icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

検査と技術24巻9号

1996年08月発行

雑誌目次

病気のはなし

痛風

著者: 鎌谷直之

ページ範囲:P.686 - P.692

新しい知見
 わが国では戦後,血清尿酸値が上昇し,高尿酸血症の頻度が高くなっているが,これは食生活の変化,アルコールの摂取量の増加,生活様式の変化などが関係していると考えられる.その結果,痛風の初発年齢が若年化している.
 高尿酸血症の原因の一部は遺伝性の酵素異常症であり,その分子的メカニズムも近年明らかになっている.

技術講座 生化学

総分岐鎖アミノ酸/チロシンモル比の測定方法

著者: 大久保滋夫 ,   中原一彦 ,   大久保昭行

ページ範囲:P.693 - P.697

新しい知見
 血中の総分岐鎖アミノ酸と芳香族アミノ酸のモル比を求めることは,アミノ酸代謝の中心臓器である肝の代謝能,予備能および障害の程度の把握,さらにアミノ酸輸液療法の指針として役だつものである.近年,総分岐鎖アミノ酸と,芳香族アミノ酸のうちのチロシンについて,簡便で迅速な酵素的測定法が開発・販売されている.

ホスホグリセリン酸ムターゼ(PGAM)アイソザイム測定法

著者: 金田惠孝 ,   林泰三

ページ範囲:P.699 - P.705

新しい知見
 血清中のホスホグリセリン酸ムターゼ(PGAM)は,これまで臨床検査に用いられていなかったが,総活性と同時にそのアイソザイムを測定することにより臨床的意義が増すと考えられる.
 アイソザイム測定法は4チオン酸カリウムを用い,M型を酸化し失活させ,残存するB型活性を測定し,総活性に対するB型活性の比率(B/T)を求めた.

微生物

カルバペネム耐性緑膿菌の遺伝子型別の判定

著者: 千田一嘉 ,   荒川宜親 ,   中島一光 ,   一山智 ,   太田美智男

ページ範囲:P.707 - P.711

新しい知見
 カルバペネムを含む各種β-ラクタム剤に耐性であるIMP-1型メタロ-β-ラクタムマーゼの遺伝子が陽性の緑膿菌,15株をサザンハイブリダイゼーション法で検出し,さらにパルスフィールド電気泳動法(PFGE)による遺伝子型別の判定を行った.メタロ-β-ラクタマーゼ遺伝子陽性緑膿菌のPFGEパターンは分離された病院ごとに異なり,これらの株は単一クローン由来ではないことが判明した.一方,同一病院由来の株は類似のPFGEパターンを示し,メタロ-β-ラクタマーゼ遺伝子陽性株が患者間で伝播されていることが示唆される.

病理

電顕用切片の染色法

著者: 福田覚

ページ範囲:P.713 - P.719

新しい知見
 エネルギー選択結像法(electron spectroscopic imaging;ESI)という電顕用無染色切片の観察法が発表された1).これは,試料を透過した加速電子が分光のための磁場中を通過した後,いろいろなエネルギーに分けられ,特定のエネルギーに選択した電子で電顕像を作るという方法である.
 電子顕微鏡の中間レンズと投射レンズの間にフィルターが組み込んであり,ここを通過する電子はγ(ガンマ)のような軌道を描くのでγ型フィルターと呼ばれている,ESIを使い,エネルギーを連続的に変化させたところ,無染色の超薄切片は250eVのとき最も良好なコントラストがついて観察されたと報告されている.二重固定し,通常の標本作製を行っで作った切片は電子染色しないですぐ鏡検できることになる.明るさとコントラストが自由に調節できる電顕像の可能性へ近づいたように思われる.

生理

脳波の読みかた—老人脳波

著者: 圓谷建治

ページ範囲:P.721 - P.728

新しい知見
 老人は年齢に応じて老化するといわれるが,個人差が大である.脳波は老化に応じて一般に基礎波が徐化するが,高齢でも若年正常者と同様の所見を示す人もいる,老人では失神や一過性脳虚血発作などの発作症状が多いが,てんかんも少なくない.老人には脳血管障害による部分てんかんが多いが,本態性てんかんもある.発作後早期に検査をすると,老の脳波でも棘波など発作性異常波を認めることが少なくない.

小児の誘発電位—[2]聴覚誘発電位

著者: 稲垣真澄 ,   加我牧子

ページ範囲:P.729 - P.736

新しい知見
 聴覚誘発電位はコンピュータの進歩により末梢聴覚器の電位から大脳聴覚皮質反応まで計測可能になった.また,最近は認知など高次脳機能の評価に内因性誘発電位である事象関連電位が用いられ始めている.
 小児ではこれらの誘発電位が潜時や振幅の発達変化を示しながら成熟していく.事象関連電位を含めた聴覚誘発電位は聴力障害や中枢神経病態把握の一手段として有用で,特に小児科領域では学習障害や精神遅滞などの発達障害児に対して,今後臨床応用の機会が増えるものと思われる.

マスターしよう検査技術

風疹ウイルス抗体検査法

著者: 巴山顕次 ,   深沢糾 ,   永井広子

ページ範囲:P.741 - P.752

 風疹(rubella)は,RNAウイルスのトガウイルスグループの感染によって起こる発疹性疾患である.臨床的診断は,発熱,リンパ節腫脹,発疹を主徴とする小児急性発疹症である.妊婦が妊娠初期に風疹ウイルスに感染すると先天性風疹症候群児を出生する.風疹の確定診断は,風疹ウイルスに感染した患者の急性期(発疹出現3〜5日以内)と回復期(7日〜14日後)のペア血清による風疹ウイルス抗体測定がある.風疹ウイルス抗体は,表1に示すように,いろいろな検査法がある.最もよく利用されているのが,赤血球凝集抑制試験(hemagglutination inhibition test;HI),酵素免疫測定法(enzyme immunoassay;EIA,ELISA)の2法である.
 本稿ではこの2法の検査手順について解説する.

生体のメカニズム 凝固・線溶系・4

先天性出血傾向とその診断

著者: 高松純樹

ページ範囲:P.758 - P.760

はじめに
 先天的に出血症状を呈する疾患は,日常臨床では決して多いとはいえないが,適切な診断.治療を失すると,ときには不幸な転帰をとることもある.したがって,その病態の理解とともに,適切な診断が要求される.
 本稿では,日常臨床上,重要である代表的な疾患について概説し,合わせてその鑑別すべき疾患についても述べる.

検査データを考える

鍍銀染色で染まる線維は何か

著者: 田中文彦

ページ範囲:P.753 - P.757

はじめに
 結合組織は線維芽細胞(fibroblast)などの細胞成分と,それらの間を埋める線維などの細胞外マトリックスとからなり(表1),中枢神経系を除くほとんどあらゆる臓器や器官の実質細胞を支持している.筆者らは学生時代に,これらのうちの線維組織を構成する線維には大きく分けて膠原線維(collagen fibers),弾性線維(elastic fibers),細網線維(reticutar fibers)の3種類があると教わった記憶があるが,Bloom & Fawcettの組織学の教科書の最新版1)では細網線維は膠原線維の仲間として論じられており,type-Ⅲコラーゲン(collagen)分子により構成される線維であるとされている.細網線維は鍍銀染色で銀粒子を吸着して黒染し,好銀線維とも呼ばれるが,ここではまず各種のコラーゲン分子と細網線維や膠原線維との関連を整理してから話を進めて行こうと思う.

検査法の基礎検討のしかた 臨床化学検査・8

管理血清の酵素反応性試験

著者: 斉藤友幸 ,   桑克彦

ページ範囲:P.761 - P.765

 日常検査用の試薬キットで得られる管理血清の酵素反応性が,患者血清と同じような反応態度を示すか否かを確認する試験法について解説する.

ラボクイズ

問題:尿沈渣

ページ範囲:P.738 - P.738

7月号の解答と解説

ページ範囲:P.739 - P.739

オピニオン

これからの検査技師に望むこと

著者: 片山善章

ページ範囲:P.706 - P.706

 私が新採用の検査技師に話をする“検査技師に望むこと”を4つの事項に分けて述べることにする.

けんさアラカルト

院内感染防止対策に保険適用

著者: 長沢光章

ページ範囲:P.712 - P.712

 1996年4月の診療報酬(保険点数)改定で入院料-入院環境料(1日につき)の項目に“院内感染防止対策加算”が新設された.
 この新設は,検体検査料(微生物学的検査)などの検査関連項目には含まれないが,検査部および微生物検査室に大きく関与しているため,ここで内容について取り上げる.

トピックス

グリコヘモグロビンの測定と糖尿病管理

著者: 星野忠夫

ページ範囲:P.766 - P.767

■増加する糖尿病
 戦後50年を経て貧しかった食生活は飽食の時代となり,生活環境も変わって寿命も延び,疾病分布が変わった.なかでも糖尿病は高年者のみならず若年層にも増加しつつあり,日本における糖尿病有病率は,最近の20年間で約3倍増加と推定され,今後さらに増加すると考えられている.糖尿病の増加は生活様式の都市化によると考えられ,国外でも同様の傾向があり,特に開発途上国で著しく,糖尿病は地球人病となりつつあるといえる.
 1994年度厚生省糖尿病調査研究報告書によれば,安定型HbA1c5.6%以上を糖尿病とすると,現代の日本における糖尿病の総患者数は40歳以上で500万人,40歳未満を加えると600万人と推定されている.表に示す健診による耐糖能調査によっても,糖尿病型が4.7〜5.7%,耐糖能異常(impaired glucose tolerance;IGT)を含む境界型が37.4〜49.2%と調査地域によって多少の差はあるが,糖尿病を含めた耐糖能異常者はいわゆる健常者の約半数に及んでいる.

64チャネル脳波計測用センサ

著者: 福住伸一 ,   小杉道夫

ページ範囲:P.767 - P.769

■多チャネル脳波計測の重要性と問題点
 近年,コンピュータや信号処理技術の急速な進歩により,パソコンなどによる多チャネル脳波の計測・解析・表示が可能となってきた1).数十個から100個を超える電極を通じて大量の脳波データを一度に収集し2),頭皮上の等電位分布3)や脳内等価電流双極子推定1)などの解析技術を適用することにより,人間の認知過程や心身状態などの高次脳機能を高速に,しかもわかりやすく示すことができる.
 多チャネル脳波計測・解析・表示技術は,脳科学を発展させる強力なツールとなり得るばかりでなく,臨床検査にも有効であると考えられる.この統合技術の中で,多チャネル脳波計測を実現するためには,多数の電極を,確実に,短時間で,しかも安定した低い抵抗値(5kΩ以下4))で装着することが必要不可欠である.しかしながら,従来の脳波用皿電極を用いた電極装着手法で多数の電極を装着すると,装着中の時間経過によるペーストの乾燥,電極線同士の絡み合い,ペースト同士の接触,などの不具合いが生じやすい.これらのことは,データにノイズが入り込むばかりでなく,検査準備に長時間を要し,被検者に苦痛を強いることになる.

ゲル内凝集反応による血液型判定法

著者: 狩野恭一

ページ範囲:P.769 - P.770

 赤血球のような粒子状抗原と対応する抗体を含む血清を試験管内で混合すると,赤血球は抗体により互い違いに結合し,大きな塊となって管底に沈むのがみえる.このように簡易な免疫血清学的方法,すなわち凝集反応は,輸血検査の主な手法として現在でも使われている.その主な理由は,①B/F分離を必要としない,②主要血液型ABOの同定に用いるヒト由来の抗体がサイズの大きい凝集反応に適したIgMであり,その特異性がシャープで誤判定を起こさない,ためである.
 一方,凝集反応の判定は主観的な目視判定のために,特に弱陽性の場合,データの信頼性に乏しく,いまだに熟練者の“名人芸”に頼らざるを得ない.さらに反応像そのものを記録保存することが難しく,昨今のPL法対応や標準化に適した方法とはいいがたい.凝集反応の簡易性を生かし,これらの欠点を是正すべく考案されたものがゲル内凝集反応である.その1つであるMicro Typing System(MTS)は,すでに欧米各地で数年間実施され,特に病院内輸血検査で高く評価されている.

ヒト血清中γ-GT測定の勧告法

著者: 山舘周恒 ,   関口光夫

ページ範囲:P.771 - P.773

はじめに
 γ-グルタミルトランスフェラーゼ(γ-glutamyl-transferase;γ-GT)は,1952年にHanesらによって存在が確認された膜結合酵素であり1),肝,腎,膵に局在する.肝・胆道系疾患の検査としての意義が高く,胆道閉塞症ではアルカリホスファターゼ(alka-line phosphatase;ALP)よりも早期に上昇するとされている.また,飲酒を継続すると上昇することから,健康診断の項目として採用している施設も多い.
 γ-GTの反応系と,その主な測定基質を表1に示す.反応系でのL-γ-グルタミル-R1は供与体基質であり,R2はL-γ-グルタミル基の受容体である.現在は複数の供与体基質が合成されているが,L-γ-グルタミル-4-ニトロアニリド(Glu-4-NA)が歴史的にも古く,スカンジナビア臨床化学会(SSCC)やアメリカ臨床化学会(AACC)の標準法に採用されている2,3).しかし,Glu-4-NAは溶解性が低く,溶液中での安定性にも問題があることから,その3位をカルボキシル基で置換したL-γ-グルタミル-3-カルボキシ-4-ニトロアニリド(GluCANA)が合成され,国際臨床化学会(IFCC)の勧告法に採用された経緯がある4).その後,欧州臨床検査標準化委員会(ECCLS)でも,測定温度を37℃にした以外はIFCCと同じ条件で標準法を定めた5).4

ペスト菌の細菌学的特徴と薬剤感受性

著者: 辻明良

ページ範囲:P.773 - P.775

■ペストの流行
 1994年8月,インド西部の異なる地域でペストの流行が起こったという報道は,全世界にパニックを引き起こした.過去のペストの大流行は3回記録に残っている.その1回が紀元前3世紀より紀元前1世紀におけるエジプト,エチオピアでの流行で,約1億人が亡くなり,多くの町が全滅した.14世紀に起こった第2の流行は黒死病として知られ,中央アジアからヨーロッパに起こっただけでおよそ2,500万人が犠牲となった.第3回目の流行は1894年に中国雲南省に端を発し,香港に達して,さらにインド,南アフリカ,北アメリカ,日本にも及び,特にインドでは1,000万人が犠牲になっている.このとき,北里およびYersinはそれぞれ単独にペスト菌を発見し,1897年,緒方らによりこの疾患が元来はネズミの間の伝染病で,ノミによりヒトに媒介されることを明らかにした.その後,1958年から1979年までの間に,全世界でおよそ47,000例のペストが,1989年には11か国から770例のペストが報告されている.また,1992年のWHOの報告では1,758例のヒトペストで198名が死亡している.日本では明治23年から昭和元年(1926年)までに,香港台湾,インドから船舶により患者,ネズミが数十回にわたり持ち込まれ,毎年ペストネズミと患者の発生がみられたが,それ以来,現在までペストの発生はない.

けんさ質問箱

Q 尿中白血球検出反応におけるアロステリック効果とは

著者: 中恵一 ,  

ページ範囲:P.777 - P.779

 尿中白血球検出試験紙で検尿をする際,高濃度のブドウ糖や蛋白が同時に検出される尿ではしばしば偽陽性となります.これは“アロステリック効果”のためと聞いたのですが,その機序を教えてください.

Q 呼吸筋の筋力低下の呼吸機能検査

著者: 進藤千代彦 ,  

ページ範囲:P.779 - P.781

 呼吸筋の筋力低下の場合,呼吸機能検査では,数値的にどのような変化が表れるのでしょうか.

今月の表紙

血球凝集

著者: 巽典之 ,   片上伴子

ページ範囲:P.736 - P.736

 血球を暗視野顕微鏡で観察すると顆粒球はキラキラと輝いて動く.血球数が多いと,まるで夜空の星の瞬きかと思うほどである.他方,位相差顕微鏡で観察すると,白血球は細胞運動だけでなく核・核膜・核小体・ミトコンドリア・顆粒の形や雲丹殻のような顆粒配列が細かに観察できる.血小板内も顆粒のブラウン運動がきれいに観察しうる.そしてロマノフスキー顕微鏡では名も付いていない小顆粒がリンパ球内に見えたりする.生の標本は染色標本とは異なる面を示し,顕微鏡を眺めていると,その美しさに時の経つのを忘れてしまうほどである.
 さて,血球凝集として最もよくみられるのは赤血球連銭形成(図a)であり,血小板凝集(図c)であろう.前者は赤血球凝集(図b)とは異なり,表面荷電によるγ-グロブリン高濃度で増強され,血液を数日保存することで観察されなくなる.連銭形成は血球計数器内でのチャンネル中での流力で解離するほどの弱い結合である.血小板凝集は,採血操作時の血小板活性化の結果であったり,免疫学的機序により生じるもので当然のことながら血小板数の偽低値が生ずる.血小板サテライト凝集(図d)や,主として好中球凝集の形でみられる白血球凝集(図e)は免疫学的機序の関与が考えられているものの定説であるとはいいがたい.白血球凝集はEDTA血の血漿・血球層の界面に肉眼的微細塊として観察できることが多く,患者病像と白血球数が合わないときには考慮すべき事象である.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?