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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術25巻13号

1997年12月発行

雑誌目次

病気のはなし

成人T細胞白血病(ATL)

著者: 上平憲

ページ範囲:P.1102 - P.1112

新しい知見
 成人T細胞白血病(adult T cell leukemia;ATL)は,レトロウイルスの一種HTLV-Iに感染し,CD4T細胞が単クローン性に増殖したもので,臨床的表現型の多様性を特徴とする造血器腫瘍である.したがって,ATLの最終診断は腫瘍細胞ゲノム中にウイルスが単クローン性に組み込まれていることを証明する遺伝子診断が不可欠となった.
 また,ATLの研究を通じてATLの病態解明のみでなく,発癌の機構,サイトカイン-サイトカイン受容体系,細胞シグナル伝達系などの他分野の医学の進歩にも著しく貢献した.急性型ATLは抗癌剤に抵抗性で予後不良であるが,最近,HIV抗ウイルス剤AZTとインターフェロンの併用の有効性が報告され,注目を集めている.

技術講座 免疫

抗リン脂質抗体

著者: 松田重三 ,   加藤操

ページ範囲:P.1113 - P.1120

新しい知見
 抗リン脂質抗体(aPL)に関する注目すべき新知見の1つとして,従来陰性荷電を有するリン脂質そのものに対する抗体と考えられてきたaPLの真の抗原が,aCLではβ2-GPI,LAではプロトロンビンであることが判明したことが挙げられる.またaPLが産生される機序の1つに,病原微生物菌体成分のリン脂質が関与している可能性が高まったことも見逃せない.

病理

電子顕微鏡の技術—[1]電子顕微鏡用試料作製のポイント

著者: 山崎家春

ページ範囲:P.1121 - P.1126

新しい知見
 電子顕微鏡所見は病理学的診断に役だつ情報の1つであり,臨床検査の中でも利用されている.免疫学的に抗体を用いて,その抗原性の有無や局在を証明する場合にも電子顕微鏡が用いられている.
 ①通常用いられている固定液では抗原性を失活させることのほうが多い.②微細な構造を観察する場合,いかに細胞成分を保存(固定)するかで決まる.この両者の関係を十分理解したうえで,試料を取り扱わないと免疫学的かつ超微形態的な証明はできない.

生理

わかりにくい脳波の読みかた[3]

著者: 市川忠彦

ページ範囲:P.1127 - P.1135

新しい知見
 種々の異常脳波の中から,この稿では次のような波形を取り上げてみる.
 まず,一次性両側同期か二次性両側同期か紛らわしい広汎性突発波,てんかんの中でも重要な一型である複雑部分発作においてしばしばみられる見かけの陽性鋭波や矩形波,つい見落とされがちな小鋭棘波と呼ばれる波形,局在性の多形デルタ活動と間欠律動性デルタ活動といった波形であるが,それぞれの波形について,どのような側面が紛らわしく,わかりにくいのか解説する.

一般

便一般検査のためのサンプリング法

著者: 今福裕司 ,   吉田浩

ページ範囲:P.1137 - P.1143

新しい知見
 大腸癌由来の出血を検出するという目的の便潜血反応のためのサンプリング法として,表面擦過法が推奨されている.これは大腸癌が直腸,S状結腸に発生する頻度が高いこと,およびそうした下部大腸由来の出血が便表面に付着する傾向があるためである.もう1つ,便潜血反応サンプリングの進展として,便をトイレの水に浸らせなくてすむような採取容器が日本においても開発されたことである.便が水に浸ると水による潜血の希釈が起こるし,洗浄剤が使用されている場合はその影響が無視できないものとなる.

日常染色法ガイダンス 結合組織の日常染色

PAM染色

著者: 岡本京子

ページ範囲:P.1147 - P.1150

目的1)
 腎糸球体は図1に示すように複雑かつ有機的な毛細血管毬で,基底膜の外側は上皮細胞に覆われ,内側は内皮細胞と毛細血管を支えるメサンギウムで構成されている.メサンギウムはメサンギウム細胞と,細胞間を埋めるメサンギウム基質とからなっている.図2は係蹄壁の模式図を示す.通常,HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色は上皮細胞,基底膜が一緒に染まるので,内皮細胞が少し厚くなっても係蹄壁の肥厚としか表現できない.しかし,PAM(過ヨウ素酸メセナミン銀)染色は基底膜そのものが染まるので,基底膜という用語を用いて所見を述べることができる方法である.同じ基底膜を染めるPAS(過ヨウ素酸シッフ)染色との相違点は,膜性腎症のときにみられる基底膜ならびに外側に向かって,ほぼ直角に出ている小さい棘状の小突起(spikes)をクリアーに染め出すことである(電顕写真,図3).

細胞内顆粒の日常染色

ピアスのPTAH染色

著者: 髙田多津男 ,   大崎博之 ,   中村宗夫

ページ範囲:P.1151 - P.1153

目的
 リンタングステン酸ヘマトキシリン(phosphotungstic acid hematoxylin;PTAH)染色は,各種の顆粒あるいは線維素,筋線維,神経膠線維などを染める染色法である.特に結合織の中での筋線維,とりわけ横紋筋の染め分けが見事である.また,軟骨や骨が黄褐色に染まるので,気管支周辺の病変においては,骨形成の状態を知る染色法としても使用可能である.さらに,腎疾患でよく遭遇する糸球体内の沈着顆粒などもよく染め分けられて鑑別診断の補助とすることができる.そのうえ,中枢神経疾患における神経膠線維と結合織の鑑別にも応用できる染色法として高く評価されている.

検査報告書の書きかた 細菌検査・2

尿培養検査

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.1157 - P.1160

はじめに
 尿路感染症は感染症として呼吸器感染症に次いで発生頻度の高い疾患であり,尿は培養検査において最も依頼件数が多い検体である.尿培養検査は尿路感染症の診断と治療に有益な情報を得るために行われる検査である.尿路感染症は感染部位から上部尿路感染症と下部尿路感染症に大別される.また尿道炎と前立腺炎では特殊な微生物が原因となる.
 尿を培養する際に注意すべき点は,膀胱を穿刺した場合を除き,中間尿やカテーテル採尿では採尿時に尿道の常在菌が少量混入するが,起炎菌の決定には尿中菌量が重要な指標となるため,定量培養が必要となることである.また,採尿後室温に長く放置された尿では,尿中細菌が時間とともに増加するため,採尿時より培養時の菌量が著しく多くなり,起炎菌と誤る恐れが生じる.これらの事項は検査成績を解釈する際に留意すべき点である.

検査データを考える

呼吸不全における検査データ—動脈血ガス分析と呼吸機能

著者: 片山弘文 ,   滝沢始 ,   四元秀毅

ページ範囲:P.1161 - P.1164

はじめに
 わが国において呼吸不全の定義は,1969年笹本,横山1)によって「原因のいかんを問わず動脈血液ガス,特にO2とCO2が異常な値を示し,そのため生体が正常な機能を営みえなくなった状態」と提唱され,その後,1982年厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班2)により,表1に示す呼吸不全の診断基準が発表されるに至った.その内容は,①原因のいかんを問わず呼吸不全を室内気吸入下,動脈血酸素分圧を60Torr以下と規定.②換気不全合併の有無によりI型(Paco2≦45Torr),Ⅱ型(Paco2>45 Torr)に分類しているのが特徴である.
 呼吸不全には,図1に示すように3つの場合がある.ⓐ肺胞動脈血酸素分圧較差(A-aDo2)の開大はあるが,Paco2の上昇を伴わない場合,ⓑPaco2の上昇とA-aDo2開大がともにある場合,ⓒPaco2上昇を伴うが,A-aDo2の開大がない場合である.A-aDo2の開大を伴うⓐ,ⓑは,肺自体の障害によるガス交換率低下の存在を示しているが,Paco2の上昇を伴うⓑ,ⓒは,体内で生産されるCO2を体外に十分排泄できない状態(肺胞低換気)の存在を示している.このためPaco2の上昇を伴わない場合をI型呼吸不全,伴う場合をⅡ型呼吸不全として区別している.表2に呼吸不全の原因となる疾患を,表3に呼吸不全の臨床症状を示す.

検査法の基礎検討のしかた 微生物検査・4

免疫学的検査,遺伝子検査

著者: 望月照次 ,   中村良子

ページ範囲:P.1167 - P.1171

はじめに
 微生物検査の中でも免疫学的反応が用いられる目的は,①形態あるいは生化学的性状が類似している菌種においても,既知抗体(抗血清)を用いた免疫学的手法により,その菌の化学構造(抗原決定基)の相違を区別し,菌種・菌群の型別判定が可能となる,②病原体の検出が不可能,あるいは困難な場合,患者血清と既知抗原と反応させ,抗体産生の刺激の原因となった病原体や菌体成分などを推定できる,ことが挙げられる.また微生物学的検査は,病原体の検出に“培養”を必要とし,検査結果を得るまでに長時間を要する.そこで迅速に病原体の検出ができる方法が必要となり,抗原抗体反応を利用した免疫学的検査法が用いられる1)
 一般的な免疫学的検査法を表1に示した.これらの検査法を利用する際,その検査法の原理,用いられる試薬などの機能を十分に理解することが必要である.微生物検査で用いられる免疫学的検査法は,通常,抗原(菌体自身あるいは菌体成分)をスライド上で既知抗体と反応させる凝集反応と標識抗体法が主として用いられる.そこで,実際に検査室で免疫学的検査法を利用する場合は,次の項目を十分に検討し,検査結果の信頼度を確立しなければならない.

ラボクイズ

問題:QRS異常

ページ範囲:P.1144 - P.1145

11月号の解答と解説

ページ範囲:P.1146 - P.1146

オピニオン

臨床検査技師の業務再編成

著者: 小沼利光

ページ範囲:P.1136 - P.1136

はじめに
 昭和46年臨床検査技師という国家資格が誕生し,四半世紀が過ぎようとしています.しかし,その将来は決して華々しいものではなく,わが国の健康保険制度がすでに破綻していることを考えれば容易に想像できる未来図でありましょう.われわれ臨床検査技師は,いかにこの現状を受け止め,どのような方向性を見いだすべきであるのか.とても解答が出せるようなレベルの問題提起ではありませんが,この誌面をお借りして私なりの一考を述べさせていただき,皆さまとともにその答えを模索していきたいと考えます.

けんさアラカルト

蠕虫とIgE産生

著者: 松田信治

ページ範囲:P.1154 - P.1155

 免疫グロブリン検査の結果,IgM,IgG,IgAの増減にかかわらず,IgEが上昇している場合がある.このような疾患にはどのようなものが報告されているのかを,さまざまな文献をもとにして,表にまとめてみた.さらに,それぞれの疾患のおおよその頻度を比べることができるように,寄生虫有卵者率1)(人口10万人対2,199.6人,1995年)を1とした場合の相対値を付け加えてみた.これからアトピー性疾患と寄生虫感染症の頻度がほかに比べて高いことがわかる.
 次に血清中総IgE値を実際に測定したものを,いくつかの疾患について比較できるようにグラフにしてみたのが図1である.寄生虫感染症では総じて比較的高い値を示すことがわかる.ところが,寄生虫と一括されている病原体のうち,単細胞の原虫類の感染症では,一般にIgEは高値を示さない.線虫・吸虫・条虫といったいわゆる蠕虫類の感染でのみみられる現象である.

トピックス

検査室での感染対策

著者: 藤田直久

ページ範囲:P.1173 - P.1176

はじめに
感染性検体取り扱い時の手袋着用の義務づけ40%,採血時の手袋着用率11%,採血後のリキャップ率40%,検査室での飲食21%,口によるピペット操作38%,これは全国医科大学付属病院の検査室に対して行ったアンケート調査の結果(日本環境感染学会シンポジウム,1997年2月)である.検査室に勤務されている方々は,この結果をどのように受け取られるであろうか?
 検査室における感染対策はその対象により大きく2つに分けることができる.

フォリスタチン

著者: 新谷保実

ページ範囲:P.1176 - P.1178

フォリスタチンとは
 1985年,下垂体前葉からの卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone;FSH)分泌を選択的に抑制するインヒビン(inhibin;INH)が卵胞液から純化・精製され,その構造はαとβの2つの異なるサブユニットが結合したヘテロ2量体であることが明らかにされた1).続いて,βサブユニットのホモ2量体であるアクチビン(activin;Act)は,INHとは逆に,FSH分泌を促進する作用を有することが報告された1)
 フォリスタチン(follistatin;FS)はINHと同様に下垂体前葉からのFSH分泌抑制活性を指標に卵胞液から精製された一本鎖糖蛋白で,1987年,2つの異なるグループによりそれぞれ報告された2,3).FSは下垂体からのFSH分泌を抑制するが,黄体化ホルモン分泌には影響を及ぼさない点ではINHと同様である.しかし,INHと構造上の相同性はなく,またFSH分泌抑制作用はINHの約30%である.一方,1990年,ラット卵巣からActと特異的に結合する蛋白が精製されたが,驚くべきことに,このAct結合蛋白はFSと同一構造であることが証明され4),FSの作用が内因性Act作用の阻害によることが明らかとなった.さらに,その後の検討により,FSとActはいずれも性腺以外の組織にも広く分布し,FSH分泌の調節以外にも多彩な生理作用を有することが報告されている5)

血小板から放出される細胞間メッセンジャーとしてのスフィンゴシン-1-リン酸

著者: 矢冨裕

ページ範囲:P.1179 - P.1181

はじめに
 細胞膜脂質二重層は,グリセロリン脂質,スフィンゴ脂質,コレステロールよりなる.このうちグリセロリン脂質に関しては,単なる細胞膜の構成員としてだけではなく,膜を介する情報伝達機構における関与としての,つまりシグナル分子としての重要性が確立されている.一方,基本骨格としてスフィンゴシンを持つスフィンゴ脂質に関しても,シグナル分子としての役割という新しい側面からの報告が最近相次いでいる.中性スフィンゴミエリナーゼによりスフィンゴミエリン(細胞膜の構成員)から生成されるセラミド,それにセラミダーゼが作用した代謝産物であるスフィンゴシン,さらにはそれにスフィンゴシンキナーゼが作用して産生されるスフィンゴシン-1-リン酸(sphingosine-1-phosphate;Sph-1-P)など(図1)が重要なメッセンジャーとして増殖・分化・アポトーシスをはじめとする種々の細胞機能に関与していることが想定されるに至っている1).高度に分化した無核の細胞である血小板においては,これらスフィンゴ脂質の機能的役割に関してはほとんど知見がなかったが,筆者らの研究により,Sph-1-Pが血小板由来の脂質メディエーターとして,重要かつユニークな作用を持つことが明らかになった.
 本稿では,血小板Sph-1-Pの機能的役割に関して簡明に説明したい.

新しい胎盤ホルモンとしての肥満遺伝子産物レプチン

著者: 由良茂夫 ,   佐川典正 ,   三瀬裕子 ,   益崎裕章 ,   小川佳宏 ,   中尾一和

ページ範囲:P.1181 - P.1183

はじめに
 レプチンは1994年に発見された新しい蛋白で,脂肪細胞において生合成・分泌され,個体の体重を調節する肥満抑制ホルモンとして重要な作用を有している.脂肪組織の重量が過度に増加した状態である肥満は糖尿病や高血圧症,動脈硬化症などの生活習慣病(成人病)の主要な危険因子の1つとして注目されている.レプチンは発見以来,脂肪細胞のみで生合成・分泌されると考えられてきたが,最近,筆者らは妊娠中の女性では胎盤や羊膜からレプチンが分泌されていることを発見した.そこで,本稿ではまず非妊時の生体内におけるレプチンの役割について解説し,次いで妊娠中の胎盤ホルモンとしてのレプチンの生理的意義について紹介する.

けんさ質問箱

Q 内視鏡技師になる方法

著者: 田村君英 ,  

ページ範囲:P.1184 - P.1185

 検査技師が内視鏡技師になるための具体的な手順をご教示ください.また,具体的に活動している施設名,事務局などの連絡先を教えてください.

Q 難聴と薬剤の関係

著者: 杉原浩 ,  

ページ範囲:P.1185 - P.1187

 聴力検査をルーチンに行っていますが,耳鼻科以外の患者の治療薬剤と難聴との関係をご教示ください.本誌25巻2号(1997年2月号)にストレプトマイシンについて解説がありましたが,それ以外の薬剤で難聴を起こすものにはどんなものがあるのでしょうか.

今月の表紙

マイクロパーティクル

著者: 巽典之 ,   津田泉

ページ範囲:P.1120 - P.1120

 筆者らの研究室は釜が崎と通天閣が見える崖の上に立っている.窓越しに見える威容を誇るビルの中には暴力団事務所もあり,その日暮らしの労働者も闊歩している.考えようによっては社会の縮図を見るには最適な場所に大学病院が位置していることになる.この雑多な窓外の風景は,その昔,血中のゴミと記載された血小板を筆者らに思い起こさせてくれる.
 血小板は活性化されたり,物理的刺激を受けると,粘着・変形・凝集し,巨大塊となる.ところが個々の血小板は変形するだけでなく,細胞外に微小なベジクル(膜小胞体;マイクロパーティクル),すなわちplatelet-derived microparticles(PMP)を形成し放出する.このPMPは,血小板由来の内部顆粒や膜性微粒子を含み,血小板崩壊の指標となるだけでなく,凝固第Ⅴ,Ⅷ,Xa因子への結合部位が多くあり,プロトロンビンキナーゼ活性作用を有する.尿毒症・糖尿病・脳梗塞などではPMPが増加することから,これが止血血栓形成に重要な役割を果たしているとされる.

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「検査と技術」第25巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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