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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術25巻6号

1997年06月発行

雑誌目次

病気のはなし

輸入真菌症

著者: 宮治誠

ページ範囲:P.506 - P.511

新しい知見
 輸入真菌症とは本来日本には存在せず,外国で感染した患者が帰国あるいは来日してから発症した,あるいは輸入原材料(原綿など)の取り扱い者に発生する真菌症で,原因菌が微生物災害(バイオハザード)を起こす危険性の高い場合をいう.これら原因菌により(二次)感染(バイオハザード)を防ぐため,わが国においても病原真菌の危険度分類が制定され,その取り扱い指針が定められている.

技術講座 生化学

HCV-RNAの測定

著者: 向出雅一 ,   吉田晃 ,   山内寿靖 ,   引地一昌

ページ範囲:P.513 - P.519

新しい知見
 最近,PCRを用いた測定法の弱点であったコンタミネーションの問題が改善され,血清からのRNA抽出の自動化,さらに96穴マイクロタイタープレートを検出に用いるなどの簡略化が進み,精度向上および大量検体処理が可能になりつつある.一方,インターフェロン治療感受性領域(NS5A)のダイレクトシークエンス法による解析が臨床検査センターにおいてルーチン検査として導入されるようになった.

免疫

抗好中球細胞質抗体

著者: 加藤仁 ,   御手洗哲也

ページ範囲:P.521 - P.526

新しい知見
 抗好中球細胞質抗体の検出に関しては,ELISA法の普及とともに,細小動脈の壊死性血管炎を呈しながらMPO-ANCA陰性例が少なからず存在することから,間接蛍光抗体法でP-ANCAを呈するMPO以外の抗原の検索と,その病的意義が検討されている.また,細小動脈の血管炎との関連性が明らかになってきたMPO-ANCA,PR-3-ANCAでは,この抗体が認識する抗原のエピトープの解析が進められ,血管炎の発症に至る詳細なメカニズムが明らかにされようとしている.糸球体内皮細胞の膜表面に発現するgp130と好中球ライソゾーム膜糖蛋白であるh-lamp-2は,血管炎の発生機序の解明につながるものと期待される.

日常染色法ガイダンス 細胞内顆粒の日常染色—好銀顆粒の染色

グリメリウス染色

著者: 當銘良也

ページ範囲:P.527 - P.529

目的
 好銀(argyrophil)細胞染色のうち広く用いられているのがグリメリウス染色である.グリメリウス染色1,2)は,低濃度の硝酸銀水溶液に浸し,吸着した銀イオンを還元剤で還元沈着させる方法である.神経内分泌顆粒の検索のために用いられ,カルチノイドなどの内分泌腫瘍の検索,その他腫瘍の内分泌方向への分化を確認するために行われることが多い.本法は,染色の安定性や過染性の点から多くの検討が行われているが,過染のない安定した方法はなく,これから多くの検討を要する染色法である.

検査報告書の書きかた 血液検査・3

血小板・凝固検査

著者: 渡辺清明

ページ範囲:P.533 - P.538

検査の目的
 血小板・凝固系検査は出血傾向および血栓傾向などの診断に有用な検査である.血小板数,出血時間,血小板機能検査(血小板粘着能および血小板凝集能),活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time;APTT),プロトロンビン時間,フィブリノゲン,フィブリン分解産物(fibrin degradation product;FDP),循環抗凝血素などが代表的である.
 血小板数は血小板減少症,血小板増多症の診断に,出血時間・血小板機能検査は血小板機能異常症の診断に資する.また,APTTは内因系凝固異常,プロトロンビン時間は外因系凝固異常のスクリーニングとなる.

検査データを考える

DICにみられる検査データ

著者: 東田修二 ,   奈良信雄

ページ範囲:P.541 - P.544

はじめに
 播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation;DIC)の病態は,分子生物学的方法を用いることにより,ここ数年間で急速に解明されてきた.その結果,多くの分子マーカーが臨床検査項目として取り入れられ,患者の病態を詳細に検討することが可能となってきている.こうした最新の知見は,他の優れた総説1)を参照していただくこととして,本稿では厚生省DIC診断基準2)で用いられる範囲の,基本的な検査データの解釈のしかたを解説する.

検査法の基礎検討のしかた 血液検査・5

凝固・線溶系の分子マーカー

著者: 香川和彦 ,   福武勝幸

ページ範囲:P.545 - P.550

はじめに
 血液が生体内を循環し,その機能を発揮させるためには,血管内で流動性を保持し,血管外への流出を防御する止血機構が不可欠である.止血機構には血管,血小板,凝固系,線溶系が関与し,これらの相互作用により生理的な調和を生み出しているが,この均衡に破綻をきたすと,異常な出血や血栓という病態を呈する.
 凝固系は反応開始の機序から,内因性と外因性の経路に区別されるが,凝固反応の基本は,前駆酵素の活性化が起きて活性型の酵素が生じると,これが次の前駆酵素を活性化して増幅するという,末広がりの将棋倒しのような連鎖反応(カスケード反応)であり,最終的にフィブリノゲンをゲル状のフィブリンに変化させて止血に関与する.また凝固抑制因子により,過剰な凝固反応を抑制するフィードバック機構も作用し,自己調節機能を有する複雑な酵素反応系である.このように凝固系の生理的な作用は,出血部位にフィブリンを形成し,血小板とともに血栓を形成して出血を防御することである.病的には,凝固系の機能亢進により血栓症を,機能障害により出血傾向を招く.

ラボクイズ

問題:心電図異常

ページ範囲:P.530 - P.531

5月号の解答と解説

ページ範囲:P.532 - P.532

オピニオン

沖縄からのメッセージ

著者: 山根誠久

ページ範囲:P.512 - P.512

 沖縄,琉球大学に赴任して最初に出会った体験は,立場が違うと歴史の見かたも違うということです.1951年9月8日はサンフランシスコ平和条約が締結された日です.私が幼少時代に学校で教わったこの条約の意義は,第二次世界大戦に敗北した日本が再び独立国として世界から認められた日,国際社会へ復帰した喜ばしい日として覚えています.当時の吉田茂首相を先頭に,日本国政府閣僚が満場の拍手に迎えられて会議場に入場するニュース映画を覚えています.しかし,私が赴任して最初に知ったのは,このサンフランシスコ平和条約締結の日こそ“屈辱の日”として沖縄の皆に記憶されていることです.沖縄本島北端,鹿児島県与論島を望む辺戸岬には,この“屈辱の日”という言葉が印された記念塔が建っています.この日は沖縄に住む人々にとって,日本国が「沖縄はもう結構です」と言って世界に公言した日として記憶されているのです.今,沖縄の人々が日本本土に切に望むのは,決して感情的な同情論ではなく,ただ単に「公平に扱ってほしい」ということです.沖縄でのこの体験の意味は,見る人が違えば,立場が違えば,歴史の事実すらまったく異なる評価になってしまうということです.臨床検査という異なる領域の集合体を管理する立場として,自分とは異質なものも,素直に,そしてフェアに評価できる自分,ヘテロをも公平に理解できる自分をまず心がけたいと思っています.

けんさアラカルト

もの忘れ外来

著者: 朝田隆 ,   宇野正威

ページ範囲:P.520 - P.520

 アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)に対しては精力的な研究が進められているにもかかわらず病因は十分に解明されていない.また,さまざまな治療薬が開発段階にあるが,確実な効果を持つものも今のところ存在しない.
 われわれも数年来こうした薬剤の臨床治験に関与してきた.そして確かに多くの症例に効果的と思われるものはないが,各々の薬剤に対してある程度以上に反応する一群の患者が存在するという印象を得た.これは多くの臨床医が共有するものである.またこうした患者は概して初期の方に多いと思われる.

トピックス

腸管凝集付着性大腸菌

著者: 山田景子 ,   本田武司

ページ範囲:P.553 - P.554

はじめに
 ヒトに腸管感染症を引き起こす下痢原性大腸菌(diarrheagenic Escherichia coli)には,現在までのところ毒素原性大腸菌(enterotoxigenic E.coli;ETEC),腸管病原性大腸菌(enteropathogenic E.coli;EPEC),腸管凝集付着性大腸菌(enteroaggregative E.coli;EAggEC),腸管侵入性大腸菌(enteroinvasive E.coli;EIEC),そして世間を騒がせているO157などが含まれる腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic E.coli:EHEC)の5つのカテゴリーが知られている.細胞侵入性や毒素産生性に関する研究が早くから行われてきたのに比較して,細胞に対する定着能とその病原性とのかかわりはいまだ解明されていない部分が多いのが実状である.病原性細菌による細菌感染症の第一歩は細菌と宿主細胞の接触であり,宿主の物理的,生理的な排除機構に抗して,付着・滞留・増殖する.この現象を定着あるいは付着と呼び,関与する細菌側の因子を定着(付着あるいは粘着)因子という.定着因子を介して上皮細胞に定着した後,毒素産生性や細胞侵入性などを発揮して感染を引き起こすと考えられており,細胞付着性は病原因子の1つとして認識されてきている.

抗HIV剤の現状

著者: 中村哲也

ページ範囲:P.554 - P.557

はじめに
 ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus;HIV)により引き起こされる後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome;AIDS)は1990年代に入りアジア・アフリカなどの発展途上国を中心に爆発的な増加を示し,今世紀末には全世界でHIV感染者が2,000〜4,000万人に達するものと予想されている.人類の脅威ともいうべきこのウイルスを撲滅すべく多くの科学者が精力的な研究を行った結果,抗HIV剤の開発はここ数年で長足の進歩を遂げた.本稿では,最近のHIVに対する治療の概念,抗HIV剤の使用方法,治療成績などについてわかりやすく説明したい.

JSCC標準化対応法

著者: 中山年正

ページ範囲:P.557 - P.559

■標準化対応法とは
 日本臨床化学会の標準化対応法JSCC transferable methodとは,1996年JSCCの酵素委員会がERM(常用酵素標準物質,enzyme reference material)および検量用ERMとともに提唱した検査値の統一・標準化のための新しい概念である.これは,ERMまたは検量用のERMの表示値を絶対基準として用い,自施設の測定方法をこれで検量(calibration)することにより,報告値をJSCCの測定体系の値に人為的に合わせる方法である.このようにすれば,自己の施設はJSCCの体系で指定された特定の測定方法を使用しなくとも,報告値は必然的にその測定体系に標準化(standardize)されることになる.
 この種の考えかたは,酵素でも従来から存在していた.例えばALP測定における,パラニトロフェニールリン酸を基質として使用しながらKing-Armstrong単位で報告するなどの例である.しかし,これらは各施設の経験的ないしは独断的なものであつて,上記のような定義や方法論は準備されておらず,ましてや用語となるほどには成熟していなかった.一方,実際の日常検査は年々高精度となり,サーベイなどでみられる施設間誤差の大部分が系統誤差で占められる現在,今回のJSCC酵素委員会の標準化対応法(図)は時宜を得た提唱といえる.

病院機能評価と臨床検査

著者: 栗本誠一

ページ範囲:P.559 - P.562

はじめに
 財団法人日本医療機能評価機構による病院機能評価事業が平成7年度から開始され,2年間の運用調査を経て平成9年度より本稼働に入り,本年度は250の調査対象病院を評価していく予定になっている.病院機能評価は診療・看護・事務管理の経験者が評価調査者(サーベイヤー)となり,評価を受けたい病院へ出向き一定の基準で客観的に調査し,病院の医療の質を評価するとともに問題となった改善点を病院に示し,対策を立ててもらおうとするものである.わが国において病院機能評価に関する具体的な方法が検討され始めたのは昭和50年代で,昭和60年代に日本医師会と厚生省の合同で病院機能評価研究会が創設され,『病院機能評価マニュアル』が刊行された.その後多くの医療関係団体や研究会から評価マニュアルが作成・発表されたが,(財)日本医療機能評価機構はこれらの成果や経験を踏まえて評価の方法を確立したもので,事業化に当たっては学術的・中立的観点から評価を行い,評価を受けた病院の問題点の改善に資することによって医療の質の向上を図ることを趣旨としている.

最近の改良血液寒天培地にみる性能の変化

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.562 - P.566

はじめに
 血液寒天培地は日常検査において最も汎用される培地であり,大半の病原菌は本培地に発育する.本培地は以前は自家調製されたが,現在では市販の生培地が多く用いられるようになった.このような現況のもとで,最近市販された血液寒天培地の中に従来のものと著しく性能の異なる培地が出現してきた.この改良血液寒天培地の中にはStreptococcus pneumoniaeの集落が腸内細菌科のように大きくなるものや,従来から血液寒天培地に発育しないとされている菌種が発育してくる培地などが見受けられる.これらの培地では性能の変化により従来の血液寒大培地の観念で検査をした場合,菌種の推定に誤解を招きやすい.しかしレンサ球菌などの集落が大きければ釣菌が容易であり,同定や薬剤感受性検査も1日以上早めることができる.また血液寒天培地に発育しないとされていた細菌が発育してくることは,従来ではこの種の培地で検出できなかった細菌の検出を可能にしたことになり,大きな前進であると受けとめることもできる.
 表1と表2は炭酸ガス培養のもとに3社の市販血液寒天培地(生培地)を用いて主要な細菌の発育状態を観察し,培地の性能を比較したものである.これらの成績から改良血液寒天培地の特徴を整理すると以下のとおりである1)

けんさ質問箱

Q 血液凝固第Ⅶ因子のcold activation

著者: 高橋芳右 ,  

ページ範囲:P.567 - P.568

 血液凝固第Ⅶ因子のcold activationということがいわれているようですが,それはどういうことなのかご教示ください.また,このことは日常検査(プロトロンビン時間など)のデータにどのように影響するのでしょうか.もし影響するのであれば,検体取り扱い上の注意点も併せてご指導ください.

Q 遺跡から発見された虫卵

著者: 山根洋右 ,   礒邉顕生 ,   米山敏美

ページ範囲:P.568 - P.570

 遺跡発掘の際,多数の寄生虫卵の出現でトイレなどが特定されるようですが,虫卵のどの部分が残っているのでしょうか.また,残らない虫卵もあるのでしょうか.さらに,虫卵の卵殻の蛋白質の成分は種類によって違うものでしょうか.

今月の表紙

幹細胞培養

著者: 巽典之 ,   鎌田貴子

ページ範囲:P.538 - P.538

 先月は血液幹細胞の同定法の新技術について記述した.それを読んだ方から市「幹細胞培養なんて臨床検査室の仕事なの?」と反問された.いまだ議論沸騰している幻の幹細胞(図e)は,最近の知見で,もはや幻ではなくなった.ギムザ染色で映し出されるその姿は完成された美人でなく,まだこれからという印象のある蕾のようなリンパ芽球と表現できる.今,臨床検査は機械で処理できるものは分析器で,頭脳と経験を要する検査はヒトの手で行う方向にある.そして幹細胞培養が高度先進医療の中で,これからの検査の1つになることは間違いないと思われる.骨髄血中に幹細胞があると考えるのは当然として,未梢血中に幹細胞が多量に流れているとの考えかたは最初は驚きをもって受け人れられた.その細胞を生体外分化・成熟させる技術の進歩は遅々たるものであったことは事実である.その培養法を確立させたのは培養液組成や培養条件の改良と各種細胞増殖因子・サイトカインの純離であり,現在では軟寒天ないしメチルセルロース培養法,液体培養法まで種々の方法が利用できる.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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