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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術25巻9号

1997年08月発行

雑誌目次

病気のはなし

ファロー四徴症

著者: 富松宏文

ページ範囲:P.712 - P.719

新しい知見
 ファロー四徴症に特異な顔貌,口蓋裂,低カルシウム血症などを伴う一群の存在が知られており,最近これらの症例では高頻度に染色体22番q11.2の部分欠失が認められることが明らかにされた.CATCH(cardiac defect心奇形,abnormal facies異常顔貌,thymic hypoplasia胸腺低形成,cleftpalate口蓋裂,hypocalcaemia低カルシウム血症)22と呼ばれることもあるこの症候群での心奇形は,ファロー四徴症のほかに,総動脈幹症や大動脈弓離断などを伴うことがある.これらの心奇形は神経堤細胞の異常によって引き起こされることが強く示唆され,その異常の程度によりさまざまな心奇形を生じると考えられている.

技術講座 生化学

エストラジオール,プロゲステロン,LH,FSHの測定法

著者: 笠井剛 ,   平田修司 ,   星和彦

ページ範囲:P.721 - P.725

新しい知見
 間脳-下垂体-卵巣系はGnRH,LH,FSH,エストラジオール,プロゲステロンがそれぞれフィードバックを介して相互に調節を受けていることはよく知られているが,その他に卵巣のインヒビン,アクチビン,フォリスタチンなどの蛋白が,下垂体からのFSH分泌を調節することや,また卵巣の機能の局所調節因子であるIGF(insulin-like growth factor)-IGFBP(IGF結合蛋白)系やレニン・アンギオテンシン系の存在が明らかになりつつある.インヒビンはFSHの生成・分泌を抑制し,アクチビンは促進する.フォリスタチンはアクチビンと結合することによってその作用を阻止し,FSHの分泌を抑制する.IGF-IGFBP系は,lGF-Ⅰによる卵胞発育促進と,IGFBPによる卵胞発育抑制の両作用を持っている.レニン・アンギオテンシン系は,アンギオテンシンⅡ受容体を介し,エストラジオールやプロスタグランジンの生合成を刺激すると同時に卵成熟を促すといわれている.

血液

フローサイトメトリー法による急性白血病細胞の測定

著者: 野間芳弘 ,   中川貴美子 ,   宮崎年恭 ,   中村利弘

ページ範囲:P.727 - P.731

新しい知見
 近年の白血病治療は目覚ましい進歩を遂げているが,いまだ治療抵抗のために寛解導入が困難な症例が存在するのも事実である.その中でも予後不良因子として注目されているmixed lineage leukemia(biphenotypic form)は,単一の白血病細胞にリンパ球系,骨髄球系の2つの形質を有する特徴を持つ.その成因はいまだ明確にされていないが,急性白血病の分化レベルが成熟に向かうほど,異系統の形質発現が認められないことから,リンパ球系,骨髄球系への分岐時期以前の細胞の白血化と考えられる.mixed lineage leukemiaにおける確立された治療法はなく,一般的にリンパ球系,骨髄球系のどちらに傾いているかにより治療が進められている.こうした病態の診断には,FCM法が用いられており,これまで以上に白血病細胞の表面形質を正確に把握することが必要となっている.

免疫

CA 15-3の測定法

著者: 青野悠久子

ページ範囲:P.733 - P.740

新しい知見
 CA15-3は転移性乳癌に特異的な腫瘍マーカーであり,また術後のフォローアップのモニタリングに重要である.その測定法として,簡便,迅速に実施でき,感度,特異性,経済性に優れた測定法が求められる.最近は特異性の高い抗体と検出系に高感度化学発光法を組み合わせた化学発光イムノアッセイが注目されている.この方法による測定法は,感度が良く,また幅広い測定範囲があり,モノクローナル抗体を用いることで疾患の陽性率が高くなっている.

微生物

尿から分離されるグラム陽性桿菌

著者: 坂東明美 ,   奥住捷子

ページ範囲:P.741 - P.744

新しい知見
 通常,尿から検出されるグラム陽性桿菌は混入汚染菌として考えられてきた.医療技術の進歩で易感染患者が多くなっている昨今,いわゆる病原性の低い菌や常在菌によって日和見感染を起こすといわれている.いろいろデータが集められ解析されていく中で,尿から検出されたCorynebacterium urealyticumやCorynebacterium seminaleなどが尿路系での炎症,病態に関与しているのではないかと報告されている1〜3)
 また,Corynebacteriumの簡易同定キットも発売され,日常業務としてグラム陽性桿菌の同定も簡易にできるようになってきているが,まだ十分満足のいくものでない.

一般

精液一般検査

著者: 山崎雅友 ,   當仲正丈 ,   熊谷明希子 ,   内村重行 ,   森本義晴

ページ範囲:P.745 - P.752

新しい知見
 最近,コペンハーゲン大学(デンマーク)のスカケベク教授のグループが,1950年代と1970年代生まれの男性の1ml当たりの精子含有量の徹底調査を行ったところ,1950年代生まれの中年男性の精子は1ml当たり1億個だったのに対し,1970年代生まれの若者の精子は2,500万個も少ない7,500万個で,また精子の形自体にも異常が数多くみられたと報告している.これは,過去20年の間に精子の数が25%も減少したということになり,この傾向は日本でも顕著で,男性不妊症の増加の原因になっている.このように,いままでは女性に原因があるとされてきた“不妊”の原因が,男性側にも多くみられることがわかってきた.実際,当センターに体外受精を希望してくるカップルのうち,8割に男性不妊がみられる.

日常染色法ガイダンス 一般的な日常染色法

ヘマトキシリン・エオジン染色

著者: 河又國士

ページ範囲:P.759 - P.766

目的
 光学顕微鏡を用い病理組織学的診断を行うには,細胞および組織構造の形態的全体像を,よく理解する必要がある.このため細胞や組織の構成要素を,平均的によく表現できるヘマトキシリン・エオジン(hematoxylin-eosin;HE)染色が利用されている.
 よく染色されたHE染色標本では,ヘマトキシリンで細胞核が濃青紫色から藍色に,軟骨基質,粘液の一部,石灰化巣,微生物の一部,好塩基性物質なども青紫色から淡青色に染まる.一方のエオジンでは細胞質,種々の線維成分,赤血球や好酸性物質・顆粒などが淡赤色から濃赤色に,コントラストよく染め分けられる.また一部の成分は両者の色調をとるものもある.単純な染色のわりに構成要素を濃淡の差で表現し,多くの情報を提供する.

中枢神経系の日常染色

ルクソール・ファースト青染色—(クリューバー・バレラ染色)

著者: 春日好幸 ,   小川浩美

ページ範囲:P.767 - P.771

はじめに
 クリューバー・バレラ染色とは,種々の成書によると,1953年にKlüverとBarreraにより考案された髄鞘染色であるとされているが,現在では,髄鞘および神経細胞内のニッスル物質(Nissl substance)(またはニッスル小体)同時染色法の慣用染色名として用いられていると筆者らは理解している.

検査報告書の書きかた 内分泌検査・1

甲状腺機能異常の検査

著者: 小林功

ページ範囲:P.773 - P.778

甲状腺機能異常とは
 甲状腺機能異常を示す病態は,甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症の2種類に大別される.一般に甲状腺機能異常は特有の臨床症状を参考にして,血中甲状腺ホルモン(T4,T3)と下垂体前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone;TSH)との組み合わせ検査によって診断される1).甲状腺ホルモンとTSHとの関係は,いわゆるnegative feedback機構を考えると,理解しやすい(図1).この生体機構の特徴は,下位ホルモン(T4,T3)の増減によって,上位ホルモン(TSH)の分泌が調節されていることである.例えば,橋本病(慢性甲状腺炎)により甲状腺機能低下症に陥った症例では,甲状腺におけるホルモンの合成・分泌が障害されて,血中甲状腺ホルモン濃度は減少するため,下垂体からのTSH分泌は増加する.一方,バセドウ病による甲状腺機能亢進症では,血中に存在する刺激抗体(TSHレセプター抗体)により,甲状腺におけるホルモンの合成・分泌が促進し,血中甲状腺ホルモン濃度は増加するため,下垂体からのTSH分泌は抑制される.こうした関係を念頭に置けば,甲状腺機能異常の病態の把握は容易になると思われる1)

検査データを考える

低尿酸血症

著者: 鎌谷直之

ページ範囲:P.779 - P.782

はじめに
 血清尿酸値が高い場合を高尿酸血症と呼ぶ.通常,血漿中で尿酸が飽和状態となる7.0mg/dl以上を高尿酸血症と呼ぶことが多い.高尿酸血症が持続すると,関節炎などをきたすようになり,これを痛風と呼ぶ.痛風は成人男性に多い疾患である.
 それでは,血清尿酸値が正常より低い場合は問題となるであろうか.血清尿酸値が正常より低い場合を低尿酸血症と呼ぶ.高尿酸血症は血漿中の飽和溶解度から計算された値であるので,基準に男女差はないが,低尿酸血症の場合は,そのような物理化学的な基準は存在しない.通常,コントロール集団内での尿酸値の分布から出された基準値を用いる.集団や検査室により多少の違いはあるが,おおむね成人男性で3.5mg/dl未満,成人女性で2.5mg/dl未満を低尿酸血症としてよい(もう少し厳密に考えて,成人男性で3.0mg/dl未満,成人女性で2.0mg/dl未満を低尿酸血症と考える場合もある).

ラボクイズ

問題:骨髄像

ページ範囲:P.756 - P.756

7月号の解答と解説

ページ範囲:P.757 - P.757

オピニオン

インフォームド・コンセントと最近の臨床検査

著者: 押田茂實

ページ範囲:P.720 - P.720

 ここ数年,日本においてもインフォームド・コンセントという概念が広く紹介され,一般の人々の間にも定着してきた感がある.この要因の1つとして,1つの疾患に対して種々の検査法や治療法が存在するというような医学知識が一般の人々にも知られるようになってきたことが挙げられよう.一方,近年の医療訴訟に対する危機感などのために,医療機関がインフォームド・コンセントの重要性を認識せざるを得ず,実際の臨床の場面において患者に対する説明のありかたを変えてきていることも否定できない.
 インフォームド・コンセントの流れとしては,ヒポクラテスの誓詞に始まり,ニュルンベルグの倫理綱領(1947年),世界医師会のジュネーブ宣言(1948年)・ヘルシンキ宣言(1964年),さらにその後の修正が挙げられる.

けんさアラカルト

ウイルス抗体測定と病原診断

著者: 井上榮

ページ範囲:P.726 - P.726

 ウイルス感染後に産生されるIgG抗体は長期間血清中に持続するため,1本の血清中に抗体活性を検出しただけでは感染時期を推定できない.そこで急性ウイルス感染症の血清診断としては,急性期と回復期との2本のペア血清のウイルス抗体価を同時に測定して,抗体価の上昇を調べなければならない.
 しかし,急性期の血清は採らないことが多いので,ペア血清を使わなくて診断を行いたいというニードは強い.そこで感染後短期間しか持続しないIgM抗体を検出するやりかたも行われるようになった.このやりかたの難点は,IgM抗体の特異性は低いため,検出感度を上げると非特異反応が起こることである.

トピックス

ムピロシン

著者: 青木泰子

ページ範囲:P.783 - P.785

はじめに
 ムピロシン(mupirocin)については以前にも本欄で紹介した1).昨年上市された(バクトラバン®)ので,今回は実際の使用上の問題点などについて述べるが,現時点では未確定な部分が多いことを初めにお断りしておく.

表面プラズモン共鳴を応用したアフィニティーセンサー(BIACORE)

著者: 後藤雅式

ページ範囲:P.785 - P.787

はじめに
 近年,生体分子間の相互作用を解析する目的で,表面プラズモン共鳴を検出原理とするアフィニティーセンサー,BIACOREが注目されている.本来,蛋白質間相互作用の速度論的パラメーターを測定する目的で開発された装置であるが,血中の物質濃度測定や遺伝子診断といった臨床検査分野への応用もされ始めている.そこで,今回は表面プラズモン共鳴の原理ならびに応用例について,筆者らの研究を中心に紹介する.

母体血清マーカー試験

著者: 佐藤孝道

ページ範囲:P.787 - P.789

■母体血清マーカー試験とは
 母体血清マーカー試験とは,α-フェトプロテイン(α-fetoprotein;AFP),hCG(free β-hCGが用いられることもある),uE3などの母体血清中物質がダウン症胎児を妊娠していた場合に増減することを利用して,胎児がダウン症である確率を母体年齢単独よりも,より正確に算出しようとするものである1).ダウン症児を妊娠する確率は,母体が高齢になるほど高くなることがわかっている.この確率をいくつかの母体血中物質の増減を用いて補正し,より正確な確率を出すことによって妊婦やその家族の判断を助けるのが検査の目的である.
 母体血清マーカーの組み合わせは表1に示したものが一般的である.現時点では,どの組み合わせが最適か明確な優劣はつけられていない.また,こうした物質が,胎児がダウン症の場合になぜ増減するのかもよくわかってはいない.さらに将来より有用な母体血中物質(マーカー)が発見されるかもしれない.良いマーカーの条件は,①測定法が簡便で再現性が高い,②胎児がダウン症以外の場合とダウン症の場合で測定値にできるだけ大きな差がある,③そうした差が妊娠のより早期に顕著になる,などが挙げられる.

POCT(point-of-care testing)

著者: 福永壽晴

ページ範囲:P.789 - P.791

はじめに
 最近,POCT(point-of-care testing)が注目され始めている.POCTとは小型の分析装置を用いて,患者の近く(病室や診察室などの治療が行われる場所)で行われる検査であり,bedside testingやnear-patient testingとも呼ばれている.
 昭和30年代より急激に進んだ検査室の中央化と臨床検査センターの設立は,多種類の検査を大量に効率よく処理するという面では大きな成果を上げているが,反面,緊急を要する検査,あるいは時々刻々と変化する患者の容体に合わせてタイムリーな検査情報を臨床側に提供するという点では十分機能しているとはいえない.

インスリン自己免疫症候群(平田病)

著者: 内潟安子

ページ範囲:P.791 - P.795

はじめに
 特定のHLA(human leukocyte antigen)型がある疾患に関係しているかいないかについてこれまで多くの疾患で調べられてきた.今日までのところ,特定のHLA型と非常に強い相関を示す4疾患が報告されている.強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis)患者の88%はHLAB 271)を,尋常性天疱瘡(pemphigus vulgaris)患者の91%はDR 42)を,ナルコレプシー患者のほぼ100%近くはDR 23)を,原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis)のほぼ100%近くはHLA-DR Ⅲ 52 aを持つ4)と報告された.それぞれの疾患の発症機序に特定のHLA型がなんらかの役割を果たしていることが示唆される.筆者らは1992年特定のHLA型と強い相関関係を示す疾患としてインスリン自己免疫症候群を報告した.

けんさ質問箱

Q 胆汁酸の種類と生成機序,臨床的意義

著者: 猪川嗣朗 ,  

ページ範囲:P.797 - P.798

 血清胆汁酸抱合体分画での胆汁酸の種類とその生成機序,臨床的意義をご教示ください.

Q 臨床検査技師の派遣

著者: 朝山均 ,  

ページ範囲:P.798 - P.799

 臨床検査技師も派遣社員として働けると聞いたのですが,本当に派遣できるのでしょうか.求人誌(紙)では派遣業務の対象となっていないのでしょうか.

今月の表紙

FISH

著者: 巽典之

ページ範囲:P.731 - P.731

 フィラデルフィア染色体(Ph1)が慢性白血病(CML)で見いだされたのが1960年(Nowell),それが9-22転座(translocation)であると決定されたのが1970年(Rowley),いまでは学生までがt(9;22)(q34.1;q11,21)であると理解している.すなわち,第9染色体q34.1のc-abl(Abelson murine leukemia virusと類似することから由来した命名)が第22染色体のq12.3-11.3にあるc-sis(simian sarcoma virus由来)と相互置換であり,第22染色体のq11近傍の分裂点bcr(breakage cluster region)にablが結合し,異常なm-RNA産物である210 Kの蛋白が生成され,CMLの病態を生み出していく.他方,c-sisはCMLでの線維化に関係するらしいなどのことが教科書に記載されている.Ph1はバンド染色法でもって第9染色体長腕延長・第22染色体長腕短縮でもって容易に判定しうるものの,この染色体分析法もうまく分裂像が得られるとは限らない.また,この染色体異常がabl/bcrであるとの保証はない.このことから,この証明に用いられるのがFISH(fluorescence in situ hybridization)法である.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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