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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術25巻1号

1997年01月発行

雑誌目次

病気のはなし

RSウイルス呼吸器感染症

著者: 黒崎知道

ページ範囲:P.6 - P.12

新しい知見
 RSウイルス(RSV)は院内感染を起こしやすく,その対策が重要である.一般病院でも検査可能である酵素免疫法(EIA)によるRSV迅速診断法が臨床応用されたことより,疫学ばかりでなく院内感染防止に効果を上げている.治療について米国小児科学会は,RSVに有効とされている抗ウイルス剤であるリバビリン吸入療法の治療指針を発表した(1993年)が,最近この治療に疑問視する報告(Wheeler JGら,1993年;Moler FWら,1996年)が散見され,今後のさらなる検討が必要である.

技術講座 生化学

ビリルビン分画の測定

著者: 小島正美 ,   佐藤悦子

ページ範囲:P.13 - P.20

新しい知見
 血清中ビリルビン分画の測定は,ジアゾ発色を利用することにより可能となり,ジアゾ試薬との反応性により直接(反応)ビリルビン,間接(反応)ビリルビンとされ,現在に至っている.最近,HPLCなどにより血中に存在が確認されている4種類のビリルビンのうち,抱合ビリルビンのみを特異的に測定する酵素法が報告され,ジアゾ試薬との反応性による分画と血中存在様式による分画との対比については再考が必要とされつつある.

レクチン(LCA)親和性AFPの測定法

著者: 武田和久 ,   鎌倉こず恵

ページ範囲:P.21 - P.26

新しい知見
 LCA反応性糖鎖はAFPのみならず,他の血清糖蛋白,例えばα1-酸性糖蛋白,α1-アンチトリプシンなどにおいても肝細胞癌例で増加しており,AFP非上昇肝細胞癌例の診断に,同様の原理に基づく糖蛋白の分画が可能である.また,AFPの低値例に対しては,アビジン・ビオチン・コンプレックスの系で,標識酵素にアルカリホスファターゼを用いて長時間反応させることにより,10ng/ml前後のAFPレベルの症例も検討の対象となる.

病理

細胞診における血液疾患

著者: 中村忍

ページ範囲:P.29 - P.36

新しい知見
 造血器腫瘍の治療の進歩は著しく,化学療法の発達や造血幹細胞移植の開発により治療法が多様化するとともに,かなりの例で治癒が期待できるまでに至っている.治療法の選択,予後の推定には正確な診断,病変の拡がりの把握とともに,細胞の成熟段階のどの時点での腫瘍化なのか,といった腫瘍細胞の性格の解析が不可欠となっている.このために,単に細胞形態の観察にとどまらず,細胞表面抗原の解析,染色体ならびに遺伝子レベルでの検索を行い,これらの結果を総合して治療がなされる.診断に当たり解析すべき項目をチェックして,必要な検体を採取しておくことが大切である.

免疫

破水の検査とその評価

著者: 間崎和夫 ,   内出一郎 ,   平川舜

ページ範囲:P.37 - P.42

新しい知見
 従来の破水の診断方法は羊水のpHがアルカリ性,破水前の腟分泌液が酸性であるのを利用して行われてきた.しかし,pH測定法では腟炎を合併した例や血液混入例では偽陽性,羊水流出量が少ない例では偽陰性となることがあった.最近,羊水中に多量にあるが,破水前には腟分泌液中にない物質〔癌胎児性フィブロネクチン,α-フェトプロテイン,insulin-like growth factor binding protein-1(IGFBP-1))をモノクローナル抗体を利用した方法で測定するキットが開発され,より正確な診断が期待されるようになってきた.

生理

異常筋電図の読みかた

著者: 木下真男 ,   水谷一裕

ページ範囲:P.43 - P.49

新しい知見
 もう新しいともいえないが,わが国の多くの検査施設ではまだあまり行っていない検査に単一筋線維筋電図(single fiber EMG)がある.1本の針電極に4〜10個の電極が組み込まれていて,複数の筋線維の活動電位をそれぞれ独立して観察できるという利点がある.本文で述べるように,通常の針筋電図が記録できる活動電位は,何本かの筋線維の活動電位が合体してできた運動単位(正確には小単位;subunit)のものであるから,個々の筋線維を調べることにはまた違った意義があることになる.jittering(同一運動単位内での筋活動のばらつき),筋線維の興奮の伝導速度などを測定することができる方法である.

一般

血液以外の材料の好酸球染色

著者: 宿谷賢一 ,   佐野絵美 ,   中竹俊彦

ページ範囲:P.51 - P.54

新しい知見
 好酸球の増加は寄生虫疾患やアレルギー性疾患で一般的に認められることはよく知られている.好酸球は血液のみならず,あらゆる臨床検査材料で病態に反映し,出現する.特に鼻汁中の好酸球については,以前からアレルギー性鼻炎の診断で重要視されてきた.しかし,尿中の好酸球については軽視されがちであったが,尿沈渣の鑑別技術の向上に伴い,間質性腎炎,好酸球性膀胱炎,尿路変向術後などの症例で確認されるようになってきた.

尿酸性化能の検査

著者: 土谷健 ,   中内みゆき ,   三室知子 ,   大貫隆子 ,   二瓶宏

ページ範囲:P.55 - P.61

新しい知見
 尿酸性化能のメカニズムは,実験動物の腎尿細管の生理学的知識を基礎に,ヒトでのさまざまな臨床的負荷試験の組み合わせにより解明され,病態が説明されてきた.負荷試験は煩雑さや作業量の割に情報量が少ないなどの問題がありながら,その積み重ねで尿細管性アシドーシスの病型分類などに寄与してきた,今後は分子生物学的手法,知識を背景に,実際にヒト腎尿細管細胞の膜輸送機構などが明らかにされつつあり,新しい機能検査法も生まれてくる可能性がある.

検査報告書の書きかた 生化学検査・1

酵素欠損症の検査—遺伝性変異に関する検査の報告

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.63 - P.66

はじめに
 遺伝性変異で酵素欠損が証明されるのは,大部分は臨床症状を背景に検索がなされて形質異常の検索で活性低下(または欠損)が証明され,かつ遺伝子異常が確認されたものである.しかし,検査室では,今の時点で臨床症状を伴わなくても,特定の疾患のハイリスク群であるとか,重篤な遺伝性疾患の保因者の可能性が見いだされる場合がある.
 これらの症例に対する対応で,遺伝子の検索がなされる場合,またフェノタイプ分析に限定されるにせよ,遺伝に関連する(特に遺伝子の)検査は,それぞれの“個体”を認識できる重要な情報であることから,プライバシーの保護という観点からも,基本的には日本人類遺伝学会が提案した「遺伝性疾患の遺伝性診断に関するガイドライン」は参考にされなければならない.

検査データを考える

尿ビリルビンと尿ウロビリノーゲン

著者: 伊藤正 ,   足立幸彦

ページ範囲:P.67 - P.71

はじめに
 黄疸はビリルビンが血中で増加し,身体の各組織に沈着する病態である.肝・胆道疾患の重要な臨床症状の1つであり,またそのほとんどで迅速な治療を必要とする.しかし,軽度の黄疸を理学的に診断することは困難であり,血清および尿ビリルビンや尿ウロビリノーゲンを測定する必要がある.現在,肝機能検査としての血液生化学検査や,肝炎ウイルス検査が広く普及してはいるが,尿中ビリルビン・ウロビリノーゲンの測定(定性,半定量)は,やはり肝・胆道疾患,各種の黄疸をきたす疾患のスクリーニングとして用いられることが多い.ただし,検体の保存状態や薬物の服用などさまざまな因子の修飾を受けやすく,その判定には注意が必要であることも事実である.
 黄疸を理解するためにはビリルビン代謝を理解する必要がある.本稿では,まずビリルビン代謝について解説し,尿中ビリルビン・ウロビリノーゲンの臨床的意義,診断的有用性と,その測定に影響を及ぼす因子について述べる.

検査法の基礎検討のしかた 血清検査・5

免疫成分測定法での標準品による評価と合わせかた

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.73 - P.77

血清蛋白測定の標準品の歴史的変遷
 標準化とは,同一のサンプルを測定して,世界のいかなる検査室においても同一結果が得られることを究極の目標とする国際的な精度保証システムと筆者は定義している.血清蛋白測定の標準化の歴史は古く,1967年のWHOが作製したIgG,IgA,IgMの3種の標準品にさかのぼるることができる.当時,免疫学的測定法で隆盛を極めていたのは単純免疫拡散法であり,この時点ですでに標準品の持つ重要性はかなり理解されていたはずである.これを皮切りにWHO,米国CDCなどから新しい成分についても標準品が次々と世に出されたが,標準品自体に一定の作製基準,各成分の値付けの方法など定められた方法がなかったために,施設間でのバラツキの縮小については必ずしも満足のゆく結果が得られなかった.しかし,少なくとも,これらの標準品の登場が契機となって,測定法の精度については世界の公的機関,企業,臨床検査室の努力により,飛躍的に向上が図られたことは大きな進歩であった.
 このような歴史的背景のもとで,1992年,国際臨床化学連合(IFCC)により完成された血清蛋白国際標準品CRM 470は,これまで抱えていた諸問題に対して一挙に解決を与える歴史的に高い意義を有する標準品である1)

ラボクイズ

問題:カラードプラ法による心疾患

ページ範囲:P.94 - P.94

12月号の解答と解説

ページ範囲:P.95 - P.95

オピニオン

社団法人日本臨床衛生検査技師会の動向

著者: 早田繁雄

ページ範囲:P.27 - P.27

●はじめに
 ここ数年来,世界の各国においても保健,医療,福祉にかかわる費用の増加が問題視されている.このことは,わが国においても例外ではなく,医療法の改正や公的介護保険制度の導入など,21世紀に向けて,保健,医療,福祉制度の改革のための施策や議論が活発である.このような状況のもとでは,医業経営も厳しさを覚悟しなければならないが,平成8年(1996年)4月に行われた診療報酬点数の改定は,前回と同じく医療制度改革の先取りをした改定であって,医療機関にとっては体質改善を余儀なくされる厳しい内容である.

けんさアラカルト

糖尿病合併症と糖化蛋白

著者: 河西浩一

ページ範囲:P.28 - P.28

 糖尿病は慢性の高血糖状態であり,高血糖の持続によって種々の合併症が引き起こされてくる.糖尿病の合併症は,網膜症,腎症,神経障害などの細小血管症と,動脈硬化症で代表される大血管障害に2大別されている.
 糖尿病細小血管症の発生機序はしだいに明らかにされてきているが,現時点ではソルビトール異常説,血行動態異常説,プロティンキナーゼC亢進説,グリケーション(glycation)説が挙げられる.このうちグリケーション反応〔メイラード(Maillard)反応〕についての研究の進展は目覚ましいものがある.

トピックス

新しい血小板凝集能測定法

著者: 佐藤金夫 ,   尾崎由基男

ページ範囲:P.79 - P.82

はじめに
 血小板は血液中の約2μmの大きさの細胞であり,生理的な止血機構の中心的役割を果たしている.血管内皮細胞が外傷などにより障害を受けると,内皮下組織が血液中に露出するようになり,血小板は速やかに内皮下組織と反応し活性化される.活性化された血小板は,またみずからも活性化物質を産生,放出して他の血小板を刺激することにより血小板血栓を形成していく.また,血小板は心筋梗塞,脳梗塞などの病的血栓の形成にも重要な役割を演じており,血小板の機能を評価することは血栓傾向あるいは血栓準備状態の発見,およびそれらの病態解明において有用な情報を提供すると考えられる.
 従来より,血小板凝集能の検査には血小板凝集の程度を光透過性(吸光度)の変化を利用して測定する吸光度法1,2)が汎用されている.しかし,顕微鏡による観察では,アデノシンニリン酸(adenosine 5'-diphosphate;ADP)やエピネフリンなどによる血小板凝集は刺激直後より小凝集塊の形成が認められるが,この時期には吸光度法では変化がみられず,数千個の血小板からなる巨大凝集塊が形成されて初めて吸光度の低下が起きる3,4).このように,吸光度の変化は凝集の有無を示すのではなく,小凝集塊が大凝集塊になるとき起きるため,吸光度法は血小板凝集塊の形成と光透過性との相関が悪い,また刺激直後の小凝集塊の検出ができない,などの難点がある.

DNAセンサ

著者: 橋本幸二

ページ範囲:P.82 - P.84

はじめに
 最近,ウイルス肝炎などの病体把握および治療に際し,血中ウイルス量が重視されることが多くなり,簡便で定量性のある遺伝子検出法に対する期待が高まっている.現在は,酵素によるDNA増幅反応を利用したC-PCR(competitive polymerase chain reaction)法1)などが遺伝子定量法として用いられているが,試料汚染,測定精度,コストが高いなど,いくつかの問題点があることから,これに替わる方法が求められている.
 最近,これらの問題解決のために複数の研究グループがセンサ形式のDNA検出法を提案している2〜5).センサは標的DNA配列の認識および信号の取り出しを同時に行うことができる.そのため,操作が非常に簡単であり,検出に要する時間も短時間ですむことになる.また,大量生産することで,低コストの使い捨てセンサも可能である.現在,検出手法の違いにより,以下に述べるような4種類のDNAセンサが研究されている.

Haemophilus parainfluenzaeとIgA腎症

著者: 鈴木亨 ,   木村秀樹 ,   下條文武

ページ範囲:P.84 - P.86

はじめに
 日本では現在約14万人を超える長期透析患者が存在し,平成6年度の新規透析導入患者数は約2.5万人であり,その45%が慢性腎炎による末期腎不全によるものである.
 IgA腎症(IgA nephropathy)は世界で最も頻度の高い原発性糸球体腎炎として認識され,日本の糸球体腎炎のおそらく半数近くを占めると考えられている.平成6年度の成績から推定してみると,年間約5,000〜6,000人のIgA腎症患者が末期腎不全に陥り,透析導入されていると考えられる.

HCV感染と自己免疫性肝炎

著者: 高橋宏樹

ページ範囲:P.86 - P.88

はじめに
 自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis;AIH)はその発症および病態形成に肝細胞に対する自己免疫機序が関与すると考えられる慢性肝疾患で,わが国においては中高年の女性に発症することが多い.発症の原因となる自己抗原はいまだ同定されていないが,C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus;HCV)感染が発症や病態形成に関与する可能性もある.

動物毒—伝説と事実

著者: 宇仁茂彦 ,   西尾恭好

ページ範囲:P.88 - P.92

はじめに
 紀元前30年8月29日,クレオパトラはエジプト王の王冠を戴き,王の装束を身につけ,黄金の寝台に横たわった.無花果を盛った籠を侍女カルミオンより受け取り,その中に秘めてあった2匹のアスプ(エジプトコブラ)を胸に這わせた.これがクレオパトラの最後といわれている.オクタビアヌスはローマでの凱旋パレードに連れて帰るために,クレオパトラを絶対に死なせてはならないと考え,前もってヘビ毒の専門家を従えていたとも記されている.この謎の死には毒蛇がよく描かれているが,毒蛇説を疑う歴史家も多い.
 15世紀ごろからヨーロッパではタランチュラに咬まれると舞踏狂になるという言い伝えが広まった.大形の毛深いクモが生息していたイタリアのタラントという町で,ある教団が熱狂的なダンス(タランテラ踊り)をして騒いでいた.その口実として,その人たちはクモに咬まれたためであると説明していた.そのために,この大きなクモはタランチュラと呼ばれるようになり,毒グモであると思われてしまつた.実は,その地域には毒性の強い小さいゴケグモがともに生息していた.タランチュラはめったに人を咬まないし,それによって死亡したという記録はない.

けんさ質問箱

Q スクレイピー

著者: 小野寺節 ,  

ページ範囲:P.97 - P.98

 狂牛病が話題になっていますが,スクレイピーという病気に罹患したヒツジをウシの飼料にしていたのが原因だと聞きます.スクレイピーはウイルスより小さなプリオンというものが感染して起こると聞きます.プリオンとはどのようなものでしょうか.熱,ホルマリン,紫外線にも耐性ということですが,ウイルスなどは蛋白質(アミノ酸)からできていますから,熱によって変性します.プリオンはどうして耐性なのでしょう.

Q LDHが低値を示したとき

著者: 須藤加代子 ,  

ページ範囲:P.98 - P.99

 LDHが3単位という症例を初めて経験しました.正常値(50〜400IU)以下,それもほとんど活性のない本症例はどのように考えたらいいのでしょうか.成書によりますと,抗癌剤や免疫抑制剤投与などでLDHが正常値以下になるとされていますが,本症例は脳挫傷で植物状態にあり,そのような薬剤は投与されておりません.また,LDHが低値を示したときのデータと前回のデータを次に示しますが,LDHのみが低くなっているので,その点についても疑問が残ります.

今月の表紙

マラリア原虫観察

著者: 木俣勲 ,   巽典之

ページ範囲:P.62 - P.62

 東南アジアとくればマラリア,デング熱,サラセミア,異常ヘモグロビン症,卵形赤血球症,伝染性下痢症,寄生虫症,それにAIDS,と答えることができれば満点である.環境破壊・オゾン層破壊・地球温暖化により熱帯・亜熱帯地域は拡大しつつあることから,特にマラリアについてはWHOを中心に精力的に予防対策が図られている.マラリアの汚染地域はアジアではタイ,インドネシアなどであり,インドネシアの西ロンボク島では人口の4%がマラリアに罹患しているという.
 デング熱はDICを起こす蚊媒介性ウイルス性疾患であるが,これは汚水のあふれる市街地で流行するのに対し,マラリアは風光明媚な海岸地域や汽水に住む蚊により媒介される(図aが模式図).蚊の活動する時間帯は夕方が多いとのお達しで,われわれは汚染地域に入ると夕焼けの海岸の散歩は控えている.果たして本当に予防的効果があるのかどうかは定かでないが,われわれご一行様は長年マラリアに罹患しなかったことは確かである.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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