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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術24巻7号

1996年06月発行

雑誌目次

増刊号 感染症検査実践マニュアル

口絵

ページ範囲:P.6 - P.9

Ⅰ.バイオハザード対策

1.検査室

著者: 浅利誠志

ページ範囲:P.14 - P.15

 バイオハザードとは“生物災害”と和訳されているが,具体的には病原微生物だけではなく,その構成成分である蛋白・核酸や代謝産物である毒素などによって起こる生体への被害のすべてを意味している.現在,国内の微生物検査室のハード面におけるバイオハザード対策は極めて不十分であり,結核菌の薬剤耐性試験,真菌培養検査およびPCR検査など基本的にはP2〜P3レベルの安全実験室で行わなければならない危険な業務を通常の環境下で行っているのが現状である.
 本稿ではこれから検査室を新設または改築する場合のハード面における最低留意事項について解説する.

2.医療従事者

著者: 遠藤和郎

ページ範囲:P.16 - P.17

はじめに
 医療施設には,さまざまな病原微生物を持った患者が訪れ,また入院加療を行っている.しかし,どの患者がいかなる微生物に感染しているかを完全に把握することは不可能である.そのため,医療従事者が適切な感染管理対策を行わなかった際には,院内感染の媒介者になることがある.また,感染症を有する患者から,自らが感染を受けることもある.さらに,主に病院外で感染を受けた医療従事者が,易感染者に微生物を伝播させてしまうことすらありうる.検査技師(以下,技師)あるいは検査室内での感染管理について,臨床医の立場から述べてみたい.

3.消毒法

著者: 小林寛伊 ,   矢野久子

ページ範囲:P.18 - P.22

はじめに
 消毒とは微生物を生体にとって害のないレベルにまで減少させる過程である.
 消毒法は物理的消毒と化学的消毒に大別される.物理的消毒法には煮沸消毒,流通蒸気消毒法,間欠消毒法,紫外線照射消毒法がある.化学的消毒法としては消毒薬を使用する方法が最も頻繁に行われている.また,滅菌法として行われるエチレンオキサイドガスやホルマリンガスを,使用条件を変えて消毒として使用することもある.

Ⅱ.検査目的と検査内容

1.緊急検査

著者: 妙中信之

ページ範囲:P.24 - P.25

■緊急検査の目的と意義
 緊急検査とは,患者の病態を直ちに診断し,即刻,治療を始めるために行われるものである.感染症検査における緊急検査は次のような目的のために行われる.

2.起炎菌の検出

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.26 - P.27

はじめに
 微生物検査は主に感染症の起炎微生物の決定を目的として行われるが,最近は菌叢の監視,特定の院内感染菌の検出など,検査目的が多様化しており,検査室においても検査目的を考慮して検査内容を整備することが重要な課題となっている.ここでは起炎菌の検出を目的する微生物検査について述べる.
 起炎微生物の検出を目的とする検査では,①感染症の存在が疑われる患者から得られた検体であること,②検体が感染病巣を反映する良質なものであること,③患者の病状に応じた微生物検査が行われること,④検出菌の臨床的意義を適切に評価すること,などが検査の質を決定するうえで重要な事項である.この4点を中心に述べる.

3.菌叢の監視

著者: 渡辺正治

ページ範囲:P.28 - P.29

 微生物検査は目的によって,感染症の起炎菌を決定するための検査,常在菌叢の監視のための検査,特定の院内感染菌の検査などに分かれる.しかし,多くの場合,検査室に臨床側から検査の目的が伝えられることはまれである.一方,検査室側も検査目的から検査の内容を変更している場合は少ない.微生物検査がより臨床に役だつためには,臨床医が何を求めて検査を依頼しているのかをはっきりと把握し,より合理的に検査を実施することが大切であり,検査室の業務の効率化と省力化にもつながる.当検査室の細菌検査申込用紙は,①起炎菌決定の用紙,②常在菌叢の監視の用紙,③特定菌検出の用紙,の3種に分かれている.その依頼頻度を表1に示した.ここでは,常在菌叢の監視を目的とした検査について述べる.
 近年,感染に対する抵抗力の低下した患者が病院内に増加し,これら易感染要因を持つ患者は感染症の発症率が高く,発症後の進行も急速なため,迅速で正確な化学療法が必要となる.現在の感染症は内因性感染が主であり,将来の感染症の起炎菌を予測するためには,常在する菌叢の情報が有用であり,この目的のために監視培養が行われる.

4.特定菌の検出

著者: 久保勢津子

ページ範囲:P.30 - P.32

はじめに
 当検査室では,1993年9月より検査目的の多様化に対応させるため,通常の起炎菌決定のための検査,常在菌叢の監視のための検査,特定菌種の検出を目的とした検査という目的別検査を開始した.このことにより提出医が細菌検査を行う意図を明確にし,検査室側が各検体の検査目的を理解し,これに対応させた検査内容を用意し,仕事の効率化を図った.
 ここでは主に疫学的検査を目的とする特定菌の検査について述べる.

5.易感染性患者の検査

著者: 舟田久

ページ範囲:P.33 - P.35

はじめに―日和見感染の現状
 感染防御能の低下した宿主(易感染性宿主;immunocompromised host)に起こる感染を日和見感染(opportunistic infection)と呼び,おおむね平素無害な弱毒の微生物(日和見病原体;opportunistic pathogen)が原因となる.基礎疾患や助長要因には,悪性腫瘍,放射線照射や免疫抑制,後天性免疫不全症候群(AIDS),手術,熱傷や外傷による物理的バリアの破綻,糖尿病や尿毒症などの代謝性疾患,異物の存在がある.抗腫瘍薬治療,臓器移植,抗菌薬治療の進歩は,寿命延長と裏腹に易感染性宿主の増加をもたらし,カテーテルや医用材料の汎用は菌,特に表皮ブドウ球菌の付着による異物感染を増加させている.

6.院内感染菌の疫学調査

著者: 一山智

ページ範囲:P.36 - P.38

はじめに
 院内感染症の疫学は,病院内における感染症の存在,流行様式,感染経路,病原体保菌者の存在,あるいは環境に存在する微生物などを調査し,疾病の予防に貢献することを目的とする.臨床微生物学に携わる者にとって,これらの微生物の病原性の理解とともに,感染症の疫学的な解析も必要になってくる.
 本稿では上記疫学調査の意味と方法について述べ,院内感染の疫学調査に果たす検査室の役割について考える.

Ⅲ.検査に必要な患者情報

検査に必要な患者情報

著者: 茂籠邦彦

ページ範囲:P.40 - P.43

はじめに
 感染症の診断と治療には,原因微生物の検出が必要である.したがって,臨床細菌検査では感染症患者から原因菌を検出し,臨床医の診断と治療に対し適切な情報を迅速に提供することである.
 まず,細菌検査を始めるに当たっては,検査材料から原因菌を分離することである.それには適切な培養条件と培地が必要で,この条件が満たされなければ原因菌を分離することは困難である.依頼時の伝票に検査目的,臨床所見,海外渡航歴,検索希望菌種などの感染症に関連した情報が得られれば,原因菌となる病原菌を事前に推定できることもあり,より適切な条件で検査を進めることができる.また,分離菌に対する起因菌か否かの決定については,最終的には臨床医の判断が基本であるが,検査室にとっても分離菌の臨床的意義を考える場合に患者情報が不可欠である.

Ⅳ.検体の採取・保存・搬送

1.検体採取 1)呼吸器系材料および穿刺液の検体採取

著者: 浦敏郎

ページ範囲:P.46 - P.49

はじめに
 微生物検査で取り扱われる検査材料は,対象となる感染症や感染部位などの違いに応じて実に多種多様であり,検査室に提出されてきたこれらの検体が適切に採取されたかどうかということは,“微生物検査レポートの診断的価値”を左右する最も根本的な要因である.
 検体採取の基本は,感染徴候を伴う発病初期に,起因微生物が確実に存在する材料を,無菌的操作によって雑菌混入をできるだけ避けて採取することである.ただし,菌血症のように感染絶頂期における菌量がもともと少ない感染症や,感染病期における起因微生物の体内分布が変化する感染症(例えば,腸チフスでは発病初期は血液中から,数病日後は便で検出率が高くなる),あるいは慢性に推移した感染症の場合には,時期や材料を変えて数回の採取が行われる.また,抗菌薬投与に関しては,化学療法を開始する前に検体を採取しなければならないが,術後や免疫不全の患者では,抗菌薬投与が中断されることなく検体採取される例がみられる.抗菌薬投与後の検体では,抗菌薬不活化剤を用いることでその影響を回避できる場合もあるが,多くは菌検出率が低下することを覚悟しなければならない.

1.検体採取 2)泌尿・生殖器系材料,消化器系材料の検体採取

著者: 島川宏一

ページ範囲:P.50 - P.54

はじめに
 微生物検査を進めるうえで,これから検査しようとする材料が,患者の病巣から正しく採られているか?ということは,最も優先して考えるべき問題である.いかに高度な検査法を駆使し,正確にまた迅速に検査成績が得られたとしても,その検査材料が適正に採取されていなければ,その検査はまったく無意味なものとなってしまうのである.また,臨床に誤った情報を与え,逆に患者に不必要な処置を行ってしまうことにもなりかねないのである.感染症の起因菌を的確にとらえ,その診断率を高めるためには,検体採取方法において注意すべき点を遵守し,目的に応じた採取法を実施する必要がある.
 本稿では,まず検体採取時において一般的に注意すべき点について述べ,次に泌尿・生殖器系材料および消化器系材料における実際の検体採取法と採取時における注意点について述べる.

2.検体の保存と搬送

著者: 犬塚和久

ページ範囲:P.57 - P.59

はじめに
 微生物検査に供する検体は,採取後直ちに培養を実行するのが原則である.しかし採取時間や,検査室のシステム上やむを得ず保存する場合は,乾燥,温度,酸素や化学物質などを考慮し,それぞれに適した輸送容器や保存培地を選択する必要がある.

Ⅴ.各種検査法の特徴とその適応と限界

1.塗抹検査

著者: 森伴雄

ページ範囲:P.62 - P.64

はじめに
 わが国の臨床細菌検査は培養同定にかなりの労力,経費をかけるが,臨床材料の外観や塗抹検査はとかく軽視されている.臨床医からの依頼がない場合には塗抹検査を省略している検査室も少なくない.果たしてこのような検査で,正確で迅速な検査報告ができるだろうか.塗抹検査にはグラム染色をはじめ,微生物の菌体構造(芽胞,莢膜,異染小体,鞭毛など)や特定菌を目的の特殊染色(抗酸菌染色,ラクトフェノール・コットン青染色,トルイジン青-O染色,グロコット染色,PAS染色など)があるが,ここでは誌面の都合上,グラム染色鏡検について述べる.

2.培養検査 1)分離培養

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.65 - P.67

はじめに
 分離培養は患者検体中に含まれる微生物をそれぞれの種類ごとに,純粋に取り出すための操作である.細菌分離のための培養法や培地は,近年,優れたものが次々と登場しており,時間と費用の制約を無視すれば精度の高い検査を実施できるに至っている.しかし,臨床検査では,迅速かつ安価な方法で行わなければならず,用いる培地数や培養時間を最小限に抑える必要がある.ここでは分離培養,すなわち細菌培養検査における分離培養の適応と限界について述べる.

2.培養検査 2)同定

著者: 三澤成毅

ページ範囲:P.68 - P.70

はじめに
 微生物検査領域における同定検査は,近年の各種同定用キットや自動化機器などの開発によって,その精度と労力が従来法に比べて著しく改善された.一方では,依然として同定が困難な菌種が残されていることや,分離菌すべてに正確な菌種名を求めることが感染症の診断・治療にとって必ずしも必要とされないこともある.臨床検査室では,同定が学問上のそれとは目的を異にしていることを常に念頭に置いて検査に臨む必要がある.
 ここでは,検査室における同定検査の適応とその限界,ならびにキットや自動化機器の使用において注意する点とデータのチェック法について述べる.

2.培養検査 3)感受性検査

著者: 古谷信彦 ,   山口惠三

ページ範囲:P.71 - P.73

はじめに
 感染症の診断と治療のためには,患者を取り囲む無数の微生物の中から起炎菌を正確に見つけ出し,それに最も有効な抗菌薬を投与しなければならない.薬剤感受性検査は適切な抗菌薬の選択に重要なものであるばかりでなく,そのほか抗菌薬相互の抗菌活性を比較検討するうえでも欠くことができない検査となっている.
 本稿では薬剤感受性検査の種類と特徴および問題点について言及する.

3.免疫学的検査

著者: 望月照次 ,   中村良子

ページ範囲:P.74 - P.76

 感染症の診断に最も重要なことは“病原体の検出”である.しかし,病原体の検出は“培養”を必要とし,検査結果を得るのに長時間を要する.そこで,臨床側は患者の症状に基づいて感染症の有無を判断,推察し,直ちに抗生物質の投与などの治療を開始することが多い.このような現状から,より正確な診断と治療を実施するために病原体の感染の有無,感染状態の把握を直接あるいは間接的に,しかも迅速に証明することが要望されている.
 病原体の迅速な証明方法の1つに抗原抗体反応を利用した免疫学的手法がある.感染症の免疫学的検査法は表に示すように,病原体の菌体または菌体からの産生物質を特異抗体の使用により検出する方法,すなわち“抗原検出”と,病原体により産生された抗体を特異抗原の使用により検出する“抗体検出”に大別される1)

4.遺伝子検査

著者: 山本健二

ページ範囲:P.77 - P.78

はじめに
 コッホらが,人間の病気の一部は微生物が起こすと考えるようになって以来,人類は肉眼では見えざる敵(微生物)と戦ってきた.戦うためには,まず敵を知らなければならない.そこで分類法が発達した.以前より微生物の分類法として,存在する場所(腸内細菌など),コロニーの大きさ,様子(ラフ,スムース),におい,運動性,栄養要求性(選択培地など),その顕微鏡下での形や大きさ(球菌,桿菌など),特定の色素に染まるかどうか(グラム染色など),また特定の抗体が認識できるかどうかなどを利用して行われてきた.
 微生物の同定検査法に遺伝子を利用する技術が近年進歩している.それまで遺伝学的マーカーとして表現形質が主に用いられてきたが,現在,遺伝子そのものがマーカーとして利用できるようになった.この遺伝子を利用した微生物検査法を紹介し,その利点,欠点を考えたい.

Ⅵ.感染症とその検査法

1.呼吸器感染症 1)上気道感染症

著者: 後藤陽一郎

ページ範囲:P.80 - P.84

はじめに
 上気道炎とは,咽頭,喉頭,鼻道などの上気道の急性炎症性病変を総称して呼んでいる.原因としては,ウイルス,細菌などによる感染性因子と寒冷,アレルギー,喫煙などによる非感染性因子に分けられるが,ほとんどは感染性因子が関与していることが多い.病原微生物は多彩である.主としてはウイルスであるが(80〜90%),その種類は多岐にわたる.
 日常診療においては最も普遍的な疾患であり,一般的に症状は重篤化することなく数日の経過により治癒する.いわゆる“かぜ症候群”と類似の症状である発熱,くしゃみ,鼻汁,鼻閉,咽頭痛などの症状がみられ,厳密に両者を区別することは困難である.“かぜ症候群”から,最も強く侵されている部位が下気道感染と肺炎の場合を除いたものと考えるとよい.

1.呼吸器感染症 2)下気道感染症

著者: 横山俊伸 ,   川山智隆 ,   本田順一 ,   大泉耕太郎

ページ範囲:P.85 - P.89

 気管支炎,気管支肺炎,肺炎,肺化膿症などの下気道感染症は,起因微生物による以外に種々に区分される.すなわち,発症背景より市中感染と院内感染に区分され,また患者の基礎疾患の有無により健常者における肺炎・気管支炎と呼吸器基礎疾患に伴う感染増悪などに大別される.さらに低栄養・低免疫状態にある者における日和見感染症は独立して取り扱われる.このほか特殊な呼吸器感染症として肺結核,気管支結核,非定型抗酸菌症などがある.
 上記の各条件下に発症した呼吸器感染症には,いずれも起因微生物に一定の傾向がある.したがって治療に際し,起因微生物が確定していない時点では,これを念頭に置いた治療,すなわちempiric therapyにより対処することが可能である.

1.呼吸器感染症 3)肺実質

著者: 平泻洋一 ,   河野茂

ページ範囲:P.90 - P.94

 呼吸器感染症は,解剖学的に病変の主体がどこにあるか,急性か慢性か,宿主に基礎疾患があるか否かにより病態が大きく異なり,原因となる病原体にも各々特徴が認められる1〜3).ここでは,肺実質感染症についてその病態,主要な病原体およびその検査方法について解説する.

1.呼吸器感染症 4)結核と非定型抗酸菌症

著者: 斎藤肇

ページ範囲:P.95 - P.100

はじめに
 先進工業諸国における結核は年とともに順調に減少し,もはや過去の疾患として人々の関心は薄らぎ,軽視されがちであったが,近年になってその鈍化あるいは増加傾向すらみられるようになり,その一因としてHIV感染との相関が明らかにされている.さらに,とりわけ米国において,AIDS患者における多剤耐性結核菌の出現あるいはそれによる結核の集団発生やMycobacterium avium complex(MAC)による日和見感染は極めて重要な問題として学界の関心を集めているところである.
 上述したような背景に立って結核ならびに非定型(非結核性)抗酸菌症にまつわる諸問題,とりわけこれらの感染症の細菌学的検査法を取り上げ,その現状と問題点について解説したい.なお,誌面が限られているため,検査操作法の詳細については原著を参照されたい.

2.肝・胆道感染症

著者: 品川長夫

ページ範囲:P.103 - P.105

 肝・胆道感染症では,Escherichia coli,Bacteroides fragilis groupをはじめとする腸内細菌が関与する感染症が多く,しかも複数菌感染となることが多い.これに悪性腫瘍などの基礎疾患および胆道の狭窄・閉塞などの宿主側の全身的ならびに局所的要因が関与するため,感染症の治療には起炎菌の同定とともに病態の的確な把握も重要である.
 ここでは肝・胆道感染症の解説と細菌学的検査法の要点について述べる.

3.上部尿路感染症

著者: 佐久本操 ,   松本哲朗

ページ範囲:P.106 - P.110

■主要疾患と病原体
 上部尿路感染症は腎臓,尿管など上部尿路の感染症であり,その類似疾患や腎周囲炎を含める.

4.下部尿路感染症

著者: 那須良次 ,   公文裕巳

ページ範囲:P.111 - P.114

 下部尿路感染症とは膀胱と尿道の感染症を包括する名称である.本稿では一般細菌による膀胱炎を中心に述べるが,その他の微生物による膀胱炎,尿道炎,さらに泌尿器科領域の重要な感染症である前立腺炎についても概説する.

5.消化管感染症

著者: 相楽裕子 ,   今村清子

ページ範囲:P.115 - P.118

はじめに
 消化管感染症として最もポピュラーなのは下部消化管すなわち腸管感染症であり,新しい病原体が次々に発見されてきたが,疾患自体は自然治癒傾向が強く,対症療法さえ誤らなければ死亡することはないと考えられてきた.しかし,易感染性宿主が増えた現状では必ずしも楽観できなくなった.さらに近年は感染症がまれであった上部消化管感染症にもホットな話題が多い.以下にこれらの感染症の現況と検査法について述べる.

6.性感染症 1)古典的4疾患—梅毒,淋病,軟性下疳,鼠径リンパ肉芽腫症

著者: 広瀬崇興

ページ範囲:P.119 - P.123

はじめに
 性感染症(sexually transmitted diseases;STD)は性的接触により伝播する疾患であり,現在では表1に示すウイルスから寄生虫までの多数の病原体による種々の疾患が含まれる.ここでは古典的4疾患と呼ばれる疾患について解説する.これは1948年に本邦で施行された性病予防法において定義された4疾患であり,医師は都道府県知事に届け出る義務がある.しかし,施行から50年近く経た現在では,梅毒と淋病はいまだ問題となっているものの,軟性下疳と鼠径リンパ肉芽腫症はほとんどみかけない.

6.性感染症 2)HIV,Ureaplasma,単純ヘルペス,パピローマウイルス

著者: 小花光夫

ページ範囲:P.124 - P.130

はじめに
 近年,性行動の多様化と人の交流の国際化に伴い,性感染症(sexually transmitted diseases;STD)に関与する病原微生物は極めて多様性を呈している.古典的な四大性病のみならず,各種ウイルス,Chlamydia(trachoma biovar),Ureaplasma,赤痢アメーバなどが加わり,本邦でもウイルス感染症の占める地位が徐々に高くなっている.本稿ではウイルスとUreaplasmaによるSTDについて解説する.

7.外科領域の感染症

著者: 小野成夫

ページ範囲:P.131 - P.135

 病原微生物ならびに微生物の産生する毒素によって起こる炎症を感染という.しかし,病原微生物が生体内に生息していても必ずしも感染が起こるわけではなく,気道,消化管などには常在細菌として多種多数の微生物が生息するが,通常は感染は起こさない.感染とは,微生物が生体内で繁殖して組織を破壊するなど有害に働き,これに対して生体の防御反応が惹起された状態をいう.
 外科的感染症には外科的処置を必要とする感染症と外科的処置に伴って発症する感染症がある.

8.産婦人科領域の感染症

著者: 久保田武美

ページ範囲:P.136 - P.140

■主要疾患と病原体
 産婦人科で取り扱う主な感染症は女性下部性器および骨盤内臓器の感染症である(図).そのほかに,妊娠中の母体が保有している微生物の児への感染,すなわち母子感染をも取り扱う.以下,産婦人科の代表的疾患とその起因微生物を順次記載する.

9.耳鼻咽喉科領域の感染症

著者: 鈴木賢二 ,   馬場駿吉

ページ範囲:P.141 - P.144

はじめに
 耳鼻咽喉科領域の器官の多くは生体が外界と接する最前線にあり,感染症の好発部位となっている.よってわれわれ耳鼻咽喉科医は日々の臨床において,中耳炎,副鼻腔炎,扁桃炎をはじめとして多くの感染症に遭遇している.これら耳鼻咽喉科領域感染症を診断治療するに当たり,われわれが最もよりどころとしているのが微生物検査の成績,すなわち原因微生物の同定と薬剤感受性試験成績である.
 この微生物検査は,抗菌薬に対する細菌の感受性が著しく変化してきている昨今では至適治療薬剤の選択の指標として極めて重要かつ不可欠な検査となっている.また,われわれ臨床医は検体採取と同じ日から治療を始めるのが一般的であるので,各疾患における起炎菌についての知識が必要であることは論を待たないのだが,検査データと臨床との不一致など時々耳にすることもあり,検査する技師にも起炎菌に関しての十分な知識が必要であろうと思う.さらに耳鼻咽喉科領域の鼻腔・口腔・咽喉頭にはいわゆる常在菌が存在しており,原因微生物決定に当たっては,それら常在菌に関する知識も重要である.

10.眼科領域の感染症

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.145 - P.149

 眼科領域の感染症は,抗菌薬の開発と宿主側因子の関与により日和見感染症が主要な位置を占めている.また検査法の進歩(PCR法など)により,非感染性の疾患の中にも新たに病原体の関与が推定されているものがある.
 以下に眼科感染症の現況と,その検査法について概説する.

11.中枢神経系の感染症

著者: 中村明

ページ範囲:P.150 - P.154

■主要疾患と病原体(表1)
 主要疾患および病原体については表中に下線を付した.表中では感染部位別に分類してあるが,本文では起炎病原体別に記述する.

12.菌血症・感染性心内膜炎

著者: 小林芳夫

ページ範囲:P.155 - P.158

■主要疾患と病原体
 血液中から菌を検出する疾患ならびに病態は図1に示した.血液培養検体から検出される菌はこのいずれかの疾患あるいは病態から検出される菌である.細菌検査室においては血液培養を行うに際しこれらの疾患や病態を熟知しておく必要がある.
 まず広義の菌血症から解説すると,血液は本来無菌である.したがって血液培養により菌が検出された場合にはとにかく広義の菌血症(bacteremia)と呼ぶことになる.一過性菌血症(transient bacteremia)とは例えば扁桃摘出術や抜糸後に血中に菌を証明するが,悪寒・戦慄・発熱などの症状が非常に軽微であるか,あるいはこれらの症状を欠くものをいう.この場合には継続して菌を証明することはない.

13.皮膚・軟部組織感染症

著者: 神崎寛子 ,   荒田次郎

ページ範囲:P.159 - P.162

 皮膚軟部組織の一般細菌感染症は,その臨床形態から診断がつき,原因菌が推定できる点で他の領域の感染症と異なる.
 皮膚および皮膚付属器感染症から分離される細菌は図11)に示すとおりである.黄色ブドウ球菌が過半数を占め,次いでコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)が多い.グラム陰性桿菌の中では緑膿菌をはじめとするPseudomonas属が多い.化膿レンサ球菌の検出率は低いが,これは細菌培養が困難な感染症に多く,また抗菌薬が投与されてしまうと菌の検出率がかなり低くなるためである.

14.嫌気性菌感染症

著者: 中村功 ,   国広誠子

ページ範囲:P.163 - P.166

はじめに
 嫌気性菌感染症はごく普通に存在し,比較的軽症なものから難治性の膿瘍を形成するものや重篤で致命率が高いものまで多彩である.しかるに日常の臨床において嫌気性菌感染症はしばしば見過ごされている.こうなった主な理由として次の3点が考えられる.①多くの臨床医はClostridium属以外の無芽胞嫌気性菌に関する知識が乏しく,したがって無芽胞嫌気性菌感染症に対する関心が欠如している.②酸素に接触すると短時間に死滅する嫌気性菌を検索するための検体の採取と運搬に特別な配慮が必要である,③臨床的に重要な嫌気性菌を分離・同定する能力がない臨床細菌検査室が少なくない.
 破傷風,ガス壊疽などの特殊な感染症を除けば,嫌気性菌感染症は粘膜面の常在菌叢を構成している菌群による内因感染症である.嫌気性菌感染症は通常複数菌感染で,1症例から2種類以上の嫌気性菌,あるいは1〜多種類の嫌気性菌と1〜多種類の通性嫌気性菌や偏性好気性菌(以下,好気性菌と略す)が分離されることが多い.1症例から分離される嫌気性菌の数は,嫌気性菌検査技術のレベルに比例して多くなる.栄養要求が厳しく発育が遅いPrevotella属やPorphyromonas属などの黒色色素を産生するグラム陰性桿菌を多数分離できるようになればしめたものである.

15.レプトスピラ・ボレリア感染症

著者: 川端眞人

ページ範囲:P.167 - P.170

はじめに
 Leptospira属,Borrelia属,さらに梅毒の病原体が含まれるTreponema属は細長く,柔軟な,らせん状の基本形態で活発に運動するスピロヘータの仲間である.Treponema感染による梅毒はSTD(性感染症)として扱われる.Leptospira感染であるレプトスピラ症とBorrelia感染であるライム病はともに人畜共通感染症で,野生動物や節足動物が感染サイクルに関与しており,国内では風土病とされている.これら2つの感染症は頻度の高い疾患ではないが,流行が予測される地域では感染者と遭遇する可能性があり注意が必要である.LeptospiraおよびBorrelia感染は流行地域と流行時期には一定の原則があるため,その理解が診断の重要なポイントとなる.
 本稿ではこれら2種の感染症の病原体および臨床像の概要を述べ診断法を解説する.

16.クラミジア感染症

著者: 松本明

ページ範囲:P.173 - P.177

■主要疾患と病原体
 Chlamydia(クラミジア)は生きた宿主細胞内でのみ増殖できる偏性細胞寄生性細菌である.細菌である証拠は次の性状による.①環状二重鎖の染色体DNAとmRNA,tRNA,rRNAを持ち,リボソームは70 Sである.②細胞壁(外膜)と細胞質膜(内膜)に包まれ,二分裂増殖する.③抗生物質に感受性である.さらに多くの場合プラスミドを有する.Chlamydia属はChlamydia trachomatis(トラコーマクラミジア),Chlamydia psittaci(オウム病クラミジア),Chlamydia pneumoniae(肺炎クラミジア),Chlamydia pecorumの4種類からなる(図1).C. pneumoniae以外には生物型や血清型がある.C. trachomatis,C. psittaci,C. pneumoniaeの3種がヒトに感染症を起こす.C. pecorumは反芻動物の病原菌であるが,ヒトの感染症例は知られていない.
 C. trachomatisは眼感染症や尿路性器感染症の原因菌で,本邦では現在,性感染症(seuxally transmitted diseases;STD)の主要病因菌である.産道感染によって新生児の眼,呼吸器にも感染症を起こす.C. psittaciは国内では主としてペット鳥から伝播するオウム病の病原菌であるが,ヒト-ヒト伝播はほとんどない.

17.リケッチア疾病

著者: 海保郁男

ページ範囲:P.178 - P.180

 リケッチア症とはRickettsia属の病原体に感染することで起こる疾病である.1994年まで,Rickettsia属は発疹チフス群,紅斑熱群,つつが(恙)虫病群の3群に分類されていた.しかし1995年,Rickettsia tsutsugamushiの16 S rRNAの塩基配列が決定され,紅斑熱群,発疹チフス群リケッチアの16 S rRNAとの比較,およびこれら病原体の膜成分の相違などから,R. tsutsugamushiは新たにOrientia属を創り,Orientiatsutsugamushiとしてこの属に含まれることとなった1).この結果,Rickettsia属による疾病は発疹チフス群および紅斑熱群の2群によるものとなる.しかし,日本においてリケッチア様疾病で最も患者数が多いのはつつが虫病であり,また一部の地域では紅斑熱群リケッチア症も発生している.このため,本稿ではこの2疾病について検査法を中心に述べる.

18.表在性真菌症

著者: 西本勝太郎

ページ範囲:P.181 - P.184

■表在性真菌症とは(主要疾患と病原体)
 真菌の寄生によって生じる感染症のうち,原因菌が皮膚の角層や毛・爪のように,核を持たない細胞または組織に寄生した場合を表在性真菌症という.主な疾患とその原因菌を表1に挙げる.

19.内臓真菌症

著者: 久米光 ,   阿部美知子

ページ範囲:P.187 - P.191

はじめに
 周知のごとく,内臓真菌症は診断技術の向上と新規の抗真菌薬の製品化によって,少なくとも剖検例でみる限り従来みられていた顕著な増加の傾向が頭打ちとなりつつある.しかしながら,内臓真菌症のうち重症型の占める割合は依然として増加の一途をたどり,死亡診断書に死因として記載される症例の増加も同様である.
 本稿では,医療人の1人として検査技師の方々が本症の疾患概念を総括的に理解しておくべきであるという立場から,最も代表的な内臓真菌症について,治療を除く多角的観点から以下解説する.

20.食品由来寄生虫症

著者: 丸山治彦 ,   名和行文

ページ範囲:P.192 - P.196

はじめに
 寄生虫症は,かつて日本ではありふれた疾患であった.医療関係者にとって寄生虫疾患の検査・診断はルーチンワークに属するものであり,検便をはじめとする各種検査で寄生虫の虫卵や虫体を発見することはごく日常的な出来事であった.ところが30〜40年の間に日本の寄生虫保有者数は激減し,寄生虫症は一般に“克服されてしまった過去の病気”とみなされるようになった.現在ではなんらかの症状があるときに患者はもちろんのこと,医師でも寄生虫疾患を疑うことはまずないであろう.また実際に,寄生虫疾患の頻度は高くはなく,検査材料中に虫卵や虫体が発見されることも頻繁にあることではない.しかし,寄生虫疾患は日本から消滅してしまったわけではないし,ごく一部の限られた地域にだけ発生しているわけでもない.最近しばしば話題になっているいわゆる輸入寄生虫症だけではなく,古典的な回虫や吸虫の“在来種”による寄生虫症は現在も実際に日本各地で発生している.
 寄生虫症が存在しない,と思い込むことの弊害は顕著である.寄生虫という原因がわからないために悪性腫瘍などを疑って,結果的には不必要でしかも高額な検査を繰り返し,その間不適切な治療が行われることになる.また,どうしても診断がつかず症状も軽快しないとなれば,患者は入院したまま退院できないことになり,患者とその家族に経済的負担を強いる.さらにあまりにも時機を逸すると寄生虫症の診断を得た後でも治療が難しくなる場合がある.

21.ペット由来の人畜共通寄生虫症

著者: 赤尾信明 ,   藤田紘一郎

ページ範囲:P.197 - P.200

はじめに
 人畜共通寄生虫病とは,ヒトから他の動物に,あるいはヒト以外の動物からヒトに感染しうる寄生虫によって起こる病気のことをいい,1979年に発表されたWHOの分類によれば,105種類以上の病原体による63の疾病が列挙されている6).その一部を表1に挙げる.動物由来の寄生虫がヒトに感染する経路としては,①魚や肉などの食品を介しての感染,②動物の寄生虫が直接ヒトに感染,③節足動物(ダニ・蚊など)が感染を媒介するという3とおりである.ここでは②と③に含まれる人畜共通感染症の中で代表的な疾患について解説する.
 動物から感染する寄生虫を2つに分けると,①寄生虫それ自身に宿主特異性がなく,ヒトを含めいろいろな動物に感染しうる寄生虫と,②本来は動物の寄生虫であったものが偶発的にヒトに侵入し,さまざまな症状を引き起こすものとに分けられる.前者の代表的な寄生虫がトキソプラズマ症であり,後者にはトキソカラ症をはじめとするイヌやネコ由来のさまざまな寄生虫による疾病が含まれる.

22.輸入熱帯病としての寄生虫症

著者: 大友弘士

ページ範囲:P.201 - P.205

はじめに
 わが国における寄生虫症の流行動向をみると,かつて国内全土に蔓延していた腸管寄生虫症,あるいは特定地域の風土病であった日本住血吸虫症や糸状虫症などは,戦後の目覚ましい経済成長に伴う生活水準の向上,環境整備,農業形態の近代化,食生活の改善,広域駆虫薬の開発,寄生虫対策の浸透と衛生思想の普及,医療の進歩などにより,そのほとんどが絶滅に近い状態にまでコントロールされ,世界に類のないほど清潔な国内環境を保つに至っている.
 ところが,最近の生活様式と食生活の変化,社会情勢の変遷,医療の進歩などに伴って寄生虫の感染要因が多様化し,従来の土着寄生虫症に代わる新たな人畜共通感染症,日和見感染症,性感染症に属する寄生虫症のほか,国際化時代を迎えて輸入熱帯病に属する寄生虫症が臨床の場で重要な疾患として注目されるようになっている.そこで,本稿ではわが国には存在しない多くの疾患が含まれるため,その医療対応に少なからぬ問題が提起されている輸入熱帯病としての寄生虫症の危険性について解説することにする.

23.性感染症としての寄生虫症

著者: 竹内勤

ページ範囲:P.207 - P.210

はじめに
 性感染症(sexually transmitted disease;STD)の領域では性風俗の変化など種々の要因によって世界中で疫学相の変化を伴った疾患や,それまで知られていなかった新しい疾患がここ何年かで見いだされてきている.例えばHIV感染によるAIDSなどは後者に属するし,1980年代当初の男性同性愛者のsexualactivityの増大に起因したoral-anal sexによる経口感染症の発生などは前者の例として挙げることができよう.このように性感染症はそれぞれの時代においてその特徴を如実に反映して変化してきている.
 本稿においては寄生虫領域で性感染症の病原体となり得る内部寄生虫(endoparasite;人体の内部臓器に寄生する)と外部寄生虫(ectoparasite;人体の外表面に寄生する)について病原体の概要,疾患像,診断法などを概観し,併せて日常これらの検査に携わる一般検査室での注意事項などをも述べたい.

24.日和見感染症としての寄生虫症

著者: 辻守康

ページ範囲:P.211 - P.214

はじめに
 宿主である人が健康な場合には増殖が抑えられて不顕性感染のかたちをとっており,宿主に免疫能の低下など防御機構の不全が起こった場合に発症する寄生虫症をいう.未熟児,虚弱児,栄養不良者,先天性免疫不全患者,後天性免疫不全症候群(AIDS)患者あるいは白血病や悪性腫瘍,臓器移植などの治療の目的でステロイド剤や制癌剤など免疫抑制剤を投与した場合にみられる.最近話題となっている疾患としてニューモシスチス・カリニ肺炎,クリプトスポリジウム症が有名である.広義の日和見感染症としてはその他トキソプラズマ症,赤痢アメーバ症,糞線虫症,腸カピラリア症なども含まれるが,これらの疾患は免疫不全でない場合でも感染により発症がみられるので,本稿では前記の2疾患について述べることとする.

25.古典的ウイルス感染症

著者: 目黒英典

ページ範囲:P.215 - P.218

麻疹
■主要疾患と病原体
 麻疹(measles)はRNAウイルスのパラミクソウイルス科に属する麻疹ウイルス(measles virus)による疾患である.麻疹ウイルスに亜型はなく,他のヒトのウイルスとは血清学的に交差反応はないが,イヌジステンパーウイルスとは交差する.
 通常の麻疹はコプリック斑(頬粘膜の内疹),カタル(呼吸器)症状,発熱と発疹の関係,特有の発疹と色素沈着などから臨床診断は容易である.発疹性疾患だが,全身性ならびに呼吸器症状の強い重症疾患である.日本では生ワクチンの効果により,その発生は減少してきている.潜伏期は9〜12日である.ただ,麻疹の減少した国に共通することだが,診療経験のない医師が増えてくると診断が遅れるケースも出てくるだろう.

26.ウイルス性肝炎

著者: 飯田眞司

ページ範囲:P.219 - P.222

■主要疾患と病原体
 1.A型肝炎
 A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus;HAV)により感染する.HAVはピコルナウイルス科ヘパトウイルス属のRNAウイルスで直径7nmの正二十面体をしており,外殻は持っていない.HAVは酸(pH3.0)に耐性で,ペプシン・トリプシンなどの蛋白分解酵素にも耐性である.このため経口的に侵入しても胃で不活化されることなく腸管に達すると考えられているが,HAVが腸管で増殖している証拠は得られていない.
 潜伏期は2〜6週間.通常HAVに汚染した飲食物を経口摂取することにより感染する.飲料水や生カキなどの貝類によるものがほとんどで流行発生,季節的発生をする.散発性急性肝炎の約20%を占める.遷延することはあるが,慢性化せず治癒するため無症候性キャリアはない.重症例,特に高齢者では腎不全を合併することがある.また,まれに劇症肝炎を起こすことがある.最近では,A型肝炎ウイルスのワクチンも発売になり,予防も可能になっている.

27.EBウイルス感染症

著者: 菊田英明

ページ範囲:P.223 - P.226

はじめに
 エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus;EBV)は,ヒトに普遍的なウイルスで,日本では2〜3歳までに80〜90%が感染を受ける.その初感染の大多数は不顕性感染であり,ときに伝染性単核症(infectious mononucleosis;IM)を発症する.EBVの感染はEBVレセプター(CR2,CD21)を介して起こるため,EBV感染細胞はBリンパ球と上皮細胞であることが通説であった.しかし近年Tリンパ球にEBVが感染している症例が多数報告され,EBVとTリンパ球の関連が注目されてきている.
 EBVとの関連が示唆されているIM以外の疾患としては,バーキットリンパ腫(Burkitt's lymphoma;BL),鼻咽頭癌(nasopharyngeal carcinoma;NPC),胃癌,慢性活動性EBV感染症(chronic active EBV infection;CEBV),ウイルス関連血球貧食症候群(virus-associated hemophagocytic syndrome;VAHS),ホジキン病(Hodgkin's disease;HD),免疫不全症(先天性,後天性)患者でみられるEBVによるリンパ球増殖疾患の日和見発症などがある.

28.サイトメガロウイルス感染症

著者: 南嶋洋一 ,   峰松俊夫 ,   吉田朱美

ページ範囲:P.227 - P.230

■主要疾患と病原体
 サイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV)は,ヘルペスウイルス科のベータヘルペス亜科に分類される,極めてありふれたウイルスであり,日本人成人の90%以上が抗体陽性である.CMVは向汎性のウイルスであり,全身の種々の細胞や組織に感染し,抗体の存在下に持続感染する.CMVの初感染は通常不顕性感染として経過するが,胎児,移植患者,AIDS患者などの易感染性宿主においては,肺炎,網膜炎,消化管潰瘍など,多彩で重篤な感染症を起こしうる.
 初感染の後,CMVは既感染者の体内のどこかに潜伏感染(ウイルスゲノムは存在するが,感染性ウイルスは産生されない状態)を起こし,生涯を通して体内に存続する.CMVのゲノムは,ときに種々の要因で再活性化して回帰感染(潜伏していたウイルスゲノムからの感染性ウイルスの産生)を起こし,易感染性宿主においては発症(回帰発症)をきたす.特に,妊娠,移植,輸血,悪性腫瘍,免疫不全など細胞性免疫の低下と同種免疫反応が共存するような条件下では,CMVは再活性化しやすく,内因感染によるCMV感染症が成立する.

29.ウイルス性腸管感染症

著者: 藤田晃三

ページ範囲:P.231 - P.234

はじめに
 急性感染性胃腸炎は細菌,ウイルス,原虫などの微生物によるが,小児期の胃腸炎は細菌によるものよりウイルス性のものが多く,特に乳幼児期にみられるものの大部分はウイルス性である.また,成人においてもウイルス性胃腸炎の流行をみることがある.日常検査で原因ウイルスのすべてを決定することは困難であるが,急性胃腸炎の原因として多いウイルスとその簡便な検査法を中心に概説したい.

Ⅶ.抗菌薬の抗菌力試験

1.薬剤感受性試験—希釈法

著者: 坂東明美 ,   奥住捷子

ページ範囲:P.236 - P.238

はじめに
 マイクロプレートを用いた微量液体希釈法(microdilution broth method)が考案されて以来,希釈法が日常検査に導入され始めた.
 液体培地の中に段階的に希釈した抗菌薬を添加し,それに菌を植える.菌の発育が阻止される抗菌薬の最低濃度を最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration;MIC)という.ただし,これは静止的なもので,菌を完全に殺す濃度ではない.殺菌に必要な最低濃度を測定するためには,液体希釈法でMICを測定した後,発育の阻止された各濃度のブイヨンを平板に接種,培養し,集落の認められない濃度を知る.これを最小殺菌濃度(minimal bactericidal concentration;MBC)という.

2.ディスク拡散法

著者: 相原雅典

ページ範囲:P.239 - P.241

はじめに
 薬剤感受性検査の標準法は希釈法であるが,ディスク拡散法は簡便性,経済性および融通性ともに優れ臨床検査室で最も汎用されている方法である.ディスク拡散法は被検菌を接種した培地に一定濃度の抗菌薬を含ませた円形濾紙(感受性ディスク)を置き,ディスクから培地内に溶出する抗菌薬が作る濃度勾配により,培地表面で増殖しようとする菌をどこまで阻止するのかを知る方法である.阻止帯径の大きさは感受性の指標とされるが,そのためには希釈法で得られた最小発育阻止濃度(MIC値)と相関することが前提となる.薬剤感受性検査を正しく遂行するためには,MICと阻止帯の関連や,成績の解釈について正しい知識が必要である.

3.耐性因子の検出

著者: 高橋綾子

ページ範囲:P.242 - P.244

はじめに
 化学療法薬に対する薬剤耐性因子はさまざまであるが,なかでもβ-ラクタム剤に対する耐性因子の検出とその評価は重要である.
 臨床分離細菌のβ-ラクタム剤の耐性機構は,外膜の変化に伴う透過性の減少,薬剤の標的蛋白質〔ペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein;PBP)〕の変化,β-ラクタム剤加水分解酵素のβ-ラクタマーゼによる薬剤の加水分解などがある1).耐性菌の多くは薬剤の加水分解によると考えられるため,検査室では病原菌のβ-ラクタマーゼ測定が重要になってくる.

4.判定基準

著者: 山根誠久

ページ範囲:P.245 - P.248

 各種の臨床材料から分離された菌株を用いて,特定の抗菌薬を対象にその抗菌活性が測定され,常用量の抗菌薬を患者に投与したときの臨床的効果を予知する目的で判定基準(interpretive criteria)が設定されている.現在,臨床細菌検査室で用いられている抗菌力試験の方法には,①ディスク拡散(disk diffusion)法と,②希釈(dilution)法の2つがあるが,前者の試験では菌発育阻止円直径(inhibitory zone diameter)が,後者の試験では菌発育阻止終末点(growth inhibition endpoint),最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration;MIC)が判定に用いられる.阻止円直径,MICのいずれも基本的には連続した数値データ(定量的)であり,これをあえて2〜4段階のグループ,カテゴリー(category)の定性判定に区分するのが判定基準ともいえる.
 わが国で用いられているディスク拡散法には2種類あり,わが国で独自に開発されてきた昭和ディスク法1)と米国National Committee for Clinical Laboratory Standards(NCCLS)勧告M2-A42)に基づく方法がある.

5.抗菌薬の選択

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.249 - P.253

はじめに
 薬剤感受性検査にどのような抗菌薬を選択するかは感染症の治療に影響を与える重要な問題である.しかし日本には感受性検査に採用すべき抗菌薬に関して,公的機関から提唱された指針が存在しないため,各検査室では細菌検査に関係する医師や検査技師が独自に抗菌薬を選択しており,とても文明国とは思えない状況にある.この状況は臨床における抗菌薬の使用法においても同様で,日本では,その感染症が適応症として認められ,さらに起炎菌が適応菌種に指定されている抗菌薬ならば,どの抗菌薬を治療に用いても保険請求が可能である.このため日本では治療上の抗菌薬の選択順位が極めて曖昧である.
 このような状況では検査室は感受性検査を行う抗菌薬の種類を医師の要望に従って選択せざるを得ず,これが検査室の負担を著しく増加させる原因となっている.しかし検査に用いる抗菌薬の数を無原則的に増加させても,治療に役だつ情報を豊富にはできない.抗菌薬を選択する際には,治療実績,体内動態,耐性機構に対する安定性,副作用などの多くの因子を考慮する必要がある.

6.臨床への報告

著者: 千葉潤一

ページ範囲:P.254 - P.256

はじめに
 細菌感染症の治療薬選定に際しては,起炎菌の感受性成績が重要であるが,本邦では起炎菌別の測定薬剤選択の考えかたが整理されていない.その原因は主に,抗菌薬の数が他国と比較して多いことや,地域的に使用薬剤や耐性パターンが異なるためである.診療報酬の面からも感受性を測定しうる薬剤数には限界があり,問題をさらに複雑にしている.一方,米国臨床検査標準委員会標準法(NCCLS法)1,2)では,どの薬剤を検査し報告するかを決定するための指針を作成し,さらに選択的な報告という考えかたを提唱している.本邦においてもNCCLS法に準じる薬剤感受性検査法が普及しているので,そこでの考えかたを中心に述べてみたい.

7.その他の抗菌力試験

著者: 髙橋長一郎

ページ範囲:P.257 - P.258

 抗生物質の感受性試験を定量的に行うには希釈法によりMIC値1)を求めなければならない.また,日常検査に広く用いられているディスク拡散法の判定区分,ブレイクポイントの設定もMIC値が基盤となることは述べるまでもない.MIC値の測定には手数がかかるので,すべての施設で日常検査としては行われてはいないが,希釈法を原理とした自動化,半自動化は数多く試みられ,感受性試験の迅速化,簡易化が期待されている.

8.嫌気性菌の感受性試験

著者: 渡邉邦友

ページ範囲:P.259 - P.261

はじめに
 ヒトの皮膚や粘膜に存在する固有細菌叢の中の数十種類の嫌気性菌は,今日臨床で遭遇する全身至る所の感染症で高率に,いわゆる好気性菌とともに潜在性の病原性を発揮している.
 嫌気性菌の各種化学療法薬(以後,薬剤と称する)に対する感受性は予言可能で,個々の患者からの分離菌の薬剤感受性試験はいちいち実施しなくても済ますことができるという考えが通用していた時期もあった(?)が,最近の研究により感染巣から分離される嫌気性菌の菌種およびそれらの薬剤感受性も極めて多様であることが明らかとなってきた.適切な部位から適切な採取法で採取されたものであれば,個々の患者の分離菌の薬剤感受性試験を行う必要性が高まったといえる.

9.抗真菌薬の感受性試験

著者: 山口英世

ページ範囲:P.262 - P.265

はじめに
 真菌症の治療に際して,高い有効性が期待できるような抗真菌薬の選択を可能にする適切な感受性試験が不可欠であることは,抗菌薬の場合と同様である.近年,抗真菌薬として最も汎用されているフルコナゾール(FLCZ)に対して低感受性を示すCandida属菌種として知られるC. glabrataやC. kruseiの分離頻度が上昇する傾向にあることや,AIDS患者などからFLCZ耐性を獲得したC. albicans菌株が分離されることが,感受性試験の必要性を一段と強く認識させる結果となっている.
 感受性試験が有用であるためには,感性株と不感性(耐性)株の識別能および試験の再現性が高く,しかも試験を比較的簡便に実施できる方法が標準化されていることが要求される.この困難な課題に長年取り組んできた米国NCCLSは,1992年に酵母の薬剤感受性を測定するための基準実施法(M27-P)を提案した1).抗真菌薬の感受性試験法はまだ完全に標準化されたわけではないが,少なくとも酵母に関する限り,M27-P(NCCLS提案法)を基準とすることには世界的にみてもほぼ異論のないところであろう.現在研究者の関心は,この原法を実用に即するようにより簡便化することや糸状菌へ適用することなどへと移りつつある.

10.抗菌薬血中濃度モニタリング

著者: 大森栄

ページ範囲:P.266 - P.268

■TDMとは
 14,000を超える薬物が臨床において使用され,薬の効果ばかりでなく,その副作用や多剤併用時の相互作用が問題となってきている.したがって,薬物の適正な使用に関しては十分な注意が必要である.薬物は体内に吸収された後,体内に分布し,そのままの形で,あるいは形を変え体外に排泄される.薬物の生体内濃度は投与経路,投与後の時間によって異なる.また,薬物を服用する患者の年齢,身長,体重,生理的状態,栄養状態ならびに病態などが個々で同じでないことから,薬物の体内動態には個人差が大きい.そこで現在,薬物血中濃度を基にした薬物の適正使用を目指し,治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring;TDM)が行われるようになってきている.TDMを必要とする臨床状態ならびに薬物については表1に示したが,保険診療上,特定薬剤治療管理料が適用される薬物の中にアミノグリコシド系抗菌薬,バンコマイシンが含まれている.

11.熱帯熱マラリア原虫の薬剤耐性試験

著者: 鈴木守

ページ範囲:P.269 - P.270

 現在,中米とカリブ海の島国,ハイチ以外のほとんどのマラリア流行国でクロロキン耐性熱帯熱マラリアが問題となっている1).マラリアに対し抵抗力のない日本人が熱帯地方に出かけ,そこでマラリアにかかって帰国する例は年々増加している.日本人の場合には流行地の人々と異なり,重症化することが多く適切な薬剤の選択を誤るととりかえしのつかない事態に発展することもある.罹患したマラリアが薬剤耐性熱帯熱マラリアである例もあり,今後,熱帯熱マラリアの薬剤耐性試験を行う機会も多くなるはずである.以下にわれわれが日常行っている実技をクロロキン耐性試験を例にとって解説する.

Ⅷ.検査報告

1.愛媛大学医学部附属病院検査部

著者: 村瀬光春

ページ範囲:P.272 - P.274

 検査報告は検査の総仕上げの業務である.検査依頼からこの成績を待っているのが担当医師であり,その向こうには患者がいることをいつも念頭におく必要がある.特に細菌検査の成績は感染症の診断,治療に直接影響を及ぼす場合が少なくない.その点からも細菌検査の報告の際に大切なことは,起炎菌の検出とその薬剤感受性試験の成績を正確に,しかも迅速に伝えることを考慮に入れて業務を進める必要がある.また報告という業務の基本として考えなければならないことは“見やすく”,“わかりやすい”ことである.
 報告方法を用紙による報告書形式のみにするか,コンピュータも同時に活用するかは,その施設の規模と考えかたによるが,最近の電子技術の発達を可能な限り医療の現場に取り入れていく姿勢が必要な時代となってきている.

2.佐賀医科大学附属病院検査部

著者: 永沢善三

ページ範囲:P.275 - P.277

 近年,細菌検査の場にコンピュータ化・システム化が導入されつつあるが,これらは検査室内の合理化や省力化を主目的として構築されている.なぜなら,システム導入後,報告される検査結果は,それ以前の検査結果と比べて付加価値を持つものではない.
 検査は,医師に適切な情報を提供し,患者の診断・治療に役だてることが目的である.そのため,検査結果のみの報告ではなく,付加価値を持たせた情報の提供が,今後の臨床検査において重要視されるのではないだろうか.そこで,佐賀医科大学附属病院におけるコンピュータ・ネットワークを利用した細菌検査結果報告の新しい医療情報提供の試みについて紹介する.

3.東京都済生会中央病院検査科

著者: 佐野純子

ページ範囲:P.278 - P.280

 検査材料から原因菌を検出する場合,適切な検査材料であることのほかに提出医からの情報が日常検査法の使用培地,培養時間,培養条件などの変更,追加を決める手だてとなり,より効率的でかつ合理的な検査が可能となる.検査室では検査材料の精度管理,鏡検所見を含め迅速で付加価値の高い検査結果の報告をする義務がある.したがって,検査材料提出医と検査室側の相互の連係が重要であることはいうまでもない.
 当院では検体提出医と細菌検査室間の情報伝達の手段は主に依頼書,報告書を介して行っている.緊急を要する場合は電話,ポケットベルまたは直接病棟,医局に出向き提出医からの情報提供や結果の報告をするように心がけている.また,検査科内はシステム化されており検査依頼書はOCRで判読入力されるが,特に検査すべき菌種,薬剤などは手入力で登録する.登録後は検体ラベル,ワークシートが発行され,検査,結果・コメントの入力,報告の順に処理される.

4.社会保険中央総合病院臨床検査部

著者: 大塚喜人

ページ範囲:P.281 - P.283

はじめに
 近年,環境,食品衛生などの整備と化学療法の進歩によって,強毒病原菌による重症伝染病は激減した.しかしこれに代わって,高齢者の増加,抗癌剤,免疫抑制剤の使用,放射線療法などにより易感染性宿主が増加し,かつては病原菌とはなりえなかったような菌種による日和見感染症や院内感染症が増加している.また,これら感染症からの検出菌は多岐にわたり,専門的な知識が必要とされる場合も少なくない.このような現状の中で,当院における微生物検査報告書と報告書以外の臨床への対応について述べることとする.

Ⅸ.微生物検査の精度管理

1.内部精度管理

著者: 菅原和行

ページ範囲:P.286 - P.289

■精度管理の目的
 臨床細菌検査は,細菌の発育を基本としたバイオアッセイを骨格とし,検査全体の要の部分は,検査技師各人の経験と技術にゆだねられた作業や主観的判断で構成されているために,精度評価の判断が難しく,成績の精度維持・管理は技術的にも困難なことが多い.さらに,技術管理に関してはいまだにその手法を模索中というのが現状である.臨床細菌検査の日常業務内には,資材,環境,技術および偶発誤差など数多くの変動因子が含まれているため,精度管理の導入は必要不可欠である.
 精度管理は大きく検査室内管理と検査室間管理とに分けられるが,本稿では検査室内管理の概要について述べてみたい.

2.外部精度アセスメント

著者: 熊坂一成

ページ範囲:P.290 - P.292

 臨床検査の精度管理運営(quality management;QM)では,精度保証(quality assurance;QA)と良質な検査業務(good laboratory practice;GLP)が車の両輪である1).そしてQAでは内部精度管理(internal quality control;IQC)に加えて外部精度アセスメント(external quality assessment;EQA)を欠かすことはできない1)
 EQAでは,特別に調製した試料を多くの検査室に配布し,その試料を分析・測定した成績を客観的に評価する.EQAの主たる目的は,検査室間の分析結果の互換性を調査し,その差を縮小することにある.しかし微生物検査のEQAは,他の臨床検査に比較して方法論的にかなり特殊である.すなわちこの分野のEQAで得られる結果の多くが文字データであり,臨床化学,血液学などのEQAで使用できる各種の数値データ・統計学的手法はなじみにくい面が多い.

Ⅹ.技術講座

1.染色のコツ 1)グラム染色

著者: 竹森紘一

ページ範囲:P.294 - P.295

 1884年にHans Christian Gramによって考案されたグラム染色法は,Hucker,Kopeloff,Bartholomewなどにより変法が検討された.現在ではそれらの変法と変法をさらに改良した方法が実施されている.グラム染色でグラム陽性(以下,陽性)か,あるいはグラム陰性(以下,陰性)かの分別に大きな影響を与えるのは細胞壁に存在するムレイン層の厚さではないかと考えられているものの,このほかにも種々の因子が関与するようである.実際に行うグラム染色では菌種,菌の培養条件,染色条件でも染色性が異なるので,それらの問題点とその対策および培養時間の差による染色性の違いなどについて述べる.

1.染色のコツ 2)抗酸菌の塗抹染色

著者: 阿部千代治

ページ範囲:P.296 - P.297

 臨床材料を塗抹し,抗酸性染色を行い鏡検することが抗酸菌を検出するうえで最も簡便で迅速な方法である.検出感度は分離培養法に比べて劣るが,患者発見の重要な手段の1つである.

1.染色のコツ 3)レイフソン鞭毛染色法

著者: 藪内英子

ページ範囲:P.298 - P.299

 鞭毛染色は鞭毛形態を見るためのものであり,運動性という機能を判定するためのものではない.麻痺した鞭毛や極端に短い多数の鞭毛を持った菌は運動しない.

1.染色のコツ 4)酵素免疫染色

著者: 田中美智男

ページ範囲:P.300 - P.300

 特異抗体を用いる染色(免疫学的染色法)は,検体に存在する特定の病原微生物(抗原)を迅速に検出できることから,感染症の診断に有用な検査法である.免疫学的染色法はChlamydiaやウイルスなど,グラム染色や通常の培養検査ではつかまえることのできない微生物の検出に応用されており,方法別に酵素抗体法と蛍光抗体法に大きく分類される.
 酵素抗体法は抗原に対する特異抗体を反応させる際,あらかじめ抗体に酵素を標識しておくことにより,生成した抗原抗体複合物の量に対応した酵素と基質を反応させて発色させるものである.通常の光学顕微鏡で観察できるが,個々の細胞について細かく感染の有無を判定するのは困難である.そのため酵素抗体法は炎症細胞を含む検体や病理組織標本などに主として適用される.酵素抗体法の種類について表1に示した.また,染色法の例として免疫ペルオキシダーゼ法(間接法)を表2に示した.

2.同定キットの使用法

著者: 河村好章

ページ範囲:P.303 - P.306

はじめに
 同定とは,未知の菌株(臨床分離株)が現在分類・命名されているどの菌種の範疇に入るかを決定する作業である.同定の基となる細菌分類学の領域では現在,遺伝学的手法(DNA-DNAハイブリダイゼーション法,16 S ribosomal RNA塩基配列の比較など)による分類が盛んに行われている1,2).これらの方法の一部はキット化され検査室でも利用可能3)であるが,一般にはその操作の繁雑さ,時間,コストの問題から細菌同定検査の日常業務として実施するのは困難である.細菌同定検査に要求されるのは簡便な操作と迅速で正確な同定であり,この要求を満たすものとして市販の簡易同定キットは有用である.
 従来,細菌同定検査は目的とする菌群にもよるが,通常10種類程度の性状試験用培地を試験管などに作製し,臨床株をその1本1本に接種,1日から1週間培養後,発育の状況,色調の変化などによりその菌株の性状を決定し,分類・命名されているどの菌種の範疇に入るかを調べる一連の作業をこなす必要があった.同定キットの登場は,この一連の作業を大幅に簡略化することを意味した.まず繁雑な多くの種類の培地作製が必要なくなり,培養時間も短いものでは数時間程度,性状決定の判定基準は専用色調表や自動機器の利用により比較的一定になるといった具合である.

3.原虫検査

著者: 赤尾信吉

ページ範囲:P.307 - P.309

はじめに
 ヒトに寄生する原虫を寄生部位別に分けると“消化管寄生原虫”,“泌尿生殖器寄生原虫”,“血液・組織寄生原虫”に分けられる.
 検査材料からの寄生原虫種の推定も可能であり,その原虫への検査方法にも対応できる.

4.虫卵検査

著者: 多田功

ページ範囲:P.310 - P.313

 寄生性蠕虫(ぜんちゅう)類の成虫が人体に寄生していると,その虫卵は便・尿・喀痰などに排出されてみられることが多いから,診断目的でこれを検索する.しかしこの場合,成虫は必ずしも消化管に存在するとは限らない.例えば肺・肝・血管内などにいて虫卵が消化管に出てくる場合もあるから,寄生虫の生活史を念頭に置いて検査する必要がある.さらに,虫卵が見つからなくても寄生は起こっている場合もある.これは幼虫寄生,閉所寄生,単性寄生あるいは虫卵密度が極めて低い場合などである.
 蟯虫などは消化管寄生性であるが,糞便の中で見いだされることはほとんどなく,肛囲検査法が必要である.つまり,寄生虫種に応じて適切な虫卵検査が求められる.産卵門を持たない条虫類(例えば無鉤条虫)でも同様で,普通,片節の排出で気づかれることが多いが,虫卵を糞便内に見ることはまれである.

5.嫌気性菌検査

著者: 渡邉邦友

ページ範囲:P.314 - P.317

■細菌検査の質の指標となる嫌気性菌分離率
 嫌気性菌が極めて多くの臨床材料から高率に分離されることは今や明白な事実である1).どの程度まで深く踏み込んで行うかは別にしても,適切に採取した材料を対象として進められる嫌気性菌検査は不可欠である.それどころか,ある感染症(臨床材料)から嫌気性菌がどのような頻度で分離されているかは,その検査の正当性・正確性を推し量る指標とされることがある.不的確な検査は,日本の感染症研究の根底をゆるがしかねない.

6.ウイルス検査

著者: 国広誠子

ページ範囲:P.318 - P.320

はじめに
 感染症の原因微生物には,細菌,ウイルス,Rickettsia,Chlamydia,真菌および原虫・寄生虫など多くの微生物が含まれる,従来から感染症の確定診断は分離培養によって行われてきた.したがってルーチン検査では細菌および真菌を対象として行われ,他の微生物検査,特にウイルス検査では分離培養には多くの時間を要し,さらに操作の煩雑さゆえに通常,抗体価の測定によって行われている.しかし化学療法の進歩した現在,多元化する感染症の診断・治療を目的とした検査では,分離培養を主体とした検査によらない迅速検査が要求されてきている1,2)
 免疫学あるいは分子生物学の進歩による免疫学的抗原検出法や遺伝子診断法は,従来からの微生物検査の考えかたを変え,直接検体中の抗原を短時間に検出することを可能にした.特にモノクローナル抗体の開発によって,特異性の高い感染症の免疫学的検査を行うことができるようになった.両者の比較では感度の点で遺伝子診断が優れているが,免疫学的抗原検出法は約30分以内に結果が得られ,しかも簡便に検体中の抗原を検出できる利点があり,広く利用されつつある.

7.酵母様真菌の同定

著者: 阿部美知子 ,   久米光

ページ範囲:P.321 - P.323

■臨床材料から分離される酵母様真菌
 酵母とは分芽あるいは分裂によって増殖する単細胞性真菌の総称で,これらを構成する真菌は表1に示すように3つの菌門に分類される.本来,酵母とは子嚢菌門に属するもののみをいい,ほかは仮性菌糸や場合によっては真正菌糸を形成することから酵母様真菌と呼称されるが,ここではこれらを一括して酵母様真菌と呼称する.
 この菌群には自然界に分布するものを含め,おびただしい菌種が包含されるが,医学領域で扱うものは,そのごく一部で,しかもほとんどは無性生殖を行う不完全菌である.

8.糸状菌の同定

著者: 西村和子

ページ範囲:P.324 - P.329

 病原真菌は,その形態により酵母と糸状菌に分けられ,それらの同定法にも大きな違いがある.酵母菌種は単細胞性で,形態に大差がないため,同定には主に生理生化学的および血清学的方法が用いられている.一方,糸状菌の同定は依然として主に形態学的性状に基づいている.それゆえ,糸状菌の同定には菌学の知識と経験が必要であるが,内臓あるいは深部組織の真菌感染症の原因となる菌種は限られているので,ここでは医学的に重要な糸状菌菌種と,感染組織内や特殊な培養で酵母形であるが,通常の培養では菌糸形となる2形性真菌(Sporothrix schenckii,輸入真菌5菌種)に絞り込み,同定する方法を解説する(表1).

9.細菌毒素の検出

著者: 永山憲市 ,   本田武司

ページ範囲:P.330 - P.333

はじめに
 細菌感染症の発症機序には,大きく分けて細菌の産生する毒素(細菌毒素)が感染発症の主原因と考えられているものと,細菌の組織侵入性が発症に必須と考えられているものがある.最近の研究の進展により,細菌毒素が細菌感染症の病態に関与している例が明らかになってきた1).このような例では,患者から分離された細菌を真の起病菌と同定するために,特異的な細菌毒素の産生性を証明することが必要となる.また,特異的な毒素を臨床検体中に直接検出できれば起病菌を迅速に同定することも可能である.

10.最近公表された医学領域における新菌名および変更菌名

著者: 坂崎利一

ページ範囲:P.334 - P.337

 古い細菌分類学とは異なって,近代分類学では単に表現型性状だけでなく,遺伝子解析によって各菌の間の相互関係も重視するから,今まで同じ菌と考えられていたものが違う菌種であったり,あるいは違う菌と思われていたものが実は同じ種類の菌であったりすることがまれではなく,それが新しい菌の追加や菌名の変更につながる.1980年に新しい細菌命名規約が発効し,細菌の新しい菌名はすべて国際細菌分類委員会の機関雑誌に公表されるか,または同委員会で承認され承認菌名リストに追加されたものだけが有効となる.しかしそれでも,毎年新菌名は平均5〜6%,変更菌名は平均1.4%ずつ増加し,それらの数%は医学細菌である.
 表題の“最近”という語をいつごろからに絞るか判断に迷うが,一応それを1990年以来ということとし,1995年9月までに公表された菌名の中から,医学に関係のあるものを選出して付表にまとめた.しかし,医学に関係するといっても,発表論文を通覧した限りではそれが不明なものも多くあり,この選出はまったく筆者の独断によるものである.

一口メモ

B群レンサ球菌の迅速検査

著者: 西山泰暢

ページ範囲:P.22 - P.22

 B群レンサ球菌(group B Streptococcus;GBS,Streptococcus agalactiae)は,人の腸管・腟の常在菌であるとともに膣炎の原因菌の一種でもある.口腔内にも少量常在する.消化管に関連した膿,糞便の汚染が疑われる材料および足の膿瘍などからしばしば分離される.本菌の最も重要な感染症は,分娩時の母児垂直感染が主な原因である,新生児の肺炎・敗血症と化膿性髄膜炎が挙げられる.これらの症例は急激な変化を示す例や,予後が悪い例があり,迅速な診断が必要である.なお,妊婦の保菌率は腟が20〜23%,肛門は23〜25%の率であり,菌量は,純培養状に検出される例から増菌培養でのみ検出可能な例などがある.

再び緑膿菌

著者: 山口惠三

ページ範囲:P.32 - P.32

 緑膿菌は1882年に緑色を帯びた膿からGessardによって初めて分離されたブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌である.本菌は自然界に広く存在しており,ヒトに対してはほとんど病原性を示さないように思われていた.しかし,医療技術の進歩に伴う免疫抑制剤の使用により,緑膿菌は1960年代の後半から日和見感染症の原因菌として注目されるようになった.本菌は多くの抗菌薬や消毒剤に耐性を示し,病院内の環境にも長期間の生存が可能である.また病原性にかかわる種々の菌体外成分を産生するとともに,グリコカリックスやアルギネートなどの多糖体を菌体表層に分泌し,組織粘膜表面に容易に付着する.本菌による感染症は肺炎,尿路感染症,敗血症として,入院中の免疫低下状態の患者に高頻度でみられる.また,免疫能は正常であってもびまん性汎細気管支炎などのように気道に器質的障害を有する患者では本菌による持続感染がみられる.
 1960年代後半から始まった緑膿菌感染症は院内感染として非常に大きな問題となったが,1970年から1980年にかけて開発されたピペラシリンをはじめとする抗緑膿菌ペニシリン剤や1980年代初めに認可されたセフタジジムなどの第三世代セフェム剤の登場により,一時下火となった.そして,1980年代の半ばからはMRSAによる院内感染症が大きな問題となり,緑膿菌感染症に対する関心はさらに薄れていった.

結核の現状

著者: 山岸文雄

ページ範囲:P.44 - P.44

■わが国と世界の結核
 1962年から77年まで,対前年比で約11%ずつ減少してきた結核罹患率は,以後減少速度の鈍化が著しく,1981〜89年では年間減少率は3.2%となった.最近ではその鈍化はさらに著しく,1994年の新登録結核患者数は44,590人,罹患率は人口10万対35.71)となっている.また1988年における先進諸国との結核罹患率の比較では,オランダ8.0,米国9.4,イギリス10.2,フランス16.7に対し,わが国は44.3であり,先進国の中では最も高率で,東欧諸国並みである2)
 世界の結核の流行状況は,発展途上国を中心とした対策の遅れ,貧困,感染,発病リスク人口の増加により,ますます厳しくなってきている.1990年の推定結核新患者数は全世界で753万人,結核死亡者数は253万人とされているが,HIV流行により2000年には発生患者数は36%増の1,022万人,結核死亡者数は39%増の350万人に達するといわれている1)

分離した細菌や真菌はどこまで同定すべきか

著者: 江崎孝行

ページ範囲:P.55 - P.55

 細菌の同定に簡易同定キットが導入されて久しいが,この方法が臨床細菌学の発展に重要な貢献をしてきたことに疑いを挟む人は少ないと思う.ところが目まぐるしく変化する細菌分類学を見ていると,これまでのようなキットによる同定方法では今後の分類学の変化に対応できなくなるのではないかと考えるようになった.幸いこの企画で表題のような内容で原稿をまとめるように要請があったので最近の考えをまとめて提示したい.
 過去さまざまな同定キットの導入,評価および実際の使用経験から,市販の同定キットは臨床材料から分離された菌を使って同定すると7〜9割の同定確率がある.ところが正常細菌叢から分離された菌株を使って同定すると4〜7割程度の同定しかできない.しかも同定された結果が正しくないことが多い.また分離された菌株の同定にどの簡易同定キットを使えばよいかの判断基準も不明確である.例えばレンサ球菌の同定キットと命名されていても,分離菌がStreptococcus属の菌種であると決定することは現在の分類学では容易なことではない.従来カタラーゼ陰性のグラム陽性球菌をStreptococcus属として同定してきたが,この基準に当てはまる属は現在では15属を超えるからである.

細菌検査の保険診療点数

著者: 長沢光章

ページ範囲:P.101 - P.101

 細菌検査における保険診療点数は,健康保険法に基づいた診療報酬点数表の検体検査料として微生物学的検査および免疫学的検査の項に掲載されている.しかし,生化学・血液学的検査などの検体検査に比べて大変複雑で,特に検査の方法,内容については規定されていない項目があり,詳細な検査を行うほどコストがかかり赤字になる場合も少なくない.また,疑義解釈により種々の制約が付けられており,臨床からの依頼で実施した検査がすべて保険診療点数になるとは限らない.
 主な検査項目と点数(1点は10円)を表に示した.

その後のMRSA

著者: 町田勝彦

ページ範囲:P.140 - P.140

 かなり話題となったMRSAもしだいに鎮静化しているようである.それは院内防疫対策の充実,院内MRSAの実態判明と治療薬の出現などによるものと思われる.院内防疫対策としては院内感染対策委員会の設置,防疫対策の教育,ウエルパスなどの消毒薬やサージカルマット,強酸性電解水,オゾン水や使い捨て手袋などの使用,MRSA保菌患者の識別,水道蛇口の自動化,監視培養などが行われてきている.
 院内MRSAの実態解析として,さまざまなマーカーを調べた疫学調査が行われている.筆者らも院内で分離されたMRSAを用いてファージ型,プロファージ型,ゲノム型,薬剤感受性パターン,コアグラーゼ型,エンテロトキシン型などを調べ,院内におけるMRSAの疫学的検討を行ってきた.その結果を分析すると3つのケースが考えられる.第1のケースは内因性感染症の可能性である.例えば50歳の男性で急性骨髄性白血病(AML:白血球数30,100/μl)で入院した患者の場合,入院時には咽頭,尿,糞便からMRSAは検出されなかったが,AMLに対する化学療法を始めて白血球数が1,800/μlに低下した時点で発熱を認めたためセフェム系抗生物質CAZに加えてCPZ,AKM,SBT,IPMなどが交互に投与された.その2週間後に各検査材料からMRSAが検出され,疫学調査で3種類のMRSAを認めた.第2のケースは水平感染である.第3のケースは患者自身が持ち込んできた可能性である.

最近の法定伝染病

著者: 工藤泰雄

ページ範囲:P.171 - P.171

 わが国の感染症の疾病構造は,戦後50年の間に大きく変貌を遂げたが,法定伝染病もその例外ではなく,戦後猛威を振るった赤痢や腸チフス,パラチフスといった消化器系伝染症をはじめ多くの疾病はほぼ完全にコントロールされるまでに至った.しかし,国内での発生が激減したといっても決して問題がすべて解決されたわけではない.特に最近では,海外旅行の日常化に伴い諸外国から持ち込まれるいわゆる輸入感染症の増加が指摘され,赤痢などではその発生の半数以上が海外感染例で占められるなど,新たな対応の求められる事態を迎えつつある.現在も依然世界的に大流行しているコレラの問題もわが国への影響は大きく無視できない.
 本稿では,こうした伝染病の中で,特に最近新しいタイプの菌による疾病が話題となっているコレラに焦点を当ててその発生動向など概略紹介してみたい.

砂場のイヌ・ネコ回虫卵汚染

著者: 宇賀昭二

ページ範囲:P.196 - P.196

 われわれの周囲の環境がイヌ回虫やネコ回虫の虫卵によって汚染されているとの報告がある.海外における調査では,庭園やドライブインの休憩所,あるいは幼稚園の運動場などから実際に虫卵が検出されている.これら虫卵は土壌中で長期間生存し続け,本来の宿主であるイヌやネコへの感染を待つが,ヒトが誤って経口摂取した場合にも感染が成立し,重篤な疾患を生じさせる場合がある1)
 わが国における汚染の実態はどうであろうか? 調査に先だってわれわれは,土壌からの虫卵の回収方法を検討し,ショ糖液を用いた遠心沈殿浮遊法を開発した2).この方法を用いて砂場(全国の総砂場数約30万か所)の調査を実施した結果,虫卵の汚染率には砂場が設置された地域や環境により差のあることが明らかとなった.全国の10都道府県からの報告をみると,公園砂場のイヌ・ネコ回虫卵による汚染率の平均は36%(13〜83%)であったのに対して,幼稚園や小・中学校の砂場のそれは8%(0〜25%)であった.

ペニシリン耐性肺炎球菌

著者: 郡美夫

ページ範囲:P.210 - P.210

 1970年代後半よりペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)が各国で分離されて以来,わが国においても,年々増加の傾向が指摘され,さらには本菌による重症感染例も報告されるようになった.
 PRSPの分離頻度は,当院で微量液体希釈法による最小発育阻止濃度(MIC)の測定を始めた1986年から1989年までには20%前後であった耐性率も1992年には48%,1993年55%,1994年52%と増加傾向を示している.また,ペニシリンG(PCG)のMIC値が1μg/ml以上の株が初めて検出されたのは1989年であり,それ以降,耐性株のうち1μg/ml以上の株が占める割合は,1992年には30%,1993年には53%,そして1994年では74%と増加している.しかし4μg/mlの株はわずか2例のみであり,それ以上の株は分離されていない.

コンタクトレンズと角膜炎

著者: 遠藤卓郎 ,   八木田健司 ,   太田宗宏

ページ範囲:P.258 - P.258

 アメーバ性角膜炎はアカンソアメーバ(Acanthamoeba)と呼ばれる一群の自由生活性アメーバによって引き起こされる.もっぱらコンタクトレンズ装用者がリスクグループを形成している.本症治療のカギは早期発見である.以下にアメーバの検査法について述べる(図).

嫌気性菌検査が必要な臨床材料

著者: 森伴雄

ページ範囲:P.295 - P.295

 近年,肺癌や肺化膿症の増加に伴い,呼吸器由来材料からの嫌気性菌が重要になってきているが,新しい抗菌薬の開発によって,好気性菌感染症の治療に嫌気性菌にも抗菌力を有する薬剤が投与されるようになり,嫌気性菌の検出率は減少した.そのため,嫌気性菌感染症の認識が薄れ,臨床医からの検査依頼が少なくなっている.したがって,次の臨床材料はルーチン検査のマニュアルに嫌気性菌検査を含めてシステム的に検査する.
 ①膿・分泌物,特に悪臭のある非開放性材料,②褥瘡などの壊死組織や交通事故外傷の挫滅組織,③胆汁,PTCD液,④耳漏,眼脂,⑤胸水,腹水,⑥創部浸出液,漏出液,⑦ドレナージ・チューブ,IVHカテーテル類の生体挿入チューブ類,⑧血液,髄液,⑨穿刺液,関節液.

細菌検査室と検査部

著者: 山中喜代治

ページ範囲:P.333 - P.333

 本来,検査部(臨床検査)の果たすべき役割は,あらゆる疾病の診断と治療に役だつ情報を経済的かつ迅速(患者本位)に提供することにある.このうち経済性に関する考慮は検査をオーダーする医師にゆだねられているが,施設収支と医療保険制度との兼ね合いから,判断に苦慮している場合も少なくない.
 一方,迅速検査に関する取り組みは検査部の責任であるが,これについては,これまで多くの偉業が達成され活用されている.すなわち心電図,超音波などの生理学的検査では,その場で迅速診断が可能であり,また検血,血液ガス,電解質などの血液化学検査においては,数分の検査体制のもと,医師は診察直前のデータを知ることができる.さらに最近では手術室と病理検査室とのオンライン化により,術中の病理組織鏡検像を病理医と外科医が同時に観察し,迅速診断に役だてている.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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