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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術22巻8号

1994年07月発行

雑誌目次

病気のはなし

心筋梗塞

著者: 古野貴志 ,   土居義典

ページ範囲:P.558 - P.563

サマリー
 心筋梗塞は心疾患の中でも致命率が高く,発症早期の管理が特に重要な疾患である.本態は冠血流の途絶に基づく心筋の壊死であり,通常,基礎に冠動脈硬化症を有する.特有の胸痛を主訴とし,心電図と心筋逸脱酵素により診断される.急性期治療の主体は再灌流療法と合併症対策である.慢性期に残存する心筋虚血と心機能の評価を行い,冠血行再建術の適応を決定する.

検査法の基礎

パパニコロウ染色

著者: 山岸紀美江

ページ範囲:P.565 - P.570

サマリー
 パパニコロウ染色が発表されてから50年が過ぎた.この染色は現在では世界中で使われている.組織標本におけるヘマトキシリン・エオジン染色,血液標本におけるギムザ染色などとともに細胞診標本における基本的染色法である.パパニコロウ染色では,核をヘマトキシリンで,細胞質をオレンジG,エオジンY,ライトグリーンSF黄の色素で染め分ける.これらの色素が適正に染色されるためには,アルコールによって細胞を湿固定しなくてはならない.湿固定の厳守されない場合,染色結果はまったく異なるものとなる.

技術講座 病理

神経・筋疾患における骨格筋の病理学的検査

著者: 村上俊一 ,   石井孝子 ,   山岡愛子 ,   岩野裕子 ,   貝原俔子 ,   佐藤孝夫

ページ範囲:P.571 - P.581

サマリー
 神経・筋疾患における骨格筋の病理学的検査の意義,概要および代表的病理検査の内容について,述べた.
 骨格筋の病理学的検査は他臓器のそれと異なり,筋生検から得られる標本の組織化学的検査が主流を占めており,それに加えて免疫学的および電子顕微鏡的検査も多用されているので,病理標本の取り扱いおよび染色法・意義などについて具体的に述べた.これらの検査を通して神経・筋疾患のより正確な診断に近づくことができると考えられた.

マスターしよう検査技術

孵卵器とオートクレーブの管理

著者: 佐竹幸子

ページ範囲:P.597 - P.602

はじめに
 臨床微生物検査室はその他の検査室に比べて機器類が少ない検査室であるが,臨床微生物検査室の規模にかかわらず,孵卵器(インキュベータ)とオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)は必ず設置されている.つまり,孵卵器とオートクレーブは臨床微生物検査室に必要不可欠である基本的な機械であるからである.

生体のメカニズム 遺伝子の異常・7

癌抑制遺伝子[1]

著者: 大村宏 ,   押村光雄

ページ範囲:P.587 - P.591

はじめに
 1969年,H.Harrisは,腫瘍細胞と正常細胞との融合によって作製した雑種細胞は種々の腫瘍形質を失い,その雑種細胞が腫瘍形質を再獲得する際に,特定の染色体の欠失が認められることを示した1).この実験結果は,その遺伝子が正常に発現していれば癌の発生はなく,消失あるいは不活性化することが癌の発生に必須である遺伝子(癌抑制遺伝子)が正常細胞に存在することを示唆する最初のものであった.その後,癌抑制遺伝子の存在を示唆する数々の事実が示されるとともに,現在ではその単離も行われてきている.
 本稿では癌抑制遺伝子の存在を示唆する事実,検索のための手法などについて概説し,次稿で個々の癌抑制遺伝子の構造や機能などについて述べることにする.

わかりやすい学会スライドの作りかた 各論・6

免疫血清

著者: 加藤亮二

ページ範囲:P.584 - P.585

 最近の学会は演題数が多く,口演時間が短い.したがって,会の円滑な運営には一定の約束事を参加者が守る必要があり,なかでも演者と質問者が決められた時間内にわかりやすく,かつ簡潔に述べることが重要である.
 臨床検査学会や臨床病理学会における免疫血清部門の発表例をみると検査試薬の評価や改良に関することが多く,再現性,妨害物質の影響,回収率試験,健常値,測定感度,相関,臨床データなどの内容が報告されている.研究対象としては血漿蛋白,ホルモン,腫瘍マーカー,HCVを主とするウイルス関係,細菌感染症,STD感染症,自己免疫疾患,アレルギー疾患などであるが,これらは時代の変遷でブームがあり,年とともに変化していく.発表では演説が主役,スライドはあくまで脇役である.最近,パソコンを利用したカラフルなスライドが多くなり,聴衆を楽しませてくれるが,演説内容よりスライド勝負の考えは邪道であり,スライドはあくまで主役を引き立てる手段であることを忘れてはならない.免疫血清部門での研究発表の中身は幅広く,定量検査以外に電気泳動,蛍光抗体法,遺伝子検査法なども存在する.これらに関するすべてのスライド作製の解説は誌面の都合で割愛するが,免疫血清部門において筆者が日ごろ注意している点と新しい測定法を構築する場合における発表方法を架空例として示す.なお,スライド作製における基本的な詳細は本誌1月号に記載されているので参照されたい.

検査ファイル

胎児性フィブロネクチン(FN)による早産の予知

著者: 栁沼忞

ページ範囲:P.592 - P.592

 妊娠の末期になると,自然にも子宮収縮が出現してくるが,これは発見者にちなんでブラックストン(B)・ヒックス(H)の収縮といわれる.さて,「ハームフル・インテント-医療裁判」(ロビン・クック著,林克己訳,早川書房)の中に,次の場面が出てくる.
 麻酔希望のお産の患者が入院してきて,麻酔医が産科病室に電話したのである.“主治医は?”“サイマリアンです”…ブラックストンやヒックスでなくてよかった.とにかく無事に手早く済ませたい(14頁).

自動封入機

著者: 金子伸行

ページ範囲:P.593 - P.593

はじめに
 近年,臨床検査の自動化はさらに進み,病理検査の分野もその例外ではなくなってきている.本稿では,その1つ,自動封入装置についてわれわれの施設での使用経験を混じえ概説する.現在市販されている主たる自動封入装置の仕様などは,各社のカタログや成書を参考にしていただきたい.

酵素標品の使いかた

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.594 - P.594

[1]酵素標品の種類
 酵素標品(enzyme preparation)の種類は表1のごとく,精製標品と組成標品に大別される.このうち精製標品は酵素の単品として市販されているもので,目的に応じて純化されており,比活性(蛋白mg当たりの活性値)の表示がある.この使用例の代表は酵素的分析法の試薬として用いられる.組成標品はマトリックス(組成)を有した形のもので,臨床検査用は,大部分ヒト血清に精製標品の一定量を添加したもの,あるいはヒトプール血清の形のものである.いずれも特定の測定方法による測定値が,表示値としてつけられている.

RNA高含有網状赤血球

著者: 鈴木洋司

ページ範囲:P.595 - P.595

はじめに
 網状赤血球は細胞質内にRNAを残存している若い赤血球であり,このRNAを超生体染色して測定している.この場合は網状赤血球をRNA含有量で細区分することは不可能である.近年,レーザーフローサイトメトリー法による自動網状赤血球測定が普及しつつある.この装置は網状赤血球数だけでなく,個々のRNA含有量を分画し,RNA高含有網状赤血球を表示することができる.

ラボクイズ

問題:徐々に進行する貧血を主訴とする2症例

ページ範囲:P.582 - P.582

6月号の解答と解説

ページ範囲:P.583 - P.583

明日の検査技師に望む

職人気質

著者: 吉永馨

ページ範囲:P.564 - P.564

 科学の発展はとどまるところを知らない.医学は生命科学を応用した学問であるから,科学とともに進歩・発展してきた.医学は病気の診断と治療とを取り扱う.すなわち,最も人間のニーズの高い部分を取り扱っているから,進歩の速度は他の分野よりも格段に速い.
 検査学は医学の一分野である.筆者が医師になりたてのころは,自分で尿や便を調べ,血球を計算し,尿糖や血糖を測定した.糖尿病患者を受け持つと,糖の負荷試験もやった.検査に明け暮れる毎日を過ごした.それが検査室の整備により,技師さんの手に移り,迅速・正確になって,私たちはどんなに安心したかわからない.

けんさアラカルト

“検査試薬流通”へのユーザーからのメッセージ

著者: 森嶋祥之

ページ範囲:P.604 - P.604

 大阪府臨床衛生検査技師会組織調査部が行った検査試薬(体外診断用医薬品)の流通に関するアンケート調査(1992年9月,大阪府下162施設)をもとにして,ユーザーから検査試薬流通機構(メーカーおよび問屋)へメッセージを送りたい.

トピックス

心筋炎の発症とサイトカイン

著者: 松森昭 ,   篠山重威

ページ範囲:P.605 - P.606

 心筋炎は,多種のウイルス感染によって起こることが知られているが,ヒトではRNAウイルスが多く,特にコクサッキーウイルスは,ウイルス性心筋炎をきたす最も頻度の高い原因と考えられている.急性ウイルス性心筋炎の多くは,その急性期を過ぎれば予後は比較的良好であると考えられているが,少数例では慢性化し,進行性であることも報告され拡張型心筋症の病因として注目されている.
 実験的ウイルス性心筋炎の研究はマウスにおけるencephalomyocarditis(EMC)ウイルスやコクサッキーBウイルスを用いた研究が多く行われ,急性心筋炎に続いて長期にわたり心筋の線維化などの病変が持続することが明らかになっている1).腫瘍壊死因子(TNF-α)は,主としてマクロファージから産生されるサイトカインで腫瘍,炎症において重要な作用を有すると考えられている.TNF-αは,ある種の細胞においてin vitroでEMCウイルスの増殖を抑制することが報告されインターフェロンを介した抗ウイルス作用が示唆された.筆者らの開発したマウスにおけるEMCウイルス性心筋炎において血中TNF-αは,ウイルス接種後上昇し,5日後に最高値を示した.

幼若血小板

著者: 武内恵 ,   川合陽子 ,   渡辺清明

ページ範囲:P.606 - P.607

はじめに
 血小板は止血に不可欠な血球であり,血球中では最も小さく正常赤血球の約1/4〜1/5程度の大きさである.血管外に出ると壊れやすく,変形するなどその性質上,取り扱いにくいとされてきた.しかし,血小板の量的あるいは質的異常は,出血や血栓形成を引き起こすため,各種疾患や病態と関連し臨床的に重要視されている.血小板数の算定は自動血球計数器の開発により,微量の全血から迅速に再現性の良い結果が得られるようになった.一方,機能検査も古典的な出血時間だけではなく,物理化学的手法による血小板凝集能や血小板粘着能(停滞率)検査が比較的どこでも実施可能となった.このような各種検査の開発,普及は血小板の研究を急速に進歩発展させた.その中で幼若血小板も自動測定の可能性が出てきたため,骨髄の血小板産生(thrombopoiesis)状態を把握する指標として注目されている.

ADF/チオレドキシンとレドックス制御

著者: 佐登宣仁 ,   北岡有喜 ,   淀井淳司

ページ範囲:P.607 - P.608

 ADF(adult T cell leukemia-derived factor;ATL由来因子)は,成人T細胞白血病(ATL)患者末梢血リンパ球から樹立されたHTLV-Ⅰ陽性培養細胞株の培養上清より,インターロイキン2受容体α鎖誘導物質として分離された分子量13kDの蛋白である.遺伝子クローニングの結果,ADFは,大腸菌から哺乳類に至るまで広く存在する還元酵素チオレドキシン(thioredoxin;TRX)のヒト相同体であることが明らかになっている.ADF/TRXの還元活性部位はアミノ酸配列で-Cys-Gly-Pro-Cys-という2つのシステインを持つことが特徴的であり,典型的には図1に示すように蛋白のジスルフィド結合(-S-S-結合)の還元反応を触媒する.
 有酸素呼吸を行う生物は,酸素の還元反応に伴って生じる活性酸素による酸化ストレスに常にさらされている.またこの恒常的に存在する酸化ストレスに加えて,外界に存在する紫外線,X線への曝露,生体内で感染・炎症に伴って食細胞により産生される活性酸素などは局所に存在する細胞に酸化ストレスを与えると考えられる.このような酸化ストレスに対する防御機構として,ラジカルスカベンジャーと呼ばれる活性酸素消去酵素群やグルタチオン,ある種のビタミンなどの抗酸化物質が生体内で機能している.

けんさ質問箱

Q ギムザ染色の留意点

著者: 石原力 ,   城下尚 ,   A.M.

ページ範囲:P.609 - P.611

 当検査室では,図1のような手順で組織標本の染色を行っておりますが,骨髄生検やクロットのホルマリン固定(20%緩衝ホルマリン,pH7.4)パラフィン切片で,メイ・ギムザ染色を行うと,真っ青な標本になってしまいます.固定,標本のどちらの問題なのでしょうか.また,これを回避する方法があれば教えてください.

Q 透析患者のクロスマッチ検査

著者: 武田敏雄 ,   Y.W.

ページ範囲:P.611 - P.612

 透析患者の血液でクロスマッチをする場合に,フィブリンが析出してくるケースがよくあります.こういった場合のクロスマッチにおける注意点を教えてください.

Q 末梢血液塗抹標本の細胞破壊像

著者: 武藤良知 ,   M.I.

ページ範囲:P.612 - P.613

 末梢血液塗抹標本における白血球分類を行う際,細胞の破壊像に遭遇することがありますが,この破壊された細胞は(裸核像も含めて),どのように判定すればよいのでしょうか.また,破壊像がどれくらい含まれるものを“不良な標本”と判断したらよいのでしょうか.

今月の表紙

子宮頸部上皮内腺癌の細胞診

著者: 都竹正文 ,   古田則行 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.614 - P.614

 上皮内腺癌(adenocercinoma in situ;AIS)とは腺癌としての形態学的特徴を持つ細胞が被覆上皮および頸管腺の構築を保ったまま,それらの上皮を置換しながら増殖するが,間質浸潤を欠如するものと定義されている.扁平上皮系の異型病変(異形成や上皮内癌)を伴うことが多い.したがって,純粋な上皮内腺癌をみることはまれである.微小浸潤腺癌(microinvasive adenocarcinoma)や腺異形成(glandular dysplasia)との鑑別が難しく,細胞診での上皮内腺癌と浸潤性腺癌(いわゆる腺癌)との鑑別診断は,扁平上皮系の上皮内癌と浸潤癌の鑑別と比べると,極めて難しい.ただし,上皮内腺癌と浸潤性腺癌を一括して頸部腺癌としてとらえるならば,上皮内腺癌の細胞像は腺癌としての特徴を十分とはいえないが,ある程度は備えているといえる.上皮内腺癌は頸管腺内に発生するために細胞診標本中に出現することはまれであるが,近年,採取器具の開発により発見される機会が増してきた.特にサイトブラッシを用いた細胞診標本では頸管腺内にブラッシの毛が挿入されるため,病変由来の異型細胞の検出が可能となってきた.
 上皮内腺癌は,組織学的に腺癌細胞が既存の頸管腺組織の構造を壊さず上皮の部分を置き換えるようにして増殖する.その進展の先端部分は正常頸管腺細胞と明瞭な境界があり,これをフロント(front)形成と呼ぶ(写真d).

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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