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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術23巻5号

1995年04月発行

雑誌目次

増刊号 臨床生理検査実践マニュアル画像検査を中心として Ⅰ.超音波検査法

1.超音波検査の現状

著者: 遠田栄一

ページ範囲:P.10 - P.11

超音波検査の歴史
 現在医療で使われている超音波診断装置をはじめ,超音波洗浄器など超音波を用いた機器は日常生活に深く浸透しているが,その歴史は1880年フランスのCurie兄弟による圧電効果の発見に始まる(表).しかし,指向性が鋭く音響学的性質の異なる媒質の境界面で反射する超音波の特性を利用し,その実用化に成功したのは第一次世界対戦中のことであった.1917年フランスのLangevinは潜水艦探知用ソナーの開発に世界で初めて成功,これが超音波機器の第1号となった.その後ソナーは機器の進歩とともに普及し,1931年には日本海軍でも使用が始まっている.このように超音波は当初,水中の物体を探知する目的で応用開発が行われ,後に敵艦発見のための聴音機や音響探信機,金属中の微小な傷やひび割れを見つける金属探傷器などへと発展した.
 一方,臨床医学への応用はドイツのDussikが1942年に透過法を用いて脳室投影像を描出(Aモード法)したのが最初で,その後1949年HowryとBlissによる超音波断層像(Bモード法)の開発,Ludwingの胆石描出成功例へと続く.また,1952年にはDonaldらが接触走査法(compound scan)を開発し,超音波検査法普及の基礎を作った.

2.原理・装置・機器

著者: 甲子乃人

ページ範囲:P.13 - P.21

超音波診断装置の基礎
1.パルス反射法
 人体の軟部組織は,その組織や臓器の種類によって音響的性質が異なっている.そこで,先端に振動子(圧電素子)が取り付けられたプローブ(探触子)から,ごく短時間のパルス状の超音波を体内に発射すると,超音波は細いビーム状に生体中を伝播し,音響的性質が異なる組織の境界でその一部が反射して,プローブに戻ってくる.超音波が,生体の軟部組織を伝わる速度を1,530[m/s]と仮定すると,反射エコーは深さ1[cm]当たり約13[μs]でプローブに戻ってくる.つまり深さ1[cm]からのエコーは約13[μs]後に,深さ10[cm]からのエコーは約130[μs]後に戻ってくる.
 超音波パルスを発射後,直ちに送受信兼用のプローブを受信に切り替え,生体内を伝わる途中で次々と発生する反射エコーを受信する.このようにして,反射エコーが戻ってくるまでの時間やその強さを測定することにより,生体組織の音響的性質の深さ方向の分布が得られる.反射エコーは,生体組織の音響的性質の差が大きいほど強い信号が得られる.

3.検査の実際 1)心臓

(1)心エコー図法(断層法,Mモード法)

著者: 遠田栄一

ページ範囲:P.23 - P.41

 心エコー図法が循環器疾患の正確な病態把握と診断に大きな役割を果たしているのは周知のとおりである.これは装置の改良・開発により精度の高い画像が得られるようになったことや,患者への侵襲がないため一般臨床の場にも広く普及することになったことが大きい.このような状況下では検査件数も飛躍的に増加し,循環器専門医のみならず一般臨床医,臨床検査技師にも正しい検査の進めかた,正確な判読技術の習得が求められている.
 ここでは断層法,Mモード法を中心に臨床検査技師が行う検査として,どの程度の内容をカバーしていなければならないかということを中心に述べる.

(2)ドプラ法(パルス,連続波,カラー)

著者: 広仲英治 ,   高元俊彦

ページ範囲:P.43 - P.54

検査の進めかた
ドプラ検査で何を評価するか
 心臓および血管腔内の異常血流を検出し,疾患または病態の把握に必要な情報を入手する.具体的には,カラードプラ法による異常血流の有無と逆流疾患の半定量的評価,連続波ドプラ法による狭窄部位での圧較差や弁口面積の算出,パルスドプラ法による心室の収縮および拡張機能を評価することなどである.通常ドプラ法は単独で用いられることはなく,一連の超音波心臓検査の中で施行される.

2)上腹部

(1)肝臓 検査の進めかた

著者: 鶴岡尚志

ページ範囲:P.55 - P.57

肝臓の解剖と走査法
 超音波像では1断面で描出できる範囲に制限があるため,どの部位の断面であっても肝臓の全貌を描出することは難しく,これが肝臓の立体解剖の理解の妨げとなっている.肝臓の形態を把握するには,まず体内にある状態での外観と,肝内脈管の立体構築を頭に入れておき,各断面での内部構造を理解しながら組み合わせるトレーニングが必要である.

(1)肝臓 画像の読みかた

著者: 鶴岡尚志

ページ範囲:P.57 - P.62

基本断層像
 肝臓の立体解剖を理解するためには,最初にいくつかの代表的な断層像を覚え,これを基に走査範囲を広げ,肝臓の全体像を理解するとよい.

(1)肝臓 臨床像と病理組織像との対比

著者: 円山英昭 ,   岩村伸一

ページ範囲:P.63 - P.66

はじめに
 肝臓は上腹部,横隔膜直下に位置する生体で最大の実質臓器である.左右両葉と尾状葉[S1]が区別され,血流支配から,左葉はさらに外側上(後)[S2],外側下(前)[S3],内側[S4]の3区域に,右葉は前下[S5],後下[S6],後上[S7],前上[S8]の4区域に分けられる〔Couinaud(クイノー)の肝区域〕.基本的構造単位である肝小葉(2〜3mm径)は放射状に配列する肝細胞索と,その周囲を流れ,中心静脈に注ぐ迷路状の類洞より成る.ヒトではグリソン鞘の線維性間質の発達が乏しいため,肝細胞が全肝容積の約80%を,残りの大部分を類洞血管網が占める.したがって,正常肝では遠肝性に管径が増大する肝内門脈枝,肝静脈枝や胆管系の部分を除いて,ほぼ均質な超音波像を呈する.
 各肝疾患の超音波像の判読に際しては,①病変の分布:限局性あるいはびまん性②病変の性状(特に限局性病変の場合):充実性あるいは嚢胞性,周囲肝組織との関係(特に肝硬変合併の有無)③基本的な組織変化に対応するエコー像以上の3点を理解しておくことが必要である.

(2)胆嚢・胆管

著者: 佐久間浩

ページ範囲:P.67 - P.72

胆嚢
胆嚢の解剖(図1)
 胆嚢は肝右葉下面の胆嚢窩に位置する西洋梨形または長茄子形をした袋状の臓器であり,その約1/3は胆嚢窩において結合組織で付着し,残りは肝とともに腹膜で覆われている.大きさは,長径が6〜8cm,短径が2〜3cmであり,その容量は30〜50mlである.胆嚢は底部,体部,頸部の3つに区分される.体部から頸部に移行する部分は嚢状に突出することがあり,これは漏斗部と呼ばれる.頸部は屈曲して,らせん状の胆嚢管に連続する.胆嚢壁は粘膜層,粘膜下層,筋層,漿膜層からなり,その厚さは通常1〜2mmである.
 胆嚢は肝臓において生成された胆汁を濃縮して蓄える.胆汁は消化酵素を含まないが,消化と吸収を促進する働きがある.

(3)膵臓 検査の進めかた

著者: 秦康博 ,   久直史

ページ範囲:P.73 - P.75

超青波解剖および走査方法
 膵は第1〜2腰椎の高さで存在する後腹膜臓器であり,上方は肝,下方は横行結腸,前方は肝と胃,後方は大血管系と左腎,右方は十二指腸,左方は脾に囲まれる臓器である(図1).膵癌取扱い規約1)では頭部(Ph)・体部(Pb)・尾部(Pt)の3部に分けられる.頭部と体部とは上腸間膜静脈・門脈左側縁によって境界され,境界部は頸部とも呼ばれる.頸部および鉤状突起は頭部に含まれる.
 超音波検査の前処置として,禁食を原則とする.膵の観察に際して,最も問題となるのは消化管内のガスである.特に肥満のため胃が膵の前方に位置する場合は胃のガスが膵体部から尾部を隠す.その場合は約400mlの水(脱気水あるいは湯冷ましが望ましいが,水道水でも目的は達せられる)を飲ませて,水で充満した胃や十二指腸を音響窓(acoustic window)として観察するとよい(図2).

(3)膵臓 画像の読みかた・計測法

著者: 秦康博 ,   久直史

ページ範囲:P.76 - P.78

膵の大きさ
 最大前後径(背腹径)の増大に意味があり,幅(上下径)の増大は異常と結びつかない.頭部2.5cm,体部2.0cm,尾部2.0cmを厚さの目安とする.横断像だけでは正確な前後径が得られないことが多く,縦断像でも計測すべきである.しかし,大きさには個人差があるので,絶対値よりも全体のバランスが重要である.限局性の腫大にエコーレベルの異常を伴うものは占拠性病変を考え,尾側膵管の拡張の有無に注意する.膵良性腫瘍,膵癌,膵?胞,腫瘤形成性膵炎などが上記の所見を呈する.表面の波打ち様の凸凹は慢性膵炎などに認められる.

(3)膵臓 臨床像と病理組織像との対比

著者: 諸星利男

ページ範囲:P.79 - P.80

膵の炎症
1.急性膵炎
 発作性の上腹部痛や圧痛などを伴う急性腹症として始まり,血中および尿中アミラーゼ値の上昇を伴う.重症(劇症)急性膵炎の場合はショック状態となり,また敗血症や多臓器不全(multiple organ failure;MOF)と合併し,予後は極めて重篤である.交通事故などによる外傷性膵炎や遷延化した急性膵炎ではしばしば膵仮性嚢胞を合併する.肉眼的には膵の出血あるいは脂肪壊死が認められ,重症例では膵にとどまらず大網や腸間膜,さらには腹部全体に広がり,しばしば腹水を合併する.組織学的に出血および脂肪壊死が確認される.

(4)脾臓

著者: 関根智紀

ページ範囲:P.81 - P.86

はじめに
 従来,脾の検索は大きさのみが最優先されて評価されていた.しかし,超音波検査の導入により脾実質を詳細にかつ広範囲に検索することが可能となり,脾疾患はびまん性のみならず占拠性病変まで数多くの病変を診断することが可能になった.超音波検査は手軽にだれにでも扱えて情報量も多いことから,ますます脾領域においても活用されると考えられるが,本検査は数多い長所とは裏腹にあいまいな知識と強引な解釈から検査を行うと誤診を招くものである.本稿では,脾の超音波検査を進めるにあたり最低限は知っておかなければならない知識として解剖,表示法,基本走査法,計測法,正常・異常像,症例を中心に述べてみたい.

3)乳腺・甲状腺

(1)乳腺 検査の進めかた

著者: 宮本幸夫 ,   最上拓児 ,   山下三代子 ,   三枝裕和 ,   中田典生 ,   入江健夫 ,   多田信平

ページ範囲:P.87 - P.88

 乳癌の画像診断は,歴史的にも,また装置の普及率においても,マンモグラフィーが基本とされてきた.しかしながら近年の超音波診断装置ならびに超音波診断学の進歩に伴い,多少の条件つきではあるが,乳癌の画像診断の主体は超音波診断に移りつつあるといっても過言ではない.本稿では,乳癌の超音波診断の検査の進めかたにつき最近の知見を交えて略述する.

(1)乳腺 画像の読みかた

著者: 宮本幸夫 ,   最上拓児 ,   山下三代子 ,   三枝裕和 ,   中田典生 ,   入江健夫 ,   多田信平

ページ範囲:P.88 - P.91

正常乳腺の超青波解剖
 正常乳腺の超音波像を図2に示す.乳腺組織は一般に均一な高エコーレベルを呈する充実性の領域として描出されるが,年齢が増すにつれて脂肪に置き換わるため,そのボリュームは減少する.一方,乳腺後脂肪織は逆に増加し,クーパー靱帯も加齢につれて明瞭に描出されるようになる.また,乳腺組織と脂肪との間には,薄い高輝度の線状エコーを認め,前方境界線と呼ばれる.前方境界線は良・悪性の鑑別における1つのメルクマールとなる(6.乳癌の項参照).なお,授乳中の乳線内には,しばしば著明な乳管拡張を認める(図2).

(1)乳腺 臨床像と病理組織像との対比

著者: 秋山太 ,   坂元吾偉 ,   佐久間浩

ページ範囲:P.91 - P.94

はじめに
 乳腺の超音波診断は非常に有用な検査法ではあるが,乳腺腫瘍は種類が多く(表),それぞれの病理組織像が多彩であることが特徴で,このことが乳腺の超音波診断を奥深いものにしている.画像診断の向上には病理組織像との対比が大切であることはいうまでもないが,超音波検査法で観察する画面は顕微鏡で観察する病理標本の面と同じであり,画像と病理組織像を1対1で対比するのに非常に好都合であるということを強調したい.
 本稿では典型的な3例を提示するにとどめるが,これが契機となり多くの方が乳腺の超音波診断に興味を示していただければ幸いである.

(2)甲状腺

著者: 宮本幸夫 ,   最上拓児 ,   山下三代子 ,   三枝裕和 ,   中田典夫 ,   入江健夫 ,   多田信平

ページ範囲:P.95 - P.98

 甲状腺の画像診断は,従来より核医学を中心に行われてきた.CTや超音波検査は腫瘍性疾患の同定とその進展範囲の把握には適しているものの,質的診断においては現在でもあまり有効であるとは考えられていない.しかしながら,近年の超音波診断装置の発展,特にリアルタイム高分解能装置の開発に伴い,超音波検査も甲状腺疾患の診断に重要な役割を果たすようになってきている.本稿では,最近の知見も交えながら,甲状腺の超音波診断につき略述する.なお,超音波検査の進めかたに関しては,前項の乳腺の超音波診断と重複するため,本稿では解説を省く.

4)産婦人科領域

検査の進めかた

著者: 馬場一憲

ページ範囲:P.99 - P.100

 超音波断層診断装置は,胎児診断をはじめ,子宮,卵巣腫瘍などの婦人科疾患の診断に重要な役割を果たしている.産婦人科領域における画像診断法には,X線CT,MRI,腹腔鏡,子宮鏡などさまざまな方法があるが,大半の症例は超音波断層法のみで診断することができる.
 産婦人科領域の超音波検査法には,腹壁上にプローブを当てて行う経腹法と,腟内にプローブを挿入して行う経腟法とがある(図1).経腹法は,一般腹部用の超音波診断装置を用いてベッド上で行うことができるが,経腟法は,婦人科検診台(内診台)で経腟プローブと呼ばれる特殊なプローブを用いて行うため,一般に産婦人科以外では行われていない.

画像の読みかた

著者: 馬場一憲

ページ範囲:P.100 - P.109

子宮
1.子宮の描出
 婦人科内性器を超音波診断装置で観察する場合は,繰り返し述べているように,膀胱に尿が十分たまった状態で検査を行う.膀胱充満下では,子宮は容易に描出される(図3).最近の性能の良い装置では,子宮内膜像も観察できる.子宮内膜像は,月経後の卵胞期ではパイポエコイック(周囲より黒く)に,月経前の黄体期ではハイパーエコイック(周囲よりも白く)に観察される.
 子宮内膜は,子宮中央に前後方向に扁平に観察される.もし,子宮筋層が子宮内膜に対して,前後左右で非対称であれば,子宮筋腫などの異常を疑う必要がある.また,閉経後の婦人では,子宮内膜は萎縮して観察されないはずであるが,厚く明瞭に観察されるときは,子宮体部癌(内膜癌)の疑いがあり,直ちに産婦人科に紹介する必要がある.

臨床像と病理組織像との対比

著者: 飯原久仁子 ,   横田治重 ,   山内直子 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.110 - P.112

はじめに
 病変,とりわけ腫瘍性病変の確定診断は病理組織学的検査によって得られる.したがって超音波検査を含め,各種臨床検査の有用性としては個々の検査所見から病理診断の内容にどこまで肉迫できるかが,その価値を決める大きな因子となる.
 子宮腫瘍においては,生検などによる術前の診断精度も高く,したがって超音波検査は主として病変の局在や進展度診断を担っている1,2).一方,卵巣腫瘍においては,他の診断法が少ないため,超音波検査は,CT,MRIなど他の画像診断とともに,腫瘍の質的診断を担っていると考えられる3)

5)腎・泌尿器

(1)腎臓・副腎 検査の進めかた

著者: 寺沢良夫 ,   森久恵

ページ範囲:P.113 - P.114

1.検査の適応
 腎・副腎疾患のほとんどが超音波検査法(ultrasonic examination;US)1〜3)の適応となる.すなわち腎癌,腎腫瘍,腎盂癌,腎結石,腎膿瘍,腎盂腎炎,腎外傷,水腎症,腎不全,腎嚢s胞,尿管結石,尿管腫瘍,副腎腫瘍などである.

(1)腎臓・副腎 画像の読みかた・計測法

著者: 寺沢良夫 ,   森久恵

ページ範囲:P.114 - P.119

1.腎・副腎の正常像
 腎は左右2個あり,右腎は左腎と比較して低位置にある.皮質,髄質,中心部エコー(central echo;CE)が描出される.中心部エコーは腎盂・腎杯,腎動静脈,腎洞内脂肪を含んでいる(図3〜5).
 副腎は,腫瘍などで腫大すれば検出できるが,正常では検出できないことが多い(図6).右副腎は右腎上極に,左副腎は左腎上極内側に位置する.

(1)腎臓・副腎 臨床像と病理組織像との対比

著者: 河合竜子

ページ範囲:P.120 - P.121

はじめに
 超音波検査の良い対象となり,かつ重要な腎病変は,腫瘍性病変である.悪性腫瘍としては,腎細胞癌(Grawitz腫瘍)が最も頻度が高く,超音波像では一般に高エコーレベルの腫瘍として描出される.良性腫瘍としては,血管筋脂肪腫(angiomyolipoma),腎線維腫,血管腫,腎腺腫などが挙げられる.一方,正常腎の超音波像と比較して,腎皮質の幅が狭く腎臓が萎縮していれば,腎臓全体に変化を及ぼす糸球体病変が推察され,表面の粗大凹凸不整な変化は,陳旧性腎梗塞巣が推察される.左右腎臓のサイズ差が認められる場合は腎動脈レベルの閉塞,あるいは狭窄の可能性が考えられるので,左右腎の比較は重要である.表に超音波検査の際に参考になると思われる腎病変を挙げた.以下,その臨床像と病理像を述べていく.

(2)泌尿器(膀胱・前立腺)

著者: 寺沢良夫 ,   八島香代

ページ範囲:P.123 - P.127

検査の進めかた
 膀胱・前立腺の超音波検査法には,①経直腸的ラジアル走査法,②経直腸的リニア走査法,③経尿道的ラジアル走査法,④経腹的走査法がある.内科医師・検査技師がドックなどで膀胱・前立腺を検査するときには,経腹的超音波走査法(ultrasonic examination;US)であり,この方法について記述する.その他の検査法は,検査時間がかかり,専門的技術を要し,泌尿器科医がすべき検査であるので除外した.

6)その他

(1)表在血管—頸動脈を中心に

著者: 髙梨昇 ,   福島浩二 ,   渡辺節子 ,   髙橋明子 ,   池田とみ子 ,   白石周一 ,   渡辺由香 ,   南里和秀 ,   小林久雄

ページ範囲:P.129 - P.132

はじめに
 頸動脈の動脈硬化性病変は,脳梗塞や一過性脳虚血発作の原因の1つとして注目されており,頸動脈の超音波検査は日常検査として行われている施設が多い.
 本稿では,頸動脈の超音波検査を中心に述べる.

(2)末梢循環

著者: 尾崎俊也

ページ範囲:P.133 - P.134

はじめに
 過去における末梢血管超音波検査は,高周波連続ドプラ法(10〜20MHz)で,順次観察部位を血管に沿って移動しながら,血流波形の変化により病変部位を同定し,さらに病変部末梢側の血流パターンから重症度を推定した.そのため高度の検査技術と多くの検査時間を必要とし,ルーチン検査としてはほとんど一般化されなかった.
 しかし,高周波Bモード断層法における分解能の向上により,表在血管の形態および性状が観察され,さらに低流速表示が可能なカラードプラ法の開発により,血流がリアルタイムに可視化でき,簡便で無侵襲な検査法として最近注目されてきた.
 血管疾患は閉塞性病変と拡張性病変に大別されるが(表1),末梢領域において,近年増加傾向にある閉塞性動脈硬化症を中心に,四肢末梢血管超音波検査法について以下に述べる(拡張性病変は表2参照).

(3)頭蓋内動脈

著者: 古幡博

ページ範囲:P.135 - P.138

 まったく無侵襲的な超音波の特徴を生かし,頭蓋内血流検査が経頭蓋骨的に頭皮上より行うことができ,脳神経内科的診断,脳神経外科的診断,術前・術中・術後評価に供されている.この経頭蓋骨超音波法には,TCD(transcranial Doppler法;経頭蓋骨超音波ドプラ法)というペンシル型のパルスドプラ法(2MHz)と通常のカラードプラ診断法(color flow imaging;CFI)(2.5MHz以下を使用)とがある.両者は特性,性能が大きく異なるが,それぞれ有用な診断指標を提供するものであるので,ここではそれぞれに分けて特性,機能およびその検査手技,実施方法を述べることとする.

用語解説

ページ範囲:P.139 - P.141

down the tail view(p.73)
 膵臓の体尾部が消化管のガスによるアーチファクトにより描出できないときに用いる方法で,膵頭部を音響窓にして膵体尾部を描出する方法.実際には縦断スキャンで膵頭部を描出し,走査面の背側を左方に振るようにプローブを傾けることにより描出する.超音波ビームの方向が膵長軸と接線方向に近いため,境界は極めて不鮮明なことが多く観察に注意を要する.

Ⅱ.磁気共嗚画像検査法(MRI)

1.検査の意義

著者: 畑雄一

ページ範囲:P.144 - P.145

 MRI(magnetic resonance imaging)は核磁気共鳴現象(nucelar magnetic resonance;NMR)という物理現象を応用した画像診断装置である.MRIの基礎原理は1970年代初めにすでに確立されたが,それから臨床応用が本格化したのは約10年後の1980年代初めである.NMRは有機化合物の構造解析,生体内の代謝過程の追跡など広範な応用分野で利用される分析機器であり,当初は生理機能まで評価可能と期待された.このような分野における利用はMRスペクトロスコピーなどの研究はなされているものの,臨床で広く用いられるには至っておらず,現在の利用法の中心は画像診断においてである.
 MRIの画像診断法としての利点には次のようなものが挙げられる.

2.原理・装置・取り扱い

著者: 畑雄一

ページ範囲:P.147 - P.153

原理
1.原子核のスピン
 NMR現象は,磁場中に置かれた特定の条件を満たす原子核が,特定周波数の電磁波を照射されることによって生じる現象である.特定の条件を満たす原子核とは「原子核を構成する陽子と中性子の数がともに偶数ではないこと」である.このような条件の原子核は磁気的性質(スピン)を有し,微小な磁石(磁気双極子)と考えることができる.人体を構成する原子では1H,13C,31Pなどが条件に該当するが,1Hは水素原子の同位元素中で占める割合が極めて高く,また感度も高いことから,MRIで対象となるのは通常1Hである.1Hの原子核は言うまでもなく陽子1個で構成されており,MRIではプロトンと呼びならわされている.
 人体中の水素原子は無数に(単位体積当たり約10の23乗個)存在する.外部磁場の存在しない場合には,原子核の磁気モーメントの方向はばらばらであり,全体としては磁気的性質を持たない(図1).

3.検査の実際

1)頭部

著者: 野口京 ,   豊嶋英仁

ページ範囲:P.157 - P.165

はじめに
 MRI頭部検査のうち脳神経領域の検査の進めかたについて解説する.脳神経領域の撮像範囲には大脳,小脳および脳幹部(中脳,橋,延髄)が含まれる.検査に当たり,これらの位置関係をよく理解しておくことが必要である.検査の対象疾患は主に血管障害,腫瘍,炎症性疾患,変性疾患などである.
 実際に検査を行うに際しては,最初に基本的撮像技術を理解しなければならない.また,頭部MRIの正常例と主な異常像について知っておく必要がある.

2)頭頸部

著者: 石井清

ページ範囲:P.167 - P.174

検査の進めかた
 頭頸部の画像診断法にはMRIやX線CTのほかにX線単純撮影,超音波断層撮影や放射性同位元素を用いた腫瘍シンチグラムなどがあり,検査に当たっては臨床所見や病変の発生部位を考慮して,適切な検査法を選択する必要がある.単純X線撮影は骨の破壊状態が良く描出されるため,眼窩や副鼻腔,聴覚器官などの骨に囲まれた部位の病変でスクリーニング検査として用いられている.超音波断層法は甲状腺腫瘍などの頸部の軟部組織腫瘤やリンパ節転移の診断に役だつ.X線CTは骨だけではなく腫瘤など軟部組織も良好に描出するため,精査としてよく用いられている.MRIはCTに比べて軟部組織のコントラストが明瞭で病巣がわかりやすく,造影剤を使わなくても頸動脈などの血管が描出されるため,最近では精査として施行される頻度が高まっている1〜4)
 頭頸部のMRIの撮像では,原則としては頭部コイルまたは頸部コイルを使用し,まず横断像のT1強調像とT2強調像を撮像する.必要に応じて冠状断,矢状断の撮像が追加される.また腫瘍や膿瘍などでは病巣の範囲を明らかにするために,造影剤(Gd-DTPA)の静脈内投与が必要となる.眼窩や中耳,耳下腺,頸部などの浅在性の病変の検査においてはより微細な構造を描出するために表面コイルを装着して撮像したほうがよい場合もある.

3)脊椎・脊髄

著者: 大久保敏之 ,   白水一郎 ,   青木茂樹 ,   林直人 ,   阿部修

ページ範囲:P.175 - P.181

はじめに
 脊椎や脊髄の画像診断において,単純X線撮影,CTなどの電離放射線を使用する検査法は,今後飛躍的な進歩は望めない.これに対して,MRIは,装置,撮像法,画像分解能,造影剤などさまざまな点で進歩が著しい.したがって,現在の知見が将来にわたって通用するものかどうかは不確かである.このことは,脊髄や脊髄領域においても当てはまる.本稿では,現時点で日常診療で用いられている技術を中心に述べることにする.

4)胸部

著者: 久保田恒 ,   児玉潤一郎

ページ範囲:P.182 - P.186

検査の進めかた
前処理
 胸部MRI検査のための特別な前処理があるわけではなく,MRI検査に共通する一般的な前処理を行えばよい.

5)心大血管

著者: 佐藤克彦 ,   似鳥俊明 ,   花岡秀人 ,   是永建雄 ,   蜂屋順一

ページ範囲:P.187 - P.190

 心大血管の画像診断において,MRIは必要不可欠なものとなりつつある.心大血管の画像診断は,常に心拍動による動きや血流も変化する点で他臓器の画像診断とは異なるという特徴を有するが,ここではこれらの特徴を持つ心大血管のMRIの検査法と画像診断について最新の情報を加えて解説する.

6)上腹部

著者: 野方容子 ,   荒木力

ページ範囲:P.191 - P.199

検査の進めかた
 腹部MRI検査は一般的に,あらかじめ超音波(US)やX線コンピュータ断層撮影(CT)で病変の検索がなされたうえで補助的に施行されることが多い.したがって検査部位や疾患に合わせた検査法の選択が必要となる.以下に一般的な検査法を述べる.

7)骨盤臓器

著者: 富樫かおり

ページ範囲:P.201 - P.209

検査の進めかた
検査適応,検査時期
 婦人科領域において,MRIは病変の精査,すなわち質的診断という用いかたが基本となる.すなわち,超音波で同定された腫瘤の性状評価や鑑別診断,子宮悪性腫瘍の病期判定,筋腫や腺筋症の鑑別診断または詳細な位置的情報を示すことがMRIの基本的な役割といえる.
 他の検査法と比較したMRIの長所は,①非侵襲的でCTのような被曝がなく,かつ人体に対する生物学的悪影響はない.これは生殖可能年齢女性,良性疾患の頻度の高い婦人科領域の検索法として重要である.②優れた組織コントラストを持ち,液体や軟部組織における組織の差異を信号の差異として示し,特に血液・脂肪の特異的診断を可能とする.この点が超音波,CTと比較した最も大きな利点である.③任意の断面における撮像が可能などである.

8)四肢・関節

著者: 江原茂 ,   佐々木真理

ページ範囲:P.211 - P.216

 MRIは,今日までの長い歴史を持つX線診断に取って代わるものではないが,骨・関節の画像診断を著しく飛躍させた点は大きい.軟部組織や骨髄の病変をとらえるのに鋭敏なMRIは,所見の特異性については今後の検討に待つところが大きいものの,非常に鋭敏な検査であり,単純X線撮影と並んでスクリーニングに適した方法である.

9)乳房

著者: 吉本賢隆

ページ範囲:P.217 - P.221

はじめに
 画像診断の目的は,病巣の検出,病巣の質的診断,病巣の拡がりの診断,に大別される.検査を進めるに当たっては,検査の目的をよく理解して,それぞれの目的に沿った検査法を選択して行わなければならない.何を画像化するのかが曖昧のまま検査に臨むと,決して良い画像が得られず,臨床的に無意味な検査となってしまうことはいうまでもない.
 検査に当たっては,同時に他のいくつかの有力な検査法のあることを忘れてはならない.乳腺疾患に対する画像診断に関しては,マンモグラフィー,超音波,サーモグラフィ,乳管造影,乳管鏡などの画像診断法に加えて,細胞診,組織診などの病理診断法があり,日常診療の中で広く利用されているのである.MRI検査を行うに当たっては,他の検査法との比較の中でMRIの持つ利点と欠点をよく理解し,他の検査法では得られないMRI画像診断に心がけることが重要である.

用語解説

ページ範囲:P.222 - P.223

chemical shift artifact(CSA)(p. 201)
 MRI固有の特性である化学シフトにより出現するアーチファクトである.すなわち,脂肪と脂肪以外の成分の吸収スペクトルが異なるため,脂肪は他の成分に比して空間的に一定のずれを伴って描出される.CSAの強さは磁場強度によって異なり,撮像方向に応じて,脂肪とそれ以外の組織の間に帯状の高信号または低信号部分がみられる.画像の上では脂肪と脂肪以外のものが接する部分において,上下左右どちらかに帯状の低信号あるいは高信号の帯状構造がみられる.脂肪を含む類皮嚢胞腫では,周囲に通常の骨盤臓器や腫瘤とは逆方向のCSAがみられ,また腫瘍内にも,脂肪とそれ以外の組織の界面にCSAがみられ,診断を容易とする.

Ⅲ.熱画像検査法

1.検査の意義

著者: 大橋泰彦

ページ範囲:P.226 - P.228

熱画像検査法とは
 熱画像検査法とは,従来サーモグラフィと称せられていた検査法であり,健康保険において広く臨床応用の認められている検査法である.サーモグラフィとは体表面の温度分布を画像表示する技術であり,これによって得られた画像すなわちサーモグラムが熱画像である.現在では機器の進歩により,高精度の画像が得られるに至っている.サーモグラフィには赤外線検知器による走査型サーモグラフィと液晶を用いての接触型サーモグラフィがあるが,両者いずれも体温生理学の原理に基づいた検査法としては目指すところは同一である.

2.原理・装置

著者: 内田勲

ページ範囲:P.229 - P.234

原理
 熱画像検査法は被写体表面から放射される赤外線を利用する遠隔式熱画像検査法と被写体表面の温度分布を直接測定する接触式熱画像検査法に大別される.

3.検査の実際 検査の進めかた

著者: 永江学 ,   星川久義

ページ範囲:P.237 - P.241

はじめに
 今から約2,000年前に,ヒポクラテスが「身体の一局部が他の部位に比して高温か,あるいは低温を示すとき,その局部に病気が存在する」と述べているように,体温測定と医学との関係は古来より極めて深いものがあるが,皮膚温という,ごく手近にある情報が日常の臨床に利用されるようになってきたのは1960年ごろからである.サーモグラフィとは,物体表面温度の分布状態を図または像として表す方法であり,医学では人体皮膚温や粘膜温を測定することになる.現在サーモグラフィ装置として2種類の装置がある.1つは従来より行われている赤外線サーモグラフィ法と,近年開発された液晶を用いたコンタクトサーモグラフィ法である.後者のコンタクトサーモグラフィ法は主に乳腺疾患に用いられている.
 サーモグラフィ検査の利点として次のようなことが挙げられる.

3.検査の実際 画像の読みかた

著者: 松田隆秀 ,   永江学

ページ範囲:P.241 - P.246

はじめに
 サーモグラムを読影する際に考えなければならないことは,環境などの物理的影響や生理学的要因によって患者の皮膚温は変化するため,同一患者であっても毎回同じ画像が得られるとは限らないことである.特に女性では月経周期により変化が生じるので注意が必要である.基本的には,サーモグラムを読影する際には必ず左右対称の像を記録し,左右対称であるのかそうでないのかにより読影される.

用語解説

ページ範囲:P.246 - P.246

TH(thermographic score)(p. 226)
 腫瘍,特に乳癌において診断の判定基準として決められたサーモグラフィ評点(thermographic score;TH)であり,温度差および温度パターンにより,TH1よりTH5までを定義し,TH1およびTH2を良性,TH4およびTH5を悪性,TH3をボーダーラインと定義している.

Ⅳ.無散瞳カメラによる眼底検査法

1.検査の意義

著者: 清水一之

ページ範囲:P.248 - P.249

 目は,物を見るための臓器であり,光を受容し,物の形や色を識別する働きを持つ眼球と,眼球によって得られた情報を脳に送る視神経,それと結膜や涙器,外眼筋などの眼球付属器より構成されている.眼球は直径約24mmのボールのような形をしており,図のように外からの光は角膜,前房,水晶体,硝子体といった,正常では透明な組織を通って網膜に像を結ぶ.これらの透明な組織を通して眼球の内側を見るのが眼底検査である.眼底検査では視神経の出口である視神経乳頭や網膜の血管,神経線維,網膜下に透けて見える脈絡膜などが観察される.眼底は人体で直接血管を観察できる特殊な部位であり,眼底検査によって高血圧,動脈硬化,糖尿病などの患者において病変の現状や過去の経過をある程度把握することができる.
 また,眼科領域の疾患の中でも緑内障などは成人眼疾患の1つであり,最近の調査では40歳以上人口の3.5%が緑内障であるといわれているが,その早期発見のためにも眼底検査により視神経乳頭の状態を観察することは非常に重要である.

2.原理・装置・取り扱い

著者: 金上貞夫

ページ範囲:P.251 - P.255

眼底カメラの原理
 眼球の最も奥にある網膜を撮影するには,適当な明るさの光が撮影する部分を均等に照明する装置が必要になる.
 眼底を撮影しようとする試みは写真が発明されて間もなく1862年ごろNoyesが行ったとされている.その後いくつかの試みがなされているが,世界的に実用化されたのは1955年西ドイツ(当時)のCarl Zeiss社からエレクトロニック・フラッシュ(ストロボ)を組み込んだ眼底カメラが発売されてからである.このカメラは照明系と撮影系が完全に分離されており,それまでのものと比べて質の良い写真が撮れるようになるとともに,撮影も楽にできるようになった.この光学系は現在の眼底カメラの基礎となっている.

3.検査の実際 検査の進めかた

著者: 金上貞夫

ページ範囲:P.257 - P.262

 無散瞳眼底撮影はその写真によって結果を判定するものである.したがって撮影は正確に行われなくてはならない.写真には目的の部位を拡大して細部がわかるようなシャープなピントと反射などアーチファクトを除くことが要求される.35mmフィルムで撮影するときは,撮影結果がわかるまで数日を要する.失敗したときには再撮影ができないことが多いので,その取り扱いに熟練しなければならない(図1).

3.検査の実際 画像の読みかた

著者: 清水一之

ページ範囲:P.262 - P.268

 これまで,眼底検査の意義や眼球の構造について述べてきたが,以下に実際の眼底写真を供覧し,それぞれの所見につき解説する.まず正常の眼底写真について解説し,その後に集団検診などで遭遇する機会が比較的多いと思われる疾患の眼底写真について解説する.まず,図1に正常眼底写真を示す.中央やや右側にあるのが視神経乳頭である.
 視神経乳頭は黄味を帯びた白色のやや縦長の円盤で,長径が約1.6mmである.網膜の神経線維は視神経乳頭より眼外に出ていく.視神経乳頭の耳側にあるやや黄色で無血管の部分とその周囲を黄斑という.黄斑は眼底の中心であり,外界の物体を注視するときにその像が結ばれる部分であり,視力を担当する部位である.黄斑はその周囲よりも網膜の厚さが薄く,厚さの変わる移行部に黄斑輪状反射がある.

Ⅴ.眼振電図検査法

1.検査の意義

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.270 - P.272

はじめに
 めまい・平衡障害の検査の中で,最も重要なものの1つに眼球運動検査がある.眼球運動の検査,特に,めまいそれ自体の他覚的所見としての眼振,あるいは異常眼球運動の検査は,めまいの病巣局在診断にとって必要不可欠なものである1).したがって,それを肉眼的に観察するだけにとどまらず,どのようにして記録するかが重要である.そのために,眼球運動の記録方法は過去に種々考案され用いられてきた.

2.原理・装置・取り扱い

著者: 深谷卓

ページ範囲:P.273 - P.275

眼振計の原理
 眼球には角膜と網膜の間に電位があり,角膜側が(+)で網膜側が(-)になっている.この電位を角膜-網膜電位(corneo-retinal potential)ないし静止電位(resting potential)と呼ぶ.眼球運動とともにこの電位も変動するので眼球を挟む位置に電極を設置すればこの電位を記録できる.実際に,眼球が10°変化したときで50〜200μVの大きさの電位変動が誘導できるので脳波計ほどの増幅があれば記録できる.また,眼球の偏位角が30〜40°以内では,電位変動と眼球の偏位角の間に直線性もある.
 この眼球の偏位に伴う角膜-網膜電位の変動を増幅,記録したものが眼振図(electronystagmograph)で,増幅・記録する装置を眼振計(electronystagmography;ENG)という.ENG注)は簡便に眼球運動を記録,解析できるので,耳鼻咽喉科,神経眼科,神経内科,小児科,脳神経外科などで用いられている.

3.検査の実際 1)検査の進めかた

著者: 山根雅昭

ページ範囲:P.277 - P.284

前処置
 検査室は照明を消したときに真っ暗になるように遮光カーテンなどで外部の光を遮っておく.また交流コンセントからのハムなど,電気的ノイズが入らない場所を選ぶ.被検者が汗をかくと電極抵抗が変化して記録が不安定になるから空調設備が必要である.
 被検者の状態を十分に把握する.一定時間椅子に座っていられるか,移動に介助が必要か,意識レベルが低下していないか,難聴がないか,視標が追えるだけの視力があるか,失神発作やてんかんなどの既往はないかなどをチェックし対応する.

3.検査の実際 2)症例—画像の読みかたとその病理

著者: 古屋信彦

ページ範囲:P.285 - P.294

はじめに
 電気眼振計(electronystagmograph;ENG)は角膜,網膜間に存在するわずかな電位差を増幅し,目の位置を記録する器械であるが,以下に示すような特徴を持っている.
(1)目の動きを量的に記録できる.

Ⅵ.重心動揺検査法

1.検査の意義

著者: 加我君孝

ページ範囲:P.296 - P.299

はじめに
 身体のバランスは,例えば直立姿勢をとるとき,見かけ上何の問題がないように見えながら,絶えず小刻みの動揺を繰り返しつつ保たれているものである.静的な状態も動的にバランスは保たれている.バランスの維持に関する脳神経のしくみは,随意運動系と不随意運動に分けて考える.随意運動は,決断と実行の能力,すなわち前頭葉を中心とする企画,判断,持続的意志のようなコマンド系と錐体路系である.例えばこのような高次の神経系に障害のあるアルツハイマー病の患者に検査を理解させ,直立姿勢を維持させることは難しい.一方,不随意運動としては,①視性,迷路性,自己受容性の立直り反射(righting reflex),②大脳基底核,小脳,迷路,脊髄よりの筋緊張調節,③小脳の働きによる頭部,四肢,嚢幹の協同運動(coordination)が大切である1)
 身体の動揺を他覚的に計測する方法は19世紀後半より,頭部動揺,重心動揺,嚢幹動揺,抗重力筋活動の記録など,多くの工夫が行われてきたが,コンピュータの発明,普及,ニューロサイエンスの発展などに応じて進歩し,現在では,パーソナルコンピュータを利用した低価格,高性能の検査機器が使用され,身近なものとなっている.

2.原理・装置・取り扱い

著者: 田口喜一郎

ページ範囲:P.301 - P.304

 ヒトが直立したとき身体は常に動いており,傾斜したり転倒しようとするのを戻そうとする力が働いて直立姿勢を可能としている.このような反射は立直り反射と呼ばれ,無意識のうちに姿勢制御を行っている.この動きは一見無秩序にみえるが,一定の解析を施すとある程度の規則性が得られることがある.このような動きは身体の重心の動きと考え,重心動揺と称する.しかし,重心動揺計で得られる値は身体の重心そのものの動きではなく,身体の重心が動くことによって生じる足圧中心の動きであることを銘記しなければならない.

3.検査の実際 1)検査の進めかた

著者: 宮田英雄

ページ範囲:P.305 - P.311

前処置
(1)被験者に検査の内容すなわち,めまいに伴うふらふら(身体動揺)の有無,程度の把握,障害部位の推定をするものであることなどを詳しく説明することが大切である.これは,まず最初に医師が説明しておき,実際に検査する前にもう一度確認すると同時に,きつく痛い検査ではないから安心して検査を受けるようにと話すことが望まれる.
(2)重心動揺計の検査台上に被験者を乗せる前に器械の主電源を入れておく.

3.検査の実際 2)症例—検査データの読みかた

著者: 山田勝士

ページ範囲:P.312 - P.317

はじめに
 1983年に日本平衡神経科学会が定めた重心動揺検査の基凖1)は,本検査を基本検査と精密検査とに分けている.基本検査は,動揺の前後・左右径(できれば面積),動揺の型,動揺の中心,開閉眼差,動揺の定常性の観察を,精密検査は,単位軌跡長,重心動揺実効値,振幅確率密度分布と標準偏差,パワースペクトルを評価の対象としている.施設によっては,このほかに動揺速度,棄却楕円,8方向別ベクトル動揺図などを評価の対象として用いているところもある.どのパラメータも一長一短があり,1つのパラメータが動揺の全体像を反映することが困難なため,このようにいくつかのパラメータが考案されている.われわれの施設では,アニマ社製のグラビコーダーSG1を使用し,総軌跡距離,重心動揺実効値,動揺の型を主なパラメータとし,記録時間は60秒としている.記録は,開眼と閉眼状態で,それぞれ両脚とマン起立で行っている.本稿では,実際の症例の重心動揺図を数例提示し,基本検査である動揺の型と開閉眼差(ロンベルグ率)について述べる.

用語解説

ページ範囲:P.318 - P.318

アーノルド・キアリ奇形(p. 312)
 小脳と下部脳幹が下方に位置し,そのた一部が上部頸椎脊柱管内にある(簡単にいうと,本来頭蓋骨内にある小脳や下部脳幹の一部が,首の骨のほうまで入り込んでいる)脳の奇形である.めまいやふらつき感を起こし,典型的には下眼瞼向きの垂直性眼振を呈する.

話題

「臨床検査技師,衛生検査技師等に関する法律」施行令の一部改正の要点

著者: 下杉彰男

ページ範囲:P.12 - P.12

 平成5年に,「臨床検査技師,衛生検査技師等に関する法律」施行令の一部が改正され,臨床検査技師が行うことができる生理学的検査が大幅に拡大された.
 すなわち,政令第159号(5.4.28)により,熱画像検査,磁気共鳴画像検査,眼底写真検査,毛細血管抵抗検査,経皮的血液ガス分圧検査の5項目が,さらに政令第318号(5.9.29)により,眼振電図検査,重心動揺検査の2項目が新たに追加された.

エコードプラ造影剤

著者: 竹中克

ページ範囲:P.42 - P.42

 心エコー図では,心筋や弁などの構造物は白く,血液の流れている心腔や血管内は黒く描出される.僧帽弁狭窄症例の左房腔内でみられるように,血流うっ滞がある場合には,非常に多数の微小エコーからなり煙のように絶えずゆっくりと血流に乗って渦を巻く境界不明な不定形エコー,すなわちモヤモヤエコーがみられることがある.しかし,このような例外を除いて,心エコー図のみでは,血液の流れている様子はわからない.
 Gramiakらは,心カテーテル検査時に生理食塩水を注入すると心腔内に雲状のエコーがみられることを1969年に報告し,コントラストエコーと命名した.その後の研究により,このコントラストエコーの実体は微小気泡であることが判明した.1970年代には,2本の注射器を三方活栓で連結し,その間を生理食塩水を行き来させ攪拌することにより,微小気泡を作製し,末梢静脈から急速注入し,右心系のコントラストエコーを得た.心腔内の血流が可視化されるということで,コントラストエコー法は,三尖弁逆流や短絡疾患の診断に盛んに応用されたが,1980年代にカラードプラが発明され,注射なしで心腔内の血流の可視化が達成され,本法は急速にすたれていった.これと交代するように注目されてきたのが,大動脈あるいは冠動脈内注入による左室の心筋コントラストエコーである.例えば,梗塞により死亡した心筋はコントラストにより染影されないが,正常の心筋は染影される.

DR(デジタルラジオグラフィー)

著者: 松迫正樹

ページ範囲:P.122 - P.122

1.デジタル信号とは
 アナログ信号では,数値は連続的に変化する.これに対してデジタル信号では,数値は離散的であり,変数値,関数値とともにn進数で量子化した数値列である.

シンチグラム

著者: 大嶽逹

ページ範囲:P.128 - P.128

 シンチグラムとは,放射線同位元素を用いた画像診断検査である.放射性同位元素とは,自然界の安定元素と原子番号が同じだが質量の異なる同位原素のうち,α線,β線またはγ線の放射線を放出して壊変する同位元素をさす.α線はヘリウム原子核,β線は電子線であり,放射線同位元素を人体内に投与しても人体内で吸収され,被曝するのみで体外に出ず,これを用いて画像検査を行えないが,γ線はX線と同じ電磁波であり,体外に出てこれから画像を作ることが可能である.
 γ線のみ放出する放射性同位元素のうち,比較的半減期の短い99mTc,201Tl,67Ga,111In,123Iなどの化合物が一般にシンチグラム検査に用いられている.これらの放射性化合物は,人体内に投与することで,種々の臓器にその機能を反映して集積し,また腫瘍に集積するが,そこから放出されるγ線を画像化するのはガンマカメラである.

IVR

著者: 河内伸夫

ページ範囲:P.132 - P.132

 interventional radiologyは,略してIVRやインターヴェンションと呼ばれるのが普通で,日本では放射線科以外にはまだあまり浸透していない.文献的にこの言葉が登場したのは1967年が最初で,経皮的(切開することなしに針や管を皮膚から直接刺すアプローチのしかたをいう)かつX線透視下に行う治療的手技を総称してIVRと呼んだのである.中国では介入的放射線医学と訳されているが,日本語になりにくい言葉で,“放射線診断学の治療的応用”などと意訳する人もいる.
 IVRを理解する良い例はPTA(経皮的血管形成術)である,バイパス手術,特に腸骨動脈や心冠状動脈のバイパスは侵襲が高い.PTAは通常の血管造影と同様の方法で動脈内に挿入されたバルーンカテーテルを膨らませて狭窄部を拡張させる手技で,手術と比較すれば圧倒的に侵襲が低い.この切らずに治すというのがIVRの神髄である.

MRA(MRアンギオグラフィー)

著者: 藤本肇

ページ範囲:P.146 - P.146

 MRAとは,磁気共鳴(magnetic resonance;MR)を利用して人体に無侵襲に血管内を流れる血流を画像化する手法である.
 アンギオグラフィーは,血管撮影とも呼ばれ,もともとはX線撮影装置を用いて血管の内腔を可視化する撮影法である.このためには,血管を直接穿刺(通常は大腿動脈を穿刺する)し,細い管(カテーテル)を目的とする血管にまで挿入したうえで,水溶性ヨード造影剤を注入しながら連続的にX線写真を撮る必要がある.この検査は,種々のX線検査の中でも最も侵襲の多い検査の1つであり,通常は入院を要する.X線の被曝の問題のほかに,カテーテルの操作に伴う血管の損傷,造影剤によるアレルギー反応(重篤な場合は生命にかかわることがある)など,さまざまな合併症を考慮しながら実施しなければならない.しかしながら,ある種の疾患(例えば脳動脈瘤)の診断のためには,アンギオグラフィーは不可欠である.

MRIの造影剤

著者: 吉川宏起

ページ範囲:P.154 - P.155

 MRIの造影剤には陽性造影剤と陰性造影剤がある(表).X線検査での造影剤と同様に画像上で高輝度になるものを陽性,低輝度になるものを陰性造影剤と呼んでいる.MRIにおける造影剤とX線検査で用いられる造影剤との大きな相違は,後者が造影剤自身が直接に画像の輝度に影響を与えているのに対し,後者は周囲のプロトンの緩和現象を活性化して,間接的に画像の輝度を上昇させたり低下させたりしていることである.
 使用する撮像法は陽性造影剤ではT1強調法を,陰性造影剤ではT2強調法あるいはプロトン密度強調法を使用する.

MRI検査—検査技師の立場から

著者: 佐藤正

ページ範囲:P.156 - P.156

 画像診断装置検査を受けるとき,それぞれ注意しなくてはいけない事項がある.なかでもMRI検査での磁性体に対しての監視は,患者の安全や良い画像を得るために厳重なチェックが必要である.しかし実際に困るのは,取れない義歯・指輪・ペッツ・人工骨頭などがあるとき,検査を行ってよいか聞かれることである.当院ではどうしても検査の必要性があり,医師が立ち合ってもらえるとき,原則として行っている.検査をスムーズに行うには一連のルールをしっかりと取り決め,文章化しておくことが大切である.
 検査において,どの装置にもいえることだが,“早く”,“安全”,“正確”に検査を行うことが,受ける側に“安心”,“質の高さ”を提供することになる.

MRS(MRスペクトロスコピー)

著者: 可知謙治

ページ範囲:P.166 - P.166

 MRSは体内の化学物質の量を非侵襲的に測定する手法である.1970年代初頭まではMRSは有機化合物の構造を明らかにするのに用いられており,化学者にとって非常に強力な物質分析の手法であった.MRIとMRSの原理は基本的に共通だが,両者の間には技術的な違いが多く存在する.MRIが人体の構造を画像化するのに対し,MRSは組織中の代謝物質の量を測定することが両者の大きな相違点である.
 MR信号の周波数は磁気回転比と原子核の置かれた磁場強度によって決定される.磁場の強度は外界の静磁場に大きく依存しているが,そればかりでなく近傍の原子が有する電子によっても影響を受ける.このような電子間の相互作用が磁場を変化させ,化学シフトを起こさせる.同一の原子であっても化学的に異なれば,共鳴周波数も若干異なり,したがって,異なったMRピークを作る.化学シフトは静磁場の強度に比例して大きくなるため,周波数の差を基準物質の周波数で割った値を用いるのが慣例となっている.水素原子核ではテトラメチルシラン〔TMS:Si(CH3)4〕のメチル基(CH3)),リンでは無機リンが基準物質として選ばれている.水と脂肪のエチル基の周波数の差を基準物質であるTMSの周波数で割った値は,3.45×10-6となる.したがって,これを100万分の1の単位ppmで表すと,水に対する脂肪のエチル基の化学シフトは3.45ppmということになる.

CTの造影剤

著者: 小久保宇

ページ範囲:P.181 - P.181

 X線CTは通常のX線写真に比べてコントラスト分解能が極めて良く,X線撮影では不可能であった軟部組織相互間のX線吸収度の違いを描出することができるという特長がある.それでも目的とする組織と周囲組織との間のコントラストをより強調して,診断を助けるべく造影剤が用いられる.造影剤には投与された組織の吸収度をより高くしてコントラストをつける陽性造影剤と,逆にX線吸収度を周囲より下げることによってコントラストをつける陰性造影剤とがある.
 最もしばしば用いられるものは水溶性有機ヨード化合物である.陽性造影剤であり,単に造影剤というと,これを指していることが多い.排泄性尿路造影や血管造影に使用されるのと同じものである.最近では低浸透圧の非イオン性造影剤が広く用いられており,悪心,嘔吐,熱感などの副作用が減少した.静脈内に投与された造影剤は,肺循環を経由した後に大動脈内に入り,血液の流れとともに全身に分布する.血液・脳関門があって造影剤の移行の妨げられる中枢神経系を除くと,毛細血管に達した造影剤は速やかに血管外の間質腔に移行し,血管内の濃度と平衡に達する.造影剤は細胞内には入らない.いったん平衡に達した後は,血管内の造影剤が腎から排泄されるに伴って,間質腔から血管内に緩やかに移行する.

X線CTとMRIの違い

著者: 岡田吉隆

ページ範囲:P.200 - P.200

 MRIは人体内部の構造を断面像として描出する検査法であるが,同じように断層画像を得る方法として従来からX線CTがある.両者の画像は一見似ている場合もあるが,次のような違いがあって,それぞれ特長を生かして利用されている.

光CT

著者: 金井寛

ページ範囲:P.210 - P.210

 超音波,X線,MRI(NMR),RIなどを利用した各種の生体断面像測定装置(CT)が開発され,医療の近代化に著しい貢献をしてきた.これらの各装置は,それぞれ特長があり目的に応じて使用され,お互いに相補い合って臨床診断などに必要な高度な情報を提供している.
 これらの装置はもちろん生体断面の組織や臓器の形状を測定できるが,MRIやSPECT,PETなどのように生体組織の機能を画像化できるものもある.近年さらにいろいろな機能的な画像が要望されている.電解液分布,血流分布,組織酸素飽和度分布,温度分布などの画像が得られれば臨床診断や医学研究に極めて有用であろう.

超高速CT

著者: 天羽健

ページ範囲:P.234 - P.235

 超高速CT(ultra fast CT;UFCT)はelectron beam scan(電子線走査)方式のX線CT装置を指す.アメリカIMATRON社製の装置のみが製品化されており,現在国内では10台程度が稼動している.
 現在主流となっているその他のX線CT装置はX線管そのものがガントリーの周囲(=被検査体の周囲)を機械的に駆動する駆動方式のもので,装置の性能の進歩とともに駆動時間の高速化が図られてきた.しかしこの限界は1周当たり1秒とされ,いわゆるスリップリング方式の装置(X線管の連続回転ができるもので,ヘリカルCT,スパイラルCT,らせんCTと呼ばれている)ではこの時間がすでに達成されている.

臨床生理検査—教える立場から

著者: 清水加代子

ページ範囲:P.249 - P.249

 臨床検査・衛生検査技師等に関する法律施行令の一部改正により,生理学的検査の幅が拡大した.
 超音波やMRIなどの画像検査は,生体情報を直感的に把握することができ,検査技師にとってやり甲斐のある仕事である.これらの検査は,体表に超音波や磁気などの物理エネルギーを加えて体内を伝搬してきたエネルギーを測定し,生体の物性を推測するものである.また,無侵襲検査であり痛みを伴わないため患者さんに優しい検査でもある.

PET(ポジトロンCT)

著者: 岡田淳一

ページ範囲:P.250 - P.250

 陽電子(ポジトロン)は+に荷電した電子であり,陽電子放出核種の崩壊によって放出される.その後,陽電子は物質中の電子と衝突して消滅し,180°反対方向に511keVの2本の放射線(ガンマ線)を放出する.その放射線を検出し,陽電子放出核種の体内分布をイメージ化する装置がPET(positron emission tomography,略称ペット)である.X線CTと似た外観であり,人体の横断像を描出する.この装置は以下の特徴を有する.

SPECT

著者: 岡田淳一

ページ範囲:P.255 - P.255

 SPECT(single photon emission computed tomography,略称スペクト)は,放射性同位元素を利用する核医学検査の中の1つの検査方法である.本誌で前述したPETと異なり,ポジトロン放出核種ではない99mTc,123I,201Tlといった通常の放射性医薬品(RI)を対象に検査が行われる.脳,心臓,癌,骨,甲状腺など,検査の対象となる臓器や病気によって用いるRIが決定される.そのRIを患者に投与(通常は静脈内注入)すると,その特性によつて患者の体内にRIが分布する.RIはガンマ線(電磁波の1つでX線と似たもの)を放出しているので,ガンマ線を検出するカメラ(ガンマカメラ)で体外から撮影すれば,RIが患者体内のどこにどれだけ存在しているかを画像化することができる.通常はガンマカメラを体表に近づけて撮影し,平面像を得る.しかし脳や心臓ではより詳しく見るために,X線CTのような横断画像が必要となる.そこでガンマカメラを回転させたりして,いろいろな方向からデータを得,コンピュータで断層像を計算させるのがSPECTである.図は左側頭葉の脳梗塞患者のSPECT像である.123I-IMPというRIを静脈投与してSPECT装置で撮影すると,この画像が得られる.脳血流を表す脳の横断像である.左側頭葉の血流が低下していることが表されている.
 SPECTの特徴を以下に挙げる.

超音波顕微鏡

著者: 西條芳文 ,   田中元直

ページ範囲:P.256 - P.256

 超音波顕微鏡の歴史は1972年Kesslerらにより開発されたレーザー走査型超音波顕微鏡,1973年Quateらによって開発された機械走査型超音波顕微鏡から始まり,今日では科学計測のさまざまな分野に応用されるに至っている.
 筆者らのグループでは医学・生物学分野への応用を目的として,1985年より超音波顕微鏡を開発実用化し,各種組織の音響特性を計測してきた.医学・生物学分野における超音波顕微鏡の優位な点は,①手術中の迅速標本を無染色で観察することが可能である,②光学顕微鏡では観察できない組織の物理的変化が計測可能である,③臨床超音波診断の基礎的データの収集が可能である,という3点と考えられる.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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