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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術23巻11号

1995年10月発行

雑誌目次

病気のはなし

慢性骨髄性白血病

著者: 南三郎 ,   小寺良尚

ページ範囲:P.838 - P.844

新しい知見
 CMLは9番染色体と22番染色体の特徴的な相互転座が観察され,Ph1染色体と呼ばれている.この転座により9番染色体上のABL遺伝子と22番染色体上のBCR遺伝子が融合し新しいキメラ遺伝子BCR/ABL遺伝子が作られる.この新しいキメラ遺伝子によりコードされるキメラ蛋白は正常のABL遺伝子によりコードされる蛋白に比しチロシンキナーゼ活性が強く,細胞内情報伝達機構に異常をきたしCMLが発症すると考えられている.

検査法の基礎

CEAの抗原性とその測定法

著者: 黒木政秀

ページ範囲:P.845 - P.852

新しい知見
 CEAは遺伝子レベルから全ペプチド構造が明らかにされ,また糖鎖構造や膜結合様式も明らかにされた.遺伝子レベルでは免疫グロブリンスーパージーンファミリーに属し,その中にCEAジーンファミリーを形成している.
 CEAは正常な消化器粘膜でも産生することが明らかになった.しかし,正常組織のCEAは上皮細胞の管腔側表面にのみ存在し,血流や組織液に接しておらず,癌組織ではCEAのこの構築の破壊と増量のため腫瘍マーカーになる.

骨髄MRI

著者: 田中修 ,   永井純 ,   高木省治郎

ページ範囲:P.853 - P.858

新しい知見
 現在臨床的に用いられているMRIの撮像法では,腫瘍などの骨髄病変と正常の造血髄とを明確に識別することは難しい.新しいMRIの造影剤として,網内系細胞に取り込まれる超常磁性の酸化第二鉄微粒子の応用が試みられており,骨髄内の腫瘍と造血髄を鑑別できる可能性が報告されている.すなわち,酸化第二鉄微粒子が取り込まれる正常の造血髄部ではT2が著明に短縮し,T2強調像でほとんど無信号になるのに対して,網内系細胞が欠如した病変部は高信号のままで,両者を区別することが可能となる.さらにMRIでは,モノクローナル抗体と常磁性物質を結びつけることにより,腫瘍へ選択的に集積する造影剤の開発も進められており,近い将来,特定の腫瘍を標的にした画像診断が可能になるものと期待される.

技術講座 生化学

C-ペプチド・プロインスリンの測定

著者: 上野芳人 ,   木野内喬

ページ範囲:P.859 - P.866

新しい知見
 近年,血中ホルモン濃度の測定にアイソトープを用いないnon-RIA測定法が開発され,普及しつつある.代表的なホルモンの1つであるインスリンも,RIAからEIA法へと移行しつつある.
 C-ペプチドの測定法においては,現在,RIA法が主流であるが,最近,EIAによるC-ペプチド測定法が開発され,また自動測定装置への導入が可能となり,今後,さらに普及するものと思われる.

血液

ズダンブラックB染色

著者: 小林茂昭 ,   荻野敏行 ,   中井一吉 ,   片山善章

ページ範囲:P.867 - P.875

新しい知見
 近年,種々の脂質代謝異常の研究にも大きな発展がみられた.その1つに粥状動脈硬化病巣への脂質の異常蓄積を特徴とする動脈硬化症の発症がしだいに解明されつつある.さらには,脂質代謝異常として高リポ蛋白血症,黄色腫症などの疾患も挙げられ,黄色腫細胞のように脂質とマクロファージの関連研究も進められている.また,細胞内小器官であるライソゾームの酵素の先天的欠損による先天性ライソゾーム病の研究の成果があり,これには,従来のスフィンゴ脂質(複合糖脂質)の分解障害による細胞内蓄積症スフィンゴリピドーシス(Niemann-Pick病,Gaucher病,Fabry病,Krabbe病,GM1-ガングリオシドーシスなどの代表的疾患が含まれている)として包括された疾患ばかりでなく,コレステロールエステル蓄積症,Wolman病などのリピドーシスにもライソゾーム酵素の先天的欠損が証明されている.しかしながら,各疾患の脂質蓄積の発現機構などにおいては,いまだ明確にされていない部分があり,今後の研究に期待されている.
 このように脂質代謝異常は病理学的にもその重要性がますます再認識されてきており,脂質代謝異常の検索として,生化学的,遺伝学的解析法にとどまらず,組織(細胞)化学および免疫組織(細胞)化学的解析法を併せて検索していく必要がある.一般的に細胞や組織内脂質の証明法として脂質染色が行われている.

微生物

ノカルジアの同定

著者: 矢沢勝清 ,   三上襄

ページ範囲:P.877 - P.884

新しい知見
 ノカルジアの同定にはキサンチン,チロシン,さらにカゼインなどの分解や糖からの酸産生のように判定までに長時間を要する試験があり,結果が得られるまでには2〜3週間が必要である.ノカルジアは真性細菌であるが,形態学的には菌糸状の発育形態を示すことから,抗生物質の生産菌であるStreptomycesとの判別が難しい.またノカルジアはMycobacteriumと分類学的に近縁であり,弱い抗酸性を示すことから,一部の速発育性のMycobacteriumとの判別にも困難が伴う.
 ノカルジアが種に特異的な薬剤感受性パターンを示すことをわれわれは明らかにしてきた.このノカルジアの種に特異的な薬剤感受性パターンの利用,特にイミペネム,トブラマイシン,カナマイシン,さらに5-フルオロウラシルを用いることにより,わが国で問題となる5種の病原性ノカルジア(N. asteroides, N. farcinica, N. nova, N. brasiliensis, N. otitidiscaviarum)の同定が2〜3日と短時間で可能である.

マスターしよう検査技術

細菌の特殊染色法—鞭毛染色(Leifson法)

著者: 設楽政次 ,   梅津静子

ページ範囲:P.891 - P.895

 細菌の鞭毛は菌種により,その数,付着部位,形が異なり菌種同定の重要な手がかりとなる場合がある.特に,臨床細菌検査室では簡易同定キットが普及する以前のグルコース非発酵菌の同定は集落形態,色素産生,糖分解などのほかに鞭毛形態の観察を合わせて実施していた.
 これは,臨床材料から検出される頻度の高いグルコース非発酵菌は限られており,それぞれ特徴のある鞭毛を有し,鞭毛形態を観察することは,おおよその属の推定や生物学的性状検査の軽減を可能にすると同時に同定精度を高めることになるためであった.

画像でみる生体情報・10

泌尿器科におけるカラードプラ法の臨床応用

著者: 瀧原博史 ,   城嶋和孝 ,   内藤克輔

ページ範囲:P.885 - P.887

 ドプラ効果とは,音源と観測者との相対的な速度関係により,周波数偏位立起こることをいう.超音波ドプラ法とは,この現象を利用して生体内の流速を知る方法である.さらに1980年に実用化されたカラードプラ法によれば,血流信号が断層像上にカラー表示されるため,血流信号の検出が迅速に施行可能となった.また,血流信号が血管走行に添って表示されるため,角度補正が可能となった.初期には,カラードプラ法の臨床応用は心・大血管などの高速血流の測定に限られていたが,その後低速の血流も検出できるようになり,泌尿器科領域の各臓器のさまざまな疾患の診断に役だっている.

生体のメカニズム 体液調節機構・10

カルシウム代謝調節機構

著者: 花井順一

ページ範囲:P.909 - P.913

はじめに
 生体のカルシウム(Ca)代謝は,①腸管からのCa吸収,②骨組織と細胞外液間のCa移動,③腎尿細管におけるCa再吸収の3者間の動的バランスによって厳密に調節されている.Ca輸送を担うこれら3つの臓器は血清Ca濃度を生理範囲に維持し,さらに個体全体としてのCaバランスを調節している(図1).これらの調節には,副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH),活性型ビタミンDである1α,25(OH)2D3(1,25D)および甲状腺C細胞より分泌されるカルシトニンからなるCa調節系が携わっている.
 血清Ca濃度は約10mg/dlである.その約45%はアルブミンを主とした蛋白質と結合しており,約5%はリン酸,クエン酸などと塩を形成しているので,生理的に重要な遊離Caイオン(Ca2+)として存在しているのは残りの約50%である.血清中のCa2+は,骨代謝平衡の維持,神経・筋の興奮とその伝達,心筋収縮,免疫細胞の機能,血液凝固,ホルモン分泌などの細胞機能の調節に極めて重要な働きをしている.Ca調節系が担う血清Ca濃度の維持とは,実はこのCa2+の血清濃度をターゲットとしており,これを5mg/dl(約1mmol/l)付近の極めて狭い範囲に厳密に維持する.この恒常性維持に直接関与しているのは,腎臓と骨である.

検査データを考える

高HDL血症

著者: 千葉仁志 ,   秋田治邦

ページ範囲:P.903 - P.908

はじめに
 リポ蛋白は比重により,キロミクロン,超低比重リポ蛋白(very low density lipoprotein;VLDL),低比重リポ蛋白(low density lipoprotein;LDL),高比重リポ蛋白(high density lipoprotein;HDL)に分類される.このうち,LDLが動脈硬化の正のリスクファクター(悪玉)であるのに対し,HDLは負のリスクファクター(善玉)であることが,種々の疫学調査や細胞培養実験で明らかにされている.近年,わが国で高HDL血症の病因解析が進んだことを反映して,高HDL血症に対する関心が高まっている.ここでは,HDL代謝の概略をコレステロール逆輸送系に重点をおいて解説し,次いで高HDL血症の成因を示し,最後に臨床検査に関連する事項を解説する.

わかりやすい学会スライドの作りかた

学会抄録の作りかた[1]基本ルール

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.896 - P.897

1.抄録原稿作成概要
 学会の一般演題の申し込みは,抄録原稿の提出に始まる.そして採用された抄録原稿は,そのままオフセット印刷にかけて抄録集になる.したがって抄録集を印刷するうえで支障のないように作成要領が各学会ごとに定められている.
 表には臨床検査に関する主な学会の抄録作成要領について,同一年の開催用のものを開催案内から要約して示した.表は抄録原稿作成上の約束事項であるが,各学会ともその内容はほぼ類似している.用紙は専用のもので,記載場所は必ず青線で外枠ができている.この外枠内に指示された大きさで印字する.また図表を加える場合は,特に線は細くないことや文字・数字の大きさが細かすぎないことである.それは印刷上うまくしあがらないからであり,かつ多くは縮小印刷されるからである.

検査ファイル

アデノシンデアミナーゼ欠損症

著者: 崎山幸雄

ページ範囲:P.898 - P.898

アデノシンデアミナーゼ欠損症とは
 アデノシンデアミナーゼ(ADA)はリボヌクレオシドであるアデノシンをイノシンへ,デオキシアデノシンをデオキシイノシンへ脱アミノさせるプリン・サルベージ経路の触媒酵素である.ADAはヒトのほとんどすべての組織・細胞に存在するが,その活性は組織・細胞によって異なり,胸腺で最も高く,次いでリンパ組織・胃腸管・脳皮質で高く,赤血球では最も低いとされている.リンパ球では系統,分化レベルによって差があり,T細胞はB細胞より,T細胞でも胸腺内T細胞は成熱T細胞よりもその活性が高いことが知られている.一般にこのようなADA活性の差は細胞内でのADA mRNAのレベルを反映しており,T細胞とB細胞での活性の違いはmRNAの転写効率の差によると考えられている.
 ADA欠損は細胞内にアデノシン,デオキシアデノシンの蓄積をきたし,アデノシンの増加は細胞内のcAMP濃度を増加させて,メチル化にかかわるS-adenosylhomocystein hydrolase(S-AH)を不活化させること,デオキシアデノシン(dAdo)の増加はDNA修復機構を障害すること,リン酸化デオキシアデノシン(dATP)の蓄積はDNA合成に必須の酵素であるリボ核酸還元酵素を阻害してDNA複製を障害することなどが知られている.

BSP II

著者: 松山敏勝

ページ範囲:P.899 - P.899

 骨組織は細胞外基質で石灰化が進む硬組織である.このため骨組織には石灰化を誘導,調節するために他の組織にはない骨に特異的な蛋白が存在する(表).
 Bone Sialoprotein II(BSP II)は,骨のコラーゲン以外の骨基質蛋白では最も古くから研究されてきた.しかし初期はプロテアーゼの分解産物であり1),その本体が明らかになったのは比較的最近である2).BSPは2つの分子種としてBSP IとBSP IIに分けられ,現在はBSP Iをオステオポンチンと分けて呼ぶ.このため,単にBSPと呼ぶ場合はBSP IIを指す.

ニューモシスチス・カリニの分類

著者: 和田美紀 ,   中村義一

ページ範囲:P.900 - P.900

 ニューモシスチス・カリニ(以下Pcと略)は,日和見病原体であり,エイズ患者をはじめ免疫不全状態の宿主に感染してカリニ肺炎を引き起こす.Pcは,1910年ごろ,原虫(原生動物)であるトリパノゾーマの一形態ではないかとして発見されたが,1912年に新種として記載された.Pcは真核生物であるが,その分類学上の位置に関しては,原虫説と真菌説が提出されて長い間議論が続き未確定のままであった.1980年代中ごろまでのPc分類の証拠は主として生活環と形態学的観察,電子顕微鏡による微細形態の観察に基づいており,種々の観点からPcは原虫にも真菌にも類似点と相違点を持つことが指摘されたが,既知の生物種と同属とは考えられなかった1).原虫説の傍証としては,Pcにはペンタミジンなどの抗原虫薬が有効であることも挙げられた.しかしながら,近年になってPcの分子レベルでの研究が進むにつれて,Pcは真菌に属するとする証拠が多数蓄積されてきた.
 分子レベルでの研究によるPc分類の試みは,まず,16S様リボゾームRNAおよび5SリボゾームRNAの塩基配列解析によって行われた.遺伝子の塩基配列を生物種間で比較すると,その類似性を基に進化の系統つまり分類上の位置を推定することができる.これは,遺伝子ごとの塩基置換数(突然変異)が進化における分岐後の時間と比例することに基づいている.

悪性リンパ腫のREAL分類

著者: 三方淳男

ページ範囲:P.901 - P.901

[1]またもや新分類か!
 昨年秋,revised European-American classification for lymphoid neoplasmsという論文が発表され,頭文字を取ってREAL分類と呼ばれ,注目を集めている.
 1970年代の後半から1980年代初頭にかけて,悪性リンパ腫の新分類が流行し,多くの分類案が提唱された.同じ疾患が多くの違った名前で呼ばれたり,違う疾患が同じ名前で呼ばれたりして,誠に不便な混乱状態であった.時の経過とともに,国際的にはWF分類かKiel分類,国内的にはLSG分類が一般的となり,悪性リンパ腫をめぐるカオスも一段落かと思われていた.

ラボクイズ

問題:寄生虫症

ページ範囲:P.888 - P.888

9月号の解答と解説

ページ範囲:P.889 - P.889

明日の検査技師に望む

いわゆる学卒の検査技師への期待

著者: 安田和人

ページ範囲:P.876 - P.876

 最近,衛生,保健,栄養などの学部で国家試験の受験資格を持つ4年制の大学を卒業した検査技師が増加し,彼らに対する期待はますます高まりつつあると思う.一方,3年制の専門学校卒の技師に比べて初任給も若干高いので,その給与差に見合う能力があるか否か,何かにつけて比較される厳しい時代になった.
 大学卒の技師は生化学や生理学の基礎学力があるので,最初は多少手が遅くても,1年も経てば自分で方針を立てて仕事ができ,将来はスーパーバイザーとして管理業務をこなすようになると期待されているであろう.あるいは外国文献が読めるから,新しい検査の開発や学会発表の際に役だつと思われているかもしれない.したがって英語の文献を読む際にいちいち字引を引いて訳を書き込む癖のある人は,上司を落胆させないように,証拠を隠滅しておいたほうがよい.

けんさアラカルト

喫煙と検査値

著者: 村井善郎

ページ範囲:P.890 - P.890

 紙巻煙草(以下タバコ)の成分は,ニコチン,一酸化炭素,シアン化合物,窒素化合物が濃縮して含まれている.その化学成分は極めて多く,約4,000種類が判明している.これらの成分が,主として肺胞から吸収され,急性な薬理作用または慢性の生理・病理的な変化を生体にもたらす.
 このことよりタバコが検査値に及ぼす影響は,①喫煙,非喫煙にかかわらず起こしうる変化,②常習の喫煙者に強調されてみられる亜急性の変化,③慢性閉塞性肺疾患,各種癌疾患に代表される慢性変化,に大別できる.検査に影響を与えるものとして問題になるのは①,②であろう.

トピックス

ガンマナイフの原理と適応

著者: 寺本明

ページ範囲:P.916 - P.917

■ガンマナイフとは
 ガンマナイフとは定位的放射線照射装置の1種で,ガンマ線を用いて病変をシャープに照射・治療できることからこう名づけられている.手術のメス(サージカルナイフ)に対比する形でつけられたニックネームである.
 そもそもの機種は1968年にスウェーデンのLeksellによって開発され,当初は機能的脳神経外科(てんかん,痛み,不髄意運動などを対象)に応用されていた.原理としては,半球状の装置に201個の60Coの小線源を配置し,ここから発射したガンマ線をコリメーターによって散乱しない細いビームとして病変部に到達させる.この場合,あらかじめ頭蓋内で局在を決定させた病変に集中的に高線量が照射されるよう計算されている.コリメーターの直径には4mm,8mm,14mmおよび18mmがあり,不規則な形状の病変には複数のコリメーターを重ねて用い,線量分布専用のコンピュータソフト(KULA®)を利用する.

EIAによるPBP 2'の迅速検出

著者: 畠山靖子

ページ範囲:P.917 - P.919

はじめに
 methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)は臨床上重要な耐性菌であり,その正確・迅速な検出が望まれる.
 従来,MRSAの判定は薬剤感受性により行われてきたが,MICは測定条件によりその値が左右されたり,中等度耐性のMRSAは場合によってはMSSAと判定される可能性もある.

血小板増殖因子

著者: 寺村正尚 ,   溝口秀昭

ページ範囲:P.919 - P.920

■トロンボポエチンの単離
 マウスなどに抗血小板抗体を注射して血小板数を減少させると,血漿中に血小板産生を刺激する液性因子が増加する.この生理的な血小板増加因子はトロンボポエチン(TPO)と呼ばれている.TPOの存在は30年以上前から知られていたが,単離はされていなかった.1990年頃,インターロイキン-6(IL-6)は動物に注射すると血小板増加作用が認められたので,TPOではないかと話題となった.しかし,その後の研究で血小板減少期に血中に増加しないことからTPOではないことが明らかとなった.その後も,遺伝子工学的手法を駆使して,新しいサイトカインが次々と純化されたにもかかわらず,TPOは単離されないので,TPOの存在さえ疑問視する声も出てきた.ところが1994年,ついにTPO単離の報告が多数の施設からほぼ同時に報告された.TPOは驚いたことに,それ以前から知られていた造血細胞に特異的に存在するc-Mplレセプターのリガンド(レセプターに結合する蛋白)であった.
 TPOが単離された経緯には2つの流れが存在する.1つは1986年,Wendlingらがマウスに白血病を起こすレトロウイルス(MPLV)を発見し,さらに1990年このウイルスより新しい癌遺伝子,c-Mplを発見したことである.

けんさ質問箱

Q 女性の尿潜血反応

著者: 五十嵐すみ子 ,  

ページ範囲:P.921 - P.922

 職員の健康診断で2〜3年前から尿の潜血反応がずっと1+〜2+が出ています.生理とは関係のないときの採尿です.また顕微鏡では小さな球状のHb含有のRBCがみられます.どこからの出血が考えられるのでしょうか.また次に行うべき検査は何でしょうか.血液のデータには変化(異常)はみられません.
 健診時女性に多くこのようなヶースが見受けられますが,放置しておいてよいものでしょうか.

Q 尿沈渣にみられる封入体細胞

著者: 稲垣勇夫 ,  

ページ範囲:P.922 - P.924

 尿沈渣に出現する封入体細胞はどのような機序で出現するのでしょうか.また病気との関連性はどのようなのでしょうか.

今月の表紙

甲状腺の未分化癌

著者: 都竹正文 ,   荒井祐司 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.875 - P.875

 甲状腺腫瘍の分類に関しては「外科・病理甲状腺癌取扱い規約」の中で原発性甲状腺悪性腫瘍は,乳頭癌(papillary carcinoma),濾胞癌(follicular carcinoma),未分化癌(undifferentiated carcinoma),髄様癌(madullarycarcinoma),その他の悪性腫瘍,転移性腫瘍に分類されている.その組織型別症例分布は甲状腺外科検討会の全国集計(1977〜1988)によれば乳頭癌が最も多く79.4%,以下濾胞癌16.6%,未分化癌2.5%,髄様癌1.5%(ただし悪性リンパ腫,その他腫瘍は除く)となっている.そのうち,未分化癌は高度な構造異型,細胞異型を示す濾胞上皮由来の悪性腫瘍であり,通常の分化癌(乳頭癌,濾胞癌)とは,臨床的にも形態的にも極めて異なった経過および所見を呈する.すなわち,一般に高齢者に発生し急速な発育とともに,甲状腺周囲組織への浸潤および遠隔転移を高頻度に伴うためにその予後は極めて不良である.したがって,細胞診でこの腫瘍を指摘することは極めて意義が高い.組織学的には乳頭構造,あるいは濾胞構造を示さず,異型性,多形性の強い腫瘍細胞からなるので肉腫との形態学的鑑別が困難な場合も少なくない.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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