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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術24巻10号

1996年09月発行

雑誌目次

病気のはなし

習慣流産と免疫

著者: 青木耕治

ページ範囲:P.788 - P.795

新しい知見
 3回以上連続して流産を繰り返す習慣流産は100人の妊婦のうち約1人の割合で発生しているにもかかわらず,その多くが原因不明である1).近年の生殖免疫学の発展により,新たに自己免疫異常(自己抗体の1つとしての抗リン脂質抗体産生)と同種免疫異常(免疫制御反応不全)によると考えられる習慣流産の存在が明らかにされつつある.免疫学的には胎児胎盤系は母体にとって自己移植片であり,同時に同種移植片でもあるからである.

技術講座 血液

線溶による分解産物(FDP,FgDP,Dダイマー)の測定

著者: 腰原公人 ,   福武勝幸

ページ範囲:P.797 - P.803

新しい知見
 高齢化社会,そして豊かな食生活の時代を迎え,血栓症の占める社会への影響は年々増大している.血栓症はいったん不可逆的変化をきたすと,治療の反応性は極度に低下する.無理な溶解を試みると,出血を招くことにもなる.線溶療法も従来のウロキナーゼに加え,より特異性の高い組織プラスミノゲンアクチベーター,プラスミノゲンプロアクチベーターなどが使われ始めている.いかに早く適切な診断をするかが,いっそう求められる時代であろう.

免疫

γ-セミノプロテイン

著者: 野口正典 ,   野田進士

ページ範囲:P.805 - P.808

新しい知見
 γ-セミノプロテインは,前立腺特異抗原(prostate-specific antigen;PSA)と同様に,前立腺癌の腫瘍マーカーとして前立腺癌の診断ならびに治療効果のモニターとしてなくてはならない検査となっている.最近,これらの前立腺癌の腫瘍マーカーは,より精度を向上させるために年齢層別の正常値の設定,年次変化率,血中で結合型あるいは非結合型で存在しているのかどうかなどの詳細な検討が加えられ,単独で前立腺癌のスクリーニングに応用できるかどうかの検討が開始されている.

微生物

梅毒の検査

著者: 望月照次 ,   中村良子

ページ範囲:P.809 - P.818

新しい知見
 抗梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum;TP)抗体の検出は,赤血球を担体とした方法から,人工担体(粒子)を用いる受身凝集反応に変遷しつつある.その理由は,人工担体自身に抗原性がなく,非特異反応の発生を回避できることにある.また,ラテックス凝集反応を利用した自動分析法やEIA法も普及し,多量検体の処理や客観的判定が可能となった.しかし,方法間での結果の互換性に問題があり,今後の課題となっている.

病理

肝生検の病理組織学的検索法

著者: 志賀淳治 ,   會田浄

ページ範囲:P.819 - P.824

新しい知見
 肝生検診断における最近のトピックスは,慢性肝炎の診断における基本的な変更であり,それにより慢性肝炎を線維化によるstageと,炎症の程度(grade,activity)を分けて診断記載することになった.また,原因肝炎ウイルスの検索は従来血液検査を主体にしてきたが,病理検体標本から探るという試みも行われるようになった.

生理

肝細胞癌の画像の読みかた

著者: 蒲田敏文

ページ範囲:P.825 - P.829

新しい知見
 最近のヘリカルCTやMRIでは,1回の息止めで全肝を高速に撮像できる.造影剤を急速に静注して行うダイナミックCTやダイナミックMRIにより,小さな多血性の肝癌の検出能が飛躍的に向上してきている.また,MRIの信号強度やCTアンギオグラフィーによる腫瘍の血流の評価により,腫瘍の悪性度の判定まで可能になってきている.

管理

医療機器の安全性とヒューマンエラー

著者: 酒井順哉

ページ範囲:P.831 - P.836

新しい知見
 医療機器の設計には,フェールセーフ(fail safe)とフールプルーフ(fool proof)の考えかたが基本となっている.
 人間工学から考えた医療機器の事故・故障の発生因子には,医療機器の操作や使用上の知識・経験不足,勘違い・錯誤・憶測,経験過信からの作業手順の省略・手抜きなど人為的因子だけでなく,事故・故障が誘発しやすい危険な医療機器・設備の環境因子,次に医療現場における管理者の指導・指示の不徹底や,作業当事者の安全意識の欠如など管理的因子が考えられる.
 これら3つの因子に対処できる具体的な方策が医療現場で確立されたとき,安全な診療・治療が確保できる

マスターしよう検査技術

眼振図検査の進めかた

著者: 真野秀二郎

ページ範囲:P.837 - P.845

 平衡機能検査には,直立起立検査(重心動揺),足踏検査,歩行検査など身体の平衡そのものをみる検査と,内耳や眼球運動に関する中枢神経の障害による眼振または眼球運動の異常をみる検査がある.この異常眼球運動や眼振を眼球周囲に接着した電極によって導出記録したものが眼振図(electronystagmograph;ENG)である.このENGは,眼球の角膜-網膜の間に存在する直流電位の変化を記録しているため,回旋性眼振や角膜-網膜の電位のない人では記録できない.しかし,閉眼や暗所開眼でも記録できる利点もある.さらにENGでは,眼振や異常眼球運動の性質,振幅,速度,頻度,持続時間などが測定でき,各種の刺激検査における判定にも利用されている.
 ENG検査を行う場合,被検者にとって,注視眼振や視標追跡検査(eye traking test;ETT)などの負荷の軽い検査から始めて,温度眼振検査などの負荷の強い検査を最後に行うほうがよい.各施設により機器の違いがあるため,ここでは一般に行われているENG検査の進めかたについて述べる.

生体のメカニズム 凝固・線溶系・5

先天性血栓傾向とその診断

著者: 森下英理子

ページ範囲:P.851 - P.854

はじめに
 血栓性疾患全体に占める先天性血栓性素因の発現頻度は30%以上に及ぶといわれる.経験上40歳代以前に静脈血栓症を発症したり,再発性であったり,家族性に血栓症の発現がみられる場合には,先天性血栓性素因があることを予想して検査する必要がある.
 図1に示すようなアンチトロンビンⅢ(ATⅢ),プロテインC(PC),プロテインS(PS)などの血液凝固制御機構を支える因子に先天的な異常がみられると,血栓傾向を生ずることが明らかとなっている.表に,今までに報告されている先天性血栓性素因を示した.近年,これらの先天性血栓性素因に関連した因子の遺伝子レベルでの解析が相次いで報告されている.

検査データを考える

組織標本内のPAS陽性物質

著者: 宮田浩 ,   河野一郎

ページ範囲:P.855 - P.859

はじめに
 PAS反応とは,多糖類を過ヨウ素酸(periodic acid)を用いて酸化し,アルデヒド基を生じさせ,これにシッフ(Schiff)試薬を作用させて赤紫色に呈色する反応で,各々の頭文字をとりPAS反応と呼ばれている.
 1940年後半にMcManus,Hotchkissらによって用いられるようになり,現在では病理組織検査において多糖類を染める最もポピュラーな染色法である.

検査法の基礎検討のしかた 血清検査・1

免疫成分検査のポイントとルーチン化の留意事項

著者: 亀子光明 ,   山内一由

ページ範囲:P.861 - P.864

はじめに
 免疫成分検査は抗原検査と抗体検査の2つに大別され,抗原検査は主として血漿蛋白成分,腫瘍マーカー,ホルモンなどを検査対象とし,抗体検査は溶レン菌,梅毒,各種ウイルスやリウマチ因子(RF)に対する抗体価測定を目的とする.
 測定方法は目的とする検査によりさまざまであり,用手法検査(定性検査,半定量検査)と自動分析装置(汎用機種,専用機種)を用いた定量検査が中心となっているが,近年はポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction;PCR)法1)を用いた遺伝子検査により,蛋白異常の検出も可能となっている.

ラボクイズ

問題:カラードプラ法による心疾患

ページ範囲:P.848 - P.848

8月号の解答と解説

ページ範囲:P.849 - P.849

オピニオン

循環器領域の臨床検査—循環生理機能検査から遺伝子診断へ

著者: 川口秀明

ページ範囲:P.796 - P.796

 従来,循環器領域で日常行われている検査には心電図,胸部写真,心エコー,心臓カテーテル,冠動脈造影などがある.これら検査では,すでに心臓に器質的な変化が生じたときにのみ,異常変化を検出可能である.特発性心筋症などの疾患で,まだ発症していない例では検出不可能であった.しかし,近年,肥大型心筋症が多発した家系の解析により,βミオシン重鎖(βMHC)遺伝子変異を有する症例の存在が報告され,心筋細胞サルコメアを構成する蛋白質の異常が心筋肥大の原因の1つとなりうることが明らかとなった.βMHCの点変異の中にはアミノ酸の荷電を変えるものがあり,そのような症例では予後が悪いことが判明した.小児期で心エコー上,心肥大がまだ現れていない症例でも,このような点変異を持つ者は予後が悪い.したがって,遺伝子診断によって小児期より悪性の点変異が見つかれば,突然死の予防が可能である.
 βMHCのほかに遺伝子診断として利用できそうなものにアンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子の多型性がある.ACEはレニン・アンジオテンシン系を構成する因子の1つとして重要な位置を占めている.

けんさアラカルト

ドミニカ共和国消化器疾患研究・臨床プロジェクトにおける技術移転

著者: 菅原弘一

ページ範囲:P.804 - P.804

 開発途上国の経済開発や福祉・医療の向上を支援するために,わが国が行っている政府開発援助(Official Development Assistance;ODA)は,①開発途上国に対する返済義務のない建物や医療機器などの2国間贈与(無償資金協力)と,日本の進んだ技術を移転することを目的として,専門家(医師,臨床検査技師,看護婦など)の派遣,相手国技師などの日本施設での研修受け入れ,またはそれらに伴う試薬など材料の調達および送付などの技術援助協力,②2国間貸付(有償資金協力),③国際機関に対する出費,拠出の3つの柱からなっている.一般的には,開発途上国には返済義務のない贈与が多く,また豊かで返済能力のある国々には2国間貸付が多く行われている.2国間贈与の大部分は国際協力事業団(Japan International Cooperation Agency;JICA)が担当している.これらの援助を行うに当たって,わが国は相手国からの正式な要請を受けて行う,いわゆる要請主義の立場を原則的にとっている.
 JICAが行っている派遣事業には,専門家と呼ばれる技術者の派遣と,各種調査団の2つが含まれている.専門家派遣の目的は,専門家から相手国技術者(カウンターパート)への技術移転を通じて,相手国の技術水準の向上を図り,社会経済開発に貢献することにある.

トピックス

血糖動態の指標としてのグリコヘモグロビン

著者: 星野忠夫

ページ範囲:P.865 - P.867

■糖類の蛋白質への結合とグリコヘモグロビンの生成反応
 メイラード(Maillard)反応は,身の回りで観察される食品などの褐変現象を説明する反応として古くから知られている.この反応は,初期段階では非酵素的反応によりグリコシドを生成し,中・後期段階ではその酸化と重合反応の繰り返しにより発蛍光物質や不溶性物質などadvanced glycated endoproducts(AGEs)と呼ばれる種々の物質を生成する.反応初期段階のグリコシド生成反応では,還元糖のアノメリック炭素と蛋白性物質の遊離アミノ基との速やかな非酵素的平衡反応によりシッフ塩基(アルジミン体,aldimine)が生成され,引き続く緩やかなアマドリ(Amadomi)転換によりケトアミン(ketoamine)体が生成される.
 血糖変動の指標としての興味の対象であるグリコヘモグロビン(glycated hemoglobin;GHb)は,生体内でのメイラード反応によるグルコースのヘモグロビンへの結合により生成される.グルコースは,1-deoxyglucoseの形でヘモグロビンのアミノ基の窒素と速やかに結合し,不安定型グリコヘモグロビン(labile glycated hemoglobin;L-GHb)を生成し,アマドリ転位により1-deoxyfructoseに形を変え,安定型グリコヘモグロビン(stable glycated hemoglobin;St-GHb)となる.

滑膜肉腫の染色体異常と分子生物学

著者: 吉田春彦 ,   長尾勝人 ,   井藤久雄

ページ範囲:P.867 - P.868

はじめに
 ヒト肉腫は中胚葉の間葉組織に起原を有する悪性腫瘍である.発生頻度は低いが,体のどこにでも生じ,また低年齢層から高年齢層のどの年代にも発生する.臨床病理学的には発生部位と年齢により,肉腫の種類が異なることが知られている.組織学的には,肉腫は母組織との類似性によって分類・整理され,それぞれの腫瘍グループで組織亜型が区別されている.その理由は,肉腫の種類,亜型によって悪性度,予後が異なり,治療(手術)の方法が異なってくるからである.したがって,肉腫の診断には迅速性と正確性が病理医に求められ,日常の組織検査のほかに電子顕微鏡による検査,酵素抗体法による免疫染色が補助診断法として利用されてきた.

RLPコレステロール測定の臨床的有用性

著者: 岩崎雅文 ,   多田紀夫

ページ範囲:P.869 - P.870

はじめに
 食生活の欧米化に伴い,われわれの血清脂質濃度は増加傾向にある.それに伴い,心筋梗塞,狭心症などの動脈硬化性疾患も増加している.近年,食後に増加する血中レムナントリポ蛋白が動脈硬化症発症の危険因子として明らかになり,レムナントの血中濃度を反映する値として開発されたRLP(remnant-like particles)コレステロール測定の臨床的有力性がとりざたされている.

ex vivoとin vivo遺伝子治療

著者: 小笠原信明

ページ範囲:P.870 - P.872

はじめに
 世界で最初に遺伝子治療の臨床的研究が行われたのは1990年9月,米国のNIHであり,対象となった疾患はアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症であった.一応の成功を認めたことから,その後,家族性高コレステロール血圧,嚢胞性線維症,ゴーシェ(Gaucher)病などの先天性遺伝病,癌やAIDSなどの致死性の疾患に対して遺伝子治療が相次いで米国で開始された.欧州でも英国,イタリア,フランス,オランダを中心に臨床研究がなされている.わが国でも現在北海道大学医学部小児科でADA欠損症の遺伝子治療が進められている.

結核遺伝子検査の適応

著者: 山岸文雄

ページ範囲:P.872 - P.874

はじめに
 感染症における起炎微生物の検出同定には,①病原微生物の分離同定,②病原微生物の抗原の証明,③病原微生物に対する血清中抗体の証明の3つの方法がある.病原微生物の分離同定は最も確実な方法であるが,結核菌は分裂速度が極めて遅く,その分離同定には4〜8週間が必要である.また血清中抗体の証明も,結核菌では抗cord factor抗体が検討されているが,現時点では活動性結核か否かの確実な診断法とはいいがたい.肺結核症で,喀痰塗抹陽性の場合はまだしも,塗抹陰性の場合には結核症が疑われても治療方針の決定が遅れる場合もあり,迅速で感度の良好な検査法の開発が望まれていた.
 そこで最近,新しい免疫学的方法で病原微生物の抗原を証明する方法が試みられるようになった.その結果,結核遺伝子検査が可能となり,また健康保険適用ともなった.しかし,臨床医の間では,その解釈の仕方,検査の適応について混乱があり,一定の見解が必要となっている.

けんさ質問箱

Q 尿の潜血反応(意義・病気の種類)

著者: 由利健久 ,   H.K.生

ページ範囲:P.875 - P.876

尿の潜血反応が,よく(±)と出る人のための説明などをどのように話したらよいでしょうか.(医者にかかったけれど,どこも悪くない,といわれたとのことです.)

Q DIC時のヘパリン投与

著者: 遠藤武 ,   久米章司 ,   H.K.生

ページ範囲:P.876 - P.877

 DIC(disseminated intravascular coagulation,播種性血管内凝固異常)時にヘパリン投与を行いますが,そのときのプロトロンビン時間(PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)値の変化はどのようになるのでしょうか.また,DIC判定にPTを,ヘパリンモニターとしてAPTTを使用する理由を教えてください.

今月の表紙

細胞分裂と染色体

著者: 巽典之 ,   鎌田貴子 ,   近藤弘

ページ範囲:P.847 - P.847

 細胞分裂中期に染色体が形成されることは,中学生の教科書に出てくる事項である.動原体を中心に短腕(p)と長腕(q)に分かれた幾何的ともいえるきれいな像をとることは昭和30年代の教科書Allgemeine Zoologieに図示され始めた.その後karyotype analysisは通常の検査法と化し(図b),さらに特定の染色体部位を染め出す方法が考案され,染色体異常症の解析に役だっている.図cは,C-band染色であるDA-DAPI法によるものである.
 これまで数多くの染色体像を観察したが,相同染色体が2つずつきれいに並列し分布している症例を初めて見たときは感激!その図を後生大事にとっておき,症例報告しようと思っているうちに,結局のところ,どこかに失ってしまい,ガッカリしたことがある.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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