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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術23巻4号

1995年04月発行

雑誌目次

病気のはなし

劇症型A群レンサ球菌感染症

著者: 大江健二

ページ範囲:P.290 - P.294

新しい知見
 わが国では1992年以来,劇症型A群レンサ球菌感染症といわれる原因不明の重篤なA群レンサ球菌感染症に関する報告が相次いでいる.この病気は上気道感染症や外傷に続発することが多く,いったん,発病すると高頻度に壊死性筋膜炎や筋炎を起こし,急激にショックや多臓器不全の状態に陥りやすいが,早期に診断して適切な治療を開始すれば治癒可能であるので,疑わしい症例に遭遇したときには,迅速に対応することが大切である.

検査法の基礎

尿蛋白定量

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.295 - P.300

新しい知見
 尿蛋白定量法の日常一般法としてはピロガロールレッドモリブデン法やラウリル酸ナトリウム加クマシープリリアントブルーG250法が推奨される.また,実用基準法としては高速液体クロマトグラフィを用いた方法が現在検討されている.一次標準物質についてもヒト血清アルブミン(99%,無脂肪酸)が同時に検討されているが,二次標準物質の種類と規格については現在公認されたものがない.

パラフィン切片を利用した癌遺伝子,癌抑制遺伝子の検索

著者: 土橋洋 ,   福島純一 ,   椙村春彦

ページ範囲:P.301 - P.307

新しい知見
 発癌の原因遺伝子に癌抑制遺伝子という新たな概念が加わり,かつその抑制運伝子には欠失,点突然変異が頻繁に見いだされることがわかってきた.その結果,蛋白質やRNAに比べて安定なDNAを対象とした研究が盛んに行われるようになり,分子レベルの検索には不向きと考えられていたパラフィン切片もその材料として利用できるようになった.最近では,こく少量のDNAでもPCRにより増幅し,塩基配列が決定できるようになった.

技術講座 血液

全自動血液凝固分析装置の原理と使用法

著者: 菅野信子 ,   北村聖

ページ範囲:P.309 - P.317

新しい知見
 血液止血検査領域における全自動凝固能分析装置の開発は,複雑な反応系と試薬の不安定さなどから,他の分野に比べて遅れていた.しかし,近年,さまざまな方式,原理に基づく測定装置が開発され,測定精度,処理能力のみならず経済性,安全性の要求に応じたものが,市販・導入されるに至っている.
 最近は,凝固時間法に加え,合成基質法や,免疫学的測定法も1台に集約され,同時に測定可能な機種が開発され,導入されつつある.

微生物

分離菌を中心とした細菌検査成績の統計処理

著者: 林和

ページ範囲:P.319 - P.326

新しい知見
 細菌検査から得られた情報の蓄積とその定期的フィードバックとして,院内感染のモニタリングや起炎菌の動向を監視する目的で,科別や材料ことなどの分離状況や耐性菌の動向をまとめることが検査室の重要な任務の1つである.入院,外来といったマクロ的なまとめだけでなく,診療科(病棟)単位でまとめると分離菌種に特徴があることがわかり,また,それぞれの病棟で分離頻度の高い順から上位10菌種で60%以上を占める.

病理

AgNORs染色法

著者: 小山田誠朋 ,   徳永正義

ページ範囲:P.327 - P.331

新しい知見
 AgNORs染色は,欧米を中心に良悪性腫瘍の判定や悪性度・予後の推定などについて検討がなされている.
 乳腺における検討では,Meehanらが,AgNORs顆粒算定において単に顆粒数を数えるのではなく,数・サイズ・型・集塊をスコア化した方法により良性乳腺症例に比して乳癌例ではスコアが有意に高いことから乳腺の穿刺吸引細胞診での有用性を報告している1)

マスターしよう検査技術

肺の拡散能検査

著者: 滑川妙子

ページ範囲:P.343 - P.347

 われわれは呼吸によって酸素と炭酸ガスの交換を行っているが,肺拡散能力は肺胞内の酸素が,肺胞から肺胞毛細血管中の赤血球のヘモグロビン(Hb)に結合する効率を測定するための検査である.この検査に影響を及ぼす因子としては,肺胞から血液までの拡散する距離,ガス交換の面積,血液のHb濃度などがあり,肺線維症,間質性肺炎,サルコイドーシス,慢性肺気腫などで低下する.
 測定としては,①1回呼吸法(Forsterら),②恒常状態法(Filley,Batesら),③再呼吸法(Lewisら)などがある.

画像でみる生体情報・4

肺—肺癌

著者: 清水雅史 ,   楢林勇

ページ範囲:P.332 - P.335

はじめに
 肺癌は,近年増加しており予後不良の疾患である.その予後の改善のためには,早期発見および正確な病巣の広がりの把握が必要であり,画像診断の役割は重要である.肺癌の画像診断は,①病巣の検出および性状診断,②肺門および縦隔リンパ節転移診断,③遠隔転移診断からなる.病巣の拾い上げ診断には,まず単純X線写真が撮影され,さらに断層写真,CT,MRI,血管造影,核医学検査の施行により詳細な情報が得られる.

生体のメカニズム 体液調節機構・4

ナトリウム代謝調節機構

著者: 吉富宏治 ,   藤島正敏

ページ範囲:P.351 - P.355

はじめに
 細胞外液量(extracellular fluid;ECF)の調節は,生体の内部環境を維持するうえで必要不可欠な機構である.ECFを構成する溶質の90%以上をナトリウム(Na)が占めており,Na濃度によってECFの浸透圧は規定されているといってよい.さらにこの浸透圧は抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone;ADH)の作用によって,非常に狭い範囲に調節されている.したがって,Na濃度の調節は,血漿浸透圧の調節であり,最終的には細胞外液量(volume)の調節と考えてよい.1日に摂取するNa量は,決まっているわけではなく,日によってまったくないといってよいほど少ない日もあれば,大量に摂取する日もある.ところが,生体のNa濃度はほぼ一定に保たれており,ECFも一定に保たれている.このために,Na代謝調節系が働いているのである.Na濃度を一定に保つためには,ECFのNa量を感知するシステムと腎臓においてNaを吸収したり,排泄するシステムが必要である.本稿では,生体におけるNa代謝調節系の概要を述べてみたい.

検査データを考える

子供の異常心電図

著者: 能登信孝 ,   原田研介

ページ範囲:P.356 - P.361

はじめに
 学校心臓検診の普及により,最近では小児の心電図を見る機会が医師,検査技師を問わず飛躍的に増加しつつある.しかし小児の心電図は成人のものといくつかの点で異なっているため,その判読に当たって困難さを感じることは少なくない.本稿では小児心電図の特徴を成人例との比較で概説し,さらに数例の心電図を実際に判読しながら小児の異常心電図について考えていきたい.

わかりやすい学会スライドの作りかた

手持ちの道具を用いたスライド作製[3]Mac

著者: 雲類鷲雄一

ページ範囲:P.348 - P.349

 マッキントッシュ社のパーソナルコンピュータシステム(Mac)は,グラフィック機能が充実している.これは,学会スライドや各種プレゼンテーションでのグラフ作製に適した機能である.ここでは,基準範囲の算出時に用いる除外基準の比較を,箱ひげ図を示す場合を例に,Macを用いた学会スライドの作製方法を示す.

検査ファイル

検査値の基準範囲の求めかた(NCCLS指針による)

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.338 - P.339

[1]基準範囲設定の背景
 “正常値”という言葉は解釈や使われかたが問題になった.例えば自分の検査値が正常値内であれば健康であり,そうでなければ異常すなわち病気と理解してしまう.また各施設で用いている正常値は,設定のしかたが適正か,単に文献値のところは対応する測定法が合っているかなどであった.
 今回NCCLS(アメリカ臨床検査標準委員会)指針(案)1)において,基準範囲の定義,設定のしかたおよび利用のしかたが具体化された.本案の主旨の背景には標準化作業の一環としている点がある.すなわち検査値の有効利用のための手段として検査値の互換性が重要である.その前提として測定法や標準物質などの基準の設定があり,次に現場における具体的作業として,検査値の互換性の確保のための測定法の選択,検量方法の変更,報告単位の変更そして基準範囲の設定などがある.最終的に基準範囲は検査値の互換性を確保した各施設で共有することができることになる.

ヘモジデリン円柱

著者: 稲垣清剛

ページ範囲:P.340 - P.340

 円柱の分類法は今日までいろいろ試みられてきたが,なかでもLippmanの分類した方法が多くの支持を得てきた.現在,日本臨床衛生検査技師会では尿沈渣検査法の標準法として,基本的には硝子円柱,上皮円柱,顆粒円柱,ロウ様円柱,脂肪円柱,赤血球円柱,白血球円柱に分類し,その他の円柱としてさらに10種類を挙げ,その中にヘモジデリン円柱1)を掲げている.

ラテックス凝集法による抗トレポネーマパリダム抗体測定の自動化法

著者: 森本武次

ページ範囲:P.341 - P.341

 最近,数社から梅毒感染症検査を自動化する目的でトレポネーマパリダム(Treponema pallidum;TP)を抗原としてTP抗体を検出するラテックス粒子凝集法(ラテックス法)を用いた試薬が開発された.
 われわれは,この原理を応用した2社の試薬を使用した経験から,この方法により検出される抗体の特徴と,日常業務に導入した場合の運用方法について述べる.

阻害抗体によるP型アミラーゼの測定法

著者: 木村孝司

ページ範囲:P.342 - P.342

 α-アミラーゼ(1,4α-D-glucan-glucanohydrase,EC 3.2.1.1;AMY)は最も古くから臨床検査として測定されてきた酵素であり,膵炎の診断に重要とされている.総AMY活性のみから疾患を鑑別することが困難で,特異性の面からアイソザイム測定が必要である.
 アイソザイムとしてはP型(膵由来)とS型(唾液腺由来)があり,種々の測定法が報告されている(表).

ラボクイズ

尿沈渣中の異常細胞

ページ範囲:P.336 - P.336

3月号の解答と解説

ページ範囲:P.337 - P.337

明日の検査技師に望む

常に患者のいることを忘れることなく

著者: 新木一夫

ページ範囲:P.308 - P.308

 “検査される患者を父母と思い,検査材料は身を痛めて提出されたその父母の血と思い,日夜検査に精進されんことを”かつて私が大学病院の中央検査部(北海道大学)に勤務した当時の部長からよく言われた言葉である.
 戦後日本もアメリカの医療制度の導入とともに,多くの医療機関で検査を合理的に,そして精度の高い方法ということで検査の中央化システムが進んだ.検査の中央化が進めば進むほど,検体検査は検査申込み用紙と検体とその検査報告書が診療側(患者)と検査室を往復し,検体の裏側に日夜悩み苦しんでいる多くの患者がいることを忘れがちな日常の検査業務の中にあって,この部長の言葉は私にとって忘れることのできない貴重な教訓としていつも脳裏に残っている.生理検査以外はほとんど患者と接する機会の少なくなった現在の検査システムのありかたを今一度考えてみる必要があるかもしれない.(病棟検査技師的な)検査室の自動化とコンピュータ導入が進めば進むほど,患者から遠ざかっていく傾向はますます強い感がある.

けんさアラカルト

アコニターゼを用いた血清鉄の新しい酵素的測定法

著者: 藤田剛

ページ範囲:P.318 - P.318

 現在,血清や尿中の多くの電解質が酵素法で測定できるようになってきた.これらの分析法は,酵素の高い基質特異性や,温和な反応条件(pH,室温)などの点を巧みに利用した方法である.酵素で電解質を測定するとき,その電解質が酵素の,①基質である場合や,②活性化剤である場合,また,③アポ化した不活性な金属酵素のポロ化イオンである場合などがある.
 最近,私たちが開発したアコニターゼ(ACN)を用いた血清鉄の新しい酵素的測定法1)は上述の③に属する測定法である.ブタ心筋ミトコンドリア由来ACNは754のアミノ酸残基から成る分子量約83kDaの[4Fe-4S]クラスターを有する金属酵素2)で,TCAサイクルの主要酵素である.[4Fe-4S]クラスター構造を持つ活性型のポロ酵素を金属キレート剤であるo-フェナントロリンで処理することによって,[3Fe-4S]クラスター構造を有する安定な不活性型のアポ酵素を容易に調製することができる.しかも,この不活性型のアポ酵素はFe2+を速やかに分子内に取り込み,再び活性型のポロ酵素に変換できる酵素である.ACNの分子内の鉄イオンを介してアポ酵素-ポロ酵素の相互交換を利用した点が本法の特徴である.

トピックス

Helicobacter pyloriと胃癌

著者: 榊信廣

ページ範囲:P.362 - P.363

■Helicobacter pyloriとは
 1983年にHelicobacter pylori(H. pylori)と後に命名された細菌が胃内に存在することがMarshallら1)によって報告され世界中の注目を集めたが,1991年になってParsonnetら2)の疫学的な報告から胃癌との関係に興味が持たれるようになった.さらに1994年にHustonで開催された研究会では,WHO,IARC会議の報告としてH. pyloriは胃癌発生に連なる事象の原因と明言されるまでになった.しかし,細菌であるH. pyloriの何が,またその感染の影響の何が胃癌の発生に結びつくのか,両者の接点を探す基礎的な研究はまだ始まったばかりである.
 H. pyloriは鞭毛を持つグラム陰性ラセン状短桿菌で,一方の極に持つ鞭毛によって粘液内を移動して,中性に保たれている被覆粘液深層で胃粘膜上皮に密着して存在している.この細菌の最大の特徴は,尿素からアンモニアを作るウレアーゼ活性を持っていることである.このウレアーゼ活性が,細菌が生育しないとされたpH3以下の強い酸性の胃液内でも生存を可能にしたわけであるが,アンモニアを発生させ,それが胃粘膜障害を起こす原因になっていると考えられている.

事象関連電位P300の臨床

著者: 柿木隆介

ページ範囲:P.363 - P.364

はじめに
 われわれは外界からのいろいろな刺激に対し,驚いたり,それが何であるか確認しようとしたり,場合によってはその刺激を予測して待っていたりする.そのようなヒトの心の動き,すなわち大脳で起こる心理反応を客観的に観察できればおもしろいに違いない.ただしそれは通常の脳波検査では極めて困難である.そこで開発されたのが脳波の加算平均法というもので,これはある一定の条件の刺激に対しほぼ一定の時間に定常的に出現する反応脳波を多数回加算して,それを加算回数で割る方法である.この方法により特殊な反応は残存するが,それと関係ない反応は限りなくゼロに近くなる.すなわち通常の脳波検査では隠れてしまうような小さな脳活動を記録することができるのである.これを大脳誘発電位と称しているが,その中でも,初めに述べたような心理課程を客観的に記録しようとする試みがあり,これを事象関連電位と総称している.P300電位〔刺激後約300msec後に出現する陽性(positive)電位〕はその代表的なものである.P300は1965年にSuttonら1)により初めて報告され,脳内の情報処理課程(記憶,認知,期待,判断など)に関係すると考えられており,近年の科学技術の進歩により急速に研究が発展してきた.

癌免疫療法の効果

著者: 佐治重豊

ページ範囲:P.364 - P.366

 免疫学的異物排除機構を利用した癌免疫療法は夢の癌治療法として脚光を浴び,その成果が期待されて登場した.すなわち,実験動物を用いた腫瘍の完全退縮,免疫担当細胞によるin vitroでの傷害活性増強作用やvivoでの生存日数延長などのすばらしい抗腫瘍効果は,作用機序も明確で,ヒト癌に対しても同程度の治療効果が期待されていた.しかし,ヒト癌の多くは自然発生癌で異物として認識可能な腫瘍関連抗原の存在は否定的であり,またヒトは免疫学的には雑種のため,同一の免疫反応による抗腫瘍効果を普遍的に期待することは困難である.
 ところで,実地臨床で認可されている癌免疫療法はPSK,OK-432,lentinanなどの非特異的免疫賦活剤を用いた治療が主体で,宿主介在性抗腫瘍効果に依存した抗癌療法のため,生体防御機構が荒廃状態に近い末期癌患者に適応するには若干の問題がある.一方,バイオサイエンスの進歩により免疫担当細胞による抗腫瘍作用が細胞間情報伝達物質,サイトカインにより解明可能となり,癌微小環境におけるサイトカインの増減と治療効果との関連が注目されている.

吸入液の細菌汚染

著者: 尾家重治

ページ範囲:P.366 - P.367

はじめに
 吸入療法に用いる吸入液は,注射剤などと異なり,とかく安易に扱われがちである.しかし,保存剤非含有の吸入液(生理食塩水,精製水,アレベール®液など)は細菌汚染を受けやすく,また高濃度汚染を受けた吸入液は感染源となる1)

けんさ質問箱

Q 血液ガスのアーチファクト

著者: 進藤千代彦 ,  

ページ範囲:P.368 - P.369

 臨床的症状はないのにPaO2が低下(60torr以下)して表示されることがあります.息ごらえや静脈血の混入などによりどの程度変化するのでしょうか.またアーチファクトの原因をデータより推察できるのでしょうか.

Q 虫垂炎の超音波検査

著者: 高橋慶 ,   冨田周介 ,  

ページ範囲:P.369 - P.371

 虫垂炎に対する超音波所見の検索を施行するに当たり,周りの臓器・脈管との位置関係および炎症の虫垂と,そうでない場合の虫垂を指標となるものを挙げて,写真などを交えてご教授ください.

今月の表紙

血管性腫瘍の細胞診

著者: 古田則行 ,   都竹正文 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.317 - P.317

 良性の血管性腫瘍は種類が多く,また細胞診の対象となることは少ない.悪性腫瘍の代表として,血管外皮(周皮)に由来する悪性血管外皮腫(周皮腫)と,血管内皮に由来する血管肉腫(悪性血管内皮腫)があり,それぞれ特徴的な細胞像を示す.また,血管腫と血管肉腫との中間的性格を示す特異的腫瘍として位置づけられる類上皮血管内皮腫や,血管内乳頭状内皮過形成症などは,いずれも特徴的な細胞像を示すため細胞診による判定が可能である.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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