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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術24巻11号

1996年10月発行

雑誌目次

病気のはなし

食中毒

著者: 松山純子 ,   本田武司

ページ範囲:P.884 - P.891

新しい知見
 食中毒は,現代社会において衛生的な生活を送っているにもかかわらず,わが国ではいまだに発生件数は減少していない.また,原因の大部分を占める細菌性食中毒の発生状況は,近年食生活の肉食化に伴いサルモネラ属菌による発生件数が増加しているという新しい傾向がみられるようになってきた.さらに今夏は,岡山県をはじめ日本各地で腸管出血性大腸菌(特にO157)による大きな集団発生があった,この細菌性食中毒を予防するため,また治療法の開発のために,現在原因菌の作用機序や産生する毒素の構造や機能の解析が進められている.臨床検査の場においてもDNAプローブ法やPCR法などのDNA診断技術の開発により迅速に原因菌を検出することが実用化されるようになってきている.
 ここでは,主な細菌性食中毒の原因となる菌について紹介する.紹介できなかった菌についての詳細は,他書1)を参照されたい.

技術講座 生化学

穿刺液の蛋白分画

著者: 芝紀代子 ,   酒井伸枝

ページ範囲:P.893 - P.899

新しい知見
 穿刺液である胸水,腹水は全身疾患によって出現してくるので,その蛋白分画も多種多様なパターンを示す.腹水の1例においてはM蛋白の出現をみた.穿刺液を電気浸透現象のないセア膜を用いて電気泳動を行い,アシッドバイオレット17染色を施すことにより,鮮明な蛋白分画像が得られる.穿刺液の蛋白分画パターンが新たなる臨床診断の一助になることが期待される.

血液

HLAタイピング法

著者: 柏瀬貢一 ,   田中秀則

ページ範囲:P.901 - P.908

新しい知見
 近年,血清学的HLAタイピングは,ビーズ法を用いたリンパ球の分離や蛍光色素を用いた測定法などが新たな手法として取り入れられ,精度の向上および大量検体処理が可能になった.
 一方,DNAタイピングは,PCR法の導入によって,HLA遺伝子の多型部分を直接解析することが容易になった,特にHLA-クラスⅡ遺伝子群は多型を示す部分が第2エクソンに限定されることから,DNAタイピングが日常検査として導入されてきた.

輸血

母子間血液型不適合妊娠検査

著者: 和田惠美子 ,   鈴木義一 ,   戸栗恭子 ,   小坂邦子

ページ範囲:P.909 - P.917

新しい知見
 胎児・新生児溶血性貧血(HDN)の予防のためには妊婦の赤血球不規則抗体のスクリーニングが重要である.地域や施設ごとに取り組みが行われている.妊娠初期に抗体が確認できれば,その抗体の胎児に与える影響の予測が可能である.一方,胎児の側では,超音波検査により診断技術が向上した.羊水検査や臍帯血採取による胎児の貧血の評価や抗体検査などから,胎児治療に結びつけている.
 最近では超音波ガイド下に臍帯静脈からの胎児輸血,胎児交換輸血が行われ,体外生活が可能になるまで妊娠を継続させられるようになってきている.Rh陰性の未感作女性に対しての輸血や流産などに対する医療処置には,特に配慮が必要である.

免疫

PIVKA-Ⅱ検査法

著者: 中尾昭公

ページ範囲:P.919 - P.923

新しい知見
 PIVKA-Ⅱは,肝細胞癌に特異的な腫瘍マーカーとして知られている.AFPとは相関せずコンビネーション測定することにより肝細胞癌の陽性率は向上する.最近,生体肝移植で拒絶反応を示した患者血清中でPIVKA-Ⅱ値が上昇することから,術後の拒絶反応の指標になることが明らかとなってきた.
 現在,検体中のPIVKA-Ⅱ測定は,エイテストモノP-Ⅱ(エーザイ)が用いられているが,小型の肝細胞癌に対する陽性率が低い.近年エイテストモノP-Ⅱの改良キットED036が開発された.ED036は,エイテストモノP-Ⅱに比べ測定感度が向上し,その結果,小型の肝細胞癌の陽性率が向上した.現在,慢性肝炎,肝硬変から肝細胞癌に移行した症例の検体を用い早期診断に対する有用性の検討が試みられている.

生理

小児の誘発電位—[3]体性感覚誘発電位

著者: 冨田豊 ,   田端幸枝

ページ範囲:P.925 - P.930

新しい知見
 四肢末梢神経の電気刺激による短潜時体性感覚誘発電位(SSEPs)は,大脳皮質に到達するまでに多くの陽性波や陰性波を発生する.各要素波の起源についてはある程度絞り込まれているものもあるが,まだ仮定の段階であることが多い.最近では正中神経刺激で得られるSSEPsの遠隔電場電位のP13と後頸部のN13とは別の起源であり,頭皮上広範囲に認めるN18の起源が視床ではなく,中脳より尾側で橋・延髄と推測する報告が多い.

まれな心電図の読みかた—[2]QT延長症候群

著者: 須山和弘

ページ範囲:P.931 - P.936

新しい知見
 QT延長症候群には先天性QT延長症候群および後天性QT延長症候群の2種類があり,早期後脱分極による撃発活動が関与している可能性が示唆されている.QT延長症候群の診断に対しては遺伝子レベルでの解析も急速に進歩している.

マスターしよう検査技術

肺機能検査—スパイロメトリーを中心に

著者: 滑川妙子

ページ範囲:P.943 - P.947

はじめに
 近年,測定機器はコンピュータを導入し自動化されたことで,肺機能検査はマウスピースをくわえて,ひと吹きするだけで簡単に数値として検査結果が表示されるようになった.それだけに,得られた検査結果のうちどれを採用するかという選択は検者に任され,瞬時にその選択を行わなければならない.
 被検者の状態を十分反映した検査結果を得るには,測定機器の精度管理や保守点検が十分であるうえに,被検者の気持ちをリラックスさせ,最大努力を引き出すことが重要である.

生体のメカニズム 凝固・線溶系・6

DICとその診断

著者: 朝倉英策

ページ範囲:P.949 - P.952

DICとは
 播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation;DIC)は,基礎疾患の存在下に,極端な凝固活性化状態となり,血管内に微小血栓が多発する重篤な病態である.進行した場合には,微小血栓の材料としての,血小板や凝固因子が低下したり(消費性凝固障害),凝固活性化に伴う線溶活性化が原因となって出血症状がみられることがある.一方,微小血栓のため重要臓器における微小循環障害をきたすと,臓器症状がみられることがある.臓器症状が複数の臓器に及んだ場合を,多臓器不全(multiple organ failure;MOF)と称している(図1).これらのDICの2大症状は,DICの病態を特徴づけているという点では重要であるが,DICの本質は臨床症状の出現ではなく,基礎疾患存在下の血管内の著しい凝固活性化状態であり,この点,DICは臨床検査により診断されるべき病態と考えられる.
 DICの基礎疾患としては,急性白血病などの血液悪性疾患,固形癌,敗血症,外傷,産婦人科疾患(常位胎盤早期剥離など),膠原病に伴う血管炎など多くのものが知られているが,いずれの場合も組織因子(tissue factor;TF,かつて組織トロンボプラスチンと称されたものと同義)が重要な役割を果たしているものと考えられている.

検査データを考える

尿亜硝酸塩試験と尿エステラーゼ試験

著者: 田部陽子 ,   猪狩淳

ページ範囲:P.953 - P.956

はじめに
 尿亜硝酸塩試験と尿エステラーゼ試験は,尿路感染症のスクリーニングテストとして普及している尿試験紙検査法である.尿亜硝酸塩試験は尿中の細菌を,尿エステラーゼ試験は尿中の白血球を検出する.
 尿路感染症とは,腎・尿路系の一般細菌による非特異的な炎症であり,尿路感染症の診断には,細菌尿,白血球尿(膿尿)などの尿所見が重要となる.細菌尿や膿尿は,尿細菌数の定量培養検査や尿沈渣検査(尿を遠心してその沈渣を鏡検し,細胞数や白血球数を観察する検査)の結果から決定される.しかし,両者はいずれも簡便性に欠け,特に尿沈渣鏡検はある程度の熟練が必要である.そこで手技が簡単で,すぐに結果を得ることのできる尿試験紙法がスクリーニングテストとして多用されている.

検査法の基礎検討のしかた 血清検査・2

免疫成分測定法での精密性—免疫成分測定での反応性,検量線,検出限界,測定範囲,プロゾーン

著者: 加藤亮二 ,   細萱茂実

ページ範囲:P.957 - P.960

はじめに
 抗原抗体反応を利用した免疫検査法は血清検査のほかに生化学,移植・輸血,血液凝固因子,微生物,病理組織分野などの検査に応用されている.これらの免疫成分測定にはすでにキット化された定性法や定量法があるが,その使用法は分野により千差万別である.また,検査試薬(キットを含む)を新しく検査室に導入する際に,検討のための統一された方法はなく,もっぱら臨床化学分野で行われてきた方法に準ずるところが大きい.
 そこで,本シリーズでは免疫成分定量法における日常検査法のルーチン化のための基礎的検討方法を具体的に示す.

ラボクイズ

問題:穿刺液の細胞診

ページ範囲:P.940 - P.940

9月号の解答と解説

ページ範囲:P.941 - P.941

オピニオン

2つの世界

著者: 渡辺直樹

ページ範囲:P.892 - P.892

 20年近く在籍した内科を離れ,昨年9月から臨床検査医としての生活をスタートしました.内科時代も,種々の研究活動を通して分析化学などを学んできたつもりでしたが,内側からみる検査の世界は,当初私にはまったく別の世界に見えました.その原因を考えてみると,検査と臨床の間には想像していた以上の厚い壁があることに気づきました.
 例えば,臨床医にとって検体検査とは外来あるいは病棟でオーダーを出すと,一定期間後に主に数値が並んだ無味乾燥な報告書を受け取る,という一連の流れでしかありません.その際,報告書の裏にどのような世界があるのか熟知している臨床医は,ほとんどいないと思います.極端な場合は,それが機械によって自動的に打ち出されたものか,あるいは検査技師の方の手によるものかも知られていません.

けんさアラカルト

ホルモン検査の臨床的許容誤差

著者: 中井利昭

ページ範囲:P.900 - P.900

 ホルモン検査は大部分が免疫学的測定法によってなされている.しかしこの免疫学的測定法においては,標準物質が制定されていない(ホルモン以外でも免疫学的測定法で標準品が入手できるのは免疫グロブリンやCRPなどわずかである)ことや,試薬の抗体特異性の相違などによって測定間誤差がかなり大きいことや,さらに検査以前の検体管理の適切さなどが大きな問題となってくる.

トピックス

老化度チェック—定期健康診断における生体総合機能の老化度の評価

著者: 岳マチ子 ,   横山泉 ,   長谷川元治

ページ範囲:P.961 - P.963

はじめに
 人はたとえ健康であっても老化する.老化の最終段階が個体の死である.個体の老化は,個々の臓器,および調節機能(ホルモン,神経,免疫など)の老化によるものであるが,これらはその臓器を構成する細胞の老化,すなわち加齢変化に基づいている.老化にはこのように健康であっても生じる生理的老化と,なんらかの因子がこれに加味されることで加速されたり修飾された病的老化がある.細胞の老化については現在,遺伝子説,活性酸素傷害説などいくつかの説が挙げられている1〜3)
 このような細胞および臓器の老化は当然,それに対応する臨床検査値にも反映されてくるはずである.したがって,検査値から被検者の臓器の機能的年齢を評価したり,またある目的を持った検査群のデータを総合的に判定することで個体の総合的機能を評価することも可能であると考えられる.しかしながら,従来の臨床検査の基準範囲,あるいは正常値は健常成人の平均値±2×標準偏差ないしは90パーセンタイル値などが用いられており,そこには加齢に伴う変化は考慮されていない場合が多かった.

グリコヘモグロビン測定の問題点

著者: 星野忠夫

ページ範囲:P.964 - P.966

■グリコヘモグロビン(GHb)測定の現状
 高速液体クロマトグラフィー(high-performance liquid chromatography;HPLC)によるGHbの測定が始まって以来15年経つが,その測定は精密さ,正確さともに不十分で,測定値の施設間差の実態は臨床的許容範囲を超える.この問題を解消するため,日本糖尿病学会と日本臨床化学会は委員会を設置し活動している.最近,ホウ酸アフィニティ法や免疫法によるGHbの測定法が供給されるようになり,GHbの測定にいっそうの問題を投げかけている.GHbに限ったことでなく,検査の実施に当たっては,各施設での精密さに基づく精度管理ばかりでなく,正確さに基づく精度管理が必要である.
 国内のHPLCを測定法とする27施設における筆者らの調査によると,7種の同一凍結乾燥標品をそれぞれ6回測定した結果,その測定値の施設内変動係数が3%を超えた施設はわずか3施設であったが,測定値の施設間変動係数は6.60〜10.46%と大きく,測定表示値そのものの施設間差は2.8〜4.1%にも及んでいる.この結果は各施設の測定値をそのまま統一的に比較評価することが不可能であることを示している.また,425名の糖尿病患者を分析対象とし,同一血液試料をメーカーに依頼し,あるいは借用した市販8機種で測定した筆者らの別の調査の結果をみてみよう.

Epstein-Barrウイルスと癌

著者: 水柿雄三 ,   高田賢蔵

ページ範囲:P.966 - P.967

 Epstein-Barrウイルス(EBV)は,1964年にEpsteinとBarrらによりバーキットリンパ腫(Burkitt's lymphoma;BL)由来の培養細胞から発見されたヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスである1)
 発見当初,ヒトの癌においてウイルスの関与が初めて示唆されたケースとして注目を集めた.その後BLや上咽頭癌(nasopharyngeal carcinoma;NPC)の発症に密接に関与していることが示されている.EBVは成人までにほぼ100%のヒトが唾液を介して経口感染し,終生潜伏するウイルスで,潜伏感染細胞はB細胞とされている.通常は不顕性感染であるが,急性感染症として伝染性単核症を引き起こすウイルスとしてよく知られている.

IgA腎症の免疫学的検査

著者: 藤井謙裕

ページ範囲:P.967 - P.969

はじめに
 IgA腎症は,糸球体メサンギウム域へのIgAを主体とする免疫グロブリン沈着を特徴とする糸球体腎炎であり,その確定診断には蛍光抗体法や酵素抗体法などの免疫学的手法でのIgAの糸球体内沈着を証明することが必要である.言い換えると,IgA腎症は主としてIgA関連の免疫複合体によって惹起されるのであり,この複合体が組織障害の原因になっているものと考えられている1).現在までに,IgA腎症の成因に関する免疫学的異常については幾多の検討がなされてきた.
 本稿では,IgA腎症に関連する免疫学的特徴について概説する.

重度患者のリアルタイム病態解析

著者: 林成之 ,   大門亘

ページ範囲:P.969 - P.971

はじめに
 集中治療学が進歩するなかで,血圧や呼吸状態の変化を見ながらすばやく治療を行っていくこれまでのICU管理法は,重症患者の管理において,もはや古いものになってきた.その理由は,血圧が下がってから薬剤を使っているようでは患者の全臓器に虚血病態を作ってからその治療を行うことになり,常に追い込まれた後手の治療となるからである.
 本稿では,このような基本的な問題をどのように解決し,今後どのような病態解析法を組み立てたらよいかについて紹介する.

リウマチ性疾患とアポトーシス

著者: 原まさ子

ページ範囲:P.972 - P.973

■アポトーシスとは(図)
 アポトーシスとは細胞の生理的な死の過程を意味する.細胞が活性化され,増殖した後,決められたプログラムに従い,核のDNAが断片化し,クロマチンが凝縮し,細胞が断片化して,周囲の細胞やマクロファージによって貪食分解される.細胞の内容物が周辺に漏れ出ることがないので炎症反応を伴わないし,特定の細胞だけを除去できるシステムである.

けんさ質問箱

Q ウイルス関連性血球貪食症候群

著者: 奈良信雄 ,   T.A.生

ページ範囲:P.975 - P.976

 リンゴ病治癒後,肺炎を併発し当院へ入院.白血球数400/mm3,赤血球数285×104/mm3,ヘモグロビン7.5g/dl,血小板数8.1×104/mm3,CRP 25.5mg/dlでした.他の生化学は正常です.再生不良性貧血との比較もご教示ください.

Q 前立腺マッサージ後の尿沈渣

著者: 佐藤俊 ,   N.Y.生

ページ範囲:P.976 - P.978

 泌尿器科から前立腺マッサージ後の尿で沈渣を見る依頼がありますが(または,スライドにカバーグラスを載せて持ってくる),赤血球より小さくて細菌の球菌よりは大きい物が動いています.それはなんでしょうか.

今月の表紙

東南アジア医療協力

著者: 巽典之 ,   津田泉

ページ範囲:P.891 - P.891

 私は毎年夏に発展途上国に数週間出かけ,僻地の診療所や病院を訪問し,風土病の多国間共同研究をすることにしている.その中には草葺きの家の前を腰蓑だけの女性やペニスケースをつけただけの男性が悠然と闊歩する姿を見かける場所もある.ここで生活する人の姿を表紙にしようと考えていたがその方々のプライバシーのこともあるし,裸の写真を掲載すると“楽しく美しく教育的でありたい”と願う本誌編集部の方にお叱りを受けそうだし,高潔なる私の品位を問われかねないのでやめにした.
 さて,東南アジアの島々を巡ってみると,私どもがはるか昔に見かけたような検査機器と検査法がいまだ健在であることに驚かされる.写真aは手回し遠沈器であり,血清分離や尿沈渣に使われている.ただ,手回しの労力を考えると,私のようなか弱い男性向きではなさそうである.写真cは錆つきながらもチャンと動いている光電比色計であり,肝機能検査,血色素量,およびDIPCテストの測定に利用されている.血算は古今伝統のガラス計算盤法であり,顕微鏡は自然光を反射鏡で取り入れる単眼式のものである(写真b).使い込まれ,もう塗装もはがれかけた古い顕微鏡である.自然光は紫外線から遠赤外線までを含む最高の光源である点で電気光源よりも優れていることになり,これでもって毎日サラセミア症(写真d)などの血液像,沈渣,マラリア原虫探しが行われている.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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