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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術24巻3号

1996年03月発行

雑誌目次

病気のはなし

異常ヘモグロビン症

著者: 大庭雄三

ページ範囲:P.186 - P.192

新しい知見
 蛋白の合成後修飾の特殊例
 遺伝子DNAの塩基配列が容易に決定できるようになったおかげで,異常ヘモグロビン(Hb)の同定もDNA分析によって行われることが多くなった.ただし塩基配列イコール蛋白のアミノ酸配列とは言い切れない場合がある.25年前に同定されたHb Bristol[β67(E11)Val→Asp]は最近DNA分析によって同定されたHb Alesha[βCD67 GTG(Val)→ATG(Met)]と同一であることが証明された.すなわちDNA分析の結果によればバリンからメチオニンへの置換のはずが,蛋白分析の結果からはアスパラギン酸が見いだされた.このことは独立4症例について確認された.この異常Hbではβ67 Metが速やかに化学修飾を受けてAspに変化する.

技術講座 生化学

尿中遊離型フコース(UFC)の測定法

著者: 松井静代

ページ範囲:P.193 - P.199

新しい知見
 悪性腫瘍患者において血清糖蛋白質の糖鎖中のL-フコース含量が増加することが報告されている.
 近年遊離型のL-フコース測定法として酵素を用いた定量法が開発され,肝・胆・膵の炎症性病変および腫瘍性病変における尿中のL-フコース測定の臨床的意義が注目されている.

生理

超音波による肝臓の血流イメージング法

著者: 杤尾人司 ,   岩崎信広 ,   濵田一美 ,   濵田充生 ,   簑輪和士 ,   田村周二 ,   會我登志子 ,   森本義人 ,   冨田周介

ページ範囲:P.201 - P.210

新しい知見
 近年,装置の進歩により低流速血流の検出感度が向上したため,循環器領域にしか使用されていなかったカラードプラ法が腹部消化器領域に導入された.カラードプラ法により非侵襲的に肝内の動脈や門脈血流,さらに,血管造影では観察できない肝内の静脈系血流の観察も可能となった.
 また,CO2などの超音波用造影剤を肝動脈内に留置したカテーテルより注入し,CO2の流れ,すなわち血流そのものを超音波の断層画像で観察するという,超音波血管造影法〔ultrasound(US)angiography〕が登場し,血管造影では小さいために検出されず評価できなかった腫瘍血流の多寡や,腫瘍内の血管構築が鮮明に描出できるようになり,血流情報に基づいた正確な腫瘍の質的診断が可能となっている.

マスターしよう検査技術

抗酸菌染色

著者: 小栗豊子 ,   上杉文子

ページ範囲:P.217 - P.222

 抗酸菌は,細胞壁に脂肪を含むため,通常の色素には難染性である.抗酸菌染色は塩基性フクシンを用いる方法とオーラミンなどの蛍光色素を用いる方法があるが,いずれの染色液にも媒染剤として石炭酸が添加されている.石炭酸は菌の細胞壁の脂肪を溶出させ染色されやすくする作用があるといわれている.抗酸菌の中には健常人にも感染する危険なヒト型結核菌やウシ型結核菌が含まれる.患者の検体やその分離菌の中にはこれらの病原菌が含まれている可能性が高い.したがって抗酸菌の検査は,実験室内感染予防やバイオハザード注1)を防ぐための注意について十分な指導を受け,生物学用安全キャビネットの設備のもとで行わなければならない.ここでは日常検査法として広く普及しているZiehl-Neelsen法,オーラミン染色法(蛍光染色法)について解説する.なお,染色液の作製法,検査成績の報告については図の本文の後方に記載した.注1)バイオハザードとは生物そのものまたは生物の産生する毒素などでヒトが害を受けることである.国立予防衛生研究所はWHO方式に準じ,微生物を危険度により分類しており,これらの取り扱いについて勧告している.ヒト型結核菌はクラス3aに属し,生物学的安全キャビネットの中で取り扱うことを勧めている1).図1のバイオハザードのマークは実験室のドア,感染性廃棄物のゴミ入れなどにも付けられる.

生体のメカニズム 神経と神経調節機構・3

神経栄養物質

著者: 岩崎泰雄 ,   木下真男 ,   塩島俊也

ページ範囲:P.228 - P.230

はじめに
 神経栄養物質とは,神経細胞が必要とする生存因子であり,神経が投射する組織により産生され,神経末端に作用して,神経細胞の生存維持に機能している分子のことである.
 現在,細胞死がいかにして起きるのか,また,この細胞死に対して神経栄養物質が保護物質として作用し,さらには神経変性疾患の治療に活用できないかという強い期待もある.米国ではすでにある種の神経変性疾患に対してこれらの神経栄養物質が臨床的に治療手段として用いられている.

検査データを考える

細胞診の精度管理

著者: 坂本穆彦

ページ範囲:P.231 - P.234

はじめに
 細胞診は,検査cytological “examination” としてとらえられることもあれば,診断cytological “diagnosis” という側面もあり,その2面性は細胞診の意義を考えるうえでは重要な点である.
 “細胞診の精度が十分に管理されねばならない”ということはそれだけ細胞診に対する臨床的ニーズが高いことの表れととることもできよう.つまり,精度が問題とされるものほど,その検査・診断法が日常診療にとって重要かつ不可欠なものであることを意味するからである.

検査法の基礎検討のしかた 臨床化学検査・3

測定値の精密さ評価試験法と測定値安定性評価試験法

著者: 野澤修 ,   桑克彦

ページ範囲:P.223 - P.227

 日常検査法における測定値の精密さの評価試験と測定値の安定性の評価試験について,実稼働状態を反映した試験法を示す.

ラボクイズ

問題:低コリンエステラーゼ血症

ページ範囲:P.212 - P.212

2月号の解答と解説

ページ範囲:P.213 - P.213

オピニオン

踊り場

著者: 杉山繁雄

ページ範囲:P.200 - P.200

 “踊り場”この言葉は人生の踊り場の意味である.私が人生の教訓としている言葉である.
 話はさかのぼるが,1977年10月,滋賀医科大学医学部附属病院創設準備室に京都大学医学部附属病院中央検査部から転任し,日々準備に追われようやく開院(1978年10月4日)にこぎつけ,その4年後のことである.これは国家公務員定数削減下のため,今後の定員増加はもちろんのこと,非常勤職員の増加も認められない情勢下でますます増加の一途をたどる検体数に対処し,診療科の要求をできるだけ満たすにはこの方法よりないと考え抜いた挙句の決断が,財団和仁会による院内外注であった.財団の検査技師は当初2名で発足し,この外注の利点として緊急検査に対応できる,精度管理ができる,検査結果報告が早い,契約が外部に依頼するより安値であるなどが挙げられる.この院内外注に関しては学内で多くの論議がなされ事務当局のご理解も得ていたが,1982年ごろ検査外部依託経費が大きくなり,文部省からも指摘される時代があった.学内ではいろいろと討議を重ねたがなかなか結論を得ず,特に検査部の責任を問われたのである.当時の病院長以下,事務関係者,検査部長,技師長と何回ともなく話合ったがなかなか結論が出ず,特に技師長の責任を問われ,私と事務側とは真っ向から対立したのである.

けんさアラカルト

インターフェロン・サイトカイン国内およびWHO標準品

著者: 小長谷昌功

ページ範囲:P.214 - P.215

 サイトカインに関する研究の進歩は目覚ましく,免疫機構に限らず生体のあらゆる調節機構にサイトカインがなんらかのかかわりを持っているといえる.また,病気とのかかわり,治療薬としての可能性が強まってくるにつれ万国共通の定量基準の設定が不可欠になる.そのためには同時測定できる標準品が必要であり,それも国際的に認定されたWHO標準品が必要である.すでに相当数のインターフェロン・サイトカインのWHO標準品が設定され,international units(IU)で表示されているものまたは暫定力価のunitsで表示され,国際共同作業による結果待ちのものなどがある.これらの標準品を作製管理し配布している国際機関は英国のNIBSC(National Institute for Biological Standards and Control)であり,申請すれば入手可能である.
 WHOにはサイトカイン標準品の設定を効率よく推し進めることを目的とした筆者も含めた専門委員会が1944年春に設置され毎年開催されている.NIBSCに登録されているサイトカイン標準品のリストを表1に示した(IU表示のみWHO公認).

トピックス

光による体内機能のイメージング—光透視・光CT技術の応用

著者: 清水孝一

ページ範囲:P.235 - P.237

はじめに
 医療診断や検査の中で,無侵襲的に体内情報をイメージングする技術は,すでに不可欠のものとなっている.超音波断層装置・X線CT・MRIなどが次々と実用化される中で,光は生体を透過しないものと考えられ,透視の手段として顧みられることはほとんどなかった.
 しかし近年の光学技術の進歩は,この常識を覆しつつある.確かに生体組織の光透過率は一般に低い.しかし,波長700〜1,200nmの近赤外光は特別で,生体組織を比較的よく透過する.またこの波長域では,重要な生体色素(ヘモグロビン,ミオグロビン,チトクロームなど)がその酸素化状態に応じて特有の吸光スペクトル変化を呈する.したがって透視像が得られれば,体内の生理的変化を体外から無侵襲的にイメージングできるという重要な可能性が期待できる1)

ICAM-1抗体療法

著者: 高橋裕樹 ,   今井浩三

ページ範囲:P.237 - P.239

はじめに
 近年の免疫学および分子生物学の進歩により,免疫反応のさまざまな過程に関与する接着分子やサイトカインそれぞれが,分子レベルで明らかにされつつある.これらを標的としたモノクローナル抗体を用い,選択的に免疫反応の段階をブロックすることで,自己免疫疾患や臓器移植での拒絶反応を効率的に制御しうることが期待されている.特にICAM-1(intercellular abhesion molecule-1;CD 54)は免疫反応において中心的な役割を担う細胞接着分子の1つであり,抗ICAM-1抗体の臨床応用が積極的に進められている.

抗真菌剤開発の現状

著者: 山口英世

ページ範囲:P.239 - P.241

 易感染患者に日和見感染として好発する深在性真菌症,特にCandidaやAspergillusに起因する播種性または侵襲性感染の発生頻度は依然として上昇傾向にあると考えられる.こうした疾患の治療に現在国内で使用されている抗真菌剤としては,ポリエン系amphotericin B(AMPH-B),フロロピリミジン系flucytosine(5-FC),イミダゾール系miconazole(MCZ),トリアゾール系fluconazole(FLCZ)およびitraconazole(ITCZ),の5剤が数えられる.しかしいずれの薬剤も有効性または安全性に限界があり,これらの既存薬にみられない優れた特性を持つ新規薬剤または製剤へのニーズは高まる一方である.
 これに対応して,国内外の多くの製薬企業において新しい抗真菌性物質の探索・開発は無論のこと,既存薬の新規製剤の開発も盛んに行われている.この動向は,毎年米国で開催されるInterscience Conferenceon Antimicrobial Agents and Chemotherapy(ICAAC)において発表される新規抗真菌剤の数がこの数年常に10剤以上にのぼり(1995年は18剤),抗微生物薬全体の中でも15%以上を占めることからもうかがい知ることができよう.

SDA法による遺伝子検査

著者: 佐藤隆

ページ範囲:P.241 - P.243

はじめに
 現在最も広く普及している核酸増幅法はサーマルサイクルを利用したpolymerase chain reaction(PCR)であり臨床検査にも広く利用されているが,これに対してstrand displacement amplification(SDA)は,1992年にTerrance Walkerによって紹介された単一温度下において核酸増幅を行う新たな技術である1〜3).SDAは制限酵素とポリメラーゼを組み合わせた方法であり,次の2つの段階から成る.

白血球除去フィルターの進歩

著者: 八代有 ,   高柳美行

ページ範囲:P.243 - P.244

背景
 輸血副作用の発現要因としては,まず第一に輸血用血液中の白血球が考えられ,安全な輸血の推進にとって白血球除去操作は,重要な処理と思われる.Walkerの報告1)によれば,白血球に起因した輸血副作用の発現率は17.5%(全輸血副作用の90%以上)とされる反面,106個/bag以下の残存白血球数に低減されれば,ほとんどの輸血副作用が回避できるといわれる.これらのことから,白血球除去性能の向上は輸血医療の分野における大命題とされ,主にフィルター法で検討されてきたが,近い将来には除去係数6〔99,9999(6log)%の除去率〕の時代を迎えようとしている.

けんさ質問箱

Q 尿沈渣鏡検を妨害する無晶性塩類の除去法

著者: 近藤清志 ,   稲垣勇夫 ,   ,  

ページ範囲:P.245 - P.245

 尿検査をしていて塩類がじゃまして細胞成分がうまく見えず困ります.アルカリの場合は酢酸を入れますが,赤血球が壊れてしまいます.良い方法を教えてください.
 結晶成分(特に無晶性尿酸塩)で他の成分が見えないときはどうしたらよいでしょうか.

Q 医師に連絡する必要のある心電図所見

著者: 清水寛 ,   堤健 ,  

ページ範囲:P.246 - P.247

 心電図を検査していて,医師に連絡すべき重篤な心電図を教えてください.

今月の表紙

白血球分類とコンピュータの有効利用

著者: 巽典之

ページ範囲:P.211 - P.211

 これまで2回にわたり細胞の動きをとらえた写真を示してきた.第1回目は写真をスキャナーで読み込みコンピュータ上で編集,第2回目はいったん取り込んだ写真にコンピュータで色付けし編集と,研究室の研究員がコンピュータと格闘した結果である.情報化社会といわれる今日,こういった最新技術を最大限利用できるか否かが勝負の決めどころとなる.血液検査においては全自動型血球計数機を用いることで全血算(CBC)と白血球分類が可能となった.ここでの泣き所は異常白血球については分類性能がベテラン技師の眼力に劣ることである.血球分類を専門とする技師のいない一般検査室においては,これまではこの欠点を補うには異常標本そのものをベテラン技師に送るか,異常細胞写真を送るしか手だてがなかった.
 さて,症例は,87歳女性で4日間40℃の熱が続き救急外来に受診,白血球数 26.8×109/l,Hgb 13.2g/dl,Hct 40.1%,血小板数 475,000/μlであり,血清K値 5.6mEq/l,BUN 51mgdlと示された.患者は敗血症の疑いと中等度脱水で治療が行われ,後刻細菌培養でグラム陰性桿菌陽性,そしてEscherichia coliによる敗血症と確定診断を下された症例であり,初診時血液像のコンピュータ記録が図示されている.

平成7年度第71回,第72回二級臨床病理技術士資格認定試験学科筆記試験—問題と解答/平成7年度第6回,第7回緊急臨床検査士資格認定試験学科筆記試験—問題と解答

ページ範囲:P.249 - P.290

〔微生物学〕
 1.消毒液について正しい組み合わせはどれか.
 1.クロルヘキシジンは芽胞に対して無効である.2.グルタールアルデヒドはB型肝炎ウイルスに対して有効である.3. クレゾールは結核菌に有効である.4.塩化ベンザルコニウムは緑膿菌に対して有効である.5.イソプロピルアルコールは細菌にのみ有効である.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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