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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術23巻7号

1995年06月発行

雑誌目次

病気のはなし

胃潰瘍

著者: 鈴木保永 ,   菅家一成 ,   渡辺喜人 ,   渡辺秀考 ,   斎藤正弘 ,   上野尚之 ,   高橋和彦 ,   石田基雄 ,   平石秀幸 ,   寺野彰

ページ範囲:P.466 - P.472

新しい知見
 最近,胃粘膜にHelicobacter pylori(H.pylori)のという細菌が棲息することが見いだされて以来,胃炎,消化性潰瘍,胃癌などとの関連が明らかにされつつある.臨床的には強力な酸分泌抑制剤であるプロトンポンプ阻害剤の登場,また基礎的には細胞増殖因子,抗酸化防御機構などの研究が進み,成因論,治療戦略などが大きな転換期を迎えようとしている.さらに,再発のないより質の高い潰瘍治癒を目指し,さらに研究が進められている.

技術講座 免疫

抗ミトコンドリア抗体の測定

著者: 清水秀剛 ,   北見啓之 ,   石井秀夫 ,   佐藤信紘

ページ範囲:P.473 - P.479

新しい知見
 抗ミトコンドリア抗体(AMA)は原発性胆汁性肝硬変(PBC)で高頻度に出現するが,梅毒,薬剤性ループスや自己免疫性肝炎でも認められ,抗リボソーム抗体や抗RNP抗体などの存在により判定が困難となる.近年,PBCに特異的なAMAの主要な対応抗原が,ミトコンドリア内膜M2分画のうちのピルビン酸脱水素酵素(PDH)E2 componentであることが同定され,PDH-E2を抗原としたELISA法によるIgG型抗体の測定がPBCの診断に用いられている.

生理

MRI画像の読みかた[4]骨盤・四肢関節

著者: 松尾みかる ,   是永建雄

ページ範囲:P.481 - P.485

新しい知見
 最近の骨関節領域におけるMRIの話題の1つに関節軟骨の描出,評価の研究1)がある.
 われわれの施設でも関節鏡の所見と対比し,その有用性の検討を行っている.その結果,関節軟骨は3-dimentional SPGR法あるいはFLASH法に脂肪抑制をかけると,高-低-高信号を呈する3層構造の帯として認められ(図1-a),びらんがあると欠損像として認識河能であることがわかった(図1-b).

マスターしよう検査技術

パラフィン切片でのDNA量測定

著者: 槇政彦

ページ範囲:P.503 - P.509

はじめに
 核DNA量の測定にはフローサイトメーターによる測定法が知られているが,この手法はパラフィン切片に適用する場合,単離細胞浮遊液を得るのに煩雑な手順が必要となる.また,骨軟部の組織などでは,その組織の性格上,単離細胞浮遊液を得ることは非常に困難である.本稿では,CAS 200 IMAGE ANALYZERを用いた,より簡便なパラフィン切片でのDNA量測定の手法を紹介したい.われわれは同手法を用い,骨軟部の腫瘍類似疾患のDNA量測定を簡便に行い得た.同手法は前処理としてDNA染色が必要となるが,今回はこれに的を絞って解説する.
 本稿を読まれて,不明な点はわれわれの病院に問い合わせるなり,(株)エムアンドエムに問い合わせるなり,おわりに引用した文献を調べるなりして理解してほしい.

画像でみる生体情報・6

整形外科領域での画像診断—神経・筋疾患を中心に

著者: 本村喜代二

ページ範囲:P.495 - P.499

はじめに
 筋肉や神経,関節の画像を理解解析するには,解剖学的知識がしっかりとしていなければできないことは当然である.画像診断とは,健康な人間の解剖を基準として,その変異度からパターン認識を行うものである.したがって,統計学的な数値評価は行えないにしても,基本的には,正常パターンからの偏位を認識するという点では同一である.解剖は2次元ではなく,3次元であることを念頭に,常に解剖書をひもとく学究欲がなければ,患者が提供してくれた画像は,単なる2次元写真という産物にすぎなくなる.
 また,画像診断はあくまでも補助診断の1つであるということも,銘記しなければならない.臨床症状と画像診断が一致している場合は問題ないが,一致しない場合は常に画像診断を優先することなく,患者の臨床症状をもう一度再確認して,症状の見落としがないか再検討すべきである.決して,患者の臨床症状を画像診断に合わせようとしてはならない.

生体のメカニズム 体液調節機構・6

カリウム代謝調節機構

著者: 鈴木誠

ページ範囲:P.487 - P.489

カリウムのバランス
 カリウムは生体内で最も多い陽イオンである.50mEq/kg,約3,500mEq存在する.その98〜99%は細胞内にあり,濃度は125mEq/l,1〜2%が細胞外で,われわれが測定している濃度3.5〜45mEq/lに当たる.この細胞外のカリウムの濃度は,厳密に設定されており,それは,細胞内と細胞外の濃度差を作っているNa/KATPaseによるのである.
 細胞外のカリウム濃度を維持する目的は,筋肉や神経のような興奮性膜の維持である.細胞内外のカリウム濃度差によって,静止膜電位が維持されている.高カリウムとなると静止膜電位は脱分極に傾き,興奮性が増し,やがては心の不整脈を起こして死に至る.また低カリウムになると興奮性が低下し,麻痺が起こり,やはり不整脈を起こして死に至るのである.この病態に関しては,別章を参考にされたい.

検査データを考える

ホルター心電図にみる心筋虚血発作心電図

著者: 鈴木喜之

ページ範囲:P.490 - P.494

はじめに
 ホルター心電図は,虚血性心疾患の診断に必須の検査となっている.しかしその診断的価値は記録状態,記録器および解析器の精度,解析者の診断能力などにより大きく左右される.
 本稿ではこれらの問題点について概説する.

わかりやすい学会スライドの作りかた

手持ちの道具を用いたスライド作製[5]パワーグラフ

著者: 金沢嘉文

ページ範囲:P.510 - P.512

 今回は,パワーグラフ((株)アシスト社より発売,MS-DOS版グラフ作成ソフト)を用いて日常よく行われる同時再現性,活性値の比例性およびアンケートの集計を例にして示す.
 わかりやすいスライド作製のポイントは,得られたデータをうまく加工し,どうプレゼンテーションできるかである.そのためには,一般的にデータをグラフ化して表すことが多い.

検査ファイル

プロリルヒドロキシラーゼ

著者: 大久保昭行

ページ範囲:P.513 - P.513

[1]系統名
 prolyl-glycyl-peptidase,2-oxoglutarate:oxygen oxidoreductase(EC 1.14.11.2).
 本酵素はペプチジルプロリンの水酸化と,2-オキソグルタル酸の脱炭酸の両反応を触媒するmixed function oxygenaseである.

ラテックス凝集法による血中ミオグロビンの測定法

著者: 関根盛

ページ範囲:P.514 - P.514

 ミオグロビン(Mb)は骨格筋,心筋内での酸素の運搬を行うヘム蛋白で,ヘモグロビンと同様に酸素を可逆的に結合する酸素の貯蔵体である.Mbは153個のアミノ酸からなる分子量17.2kDaの単量体の比較的低分子の蛋白質である.Mbは筋組織細胞の崩壊,炎症などで細胞膜の透過性が亢進しているときには細胞外に逸脱し血中に流出し,さらに尿中にも排泄される.そのため,血中や尿中のMbの測定は筋疾患や心筋疾患の診断,病態把握,予後の判定などにその有用性が認められてきた.特に急性心筋梗塞においては,クレアチニンキナーゼ(CK)やCK-MBアイソザイムなどの他の心筋梗塞マーカーよりも先行して血中にMbが流出するため,急性心筋梗塞の早期診断や経過観察に有効なマーカーとして知られている.
 最近,急性心筋梗塞に線溶療法や経皮的冠動脈形成術(PTCA)などの再疎通療法が積極的に行われ,大きな成果を上げている.さらに,組織プラスミノゲンアクチベーター(tissue plasminogen activator;tPA)やプロウロキナーゼ(pro-urokinase;pro-UK)などの新しい薬剤の開発により,血栓溶解剤の全身投与が今後の再疎通療法の中心になる可能性も考えられる.再疎通療法の目的はサルベージであるが,発症6時間以内のいわゆるgolden timeを過ぎると,再疎通してもその効果は極めて小さい.

日常の病理業務におけるカラーコピー

著者: 宇於崎宏

ページ範囲:P.515 - P.515

 病理検査において手術摘出標本などを“コピー”しておくことがよく行われているが,最近ではカラーコピーを使う施設が増えている.

遺伝子治療用ベクター

著者: 池田浩司 ,   吉田純

ページ範囲:P.516 - P.517

 近年,先天性遺伝性疾患および癌といったこれまで極めて治療困難であった病気に対して,米国を筆頭に遺伝子治療の試みがなされてきている.この方法では,いかに効率よく安全に目的の遺伝子を標的細胞に組み込むかがその効果を左右するといっていい(図参照).そして,その目的の遺伝子を運ぶ役割を担っているのがベクターであり,これまで幾つか開発されてきている.そのベクターの種類および特徴については,表に掲げたとおりである.
 このうち,レトロウイルスベクターとは,成人T細胞性白血病ウイルスに代表されるレトロウイルスを改良したものであり,分裂細胞に感染すると,それ自身の持つ逆転写酵素によって自身の遺伝子を細胞の染色体中に組み込むことができるため,持続的な遺伝子発現が可能である.また,安全性においても今のところ,他のウイルスベクターと比較して勝っており,現在遺伝子治療用ベクターの中では主流を占めている.しかしその欠点として,非増殖細胞への遺伝子導入が不可能なことや,遺伝子の発現効率が低いことなどが挙げられ,その欠点を補うため,他のウイルスベクターの開発が進められている.

ラボクイズ

問題:寄生虫症

ページ範囲:P.500 - P.500

5月号の解答と解説

ページ範囲:P.501 - P.501

明日の検査技師に望む

自立意識を持とう

著者: 杉田収

ページ範囲:P.480 - P.480

 自立するとは,①物理的自立(自分の足で立つこと),②経済的自立,③精神的自立,④教育的自立,⑤研究的自立,⑥社会的自立であろうと考える.この6種の自立のバランスが適当であれば,意義ある生きかたができるものと思われる.しかしだれもが物理的に自分の2本足で立てないときがくる.“物理的自立”1つが損なわれても,大変な事態になることは容易に想像される.そのときは主に“精神的自立”に頼っていかざるを得なくなるはずである.そのときのために,精神的な側面で自分には何が必要なのか,考えていなければならないと思う.
 昨今のいじめ問題は,教育的自立と社会的自立の欠乏によるものである.人の親であれば,必要な時期に,必要な時間を子供の教育にかけなければならない.それは親としての意識的な教育であって,他の者には代えられない.また子供は親だけでは育てられるものではない.隣のおばちゃんをはじめとする大勢の,先に生まれた大人が,意識的に育てなければならないのである.これは社会的自立(あるいは社会的実践)意識によって行われる行為である.

けんさアラカルト

アルコールと検査値—アルコール依存症の臨床検査による診断と治療への応用

著者: 鈴木康夫

ページ範囲:P.486 - P.486

 アルコール依存症を専門とする医師として,18年が過ぎた.アルコール依存症専門病院の院長を3年半務めていたが,患者の治療を“外来”で行うことをモットーにしてきた.入院させることは容易だが,退院すればまた飲酒して同じこと,それよりも「酒のある所で酒を飲まない」「酒さえ止めればいいのではない」と2,000人以上の患者やその数倍の家族に繰り返してきた.われわれのアルコール依存症の外来治療は3つの約束を基本にしている.①3か月間の断酒と外来通院(1週間に1回),②3か月間の毎朝シアナマイド(抗酒剤)を家族の前で服用すること,③毎週1回断酒会へ出席すること,そしてこの約束を1つでも守れなかったら入院とするという方法である.1か月30人ぐらいの新患があったが,大体半分の人は外来治療で成功し,3か月の通院を終えてからも,断酒が続いていた.この治療方法は入院治療に比べたら経済的であり,また患者の心理の変化を家族もリアルタイムに感じることができ,またそれに応じて家族も変化するという“良循環”が成立するのである.
 でも,私や家族に隠れて飲酒した患者もあって,しかもシアナマイドを上手に水にすり替えていたから,酒を飲んでも何の反応も出現しないこともあった.私の診察室では,患者は私の正面に座り話をしてもらう.これは普通45°〜90°に座る精神科の診察とはちょっと異なる.なぜ正面がいいかというと,酒臭がすぐにわかるからである.

トピックス

動脈硬化とサイトカイン/学校検尿で見つかる良性の一過性円柱

著者: 齋藤康 ,   金子治司

ページ範囲:P.518 - P.520

はじめに
 動脈硬化の成り立ちには多くの因子が関与しており,そのプロセスも複雑であり,必ずしもその機序の全貌が明らかにされているわけではない.その中で動脈硬化巣にはいくつかの細胞が出現してきて,それが互いに作用し合って病巣を作っていくことが明らかにされてきた.例えば“response to injury”説1)にみられるように,内皮細胞の障害はそこに血小板を凝集させ,さらにみずからは平滑筋細胞を呼び寄せ,その平滑筋細胞は遊走や増殖にオートクライン(autocrine)を示し,さらに内皮細胞は単球を呼び寄せ,接着をさせ,これにはマクロファージの働きも示されるのである.このようないわゆる細胞間相互作用というべき働きをつかさどっているものにサイトカインがある.すなわち細胞と細胞との間のメディエーターである.これには極めて多くのものが挙げられているが,主なものについて述べたい.

腎移植とHLA-DNAタイピング

著者: 橋本光男 ,   市川靖二

ページ範囲:P.521 - P.522

■HLA適合度と腎移植成績
 わが国の腎移植は,1964年から1991年までの27年間に8,384例の移植が施行され,そのうち,2,230例が死体腎移植で全体の27%弱である1).特に死体腎移植は,善意の死体腎提供に報いるためにも拒絶反応ができるだけ少なく移植予後の良好な受者を選択しなければならない.HLA適合検査(HLAタイピング)はこの受者選択の最も重要な基準の1つである.
 1980年代に入って,腎移植受者と提供者の間でHLAクラスⅠ抗原が適合しているよりもクラスⅡ抗原であるDR抗原を合わせるほうが重要であり移植成績が良いことが報告された2).われわれの施設でも抗原抗体反応を利用した血清学的方法によるHLAタイピングを行い,DR抗原適合度で受者を選択してきた.しかし,DR抗原適合症例といえども必ずしも良好な移植予後を示すとは限らず,その臨床的意義についても疑問視されているのが現状である.

けんさ質問箱

Q 尿沈渣

著者: 藤利夫 ,  

ページ範囲:P.523 - P.524

 尿沈渣中の深層型移行上皮細胞と円柱上皮細胞の鑑別のポイントを教えてください.

Q 精神科領域の生化学

著者: 井上雅之 ,   天野直二 ,  

ページ範囲:P.525 - P.526

 精神科領域の生化学についてご教示ください.また,コリンアセチルトランスフェラーゼについての臨床的意義を教えてください.

今月の表紙

唾液腺良性腫瘍の細胞診

著者: 荒井祐司 ,   都竹正文 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.472 - P.472

 ヒトの唾液腺は大唾液腺と小唾液腺に大別される.前者には耳下腺,顎下腺および舌下腺が属し,後者には舌,口唇,口蓋,口腔底などの口腔内に存在する小型の分泌腺が属している.成人の耳下腺は漿液腺の単一腺である.また,顎下腺および舌下腺は漿液腺と粘液腺の混合腺で,顎下腺は漿液細胞(約80%)が多く,舌下腺は粘液細胞(約60%)を主体としている.小唾液腺では口蓋および舌底腺のみが粘液腺の単一腺でほかは混合腺である.組織学的に腺房細胞の周囲および導管上皮とその基底膜の間には分泌の調整を行うと考えられている筋上皮細胞が存在するが,その分布は導管では介在部導管に最も多く,線条部導管になるに従って減少している.この筋上皮細胞は唾液腺腫瘍の発生を考えるうえで極めて重要である.唾液腺腫瘍の多くは耳下腺から発生し,次いで口腔小唾液腺,顎下腺の順で発生しやすい.舌下腺原発の腫瘍の頻度は極めて低い.唾液腺腫瘍は上皮性由来の良性・低悪性・悪性腫瘍,非上皮性由来の良性・悪性腫瘍に分類される.成人耳下腺の良性・低悪性・悪性腫瘍の発生頻度は,良性腫瘍では多形腺腫が約70%を占めており,次に腺リンパ腫,単一型腺腫の順である.好酸(性)腺腫は1%未満と少なくまれな腫瘍である.低悪性・悪性腫瘍では,粘表皮癌,未分化癌,多形腺腫由来癌が多く,次に腺様嚢胞癌,扁平上皮癌の順で,腺癌,腺房細胞癌は約1〜2%である.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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