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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術23巻3号

1995年03月発行

雑誌目次

病気のはなし

ムーコル症

著者: 和田光一 ,   斉藤泰晴 ,   石塚康夫 ,   尾崎京子 ,   荒川正昭

ページ範囲:P.176 - P.181

新しい知見
 ムーコル症は,白血病などの造血器腫瘍,重症糖尿病,悪性腫瘍,臓器移植,注射用薬物乱用例などでの発症頻度が高く,近年増加している.危険因子としては,免疫不全,白血球数減少,ケトアシドーシス,低栄養,副腎皮質ステロイド薬,免疫抑制薬の使用,鉄過剰状態などが指摘されている.
 本邦では,造血器腫瘍に合併する例が多く,多くは剖検診断であり,予後不良である.鼻,眼部に限局したムーコル症は,郭清手術が可能であり,救命しうる.

検査法の基礎

血清酵素活性測定の37℃法の基準と使いかた

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.183 - P.190

新しい知見
 日常診療に用いる血清酵素活性値(U/l,37℃)の直接の基準が決まった.それがJSCC常用基準法(U/l,37℃)である.自動分析装置で測定される値は,すべてこの基準に合わせる.市販キットはこの基準に合うことをメーカーがデータで証明したものから選択する.その結果得られる測定値はどこでも共通に用いることができる.各施設はこの基準に合わせる作業を早急に行う.

技術講座 病理

テトラサイクリン骨標識

著者: 徳永邦彦 ,   谷澤龍彦 ,   荻荘則幸 ,   赤沢秀喜 ,   伊藤明美

ページ範囲:P.191 - P.197

新しい知見
 テトラサイクリン(TC)による骨標識法は骨形態計測法とともに開発,改良が加えられ,今では高齢化社会において最も関心の高い骨粗鬆症をはじめさまざまな骨疾患の病態解明に不可欠な地位を築いている.今後は分子生物学を用いたよりミクロな情報との融合や,共焦点レーザー走査顕微鏡などの最新装置を使用しての新しい画像情報の把握が期待されている.

マスターしよう検査技術

NCCLS標準ディスク拡散法による薬剤感受性検査法

著者: 相原雅典

ページ範囲:P.207 - P.212

はじめに
 NCCLS標準ディスク拡散法1)はKerby2)らが考案した1濃度ディスク法を基盤として米国臨床検査標準化協会(National Committee for Clinical Laboratory Standards;NCCLS)の手で検討され,1984年に標準法の初版が刊行され今日に至っている.本法は1977年に世界保健機関により標準法として推挙され国際的に広く使用されるに至った.本法の特徴は最小発育阻止濃度(MIC)と阻止帯径の相関を基盤としながらも,検査手技に起因するエラーを最小限に抑える手法で成績を“S=Susceptible;感性”,“I=Intermediate;中間”および“R=Resistant;耐性”の3カテゴリーに分け,厳密に規定した精度管理の履行により成績を保障した点に集約される.したがって検査術式はいかなる理由があろうとも,また些細な部分でも規定された内容を勝手に改変することは許されず,忠実にオリジナルを遵守しつつ,熟練することが大切である.

画像でみる生体情報・3

心臓[3]心筋梗塞の画像診断

著者: 樫田光夫

ページ範囲:P.199 - P.203

はじめに
 近年心筋梗塞の診断は心電図に加え,冠動脈造影,左室造影,心エコー図,血管内エコー,超高速CT,MRI,心臓核医学検査などの画像診断の進歩により,より詳細な診断が可能となった.一方で急性心筋梗塞に対する治療も大きく変化し,閉塞した冠動脈を再開通させる再灌流療法が広く行われるようになったことで,治療成績が著しく改善し,われわれの施設でもCCUに入院した急性心筋梗塞症例の死亡率は7%にまで減少した.再灌流療法を踏まえた治療を進めていくうえで,画像診断の占める役割が大きくなった.本稿では,急性心筋梗塞の治療に即した,画像診断の役割について概説する.

検査データを考える

細菌検査

著者: 松本哲哉

ページ範囲:P.213 - P.216

はじめに
 抗菌薬の発達によっていったんは克服されたかに思われた感染症も,新たな病原体の出現や日和見感染など形を変えて現在でも大きな問題を抱えている.さらに臨床における細菌検査も,従来までのように菌が検出されれば診断がついた時代から,検出された菌の病原性などを考慮して真の起炎菌を決定すべき時代となってきた.
 細菌検査法の進歩は多くの迅速診断を可能にし,また一部では検査の自動化や簡略化も図られるようになった.しかし現在でも細菌検査は他の臨床検査に比べると,技師各人の判断や技量が最終的な結果に大きく影響する分野であるといってよい.また細菌検査は検査を進めていくうえで臨床からの情報が非常に重要な意味を持つ場合が多い.そこで本稿では,通常と異なる細菌検査データが出た場合,臨床的観点を含めてどのように判断すべきかについて,臨床例を参考にして述べることとする.

わかりやすい学会スライドの作りかた

手持ちの道具を用いたスライド作製[2]Windows

著者: 野澤修

ページ範囲:P.218 - P.219

 Windowsでは複数のアプリケーションソフトを同時に立ち上げ,データを共有しながら作業が行える.今回は表計算ソフトのLotus 1-2-3 Release 4 Jで入力したデータを,プレゼンテーションソフトのLotus Freelance/Windowsにリンク貼り付けをしてスライドを作製した例を示す.
 用いたデータは,ピュアオートAMY-N(第一化学)による総アミラーゼ(総AMY)活性とα-アミラーゼインヒビター(生化学工業)を用いた.P型アミラーゼ(P-AMY)の分別測定のうち膵液と唾液の混合比系列による活性値の比例性の結果である.なお,測定機器は日立7070である.

生体のメカニズム 体液調節機構・3

水代謝調節異常—高Na血症,低Na血症

著者: 西森茂樹 ,   内田俊也

ページ範囲:P.221 - P.224

はじめに
 まず本稿のタイトルを注意深く見てみよう.なぜ“Na代謝調節の異常=高Na血症,低Na血症”ではないのであろうか? 一般に血液生化学検査の多くで,血清濃度の異常は体内総量の異常を反映する.例えば,血清K濃度の上昇は体内K総量の増加を意味し,この場合“K代謝調節の異常=高K血症,低K血症”となる.しかし,生体は細胞内外での水の移動を通じて血清Na濃度を調節するため,Naの場合は体内Na総量の高低がそのまま血清Na濃度の高低とはならず,やややっかいである.例えば,浮腫の場合は低Na血症を示しながら,しかも体内のNa総量は過剰ということが多い.

検査ファイル

GPIアンカー型蛋白

著者: 竹田潤二

ページ範囲:P.225 - P.225

はじめに
 細胞表面に存在する蛋白を膜蛋白と呼ぶが,GPIアンカー型蛋白も膜蛋白の一種である.通常の膜蛋白が,蛋白自身の疎水性領域で膜にアンカーするのに対しGPIアンカー型蛋白は,特殊な糖脂質でアンカーする.その特殊な糖脂質は,ホスファチジルイノシトール(PI)に糖(グリカン)が結合したものなのでGPI(glycosylphophatidylinositol)アンカーと呼び,蛋白部分を含めてGPIアンカー型蛋白と呼んでいる1)

細菌検査のオーダーリングシステム

著者: 立川良昭 ,   宮子博 ,   後藤陽一郎 ,   菅原弘一

ページ範囲:P.226 - P.226

 細菌検査は感染症の起炎菌を決定するための検査であり,敗血症,中枢神経系の感染症では死亡あるいは重い後遺症を残すことが多く適切な抗菌薬選択のために起炎菌の迅速診断が要求される.そして,起炎菌が決定されてから直ちに検査室から臨床医への報告がなければ迅速診断の価値は半減する.当検査室では,オーダリングシステムを採用することにより,検査依頼から結果報告までの作業工程の簡略化,結果報告の迅速化などに貢献することができたと考えられるので,その方法について述べてみる.図に現在の細菌検査オーダリングシステムの概要を示す.細菌検査室のオフィスプロセッサーにはNEC3100/S80(192MB)を用いている.

血小板円柱

著者: 重田英夫

ページ範囲:P.227 - P.227

[1]用語と歴史
 血小板円柱という用語は血小板で構成される尿円柱という意味で,筆者が1987年にその存在と呼称を提唱し1),英語ではurinary platelet castと表現した.尿中から少量の血小板が検出されることはすでに1972年以来の研究的事実として知られ2),また,血小板円柱を疑わせる顆粒状の尿円柱もLippman RW3)の論文に記載されている.しかし,それは顆粒円柱あるいは血液円柱の表現にとどまり,血小板円柱という発想と概念は全く見当たらない.血小板膜抗原のモノクローナル抗体が開発されるまでその同定手段は極めて乏しく,特に放出反応を終了した活性化血小板の証明はその形態的変化から極めて困難であった.

ケント束

著者: 増渕雄 ,   長沢正樹 ,   星野和男 ,   甘利俊哉

ページ範囲:P.228 - P.228

 心臓の刺激伝導系には現在までに正常房室伝導路の全部または一部をバイパスする種々の副伝導路が報告されている.副伝導路としてはケント束(bundle of Kent),Mahaim線維,James束,心房-His束路などがあり,早期興奮症候群,心室変行伝導,dual AV conductionなどの成因に関与すると考えられている.解剖学的に副伝導路が証明されても,必ずしもそれが刺激伝導機能を有するとは限らないことに留意すべきである.
 ケント束は,1893年にKentが初めて記載した副伝導路で右心側面で右房と右室とを連絡する長さ0.9mm,幅0.25mmの筋束で,外見上作業心筋によく似ている.現在では心房と心室とを直接連絡する副伝導路は左心側または中隔にあっても通常,ケント束と呼ばれている.ケント束が機能すればWPW型QRS波がみられる.

明日の検査技師に望む

転換期の臨床検査を考える

著者: 大島一洋

ページ範囲:P.182 - P.182

 臨床検査は,30有余年を経ていま開花期から爛熟期を迎えようとしている.また,臨床検査医学も医学体系の1つとして教育の場に根付いてきている.しかし,その周辺あるいは将来をみつめたとき,決して明るい材料ばかりでなく,私自身最近,臨床検査の教育や実践の場で違和感を感じることがしばしばである.
 検査技師という身分が認知され,地方大学などに教育の場が造られて久しい.私は,臨床検査技師学校,医療技術短期大学部を通じて臨床病理学総論の教育を担当し,内分泌代謝疾患に関連する分野を講義してきた.スライドを多用した講義は,これら疾患の臨床症状は百聞することより一見することが有用なこと,他大学よりも情報が遅れないように広く浅く講義すること,を心がけたためである.しかし,学生に対する教育の実は私の考えるほど上がっていないのが現状である.

けんさアラカルト

総合的な精度管理の実際

著者: 熊田至

ページ範囲:P.198 - P.198

 臨床検査における“総合的な精度管理”はJIS用語集に定義はないし,広辞苑にも見当たらない.
 臨床検査ではquality controlは“品質管理”ではなく“精度管理”と訳され,現在いうところの測定の精密さの管理に用いられてきた.かつて“精度”は最高の品質であり,昨今のように“精度”の良さが,診療サービスの中でどのように生かされるかについては議論はなかったように思われる.

ラボクイズ

問題:寄生虫症

ページ範囲:P.204 - P.204

2月号の解答と解説

ページ範囲:P.205 - P.205

トピックス

癌遺伝子と腫瘍の悪性度

著者: 野島孝之

ページ範囲:P.229 - P.230

 癌を引き起こす遺伝子を癌遺伝子と呼ぶ.癌研究の中で発癌機構に対する考えかたの基礎となったのは,1911年,Rousによるニワトリに移植可能な肉腫の報告であった.これはRNAウイルス(ラウス肉腫ウイルスと命名)で,腫瘍細胞あるいは腫瘍細胞抽出濾過液を他のニワトリに注射すると腫瘍が形成され,ウイルスが正常細胞を腫瘍へ形質転換させる遺伝情報を持っていることが提唱された.
 しかし,癌遺伝子が存在すればすべて発癌するわけではない.ウイルスの癌遺伝子領域に相同性を有する配列がヒトをはじめ別の種の正常細胞にも存在することが明らかとなった.このような正常細胞に見られる相同配列を癌原遺伝子と呼んでいる.正常細胞では通常これらの癌原遺伝子は発現はしているがよく制御され,器官の成長や発生過程に重要な役割を担っているが,細胞の悪性化に関与していない.

ノックアウトマウス

著者: 中辻憲夫

ページ範囲:P.230 - P.232

 動物個体における遺伝子機能の研究を行うためには,研究対象とする遺伝子に実験的な変化を与えたときに,動物や胎仔にどんな影響が起きるのかを解析することも必要である.最近になって,このような研究手段がマウスにおいて可能になった.つまり外来遺伝子を導入して発現させるトランスジェニック動物作製法と,内在する特定の遺伝子を標的としてあらかじめデザインした改変を加える遺伝子ターゲティング法である.このうち,目的の遺伝子が壊されたマウスをノックアウトマウスと呼ぶことが多い.もともとその動物の染色体上に存在する遺伝子を標的(ターゲット)として,あらかじめ遺伝子工学技術によって用意した新しい遺伝子に置き換えることができるので,その内在遺伝子を壊すことはもちろん,その遺伝子の一部分を思うままに取り換えることもできるという,夢のような方法である.つまり,これまでは自然発生する突然変異を長い時間をかけて選別していたものを,研究や開発の目的に合うようにマウスの遺伝子を改変することができ,そのように改変した(改良した)動物の系統や品種を作り出すことができるようになった.これを可能にしたのは,胚幹細胞と呼ばれる特殊な細胞株を使った発生工学技術と,遺伝子工学による相同遺伝子組換え技術である.

hemophagocytic syndromeとEBウイルス

著者: 水谷修紀 ,   川口裕之

ページ範囲:P.232 - P.233

 ウイルス感染に伴って発症する組織球増多症はvirus associated hemophagocytic syndrome(VAHS)と呼ばれ,マクロファージによる自己血球貪食像が顕著ないわゆるhemophagocytic syndrome(HPS)の中の一部として分類されている.HPSの中には以前より悪性組織球症(MH)やhistiocytic medullary reticulosis(HMR)と呼ばれる腫瘍性疾患も含まれているが,これらが真に腫瘍性のものであるのか否かについては依然として不明とされている.EBウイルスによるVAHSはHPSの1形態であるが,その本体を明らかにすることはHPS一般の病因や病態の解明につながる可能性がある.
 EBウイルス-AHSは一般に高熱,皮疹,肝脾腫大,汎血球減少症,凝固障害を呈し,骨髄,リンパ節において血球貪食を伴う組織球の増多症を示す.臨床的特徴としては高熱,汎血球減少症,肝脾腫が挙げられる.血液検査学的には高フェリチン血症,肝障害,血液凝固障害などがある.骨髄は一般に低形成で未熟なあるいは成熟した組織球の増殖を示し,これらは顕著な血球貪食像を示す.EBウイルスが関与していることは抗EB抗体が上昇していることから示唆される場合が多い.

けんさ質問箱

Q 人工弁

著者: 仁田桂子 ,   片平美明 ,   仁田新一 ,  

ページ範囲:P.234 - P.236

 人工弁の様式と弁の動きかた,弁の動きに伴って血流がどの方向へ流れるか,詳しく教えてください.また,心エコーでわかる人工弁(機械弁,生体弁)の機能不全,劣化についても教えてください.

Q 尿沈渣

著者: 鈴木徹 ,  

ページ範囲:P.237 - P.237

 寝たきりで,導尿管が入っている人の尿は粘液多数で沈渣もできません.0.2ml沈渣をとる際,吸引しても全部吸引してしまい,粘液部分を残して鏡検しても何も見えません.検査不可でデータを出してもよいものでしょうか.0.2ml鏡検では見えないので見える程度をスライドに載せ,参考程度とコメントを書いて現在データとして出しています.

今月の表紙

卵巣腫瘍の細胞診[3]胚細胞腫瘍

著者: 古田則行 ,   都竹正文 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.206 - P.206

 胚細胞腫瘍には未熟な胚細胞に類似する未分化胚細胞腫や,体外胚組織を模倣する絨毛癌,卵黄嚢腫瘍,胎生初期像を模倣する多胎芽腫や胎児性癌など,さまざまな成熟段階への分化像を示す.特に奇形腫では多彩な分化像が見られる.したがって,その細胞像も組織像を反映してきわめて多彩である.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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