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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術24巻6号

1996年06月発行

雑誌目次

病気のはなし

ウイルス性下痢症

著者: 荒木和子 ,   篠崎立彦

ページ範囲:P.492 - P.497

新しい知見
 これまで数々の下痢症の病因ウイルスが電子顕微鏡で発見されてきた.また免疫学的および分子生物学的手法により,各ウイルスについて多くのことが明らかになってきた.乳幼児ではロタウイルスによる冬期乳幼児下痢症が最も多い.このほか代表的なウイルスとして,小型球形ウイルス群,腸管アデノウイルス,アストロウイルスなどがある.学童,成人に多い流行性嘔吐下痢症は小型球形ウイルスによって起こる.

技術講座 免疫

PSAの測定法

著者: 石橋みどり ,   大竹皓子

ページ範囲:P.499 - P.505

新しい知見
 前立腺特異抗原(PSA)は,1979年Wang MCらのグループ1)によって精漿から分離精製された分子量約33,000の糖蛋白質である.生物学的性状は,キモトリプシン様基質特異性を有するセリンプロテアーゼであり,血中ではその多くがα1-アンチキモトリプシン(ACT)と結合しているが,一部はPSA単独でも存在している.
 PSAは前立腺癌や前立腺肥大症において血中濃度が高値になることから,腫瘍マーカーとして臨床検査に用いられている.

病理

組織標本とギムザ染色

著者: 石原力 ,   城下尚

ページ範囲:P.507 - P.512

新しい知見
 ヘリコバクター・ピロリは,人の胃粘膜に寄生し,難治性消化性潰瘍やびらんの原因菌といわれている,グラム染色で陰性を示し,数本の鞭毛を持つらせん状桿菌である.種々の検出法が報告されているが,ギムザ染色法を用いて胃生検標本を染色し,菌を観察する試みもなされている.ギムザ染色法は手技が簡便であり,菌の識別も免疫染色法や鍍銀染色法を用いたものと比べても遜色なく,実用性が最も高いと思われる.

マスターしよう検査技術

電顕用標本薄切法

著者: 引野利明 ,   小山徹也 ,   福田利夫 ,   中島孝

ページ範囲:P.517 - P.522

 透過型電子顕微鏡試料の作製過程は,原理的には光学顕微鏡試料の作製過程とさほど変わりはないが,試料に電子線を透過させて観察するために極めて薄い切片の作製が要求される.通常は60〜90mμくらいの厚さの切片がガラスナイフやダイヤモンドナイフなどで切削され観察に用いられる.従来は主としてガラスナイフによって薄切が行われていたが,そこには熟練やコツといったものが不可欠であった.最近ではより優れた超ミクロトームが登場し,さらにダイヤモンドナイフの一般的な使用も増えたこともあって,初心者でも容易に薄切が行えるようになった.ただ,その目的が組織,細胞構築の繊細な観察であるために,試料の採取から固定,包埋,重合までの各操作が後の薄切に影響を与え,これによって超微形態にも変化をもたらすこともあるため,これら薄切前の各操作も慎重に行う必要がある.ここでは良好に固定,包埋された後の薄切法について解説する.

生体のメカニズム 凝固・線溶系・2

凝固阻害機構

著者: 櫻川信男

ページ範囲:P.526 - P.528

はじめに
 血液は身体の末端部分までよどみなく流動して生命を維持する.血管障害によって出血すると該部にトロンビン産生が惹起されて止血に作動するが,この反応が過剰に起こると血栓形成がみられることになるので,これを阻止する機構が発動して血栓形成を阻止し,他方,微小血栓を溶解するために該部から組織プラスミノゲン・アクチベータが放出される.これに関与するものは血管内皮細胞に存在する以下の要因がある.
 凝固系:1.グリコサミノグリカン(glycosaminoglycans;GAG)とアンチトロンビン(antithrombin:AT)およびヘパリンコファクターII(heparin cofactor II;HC II),2.後天性阻害因子〔ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant;LA)など〕,3.トロンボモジュリン(thrombomodulin;TM)とプロテインC(protein C;PC)およびプロテインS(protein S;PS)など.

検査データを考える

電解質異常と心電図

著者: 藤本幸弘 ,   重政千秋 ,   小竹寛

ページ範囲:P.529 - P.533

 人の体液量や体液の電解質濃度はホルモンと腎臓の動きにより調節され,一定に保たれている.主な電解質はナトリウム(Na),カリウム(K),カルシウム(Ca),マグネシウム(Mg),リン(P)などであるが,それぞれ,代謝異常が存在する.心電図変化がよく現れるのはK,Ca,Mgなどの代謝異常時である.

検査法の基礎検討のしかた 臨床化学検査・6

相関性試験

著者: 加藤隆則 ,   白井秀明 ,   桑克彦

ページ範囲:P.523 - P.525

 ユーザーの基礎検討は,メーカーでの基礎特性データを実践的に確認することである.ここでは患者試料を特定した測定試料を用いて行う相関性の試験法について示す.

ラボクイズ

問題:穿越液の細胞像

ページ範囲:P.514 - P.514

5月号の解答と解説

ページ範囲:P.515 - P.515

オピニオン

野茂投手のアメリカンドリームに想う

著者: 能勢義介

ページ範囲:P.498 - P.498

 外国へ行ったのは23年前,台北市の台湾大学医学部へ協同研究の打ち合わせで海外出張したのが最初であった.約1週間の滞在であったが異国での仕事への興味と,その土地での文化に触れたときは大きな驚きとともに,強烈な感動があった.特に小生の体験では若ければ若いほど,新鮮で感受性が強く,その後の人生に大きな影響を与えたように思う.1年後アメリカのノースカロライナ州にあるデューク大学の免疫学教室に4か月の短期間であったが,免疫学の研修を受ける機会を得た.
 日本は一度就職すると定年までの永久雇用制と年功序列制で特に学歴社会が幅をきかせているが,アメリカでは個人との契約社会で,個人の能力,実績が最も重要で,性別,年齢,肩書き(身分,地位,学歴)などは無縁の実力社会である.裏を返せば努力すればするほど報われる社会でもある.小生もこの期間中,世界中の研修仲間から実績が認められたことにより当初の2倍の給料が与えられた.そういった日本の学歴社会と異なる自由奔放な,いわゆるアメリカンドリームといわれる土壌がこの国にあったのである(最近ではドジャースの野茂投手が良い例).

けんさアラカルト

遺伝子検査導入の問題点

著者: 長沢光章

ページ範囲:P.506 - P.506

 現在,微生物検査室で実施可能な遺伝子検査として,polymerase chain reaction(PCR)などの増幅法により臨床材料から微生物抗原を直接検出するものと細菌集落(コロニー)を用いた同定検査があり,培養に長期間を要する場合や培養困難な微生物の迅速診断法として大変有用である.結核菌群,マイコバクテリウム・アビウム,マイコバクテリウム・イントラセルラー,クラミジア,C型肝炎ウイルス,mec A遺伝子(MRSA)などの検出・同定キットが診断薬として承認され,保険診療点数も認められ発売されている.
 しかし,数年前までは多くの検査室で遺伝子検査に対し大きな夢と期待を持っていたが,設備,人員,経費,操作性,コンタミネーション,特異性など多くの問題により,日常検査への導入は一部の項目を比較的大規模な検査室で実施している現状である.

トピックス

body mass indexの基準値

著者: 矢内充 ,   河野均也

ページ範囲:P.535 - P.536

■肥満の判定とbody mass index
 肥満とは,脂肪細胞の増加または肥大すなわち脂肪組織の増加した状態,と定義されている.肥満により心疾患,高血圧,高脂血症,糖尿病などのいわゆる成人病の発症頻度が高くなることが知られている.肥満の評価や栄養状態の評価には,本来,体脂肪量の実測が最も正確な方法であるが,現在のところまだ比較的簡単に測定できるものはみられない.そのため,身長や体重などから算出される種々の指数が用いられており,中でもbody mass index(BMI,体格指数と訳される)は,現在最も広く受け入れられ,使用されているものの1つである1).BMIは体重(BW,kg)と身長(H,m)を用いて,BMI=BW/H2という単純な式で求めることができるが,身長との相関性は低く,すなわち身長によらず一定の基準値で比較可能である点および体脂肪量とよく相関する点で他の指数より優れているといわれている.
 NIHの報告2)によれば,BMIが男性では27.8kg/m2,女性では27.3kg/m2以上で高血圧や高コレステロール血症のリスクが2倍から3倍程度増加することが示されており,肥満に対する警告は,より確かなものとなってきている.

抗リン脂質抗体による血小板減少

著者: 藤村欣吾

ページ範囲:P.536 - P.538

1.抗リン脂質抗体とは
 種々のリン脂質-蛋白複合体に対する抗体で,その中にはlupus anticoagulant(LA)と抗カルジオリピン抗体(anticardiolipin antibody;aCL)が知られている.LAは免疫グロブリンでプロトロンビン-リン脂質複合体を認識し,リン脂質依存性凝固反応を抑制するが,なかにはプロトロンビンと結合し,陰性荷電リン脂質へのプロトロンビンの結合を障害するものもある.これらの抗体は当初,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;SLE)症例において見いだされたためlupus anticoagulantといわれているが,必ずしもSLEに限って認められる抗体ではない.抗カルジオリピン抗体は直接陰性荷電リン脂質であるカルジオリピンに結合するのではなく,β2-GPIが陰性荷電リン脂質に結合して生ずるエピトープを認識する.カルジオリピンはプロコアグラント機能を持たないが,抗カルジオリピン抗体はβ2-GPIの存在下でプロコアグラント機能を有する,例えばホスファチジルセリン(phosphatidylserine;PS)のような陰性荷電リン脂質と結合し,リン脂質依存性凝固反応を抑える(aCL-Type A).これに対しaCL-Type Bは凝固活性を抑える機能を持たない.

滑膜肉腫の最近の知見

著者: 元井亨

ページ範囲:P.538 - P.539

 滑膜肉腫は若年成人に好発する軟部肉腫の1つであり,主として四肢の大関節近傍に発生する.軟部肉腫の中ではそれほどまれなものではなく,1985年から1994年まで10年間に東京大学医学部附属病院病理部に提出された軟部肉腫142例中,11例(7.7%)を占め,頻度としては4番目に多い.滑膜肉腫の特徴は主としてその上皮様の組織像にある.滑膜肉腫には代表的な3つの組織型があり,二相型(biphasic type)と呼ばれるものは上皮成分と紡錘形細胞成分の2つから構成されている.上皮成分では上皮様の細胞が明瞭な腺管構造を示し,腺腔内には粘液の貯留がみられることがある.扁平上皮様の形態を呈する場合もまれに観察される.また紡錘形細胞成分はいかにも肉腫様であり,均一な紡錘形細胞が密度高く配列している.この2つの成分が混在しており,両者の境界は通常明瞭でいわゆる二相性パターンを呈する.2つの成分の割合は症例ごと,あるいは1つの症例でも場所によって大きく異なっている.単相線維型(monophasic fibrous type)では明らかな上皮成分はみられず,主として紡錘形細胞で構成されている.また上皮成分が肉腫の大部分を占めているものは単相上皮型(monophasic epithelial type)と呼ばれる.その頻度は非常に低く,悪性上皮性腫瘍である腺癌などとの鑑別が問題になることがある.

DNA診断の完全自動化システム

著者: 萩原久

ページ範囲:P.539 - P.543

はじめに
 DNA鎖中の変異を塩基配列レベルで検出することは,現在DNA診断を行う最終的な確認技術としてとらえられている.この塩基配列決定技術は工程が煩雑であり,得られるデータは実験従事者の経験によるところが大きい.このようなデータ精度の不確定さは,検査技術として汎用化しルーチンに使用するには問題がある.そこでわれわれは高いデータ精度と均一化を目ざしてその自動化を試みた.本稿では,DNA鎖中の変異を100%検出できる方法であるorphan peak analysis(OPA法)1)をベースとした,サンプル処理の自動化および検出データの自動解析法について紹介する.

けんさ質問箱

Q エストロゲンレセプターの検査

著者: 内田賢 ,  

ページ範囲:P.544 - P.545

 乳癌の術後の治療の方針として生組織によるエストロゲンレセプターおよびプロゲステロンレセプター測定がEIA法で定量ができますが,このとき,病変部の多少によって定量の結果が異なると思われますが,どうしてでしょうか.組織の提出時の注意点なども教えてください.また,EIA法を用いて測定する方法も簡単に教えてください.

Q Enterococcus属の分類

著者: 河村好章 ,   江崎孝行 ,  

ページ範囲:P.545 - P.547

 Enterococcus属菌種の分類,同定および簡易同定キットなどありましたらご教示ください.

今月の表紙

細胞骨格

著者: 巽典之 ,   田窪孝行 ,   鎌田貴子

ページ範囲:P.534 - P.534

 細胞骨格という言葉が最近よく使われます.骨格という言葉にはあまり実感が湧いてこず「なぜこのような命名をしたの?」と思いがちですので,その意味を形でお示ししようとしたのが今回の写真です.図a,bは血小板を電顕メッシュの上に載せ,これに軽くトリトン処理を施した結果です.図aが走査型電顕像,図bが透過型電顕像です.細胞質内にまるで葉脈のごとく走っている線維が観察できるでしょう.この処理を血小板の活性化の過程に沿って経時的に行いますと血小板や白血球の収縮過程における線維形成機構,さらには機能発現のための細胞動態構造の変化を詳細に解析できます.白血球や血小板は非刺激状態では細胞質は微細小管系以外はまったく線維構造がなく顆粒成分のみが電顕像でとらえられます.ところが,いったん刺激が加わりますと瞬時に線維構造が形成されるのですから不思議と言わざるを得ないでしょう.
 図cは白血球からの精製収縮蛋白の2図であり,血小板からも同じ構造蛋白が観察できます.図の左が精製アクチン線維であり,右が精製ミオシン重合体です.ご存じのように蛋白質は本来透明な球状様構造をとり,分子量がアクチンで約5万,ミオシンで約22万ですので普通の電顕では見える分子サイズではありません.ところがこれが会合体・敵合体となって見えるようになります.このような電顕像を血液細胞で初めて私どもが論文に報告できたときの喜びはひとしおでした.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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