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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術22巻10号

1994年09月発行

雑誌目次

病気のはなし

疥癬

著者: 田辺恵美子

ページ範囲:P.764 - P.767

サマリー
 疥癬はダニの一種である疥癬虫が皮膚に寄生することにより起きる感染症である.直接接触によるものと,寝具や衣類を介しての感染がある.最近では,家庭内感染のほか,病院内感染や施設内での集団感染が問題となっている.夜間の激痒を伴う丘疹,結節,特に指間の疥癬トンネルや外陰部の結節が特徽的である.治療はクロタミトン軟膏,安息香酸ペンジルローション,γ-BHCを全身に塗布する.感染の可能性があった者は症状の有無にかかわらず,全員の予防的治療が必要である.ノルウェー疥癬患者は感染力が強く集団発生の感染源になりやすいので注意が必要である.

検査法の基礎

自動尿沈渣分析装置の測定原理

著者: 前島隆雄 ,   新井信夫 ,   藤本敬二

ページ範囲:P.769 - P.774

サマリー
 尿沈渣の機械化・自動化は,沈渣物の数量計測と形態分析との両面を要求されること,また尿の物理的性質(浸透圧など)によって沈渣物の形態に差があることなどが,技術的なハードルとなり,他の分野に比べ大きく遅れていた.
 本稿では,当社の有する血球計数技術や経験をもとに開発した自動尿分析装置の測定原理を解説する.尿沈渣の装置分析を理解するきっかけになっていただければと考える.

技術講座 生化学

コレステロールエステル転送蛋白(CETP)測定法

著者: 山下静也

ページ範囲:P.775 - P.782

サマリー
 コレステロールエステル転送蛋白(CETP)は高比重リボ蛋白(HDL)の中に含まれるコレステロールエステルを超低比重リポ蛋白(VLDL)や低比重リポ蛋白(LDL)などのアポB含有リポ蛋白へと転送する.本蛋白の欠損により,著しい高HDL-コレステロール血症を生じる.
 本稿ではCETP活性を測定する方法について述べ,われわれが明らかにしたCETP欠損症におけるリポ蛋白代謝異常や遺伝子異常を解析する手法についても紹介する.また,CETP活性は種々の病態で変動するが,その変動因子についても言及した.

血液

トロンボテスト

著者: 櫻川信男

ページ範囲:P.783 - P.786

サマリー
 トロンボテストの原理,実施法,異常値を示す原因と対策を述べ,トロンボテストでコントロールされるワーファリンの薬理作用も併せて概説した.

病理

組織内に沈着した微量金属の組織化学的検出法

著者: 鷲見和

ページ範囲:P.787 - P.792

サマリー
 金属の組織化学的検出法を,①塩形成法(硫化銀法を含む),②キレート法に大別して,特にキレート法を中心に解説した.各々の方法の染色の原理を解説し,染色法に要求される条件として①特異性(選択性),②鋭敏性,③局在性を挙げて説明した.さらに特異性の高い染色剤がなかなか得られないことから標的金属の分別法に言及し,妨害金属のマスキング剤としてはポリリン酸塩が有効であるなどを解説した.さらに,鉄,銅,アルミニウム,亜鉛,水銀,カルシウム,クロムなどについて,古くから使われてきた代表的な染色方法を紹介した.

一般

細菌尿のスクリーニング

著者: 田中美智男

ページ範囲:P.793 - P.797

サマリー
 細菌尿のスクリーニングは尿路感染症の診断における重要な検査情報である.検査に際しては,正しい検体の採取,保存,輸送法が守られるとともに,検査成績に与える種々の要因を把握し,成績の信頼性を高める配慮が特に重要である.

マスターしよう検査技術

検体検査のバイオセフティ

著者: 正路喜代美 ,   丸山茂樹 ,   新井和明

ページ範囲:P.801 - P.807

はじめに
 医療業務の現場において感染の危惧は常である.“医療に携わる者の業務感染は恥”といわれたが,医療の高度発展,社会交流の進展は,医療感染に対する思慮を深め,情報化により医療感染に対する知識が普遍化した.
 “医療による感染防御は,医療従事者の業務”である.抵抗力の低下した患者は,通常病原とはならない常在菌が感染症の病因となる.検体検査は,採血時の患者への感染予防から始まり,採血者自身は針刺し事故を起こさないよう十分注意をする.検査業務中の安全配慮,検査後の器具や検体の処理業務など,他人にゆだねる前のバイオセフティについて,医療廃棄物研究会や厚生省のガイドライン,その他を指標にして実施している実態を,検査の流れに沿って解説する1〜3)

生体のメカニズム 遺伝子の異常・9

遺伝子疾患—血友病,フェニルケトン尿症

著者: 利見和夫

ページ範囲:P.809 - P.813

血友病
はじめに
 血友病患者は幼少時から関節出血や筋肉内出血などによる出血症状に悩まされ,現在最も高頻度に認められる先天性出血性疾患である.
 血友病は伴性劣性遺伝形式をとり,男子1万人に1人の割合といわれている.わが国の患者数は1991年度の調査1)によれば血友病Aが3,157人,血友病Bが650人で,その比率はほぼ5対1である.血友病患者の約1/3には家族歴のない孤発例で突然変異によるものと推定される.血友病には血液凝固第Ⅷ因子活性の欠乏によるものを血友病A,第Ⅸ因子活性の欠乏によるものを血友病Bと呼ぶ.さて血友病の診断は従来より血中の凝固因子活性および蛋白の測定が中心であったが,やや信頼性に問題があった.1980年代に入り,分子生物学的解析により第Ⅷ・Ⅸ因子の遺伝子が単離されたことにより,血友病の病因・病態の解明や家系内診断がDNAレベルで可能となった.

検査データを考える

血漿浸透圧と尿浸透圧

著者: 飯田喜俊

ページ範囲:P.823 - P.828

はじめに
 浸透圧とは半透膜を隔てて一方に溶液を他方に純溶媒を置いた場合,溶媒の1部が溶液側へと浸透して平衡に達するときに両側で生ずる圧力差をいう.臨床ではいろいろの場合にこれが異常となるが,それを調べるのに主として血漿と尿が測定される.
 本稿ではどのようなときに測定がされるか,患者の浸透圧がどのように変化するか,またその変化が病態にいかにかかわっているのか,検査技師として患者の状況に対応していかに検査内容を整理すべきかなどについて述べる.

わかりやすい学会スライドの作りかた

マッキントッシュによるスライド作製[1]入門編

著者: 宮澤六郎 ,   中平雄水

ページ範囲:P.814 - P.820

はじめに
 学会発表に使用されるスライドが,最近では,パソコンを使って制作を行うことが一般的になっている.これはパソコンの処理性能の向上,ソフトウェアの使いやすさの向上などによる技術進歩が普及した最大の理由と思われる.特にアップルマッキントッシュパソコンがよく使われている.したがって今回は,マッキントッシュによる“わかりやすい学会スライドの作りかた”を紹介する.

検査ファイル

心電計の漏れ電流

著者: 清水加代子

ページ範囲:P.829 - P.829

 心電計を安全に使用するためには,心電計の電気的安全性,信頼性が維持されることが重要である.これらを標準化したものとしてJISがある.
 ME機器の安全性に関するJISは1992年,国際様式の規格に改訂された.

緩和時間(MRI)

著者: 荒木力

ページ範囲:P.830 - P.830

 現在利用されているMRIは1H原子核を対象としたものであるが,実際に画像化されているのは水と中性脂肪に含まれる1Hである.水分含有量は脂肪を除く生体軟部組織間で大差ないため,MR画像のコントラストは主に1Hを含む分子の物理化学的状態で決まる緩和時間に依存する.緩和時間には縦緩和時間(T1,スピン格子緩和時間ともいう)と横緩和時間(T2,スピンスピン緩和時間ともいう)とがある.

グリコアルブミンの測定

著者: 中谷茂 ,   加藤芳男

ページ範囲:P.831 - P.831

はじめに
 生体内の種々の蛋白質は非酵素的に糖と結合する糖化反応を受けており,糖尿病などの高血糖状態では蛋白質の糖化が亢進している.蛋白質の糖化反応はその蛋白質が代謝されるまでの期間の血糖濃度に依存して進行するため,生体内半減期の異なる種々の糖化蛋白質を測定することにより異なる期間の血糖コントロール状態を推測することができる.
 グリコアルブミン(glycated albumin;GA)は血清中の主要蛋白質であるアルブミンがグルコースと結合した糖化蛋白質であり,アルブミンの生体内半減期が約17日であることから,採血前1〜2週間の平均的血糖レベルを反映するといわれている.血糖コントロールの指標として広く用いられているヘモグロビンA1C(HbA1C)が採血前1〜2か月という比較的長期間の血糖コントロール状態を反映するのに対し,GAはより短期の血糖コントロール状態を反映する.

Biolog System

著者: 広瀬健二

ページ範囲:P.832 - P.832

 菌種の同定にはグラム染色性,菌の形状,生化学的性状などの表現形質を多種類にわたって調べる必要がある.ところが,菌種を同定するための生化学的性状テストは菌種ごとに異なり,また,その種類が多いため属名を決定することさえ容易ではない.
 Biolog Systemは,グラム陽性菌用,陰性菌用および酵母真菌用に作製された3種類の96穴マイクロプレートを使用して1度に95種類の基質の資化テストを行い,菌種を同定するシステムである.

ラボクイズ

問題:病理組織標本の染色

ページ範囲:P.798 - P.798

8月号の解答と解説

ページ範囲:P.799 - P.799

明日の検査技師に望む

検査技師の選ぶべき道

著者: 吉原博子

ページ範囲:P.768 - P.768

 私は,医学部を卒業後もうそろそろ30年近くなりますが,そのうち約1/3の期間は,生化学をかじり,その後,臨床医として主として内科診療に携わり,6年ほど前から検査科を預かるようになって検査科の側から物を見るようになりましたが,この厳しい医療を取り巻く情勢の中で生き残っていく検査技師の条件とは何なのかと時々考えさせられます.まだ確たる結論の出ないままおぼろげな姿に折々修正を加えつつ明日のあるべき検査技師の姿に思いをはせています.
 医師や看護婦と違って職種としての歴史が浅く臨床検査技師でなければしてはいけない仕事が限定されていない現状では,医療界の必要に応じて臨床検査技師の職務内容は変わっていくものと思われますが,単に周囲の要請に押し流されるのではなく,他の職種の人にはできないわれわれ検査で食べているものにしかできない道をわれわれ自身が選んで確立していかなければならないと思います.

けんさアラカルト

胃および腸生検標本の取り違い

著者: 町並陸生

ページ範囲:P.800 - P.800

 最近の内視鏡生検症例数の増加は著しい.1回の生検で10個以上の組織片を採ることもそうまれではない.病理組織診断用のプレパラートが完成するまでには種々の過程があり,そのどこかで組織片が入れ替わると誤診のもとになる.癌患者の組織片が非癌患者の組織片と入れ替わった場合には,患者は大きな不利益を受ける.特に癌患者が癌でないと診断された場合の不利益は重大である.内視鏡室での組織片採取時,病理部への運搬時,病理部での標本作製時のそれぞれの時点で標本の取り違いは起こりうる.病理医が顕微鏡で生検標本を観察し,病理組織学的診断を行う際に標本の取り違いに気づくことがある.病理診断依頼書に記載されている事柄と標本の所見とが合わないことに気づき,その症例の前後に取り違えた相手がないか調べると,たいていの場合はその相手が見つかり,一件落着することになる.相手が見つからない場合は大変困ったことになる.また,病理診断依頼書の記載事項と病理組織所見の間に矛盾がなくても標本の取り違いがあることも極めてまれにはありうると思われる.
 病理標本作製に至る一連の過程は人間が行うことであるから,誤りが起こることは当然ありうることであるが,そのような誤りを最小限にくい止めるよう努力することが必要である.それではどのようにすれば標本の取り違いをできるだけ少なくすることができるのであろうか.

トピックス

遠隔病理診断システム

著者: 高橋基夫

ページ範囲:P.833 - P.834

 現代医療における病理診断の占めるウエイトは極めて大きい.精度の高い病理情報が速やかに臨床医と病理医との間で交換されて初めて信頼性の高い診断が可能となる.しかしながら地域医療の現状をみると病理診断部を有する病院は少ない.病理専門医の絶対数はいまだ少なく,かつその大半は大学病院に集中しているため,常勤の病理医のいる病院は全国で約9%にすぎず,多くの一般病院ではその病理診断を大学病院,もしくは民間の臨床検査会社に委託しているのが現状である.多くの臨床医は病理診断の入手に時間的,地理的制約を受けていることは事実であり,特に手術中の迅速病理診断の実施は困難を伴うことが多い.また,病理医間で1枚のプレパラートを前にしてのディスカッションはしばしば行われるところであるが,これが全国的規模での情報交換となると時間と費用のロスは大きい.このような背景から病理顕微鏡画像の遠隔電送による病理組織診断システムの開発,実用化がなされてきた3)
 画像遠隔伝送の試みは約20年前より試みられてきたが,画質の面で実用の域にほど遠いものであった.近年の高性能CCDカメラの開発,HDTVの普及,光ファイバー網の全国普及などが遠隔病理診断システム(telepathology)を現実のものとした.わが国でも数十施設と数は少ないが,数年前より臨床応用されている1)

フローサイトメトリーによる尿沈渣測定

著者: 伊藤機一

ページ範囲:P.834 - P.836

1.フローサイトメトリーの歴史
 フローサイトメトリーはフローサイトメータ(flow cytometer;FCM)を用いた細胞同定法の総称で,血液分野を中心に現在広く利用されている.初期のFCMは落射型蛍光顕微鏡のスライドグラスを改造し,シースフロー方式(一定位置に細胞を流す方式)により細胞をスライドグラスに流し込むものであったが,現在普及しているのはシースフロー方式にレーザを組み合わせた装置であり,その原型は1969年,米国ニューメキシコ州のLos Alamos研究所で確立された1)
 現在のFCMとその母体となった蛍光顕微鏡との比較を表に示す.

血小板の活性化Ca2+

著者: 藤元哲郎

ページ範囲:P.836 - P.837

 血小板は流血中に存在する最も小さな核のない細胞であり,出血時に露出された内皮下組織に粘着したりADPやトロンビンなどの各種刺激物質に反応して凝集し,その非可逆的変化により止血,あるいは血栓形成に主要な働きをしている.この機能発現,制御に細胞内Ca2+イオンがセカンドメッセンジャーとして重要な役割を担っている1).例えば,Ca2+イオノホアにより血小板は活性化され,また細胞膜の透過性を高めたスキンド血小板では外のCa2+濃度依存性に活性化する.逆に細胞内のCa2+をキレートする物質を加えることにより活性化が抑えられる.上昇したCa2+イオンにより種々の蛋白リン酸化酵素の活性化をはじめとする刺激応答機構が働くが,そのうち最も重要なものはCa2+-カルモジュリン依存性のミオシン軽鎖キナーゼの活性化で,それにより収縮蛋白であるアクチンとミオシンの重合が起こり,血小板の形態変化と放出反応がもたらされる.刺激物質の種類にかかわらず,これら血小板内Ca2+濃度上昇後の経路は基本的に同じものと考えられる.また細胞外のCa2+イオンはGPⅡb-Ⅲa複合体の構造維持と血漿中のフィブリノゲンとの結合に必須である.GP Ⅱb-Ⅲa複合体は血小板細胞膜の主要な膜糖蛋白で,これを介して血小板同士がフィブリノゲンで架橋されることが血小板凝集反応の本態である.

けんさ質問箱

Q 嚢胞腎と多房性腎嚢胞の超音波検査における鑑別

著者: 寺沢良夫 ,   広田むつ子 ,   M.K.

ページ範囲:P.839 - P.840

 超音波検査上における,嚢胞腎と多房性腎嚢胞の鑑別点をご教示ください.

Q HCV-Abの判定

著者: 大越章吾 ,   上村朝輝 ,   R.N.

ページ範囲:P.840 - P.841

 HCV-Abの半減期を教えてください.また,HCV-Ab陽性の母親から生まれた新生児の垂直感染の有無の判定は生後何か月以降にするのが適切でしょうか.判定用試薬(グロブリン製剤,血漿製剤)についてその感染性や,抗体健在期間なども併せて教えてください.

今月の表紙

甲状腺髄様癌の細胞診

著者: 都竹正文 ,   𠮷田則行 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.828 - P.828

 甲状腺癌のうち濾胞上皮由来には,乳頭癌(papillary carcinoma),濾胞癌(follicular carcinoma),未分化癌(undifferentiated carcinoma)がある.傍濾胞上皮(C細胞)由来には髄様癌(medullary carcinoma)がある.甲状腺癌の発生頻度は乳頭癌80〜90%,濾胞癌10%に対して,髄様癌では全甲状腺癌の数%である.悪性度は濾胞癌ないし乳頭癌と未分化癌の中間に位置する.家族性に発生することが多く,また,副腎に褐色細胞腫が合併することがある(シップルsipple症候群).カルシトニンのほかにセロトニン,ACTH,CEAなどを分泌する.腫瘍の間質には,しばしばアミロイド沈着を伴うが,必発ではない.腫瘍細胞はグリメリウス染色陽性で,電顕的には神経内分泌顆粒が証明される.細胞診では腫瘍細胞はカルチノイド類似の小型円形ないし類円形のものから紡錘形を呈するものまで腫瘍細胞形態は症例によりさまざまである.標本背景にアミロイドを確認すればその診断は容易となる.腫瘍細胞の核には核内細胞質封入体を認めることがあり,低分化型乳頭癌との鑑別が必要となる.免疫組織化学的に腫瘍細胞がカルシトニン陽性となれば診断は決定的である.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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