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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術22巻5号

1994年04月発行

雑誌目次

総論 Ⅰ.免疫反応の原理

1.液性免疫反応

著者: 吉野谷定美 ,   三上恵世

ページ範囲:P.18 - P.22

■抗体産生機構
 今日の免疫学においては,生体内に侵入した異種抗原に対して,どのような免疫プロセスが働いてその抗原に対応する抗体を作っていくのか,という免疫学の根本的な現象について相当解明されてきている.しかし,いまだ不明の部分も多く,完全な抗体産生に至る過程の解明は将来に待たざるを得ない.
 本稿では,抗体は通常の免疫操作を経て手に入れられるポリクローナル抗体を主体に考えることとし,人為的に作られるハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体を対象とする場合は,あらかじめ断わりを入れることとする.抗体産生に至る過程といえば,抗原の認識から始まり,その処理,抗体産生細胞への呈示,その後に生じるリンパ球間の細胞情報交換,サイトカインの産生,特異抗体産生プラズマ細胞形成,などなどの過程であり,基礎免疫学の最も重要な課題である.本稿ではこの抗体産生の過程については触れない.

2.細胞性免疫反応

著者: 吉田浩

ページ範囲:P.23 - P.26

 生体防御の主役をなす免疫系は抗体を中心とする液性免疫とTリンパ球を中心とする細胞免疫に大別される.種々の感染症や疾患においても,いずれか一方のみだけが関与することは少なく,通常,液性免疫系と細胞免疫系の両者が,程度は種々であるが,なんらかの形で協調しあっている.これらについての知見が集積され,詳細な機序や機能などの詳細が知られてきている今日であるが,免疫系を2つに分けて理解することは便利である.本稿では細胞免疫について,皮膚反応,関与する細胞,細胞免疫機序による組織障害などについて概説する.

3.免疫調節とサイトカイン

著者: 北村聖

ページ範囲:P.27 - P.34

 近年,多くのサイトカインが同定され,遺伝子が単離されると同時に,リコンビナントサイトカインを用いて機能の解析が行われた.さらに,サイトカイン受容体の解析や,その後のシグナル伝達に関しても多くの知見が得られてきている.
 免疫系の分化,成熟と免疫反応に関与するサイトカインについても多くの知見が得られてきているが,いずれも複雑なネットワークを形成し,プラスの方向と,マイナスの方向を持ったサイトカインがあり,生体が必要とする微妙な調節を行っていることが明らかとなった,本稿では,リンパ球の基礎的な知識も含めて免疫系に働くサイトカインについて主なものを概説した.

Ⅱ.免疫学的測定法

1.沈降反応—免疫拡散法,免疫電気泳動法,免疫固定法

著者: 大谷英樹

ページ範囲:P.35 - P.37

■免疫拡散法
〔原理〕
 IgGなどの蛋白成分(抗原)に対応する特異抗血清(抗IgG血清などの抗体)を含む寒天平板内の円形穴に,一定量の被検血清を注入すると,抗原は寒天ゲル内を拡散し,抗原抗体反応の結果,円形の沈降輪が形成される1)(図1).
 既知量の標準物質の沈降輪の直径から標準曲線を作成し,被検液の濃度を定量することができる.

2.凝集反応(1)赤血球凝集反応,受身(間接)凝集反応

著者: 内川誠

ページ範囲:P.38 - P.41

 赤血球,細菌など光学顕微鏡で認めうる程度の大きさを持つ粒子状の抗原を,対応する抗体と反応させると,粒子は抗体によって橋渡しされるため,次から次へと結びついて凝集塊となる.これを凝集反応と呼ぶ.蛋白質などの可溶性の抗原に抗体を加えると抗原が抗体を仲立ちとして,肉眼でも観察できるようになる沈降反応とほぼ同じ機序である.可溶性の抗原を赤血球やポリスチレンラテックス(ラテックス)などの粒子状の物質(担体)に吸着させ,対応する抗体と反応させると凝集反応が起こる.この反応を受身凝集反応(passive agglutination;PA),特に赤血球を用いた場合は受身赤血球凝集反応(passive heamagglutination;PHA)と呼ぶことがある.凝集反応は手数が簡単であり,沈降反応よりも感度が10〜100倍高いことなどから,日常の臨床検査に広く用いられている.

2.凝集反応(2)免疫比濁法,免疫比朧法

著者: 伊藤忠一

ページ範囲:P.42 - P.43

 散乱光測定法を用いる方法を免疫比朧法(nephelometric immunoassay;NIA),積分球濁度測定法を用いる方法を免疫積分球比濁法(integrating sphear turbidimetric immunoassay;ISTIA)という.

3.溶解反応,中和反応,抑制反応

著者: 中村正夫

ページ範囲:P.44 - P.48

溶解反応
■溶解反応の種類とその応用
 溶解反応には,反応にあずかる抗原の種類によって,①溶菌反応(bacteriolysis),②溶血反応(hemolysis),③白血球溶解反応(leukocyte-lysis),④血小板溶解反応(blood platelet-lysis)などがある.補体存在下で有形細胞に対する抗体を反応させると細胞の溶解が起こる.

4.補体結合反応

著者: 水岡慶二

ページ範囲:P.49 - P.51

■補体結合反応の原理
 抗原抗体反応が起こり,抗原抗体複合体が形成されると,補体はその複合体に結合する.もう少し正確にいえば,抗体がIgGならばそのFc部分のCH2ドメイン,IgMならばCμ3ドメインに補体が結合する.一定量の補体を用いたときに結合する補体量はそこに形成される抗原抗体複合体の量に左右されるので,残存補体量は複合体が多く作られるほど少なくなる.したがって,特異的抗原抗体反応が起こったか否かは,最初に加えた補体量がこの段階(第1相の反応)でどれだけ消費されたかを見ればわかる.しかし実際には,どれだけの補体が消費されたかを肉眼で見ることはできない.そこで,第2相の反応として,赤血球(通常ヒツジが使われる)に至適濃度の溶血素を結合させた感作血球を加え,溶血反応が起こるかどうかをみる.感作血球が溶血するかどうかは,残存補体量いかんによって決まる.第1相の反応で抗原抗体反応が起こり,加えた補体が消費されていれば,第2相で加えた感作血球は溶けず,第1相の反応で抗原抗体反応が起こらず,補体が残存していれば第2相の感作血球は溶ける.このように,後から加えた感作血球がどれだけ溶けるかによって,第1相で抗原抗体反応が起こったか否かを間接的に知るのが補体結合反応である.したがって,実際には補体消費試験とも呼ぶべき方法である.

5.標識免疫測定法

(1)ヘテロジニアス反応とホモジニアス反応

著者: 千葉仁志 ,   小林邦彦

ページ範囲:P.52 - P.54

 抗原抗体反応の結果,抗原と抗体の結合型の部分(B)と結合していない部分(F)とが生じる.両者を物理的に分けることをB/F分離という.B/F分離を行う測定法をヘテロジニアス反応(不均一反応),B/F分離を行わない方法をホモジニアス反応(均一反応)という.表1に両者の特徴を示す.

(2)ラジオイムノアッセイ

著者: 内村英正

ページ範囲:P.55 - P.56

■競合アッセイ法
 図1に競合アッセイの原理とその標準曲線を示す.ここで大事なことは抗体の量と標識抗原の量(数)が一定となっており,検体(または標準品)の量が変化することである.既知の標準物質について適当な点(図では4点)をとり標準曲線を描き,その図から未知の検体中の物質を読み取る.
 標準曲線を作成するに当たって結合率を求めるのであるが(図で抗体と結合している標準抗原の数),そのためには抗体に結合したもの(bound)と,非結合の標識抗原(free)とを分離する必要があり,これをB/Fの分離という.ヘテロジニアスのイムノアッセイで物質を測定するためには必ずこのB/F分離を行わねばならない.現在広く用いられているB/F分離法は固相法である.固相として利用されているのは試験管,プラスチックのビーズや磁性を帯びた鉄粉などである.試験管の場合は内壁に均等に抗体が被覆されている(ビーズでは表面に抗体が被覆されている).イムノメトリックアッセイにおける固相法の原理を図2に示す.図は試験管固相法の場合である.固相法が一般化するまではB/F分離法は二抗体法,チャコールによる吸着性あるいは抗体を沈殿させるポリエチレングリコール(PEG)法などが用いられたが,現在はこれらの方法に代わって固相法が広く用いられている.その理由はこれらの方法は遠心操作と沈殿物と上清を分ける操作を必要とし,極めて煩雑で時間がかかることによる.

(3)酵素免疫測定法

著者: 矢部茂季 ,   小林功

ページ範囲:P.57 - P.60

■測定原理
 EIAの基本原理は,測定する目的の抗原または抗体に対して酵素で標識した抗体または抗原を用いて抗原抗体反応を行い,その標識酵素活性を測定することで目的の抗原抗体量を知る方法である.EIAの反応形式として,ある抗原(または抗体)を測定する場合に,その抗体(抗原)に対しての酵素標識抗原(抗体)と測定すべき抗原(抗体)とを同時に反応させる方法である競合反応(competitive reaction)と,抗体(または抗原)と測定すべき抗原(抗体)とを反応させた後に酵素標識抗体(抗原)を反応させる非競合反応(non-competitive reaction)に大別される.また,標識した抗原(または抗体)が抗体(抗原)と結合したもの(bound;B)と結合していないもの(free;F)とを分ける操作(B/F分離)を必要とするヘテロジニアス(heterogeneous)系と必要としないホモジニアス(homogeneous)系に区別される(表1).
 以下に代表的な測定原理について説明する.

(4)蛍光イムノアッセイ(FIA)

著者: 橋本琢磨 ,   西部万千子

ページ範囲:P.61 - P.66

■蛍光測定の原理
 光の照射により基底状態のπ電子が励起エネルギーを吸収し励起状態となり,基底状態に戻る際には光を放出する.放出される光子(蛍光)のエネルギーは,吸収される光子のエネルギーよりも常に小さい.このため蛍光スペクトルと吸収スペクトルを比較すると,蛍光帯は常に吸収帯より長波長側に現れる(stokes shift).蛍光物質は特有のスペクトル特性を有するため,使用する蛍光物質については,励起スペクトルと蛍光スペクトルを測定し,各スペクトルの極大吸収を求めて試料測定時の励起波長(ex. max)ならびに蛍光波長(em. max)を選択する.蛍光物質の蛍光特性(蛍光スペクトル,蛍光強度,蛍光量子収率注1))は,溶液の環境因子,特に溶媒,温度,pHおよび化学構造の影響を強く受ける.
 注1)吸収した光エネルギーが蛍光となる効率.

(5)カウンティングイムノアッセイ

著者: 橋本好一 ,   太田抜徳 ,   櫻林郁之介

ページ範囲:P.67 - P.68

■測定原理
 counting immunoassay(CIA)法は,ラテックスイムノアッセイ(latex immunoassay;LIA)法とフローサイトメトリー(flow cytometry;FCM)法を利用した免疫測定法で,抗原抗体反応によるラテックス凝集をシースフロー中で,光源として用いているレーザー光の散乱強度として検出する方法である.個々の凝集ラテックスを直接カウントし,ラテックス凝集塊の大きさと数から濃度を算出する点が,従来のLIA法との相違点である.
 わが国では,PAMIAシリーズ(東亜医用電子)が市販されており,その概要を図に示す1).ラテックス粒子は,シース液の流れに沿ってフローセル中央部を一列に並んで通過する.このラテックス粒子にレーザー光を照射すると,粒子の大きさに比例した前方散乱光が生じる.この散乱光をディテクタで検出し,反応にあずからなかった粒子数M(monomer)と反応により形成された凝集塊の数P(polymer)から凝集度P/T(T=P+M)を求めて,あらかじめ得られた検量線から濃度を求める.

(6)化学発光免疫測定法,スピンイムノアッセイ

著者: 笠原靖

ページ範囲:P.69 - P.73

■化学発光免疫測定法
 本法は発光化合物を直接標識する“化学発光免疫測定法”と,酵素を標識し,これにより直接,間接的に発光基質を発光させる“化学発光酵素免疫測定法”に大別される1).また,発光物質(エクオリンなど)や酵素(ルシフェラーゼなど)など,微生物やホタルのような生体における発光現象に由来する場合を生物発光と呼んでいる.

(7)フローサイトメトリー

著者: 中原一彦

ページ範囲:P.74 - P.76

■フローサイトメトリー(FCM)の原理
 現在フローサイトメーターは数機種出回っており,細かい点ではそれぞれ異っているものの,基本となる原理はどの機種も大きな変わりはない.基本的には,蛍光物質で標識された細胞に,ある種の波長を持った光線を当て,それによって反射した蛍光波長の情報をコンピューターで分析,標示するのがその原理である.光線の種類としては,大部分,488nmの励起波長を有するアルゴン・イオン・レーザーが使用されている.
 図1にBecton-Dickinson社製のFACS(Fluorescence Activated Cell Sorter)を例にとってその原理の模式図を掲げる1).一定の圧力をかけられた細胞浮遊液がノズルの先端から水柱となって勢いよく流出し,その水柱の中には細胞が1列に並び,1秒間に5,000〜10,000個の速さで落下する(機種によってはノズルがフロー・セルとなっており,下から上に水柱が流出するものもある).ノズルから流出した細胞はその直下でアルゴン・イオン・レーザーにちょうど当たるように調整されている.レーザー光線によってヒットされた個々の細胞の情報は,光電管によって感受され,その情報がコンピューターに送られ分析される.

(8)イムノセンサ

著者: 相澤益男

ページ範囲:P.77 - P.79

■免疫センサの原理と種類
 すべての免疫センサは抗体が示す抗原分子認識機能を利用して高度な選択性を発現する.多くの免疫センサでは,固体界面抗体が対応する抗原分子を認識して抗原抗体複合体を形成し,高感度に測定される種々の界面特性を変化するように設計されている.したがって測定液が免疫センサに接触すれば,たちどころにセンサの出力から測定対象の温度測定を行える.
 固体界面における抗原抗体複合体の形成を信号変換する方式により,免疫センサは次のように分類される.

(9)イムノブロッティング

著者: 川端眞人

ページ範囲:P.80 - P.81

 本稿ではイムノブロッティングの原理,操作手順および実施上の注意事項を述べる.

(10)蛍光抗体法

著者: 岡部英俊 ,   越智幸男

ページ範囲:P.82 - P.84

■蛍光抗体法の原理と臨床応用
 蛍光抗体法は,1941年にCoonsらによって蛍光色素を標識した抗体を用いた動物組織中の抗原の特異的検出法として手技が確立された.組織のみでなく,細胞や細菌,ウイルス,真菌,寄生虫などを含む微生物で,この検査法が汎用されてきた.臨床検査として感染症検査における真菌,ヘルペスウイルス,クラミジアや,血清検査での抗核抗体の検査,梅毒検査や血液検査での白血球の免疫組織化学的分析や病理検査なども広く応用されているが,その利用法や判定法の詳細については,本書の各論で述べられるので割愛した.本稿では,現在,臨床的に用いられている検査法の実例,検査方法の原理と観察法および標本作製や判定上の問題点の概略について述べる.

各論 Ⅰ.ホルモン 1.下垂体

(1)GH,ソマトメジンC

著者: 中井利昭 ,   竹越一博

ページ範囲:P.86 - P.88

■臨床的意義
 成長ホルモン(growth hormone;GH)は,成長促進作用(骨増生作用)および蛋白・脂質・糖・電解質など広範な物質代謝に関与している下垂体前葉ホルモンである.これらの作用の中で,主要な骨増生作用,蛋白合成促進作用の一部については,GHを介して分泌されるソマトメジンCがあずかっている.ソマトメジンCは,図1のように,下垂体から分泌されたGHが肝などソマトメジン産生細胞に働き,分泌されるものである.最近はソマトメジンCをIGF-Ⅰ(insulin-like growth factor-Ⅰ)と呼ぶよう提案されているが,ソマトメジンCの呼び名がなお用いられることが多い.
 GHの分泌は,成長ホルモン分泌促進因子(GRF)と成長ホルモン分泌抑制因子(GIF)によって調節されている.GIFはソマトスタチンであり,GHのみでなくTSHの分泌をも抑制している.このソマトスタチンは主に視床下部の前視索領域で生合成される.一方,GRFは主として弓状核および腹側内側核で生合成される.運動,食事などの代謝因子,いろいろなストレス,睡眠などが視床下部に感知され,それに応じて分泌されたGRF,GIFが下垂体門脈系を介して下垂体に達してGH放出が調節される(図1).

(2)ACTH

著者: 竹下栄子

ページ範囲:P.89 - P.91

■ACTH測定の意義
 血中ACTH測定の意義は,ACTH分泌異常症の病態を鑑別することである.
 初めに血中ACTHの基礎値を測定し,分泌減少の場合は刺激試験を,分泌過剰の場合には抑制試験を行って,視床下部-下垂体-副腎皮質系疾患を判別する.また異所性ACTH産生腫瘍の診断確認などにも応用される.基礎値はACTH・コルチゾールの日内変動を考慮して,一般的に早朝安静空腹時(午前8〜10時)のACTHの値である.ACTHは半減期が短いことや律動的に分泌されるため同時にコルチゾールを測定することが重要である.また外因性の糖質ステロイド剤の投与について確認が必要である.

(3)LH,FSH

著者: 左雨秀治

ページ範囲:P.92 - P.95

 黄体形成ホルモン(luteinizing hormone;LH)および卵胞刺激ホルモン(follicle stimulating hormone;FSH)は脳下垂体前葉から分泌される.LHおよびFSHの分泌を促進するホルモンが黄体形成ホルモン放出ホルモン(luteinizing hormone-releasing hormone;LH-RH)であり,脳下垂体の上位にある視床下部より分泌される.この視床下部-脳下垂体前葉-性腺系における機能障害の診断には,血中LHおよびFSHの測定が不可欠である.

(4)プロラクチン

著者: 山本剛史

ページ範囲:P.96 - P.98

■測定法
 わが国における血中プロラクチン(prolactin;PRL)の測定には,ラジオイムノアッセイ(RIA)法,続いてイムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)法が開発され,現在でも用いられている.しかし放射性物質を用いるために,その使用,保管,廃棄,安全管理など厳しい制限があり,また,使用する装置および設備が高価であるなどの問題点がある.そのため放射性物質を必要としないエンザイムイムノアッセイ(EIA)法,抗PRLモノクローナル抗体を用いた逆受身赤血球凝集反応を利用した測定キットなどが開発され,non-RIA化に向けて広く普及しつつあるが,最近では検出系に吸光度法や蛍光法より高感度な化学発光法を用いた,化学発光イムノアッセイが注目され,次世代の測定法として期待されている.

(5)バゾプレシン(抗利尿ホルモン)

著者: 山本英明 ,   赤司俊二

ページ範囲:P.99 - P.101

 抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone;ADH)である8-アルギニンバゾプレシン(8-arginine vasopressin;AVP)は下垂体後葉から分泌されるポリペプチドホルモンであり,血漿あるいは尿AVP測定は多尿性疾患(中枢性尿崩症,腎性尿崩症,心因性多飲症)の鑑別,AVP分泌不適合症候群(syndrome of inappropriate antidiuretic hormone;SIADH)などの診断に用いられている1〜5)

2.甲状腺・副甲状腺

(1)T4,フリーT4,T3,フリーT3

著者: 上條桂一 ,   成田明宏 ,   中村克司

ページ範囲:P.102 - P.104

■甲状腺ホルモン
 甲状腺機能の正確な判定・把握を目的として,甲状腺ホルモンを測定する.
 甲状腺ホルモンは,2種類存在しており,1つはサイロキシン(T4),他の1つは3,5,3'-トリヨードサイロニン(T3)である.T4が100%甲状腺で産生されるのに対して,T3はその62〜90%が甲状腺以外の肝・腎を中心とした末梢で産生される.

(2)TBG

著者: 森祐一

ページ範囲:P.105 - P.106

 サイロキシン結合グロブリン(thyroxine binding globulin;TBG)は肝臓で合成され,血中に分泌される分子量54,000,4本の糖鎖と395個のアミノ酸から成る糖蛋白で,電気泳動上α-グロブリン分画に泳動される.サイロキシン結合プレアルブミン(thyroxine binding prealbumin;TBPA),アルブミンとともに血中において甲状腺ホルモンであるサイロキシン(T4),トリヨードサイロニン(T3)を結合している.

(3)TSH

著者: 須川秀夫 ,   森徹

ページ範囲:P.107 - P.109

■TSHとは
 甲状腺刺激ホルモン(thyroid-stimulating hormone;TSH)は,脳下垂体前葉にある好塩基性細胞(thyrotroph)から分泌されるペプチドホルモンの1つである.甲状腺細胞表面の受容体に結合し,その名の示すように甲状腺細胞を刺激し,細胞の増殖,ホルモン合成,サイログロブリン合成,ヨードの取り込みなどを誘導促進する.TSH分子の約15%は糖鎖からできており,αとβの2種類のサブユニットが非共有結合して分子量約28,000のTSH分子を構成している.黄体化ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH),ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)などのホルモンも同様にα,βサブユニットで構成されているが,TSHを含めこれらのαサブユニットは共通であり1),それぞれのホルモンが発揮する特異性はβサブユニットによって規定されている2,3).また,これらのαやβサブユニット単独では作用が発現されないことから,血中TSHを正確に測定するために,市販の測定キットにはTSHβサブユニットに特異的でかつ2種のサブユニットから正しく構成されている分子を測定できるような工夫が施されている.

(4)TSH受容体抗体

著者: 玉置治夫 ,   網野信行

ページ範囲:P.110 - P.112

 自己免疫性甲状腺疾患の患者血中には,種々の甲状腺自己抗体が存在する1).その中でもTSH受容体抗体(TSH receptor antibody;TSH-RAb)は,バセドウ病における甲状腺中毒症および一部の甲状腺機能低下症の発症原因と考えられ,したがってその抗体の測定は日常臨床において,疾患の診断および経過観察には必要不可欠と考えられている1,2)
 TSH-RAbの測定法については,従来さまざまな方法が開発されてきた(表).このうちラジオレセプターアッセイによる抗体の測定法はキット化され,現在わが国では普及して用いられている3).ここではこの測定法を中心に述べる.

(5)サイログロブリン

著者: 加藤亮二

ページ範囲:P.113 - P.115

 サイログロブリン(thyroglobulin;Tg)は甲状腺濾胞上皮細胞で生合成され,濾胞腔に分泌・貯蔵されている.Tgは正常甲状腺組織湿重量1g当たり50〜100mg含有し,等電点4.5,アミノ酸5,496個と10%の糖成分から成る分子量66万(沈降係数19S)のヨウ素化糖蛋白質であり,甲状腺ホルモン(T3,T4)の合成の場として機能する重要な物質である.
 最近,cDNAからTgの一次構造1)が明らかにされ,Tgエピトープ解析から自己免疫応答機序や他物質との相同性および共通抗原性などが解明されつつあり,従来の甲状腺癌をはじめとする甲状腺各疾患のTg測定意義に加えて具体的な成果が期待されている.

(6)PTH,PTHrP

著者: 小倉美河 ,   山田行雄 ,   岡野一年

ページ範囲:P.116 - P.119

■PTH
1.PTHとは
 副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)は,副甲状腺主細胞から分泌される分子量9,500で84個のアミノ酸から成るポリペプチドホルモンである.PTHは,骨吸収と腎尿細管でのカルシウム(Ca)再吸収を促進して,血清Caを上昇させる.PTHの分泌は,血中Caの低下により促進され,血中Caの上昇により抑制される.

(7)カルシトニン

著者: 福永仁夫

ページ範囲:P.120 - P.122

■CT測定の臨床的目的
 カルシトニン(calcitonin;CT)は,1960年代の初めに,Coppら1)により発見されたカルシウム(calcium;Ca)低下作用を持つ32個のアミノ酸から成るポリペプチドである.その後,CTはヒトでは神経外胚葉由来の甲状腺傍濾胞細胞から分泌されることがわかり,この細胞はCT分泌細胞つまりC細胞と呼ばれるようになった2).さらに,C細胞の腫瘍である甲状腺髄様癌では,CTを過剰分泌することが明らかにされた.
 CTは,副甲状腺ホルモンや1,25(OH)2D3とともにCa調節ホルモンの1つであり,血中Ca濃度の恒常性に関与している.CTの主たる作用は,①骨に対しては骨吸収の抑制作用を示し,血中Ca濃度を低下させるとともに骨塩量の低下を抑制すること,②腎に対してはCaとリンの排泄を促進することが知られており,これらの結果,血中のCaとP濃度は低下する.その他の作用として,胃酸分泌を低下させ,中枢神経系に対する鎮痛作用が知られている.

3.副腎皮質

レニン・アンジオテンシン系

著者: 成瀬清子 ,   成瀬光栄 ,   出村博

ページ範囲:P.123 - P.125

 レニンは腎傍糸球体細胞で産生される酵素で,血中に分泌されると肝由来のアンジオテンシノーゲン(レニン基質)に作用してアンジオテンシンⅠを生成し,それがアンジオテンシン変換酵素によりアンジオテンシンⅡ,さらにアンジオテンシンⅢに変換される.アンジオテンシンⅡ(およびⅢ)は血管平滑筋の収縮による昇圧とともに,副腎皮質からのアルドステロン分泌を刺激することにより,血圧を上昇させる(図).したがって,レニン・アンジオテンシン系の活性度を知るには血中アンジオテンシンⅡの測定が最も論理的であるが,測定が難しく,通常レニン活性が最も広く使われている.
 レニン活性は,血漿を試験管内で37℃,1時間インキュベートし,血漿中に存在するレニンとアンジオテンシノーゲンの反応から生成されるアンジオテンシンⅠの量で表す,アンジオテンシンⅠはラジオイムノアッセイで測定する.したがって,レニン活性は,血中レニン濃度とともにアンジオテンシノーゲン濃度にも依存するが,後者は通常ほぼ一定なため,レニン活性はレニン濃度とよく相関する.しかしながら,妊婦や肝硬変などのアンジオテンシノーゲンに変動をきたす病態では両者に解離を示す.レニン活性はngAI/ml・hと表される.

4.膵・消化管

(1)インスリン

著者: 佐藤信行

ページ範囲:P.126 - P.127

■測定の臨床的目的
 インスリンは糖代謝における最も重要なホルモンであり,膵ランゲルハンス島β細胞から分泌される.血中インスリン測定により,糖尿病の診断,治療上有益な情報が得られ,さらに高インスリン血症により低血糖症を呈するインスリノーマ,インスリン自己免疫症候群などの診断,病態の把握にとって欠かすことのできないものである.

(2)C-ペプチド

著者: 佐久間伸子

ページ範囲:P.128 - P.130

 C-ペプチドはプロインスリン中のインスリンのA鎖とB鎖を連結しているペプチド部分で,インスリンから切り離されて生じる31個のアミノ酸から成る連結ペプチド(connecting peptide)である.C-ペプチド自体にはホルモンとしての生物活性はないが,B細胞からインスリンとともに分泌され,血中ではインスリンと並行して変動するのでC-ペプチドを測定すれば,インスリンの測定が困難な条件でも膵B細胞のインスリン分泌能が推定できる.

(3)グルカゴン

著者: 河西浩一 ,   石田俊彦

ページ範囲:P.131 - P.133

 膵グルカゴンは膵ランゲルハンス島のA細胞で合成され,分泌されるインスリン拮抗ホルモンであり,血糖の上昇を起こす物質であるが,生体内には種々のグルカゴン類似ペプチドが存在することが明らかにされている.グルカゴン遺伝子は第2染色体長腕に存在し,転写を受けてプレプログルカゴンが生成される.グルカゴン類似ペプチドはプレプログルカゴンからプロセッシングにより生成されてくるが,膵と腸管ではプロセッシングに違いがあり,それぞれ膵グルカゴン,腸管(エンテロ)グルカゴンと呼ばれている.腸管グルカゴンは膵グルカゴンとは異なった分子形をしており,現在では少なくともグリセンチン,オキシントモジュリン,グルカゴン(1-21)の3種のペプチドが含まれていることが明らかになってきた(図)1)

(4)ガストリン

著者: 谷礼夫

ページ範囲:P.134 - P.136

■ガストリンとは
 ガストリンはG細胞と呼ばれる内分泌細胞から分泌されるペプチドホルモンで,胃の体部腺に存在する壁細胞を刺激して胃酸を分泌させる作用が主な作用である.G細胞は大多数が胃の幽門前庭部の粘膜に分布し(十二指腸粘膜にも少し分布),胃の内腔に面した部分にある微絨毛で胃内に摂取された食物(特に蛋白食)の刺激を感受し,基底部から血液中にガストリンを分泌する(図1).
 1905年に発見され1),その約60年後の1964年に,アミノ酸17個のポリペプチドであることが明らかにされた2).その後アミノ酸34個のもの(血液中ではこれが多い)や13個のものも存在することがわかったが,どれもC末端4個のアミノ酸に活性部位がある(図2).

5.性腺ホルモン

(1)hCG,β-hCG

著者: 盛本太郎 ,   齋藤裕

ページ範囲:P.137 - P.139

 ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin;hCG)は妊娠の成立により絨毛組織より産生される性腺刺激ホルモンであり,卵巣中の妊娠黄体からプロゲステロンをはじめとしたステロイドホルモン分泌を刺激することにより妊娠維持に重要な生理作用を果たしていると考えられている.hCGは妊娠初期より母体尿中に排出されるため,日常臨床の場においては妊娠診断に最も一般的に用いられるが,そのほかにも,流産,子宮外妊娠における補助診断,絨毛性疾患の管理における指標として測定が行われている.また,近年では絨毛性疾患以外の悪性腫瘍のマーカーとしても注目されている.
 hCGは分子量約38,000の糖蛋白であり,αサブユニットとβサブユニットから成る.αサブユニットは89〜92個のアミノ酸残基から成り,下垂体前葉から分泌されるLH(黄体化ホルモン),FSH(卵胞刺激ホルモン),TSH(甲状腺刺激ホルモン)とほぼ同等のアミノ酸配列を有する.βサブユニットは139〜145個のアミノ酸残基から成るが,そのアミノ酸配列はFSH,TSHのものとはかなり異なるもののLHのβサブユニットのアミノ酸配列と相同性が認められ,わずかに,C末端から28〜38個のアミノ酸から成るペプチド(β-CTP)およびN末端から38-57残基付近(β-コア部分=βCF)がhCGに特異な抗原性を有している1,2)

(2)エストロゲン

著者: 平田修司 ,   加藤順三

ページ範囲:P.140 - P.142

 生体内に存在する天然のエストロゲンは,主に,エストロン(E1),エストラジオール(E2)およびエストリオール(E3)の3つであり,すべてステロイド環を持つステロイドホルモンである.E1〜3の数字はステロイド環に付いている水酸基(-OH)の数を示すが,この3つの中ではE2が女性ホルモンとしての活性が最も高い.

(3)HPL

著者: 磯部淳一

ページ範囲:P.143 - P.144

■測定の臨床的目的
 胎児胎盤機能検査法としては表1のように多数が知られている.生化学的検査法は主として胎盤機能を表現し,生理学的検査法は胎児側の情報を提供する.これらのうち,ヒト胎盤ラクトーゲン(human placental lactogen;HPL)は胎盤の絨毛合胞細胞で産生される蛋白ホルモンであるが,生物学的半減期が約15分2)と短く,胎盤機能の異常をよく反映すること,免疫学的方法で簡易・迅速に測れることから,その測定は日常臨床において胎盤機能のスクリーニングの1つとして定着している.

6.その他の内分泌

(1)エンケファリン

著者: 山北宜由

ページ範囲:P.145 - P.147

 エンケファリンは,最初に発見されたオピオイドペプチドであり,メチオニン-エンケファリン(Met-Enk)とロイシン-エンケファリン(Leu-Enk)の2種類が存在する(図).エンケファリンは前駆体プレプロエンケファリンAに由来し,多くの塩基性アミノ酸対が酵素により切断され,エンケファリンが生成される1).なお,プレプロエンケファリンBもLeu-Enk構造を持っている.エンケファリンは,生体内において副腎髄質に最も高濃度に認められる2).その他,脳内の各部や下垂体,性腺,消化管,交感神経に存在することが知られているが,血中にも存在する3)

(2)エリスロポエチン

著者: 小堺加智夫

ページ範囲:P.148 - P.150

 エリスロポエチン(erythropoietin;EPO)は赤血球産生にかかわるホルモンとして,主に腎臓,一部肝臓から産生されるアミノ酸165個から成る分子量3.8万の糖蛋白である.

(3)オステオカルシン

著者: 富田明夫 ,   根来良材

ページ範囲:P.151 - P.153

 蛋白中のグルタミン酸(Glu)はビタミンK依存性のcarboxylaseの作用によりγ-carboxyglutamic acid(γ-Gla)になりCa結合能を持つ.骨中ではこのγ-Glaは骨芽細胞によって合成され,オステオカルシン(osteocalcin,bone Gla-protein;BGPともいう)と呼ばれている.このBGPは骨マトリックスの非コラーゲン蛋白として骨中に存在するが,完成されたBGPは49個のアミノ酸を持ち,血中にも存在している.近年この血中BGPは骨代謝回転の指標,ことに骨形成能の生化学的指標として種々の代謝性骨疾患で測定されている1)
 血清アルカリホスファターゼ(ALP)も骨形成能の指標として古くより使用されており,血中BGPも骨形成能を反映することから血清ALPとよく相関することが知られている1).ただALPは骨由来のもののほか,肝由来,その他のものがあるので,肝障害などがあるとBGPとの相関はみられなくなる.BGPはそのような影響を受けないので,骨代謝回転の良い指標となりうる.

Ⅱ.腫瘍マーカー

1.CEA

著者: 石井勝

ページ範囲:P.154 - P.155

■測定法
 CEAの測定はCEA特異抗体を用いた免疫学的測定法が用いられている.その主な測定法は,プラスチック製材(プラスチック・ビーズ,マイクロプレート,ラテックス粒子など)に結合(不溶化または固相化)させたCEA抗体とアイソトープ,酵素,蛍光あるいは化学発光物質などの標識体をラベルしたCEA抗体との間に検体中のCEA抗原をサンドイッチする方法,CEA抗体を結合したラテックス粒子を用いた免疫凝集法などである.現在市販されているCEA測定キットは20種以上に及ぶが,これらキットに使用されているCEA抗体は最近ではモノクローナル抗体が多くなりつつある.また,それらは血中CEA測定用キットであるが,特殊なものとして乳汁分泌液中のCEAを測定する簡易キットも市販されている.

2.SCC

著者: 櫻川信男

ページ範囲:P.156 - P.157

■測定する目的
 腫瘍細胞の分化過程で血中に放出される特異な蛋白質を抗原として免疫学的に測定し,診断,治療効果や予後判定のモニターとして用いられるようになり,腫瘍マーカーと呼ばれている.腫瘍の組織型に特異性の高いマーカーが臨床上広く用いられるようになり,扁平上皮癌(squamous cell carcinoma;SCC)の抗原として婦人科子宮頸部癌や肺癌診断に応用される.
 SCCは加藤ら1,2)により子宮頸部癌の扁平上皮癌組織中より精製された分子量45,000の酸性分画(tumor antigen-4;TA-4)であり,これのモノクローナル抗体を用いて血中濃度を測定するサンドイッチRIA(SCCリアビーズキット,ダイナボット)や全自動イムノアッセイシステム(IMx,ダイナボット)が開発され,子宮頸部癌のみならず,肺癌の診断にも応用されている3〜5)

3.NSE

著者: 須藤英一 ,   四元秀毅

ページ範囲:P.158 - P.159

■NSEの性状と組織内分布
 エノラーゼは哺乳類の全身各組織に広く分布する解糖系酵素で,細胞内における嫌気的解糖の代謝経路の中で2-ホスホグリセリン酸と2-ホスホエノールピルビン酸の過程を触媒する.分子構造としては,分子量約50kdの3種類のサブユニット,α,β,γから成る二量体の酵素である.エノラーゼアイソザイムとしては,αα,ββ,γγのホモダイマー型とαβ,αγのハイブリッド型の計5種類が知られている.このうちγサブユニットを持つγγとαγのいわゆるγエノラーゼは神経細胞と軸索突起の神経組織にのみ存在し,他の組織では認められないとして,neuron specific enolase(NSE)と命名された1)
 NSEは中枢神経組織に圧倒的高濃度で分布し,末梢神経組織にも若干量存在する.肺,心臓,筋肉,肝臓などの組織ではほとんど認められないが,神経内分泌細胞を含む下垂体前葉,甲状腺,膵臓,副腎髄質などの組織にも認められ1,2),さらに,脳下垂体前葉腺細胞,甲状腺傍小細胞,膵ランゲルハンス島細胞,副腎髄質クローム親和性細胞にも免疫組織化学的手法によってこれを見いだすことができる1)

4.α—フェトプロテイン

著者: 大久保昭行

ページ範囲:P.160 - P.161

■検査の目的
(1)肝細胞癌の発生率の高い肝硬変患者に対して肝細胞癌の早期発見のためのスクリーニング検査,肝細胞癌の診断の補助,肝細胞癌の治療効果と治療後の再発のモニター.
(2)胚細胞腫瘍の診断.

5.CA 19-9,CA-50,SPan-1,エラスターゼ1,KMO1,POA

著者: 竹岡啓子 ,   西功 ,   網野信行

ページ範囲:P.162 - P.167

CA 19-9・CA-50
■CA 19-9
 CA 19-9は,1979年Koprowskiらが,ヒト結腸直腸癌由来の培養細胞SW 1116をマウスに免疫して得たモノクローナル抗体の1つNS 19-9により認識される糖鎖抗原である1,2)
 CA 19-9は当初,大腸癌の特異抗原として研究されたが3),Del Villanoらがラジオイムノアッセイ(RIA)により最も高率に検出される疾患が,膵癌であることを報告4)して以来,今日では,膵癌,胆管癌,胆嚢癌の診断および切除手術後の再発の判定,化学療法や放射線療法の効果判定に有効な腫瘍マーカーとして広く用いられている.

6.PAP,PSA,γ-Sm

著者: 野垣譲二 ,   蜂矢隆彦 ,   岡田清己

ページ範囲:P.168 - P.170

■各腫瘍マーカーの概説
1.PAP
 酸性ホスファターゼ(acid phosphatase;ACP)は分子量約10万の糖蛋白である.また酸性のpH下でリン酸エステルを加水分解する酵素であり,前立腺には多量のACPが存在している1).1938年Gutmanら2)によって転移を有する前立腺癌患者で血中ACPが高値を示すことが報告されて以来,最も古くから知られ,利用されている前立腺腫瘍マーカーである.しかし,この総ACPは非特異的であるため,その後,前立腺由来の酸性ホズファターゼ(prostatic acid phosphatase;PAP)のみを測定するために各種基質と阻害剤による酵素法的測定法(enzymatic assay;EA)の改良がなされたが,進行性前立腺癌の診断と病状のモニターとしての価値はあっても感受性,特異性が低く,早期前立腺癌の診断には満足できるものではなかった.Schulmannら3)によってPAPに対する抗血清が作製されて以後,免疫学的測定法(immunoassay;IA)が開発された.前立腺癌組織や前立腺分泌液,精漿などを用いてPAPを精製し,これを抗原として抗PAP抗体を作製.この抗PAP抗体による抗原抗体反応によって蛋白を測定し,PAP値を求める方法である.このIAには放射性同位元素を利用したRIAとEIAがある.

7.CA 125,CA 15-3

著者: 中山年正

ページ範囲:P.171 - P.172

■臨床的意義
 血清CA 125値は未治療卵巣癌の90%以上で陽性率を示し(図1),Ⅰ期・Ⅱ期の初期癌でも50%以上に陽性(>35U/ml)をみる有力な卵巣癌マーカーであり,種々の誤陽性反応に注意して検査値を読めば,早期発見のマーカーとして利用できる.卵巣癌の組織型では漿液性嚢胞腺癌で高値例が多く,ムチン型嚢胞腺癌ではあまり上昇しない.一方,他臓器(胃,膵,胆嚢・胆管,肝,大腸,肺,乳房など)の癌でも多くは数100U/mlと上昇の程度は高くないが,20〜30%の症例で陽性となる.さらに,子宮内膜炎,子宮筋腫,良性の卵巣膿腫などの良性疾患や肝炎・骨折などでも数100U/mlを示すことがあるから注意が必要である.また,血清CA 125値は卵巣癌患者の治療に伴う癌の退縮や進行などの臨床経過において,症状を忠実に反映して変動するので,術後のフォローアップなどにも極めて有効である.
 血清CA 15-3値は転移が認められない初発乳癌では10%程度の陽性率にすぎず,早期診断への有用性はほとんど認められない.一方,転移のある進行性乳癌ではその1/2以上が50U/ml以上の明瞭な高値(カットオフ値>28U/ml)を示すことから転移の有無を監視するのに利用でき,また,術後の乳癌再発や,再発乳癌の治療効果判定にCEAあるいはそれ以上の臨床的相関性があり,進行乳癌のモニタリングに有用である.

Ⅲ.血漿蛋白 1.免疫グロブリン

(1)免疫グロブリンの定量(IgG,IgA,IgM)

著者: 井本真由美

ページ範囲:P.173 - P.175

■免疫グロブリン測定の臨床的意義
1.IgG,IgA,IgMの正常値(基準範囲)
 免疫グロブリンは加齢によって基準範囲が変化する.IgGは胎盤を通過した母体からの移行抗体によって,新生児期にはほぼ成人値に近い値を示すが,生後急速に減少し,2〜4か月で最低(成人値の1/2〜1/3)となり,以後自己産生が進み,学童期にはほぼ成人値に達する.IgAは臍帯血ではほとんど検出されないが,生後徐々に増加し,思春期までに成人値に達する.IgMも新生児期は極めて低値を示すが,生後急速に増加し,2歳ごろまでに成人値に達し,女性は男性より高値傾向にある.図に血清免疫グロブリン値の年齢別推移1)を,表1に正常値(基準範囲)2)を示す.

(2)血漿蛋白の異常(M—蛋白,クリオグロブリン)

著者: 橋本寿美子 ,   河野均也

ページ範囲:P.176 - P.178

 血漿蛋白のうち免疫グロブリン(immunoglobulin;Ig)の異常には,量的異常と質的異常とがある.ここでは質的異常を中心に話を進める.検査室で発見の糸口となる日常検査所見としては次のような所見が挙げられる.①血清蛋白電気泳動像の異常,②著しい高蛋白血症,③赤沈値の異常亢進,④赤血球連銭形成,⑤血清膠質反応の異常,⑥温度変化による異常反応〔thermoprotein:パイログログリン,クリオグロブリン,ベンスジョーンズ蛋白(BJP)など〕,⑦各種抗体価の異常高値,これらの検査で異常が認められた場合にはIg異常症を考慮して検索を進める必要がある.

2.急性期反応物質

(1)CRP

著者: 亀子光明 ,   奥村伸生 ,   勝山努

ページ範囲:P.179 - P.181

 C反応性蛋白(C-reactive protein;CRP)は急性の組織障害,急性炎症,感染症において血中に増加する血漿蛋白で,急性期反応物質の代表的な成分である.表1にCRPの代表的な物理化学的性状と生物学的性状を示した1)

(2)α1-アンチトリプシン

著者: 西田陽

ページ範囲:P.182 - P.184

 α1-アンチトリプシン(α1-antitrypsin;α1-AT)は別名α1-プロテアーゼインヒビターで,プロフィールは膵臓由来のトリプシンを阻害する物質で最初に発見されたという意味で命名された血漿蛋白の1つである.
 マクロファージなどから産生されるIL-1,IL-6の刺激で肝臓で合成される分子量54,000前後の糖蛋白であり,acute phase reactantsの1つである.血漿蛋白分画上α1グロブリンに属する.肝臓細胞で生成され,血中に分泌される.トリプシンのみでなく種々のプロテアーゼ(キモトリプシン,エラスターゼ,カテプシン,プラスミン,トロンビン,カリクレイン,ウロキナーゼ,コラゲナーゼ,レニンなど)を阻害するプロテアーゼインヒビターの中心的蛋白で,炎症時に上昇するのは,組織を障害から保護する役割があると考えられている.主に組織中で作用する.組織障害が起こると2日目から血中に増加し,さらに2〜3日後に基準範囲上限の2〜3倍にまでに達し,炎症が消退すれば徐々に減少し,基準範囲内に戻る.

(3)α1-酸性糖蛋白

著者: 大竹皓子

ページ範囲:P.185 - P.186

 生体内で細菌などの感染により炎症反応が惹起されると,局所のマクロファージからサイトカインのインターロイキン1が放出され,Bリンパ球の活性化に伴う免疫反応の亢進,線維芽細胞の活性化による組織反応,肝臓での急性相反応物質(acute phase reactants;APRs)の合成亢進など一連の生体反応が誘発される.これらの中でAPRsは,急性炎症に引き続いて生じる血漿蛋白の変化であり,その血清濃度の変動は感染症などの診断と治療効果の判定に有用とされている.
 α1-AGはα1に電気移動度を持つ糖蛋白で,肝臓で合成され,分子量44,000,1分子中にヘキソースやシアル酸に富む糖鎖を41%ほど含み,等電点電気泳動で種々のバンドがみられる,不均一性がある,などの特徴がある.

(4)IAP

著者: 大島一洋

ページ範囲:P.187 - P.188

■IAPとは
1.構造
 免疫抑制酸性蛋白(immunosuppressive acidic protein;IAP)は,1977年石田らにより,担癌マウス1)ならびに担癌患者2)の血清および腹水中に見いだされた糖蛋白質である.その性状は分子量5万,等電点3.0,糖含有量31.5%で,α1酸性糖蛋白(α1-AG)と極めて高い相関を示し,α1-AGと共通抗原性を有すると考えられる.IAPのアミノ酸組成はα1-AGと変わりはないが,シアル酸とヘキソースの含量が少なく,電気泳動によりアルブミン分画に易動するため,α1-AGの亜成分と考えられる3)

3.アポ・リポ蛋白

(1)アポ蛋白

著者: 武内望

ページ範囲:P.189 - P.191

■アポ(リポ)蛋白の種類と機能
 脂質は水に溶解しにくいため,血清中では両親媒性のアポ蛋白が脂質と結合し,リポ蛋白を形成して溶存している.アポ蛋白の種類はアルファベット順にAよりHまであり,その幾つかには表1に示したサブクラスおよびアイソフォームが存在する.主要アポ蛋白の分子量や機能,正常値などは表1に記載した.そのうち臨床的意義が確立し,日常実際に測定されているものはA-Ⅰ,A-Ⅱ,B100,B48,C-Ⅱ,C-Ⅲ,E,apo(a)である.A-Ⅰ,A-Ⅱは高比重リポ蛋白(HDL)を構成するアポ蛋白であり,HDLが末梢組織中のコレステロール(Ch)を取り込み,Chの処理臓器である肝臓へ運ぶため(Ch逆転送),抗動脈硬化因子とされている.一方,B100は肝で合成され,超低比重リポ蛋白(VLDL)や低比重リポ蛋白(LDL)の骨組みとなっている.これらは肝の脂質を末梢へ転送するが,過剰になると末梢組織にChが蓄積されやすいため,動脈硬化の促進因子と位置づけられている.B48はB100のN末の48%の部分に相当し,小腸で合成されてカイロミクロン(CM)を形成し,食物より吸収された脂質の運搬に役立っている.またapo(a)はB100にプラスミノーゲンに特有なクリングル構造が幾つも連なって結合しており,apo(a)から形成されるLp(a)はLDLとは別個に独立した動脈硬化促進因子とみなされている.

(2)Lp(a)

著者: 山下寿美子 ,   野間昭夫

ページ範囲:P.192 - P.194

 脂質は水に不溶であり,生体内では蛋白と結合してリポ蛋白として溶存している.リポ蛋白(a)〔Lp(a)〕はリポ蛋白の1つである.リポ蛋白の性状を表に示す.Lp(a)の化学的組成はLDLに極めて類似している.図1にLp(a)の構造的模式図を示す.Lp(a)の構造はLDL類似粒子の表面にS-S結合した蛋白成分であるアポ(a)が覆った形と考えられている.アポ(a)は内部に3つのS-S結合を含むアミノ酸構造体であるクリングルと称する構造を多数有している.このクリングルは驚くべきことに線溶系に働くプラスミノゲンの持つ5つのクリングルのうち4番目のものと構造的相同性が高く,アポ(a)ではこのクリングル4を繰り返し,最高37個持つといわれ,この繰り返しの数の違いによってアポ(a)はイソ型を有している.

Ⅳ.尿中微量蛋白

1.尿中低分子蛋白質—β2-m,α1-mを中心に

著者: 山口哲司 ,   伊藤喜久

ページ範囲:P.195 - P.196

 低分子蛋白質(low molecular weight protein;LMWP)はミクロプロテインとも呼ばれ,分子量5万以下の蛋白質群(表1)で,正常状態で腎糸球体基底膜を容易に通過し,腎尿細管上皮で異化,再吸収されてごく一部が尿中に排泄される.ここでは,本邦で臨床的に広く利用されているβ2-ミクログロブリン(B2-microglobulin;β2-m),α1-ミクログロブリン(α1-microglobulin;α1-m)を中心に以下に紹介する.
 β2-mは分子量11,800,99個のアミノ酸残基から成る単鎖ポリペプチドで,主要組織適合抗原であるHLAクラスI抗原のL鎖であり,リンパ球,単球細胞など免疫担当細胞に在存分布し,免疫応答に重要な役割を担っている.生体内ではほとんどの有核細胞で産生され,血液,尿,体液中に微量に存在する.

2.尿中マイクロアルブミン

著者: 伊瀬恵子

ページ範囲:P.197 - P.198

 糖尿病性腎症の発症は,尿中に蛋白が出現して初めて診断されることが多い.しかし,このときすでに腎臓には組織変化がみられ,未治療の場合,さらに腎不全・透析へと進行することがある.
 糖尿病性腎症を早期に診断し,治療することは腎障害の進行を遅延あるいは改善するために不可欠である.この時期は,表1に示したMogensenの病期分類1)の第3期(初期腎症)に当たり尿中アルブミン排泄率は20から200μg/分へ漸増する.試験紙法で尿中の蛋白が陽性になる以前にマイクロアルブミンを測定することは,早期腎症の診断に必須な検査といえる.

Ⅴ.自己免疫・アレルギー 1.自己免疫

(1)リウマチ因子

著者: 島岡康則

ページ範囲:P.199 - P.201

■リウマチ因子とは
 生体内では外界からの異物,例えば病原菌やウイルスの侵入を防ぐためのさまざまな防御機構が働く.その代表的なものは免疫機能で,この1つに抗体がある.抗体は組織液,血液中に広く分布し,外界からの異物(抗原となる)の侵入があると,これを認識し結合する(抗原抗体結合)ことにより,この異物を攻撃し取り除く手助けをする.通常の生体内には,自分自身の組織や細胞と結合するような抗体は存在しないが,自己免疫疾患と呼ばれる病気の患者では,自己の組織に結合する抗体が自分自身の体内に存在する.リウマチ因子も,このような抗体の1つで,“自己のIgGに結合する自己抗体”である.抗体の基本的な構造は図1-Aのように示される.外来からの異物を認識する部位は図1-AのFabと呼ばれる部分で,ここは1つの鍵をあけるキーがただ1種類であるのと同じく,1つの抗原に対してただ1種類のFabが対応する.したがって,外界のさまざまな異物に対して即座に対応できるように,Fabは生体内に数百万種類もの型があらかじめ用意されている.これに対して図1-AにFcで示されている抗体の柄の部分は,大きくは5種類の変化しかなく,その構造や働きにより,IgA型,IgG型,IgM型,IgD型,IgE型に分けられている.

(2)抗核抗体

著者: 秋月正史 ,   三森経世 ,   山縣元

ページ範囲:P.202 - P.204

 抗核抗体の検索は自己免疫疾患,特に膠原病の診断,予後推定,さらに治療法選択などに有用である.抗核抗体は種々の免疫学的手技で測定されるため成績の解釈には検査法の特徴を理解しておくことも大切である.本稿では現在常用される検査法の要点に触れ,新たに臨床に応用されつつある測定法を述べる.

(3)免疫複合体

著者: 上床周

ページ範囲:P.205 - P.207

 免疫複合体(immune complexes;IC)とは,抗原抗体反応によって形成された抗原抗体結合物をいう.ICには補体成分の一部がさらに結合していることもある.
 体内に病原菌などの異物が入ったとき,さまざまな免疫学的機序によって生体はこれを排除しようとする.ICの形成もこの生体防御機構の1つである.すなわち異物にそれに対する抗体が結合してICが形成され,それに伴って補体結合反応や種々の炎症反応が惹起される1).異物は,ICとなりさらに補体成分と結合することによってより効率よく食細胞によって貪食される.流血中のICは細網内皮系,主に脾と肝において速やかに除去される.ICが持続的に生成されたり,あるいは除去されにくいICが生成される場合や,細網内皮系が飽和されたり,その機能が低下している場合には,ICは流血中に残存し腎臓をはじめとするさまざまな組織に沈着し組織障害を起こす(Ⅲ型アレルギー).

(4)抗リン脂質抗体

著者: 遠藤安行

ページ範囲:P.208 - P.209

 全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;SLE)の患者に存在し,後天性血栓傾向を示す循環抗凝血素について初めて報告したのは1952年,ConleyとHartman1)であるが,このとき,各凝固因子は正常と述べられている.1971年,FeinsteinとRapaportはこれをlupus anticoagulant(LA)2)と命名したが,Shapiroら3)の研究により,LAはホスファチジルセリンなどのリン脂質と反応し,プロトロンビンや第X因子のリン脂質ミセルへの結合を阻止することが判明した.一方,臨床的にはLAの存在はSLEなどの膠原病に限らず,分娩後,多発性骨髄腫,長期のクロルプロマジン服用者などにも認められることが報告されてきた.SLEに存在するLAについては本誌中別項があるので,ここではマイクロプレートを用いたELISAサンドイッチ法による,各リン脂質抗体(APA)の測定法について述べてみたい.
 表1に循環抗凝血素陽性でLAの存在が疑われるに必要な検査項目を,表2には現在検出できるリン脂質の種類を示す.

(5)サイログロブリン抗体,マイクロソーム抗体

著者: 中埜幸治

ページ範囲:P.210 - P.212

 橋本病やバセドウ病は臓器特異性自己免疫疾患であり,甲状腺の抗原成分に対する自己抗体(抗甲状腺抗体)を産生する.通常,抗甲状腺抗体とは甲状腺サイログロブリン(thyroglobulin;TG)抗体およびマイクロソーム(microsome;MC)抗体を意味する.
 MC抗体は甲状腺のMC抗原に対する抗体であるが,近年,MC抗原は甲状腺ホルモン合成酵素である甲状腺ペルオキシダーゼ(thyroid peroxidase;TPO)であることが判明している1).MCは分子量約11万の糖蛋白である.一方,TGは甲状腺濾胞内の主成分で,分子量約67万の可溶性糖蛋白で,甲状腺ホルモンの合成,貯蔵および放出に極めて重要な役割を担っている.

(6)抗ミトコンドリア抗体

著者: 高崎芳成

ページ範囲:P.213 - P.214

 抗ミトコンドリア抗体(antimitochondrial antibody;AMA)は,ミトコンドリアの細胞内膜あるいは外膜に対する自己抗体で,原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis;PBC)の患者に特異的に検出される抗体として報告された1)
 本稿ではその検査の目的,抗体の分類,検査法ならびに結果の解釈と臨床的意義について最近の知見を加えながら解説する.

2.アレルギー

(1)非特異的IgE

著者: 伊藤幸治

ページ範囲:P.215 - P.217

■IgEとは
 IgE骨髄腫患者の場合を除き,IgEは血清中には微量にしか存在しない免疫グロブリンであるが,末梢血好塩基球や組織の肥満細胞面に存在するIgE受容体と強く結合する性質がある.もしこの結合IgEが抗体活性を持っている場合,抗原と反応すると,これら細胞よりヒスタミン,ロイコトリエンなどの化学伝達物質が遊離され,その作用でアレルギー症状が出現する.非特異的IgEとはIgEの抗体としての力価とは無関係に蛋白質としてのIgEを指す.IgEの分子量は約200,000である.血清中の半減期は約2.5日であるが,組織の肥満細胞に固着すると比較的安定で半減期は約2週間である.56℃,30分間の加熱で組織固着性や抗IgEとの反応の大半は消失する.すなわち易熱性である.

(2)特異的IgE抗体

著者: 灰田美知子

ページ範囲:P.218 - P.219

■測定の目的
 アレルギー症状を呈している患者に対し,どのアレルゲンに対し,どの程度のIgE抗体が検出できるかを測定するためにIgE・RAST法,CAP法などがある.総IgEが一般的なアレルギー性疾患,原虫以外の寄生虫感染,木村病,先天性免疫不全症などで上昇するのに対し,IgE・RASTは特異的であり,原因と推定されるアレルゲンに対するIgE抗体値がわかり,患者のその特定のアレルゲンに対する感作状態の目安として利用できる.
 測定可能なアレルゲンの種類は花粉,動物表皮,室内塵,真菌など170種類程度である.本邦で最も陽性率が高いアレルゲンは室内塵中のダニ,スギ・ブタクサ・カモガヤなどの花粉,アスペルギルス・アルテルナリア・カンジダなどのカビ類,また食物アレルゲンでは卵・大豆・牛乳などが大切である.それぞれアトピー型気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎の際,その原因アレルゲンとなっている可能性が高く,これらの原因アレルゲンの検索を行う必要がある場合,皮膚テストまたはRAST法,CAP法などの試験管内検査法で特異IgE抗体の存在を測定する.現在は多くのアレルゲンに対する特異抗体を同時に測定するシステムも利用されている.これらの検査で2+以上の明らかな陽性所見が得られれば,そのアレルゲンが患者の病態に十分関与していると考えられるが,実際,患者の症状の発現に関与しているかについてはアレルゲンによる誘発試験を行う必要がある.

Ⅵ.補体

1.血清補体価(CH 50)

著者: 岩田進

ページ範囲:P.221 - P.223

■補体と補体の活性経路
 補体は1800年代後半に新鮮血清中に殺菌性のある物質(alexin)として見いだされ,その後,生体内の殺菌防御作用の役目を果たしていることが認められた.また56℃に加熱することで殺菌作用がなくなることや,抗原抗体反応に深く関与していることも判明した.わが国ではEhrlichの側鎖説の中のKomplementの訳語として“補体”が使われるようになったのが初まりといわれている1)
 補体は細胞表面の抗原抗体複合体により活性化され,C1からC4,C2,C3,C5〜C9の順序ですべてが活性化された段階で細胞が溶解する.C1成分には3種類(C1q,C1r,C1s)あるので全部で11成分が活性化に加わっていることになる.

2.補体成分蛋白(C3,C4,C1q)

著者: 木佐木友成

ページ範囲:P.224 - P.225

■測定の目的
 CH 50の項で述べられているが,補体の活性化経路には古典的経路(classical pathway)と第2経路(alternative pathway)がある.C1 q,C4はclassical pathwayによる補体活性化に関与し,C 3は両経路の活性化に関与している.補体成分の測定の目的は1つには活性化のメカニズムを明らかにするところにある.しかしながら補体濃度の値の評価には,産生および活性化による分解の両面から検討する必要がある.
 C1qは上皮細胞,単球/マクロファージ,線維芽細胞が産生し,C3,C4は主に肝細胞,単球/マクロファージが産生している.低栄養状態や肝不全時などで,産生低下による補体成分蛋白濃度の低下がみられる1).またまれながら先天性の蛋白異常症または欠損症がみられることがあり,CH 50の低下および当該蛋白の欠損が検査結果として得られる(表1)2)

3.補体レセプター

著者: 天野哲基

ページ範囲:P.226 - P.229

■意義
 主にマクロファージ系細胞や肝細胞から産生された各々の補体成分自身には生物活性はないが,種々の原因による抗原抗体反応や異種の膜あるいは凝固・線溶系の活性化の結果,しかけ花火のように次々と活性化されていき,生体にとっては有利となる小規模の炎症反応を起こし,最終的には原因となった異物の除去に働く.しかしながら,この炎症反応が異常に拡大すると生体にとっては不利なアレルギー病変を引き起こすことになる.これらの炎症反応は活性化された補体成分(補体成分の分解産物,例えば補体第3成分C3がICにより活性化されると流血中にC3aが放出され,IC上に,C3 bが形成され,さらにiC3 b,C3 dg,C3 dへと分解され,C3 c,C3 eが放出される)がいろいろな細胞表面に存在する補体レセプターに結合することにより初めて発現する1).現在までに表1に示すような補体レセプターが明らかにされており,基礎分野ではこれらのレセプターに活性化された補体成分が結合するのを阻害してアレルギー病変が起きるのを抑制するような薬剤の開発が進められている.
 臨床分野で注目され,測定されている補体レセプターは補体第3成分(C3)の分解成分であるC3bに対するレセプターで,CR 1(complement receptor type 1)と呼ばれる.

Ⅶ.凝固

1.血小板第4因子,β—トロンボグロブリン,血小板糖蛋白

著者: 長谷川雄一 ,   長澤俊郎

ページ範囲:P.230 - P.234

血小板第4因子
■測定の臨床的意義
 血小板第4因子(platelet factor 4;PF 4)は血小板に固有なα顆粒に含まれ,血小板の二次凝集に際し放出される.本蛋白は,血小板以外の組織には極めて微量な濃度でしか存在せず,かつ血小板に対する弱い刺激においても鋭敏に反応すると考えられている.したがって,この因子は血小板が活性化されていることの指標として用いられる.その生体内作用としてヘパリンに対する強力な中和作用が知られている.

2.フィブリノゲン,AtⅢ,FDP

著者: 村嶋正幸 ,   出口克巳

ページ範囲:P.235 - P.239

■フィブリノゲン
 凝固第I因子であるフィブリノゲンは,トロンビンの作用を受けて,フィブリン(Ia)となる(図).フィブリンが血液を凝固せしめる本体であり,複雑な凝固反応の最終段階は,このフィブリン形成にある.
 フィブリノゲンは,血漿中濃度が最も高い凝固因子(200〜400mg/dl)であり,肝臓で合成され,半減期は3〜4日といわれている.

3.凝固因子

著者: 斉藤正典

ページ範囲:P.240 - P.242

 一般には凝固因子の定量には凝固因子欠乏血漿を用いてのPT,APTTを利用した一段法や発色合成基質を用いた生物学的活性値を求める方法が汎用されている.一方,最近,免疫学的手法の進歩によって凝固因子抗原量の測定が比較的簡便に行われるようになり,抗原量としては存在するが,生物学的活性を持たない分子異常症が次々に発見されるようになった.
 本稿では凝固因子抗原量定量法,中でも一般的に用いられていると思われるロケット免疫電気泳動法および酵素免疫測定法を中心に概説し,臨床的意義についても触れることにする.

4.TAT,F1+2,FPA,Bβ15-42

著者: 緇莊和子 ,   藤巻道男

ページ範囲:P.243 - P.244

 トロンビン・アンチトロンビンⅢ複合体(TAT),プロトロンビンフラグメントF1+2(F1+2),フィブリノペプチドA(FPA)は,いずれも凝固系分子マーカーとして現在利用されている.プロトロンビンは,凝固系の活性化により生じたXa,Va,Ca2+,リン脂質複合体により,トロンビンへと転換される際に,分子内のN末端よりF1+2を遊離する(図).したがってF1+2はトロンビンの生成能を表すと考えられる.生成されたトロンビンは,主に生理的に血中に存在するアンチトロンビンⅢ(AT Ⅲ)によって活性が阻害されて,両者は複合体(TAT)を形成する.したがってTATもトロンビンの生成状態を示すものと考えられる.トロンビンは,フィブリノゲンをフィブリンに転換するが,このときフィブリノゲンのAα鎖N末端からはFPAが,Bβ鎖からはフィブリノペプチドB(FPB)が遊離する.したがってFPAはフィブリノゲンの活性化状態を示すものと考えられる.
 一方,線溶系の活性化で生じたプラスミンにより,フィブリンが溶解されると,フィブリンのβ鎖N末端からはフィブリノペプチドBβ15-42(Bβ15-42)が遊離する.したがってこのペプチドはフィブリンの溶解状態を示す線溶系分子マーカーと考えられる.

5.プラスミノゲン,α2PI,PIC

著者: 香川和彦 ,   福武勝幸

ページ範囲:P.245 - P.248

■線溶系の理解と検査目的
 図1に線溶系の概略を示した.プラスミンの前駆物質であるプラスミノゲンは肝実質細胞で産生されるセリンプロテアーゼで,血栓の主蛋白であるフィブリンに,血管内皮細胞などから放出されるプラスミノゲンアクチベーター(PA)ととも直接結合する.フィブリンという固相上での局所濃縮が行われ,効率よくプラスミノゲンはプラスミンに活性化され線溶系が始動する.プラスミンはフィブリンを分解しDダイマーを含むフィブリン分解産物(FDP)が生成される.これは従来より二次線溶と表現されている.フィブリンが形成されていない液相中でプラスミノゲンが活性化される場合には一次線溶といわれるが,手術や悪性腫瘍などによる内因性組織プラスミノゲンアクチベーター(tPA)の大量放出やtPA,ウロキナーゼ(UK)の大量投与など特殊な場合に限られる.多くの症例では二次線溶と一次線溶が混在し,一次線溶のみが亢進する病態に遭遇することはまれである.
 α2プラスミンインヒビター(α2PI)も肝実質細胞で産生され,セリンプロテアーゼインヒビターに属する糖蛋白である.α2PIはプラスミンと1:1の分子結合によりα2PIプラスミン複合体(PIC)を形成してプラスミンを失活させ,またプラスミノゲンとの結合によりプラスミノゲンのフィブリンへの結合を阻害したり,活性化XⅢ因子を介してフィブリンに結合することにより線溶系を制御している1,2)

6.tPA,PAI,tPA-PAI-1複合体

著者: 天野景裕 ,   福武勝幸

ページ範囲:P.249 - P.252

 生体内で出血が生じた場合,血液凝固が起こり最終的にフィブリンによる血栓が生じる.しかし,その血栓が長期に血管内に存在すると組織の虚血性変化をきたしてしまったり,血栓症を生ずる可能性があるため,その防御反応として血栓溶解が起こる.血栓溶解反応は線維素溶解反応(線溶)といわれ,プラスミノゲンアクチベーター(plasminogen activator;PA)によりプラスミノゲンが活性化されプラスミンとなり,プラスミンが線維素(フィブリン)を溶解することである.主な血中PAとしては血管内皮細胞由来の組織型PA(tissue-type PA;tPA)と,主として尿中に存在するウロキナーゼ型PA(uPA)が知られているが,フィブリンに対してより強い親和性を有するtPAが血栓溶解活性の律速酵素として最重要視されている.
 また,さらにこの血栓溶解反応があまりに早期にかつ強力に働きすぎると完全に止血がなされない状態で再出血をきたすことになるため,線溶系の作動するタイミングとスピードを適度に制御する機構としてプラスミノゲンアクチベーターインヒビター(plasminogen activator inhibitor;PAI)やα2プラスミンインヒビターがある.PAIには4種類が同定,解析されているが,本稿ではtPA阻害の点からみて最も重要な役割を果たしていると考えられているPAI-1について述べる.

7.プロテインC,プロテインS

著者: 黒澤晋一郎

ページ範囲:P.253 - P.257

 プロテインC(PC)はJ.Stenfloによりクロマトグラムの3番目のピークにABCのCとラベルされたところから世界中に広まった名前である.プロテインS(PS)はDi Scipioらによって精製されたが,大学のあるSeattleのSを取って名づけられた.どちらも血液凝固の制御に重要な役割をしていることが明らかになってきた.
 血液を抗凝固剤を混ぜないで,血管の外へ取り出すと間もなく固まってしまう.これは,血液自体の中に固まろうという性質があるからで,血液凝固系の作用による.出血が起こったとき,それまで液体で循環していた血液は固まって止血栓を作り出血を止める.この過程を止血という.外に取り出した血液は全部凝固してしまい,反応が途中で止まることはない.これに対して止血栓ができた場合には,出血を止めるのに必要なだけの凝固が進むとそこで反応が止まり,残りの血液は流動性を保ったまま全身を循環し,体中の血液が全部固まってしまうようなことは正常では起こらない.このしくみを血液凝固制御機構と呼ぶ.健康な人では血液凝固制御機構もしっかりと働いているが,病気によってこの働きが弱まってくると血管の中で血液が凝固してしまうことが実際に起こる.これが血栓症である.血栓が形成されると血管を閉塞して,その部位の循環障害を起こす.

8.ループスアンチコアグラント

著者: 大久保進

ページ範囲:P.258 - P.260

■ループスアンチコアグラントとは
 正常人血中には存在しない凝固阻止物質(循環抗凝血素,抗凝固因子,インヒビター)には,血友病患者で凝固因子製剤の反復補充療法の結果産生される同種抗体や,自己免疫疾患,妊娠や悪性腫瘍などに伴って産生される凝固第Ⅷ,Ⅸ,Ⅴ因子などの特定の凝固因子活性を阻害する抗体と,最初,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;SLE)の患者で見つかったループスアンチコグラント(ループス型抗凝固因子,lupus anticoagulant;LA)とがある.LAはホスファチジルセリン,ホスファチジン酸,カルジオリピンなどのリン脂質と反応し,プロトロンビンアクチベーター(活性化凝固第Ⅴ,同X因子,リン脂質,Caイオン)複合体の生成や,そのプロトロンビンとの反応を抑制し,トロンビンの生成を阻害する大部分はIgG,IgMに属する免疫グロブリン(抗体)1)である.SLEでよくみられる梅毒反応の生物学的偽陽性(BFP)の原因となる抗カルジオリピン抗体(aCL)や,固相化リン脂質を用いたELISA法で検出されるELISA-リン脂質抗体2)とともに,LAは抗リン脂質抗体(aPL)と総称される.LAとBFPとは関連し,LAとaCLの大部分は同一抗体であるが,しかし必ずしも同一ではなく1),また,aPLでもLA活性を持たないものもある3)

9.PIVKA-Ⅱ

著者: 中尾昭公

ページ範囲:P.261 - P.262

 PIVKA-Ⅱ(protein induced by vitamin K absence or antagonist Ⅱ)はビタミンKの不足やビタミンK拮抗剤(ワーファリンなど)の投与,肝実質細胞障害などによって出現する機能的に異常な血液凝固第Ⅱ因子(プロトロンビン)のことである.プロトロンビンは肝臓で合成されるが,その生成過程でビタミンKを触媒として必要とする.プロトロンビンのアミノ末端付近にはカルシウム結合能を有するγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基が10個存在しているが,ビタミンK欠乏時とワーファリン投与時,肝実質細胞障害などにより,10個のGlaのすべて,あるいは一部がグルタミン酸(Glu)残基のまま血中に出現してくることがあり,これを異常プロトロンビン,すなわちPIVKA-Ⅱ,あるいはdes-γ-carboxy-prothrombin(DCP)ともいう.
 PIVKA-Ⅱの定量は従来,二次元交差免疫電気泳動やラテックス粒子凝集法などで行われてきたが,PIVKA-Ⅱに対するモノクローナル抗体が作製され1),それを用いた高感度免疫測定法(EIA)が確立された1,2).またPIVKA-Ⅱは肝細胞癌患者において高率に認められることが明らかにされ3),肝細胞癌の腫瘍マーカーとしても注目されてきている.

Ⅷ.感染症

4.真菌感染症(深在性)

著者: 阿部美知子 ,   大谷英樹 ,   久米光

ページ範囲:P.308 - P.311

 真菌感染症(真菌症)は病型別には,皮膚科領域と内科領域の真菌症に二大別され,わが国で経験される内科領域の真菌症ではカンジダ症,アスペルギルス症,クリプトコックス症が主なものである.内臓真菌症はcompromised patientsの増加とともにその症例数が増加の一途をたどっているが,臨床的に確定診断される頻度は必ずしも高くはない.その理由として,①真菌はいずれも発育速度が遅く,培養陽性の成績を得るまでに日数を要し,報告が遅れること,②最も頻度の高いカンジダ症は内因性感染であり,分離培養されたカンジダの病原的意義づけを明確にできない場合があること,③病型として最も頻度の高い呼吸器感染症では喀痰中に喀出される起炎真菌の量が極めて少なく,病原の検出率が低値であることなど,培養法による検査学的診断に限界があり,培養検査成績を十分に臨床診断に反映できないことが大きな理由である.そこで内臓真菌感染症の補助的診断法として血清学的検査が利用されるようになり,初めは患者血清中の抗真菌抗体の検索が検討された.しかしながら,カンジダ症においては前述したように内因性感染であることから,非感染患者や健康者においても抗カンジダ抗体を保有する場合があり,沈降抗体の存在そのものがカンジダ感染症を示唆するものではない.また,カンジダ抗体価の上昇は診断に有益ではあるが,抗体価の上昇を観察し得るまでには一定の期間が必要であり,早期診断とはなり得ない.

5.原虫疾患

著者: 大友弘士 ,   片倉賢

ページ範囲:P.312 - P.314

 原虫疾患は病因原虫の証明により診断が確定されるが,その検索に時間がかかったり,検出不可能な例も少なくなく,かかる場合は特異性や鋭敏性に優れ,しかも迅速に診断できる免疫学的検査法がしだいに重要な位置を占めるようになっている.
 しかし,免疫学的検査法は原虫感染によって宿主に抗体が確実に産生されているときにのみ有用であるほか,宿主の原虫に対する免疫応答には種により,抗原変異,免疫抑制や多クローン性などの複雑な背景があることを認識しておく必要がある.

1.細菌・クラミジア感染症の免疫検査

(1)呼吸器感染症

著者: 山下祐子 ,   河野茂

ページ範囲:P.263 - P.265

■マイコプラズマ
1.補体結合反応(complement fixation;CF)1)
 CFは最もよく用いられている.主にIgGを測定する.抗体価は発病後7〜10日で上昇し,3〜4週間目にピークに達し,以後8週まで32〜64倍の抗体価が持続する.判定は,ペア血清で4倍以上の上昇を,シングル血清で64倍以上(欧米では256倍以上)の抗体価を陽性としている.本法の欠点は,検査に時間がかかること(20〜24時間),感度がやや低いことである.

(2)中枢神経系感染症

著者: 斉藤知子

ページ範囲:P.266 - P.268

 細菌性中枢神経系感染症は発生頻度は低いが,死亡率が高く,治癒しても後遺症を残す場合が多いため,迅速な病原体の決定と早期の適切な治療が重要な疾患である.

(3)消化管感染症

著者: 中尾浩史 ,   竹田多恵

ページ範囲:P.269 - P.271

 血清診断には病原菌の特徴に応じた特異的な抗体の検出が用いられることが多い.ここでは当研究室で行われている腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli;EHEC)を例として説明する.EHECは出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome;HUS)を引き起こし,最悪の場合,死に至らしめることもある.わが国でも小児科領域での報告例は少なくない1).このEHECは赤痢菌の産生する志賀毒素に非常に類似した毒素(ベロ毒素:vero toxin;VT)を産生する.また,EHECに分類される大腸菌のほとんどは特定のO抗原型,例えばO157,O26などに属する.そのため,EHEC感染症の診断には患者血清中に存在するVTおよびリポ多糖(lipopolysaccharide;LPS,グラム陰性桿菌外膜の構成成分でO抗原の決定因子を含む,図1)に対する抗体価をELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)で測定している.

(4)STD

著者: 横澤光博

ページ範囲:P.272 - P.274

 性行為感染症(sexually transmitted diseases;STD)の原因微生物はウイルス,細菌,寄生虫など多彩である.しかし,STDの中で,最も頻度の高いのはリン菌(Neisseria gonorrhoeae)感染症およびクラミジア(Chlamydia trachomatis)感染症である.

(5)スピロヘータ感染症

著者: 川端眞人

ページ範囲:P.275 - P.278

 ラセン状菌であるトレポネーマ,レプトスピラ,ボレリア属の細菌をスピロヘータと総称する.わが国では,スピロヘータ病原体で問題となる感染症は梅毒(トレポネーマ),ワイル病(レプトスピラ),ライム病(ボレリア)の3疾患である.いずれも全身性の感染症で多彩な病像を呈し,それぞれ臨床経過に特色があり,臨床所見から診断される.しかし,臨床所見に乏しい不顕性(潜伏)感染例や,非典型的な臨床経過の症例もあり,診断が困難となる例が多い.臨床検査では直接病原体スピロヘータを証明することは難しく,手技も煩雑であるため,補助診断として免疫血清反応が広く応用される.また,いずれも病期によって病原体が血中に出現し,ことに梅毒では経胎盤感染を生じたり,輸血を介した感染の原因となるため,スクリーニングとして血清診断が活用される.

2.リケッチア感染症の免疫検査

リケッチア感染症の免疫検査

著者: 海保郁男 ,   時枝正吉

ページ範囲:P.279 - P.281

■リケッチア症とは
 現在,リケッチア属疾病群は3群に大別されている(表),このうち,日本で今なお年間1,000人近い患者発生のある疾病は,Rickettsia tsutsugamushiによるつつが虫病である.
 昭和初期の患者発生報告は秋田県の雄物川,山形県の最上川,新潟県の阿賀野川,信濃川などの大河川流域に限局した地方病であり,致命率は40%を超えていた.これら地域のつつが虫病は,アカツツガムシ(Leptotrombidium akamushi)と呼ばれるダニが媒介し,古典型と呼ばれ,初夏から秋にかけて発生した.しかし,古典型の発生は現在ほとんどみられない.

3.ウイルス感染症の免疫検査

(1)肝炎

著者: 飯田眞司

ページ範囲:P.282 - P.285

■A型肝炎ウイルス(HAV)
1.臨床
 A型肝炎ウイルス(HAV)はRNAウイルスで,通常,HAVに汚染した飲食物を経口摂取することにより感染する.飲料水や生カキなど貝類によるものがほとんどで,流行発生,季節的発生がある.遷延することはあるが,慢性化しない.まれに劇症肝炎を起こすことがある.

(2)レトロウイルス感染症(HIV,HTLV-Ⅰ)

著者: 吉原なみ子

ページ範囲:P.286 - P.288

■レトロウイルスの免疫血清学的特徴
 ヒトに感染し,病気を起こさせるレトロウイルスにはHIVおよびHTLV-Ⅰがある.HIVはAIDSの原因ウイルスであり,HTLV-ⅠはATLやHAMの原因ウイルスである.現在のところ感染後,AIDS発症までの潜伏期は平均約10年である.感染後20年でほぼ90%の感染者が発病すると推測されている.残念ながら発病後治癒した報告例は見当たらない.一方,ATLの潜伏期は数十年と長く,生涯発症率は300分の1である.発症後1年以内の死亡率が50%以上,2年以内で全例死亡する.これらのウイルスは感染すると抗体が作られる.この抗体は病気の回復を意味しない.ウイルスと抗体は共存し,一生この状態が続く.したがって,血液中の抗体を確認することによりウイルス分離とほぼ同等の診断価値を持つ.ただし抗体検査はウイルスや遺伝子を直接検出していないことおよび発症までの潜伏期が長いことなどを考慮して,この検査の結果のみから診断することは適切ではない.そのため,診断する場合は病歴や生活歴,身体的所見および検査所見などを総合して判断する必要がある.

(3)ヘルペスウイルス感染症

著者: 中村良子

ページ範囲:P.289 - P.295

■ヘルペスウイルス感染症の臨床検査
 ヒトヘルペスウイルス科のウイルス(以下ヘルペスウイルスと省略)は,外径120〜130nmのエンベロープを持つ球状DNAウイルスで,α,β,γの3つの亜科に分類されている.ヘルペスウイルス感染症は,表1に示すように各年齢層にわたる多彩な臨床像を示す.
 ヘルペスウイルスの特徴は,ヒトに初感染(多くの場合,幼小児期に不顕性感染)後,体内に持続感染(潜伏感染)することである.したがって,ほとんどの成人は抗体陽性で,ウイルスと生涯共存状態にある.免疫不全状態では,時に外因感染(初感染)と内因感染(回帰発症;reactivation)のどちらであるかの判断を要する.近年,ヘルペスウイルス感染症は臓器移植,輸血などに伴う医原性感染や,後天性免疫不全症候群(aquired immunodeficiency syndrome;AIDS)などのimmunocompromised hostにおける日和見感染症として注目されている.またアシクロビル(ACV),ガンシクロビル(GCV)などの化学療法が可能となり,迅速診断による早期治療が重要である1〜3)

(4)発疹性疾患

著者: 田島剛 ,   目黒英典

ページ範囲:P.296 - P.297

 ここでは臨床医が通常ウイルス性発疹症として念頭に置く頻度の高い疾患について,①臨床像(定型的経過,非定型的経過など),②診断法,③検査結果とその判定などを中心に述べる.

(5)呼吸器感染症

著者: 草野展周

ページ範囲:P.298 - P.300

 呼吸器感染症を起こすウイルスを表1に示した1).そのほかにも肺炎を起こすものにはmeasles virus,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV),水痘帯状庖疹ウイルス(varicella-zoster virus;VZV)などがある2).ウイルスの診断としては分離培養,抗原検査,抗体検査,DNA診断などがあるが,呼吸器感染症の臨床診断としては免疫学的な抗原または抗体の測定が診断の中心となっている.

(6)中枢神経系感染症

著者: 田島マサ子

ページ範囲:P.301 - P.303

 ウイルス感染には一過性の感染系(感染ウイルスが体内から排除される)と持続感染系(感染後ウイルスが体内から排除されずに持続する)とに分けて考えることができる.
 (1)一過性感染とは感染後に産生抗体によりウイルスが体内から排泄される感染系で,ほとんどのウイルスがそうである.中枢神経系への感染ウイルスとしては日本脳炎,エンテロウイルス,まれに下痢症のロタウイルスがある.無菌性髄膜炎は80〜90%がエンテロウイルスによるもので,14歳以下の子供に多い.コクサッキー,A群の9,コクサッキー,B群の2〜4,エコー6,7,9,11,30型は流行型で,髄液からのウイルス分離率も高い.1991年の夏〜秋にかけてエコー30型の流行では成人の無菌性髄膜炎の報告がある.エンテロ71ウイルスは手足口病の病因ウイルスで,流行時には中枢神経系の症状を伴うことが知られている.ムンプスウイルスは罹患後に髄膜炎を併発.麻疹ウイルスもまれに罹患後脳炎を引き起こす.風疹ウイルスは先天性風疹症候群の中に髄膜脳炎が一過性にみられる例と,風疹罹患後に脳炎になる例がある.

(7)ウイルス性急性胃腸炎

著者: 今村宜寛 ,   新宮正久

ページ範囲:P.304 - P.307

 ウイルス性急性胃腸炎(下痢症)は日常しばしば遭遇するありふれた疾患である.頻回の下痢,嘔吐および発熱をきたし,乳幼児においては脱水症の合併によって入院を要することもあり小児科領域では重要である.現在,下痢症の起因ウイルス1〜3)として特に検出頻度が高いのは毎年,冬期(11〜3月)に多発するロタウイルス(human rotavirus;HRV)および年間を通じて検出される腸管アデノウイルスである.しかし,これとは別に表1に示したようにSRV(small round virus)と総称される小型球形ウイルスも関与していることもある.
 近年,免疫学的検査法の開発4〜6)により抗原の証明が以前に比べ容易になり,専門機関以外の一般の診療所においてもスクリーニングが行えるようになった.

Ⅸ.薬物の免疫学的測定

薬物の免疫学的測定

著者: 宮本元昭

ページ範囲:P.315 - P.317

■薬物の特徴
(1)生体外から投与される化学物質である.
(2)薬理作用と用量に比例関係がある.

Ⅹ.輸血

1.血液型—ABO型,Rh型検査法

著者: 冨田忠夫

ページ範囲:P.318 - P.321

■ABO型
 1900〜1902年LandsteinerらによるABO型の発見は,輸血の安全性の向上と普及に大きく貢献した.ABO型の検査は,後出Rh0(D)型とともに輸血の際,必須の検査項目である.
 ABO型抗原の生成は,D-ガラクトース,N-アセチルグルコサミン,N-アセチルガラクトサミンの糖鎖を前駆物質として,H遺伝子によるH転移酵素によってH物質が生成される.さらにこのH物質にA遺伝子によるA型転移酵素,B遺伝子によるB型転移酵素が働いて,それぞれA型,B型ができあがる.AあるいはB遺伝子を持たないO型はH物質そのものである.

2.交差適合試験

著者: 佐藤千秋 ,   渋谷温

ページ範囲:P.322 - P.324

 交差適合試験は赤血球輸血を実施するに当たり行う検査であって,その目的は受血者または供血者が保有する赤血球抗体を赤血球凝集反応により検出し,輸血後に生体内で生ずる主に溶血性の即発性輸血副作用を未然に防止することにある.他の血液細胞や各種の血清蛋白に対しての抗体に起因する輸血副作用を防止するものではない.
 交差適合試験は通常,ABO式血液型とRh式血液型(Rh0:D)が同一の受血者と供血者間で実施され,主試験(受血者血清中に存在する供血者赤血球と反応する抗体を検出)と副試験(供血者血清中に存在する受血者赤血球と反応する抗体を検出)からなる.この試験は不完全抗体と完全抗体が検出できる以下に示す方法の組み合わせで行われる.生理食塩水法は主に完全抗体を,酵素法,アルブミン法,間接抗グロブリン試験の各方法は不完全抗体を主に検出する.

3.抗グロブリン試験と不規則抗体

著者: 加藤俊明 ,   関口定美

ページ範囲:P.325 - P.330

 抗グロブリン試験(anti globulin test)はクームス試験ともいわれ,1945年CoombsらによってRh式血液型抗体(抗Rh)を検出する方法として考案された.抗Rhは通常,妊娠や輸血などによるIgG性の免疫抗体であるため,赤血球に抗体が感作されていても凝集反応を起こすことはできない.したがってCoombsらはヒト血清をウサギに免疫した抗グロブリン抗体を用いて,IgG感作赤血球を架橋し凝集反応を起こさせた.これによって抗Rhの検出や新生児溶血性疾患の診断,さらには抗グロブリン試験でなければ検出できない抗体があることを証明した.
 その後,多くの研究者によって抗グロブリン試験の有用性が認められ,多種多様な抗体の検出から新たな血液型の発見や他の応用方法へと発展し,現在では輸血学のみならず臨床検査,細菌学,法医学など広範な領域で利用され,特筆すべき重要な発見と評価されている.

4.抗血小板抗体検査法

著者: 金信子 ,   髙橋孝喜

ページ範囲:P.331 - P.334

 抗血小板抗体は,血小板輸血不応状態や新生児血小板減少性紫斑病の解析に重要であり,20種類以上の検査法が考案されている.当初は,ラジオイムノアッセイ法1)なども用いられたが,現在行われている方法は表1に示すように,混合受身凝集法(mixed passive haemagglutination;MPHA法)およびMAIPA法3)である.本稿では,抗血小板同種抗体の検出法として,ことに有用性の高いMPHA法に関して,プレート作製などの検査の実際について述べることとする.

5.HLA検査(抗白血球抗体を含む)

著者: 宮本正樹 ,   十字猛夫

ページ範囲:P.335 - P.339

 HLA(ヒト白血球抗原)検査は,臓器移植や血小板輸血などにおいて患者とドナー間の適合性を判断するうえで必要不可欠な検査となっている.特殊な治療を除いて白血球は輸血に必要がない.白血球を含む血液を輸血すると,HLA抗体を産生する患者が輸血の量・回数とともに増えてくる.60〜90%の患者がHLA抗体を造ると報告されている.血液の中では,赤血球以外の血球表面にHLA抗原が存在する.したがって,HLA抗体ができた患者に血小板を輸血しても,抗体により直ちに血小板が壊されてしまうので,輸血効果が上がらない.このような場合には,患者のHLA抗体を調べ,その抗体と反応しないHLA型の血小板を輸血しなければならない.本稿では,抗血清を用いた血清学的手法によるHLA抗原とHLA抗体の検査法について述べる.

6.自己血輸血の実際

著者: 田崎哲典

ページ範囲:P.340 - P.342

 自己血輸血とは,同種血輸血による感染症や免疫学的副作用,移植片対宿主病の防止,あるいはまれな血液型患者の血液の確保を主な目的とし,術前や術中に患者の血液を採取し,必要に応じてそれを輸血するものである.ここでは,種々の方法,実際および問題点などについて概説する.

7.輸血検査の精度管理

著者: 平野武道 ,   半田誠 ,   田野崎隆二 ,   上村知恵

ページ範囲:P.343 - P.347

■精度管理導入の環境
 輸血療法の適正化に関するガイドラインが制定されて3年,ABO式血液型の発見後約1世紀,輸血後溶血副作用の主な原因となる血液型不一致が挙げられてから80年,交差適合試験においても,受血者血清に凝集しない血球を選ぶ主試験が考案されて約90年,クームス試験,酵素,低イオン法による検査が開発されて30〜50年を経過したのにもかかわらず,以下に示すような輸血副作用(表1)事故が皆無といえないのは,医療に従事する人間のチェックの識別と問題意識の低下,業務の不標準化が挙げられる.
 血液型判定用血清基準として,国家検定によって品質管理されてきたが,1993年4月1日以降,血液型判定用血清の次のものが国家検定から削除される.ABO血清,乾燥抗A,B,血液型判定用血清,抗A,B血液型判定用モノクローナル,抗D血液型判定用血清(食塩抗体血清およびアルブミン液抗体)(化学修飾抗体血清)(混合血清)(モノクローナルアルブミン液抗体)(モノクローナル食塩抗体)(モノクローナル食塩およびアルブミン液抗体)(モノクローナルポリクローナル抗体混合)クームス血清などである.このことからこれら血清に対する認識を正しく持ち,自分の検査に使用する血清には十分の責任が持てるよう,品質管理を実施し,供給する試薬メーカーに対して十分の対応ができる知識,技術を備えて対処する必要がある.

8.輸血副作用と検査

著者: 遠山博

ページ範囲:P.348 - P.351

 輸血を施行したとき,不都合が数分後〜数時間後に発現するものを輸血副作用,それが数日後〜数か月後に発症するものを輸血合併症としているが,後者の大部分は輸血感染症と定義されていることが多い.
 輸血後短時間で障害の発現する副作用の原因にはいろいろあって極めて多彩であるが,大きく3つに分類される.

XI.細胞免疫

1.T・B細胞サブセット,血球表面マーカー

著者: 杉田完爾 ,   中澤眞平

ページ範囲:P.352 - P.354

■血球表面マーカーの検出法
 血球膜表面にある抗原が存在するかどうかを決定するためには,その抗原に特異的に反応する抗体(ポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体)が用いられる.抗体を蛍光色素で標識したり(蛍光抗体法),酵素で標識したり(酵素抗体法),赤血球で標識したり(免疫ロゼット法)することによって,抗原に結合した抗体を検出する.抗原を認識する抗体(第一抗体)を標識する場合(直接法)と,第一抗体に対する第二抗体(例えば第一抗体がマウスの場合はマウス免疫グロブリンに対する異種抗血清である家兎抗マウス抗体など)を標識する場合(間接法)がある.各方法には長所と短所があるが,血球膜抗原の検出法として最も広く用いられている方法は,モノクローナル抗体を用いた直接あるいは間接蛍光抗体法で,フローサイトメーターを用いて蛍光陽性細胞を検出し,カウントする.異なる抗体を異なる蛍光色素で標識すれば,同一細胞表面に存在する2種あるいは3種の抗原を同時に検出することもできる(ダブルあるいはトリプル染色法).

2.NK細胞検査とADCC

著者: 押味和夫

ページ範囲:P.355 - P.357

■キラー細胞の種類と標的細胞傷害の機序
 腫瘍細胞やウイルス感染細胞を傷害・排除する防御機構の1つにキラー細胞がある.キラー細胞は表,図1に示す3種類の機序により標的細胞を傷害する.①MHC(主要組織適合遺伝子複合体)拘束性キラー活性,②MHC非拘束性キラー活性,③ADCC(antibody-dependent cellular cytotoxicity;抗体依存性細胞作動性細胞傷害)の3種類である.各々のキラー活性は表に示すエフェクター細胞により担われている.MHC拘束性キラー活性では,図1に示すように,抗原により感作・誘導されたキラーT細胞が,T細胞抗原レセプター(TCR)を介して,標的細胞の抗原とMHCの複合体を認識する.MHC非拘束性キラー活性では,キラーT細胞による抗原認識とは異なり,MHCの関与を必要としないで標的細胞を認識する.代表的なエフェクターはNK(natural killer)細胞である.NK細胞は,T細胞と異なり,抗原による感作を必要としないで,自然にある種の標的細胞を殺す能力を持った,T細胞でもB細胞でもないリンパ球である.NK細胞ではおそらくいくつかの接着分子がレセプターとして働いているものと考えられている.ADCCでは,標的細胞表面の抗原に抗体が結合し,その抗体のFc部分にFcレセプターを有する細胞が結合することで標的細胞を傷害する.

3.リンパ球幼若化試験

著者: 中尾實信

ページ範囲:P.358 - P.361

 リンパ球の幼若化現象は,1960年Nowellにより初めて報告された.形態上,リンパ芽球に酷似した変化は,細胞分化過程での若返りではないかと考えられ,幼若化現象(blastgenesis)という言葉が用いられた.しかし,今日では成熟したリンパ球の活性化現象をとらえているものと,理解されている.
 一方で,T細胞やB細胞など,リンパ球のサブポピュレーションや,T細胞のサブセットに関する研究が進んだ.その結果,リンパ球活性化も,それぞれのサブポピュレーションやサブセットのレベルで検討されるようになった.また,リンパ球活性化に伴って分泌されるリンホカインとその受容体の役割も,免疫の回路を構成するうえで極めて重要なものである.さらに,リンパ球活性化に伴うさまざまな生化学的変化や,遺伝子活性化の機構が明らかになってきた.これらの変化は,形態変化よりも早期に認められるものもある.リンパ球幼若化現象を細胞形態学的にこだわることや,核酸合成能の亢進のみで評価することには,問題があるのかもしれない.したがって,リンパ球幼若化試験をさらに有効な臨床応用に役立てることができないか,検討すべき時期にきているともいえるわけである.

4.T細胞レセプター

著者: 鈴木敏雄 ,   森泰二郎

ページ範囲:P.362 - P.364

 Tリンパ球が抗原を認識する際に,Tリンパ球表面上において抗原と結合する分子がT細胞レセプター(T cell antigen receptor;TCR)である.TCRを介したシグナルはTリンパ球の活性化を誘導し,ひいては細胞性免疫のみならず免疫機構全体の賦活化の端緒となる.TCRにはα鎖とβ鎖から成るヘテロダイマーとγ鎖とδ鎖から成るヘテロダイマーの2種類があり1),一般抗原は主にαβ型TCRにより認識される.外界に存在するおびただしい数の抗原を特異的に認識するために,TCRはBリンパ球上の免疫グロブリンと同様の多様性を有している.そして,この多様性はTCRを構成するα鎖などの鎖をコードする遺伝子の再構成により主として形成され,この再構成は,各鎖の可変部(V領域)をコードする遺伝子を構成するV,(D),J各領域から遺伝子が選択され接合されることにより完了する.また細胞表面上では,TCRは細胞内シグナル伝達系のCD 3分子と非共有結合性に会合したTCR複合体の形で存在し2),CD3には,γ,δ,ε,ζ,η鎖の5種類のペプチドが同定されている(図1).このようにTCRは複雑な構造を有し,現在広く行われている臨床検査の中にこのTCRの機能に関するものはほとんどなく,むしろTCRの有する多様性などの特性を応用した検査が主に行われている.

5.サイトカイン

著者: 笠原忠

ページ範囲:P.365 - P.367

■サイトカインとは
 サイトカインとはリンパ球や単球・マクロファージ(Mφ)が産生する蛋白質で,種々の細胞に対し増殖・分化作用を示す因子の総称である.サイトカインはリンパ球や単球だけでなく,血管内皮細胞や上皮性細胞,線維芽細胞などからも産生される.主なサイトカインを表に示した.代表的なサイトカインであるインターロイキン(IL)にはIL-1〜IL-13まであり,多くはTリンパ球が産生する因子であるが,単球・Mφから産生されるものもある(IL-1α/β,IL-6,IL-8など).ILは蛋白質として精製され,遺伝子がクローニングされた順に番号が付けられてきたため,その活性や機能とは直接関係がない.したがって初心者にとってIL-1,IL-2,IL-3,……などの性質と機能を理解することは容易でないであろう.この点コロニー刺激因子(CSF)やインターフェロン(IFN)あるいは腫瘍壊死因子(TNF)のような因子のほうが,その名称の意味から機能が理解しやすいかもしれない.

XII.免疫組織化学

1.病理診断における免疫組織化学—上皮性腫瘍の特徴

著者: 深山正久 ,   林幸子

ページ範囲:P.369 - P.375

免疫組織化学と病理診断
 患者の診察で腫瘤が触れたり,X線検査・内視鏡検査で体内に腫瘤状の病変があった場合,腫瘤の性質を明らかにするために生検・細胞診が行われる.組織・細胞診標本が作製され,通常,組織標本であればヘマトキシリン・エオジン染色,細胞診であればパパニコロー染色が施され,組織や細胞の“形の観察”によって診断を下す.この一連の作業が病理学的診断であるが,その診断に求められていることは以下の項目にまとめられる.

2.非上皮性腫瘍の免疫組織化学的特徴

著者: 福永真治

ページ範囲:P.376 - P.379

 非上皮性腫瘍の代表的なものは軟部腫瘍,骨腫瘍,胸腔・腹腔などの中皮より発生する中皮腫および悪性リンパ腫である.その中で軟部腫瘍は最も頻度が高く,組織像も多彩で組織診断に難渋することが多い.鑑別診断法として従来の種々の特殊染色,電顕的観察に加え免疫組織化学的検索が強力な武器となっている.さらに細胞の形質や分化を把握するのにこの免疫染色は不可欠である.しかし免疫染色が日常業務として簡単に行えるようになったと同時に,その結果の過大評価により組織診断を誤る危険性も少なくない.
 本稿では主として軟部腫瘍での免疫組織化学的検索の特徴,ホルマリン固定,パラフィン切片で染色可能でかつ現在広く普及している代表的なマーカーと,その意義と留意点について述べる.

3.非腫瘍性疾患と免疫組織化学

著者: 大塚成人

ページ範囲:P.380 - P.382

■非腫瘍性疾患の免疫組織化学
 免疫組織化学の目的は形態的変化の乏しい細胞を鑑別したり,細胞の形態変化の有無とは別に,細胞内に局在する物質を誰もが容易に確認できるようにすることである.したがって,通常の染色によって形態学的変化が明らかなものに対して行う免疫組織化学よりも,ほとんどの非腫瘍性疾患のように,形態学的変化の乏しい疾患に対して行う免疫組織化学のほうがはるかに意義と重要性があるといっても過言ではない.免疫組織化学の対象となる非腫瘍性疾患は,感染症,代謝・内分泌疾患,自己免疫疾患,変性疾患などである.以下,実際に免疫染色を行った例を用いて説明したい.免疫染色は,ABC法で行い,DAB(3,3’ diaminobenzidine tetrahydrochloride)で発色した.

4.細胞診における免疫組織化学

著者: 伊藤仁 ,   都竹正文

ページ範囲:P.383 - P.385

 免疫組織化学はすでに,広く病理診断に応用されるようになり,現在では細胞診の分野にも積極的に応用されるようになってきた.この手法を用いることにより,診断上有用なさまざまな抗原が観察可能となり,主に良性と悪性の鑑別,組織型の推定などに応用され,パパニコロウ染色による形態学的診断に客観性,正確性を寄与している.本稿では体腔液細胞診,乳腺細胞診において,鑑別診断に用いられるマーカー,特に良性と悪性の鑑別に用いられるマーカーについて,その有用性,応用する際の留意点について述べる.上皮性腫瘍,非上皮性腫瘍の免疫組織化学的特徴や組織型の推定などについては他項を参照されたい.

5.in situ hybridization

著者: 澤井高志 ,   宇月美和 ,   高橋裕一

ページ範囲:P.386 - P.389

■核酸の構造のハイブリダイゼーション
 in situ hybridization(ISH)は細胞,組織内に存在する特定の核酸の有無および分布を同定する技法であり,方法によっては半定量的扱いも可能である.免疫染色が抗原抗体反応に基づく反応を利用しているのに対し,ISHは核酸を形成する塩基間の相補性を利用した反応といえる(図1).つまり核酸はデオキシリボースとリン酸より成るDNAと,リボースとリン酸よりなるRNAから成り,DNAはアデニン(A),チミン(T),シトシン(C),グアニン(G)の4つの塩基,RNAはA,C,GとTの代わりにウラシル(U)という4つの塩基から成り,直線的な配列をとる.その中で水素結合を2個有するAとT(またはAとU),3個有するCとGの結合によって相補性を呈する.
 遺伝子DNAが二重らせん構造をとり,これを発見したワトソンとクリックが1962年にノーベル賞を受賞したことはよく知られているが,その二重らせんが塩基配列の水素結合による相補性によるものであり,これを利用して人工的に相補鎖(二本鎖)を構成することをハイブリダイゼーション(hybridization)という.

XIII.その他

1.フィブロネクチン

著者: 片山政彦

ページ範囲:P.390 - P.392

 フィブロネクチン(fibronectin;FN)とは,ヒトを含め多くの動物の血液や組織中に比較的多く存在する高分子糖蛋白質である.その分子量は非常に大きく(約40万),普通のポリアクリルアミド電気泳動などでは簡単に分離できない.FN分子は,ほぼよく似た2本のポリペプチド鎖(α鎖とβ鎖)が末端でS-S結合した二重鎖構造をとっている.FNの最も興味深い生理活性は細胞接着活性である.培養シャーレ表面に吸着したFNは線維芽細胞などの動物細胞を強く伸展接着させることができる.

2.コラーゲン

著者: 本村光明

ページ範囲:P.393 - P.395

 細胞外マトリックスの骨格を成す主要な蛋白がコラーゲンであり,13種の型が報告されている.コラーゲンはプロコラーゲン遺伝子から転写されたα鎖ポリペプチド3本がヘリックス構造をとり,プロコラーゲンとして形成され,血中・細胞中のプロコラーゲンNペプチダーゼが作用することによりN末端領域・C末端領域が除かれる(図1).コラーゲンは他の細胞外マトリックスと多分子複合体を形成する.日常臨床ではⅠ型プロコラーゲンCペプチド(PIP),Ⅲ型プロコラーゲンNペプチド(PⅢP),Ⅳ型コラーゲン7Sドメインの測定が行われるが,血中ペプチド値の上昇が,プロコラーゲンの合成を反映するかどうかは議論が多い.確実にプロコラーゲン合成を知るにはmRNAの発現を検討することが必要となる.本稿ではプロコラーゲン遺伝子の発現について述べる.

3.糞便中ヘモグロビン

著者: 斎藤博

ページ範囲:P.396 - P.398

■消化管内でのヘモグロビン(Hb)の動態
 免疫便潜血検査は,抗原が種々の要因による影響を受けることに起因するいくつかの特徴がある.
 顕出血,すなわち比較的多量の出血が消化管内で起こった場合,その出血の部位により排泄される便の外観が異なることはよく知られている.例えば鮮血として認められるのは,一般に下位結腸以下からの出血の場合であり,一方,上部消化管からの場合はタール便として認められる.これは,消化管の諸相においてHbが異なった変化を受けるからである.以下,消化管の各部位におけるHbに対する影響とその変化を簡単に述べる(図).

4.寒冷溶血反応

著者: 浅川英男 ,   遠井初子

ページ範囲:P.399 - P.400

■寒冷溶血反応を示す疾患の検査の臨床的目的
 ある種の疾患ではヒト赤血球が寒冷に遭遇すると溶血することが知られている.この場合の寒冷とは通常0〜4℃である.そのときでも溶血を起こすのには補体の存在が必要である.しかし補体は0〜4℃では作動しない.それを説明するのに最も好都合なのが発作性寒冷血色素尿症(paroxysmal cold haemoglobinuria;PCH)である.
 PCHの最も劇的な症状は,急劇かつ間欠的な溶血が血管内で起こることがあって,それは患者の皮膚が寒冷にさらされると起こる.本疾患患者の手を氷水中につけることによっても起こる(実験をしてはいけない).症状としてはしばしばヘモグロビン尿,指尖のチアノーゼ,時に寒冷蕁麻疹を起こすこともある.しかし,当初この疾患が自己抗体によって引き起こされるとは考えていなかった.1884年以来本疾患が晩期梅毒にしばしば合併することが指摘され,DonathとLandsteinerが本疾患発症は補体依存性の自己免疫性溶血性抗体(D-L抗体)に基づくことを証明した.したがって現在ではPCHの診断はD-L抗体の存在の証明によって決められる.本疾患は過去においては先天梅毒患者によく認められた.すなわち,子供に多く認められた.先天梅毒であるために家族内発生も多かった.もちろん寒い季節に起こるけれどもその寒さの程度は患者によっていろいろである.

話題

MRSA PBP 2'の検出

著者: 斎藤充弘

ページ範囲:P.37 - P.37

 MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は,院内感染原因菌の1つとして近年注目されている.MRSAは多くの抗生物質に耐性であり,特に今日多量に使用されているペニシリン,セフェムなどβラクタム剤が有効ではなく,その治療にはバンコマイシンなど数種の薬剤が有効とされている.
 PBP 2'(ペニシリン結合蛋白2プライム)は黄色ブドウ球菌を含むブドウ球菌の耐性に関与する.ブドウ球菌は数種類のPBPを有しており,これらが細菌細胞壁合成酵素として働いている.抗生物質,特にβラクタム剤はこれらの酵素に結合し酵素を不活化し,その結果,細胞壁の合成ができず菌は死に至る.ところが,PBP 2'は抗生物質とあまり結合せず,抗生物質があっても細胞壁合成酵素の作用を持ち菌を増殖させる.したがって,PBP 2'を産生するブドウ球菌は多くの抗生物質が有効ではない耐性ブドウ球菌である.

免疫検査の精度管理

著者: 柴崎光衛 ,   森三樹雄

ページ範囲:P.48 - P.48

 精度管理は,検査結果の信頼性をより高めるためのものである.医師は検査値を参考に診断,治療,経過観察を行う.したがって,われわれが提供する検査結果は高い精度が要求される.
 近年,免疫血清検査の自動化は目ざましく進み,従来の定性検査から自動化による定量検査へと移行している.また,より高感度な測定法が開発され,従来では測定できなかった低値領域まで測定が可能になった.このように数値化された値は,感度の良い精度管理手法で管理することによって,初めて“生きた数値”となる.また,梅毒検査,HIV抗体検査,HTLV-Ⅰ抗体検査などは,その結果が直接社会問題にもなる.精度管理は日常業務の信頼性の保証として非常に重要である.

免疫検査における偽陰性・偽陽性

著者: 島川宏一

ページ範囲:P.54 - P.54

 免疫学的手法を用いた検査において,偽陰性(false-negative)・偽陽性(false-positive)はしばしばみられる反応であり,特に患者血清を試料とする検査では,原疾患や治療条件なども含めてさまざまな要因が考えられる.例えばγ-グロブリン製剤投与時のウイルス抗体の偽陽性や,沈降反応における地帯現象および免疫抑制剤投与時など,免疫不全状態における偽陽性は代表的なものといえよう.また,単純な検体採取時の汚染や採取不十分なども原因となりうる.
 最近,臨床からの感染症迅速診断の要求が高まり,この分野での免疫学的検査が急速に発展している.よく用いられる方法として,細菌の同定にも広く用いられている凝集反応や沈降反応あるいは蛍光抗体法などがある.このうち抗体検出においては,“抗体検査は感染症の裏側を見ているにすぎない”とよくいわれるように,その感染症を正確にとらえられている例は少ない.一方,抗原検出においては,感染症起因菌の抗原因子をとらえるものや,産生する毒素や代謝産物をとらえるものなどがあるが,その使用方法については十分注意する必要がある.例えば目的菌と抗原構造の似通った他の菌との交差反応が問題となったり,脳脊髄液,咽頭粘液あるいは便などのような材料は,抗原(多糖体や糖蛋白など)の抽出や精製などといった前処理が必要となる.

遺伝子検査と免疫検査の利点と欠点

著者: 久保信彦 ,   剛勇

ページ範囲:P.66 - P.66

 遺伝子が取り扱う技術が飛躍的に発展したために,臨床検査領域で遺伝子検査が可能となっている.外因性の遺伝子(これまで同定が困難であったウイルス,細菌,原虫などの病原体の遺伝子)の検出による感染症の診断,内因性の遺伝子(癌関連遺伝子を含む病因遺伝子)の検出による各種疾患の診断などに利用されている.遺伝子病の場合など疾患の原因の根本を確実に把握できることから,この検査の将来に期待するところは大きい.しかし,医療費抑制が叫ばれる昨今,遺伝子検査の体制を確立するだけの資金的余裕は一般臨床検査にはない.業者が開発するキットは(莫大な特許料,開発費などのあおりを受けて)高額で,したがって臨床検査として遺伝子検査を行う場合,負担は相当なものとなろう.また,内因性遺伝子の検査結果は,その個人の近未来を予言するのみならず,血族,子孫までに影響する極めて重大でデリケートな問題であることに留意すべきであろう.他の検査にも増して検査倫理が要求される1)が,この重要性は以外と認識されていないように思われる.
 血清学的に患者の感染抗体を測定することにより各種の感染症が裏づけられ,各種の自己抗体の存在が自己免疫疾患との関連で明らかになっている.しかし,免疫検査に限らず正常と異常をクリアカットに分ける検査は存在せず,検査を行うごとに健康人の20人に1人の割合で偽陽性が生まれている(健康人の95%を参考値幅とした場合).

肝細胞増殖因子(HGF)の臨床応用

著者: 石井健久

ページ範囲:P.73 - P.73

 肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor;HGF)は,肝細胞の増殖を強力に誘導する因子として見いだされたサイトカインである.われわれは,関西医大・鹿児島大と共同でヒトHGF cDNAをクローニングし,現在,遺伝子組換えによりrecombinant human(rh)HGFを大量に取得して,医薬応用に向け研究を進めている.
 rhHGFは肝以外の細胞にもさまざまな生理作用を発揮することが判明しているが,①肝障害に伴ってHGF産生が増強し,かつ活性型HGFにプロセスされる,②肝細胞の増殖と機能をともに促進する,③肝組織の構築に必要な血管内皮細胞・胆管上皮細胞の増殖も促進する,および④ラットにrhHGFを投与すると速やかに肝に集積して肝細胞内に取り込まれることから,特に種々の肝疾患に対する適用が期待されている.実際,ラット肝の一部を切除した肝再生モデルおよびCCl4やα-ナフチルイソチオシアネート(ANIT)投与による肝障害モデルにrhHGFを適用すると,肝再生促進・肝障害抑制・アルブミンなど肝特異的蛋白合成促進・ヘパプラスチンテストやプロトロンビン時間の改善などが認められた.今までに,問題となるような副作用は見いだされていない.

組織性プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)

著者: 上嶋繁

ページ範囲:P.79 - P.79

 血液にはフィブリノゲン(fibrinogen;Fbg)をフィブリン(fibrin;Fbn)に変換して血栓を形成する凝固系と,その血栓を溶解する線溶系という生理的機構が存在する.線溶系の主役をなす蛋白質分解酵素はFbnを分解するプラスミン(plasmin;Plm)であるが,これは通常,酵素活性を持たないプラスミノゲン(plasminogen;Plg)として血液中に存在している.Plgはプラスミノゲンアクチベータ(Plg activator;PA)の作用を受けてPlmに活性化される.
 PAにはFbnに親和性を持つ組織型PA(tissue-type PA;t-PA)1)などと,Fbn親和性のないウロキナーゼ型PA(urokinase-type PA;u-PA)などがある.t-PAはヒトの血管内皮細胞などから分泌されて血液中や各組織中に認められ,u-PAはヒトの尿中に存在する.

コロニー刺激因子(CSF)

著者: 畠清彦

ページ範囲:P.95 - P.95

 colony-stimulating factorからCSFと略すことが多い.1965年にPluznik & Sachs,翌年にBradley & Metcalfらによって骨髄細胞をシャーレの中に軟寒天に混ぜた培養液中に,約1〜2週37℃で5%CO2存在下に培養したところ,好中球やマクロファージからなる細胞集塊(コロニー)が作られた.その際は不明であったが,コロニーの形成を促進・刺激する因子があると考えられ,CSFとされた.
 CSFには顆粒球系に作用するgranulocyte-CSF(G-CSF),マクロファージ系に作用するmacrophage-CSF(M-CSF),両系統に作用するGM-CSFが有名である.そのほかにもっと未分化な細胞や肥満細胞に作用するためにmulti-CSFといわれていたものがインターロイキン3と名称が変わっている.好酸球に作用するCSFとしてEo-CSFといわれていたが,現在はインターロイキン5とされた.

腫瘍壊死因子(TNF)

著者: 杣源一郎

ページ範囲:P.104 - P.104

 腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor;TNF)は生体制御機構の中心的なサイトカインとして注目される一方,自己免疫疾患などの種々の疾病との関連で臨床的にも重要である.
 TNFは,主要組織適合抗原遺伝子(ヒトではHLA,マウスではH2)に連鎖して存在する2種の遺伝子によってコードされ1),蛋白としてはアミノ酸配列の上で,相同性のある2種の生理活性物質の総称である.これら2つはそれぞれTNFα,TNFβと呼ばれるがTNFβは従来リンホトキシン(LT)といわれていたものである.TNFαおよびTNFβは,生体でさまざまな細胞が分泌産生するが,ことにTNFαは,活性化を受けたマクロファージに由来する液性因子の中でも最も多彩な生理活性を持つ物質の1つである2).TNFαはTNFβとは異なり,容易に組み換え体が作製でき,純品が入手できるため,現在までその生物活性について広く解析が行われている.TNFα,βとも,前駆体の存在が知られており,通常の蛋白とは異なって前駆体が細胞表面に発現することで,局所的な細胞介在性の機能を発現する一方,前駆体の細胞外にある部分がプロテアーゼの分解によって遊離し,全身的な作用をも発現する3).活性発現は2つの受容体(55k,75k)を介するとされるが,詳細はまだ十分解明されていない4)

インターフェロン

著者: 佐野恵海子

ページ範囲:P.122 - P.122

 動物体内に,2種のウイルスが感染した場合,どちらか一方,または互いに増殖が抑制される現象が今世紀半ば以前から見いだされていた.この現象は,ウイルス-ウイルス間の干渉現象(interference)と呼ばれ,通常の免疫反応では説明できないものであった.インターフェロン(interferon;IFN)は,この現象の物質的解明への担い手として登場してきた.IFNは,ウイルスや核酸などの刺激を受けた細胞が,細胞外に分泌する2万前後の分子量を持った蛋白質因子であり,同種の細胞に抗ウイルス性を付与する作用を持つ物質である.
 1980年に抗原性の違いからα,β,γの3型に分類されたIFNは1990年に新たにω型が認定され4型に分類されている.各タイプのIFNは,抗ウイルス活性には大差はないが,産生細胞や誘発条件,また遺伝子や構造特性,レセプターなどに違いがみられる.その後IFNには,抗ウイルス作用のほかに,細胞増殖抑制作用や抗腫瘍活性,さらに免疫担当細胞の活性化など生体防御機構にかかわるいくつか他の作用もあることが知られるようになり,多面的生物活性を持つサイトカインの1つとして位置づけられるようになった.IFNの作用機構に関する研究は,多面的作用の中でも発見の動機となった抗ウイルス作用について最も進展している.

インターロイキン2

著者: 秋山由紀雄

ページ範囲:P.139 - P.139

 ヒトインターロイキン2(IL-2)は,抗原やマイトゲンの刺激により活性化されたT細胞の増殖因子としてマイトゲン刺激ヒト末梢血リンパ球の培養上清中に見いだされたサイトカインである.
 IL-2は分子量15kdの糖蛋白であり,主に活性化されたT細胞から産生される.IL-2は標的細胞上のIL-2レセプター(IL-2R)と結合後,細胞内にシグナルを伝達し,生物活性を発現する.すなわちIL-2はT細胞の増殖や分化,癌細胞障害性T細胞誘導,ナチュラルキラー細胞活性化,リンホカイン活性化キラー細胞誘導,B細胞増殖など多様な作用を示し,細胞性および体液性の免疫応答を調節する重要な因子である.遺伝子組換え技術を用いて生産されたIL-2は腎臓癌や血管内皮細胞腫に対する制癌剤として発売されている.

インターロイキン3

著者: 西田淳二

ページ範囲:P.150 - P.150

 IL-3と略される.マウスIL-3は,シグナルペプチドを含む166個のアミノ酸残基から成り,4個のN-グリコシル化部位を持つ(分子量28,000).ヒトIL-3はシグナルペプチドを含む152個のアミノ酸残基から成り,4個のN-グリコシル化部位を持つ(分子量25,000).ヒトとマウスではアミノ酸配列上29%の相同性を示すにすぎず,種差の最も大きいサイトカインの1つである.生理活性は造血系への作用と免疫系への作用に大別できる.造血系に対してはリンパ球を除く全系統の造血細胞(赤芽球,顆粒球単球,巨核球)のもととなる前駆細胞(造血幹細胞)の増殖と分化を促す.この作用はGM-CSF(顆粒球単球コロニー刺激因子)とほとんど同じである.免疫系への作用はIL-5,GM-CSFなど他のサイトカインと協同して肥満細胞と好酸球を増殖活性化させ,これらの細胞からケミカルメディエーターを放出させることによってアレルギー反応を引き起こす.IL-3は主として活性化Tヘルパー細胞,活性化肥満細胞から産生されるので,炎症などにおける反応性造血や免疫反応に働いていると考えられている.IL-3遺伝子はGM-CSF,IL-4,IL-5などとともにヒト第5番染色体,またはマウス第11番染色体上でクラスターを形成している.疾患との関連性では上記のアレルギー反応における役割が推測されているほか,造血系腫瘍との関連が示唆されている.

インターロイキン4

著者: 松田育雄 ,   新井賢一

ページ範囲:P.175 - P.175

 インターロイキン4(IL-4)は,サイトカインと呼ばれる増殖/分化因子の1つであり,①休止期B細胞の活性化と増殖促進,②成熟B細胞でのIgEへのクラススイッチの誘導,③成熟B細胞でのclass Ⅱ組織適合抗原やCD23[FcεRII](低親和性IgEレセプター)の発現誘導,④成熟T細胞の増殖促進,⑤肥満細胞の増殖促進などの活性を持つ.
 IL-4の産生細胞としては,成熟T細胞,肥満細胞,および非B非T細胞(おそらく好塩基球)の3つが知られている.

インターロイキン5

著者: 高津聖志

ページ範囲:P.194 - P.194

1.インターロイキン5とその受容体
 インターロイキン5(IL-5)はT細胞や肥満細胞により産生されるサイトカインで,活性化B細胞による抗体産生を促進するのみならず,骨髄中の好酸球前駆細胞に選択的に作用し好酸球コロニーを形成せしめ,成熟好酸球の試験管内生存を支持し,好酸球遊走活性を示すとともにスーパーオキサイドの産生も惹起する.近年IL-5/IL-5受容体系が炎症反応や免疫応答の調節系に重要な役割を果たしていることがわかってきている.
 IL-5は標的細胞上の高親和性IL-5受容体(IL-5R)を介して作用する.高親和性IL-5Rは約60kd(α鎖)と約130kd(β鎖)の異なる蛋白質より構成されるが,α鎖はIL-5特異的であり,IL-5と低親和性で結合するが,それのみではIL-5シグナルを伝達できない.IL-5Rβ鎖はそれ単独ではIL-5結合能を示さないが,α鎖存在下に高親和性受容体を構成し,IL-5シグナルを伝達する.このようにβ鎖はIL-5のシグナル伝達に必須であるが,それはIL-3RやGM-CSFRのシグナル伝達分子(β鎖)としても機能する.IL-5R,IL-3R,GM-CSFRが共通のβ鎖をシグナル伝達分子として利用している事実は,サイトカインネットワークと同様にサイトカイン受容体ネットワークの存在を示唆するものであり,サイトカインの作用の重複を考えるうえで興味深い.

インターロイキン6

著者: 田賀哲也

ページ範囲:P.220 - P.220

 インターロイキン6(interleukin-6;IL-6)は種々のタイプの細胞に作用し,増殖促進,増殖抑制,分化誘導,特異的遺伝子発現などのさまざまな生物学的反応を促す1).IL-6の産生異常と,リンパ球系腫瘍や自己免疫疾患,さらに最近では骨粗鬆症との関連も見いだされている2〜4).IL-6がその作用を発揮するメカニズムの研究は,したがって重要な意義を持つ.
 IL-6の信号は,IL-6結合鎖(IL-6R)と信号伝達鎖(gp130)の二本鎖から成る複合体によって細胞内に伝達される5).IL-6R,gp130はともに血液系サイトカイン受容体ファミリーに属している6).両分子は,IL-6の存在下に初めて会合し,これが信号伝達の引き金となる.なおこの会合には両分子の細胞外領域がかかわるため,IL-6Rの膜貫通ドメインと細胞内領域を欠く可溶性IL-6RもIL-6を結合後,gp130と会合して信号を伝えることができる5).gp130は,IL-6だけでなく他のサイトカイン,例えばleukemia inhibitory factor(LIF),oncostatin M(OM),ciliary neurotrophic factor(CNTF),IL-11の信号伝達にも関与している1,7,8)

上皮成長因子(EGF)—その受容体とシグナル伝達

著者: 宮田愛彦

ページ範囲:P.242 - P.242

 EGFは雄マウス顎下腺中に,新生マウスの上皮細胞の増殖を促進する物質として見いだされたポリペプチドである.代表的な細胞増殖因子の1つで,さまざまな細胞に対して増殖促進作用を持つ.マウスではアミノ酸1,217個から成る大きな前駆体として合成され,その一部のアミノ酸53個(分子量6,045)がEGFとして分離する.分子内に3本のジスルフィド結合を持つ比較的安定な分子で,立体構造もほぼ明らかにされている.生体内では発生のプロセスにおいてさまざまな上皮細胞の増殖・ケラチン化に重要な役割を担っており,また傷ついた上皮細胞の再生・修復にも関与しているらしい.ヒト尿中のウロガストロンとヒトEGFは同一である.
 EGFの生理作用はEGFが細胞膜表面のEGF受容体に特異的に結合してそのチロシン残基特異的な蛋白質リン酸化(キナーゼ)活性を上昇させ,受容体が自己リン酸化することによって始まる.自己リン酸化した受容体にはホスホリパーゼCγ・GTPase活性化蛋白質(GAP)・ボスファチジルイノシトール3(PI3)キナーゼなどの蛋白質が結合し,これらの酵素の活性化が起こると考えられる.またGRB 2またはAshと呼ばれる一種のアダプター蛋白質を介してSOS蛋白質が受容体に結合し,SOSの作用でRas蛋白質が活性化型となる.

神経成長因子(NGF)

著者: 古川美子

ページ範囲:P.271 - P.271

 神経成長因子(nerve growth factor;NGF)とは,文字どおり神経細胞(ニューロン)を成長させる(大きくするのではなく分化・成熟させる)因子である.NGFは,神経栄養因子(neurotrophic factor;NTF)と総称される一群の物質(ほとんどは蛋白質)の中で最も古くから,そして最も詳細に研究されてきた因子であり,分子量約26,000の蛋白質である1).NTFの機能として,①ニューロンが他の細胞種よりはるかに長い寿命を維持する(ニューロンは死ぬことがあっても分裂増殖により補われない,すなわち個体と同じだけの寿命を保つ)ために必要,②ニューロンは神経情報を伝達するために細胞体から長い線維(軸索)を伸ばしているが,間違いなく轄索を目的地にまで伸ばしていくために必要,③一口にニューロンといっても多種多様存在し,その分布も担っている機能もさまざまであるが,ニューロンがそれぞれの部位でそれぞれ特定の機能を持つようになる(分化・成熟)ために必要,などが考えられている.NGFは,種々のニューロンのうち末梢の交感ニューロン,知覚ニューロン,脳の一部のコリン作動性ニューロンなどに作用する.NGFはこれらのニューロンの投射部位(すなわち軸索の伸びている先)で合成され,受容体と呼ばれる特定の部位に結合してニューロン内に取り込まれ,細胞体へ運ばれ機能する2)

血小板由来成長因子(PDGF)

著者: 加治和彦

ページ範囲:P.274 - P.274

 血管平滑筋細胞は血漿では増殖刺激を受けないが,血清により細胞分裂を開始する.血清を調製する過程で血小板の凝集が起き,同時に血小板のα顆粒中にあるPDGFが放出される.これは,身体を循環する血液中にはPDGFは遊離されておらず,創傷部に局所的にこの因子が放出されることに相当する.細胞の増殖刺激はそれを必要とするところでのみ起きてほしいし,実際にそのように想定される.PDGFは創傷部に細胞を誘導し,続いてそれらの細胞の増殖を促し,傷を治癒する.
 細胞成長因子(増殖因子)は古典的なホルモンとは異なって,近接した異種細胞間(パラクリン),あるいは同種細胞間(オートクリン)に働く蛋白性の分子言語である.この一群の分子は,細胞の生存維持,増殖促進,増殖阻害,機能発現,分化などのシグナルを細胞に伝達する.PDGFは先にその動態を示したように,最も典型的な成長因子である.細胞成長因子の分泌や,発現が異常になると障害が生じる.血管壁に障害があると,PDGFが異常に蓄積し平滑筋細胞の増殖を促し,動脈硬化症の原因となる.また発癌遺伝子,V-sisはPDGFのB鎖をコードしている遺伝子と相同であった.一方,PDGFは個体発生時にも重要な役割を演じていることがわかってきた.

PCR

著者: 田村尚亮

ページ範囲:P.295 - P.295

 PCR(polymerase chain reaction;ポリメラーゼ連鎖反応)法は最近開発されたDNA増幅手技である.高温で失活しないTaqポリメラーゼを用いた本法の基本原理は,①加熱によるDNAの変性,②アニーリング,③二本鎖DNAの合成伸長の3つのステップで構成されている.DNAはグアニン(G),アデニン(A),チミン(T),シトシン(C)の4種類の塩基が一列に重合し,さらにAとT,CとGが結合した二本鎖の形で存在している.94℃で加熱されたDNAは一本鎖のDNAとなる.これを鋳型として,2種類のプライマーと呼ばれる標的DNAに相補的な構造を持つ20塩基程度の長さの合成DNAを結合させ,72℃前後で反応を継続すると,プライマーによって挟まれた領域のDNA(通常は200〜1,000塩基対程度)が合成される.こうした一連の反応を20〜40サイクル繰り返すと,標的DNAは数時間で約106倍程度まで増幅される.
 PCR法では1個の細胞から分離したDNA/RNAの増幅も可能であるため,少量の臨床検体であっても分子生物学的検討の対象とすることができるようになった.

輸血された血液中のリンパ球の反乱—輸血後GVHD

著者: 原宏

ページ範囲:P.300 - P.300

 輸血後の移植片対宿主病(graft versus host disease;GVHD)は輸血された血液中のリンパ球が受血者の身体の一部を異物と認識し,攻撃する疾患であり,輸血が臓器移植の1つであることを示している.
 最近では,輸血後GVHDは生物学的に個性を異にする輸血された血液中のリンパ球と患者リンパ球の生存を賭けた闘いの結果と理解されてきた.すなわち,輸血されたリンパ球は患者の組織を異物と認識して増殖を開始する.たいていの場合には数のうえで圧倒的に優勢な患者リンパ球が輸血リンパ球を排除している.しかし,まれには細胞性免疫能の低下あるいはHLAなどの組織適合抗原の組み合わせにより,輸血したリンパ球は患者リンパ球を異物と認識できるが,患者リンパ球は輸血したリンパ球を異物と認識できない関係ができると,輸血したリンパ球の一方的な増殖が起こり,輸血後GVHDが発生する.

骨髄バンク

著者: 森島泰雄

ページ範囲:P.311 - P.311

 自分の骨髄を提供してもよいという意志のある人を募集し,HLA型を検査してドナープールを作るとともに,骨髄移植の適応のある患者を登録し,ドナーとのHLA型の照合を行い,HLAの適合したドナーと患者との間に立ち,骨髄移植までのコーディネートを行うのが骨髄バンクである.日本では1989年東海骨髄バンクが設立され,約3年間に55例の非血縁ドナーからの移植を可能にした.その後1991年12月には日本骨髄バンク(骨髄データセンターと骨髄移植推進財団からなる)が全国統一公的バンクとして設立された.1993年11月にはHLA検査ずみのドナー登録者は3万人を超え,登録患者も1,447人となり,1993年1月から移植が始まり,11月までに79例の移植が行われるなど,日本骨髄バンクは新たな発展の段階に入った.
 20歳から50歳までの健康な人がドナー登録できる(ドナー登録問い合わせ先0120-377-465:骨髄移植推進財団).

骨髄移植の適応

著者: 岡本真一郎

ページ範囲:P.317 - P.317

 リンパ球を含むすべての血液細胞は多能性造血幹細胞が増殖・分化することによって造り出され,その数が一定に維持されている.現時点では,われわれはこの多能性造血幹細胞を同定することはできない.したがって,この多能性造血幹細胞を補給したい場合には,この細胞が多く含まれる骨髄細胞を採取し,それをそのまま移植することが行われる.これが骨髄移植である.
 多能性造血幹細胞の移植(=骨髄移植)が必要な病態は大きく3つに分けることができる.1つは幹細胞に起こった質的・量的異常を是正する場合である.例えば,幹細胞よりリンパ球への分化に障害が起こる結果,感染に著しく弱くなる免疫不全症候群や,幹細胞の絶対数の減少から致命的な汎血球減少が起こる再生不良性貧血などが例に挙げられる.

人工担体

著者: 三谷勝男

ページ範囲:P.357 - P.357

 人工担体は,免疫活性物質の固定化担体・細胞の標識剤・細胞分離担体・クロマト用担体などの広範囲な医学的応用が実現しているが,臨床検査分野では主に免疫学的凝集反応と固相法標識免疫測定に利用されている.いずれも免疫活性物質の固定化担体として利用されるものであり,材料開発の設計思想は大きく異なるものではない.
 担体凝集反応の発展は,素材としての担体粒子の開発と重要なかかわりがある.免疫活性物質の固定化効率が高く,かつ分散安定性の優れた担体が望ましい.当初,免疫活性物質を吸着固定化する疎水性の粒子径が0.1〜1μmのポリスチレンラテックスがスライドテスト用に利用されていたが,ラテックスの合成技術の進歩により粒度分布のそろった安定なラテックス粒子が得られ,粒子凝集反応の結果を濁度の変化量として分光学的に定量化されるようになった.

トランスジェニックマウス

著者: 宮崎純一

ページ範囲:P.389 - P.389

 マウスの初期胚に遺伝子を導入し,染色体に組み込ませることにより,その遺伝子を個体の生殖細胞を含む全細胞に伝えたマウスが得られる.これをトランスジェニックマウスと呼ぶ.1980年にJon Gordonにより初めて報告されて以来,さまざまな遺伝子を導入したトランスジェニックマウスが報告されてきた.この手法により,遺伝子の働きを個体レベルで解析できることから,免疫学,癌研究,発生学など,医学・生物学の分野で大きな成果を上げてきた.
 初期胚とは受精卵が子宮に着床するまでの時期のことで,遺伝子の導入には主としてマイクロインジェクション法が用いられる.過剰排卵させて得られた受精卵の前核に,ガラスの細いキャピラリーで遺伝子を,直線化したDNA断片(長さ数kb〜50kb)として注入する.DNAは多コピーが結合した形で染色体の1か所に組み込まれることが多い.受精卵は偽妊娠させた雌マウスの卵管に戻す.生まれるマウスの10〜20%に導入したDNAが組み込まれている.

細胞接着因子と疾患

著者: 中嶋千晶

ページ範囲:P.398 - P.398

 人間に代表される多細胞生物においては,その体制の構築と安定化に必要な精密な細胞間ネットワークが存在するが,細胞同士の相互作用をつかさどっているのが,細胞接着因子である.細胞接着因子についての研究の最近の進展により,基底膜をはじめとする組織の構築のみならず,細胞の分化,増殖や,機能調節にも重要な役割を担っていることが明らかとなってきた.
 まず,免疫系に対する作用としては,臓器移植の拒絶反応にかかわっており,細胞接着因子に対する抗体の投与により免疫学的寛容が誘導され,移植片の生着の延長が認められているほか,自己免疫疾患での関与も認められている.さらに,白血球の血管内皮細胞への接着,ローリング現象に関与することから,リンパ性白血病や悪性リンパ腫とのかかわりや粥状動脈硬化における役割が注目されており,心筋虚血再灌流障害が抗接着因子抗体によって抑制されることが報告されている.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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