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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術25巻5号

1997年05月発行

雑誌目次

病気のはなし

めまい

著者: 堤由紀子 ,   岩田誠

ページ範囲:P.406 - P.410

新しい知見
 めまいの原因として脳循環障害が疑われる場合には,脳血流についての検査が行われる.以前は侵襲性の高い脳血管撮影が主体であったが,最近は非侵襲性の検査が開発されており,脳血流シンチグラフィー(SPECT),経頭蓋ドプラ(transcranial Doppler;TCD),頸動脈エコーなどが行われる.動脈硬化病変が疑われる場合には,まず頸動脈エコーを行い1),頸動脈硬化病変の強い症例では,SPECTやTCDによって脳血流の左右差の有無を観察する.心原性脳塞栓症や総頸動脈の高度狭窄による一過性脳虚血発作が疑われる場合は,TCDを行い,20〜30分間脳血流をモニターすると,塞栓がhigh intensity transient signal(HTS)として観察される2)

技術講座 生化学

ヒアルロン酸の検査

著者: 吉田浩

ページ範囲:P.411 - P.415

新しい知見
 特異的反応といえば,抗原抗体反応が代表と考えられるが,ピアルロン酸測定はピアルロン酸と特異的に結合するピアルロン酸結合蛋白(HABP)を利用して行われる.血中ピアルロン酸濃度測定は慢性肝炎から肝硬変症への病態の進展を知る-指標としての有用性が評価され,保険診療でも採用されている.他に慢性関節リウマチ患者でも血清中濃度の上昇が認められ,ピアルロン酸の病態への関与が推定される.

血液

造血器腫瘍の遺伝子診断

著者: 横田浩充 ,   北村聖

ページ範囲:P.417 - P.425

新しい知見
 造血器腫瘍においては,その病型に特徴的な染色体異常,遺伝子異常が見いだされていることから,その診断,治療効果判定上,遺伝子診断法が普及してきた.初めにゲノムDNAを用いたサザンプロット法が開発され,免疫グロブリン遺伝子やT細胞受容体遺伝子の検出,染色体転座型白血病遺伝子の検出が実用化された.次いでPCR法が開発された.この方法は,わずかな検体量で高感度に遺伝子を検出でき,簡便な遺伝子診断技術である.特に治療効果判定のうえで,その臨床的有用性が高い.現在,白血病治療の目標が分子生物学的完全寛解に置かれていることからも,本診断法の保険適用化,日常検査化が強く望まれる.

微生物

最近話題になっている食中毒原因菌

著者: 内村眞佐子

ページ範囲:P.427 - P.433

新しい知見
 1996年5月から,全国的にベロ毒素産生性大腸菌0157による食中毒が多発した.本菌による患者発生は,サルモネラによる食中毒とともに,欧米各国においても深刻な問題となっている.そこで,サルモネラおよびベロ毒素産生性大腸菌による食中毒発生状況および検査法について現在わかっている知見を紹介する.

一般

糞便中の脂肪検査

著者: 近藤孝晴 ,   中江康之

ページ範囲:P.435 - P.440

新しい知見
 便中脂肪の測定は脂肪の消化吸収試験の1つであり,消化吸収障害の直接的な証明となる.しかし,日本ではいわゆる脂肪便で苦しむ患者が少ないことに加え,便を取り扱うことに抵抗があり,あまり行われる検査ではない.とはいうものの,最近では食生活の変化に伴い,慢性膵炎の病態も西欧型になりつつあり,消化吸収試験が臨床上必要と考えられる例も増加しつつある.近赤外線法など簡便かつ正確に便中脂肪を測定できる機器が普及すれば,検査件数も増加する可能性がある.

生理

小児てんかん脳波の読みかた

著者: 久保田雅也

ページ範囲:P.443 - P.451

新しい知見
 従来の脳波の読みと大きく変わるものはないが,小児てんかん学の中では臨床所見とともに脳波所見を合わせ,症候群別に細かく診断,治療しようという流れはある.とはいえ,画然とある症候群の範疇に入る例は多くはない.より効率的な脳波記録と的確な読みが要求される.
 脳磁図は特に空間解像度に優れ,脳波と相補的に利用され始めた新しい検査法である.無侵襲で繰り返し検査できるのは脳波と変わらない.てんかんの発作焦点の局在同定や神経疾患全般の機能解剖学的解析に今後威力を発揮すると思われる.

日常染色法ガイダンス 糖質の日常染色—複合糖質(ムコ物質)の染色

アルシアン青染色

著者: 田村邦夫

ページ範囲:P.453 - P.455

目的
 アルシアン青は酸性粘液多糖類のカルボキシル基,あるいは硫酸基と結合して酸性粘液多糖類を染め出す.pH2.5の染色液ではカルボキシル基や硫酸基を有する酸性粘液多糖類を染め,pH1.0の染色液では硫酸基を有する酸性粘液多糖類のみを染める.このように,アルシアン青染色では染色液の水素イオン濃度によって染色される酸性粘液多糖類が異なってくる.酸性粘液多糖類はカルボキシル基を有するピアルロン酸と硫酸基を有するムコイチン硫酸,コンドロイチン硫酸,ケラト硫酸,ヘパリンなどに分類されている.組織成分からみると,酸性粘液多糖類は腺上皮細胞から分泌される粘液,軟骨,肥満細胞の顆粒,細胞膜表面のsurface coat,結合織や支持組織の細胞間物質として生体に広く存在している.したがって,アルシアン青染色陽性を示す腫瘍細胞は,これらの組織成分を発生母地とする腫瘍細胞の由来の推定や腫瘍細胞の粘液の証明など,鑑別診断の一助となっている.
 また,組織化学的な酸性粘液多糖類の鑑別方法は酵素の基質特異性を利用して,酸性粘液多糖類を消化後にアルシアン青染色を行う.その染色性の有無から酸性粘液多糖類を推定し,詳しく分類するときにも用いられる.

細菌・真菌の日常染色

レフレルのメチレン青染色

著者: 阿部美知子 ,   町田大輔 ,   市川つわ ,   久米光 ,   亀谷徹

ページ範囲:P.456 - P.458

目的
 感染症の診断のための病理組織標本の染色法としては,グラム染色が最も代表的な染色法であるが,その他ギムザ染色や,推定される病原体によっては抗酸菌染色および真菌の染色などの特殊染色がある.
 メチレン青染色は組織内の抗酸菌以外の細菌の有無を証明するために施行される最も簡便な染色法である.本来無菌的である臓器組織内に,病理組織学的に細菌が証明されることは,細菌感染症の診断において最も信憑性が高い.同様の目的で培養検査も行われるが,培養検査では検出された細菌がすべて臓器組織由来とは限らず,場合によっては汚染菌が分離される危険性もある.

検査報告書の書きかた 血液検査・2

白血球系の検査

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.463 - P.469

検査の目的と意味
 白血球系の検査には数量的検査と質的検査がある.血球計数が前者の代表であり,一方,質的検査としては形態検査や細胞抗原検索がある.
 白血球数は種々の病態で増加・減少といった変化を示す.そのため生体内の異常の有無を知る目的で,スクリーニング検査の1つとして利用される.ただし,特定の疾患に対する特異性は高くない.数量的検査と質的検査の中間的検査として白血球分画やリンパ球サブセット検査がある.これらは多くの場合,単に異常の有無のみならず,生体内で起こっている変化(病態)についてもかなりの情報を与えてくれる.一般に骨髄像など二次的な形態学的検査や細胞抗原検索は,さらに病態・疾患に特異性の高い情報を提供する.疾患の具体的な診断に直接結びつくような情報が得られることもある.

検査データを考える

妊娠反応

著者: 山本敏也 ,   倉智博久 ,   村田雄二

ページ範囲:P.471 - P.475

はじめに
 ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin;hCG)は,妊娠早期より胎盤の絨毛組織から分泌される分子量約38,000の糖蛋白ホルモンである.
 妊娠の診断には,尿中にhCGの存在を免疫学的定性法で証明する妊娠反応が最も鋭敏で,かつ簡便な方法である.免疫学的定性法としては,赤血球凝集反応を応用したスライド法(ゴナビスライド;持田製薬など)がまず普及し,現在ではモノクローナル抗体を用いたenzyme immunoassay(EIA)に基づく高感度hCG検出試薬が一般化されている.

検査法の基礎検討のしかた 血液検査・4

線溶検査

著者: 大竹順子

ページ範囲:P.477 - P.481

はじめに
 生体内には血液を凝固させる凝固因子,その凝固を阻止する凝固阻止因子,凝固を分解する線溶因子,線溶を阻止しようとする線溶阻止因子,およびそれぞれの因子と阻止因子の複合体が混在し,それらがお互いにバランスよく作用し合って,血管内で血液は凝固しないようになっている.
 線溶の中心となるのは,プラスミノゲン,プラスミンである.通常は血中で活性を示さないプラスミノゲンの型で存在しており,組織プラスミノゲンアクチベーター(tissue type plasminogen activator;t-PA)などの作用を受けてプラスミンに変化する.線溶阻止因子であるプラスミノゲンアクチベーターインヒビター(plasminogen activator inhibitor:PAI-1)の作用を免れたプラスミンが,フィブリンやフィブリノゲンを分解する.

ラボクイズ

問題:骨髄像

ページ範囲:P.460 - P.460

4月号の解答と解説

ページ範囲:P.461 - P.461

オピニオン

日本医師会サーベイへの要望

著者: 川嶋元

ページ範囲:P.416 - P.416

 わが国最大の外部精度管理調査は,1996年第29回目を迎えた日本医師会精度管理調査(日医サーベイと略)です.調査対象項目は43にのぼり,2,500近くの施設がサーベイに参加しました.このような大規模サーベイが29年間実施されてきました.
 サーベイが実施されるにあたっては,まずサーベイの目的と要綱が決められ,実行となりますが,医療および検査分野の変化に従い,サーベイ要綱の見直しが余儀なくされます.日医サーベイでは,時代のニーズに合ったサーベイ実施に向け,毎回調査項目や評価法が多岐にわたって見直されていることを報告書からうかがい知ることができます.

けんさアラカルト

検査室運営と経費管理

著者: 栗本誠一

ページ範囲:P.426 - P.426

 現在,医療を取り巻く環境は大きく変化しつつあり,医療供給体制が大きく変わろうとしている.そのようなターニングポイントにあって,検査室の管理者に対しては適正な検査室の運営と経費管理が求められている.特に医療の経済的環境が厳しさを増している現在,検査室が収益部門として医療機関の中で健全に存続してゆくためには,検査室管理者が検査室の収益管理および経費管理を的確に実施する必要がある.
 大阪府臨床衛生検査技師会が1995年11月に大阪府下で実施した検査室の経費管理の実態調査では,検査室の収支決算を実施している施設は全体の37.5%であり,まだ少数であるといえる.それでは,われわれ検査室管理者が検査室運営の中で今後どこまで経費管理を推し進めてゆかなければならないであろうか.管理者が検査室において実施が望ましい経営上の管理事項としては,次のようなものが挙げられる.

トピックス

クリプトスポリジウムの水系感染

著者: 松井利博

ページ範囲:P.483 - P.485

■水系感染による集団下痢症
 1994年8月から9月にかけて,神奈川県平塚市で飲食店10店舗が入居する雑居ビルの従業員と客の461人に集団下痢症が発生し,その原因はビルの水道水受水槽と隣接した排水槽の一部が破損し,クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)原虫が簡易水道水を介して感染したことが報告された.さらに1996年6月には埼玉県越生町で町営水道を介したクリプトスポリジウム原虫による大規模な集団下痢症が発生した.詳細な成績はまだ公にされていないが,患者数は8,000人以上と報道され,この年,日本中を震撼させた病原性大腸菌O157による患者数にほぼ匹敵する.一方,海外では1980年代半ばから欧米を中心に毎年のように本原虫の水系感染による集団発症が報告され,最大規模では1993年に40万人以上が発症した米国ミルウォーキー市での報告がある1)

筋電図によるバイオフィードバック療法

著者: 木村彰男

ページ範囲:P.485 - P.487

はじめに
 バイオフィードバックとは,通常ではヒトが意識することができない生体内で起こるさまざまな生理的現象を,なんらかの手段を用いて知覚できる信号に変換することにより,その情報を再び生体内に戻し,生理的現象の随意的操作がある程度可能になることと定義できる.
 バイオフィードバックは医学関係のみならず,心理学や医用工学などさまざまな分野から興味が持たれており,表に示すように,種々の方法によりアプローチされている.なかでも筋電図バイオフィードバック療法は,筋再教育・筋力増強訓練ないし筋緊張緩和に対し,手軽で効果も確実なために,リハビリテーション医学の分野で最も広く用いられている1,2)

堺市で発生した病原性大腸菌O157による集団食中毒

著者: 金万和志 ,   橋爪孝雄 ,   木谷照夫

ページ範囲:P.487 - P.489

はじめに
 1996年7月,堺市において,学校給食が原因とみられる集団食中毒が発生した.患者総数は学童を中心に約5,700人にのぼり,世界最大規模のものとなった.多くの患者は激しい下痢と腹痛を訴え,患者の便からは腸管出血性大腸菌(E. coli O 157:H7)が検出された.合併症も多くみられ,溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome;HUS)を発症した患者が約100名発生し,そのうち3名が死亡した.
 E. coli O 157は1982年アメリカで発生したハンバーガーによる集団食中毒の原因菌として検出され,激しい下痢・腹痛・血便を伴うことから,腸管出血性大腸菌と名づけられ注目を浴びた1).日本でも1990年に浦和市の幼稚園で井戸水の汚染が原因で集団発生し,合併症で2名の園児が死亡した2).この菌は飲食物とともに経口的に取り込まれ,菌が定着・増殖するときに,その代謝産物として産生されたベロ毒素の直接作用で,多彩な症状・合併症を呈することが特徴とされている3)

フローサイトメトリーによる血液型判定

著者: 雨宮洋一

ページ範囲:P.490 - P.493

はじめに
 蛍光染色した細胞を狭小な管腔内に一例に通過させ,レーザー光でヒットさせて得られた光学的情報を解析する方法をフローサイトメトリー(flow cytometory;FCM)という.
 輸血検査で汎用される凝集法は,抗体結合後に生じた凝集や溶血などの二次的反応をみるにすぎないが,FCMは血球抗原の直接的な観察を可能にする.FCMによる蛍光強度の比較成績は,変異型の抗原基数や抗原のホモ/ヘテロ接合の検討,さらに骨髄移植後のキメリズムの検討に応用されている(表1).

トロンボポエチン

著者: 寺村正尚 ,   溝口秀昭

ページ範囲:P.493 - P.495

はじめに
 遺伝子工学技術のめざましい進歩に伴い,新しい造血因子が相次いで単離,合成された.例えば,顆粒球産生には,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor;G-CSF),マクロファージ産生にはマクロファージコロニー刺激因子(macrophage colony-stimulating factor;M-CSF),赤血球産生にはエリスロポエチン(erythropoietin;Epo)がそれぞれの血球産生に特異的な造血因子として単離され,すでに臨床の場で用いられている.ところが,血小板産生に特異的な因子,すなわちトロンボポエチン(thrombopoietin;TPO)については,その存在が30年も前から知られていたにもかかわらず,単離されていなかった.周知のごとく,血小板増加作用を持つ因子は次々に報告されたが,いずれも血小板産生に特異的な因子ではなく,いわゆるTPOの定義に当てはまるものは見つかっていなかった.ところが,1994年になり,ついに複数の施設からTPOの単離が報告された1〜4).その後のTPO研究の進歩は日進月歩の感があり,すでに臨床試験が開始されている.
 本稿ではTPOの作用について簡単に紹介し,進行中の臨床試験の結果および今後の臨床応用の可能性や問願点について述べてみたい.

けんさ質問箱

Q Rh陰性

著者: 大久保康人 ,  

ページ範囲:P.497 - P.498

 Rh式血液型でDU陽性の患者(妊婦)からRh陰性の子供が生まれたのですが,このようなDU陽性の患者が出産した場合,子供の血液型はどれくらいの割合でRh陰性となるのでしょうか.

Q 高度乳び血清におけるICG検査

著者: 宮崎招久 ,  

ページ範囲:P.498 - P.499

 ICG(インドシアニングリーン)検査において,高度乳び血清の場合,0%以下になってしまうことがあります.乳びの影響としてもよいのでしょうか.それとも,正常と判断してもよいのでしょうか.また,乳びの影響と考えられる場合,どのような血清処理方法があるのでしょうか.

今月の表紙

標準化はなぜ必要か?

著者: 巽典之 ,   津田泉

ページ範囲:P.434 - P.434

 “権威ある雑誌の表紙に足の裏なんて!”とひんしゅくを買いそうであるが,上欄の3図をじっくり見ていただきたい.足の裏からの毛細血管採血法の部位を示した教科書からの抜粋である.aでは,正しい採血法として図示の部位を選び,一気に穿刺する,皮膚が薄いため深く刺さない,少し多めの検体が必要なときは近辺を2〜3か所穿刺する,手技を誤ると仰天するような結果をきたす,と記している.bが掲載されている教科書では,穿刺部位は踵骨に達すると感染を起こしやすいため,踵の中央部は避け,両側の辺縁部,通常は外側部を穿刺するほうが安全といわれている,としている.また,cでは,図示の踵部で,やや前方部が骨に当たらなくてよい,としている.
 他方,下欄は白血球杵状核球を示している,dの教科書では,核の幅は狭くなり,曲がっていて,ウインナソーセージ状核があり,核質が濃縮し,粗大な構造のものを杆状核球としている.ただし書きとして,核が同じ太さのものを杆状核球,少しでもくびれがあれば分節球とする説と,細いところが太いところの1/2以下,1/3以下,あるいは1/5以下になったら分節球とする説があるが,このくびれは刻々変化するので,形が不変な糸状になったもののみを分節球とする説が有力であるとしている.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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