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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術25巻11号

1997年10月発行

雑誌目次

病気のはなし

肺癌

著者: 北村諭

ページ範囲:P.896 - P.903

新しい知見
 診断面では,近年,それぞれの肺癌組織型に特異性の高い腫瘍マーカーが開発され,日常臨床に使用されている.CYFRA(扁平上皮癌)とPro GRP(小細胞癌)である.また末梢肺野にある小結節陰影の確定診断に胸腔鏡下肺生検が行われている.もし悪性ならば,そのまま開胸手術に移行し,縦隔リンパ節郭清をする.
 治療面では化学療法の薬剤として,CPT-11,taxolが使用されている.今後,肺癌に対する新しい治療として期待されているものに,気管支内腔放射線照射,重粒子線照射などがある.K-ras遺伝子に対するantisense oligoをレトロウイルスに組み込み,癌細胞に導入する方法やp53(癌抑制遺伝子)をアデノウイルスにより癌細胞に導入する方法なども検討されている.

技術講座 微生物

病理組織標本内にみられる寄生虫の鑑別法

著者: 影井昇

ページ範囲:P.905 - P.920

新しい知見
 寄生虫病の診断には寄生虫の産卵現象をもとに,糞便や尿,血液などを検体として,それらの中に産出された虫卵や幼虫を見いだす方法が古くから行われているが,近年は寄生虫病がなくなったという理由から,それらの検査を行わない病院がみられるようになっており,その結果,回虫卵すら知らない医師はもちろん,臨床検査技師でもその鑑別のできない者がみられる.そのような中,幼虫移行症の問題が台頭し,それに伴って,その組織内幼虫体の鑑別の重要性が出てきた.これら幼虫移行症の診断にはもちろん免疫血清学的な診断も行われているが,現時点では免疫血清学的診断は診断の補助的役割のほうが強く,確定診断は組織内にみられる虫体の鑑別によらざるを得ない.このような幼虫移行症は今後も新しい種類が出現する可能性も十分あり,そのようなとき,本稿が少しでも役だてられればと考えている.

免疫

インターロイキン6(IL-6)測定法

著者: 向田直史

ページ範囲:P.921 - P.926

新しい知見
 IL-6は種々の炎症反応の際に,単球をはじめとする種々の細胞から大量に産生されるサイトカインである.C反応性蛋白などのいわゆる急性期相蛋白の産生誘導作用があり,急性期相蛋白の増加に先立ち産生される.さらに,肝臓で産生される急性期相蛋白とは異なり,IL-6は肝臓以外の臓器・細胞でも産生されることから,肝不全時でも炎症時に増加する.以上のことから,IL-6は新たな種類の炎症マーカーとして臨床検査に用いられることが期待される.

生理

わかりにくい脳波の読みかた[1]

著者: 市川忠彦

ページ範囲:P.927 - P.935

新しい知見
 初稿となる今回は,アルファ波とその周辺領域から,徐アルファ異型律動,異常アルファ律動,低電圧脳波などの波形を取り上げたが,これに関連して,後頭部三角波や広汎アルファ波型についても触れてみた.
 近年,脳波の分野でも,コンピュータによる解析が盛んに行われるようになってきたが,それはアルファ波やベータ波,シータ波,デルタ波などの基礎活動に関する分析が主なものであって,異常波形や,今回のテーマである,解釈に迷ってしまうような紛らわしい,わかりにくい波形の判別などについては,いまだに“視察的な読みかた”に頼っているのが実状である.この領域でのコンピュータ解析をどこまで可能にするかが,臨床脳波学のこれからの1つの課題ともいえよう.

高齢者にみられる不整脈

著者: 三田村秀雄

ページ範囲:P.937 - P.943

新しい知見
 加齢に伴う心筋や刺激伝導系の変性や,自律神経バランスの変化などによって高齢者では心房細動/粗動や,洞結節機能不全,房室ブロックなどが多く観察される.高齢者では不整脈に伴う症状が少なかったり非典型的なこともあり,気づかれにくい反面,不整脈の結果,脳梗塞や心不全などの重篤な合併症をきたすことも多い.また,めまい,失神は骨折などの外傷を招き,著しくQOLを低下させることにつながる.高齢者に対する薬物療法では,催不整脈作用,陰性変力作用,その他の副作用が問題となるが,最近では高周波力テーテルアブレーションのような非薬物療法で対応できる不整脈の種類が増えつつあり,抗不整脈薬は限られた症例に注意深く投与すべきである.

日常染色法ガイダンス 結合組織の日常染色

アザン染色

著者: 大塚俊司

ページ範囲:P.947 - P.950

目的
 アザン染色は,本来マロリーが考案した酸性フクシンを用いる膠原線維染色法(マロリー染色)をハイデンハインが改良したもので,アザン・マロリー染色ともいう.これは酸性フクシンの代わりにアゾカルミンGを使用したもので,マロリー染色と同様に,膠原線維,細網線維などをアニリン青で青色に,筋線維や細胞核などをアゾカルミンGで赤色に染める.膵ランゲルハンス島などの細胞内分泌顆粒,硝子滴変性,線維素などの病的産物を染め出す点においても効果的な染色法である.しかし,アザン染色はマッソン染色に比べ,染色に長時間を要することおよびオレンジGの染色性が劣っているなどの難点が多く,現在では,マッソン染色が多く用いられている.ここではアザン・マロリー染色原法と短時間で染色可能なアザン染色変法を比較し,染色理論についても記す.

マロリー染色

著者: 大塚俊司

ページ範囲:P.951 - P.953

目的
 マロリー染色はマロリーが1905年に考案した染色法で,酸フクシンとアニリン青・オレンジG混合液により染色する方法であり,筋線維と膠原線維の鑑別に有用である.また細胞内の分泌顆粒,分泌物,硝子様物質なども染色される.現在では,後にハイデンハインが改良した染色法(アザン・マロリー染色)が広く用いられている.マロリー染色は原法では染色に長時間を要するが,ここでは短時間で染色可能な方法を紹介する.

検査報告書の書きかた 一般検査

尿沈渣

著者: 椿秀三千 ,   森三樹雄

ページ範囲:P.955 - P.961

はじめに
 尿沈渣検査は,臨床検査の中でも最も一般的に行われている検査の1つである.検体採取も容易で手技的にも簡単であるが,そこから得られる情報量は多く,腎・尿路系疾患の有無や全身状態の状況を判定することができる.尿沈渣の標準化は日本臨床検査標準協議会(JCCLS)から提示された勧告法により主として技術的部分は進展をみた.本稿では,まず尿沈渣の作製方法と種類を示し,そして,どのように報告書としてまとめられるのかを具体的に述べる.

検査データを考える

急性期反応物質

著者: 塚本さなえ ,   佐々木毅

ページ範囲:P.965 - P.969

はじめに
 生体は常に微生物などの侵襲や刺激を受け,これに対応している.このように生体に異物が侵入したり,組織損傷が生じたときに,生体がその組織の修復を図る現象は炎症と称される.このとき,血中に蛋白成分が増加するが,この成分としてはC反応性蛋白(C-reactive protein;CRP),血清アミロイドA(serumamyloid-A;SAA),α1酸性糖蛋白,α1アンチトリプシン,α1抗キモトリプシン,ハプトグロビン,フィブリノゲン,セルロプラスミンなどが含まれ,急性期反応物質(acute phase reactant;APR)と呼ばれている(図1).炎症は生体の恒常性を維持するための過程であるので,その状態を把握することは臨床において必須の事項とされる.この状態を反映する警告的なシグナルとして,これらのAPRが臨床検査において汎用されている.

検査法の基礎検討のしかた 微生物検査・2

同定検査

著者: 菅原和行

ページ範囲:P.971 - P.979

はじめに
 臨床細菌学における同定検査は,広範囲にわたる基礎知識や多種多様の問題意識が必要であるが,これらについてはすでに諸家により多くの文献1,2)や総説3,4)で詳細に述べられているので,本稿ではこれらの事項は割愛し,日常検査への市販同定キットの導入のための検討法に限定して述べる.

ラボクイズ

問題:呼吸機能検査

ページ範囲:P.944 - P.944

9月号の解答と解説

ページ範囲:P.945 - P.945

オピニオン

ウイルススクリーニングの将来

著者: 関口定美

ページ範囲:P.904 - P.904

 Karl LandsteinerによりABO式血液型が発見されてから間もなく100年を迎える.国際輸血学会(International Society of Blood Transfusion;ISBT)では第26回総会に当たる2000年にはLandsteinerのABO式血液型発見100年を記念してオーストリアのウィーンで開催することにしている.ヒトからヒトの同種血輸血は同種移植に相当するものとされ,いまだ解決されない多くの副作用を伴うが,血液型検査ないしは適合血検査と病原体スクリーニング検査は輸血前検査の主柱として安全な輸血のために貢献している.特に輸血感染症予防対策としてウイルススクリーニング検査の進歩が著しく,むしろ臨床ウイルス学の先導役を果たしていると言っても過言ではない.
 ウイルススクリーニングとして初めて全国的な規模で赤十字血液センターに導入されたのはHBs抗原に対する寒天ゲル反応で,1966年1月のことである.以来30年を経た現在では,HBs抗原,HBc抗体,HBs抗体,HCV抗体,HTLV-Ⅰ抗体,HIV-1/2抗体および梅毒検査を行っているが,このほか,CMV抗体を適時追加し,また最近はparvovirus B19スクリーニングを計画している.

けんさアラカルト

Helicobacter pylori感染の診断法—13C-urea breath test

著者: 指尾弘子 ,   福田能啓 ,   下山孝

ページ範囲:P.936 - P.936

 Helicobacter pyloriの発見以来,胃・十二指腸疾患と本菌との関連性が検討されてきた.最近では,H. pyloriを除菌しようとする試みがなされるようになり,H. pylori感染診断の必要性がますます高まってきている.
 H. pylori感染の診断には,内視鏡検査時に採取した生検組織を用いた鏡検法,迅速ウレアーゼテスト,培養法などがある.これらの検査法は内視鏡検査を行わなければならないので,侵襲的検査法と呼ばれている.また,胃生検組織を用いるため,胃内全体の感染を診断できず,偽陰性が生じる可能性がある.

トピックス

アルツハイマー病とFGF—FGF-9の免疫組織化学を中心として

著者: 大塚成人

ページ範囲:P.981 - P.984

はじめに
 ヒトの脳の重要な構成細胞である神経細胞は,生涯を通じて,緩やかに生理的減少をしていくが,これによって重篤な脳機能障害を生じることは一般にない.しかし,種々の神経疾患では,特定部位の進行性かつ急速な神経細胞の脱落が生じるために,さまざまな神経症状が出現する.このような神経難病の代表格といえるのが,平均寿命が延びてきた昨今,増加の傾向にあり,社会問題ともなっているアルツハイマー病である.この疾患の主たる病理学的特徴は,神経細胞脱落のみならず,大脳皮質の広範囲に多数のアルツハイマー神経原線維変化と老人斑が出現することである.現在,アルツハイマー病研究としては,神経細胞脱落の直接の原因の探究と並行して,このような異常構造物の解析が重要なアプローチとなっている.そのようななかで,アルツハイマー病脳内における神経栄養因子の動態についての研究も早くからなされてきた.
 本稿では,神経栄養因子のうち,線維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor;FGF)の非神経疾患脳における局在とアルツハイマー病脳における病態変化について論ずる.

脳波による覚醒度定量評価の試み

著者: 齋藤正己 ,   萩原啓 ,   荒木和典 ,   道盛章弘

ページ範囲:P.984 - P.988

はじめに
 ヒトの意識は原則的に2つの様態,覚醒と睡眠とを繰り返している.睡眠に関してはRechtschafen & Kalesによる深度の分類が広く用いられているが,覚醒に関しては,いくつかの提案こそなされているが,広く受け入れられている尺度はない.これは臨床脳波の研究が主として医学的な見地を中心に進められてきたため,定義することさえ困難な意識そのもの,あるいは覚識について,客観的・定量的評価が困難であることもあって,関心はもっぱら睡眠とか意識障害に向けられてきた.
 筆者らは覚醒度の評価根拠としてα波の変動を指標とした.その理由は今さら言う必要もなかろう.具体的には閉眼安静時のα波出現量と開眼によるその減衰が,個体の覚醒水準に対応して変化する性質を利用した.すなわち,安静状態で脳波記録中に,閉眼と開眼を反復することによって生じるα波出現量の変動の数値指標化のためにa波減衰試験(alpha attenuation test;AAT)を案出したのである.AATは開閉眼時におけるα波成分の平均パワー比であり,評価者間(inter-rater)あるいは評価者内(intra-rater)の変動要因の介入がない評価指数であるからといえる.

BCECFによる細胞内pHのモニター

著者: 米山彰子

ページ範囲:P.988 - P.990

はじめに
 細胞内pH(pHi)はNa/H exchangerなどの機構で調節され,細胞内の代謝,分泌,細胞膜を通じてのイオンの出入り,細胞の大きさの調節など細胞内の種々のプロセスに重要な役割を果たすとともに,細胞の増殖や活性化にも重要であることが示唆されている1).したがって,pHiの測定は細胞内反応の制御機構や細胞の活性化を理解するうえで重要である.従来は微小pH電極,弱酸あるいは弱塩基,nuclear magnetic resonance(NMR)などを用いて測定していたが,操作が煩雑であること,測定感度や応答速度などの点で問題があった.蛍光pH指示薬bis carboxyethyl carboxyfluorescein(BCECF)はこれらの欠点を解決しており,蛍光分光光度計を用いてpHiの測定が行われるようになった.さらに個々の細胞の蛍光が測定できるフローサイトメーターを用いれば,細胞集団の一部にpHiの変化がある場合を含め詳細な検討が可能になる.
 本稿ではフローサイトメーターとBCECFを用いたpHiの測定について紹介する.

けんさ質問箱

Q 肝硬変における血小板低下

著者: 田中克明 ,  

ページ範囲:P.991 - P.992

 肝硬変で血小板が低下するのはなぜでしょうか.その機序を教えてください.

Q 専門学校卒業からの大学卒業(学士)資格の取得方法

著者: 川端邦弘 ,  

ページ範囲:P.992 - P.994

 専門学校卒業(夜間,3年)のため,大卒の資格を取得したいと考えています.以前,その方法があることを何かで読みましたが,具体的な方法をご教示ください.

今月の表紙

アポトーシス

著者: 巽典之 ,   鎌田貴子

ページ範囲:P.953 - P.953

 アポトーシス(apoptosis:葉が枯れ落ちるような細胞死programmed cell death)なる言葉はWyllieが1980年に作りだした言葉であり,アメリカ人はアポトーシス,欧州の人はアポプトーシスと発音する.そしてここ数年,分子生物学の研究報告にはこの用語がゴロゴロ氾濫しているものの,臨床検査分野ではまだあまり使われていないようである.
 ステッドマン医学辞典によれば“アポトーシス(枯死)”とは,「バラバラに分散した細胞が断片化により膜結合性の粒子になり,これが他の細胞により捕食され自己消滅すること」と記載されている.対立事象としての“ネクローシス(壊死)”とは,「1つ以上の細胞,あるいは組織,器官の一部分の病理的な死であって,不可逆的な損傷で生じ,核濃縮・核融解・核崩壊がみられる」とある(図c).

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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