスターしよう検査技術

免疫固定法

著者: 小林理 ,   峰岸紀子

ページ範囲:P.205 - P.210

はじめに
 免疫固定法(immunofixation;IF)は1969年Alperが工夫し,1976年RitchieらがM蛋白の同定に利用し,臨床検査として応用されるようになった1,2)
 IFは試料を支持体上で電気泳動後,目的とする蛋白に直接,抗血清を作用させ,泳動されたその位置に不溶性の免疫複合体(沈降帯)として固定(免疫固定)し,抗原抗体反応にあずからなかった余剰蛋白を洗浄除去した後,沈降帯のみを染色検出する方法で,簡便・迅速で検出感度が極めて良い利点を持ち,M蛋白同定においてIgM型のL鎖の同定,M蛋白帯が2本以上認められる場合,M蛋白量微量の場合,特に有用である2,3)

生体のメカニズム 脂質代謝・3

LPLとHTGL

著者: 白井厚治

ページ範囲:P.211 - P.216

はじめに
 リポ蛋白リパーゼ(lipoprotein lipase;LPL)は末梢血管内皮細胞表面に存在し,血流中のカイロミクロン,超低比重リポ蛋白(very low density lipoprotein;VLDL)-中性脂肪を分解する酵素である.本酵素が臨床的に重要であるのは本酵素活性低下によって,これら中性脂肪に富むリポ蛋白異化低下を生じ,高カイロミクロン血症,高VLDL血症が引き起こされるからである.
 肝性リパーゼ(hepatic triglyceride lipase;HTGL)は肝細胞表面に存在し,やはり血流中の中性脂肪を分解する酵素であるが,リポ蛋白リパーゼと異なり,主に中間型リポ蛋白(intermediate density lipoprotein;IDL)-中性脂肪を分解する.したがって,その活性低下は高IDL血症をもたらす.

検査データを考える

ST上昇を示す心電図

著者: 鈴木典夫

ページ範囲:P.217 - P.223

はじめに-ST上昇とは
 心電図のST間部は,正常では心室に興奮がおおむね一様にゆきわたった時期に当たるので,簡単にいえば電気的にはゼロ,したがってほほ零線(T-Pレベル,基線,等電位線ともいう)上にある.
 ST間部の等電位線からの偏りをST偏位(ST deviation)といい,そのうち陽性(上向き)側への偏位をST上昇(ST elevation),陰性(下向き)側への偏位をST下降(ST depression)という.ST偏位はその機序により,一次性(心室筋の膜電位変化によるもの)と二次性(心室内興奮伝播過程の異常に伴うもの)とに分けられる.

講座 英語論文を読む・27

食物脂肪および線維と乳癌の危険性の関係:8年間の追跡調査

著者: 弘田明成

ページ範囲:P.224 - P.225

 目的:食物脂肪は乳癌を増加させ食物線維は減少させるという仮説を検証するため.
 方法:有効かつ自己管理された食事内容に関する調査表に基づく食事の基礎量の評価による前向きコホート調査を用いた.

検査ファイル

HBV—アルブミンレセプター

著者: 飯野四郎

ページ範囲:P.227 - P.227

 HBs抗原陽性血の中のあるものにヒトアルブミンをグルタールアルデヒドで重合させてヒツジ赤血球に付着させたものを凝集させるものがあることは1972年に松橋直らによって見いだされた.その後1970年代の終わりになって,上記のポリアルブミンレセプター(poly human serum albumin recepter;PAR)活性はHBe抗原陽性血に認められ,さらに検討すると,この活性はB型肝炎ウイルス(HBV)粒子やHBe抗原陽性例のHBs抗原粒子に認められ,HBs抗原粒子でも,HBV遺伝子のpre-S2遺伝子から作られたHBs抗原(pre-S2抗原)に局在していることが明らかにされた.
 一方,ヒトの流血中には老化したアルブミンが重合してポリアルブミン(PA)として存在し,これが肝細胞表面にあるPARに結合して,肝細胞の中へ取り込まれて,処理されているという考えがある.

抗好中球細胞質抗体(ANCA)

著者: 吉田雅治

ページ範囲:P.228 - P.228

 抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmicantibody;ANCA)の報告は,1982年Daviesらが半月体形成を伴った,巣状・壊死性糸球体腎炎の患者血清中に認めたのが最初である.近年,ANCAがWegener肉芽腫症(WG)および顕微鏡的結節性動脈周囲炎(MPN),特発性半月体形成性腎炎(ICr-GN)において高頻度に検出され,血管炎および腎疾患の中でANCAが病態に関与するANCA関連血管炎,腎炎が見いだされ注目されている1,2)

トロンボモジュリン

著者: 家子正裕 ,   小池隆夫

ページ範囲:P.229 - P.229

[1]血管内皮細胞の抗血栓作用
 血管内皮細胞は血管の内腔をただ1層で覆っている血管固有の細胞であり,その機能は多様であるが,特に抗血栓機能と止血血栓機能は重要である.内皮細胞の抗血栓作用としては,①トロンボモジュリン(thrombomodulin;TM)の産生,②ヘパリン様物質の産生,③組織プラスミノーゲンアクチベーターの産生と放出,④プロスタサイクリンの産生と放出などが知られている.特にTMは血液凝固の制御機構として重要である.

ラボクイズ

問題:尿沈渣

ページ範囲:P.202 - P.202

2月号の解答と解説

ページ範囲:P.203 - P.203

明日の検査技師に望む

病理業務と臨床検査技師

著者: 福田純也

ページ範囲:P.190 - P.190

 私は現在,勤務先の病院で臨床検査部門を統轄する立場にありますが,病理業務にも直接従事していますので,本稿では「病理業務と臨床検査技師」と題して,日ごろ念頭にあることを書いてみたいと思います.
 病理業務は一般に,病理医を先頭にして,臨床検査技師,衛生検査技師,細胞検査士,剖検助手,標本作製助手,写真技師,事務職員などの従事者の協同作業によって遂行されており,いわゆるチームプレイであります.私が病理業務に初めて従事しましたのは,大学医学部病理学教室に大学院学生として入室した昭和37(1962)年春であります.当時,教室の組織標本作製室にも,大学附属病院中央臨床検査部病理検査室にも,臨床検査技師養成校の出身者が配属されていましたので,私は病理業務を,この30年間,終始臨床検査技師の方々と相携えて遂行してきたとの思いがあります.

けんさアラカルト

臨床検査と「医の倫理」

著者: 小山田耕治郎

ページ範囲:P.204 - P.204

 検査技師教育の中で,臨床検査の定義は与えられていない.『医学部において,医学とはなにかを教えられない』1)ことを考えると,技師教育の現状は当然なのかもしれない.専門の諸分科とは別に,医学とは何か,臨床検査とは何かを全体的に取り上げる哲学的思考は,わが国の医療技術職の教育では乏しいと言わざるを得ない.大学教育の場合はまだ救いがある.医と倫理の不可分を考える基礎をつくる倫理学は一般教養科目で選択できるし,医学部では,専門科目の「医学概論」は他の職種のように,概括的知識として講ぜられることはないと思われるからである.
 検査技師は,業務全体の概念を持たず,医学・医療に対する客観的認識も薄いまま,医療技術者の一員として実践に加わる.したがって医の倫理は,病院実習と卒業後の実務から個人こじんで断片的に身につけることになる.もちろん,実務家として医の倫理を経験から学ぶことは大切であるが,経験でしか学べないままにしておいて済む問題ではない.このような現状に疑問を感じ,18年前次の定義を私見として提出した2)

スイッチOTC薬

著者: 森嶋祥之

ページ範囲:P.226 - P.226

 近年,自分の健康は自分自身で守るというセルフメディケーションの意識が高まりつつあり,タバコや酒に注意したり,適度な運動を心がける人が増えてきている.また,比較的軽い症状のうちに,いわゆる,大衆薬を用いて治そうというような機運が社会的にも高まりつつある.

トピックス

麻疹viral sheddingの期間

著者: 目黒英典

ページ範囲:P.231 - P.232

 麻疹ウイルス(measles virus;MV)は極めて感染力が強いにもかかわず,他のパラミキソウイルスに比較して分離培養が容易でなかった.その最大の原因はMVに感度の良い細胞が見つからなかったためであった.KobuneらはMVの分離培養に極めて感度の良い(従来用いられてきたvero細胞の104倍の感度の)B95a細胞を開発した1).筆者らはこのB95a細胞を用いて,麻疹におけるウイルス分離を4年間ほどかけて検討し,真のviral shedding(ウイルス排泄)に近いと思われる成績を得たので紹介する2)
 これまで,麻疹のウイルス分離については1957年に報告された成績が多くの成書の基になってきた3).すなわち,発疹出現前48時間から,発疹出現後32時間までは咽頭ぬぐい液や末梢血(全血)から分離できるが,発疹出現後36時間以降は分離できなくなるというものである.血中抗体の出現によりMVは急速に体内から消失すると考えられてきた.しかし,臨床的経験から,カタル期の始まりから発疹出現後3〜4日は感染力があることがわかっており,臨床経験とウイルス分離成績には食い違いがあったのである.

臓器移植コーディネーター

著者: 加藤治

ページ範囲:P.232 - P.233

はじめに
 心臓,腎臓をはじめとする,臓器移植が従来の医療と大きく異なるのは,医師と患者の関係のほかに,臓器を提供する第三者(ドナー)を必要とする点にある.このドナーを得るということは医学上の問題だけにとどまらず,多くの社会的問題を含んでいる.
 また臓器移植は,移植を希望する患者(レシピエント)に対しても従来と異なる対応が要求される.

リアルタイム共焦点型レーザ顕微鏡の尿沈渣赤血球形態観察への応用

著者: 兵藤透 ,   宮川征男 ,   飯野晃啓

ページ範囲:P.233 - P.234

 血尿中の赤血球が腎炎(糸球体性)由来か泌尿器科疾患(非糸球体性)由来かを鑑別する方法は位相差顕微鏡によりBirchら1)(1979)が報告している.以来,さまざまの追試が行われ,その有用性が確かめられている2)
 位相差顕微鏡は通常光を光源としているため像のコントラストが低く,不鮮明の場合も多く,赤血球の鑑別が煩雑で,時間を要し,判定に検者の主観が入りやすかった.

サイトカインとフェリチン合成

著者: 新谷直昭 ,   高後裕

ページ範囲:P.234 - P.235

 近年インターロイキン1(IL-1),インターロイキン6(IL-6)や腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor;TNF)などのサイトカインが,慢性炎症のさまざまな病態を説明するための起因物質となっていることが明らかとなってきた.中でも慢性疾患に伴う貧血(anemia of chronic disorders;ACD)は,一見鉄欠乏性貧血に似るが鉄剤の投与に反応せず,的確な治療法がないものとされてきた1).この貧血の原因は,通常効率よく使われる体内の鉄分が貯蔵組織である肝臓や脾臓にたまって出られず,骨髄での赤血球の産生に使われなくなるためである(この現象を「網内系ブロック」と称する).実際には,肝臓や脾臓の細胞内鉄貯蔵蛋白であるフェリチンの増加が関係している.なぜサイトカインが働くと細胞内のフェリチンが増加し,ひいては貧血までもたらすのか,その機序を明らかにすることは病態を説明するだけでなく治療法の開発にとっても重要であろう.
 では,どうしてこのような現象が起こるのか,図を参照しながら説明する.ラットにテルペンチンを皮下注射し人工的に炎症を起こさせた後,その血清を採血し,他の健康なラットにその血清を投与すると貧血が再現できる.

けんさ質問箱

Q 脳波検査の過呼吸のやりかた

著者: 片岡和義 ,   E.T.

ページ範囲:P.237 - P.238

 脳波検査の過呼吸を行わせる場合,速度を一定にするにはどうしたらよいか教えてください.

Q 輸血検査検体の不規則抗体の同定

著者: 浅井隆善 ,   M.K.

ページ範囲:P.238 - P.239

 クロスマッチ(交差適合試験)で不合格になり(自己対象はマイナス),不規則抗体同定を行うと,まれに,パネルに当ててもうまく一致しないことがあります.また,再度試みると凝集の出かたが違ってきたりします.同一検体,同一試薬でなぜこのようなことが起こるのでしょう.また,パネルに当てはまらないときは,同定をどのように行えばよいのでしょうか.
ある種の癌や悪性リンパ腫などでは抗体がマイナスにもかかわらず,クロスマッチが不合格になることがあると聞いたことがあります.このことと上記の事柄とは何か関係があるのでしょうか.

Q 無侵襲臨床検査としての尿中酵素測定の有用性

著者: 芝紀代子 ,   T.S.

ページ範囲:P.240 - P.241

 痛まずしてとれるということから,尿中成分が最近注目されており,特に尿中の酵素を測定して診断に役立てる試みが活発に行われていると聞きます.尿中酵素測定の有用性,具体的な臨床的意義について教えてください.また,自動分析用などの試薬はあるのでしょうか.

Q PSP試験で排泄量の総和が100%以上になる原因は?

著者: 佐々木美幸 ,   J.K.

ページ範囲:P.241 - P.243

 当院検査室でPSP試験を行っている際に,時折,注射後15分,30分,60分,120分の排泄量の総和が100%を超える検体に当たります.60〜80歳代の老人が多く,とても腎機能が良好とは思えず,ドクターに尋ねるのですが,「100%を超える分は問題ではない.別にかまわないよ」と言って取り合ってくれません.薬剤などの影響もあると思いますし,本来のデータではないと思うので気になります.
このケースの場合,どう処理し,またドクター側にどのように説明したらよいのでしょうか.

今月の表紙

悪性線維性組織球腫の細胞像

著者: 古田則行 ,   都竹正文 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.230 - P.230

 悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma;MFH)の悪性軟部腫瘍中に示める割合は高く,50歳以上の年長者では最も頻度が高い.四肢,特に大腿部に多く発生する.
 組織学的には組織球および線維芽細胞へ分化する細胞よりなる.診断にはstoriform pattern(花むしろ状配列)の確認が重要とされている.分類は通常型(花むしろ—多形型),粘液型,黄色肉芽腫型,巨細胞型と分類したり,通常型として組織球様,線維芽細胞様と両者の混合型,特殊型として,巨細胞型,炎症性型,粘液型,血管拡張型としたりと,さまざまである.

平成4年度年度(第65回,66回)二級臨床病理技術士資格認定試験 学科筆記試験 問題と解答

著者: 日本臨床病理学会 ,   日本臨床病理学会学院

ページ範囲:P.245 - P.289

〔細菌学〕
 1.消毒消毒剤の効果について正しいものの組み合わ せはどれか.
 1.エタノールの消毒力は濃度が高くなるほど強くなる.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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